著者
権藤 与志夫 馬越 徹 石附 実 西村 重夫 望田 研吾 弘中 和彦 丸山 孝一
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

第一年度においては、留学の効果に関する理論的研究を中心にすすめ、とくに留学経験者個人に対する留学の効果測定のための指標の作成を試みた。それにもとづき留学生送り出し国につてWho´s Whoなどの分析を行い、留学先国、留学先大学、取得学位、専攻分野と留学経験者の就職、昇進などとの関連をみた。さらに、留学経験者の価値意識について、留学国に対する態度、留学の効果に関する意識などについて、特に韓国を中心にして分析した。第二年度では、まず送り出し国における留学の効果について、以下の点に関して分析を行った。第一に頭脳流出の問題に関しては、韓国における頭脳流出対策としての「頭脳還流」政策、あるいは台湾における帰国留国生の増加現象にみられる留学における先進国化の事例が明らかにされた。第二に国による留学の統制的政策の存在とその影響の重要性に関しては、インドなどにおける留学生選抜に際しての政府の影響力のもたらす波及効果を分析する必要性が指摘された。受け入れ国にかかわる留学の効果については、とくに留学生受け入れ大国アメリカに関して、以下の点が明らかにされた。第一に、留学の個人に対する効果については、取得学位、専門分野などの要因によって留学の効果に関する意識に違いがみられる。第二に、高等教育機関に対する効果については、国内学生の減少の補充による経済的効果を高等教育関係者は意識している。第三に留学生受け入れの教育的効果として留学生のプレゼンスによるキャンパスの国際化が期待されていることが、アメリカの高等教育機関の留学生担当者に対する質問紙調査においても明らかとなった。これらの研究を通して、留学の効果・影響の考察においては、とくに留学のコストとの関連において精緻なコストーベネフィット分析の必要性が認識された。
著者
伊藤 昌司 川嶋 四郎 八田 卓也
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、2年間にわたる充実した研究の結果、次のような研究実績を得ることができた。まず、頻繁に、共同の研究会を開催した。個別具体的な内容は、以下に記載したとおりである。八田卓也「任意的訴訟担当の許容性について」、川嶋四郎「判例研究・遺言者の生存中における遺言無効確認の訴えの利益」、篠森大輔「遺言執行者の地位について」、八田卓也「判例研究・遺言執行者の職務権限が認められた事例」、八田卓也「判例研究・遺言無効確認の訴えの利益」、伊藤昌司「1883年ベルギー王国民法改正予備草案理由書」、川嶋四郎「判例研究・具体的相続分の確認を求める訴えの利益」、松尾知子「遺言事項別・権限別にみた遺言執行」、伊藤昌司「判例研究・遺留分減殺」、岡小夜子「共同相続人間の取得時効」、道山治延「検認と相続資格」等。いずれの研究会においても、家庭裁判所の裁判官および調査官等の参加を得て、活発な議論を展開し、かつ、有意義な指摘や示唆を得ることができた。特に、伊藤は、フランス法系の遺言執行制度の研究の一環として、明治大学の図書館に所蔵されている資料を入手し、ベルギー王国(当時)の1883年ベルギー王国民法改正予備草案理由書中の遺言執行者に関係する部分を調査・研究し、その成果を「訳注付き翻訳・ベルギー王国民法改正予備草案理由書」としてまとめつつある。川嶋は、文献収集を行い、遺言執行者の訴訟上の地位について、比較法的研究を行った。特に、昨年秋、アメリカ合衆国ワシントンDCにて、アメリカ州法における遺言関係の立法資料等の収集活動に従事した。現在、ノース・カロライナ州遺言法の翻訳と分析を行っている。お、当初、共同研究者であった八田は、一昨年、日本における遺言執行関係の最近の最高裁判決を研究し、かつ、ドイツ連邦共和国のケルンおよびベルリンにおいて、遺言執行に関する学説および実務の現況調査に従事した。以上の獲得できた知見がら、日本法における遺言執行者の実体法上および訴訟法上の権限のあり方について、総合的な研究成果を公表する予定である。
著者
竹熊 尚夫
