著者
中村 昌彦 小寺山 亘 柏木 正 梶原 宏之 山口 悟 兵頭 孝司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年全地球規模における環境変化の予測、環境保全に関する研究がますます盛んになってきている。これらの研究を行うためには地球環境に大きな影響を及ぼす海洋の時間的・空間的な観測データが必要であり、係留ブイシステムを利用した観測が行われてきた。しかし、空間的なデータを得るためには、数多くの係留ラインとセンサーが必要であり、莫大な設置コストが必要となる。また、設置海域によっては漁船の曳航網等によって係留ラインが切断され、データの回収が不能になる場合もある。そこで、本研究では、係留ラインを用いることなく、定められた範囲内に留まる(バーチャルモアリング)ことで空間的な海洋環境計測が可能な高機能自律型海中ビークルの開発を目指す。初年度はまず水中ビークルによるバーチャルモアリングシステムの計測アルゴリズムを検討し、水中ビークルに要求される仕様を決定した。また、CFDによりビークル形状を検討するとともに、小型モデルを製作し、流体力計測を行い、得られた流体力係数を用いて運動計算シミュレーターを作成した。次年度は、センサー・データ記録装置を搭載した模型によるグライディング試験を水槽で行い、シミュレーターの精度が良好であることを確認した。さらに、ビークルに内蔵した重錘を移動することにより、安定した運動制御が可能であることをシミュレーションにより確認のうえ、制御アルゴリズム検証用水中ビークル模型"LUNA"を製作し、動作確認を水槽で行った。最終年度は異なるタイプのアクチュエーターを製作し、シミュレーション・水槽試験を実施し、重心の移動によりグライディング中の円盤型ビークルの針路制御が可能であることを示した。以上により、円盤型海中グライダーを用いたバーチャルモアリングシステムが海洋環境計測に有効に利用できることがわかった。
著者
加藤 仁美 田代 英美 坂本 紘二 佐藤 誠
出版者
九州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

都市の外延的拡大による都市化の進行は近年地方都市圏に於ても著しく、都市と農村の境界領域である都市周縁地域はドラスティックな環境変化が展開しており、都市圏の環境問題を扱う際の最重要地域と考える。本研究はこの都市周縁地域をマージナルエリアと定義し、福岡都市圏、熊本都市圏、久留米都市圏を対象に事例研究を行ない、次の成果を得た。(1)マージナルエリアはジンメルのマージナルマンに由来する造語であり、都市と農村の接点・境界にあり、異質な社会と文化の狭間にあって、両者の対立と共存、葛藤と同化のダイナミズムが展開している地域であり、そのダイナミックな相互作用を通して問題を克服し止揚していく責極性に意義がある。(2)近年、都市と農村の関係はこの境界性としてのマージナルエリアから、コアとマージンという一極集中構造に変容しつつあり、農林漁業の後退による広大なマージンの創出は、環境保全にとって危機的事態である。(3)伝統的な農村集落では、農業を営むことを通じて、生産基盤はもとよりその背後の自然環境から生活空間に至るまで、共同的かつ自律的に保全管理する構造が存在する。兼業化・混住化は〈集落保全〉と呼ぶこの全体構造の変容を余儀なくし、環境保全のための新たな主体の形成が要請されている。(4)3つの都市圏の相対的位置は一極集中の入れ子構造を浮き彫りにしており、マージナルエリアの責極的意義の回復と、周辺市町村の自立性の回復が求められている。(5)都市化をコントロールする現行法制はマージナルエリアのような重層的生活空間には不充分であり、住民の地域形成力を活用するような支援装置も考慮されてよいと思われる。(6)今後は、環境的・文化的ストックの把握と、それに基づいた環境保全と環境計画の指針を得て、事例研究から得られた知見を基礎とした政策課題の追求が必要である。環境をテーマとする研究には学際的な研究方法の確立と国際的視野も要請されていると思われる。
著者
曽我部 春香 森田 昌嗣
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、既存の河川標識が抱えている課題の整理を行い、考察・分析を行うことで河川標識が果たすべき役割を明確化した。そして、河川標識として適切な役割を果たし既存の河川標識が抱える課題を解決する河川標識の基本的なデザインルールの策定ができた。また、このデザインルールに則りケーススタディを実施することで、策定したデザインルールの実践における有効性の検証を行うことができた。また、デザインルールをベースに河川標識ガイドラインを作成したことで、河川管理者がガイドラインに従い多くの河川標識を設置することとなり、このような経緯で設置された標識の調査を行うことでガイドライン上の再整理を行うことができ、より実践の場で役に立つ河川標識ガイドラインの改訂版を発行することができた。
著者
沖 真弥 目野 主税
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究ではマウス初期発生において極めて重要な役割を演じるNodalシグナルの直接的な標的遺伝子を同定し、エピブラストの多分化能維持機構、神経上皮への分化抑制、または原条形成に関わる遺伝子を特定した。またChIP-seqデータを簡易的に利活用できるためのソフトウェア(SraTailor)とデータベース(ChIP-Atlas)を作成し、ウェブを通じて公開した。
著者
松山 倫也 SETHU Selvaraj SETHU Selvaraj
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