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、多民族社会における民族教育と多民族共生教育をそれぞれの国・地域と民族学校の事例を通して検討し、民族学校の役割、換言すれば多民族社会の中で持つ機能を明らかにするものである。調査研究を通して次のようなことが明らかとなった。1.民族教育システムがあるレベルまで完結しているマレーシアの中華系独立学校体系では、地域の他の民族系住民との相互関係や政府による教育・支援との補完関係はそれほど強いものではないが、中国語教育という言語教育において、初等段階ではマレーやインド系の生徒を既に受け入れ始め、中等段階では国際的ネットワークの中で華僑移民系の学生をリクルートしている。中華系の民族教育は政府のシラバスの枠中で実施されているが、付加的なアプローチであり、それほど大きなコンフリクトは生じていない。2.認可を受け政府補助も受けているフェイス・スクールの一つである、バーミンガムのムスリム初等・中等学校は、主として地域内の生徒を受け入れている。設置主体の母国との関わりを持ちながら、イスラムネットワークを基盤とした教科書導入が見られる。カリキュラムの中では付加的というより、併存もしくはイスラム的解釈への読替が見られた。3.土曜・日曜の補習校として長年維持されてきたロンドンの中華系補習校は、中華商会の建物の中で、郊外からの子どもを受け入れ、中国語の授業を中心に行っている。中華系コミュニティと地域行政との接点を構成し、公立校の中華系子弟に対する補完的な民族教育を実施している。4.公立学校の敷地を活用しているオーストラリアの中華系補習校は、民族学校として政府補助を受けている。中華系は分散居住であるが、地域の他の民族住民との関わりや中国の大学からの援助も受けている。様々な地域から移住してきた中華系としての集合的記憶の場であり、多民族社会の緩衝装置として機能する可能性が明らかとなった。
著者
林田 和博
出版者
九州大学
雑誌
法政研究 (ISSN:03872882)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.104-51, 1967-07-15
著者
井上 由扶 柿原 道喜
出版者
九州大学
雑誌
演習林集報 (ISSN:03760707)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-27, 1958-01

1956年2月27日,29日の両日,北九州一帯に稀有の降雪があり,冠雪荷重によつて多量の雪害木を生じた.雪害地域は福岡県の北部山地を中心とするかなり広範囲にわたつているが,被書量の大部分は粕屋演習林の所在地篠栗,久山両町附近に集中され,標高200〜700mにある壮齢以上のスギを主とする人工林が激害をうけている.同地域における被害当日の気象が,微風ないし無風状態のまま気温がO°〜-1℃内外にあつて多量の湿り雪を降らせ,冠雪の形成に適度の条件を具えていたためと考えられる.被害樹種はスギを主とし,ヒノキ,マツ,エンピツビャクシン,イヌマキ,モミ,ドイツトウヒ,タケ,広葉樹などであるが,被害総材積の89%はスギである.林分としての被害率はスギ,エンピツビャクシン,イスマギが高く,ことにスギは大面積にわたつて壊滅状態を呈したところも少くないが,ヒノキ,マツ,タケ,広葉樹などは一般に被害率の低い林分が多い.また今次雪害の一つの特徴は,利用期に達した壮齢林および老齢林に被害が大きく,しかも樹幹の挫折,割裂などの被害木が多かつたので,その被害額が甚大であつたことである.粕屋演習林全域の雪害林ならびに近接する猪野国有林のエンピツビャクシン被害につき,実態調査の結果を要約すれば次の通りである.(1)雪害木は林地の傾斜方位に関係なく,各方位ともにみられる.しかし,その被害率はスギ,ヒノキとも東および南方向が大きく,被害が激甚である.(2)傾斜面の上部,中部,下部にわけてスギ林の被害を調べたところ,谷筋は峯通りより本数被害率が大きく,幹折,梢折,曲りなどの被害が多いことが認められた.(3)林地の傾斜度と被害の関係をスギ林についてみると,その平均被害率は緩斜地が急斜地より大きい.これは,スギ林では谷筋に緩斜地が多いこととも関係があるものと認められる.(4)樹種別の被害率はエンピツビャクシン,スギが大きく,ヒノキ,クスは軽少であつた.スギには挫折被害が多く,エンピツビャクシンには根返り木が多い.(5)スギ,ヒノキともにI, II齢級の幼齢林には被害が少く,III齢級以上の林分に被害が多い.ことに伐期近い林分には被害が多く発生しているが,その被害率はIV齢級以上では年齢の増加にともなつて減少する傾向がみられる.(6)雪害林のうち,被害をまぬがれた健全木は,被害木にくらべて一般に胸高直径,樹高,樹冠直径ともに大きく,正常な樹形のものが多い.しかし,被害木のうち梢折木のみは健全木より直径,樹高とも大きい傾向がみられた.(7)一般に梢折木は上層木に多く,傾斜木,曲り木は被圧木に多い傾向が認められる.また幹折木の挫折高は年齢を増すにつれて高くなる傾向がみられる.(8)成立本数の多いほど被害率の増加する傾向がみられ,特に間伐手遅れの過密林分およびこれを急激に間伐した直後の林分は被害率が高い.従つて雪害を軽減するためには早期より適度の除伐,間伐を繰返し,樹形,形質の不良な2級木や被圧木を除去することが必要と認められる.(9)雪害木の利用率算定法として,小班ごとに被害木の径級別細り材積表を作製し,これによつて被害木より採材し得る丸太材積を求め,全被害木の利用可能材積を算定した.この方法による全調査被害木の平均利用率はスギ62%,ヒノキ66%,エンピツビャクシン68%であつて,演習林において算定したスギ,ヒノキの利用可能材積は,造材実行結果との誤差率2.7%に過ぎず,きわめてよく適合する.
著者
恒川 元行
出版者
九州大学
雑誌
言語文化論究 (ISSN:13410032)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.157-166, 2008

ドイツは、「奇跡的」と形容される戦後の経済復興を支えるため、1960年前後から外国人労働者を積極的に受け入れてきた。その後、家族の呼び寄せなどにより定住化が進み、現在は2世、3世としてドイツに生活する外国人児童生徒のドイツ語能力や、ドイツ人児童生徒との共生が学校教育の重大なテーマとなっている。移民背景を持つ子どもたちにとって、健全な市民としてドイツ社会で生活するためには、能力に応じた学校教育が必要であり、そのためには家庭言語(母語)に次ぐ第2言語であり、学校言語でもあるドイツ語の一定能力が不可欠である。このため、ドイツでは、子どもたちのドイツ語能力を、すでに就学以前、幼稚園の時期から観察・記録し、着実に育成するための理念・方針が定められ、さまざまな施策が各州単位でもまた連邦レベルでも議論され、実践されている。 本講座では、ドイツでのこのような状況や施策を紹介したい。それは、結局、現在の日本の状況を考えることにもなる。なぜなら、人口減少を背景に今後ますます外来労働力に頼らざるを得ない日本が、数十年遅れてドイツと同じ道を歩んでおり、外国籍児童に就学義務がないこととも相まって、彼らの日本語能力や母語能力養成の問題が顕在化しつつあるからである。
著者
村山 正治 山田 裕章 峰松 修 冷川 昭子 亀石 圭志
出版者
九州大学
雑誌
健康科学 (ISSN:03877175)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-57, 1984-03-30
被引用文献数
2

Murayama et al. selected 60 items as Self-Actualization Evaluating Scale. It has ten sub categories ; acceptance of present-self, achievement orientedness, way of positive life, self assertion, genuiness, integration of bipolarity, separatness, obsessiveness, self-directedness, acceptance of weakness. Each category consists of 5〜8 items. Next shows comparison between 10 subscales of POI and 10 categories of "Self Actualization Evaluating Scale". The profile of categories for individual row scores were caluculated by personal computer. The Self-Actualization-Scale(SEAS) inventry and a formatting program were presented.