脊椎動物の性成熟を支配する脳-脳下垂体-生殖腺軸(BPG-axis)の活動は, 春機発動の開始に伴い活性化すると考えられているが, 魚類ではその詳細は明らかでない。これまでBPG-axisの最上位における生殖制御因子として生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が知られていたが, 近年, 哺乳類において, GnRHの分泌を促して性成熟の引金を引く因子, キスペプチン(Kiss)が発見された。急速に進展している哺乳類でのKiss研究に比べ, 魚類のKiss研究は少なく, 現在, メダカ, ゼブラフィッシュ, キンギョ, フグやシーバスでの研究があるに過ぎず, その機能もほとんど明らかでない。本研究では, 春機発動機構解明のための解析ツールと全生活史にわたる飼育実験系が整備されているマサバを用いて, 期間内(平成23年9月~25年8月)に, KissによるGnRH制御機構, およびマサバへのKiss投与による春機発動促進効果を明かにする。本年度(平成25年4月~平成25年9月)は, 2種のKiss受容体(KissR1, KissR2)の遺伝子クローニングを行い, 合成したマサバKiss1-15およびKiss2-12をリガンドとしたレポーター遺伝子アッセイを行った。その成果、KissR1はKiss1-15の、またKissR2はKiss2-12の固有な受容体であり、それぞれのKiss受容体へのシグナルは、PKC/MAPKs経路で伝達されることが明らかとなった。
著者
島崎 研一郎 徳富 哲 長谷 あきら
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本特定領域研究では、フォトトロピンやLOV光受容体を研究対象にする生物物理学者、細胞生物学者、植物生理学者など第1線の研究者を一同に会して、光情報受容から様々な生理応答反応へ至る過程を、システマティックに研究してその全体像解明に迫り、この研究分野で世界をリードする事を目的とした。おもに、以下の結果が得られた。1)LOV1ドメインなどの一部の結晶構造を解き、分子全体構造に関しても重要な知見を得た。LOVドメインの光反応はほぼ解明した。さらに、キナーゼの光活性化機構の概略を明らかにした。2)各生理学的応答反応過程に関して、葉緑体光定位運動では、光によるアクチン繊維の再構築が原動力を与え、それに関与する因子が同定されるなど研究の大きな進展が得られた。気孔開口に関しては、photから開口に直接関与する細胞膜H^+-ATPaseへ至る経路の概略が明らかにされた。この研究過程で、アブシジン酸を介した気孔閉口シグナル伝達系とのクロストークが明らかになった。上記光応答反応以外にphotは、葉の太陽追尾運動、葉定位運動、マメ科植物における葉の光誘導性運動、柵状組織の形成、核の運動反応などの光受容体として機能することを発見した。3)新規LOV光受容体オーレオクロムを見つけ、その機能を解析した。以上の成果はPub Medのphototropinをキーワードにした文献検索によれば、2005年初頭より2010年7月までに全世界で総計185報の論文が発表され、この中で本特定領域研究の著者に含まれる論文は61報と、実に3分の1を占めた。班会議を開催し、これまでの成果をまとめた。この5年間の代表的論文を各研究代表者5編以内に限り、冊子体中にまとめた。
著者
植木 保昭
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