著者
添田 祥史
出版者
九州大学
雑誌
飛梅論集 : 九州大学大学院教育学コース院生論文集
巻号頁・発行日
vol.8, pp.37-52, 2008-03

This paper aims at reconsidering the learning activities taking place in a literacy practice context focusing on the concept of "intimate sphere". In the last years, relations of mutual support in life are taking a new turn, beyond family ties, toward the creation of a new intimate sphere. An analysis of literary practice from this point of view wields possibilities unseen by previous research. We aim to provide a new analytical standpoint for research in the field of literacy practice. According to our analysis, literacy practice appears to be an important support factor for the learner in everyday life. In a literacy practice context, intimate sphere is a "place to find an intimate other", a "place where to reconsider the value of one's life", a "place where to share feelings and experiences". Moreover, it appears that the intimate sphere which is created around literacy practice has the following four characteristics: 1. Through the right to literacy learning, it may be possible to meet the needs for friendship and solidarity, which can seldom be guaranteed by institutions. 2. Factors unrelated to practice like opportunities to chat or meet with friends may stimulate lasting participation of learners. 3. Literacy practice class seen as a "relatively safe space" implies freedom from its historical premises like norms or rules about the way practice has to be. 4. Under such point of view, literacy practice is endowed with the possibility of reform from the inside. This last point raises essential questions concerning the future of literacy practice and literacy learning research as well.
著者
藤嶋 康隆
出版者
九州大学
雑誌
人間科学共生社会学 (ISSN:13462717)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.103-124, 2006-02-10

本稿の目的は優越要因説を擁護することである。優越要因説はマルクス主義社会理論の代名詞と呼ばれるほどマルクスの諸理論と結びつけられて考えられることが多い。マルクスの諸理論は現在あまり着目されないが、筆者は特にマルクス流の経済を基盤とした優越要因説はあらためて再考されるべきであると考えている。議論をすっきりさせるためにドゥルーズの議論に示唆を得て、微分法や導関数という数学的方法によってマルクスの諸理論とパーソンズ的なシステム論を対比させた。次に「偶然」をめぐるラカンとデリダの議論を検討し、人間には偶然を必然にかえるメカニズムが存在する点でラカンを擁護する一方、「偶然」を「偶然」のまま扱うデリダの議論をルーマンのシステム論と親和的なもとでると解釈した。しかし賃労働によって得た貨幣によって成り立つ資本制経済のもとでは意識システムの行う観察は経済システムの行う観察と重なる場合が多く、結果的に社会を経済システムから観察するというマルクス流の優越要因説が人間の意識にとって支配的であり、避けられないということを論じた。
著者
大野 正夫 山本 裕二 畠山 唯達 田尻 義了 渋谷 秀敏 加藤 千恵 足立 達朗 齋藤 武士 桑原 義博
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、地磁気の強さの「永年変化」を用いた過去3500年間(縄文時代後晩期以降)の遺跡・遺物の年代の決定方法を確立する。そのため、従来あまり利用されてこなかった土器片・甕棺・瓦などを主な資料とし、新手法である「綱川―ショー法」を用いて地磁気強度の推定を行い、地磁気強度変化の標準曲線を構築する。この地磁気強度永年変化曲線は東アジアの遺物・遺跡の新たな年代指標となると考えられる。
著者
中村 誠司 前原 隆 新納 宏昭 森山 雅文 柴田 琢磨 安河内 友世 坪井 洋人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、代表的罹患臓器である唾液腺を解析し、特異なT細胞、B細胞、マクロファージ(Mφ)のサブセットが病態形成に関わっていることを明らかにした。しかし、詳細な病態形成の分子機構や病因は判っていない。そこで、本研究では、従前の研究成果を基盤とし、IgG4-RDの病因を解明し、新規治療法開発の基盤を築くことを目指す。第1にサブセット間の相互作用を解析して病態形成機序を明確にし、第2に発症に関わるT細胞とその認識抗原を同定し、第3に特異なMφを遺伝子導入により誘導したマウスを同定した抗原などで刺激することにより病態を再現する疾患モデルマウスを完成させる。
著者
伊藤 太一 楠見 淳子 松本 顕
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

近年我々のグループは刺胞動物のヒドラが眠っていることを分子レベルで実証し、これにより、睡眠の起源は動物が脳を獲得するよりも古いことが示された。そこで、次の問いとして、『神経系は睡眠に必須なのか』を検証する。ヒドラでは薬剤処理によって神経系を喪失させることが可能である。この全く動けない『寝たきり』状態のヒドラが眠っているのかどうかを分子レベルで判定し、睡眠には神経系が必須要素なのかどうかを判断する。これは、これまで当然と考えられてきた「睡眠は神経系が担う」という通説に挑む研究である。
著者
小牧 元 小林 伸行 松林 直 玉井 一 野崎 剛弘 瀧井 正人
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近年、ストレスに対する生態防御の観点から、免疫系と視床下部-下垂体-副腎系との関連が注目されてきた。特にサイトカインの一種であるインターロイキン‐1β(IL-1β)がこの免疫系と中枢神経系を仲介する、主要な免疫メディエーターの一つであることが明らかになっている。このIL-1βの同系に対する賦活作用には、視床下部の室傍核(PVN)におけるCRFニューロンの活動が促される必要があるが、血中のIL-1βがいかにして同ニューロンを刺激するのか未だ確定した結論には到っていない。我々は視床下部の終板器官(OVLT)が、その血中のIL-1βが作用する主なゲートの一つである可能性を、同部位にIL-1レセプター・アンタゴニストを前処置することにより確認したところ、血中IL-1β投与によるACTHの上昇は有意に抑制された。一方、一酸化窒素(NO)が脳内でニューロトランスミッターとして働いていることが判明し、特に、NOがアストロサイトからのPGE2産生やCRFやLHRH分泌調節に直接かかわっている可能性がある。そこで、マイクロダイアリシスを用いて、同部位のNO産生との関わりをさぐるために、L‐Arginineをチューブ内に流し、IL-1βによるPGE2産生の変化を見たところ、有意な抑制傾向は認めなかった。しかし、フローベの長さの問題、L‐Arginineの濃度の問題もあり、容量依存生の確認、他の部位との比較まで至っておらず、結論は現在まで至っていない。今後、容量、他のNO産生関連の薬物投与も試みて、確認して行く予定である。
著者
加藤 聖子
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

着床における子宮内膜の幹細胞の果たす役割を解明することを目的とし、マウスやヒト臨床検体を用いて研究を行い下記の成果を得た。網羅的解析(RNA-sequence)は研究領域の技術支援を受けた。1) マウスモデルを用いた解析各週齢のC57BL/6マウス(5週・8週・60-75週)及びklotho早老マウスの子宮よりRNAを抽出し、RNA-sequence並びにGene Ontology・Pathway解析を行った。年齢毎に発現が増加あるいは減少する遺伝子群やPathwayを明らかにした。この中で老化マウスとklothoマウスで共通に変化する因子も見出した。2)臨床検体を用いた解析同意取得後、不妊治療中の採卵時に採取した子宮内膜検体や血液を用いて、その後の着床率との関連を解析したところ、着床不成功例では成功例に比較し、老化細胞率・p21の発現・細胞周期でのG0/G1期の割合が有意に高かった。また、両者の間で分泌が亢進しているサイトカインの種類に違いが見られた。興味深いことに、幹細胞マーカーの一つであるALDH1の発現はマウスでは老化により減少し、着床不成功例で老化細胞数増加とともに、減少していた。また、SASPに関連することが報告されている複数のサイトカインの発現や分泌が老化マウスや着床不成功例でそれぞれ亢進していた。以上の成果により、老化に伴い子宮内膜幹細胞が減少し、増加する老化細胞から分泌されるサイトカインによるSASPが着床不全の病態に関与することが示唆された。これらの結果はステムセルエイジングに伴う子宮内膜幹細胞の枯渇・劣化・内膜機能の低下が受精卵の着床を阻害していることを意味しており、がんや神経・筋肉の変性疾患だけではなくステムセルエイジングが引き起こす病態の中に子宮内膜機能低下による着床不全も含まれることを示すことができた。
著者
縣 和一
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度においては,水上栽培技術の基本となる筏の素材,栽植密度,肥料の種類と施肥量などについて検討し,標準となる基本技術を確立した.また水上栽培に適する種の選定を30種の植物を対象に行った.その結果,カンナとシュロガヤツリが生育旺盛で水上栽培に最適であることがわかった.この2種のバイオマス量および窒素分析値から求めた水中からの窒素収奪量は大きく,水質浄化効果の高いことが立証された.次にコムギとイネで施肥量とバイオマス,収量との関係を実験した結果,コムギ,イネとも水上栽培区は無栽培区に比べて水中のNO3-N,NH4-N,全リン濃度が低く,CODは水上栽培区で顕著に減少することが明らかになった.平成7年度は,平成6年度の結果から明らかになった水上栽培に適するカンナ,シュロガヤツリの2種を対象に水上栽培におけるバイオマス量,水質浄化能を土耕栽培と比較した.またカンナを対象に生長解析,光合成測定を行い水上栽培植物の特性を明らかにした.さらに数種植物の根の組織構造を土耕栽培と比較した.その結果,(1)カンナ,シュロガヤツリとも土耕栽培に比べて水上栽培ではバイオマス生産が顕著でカンナで4倍,シュロガヤツリで5倍の値が得られた.植物体の窒素分析から窒素含有率とバイオマス量を乗じた両植物の水中からの窒素収奪量は大きく水質浄化能の高いことが明らかになった.特に,シュロガヤツリは窒素以外にリン,カリの含有率が高く,水中からのリン,カリの収奪量が顕著で両成分のエリミイネーターになることが判明した.(2)水上栽培したカンナの高いバイオマス生産は面積生産速度の大きいことに加えて単位葉面積当たり乾物生産速度(NAR)が高いこと,高いNARは光合成速度が水上栽培カンナで大きいこと,さらに高い光合成速度は気孔を介してのCO2拡散系と葉肉組織における高いCO2固定能力にあることが要因解析から明らかになった.(3)水上栽培植物は土耕栽培植物に比べて根の破生組織がよく発達する傾向がみられたが,これには種間差がみられ,双子葉植物に比べて単子葉植物で発達が著しかった.また破生組織の発達と根の比重との間に高い相関関係がみられた.
著者
田中 充
出版者
九州大学
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2021-09-10

ヒトは食品を咀嚼・嚥下する際に、口腔内に放出される呈味・香気成分を味覚・嗅覚(化学感覚)情報として検知するとともに、歯ごたえや舌触りといった食感を触覚(物理感覚)情報として検知しており、これらの感覚から食品の風味を認知して美味しさを評価している。しかし、現在の機器計測ではすべての風味成分と食感を一元化して捉えることはできず、風味が美味しさを決める機構は多くが不明である。本研究では、食品の風味・食感を完全にデジタル記録するための次世代技術を開発することで、呈味・香気成分の空間的な分布、ならびに食感を網羅的に可視化した「完全な風味設計図」の構築を目指す。
著者
宮田 隆 水野 重樹
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

一般に進化に寄与する突然変異の主要因はDNAの複製の際に生じるエラ-であると考えられている。もし、この仮定が正しければ、一般にオスの生殖細胞の分裂数がメスのそれ(前者の後者に対する比をαとする)よりずっと大きいと考えられているので、進化に寄与する突然変異の大部分はオスに由来する、という重要な結論へと導く。本研究は、このことを明らかにすることを目的として行われた。オスとメスの生殖細胞の分裂数に差があると、突然変異率が染色体間で異なることを理論的に導いた。すなわち、α>>1の場合、XX/XY型では突然変異率の比は、常染色体:Z染色体:Y染色体=1:2/3:2となる。興味あることに鳥類などのZW/ZZ型ではこの比がXX/XY型と比べて逆転することが示される:常染色体:Z染色体:W染色体=1:4/3:0(1/α)(0(1/α)は非常に小さな値)である。ここでXはZに、YはWに対応する。すなわち上記の仮定から、常染色体に対するX及びYの相対突然変異率(それぞれRx、Ryと書く)が哺乳類と鳥類で逆転する。この理論的結果を確認するために塩基配列の比較が行われた。遺伝子ごとにヒトとマウス(あるいはラット)の間で塩基配列を比較し、機能的制約がほとんど働いていない同義座位の置換率Ksを求めた。本研究では、常染色体遺伝子が35、X染色体遺伝子が6、Y染色体遺伝子が1つ解析され、常染色体遺伝子に対するX及びY染色体遺伝子の相対進化速度(R´x、R´y)が計算された。その結果、R´x=0.58、R´y=2.2となった。この結果は、理論的期待値Rx=2/3、Ry=2に非常に近い。以上のことから、我々は、進化に寄与する突然変異の大部分はオスによって生成されると結果した。我々は、鳥類でもこの結論を確認するため、Z及びW染色体遺伝子のクロ-ニングを試みた。残念ながら、クロ-ニングはまだ成功していない。今後も引続き続行する予定である。