有機系廃棄物であるポリエチレン(PE)とゴミ固形化燃料(RDF)を還元材に用いた酸化鉄(ウスタイト)の還元実験を行ったところ、RDFを用いた方が高還元率を得ることができた。これは、PEは固定炭素を含有していないが、RDFは固定炭素を含有しているため、RDFの熱分解によって試料内部に多くのチャーが残留し、このチャーによりガス改質反応(CO_2+C=2CO、H_2O+C=H_2+CO)が生じ、COが長時間発生し続けることで、還元雰囲気が持続したためであると考えられる。また、有機系廃棄物が熱分解されて生じた炭素がガス改質反応に及ぼす影響について調査することを目的として、炭素結晶性や比表面積が水蒸気-炭素間反応に及ぼす影響について注目して調査を行った。熱分解炭素としてRDF、木材粉(Wood)とCH_4ガスを1100℃で熱分解させたCarbon Black(CB)を用いた。ラマン分光分析の結果(ラマンスペクトルにおけるI_V/I_G値)から、熱処理温度が高い炭素ほどI_V/I_G値が小さくなり、黒鉛化が進行し結晶性が向上していることが分かった。一方、水蒸気による炭素のガス化速度は全ての炭素で熱処理温度が高くなるにつれて小さくなった。ガス化速度とI_V/I_G値、及び比表面積の関係は、両指標ともにガス化速度とおおよそ直線関係が得られた。I_V/I_G値が小さくなると反応性が悪くなるのは、黒鉛化が進行し結晶性が向上すると反応サイトが減少する事と、炭素の脱離が起こりにくくなる事が要因であると考えられる。同様に比表面積が小さくなると反応性が悪くなるのは、反応サイトが減少するためだと考えられ、I_V/I_G値と比表面積にも相関関係があると推察される。
著者
谷本 潤 萩島 理 成田 健一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

一連の風洞模型実験,Large Eddy Simulation(LES)に基づく数値実験により,建築物を主体とする地上の粗度要素が大気境界層下端への熱・空力学フォーシング(強制力)として如何に作用するかに関して,その素過程解明の端緒を得た.[流体物理科学への貢献]また,都市キャノピーモデルへの適用,更には街区内歩行者レベルの温熱環境予測評価大系への応用を念頭に置き,上記の熱・空気力学フォーシングを実際には複雑系である都市や建築の幾何形状を適切にパラメータライズすることで,バルク輸送係数としてモデル化した.[都市環境工学への貢献]
著者
友清 衣利子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

強風被害拡大に影響を及ぼすさまざまな因子同士の相関と経年変化を分析し、それぞれの時代や地域に対応した、より正確な被害推定を行った。多種多様な強風被害拡大影響因子を分析・分類することで、被災地域の気候や構造物の特性を定量的に把握できることが分かった。それぞれの地域の特性を示す影響因子や因子の経年変化を考慮すれば、地域ごとに実際により対応した被害推定を行うことができ、自治体での防災対策に有用な情報を提供できる。
著者
内田 照章 毛利 孝之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.イエコウモリ精子は、子宮では上皮細胞の微絨毛を被うルテニウムレッド濃染の良く発達した微細な糖衣に精子頭部を接触させ、子宮卵管移行部では上皮細胞の細胞膜弯入部に精子頭部を嵌入させて長期貯蔵される。今回、子宮内膜上皮細胞の微絨毛糖衣は排卵と同調して失われ、そのために精子が上皮細胞から離脱すること、また精子貯蔵部位の上皮細胞にはグリコーゲン顆粒の他に、過蟻酸-燐タングステン酸に濃染する糖脂質様の分泌顆粒が多数認められることを明らかにした。2.イエコウモリ精子の貯蔵に関与する子宮卵管移行部の上皮細胞はまた、精子を貪食する機能を持つ。今回、これら上皮細胞の貪食能を更に確認するため、カチオン化フェリチンを用いて培養実験を行なった結果、貪食能の他に飲食能も認められ、そのために腔内が清澄に保たれることを実証した。一方、子宮内膜上皮細胞は精子を貪食せず、またフェリチンを取り込まなかった。3.今までに、雌性生殖道内に搬入された精子の受精能獲得に要する時間は50日以上であることを実験的に明らかにした。今回、更に既交尾雌の隔離実験と排卵促進剤の投与により、卵の賦活率と正常発生率を詳細に調べた結果、精子は少なくとも85日以上滞留しないと受精能を獲得し得ないことを明らかにした。4.ユビナガコウモリの遅滞着床機構を解明するため、冬眠前・中・後期における血漿プロゲステロン濃度を測定した結果、その濃度は非妊娠期に比して、冬眠前から始まる遅滞着床中は有意には上昇せず、その後の冬眠中の遅滞発生中には有意に低くなるが、冬眠覚醒後には有意に高くなることを知り得た。5.その他、モリアブラコウモリ、コウライアブラコウモリ、オオアブラコウモリ、クロアカコウモリ、テングコウモリなどの精子貯蔵様式を電顕的に比較検討すると共に、これらの受精過程をも観察中である。
著者
太田 好信
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

20世紀を通して、国民国家形成から脱植民地化までを牽引してきたのは、言語、文化、アイデンティティが一体化した「ヴァナキュラー論」である。だが、これに代わり、21世紀の現代社会における複雑な社会集団の現状を把握するため、言語、文化、アイデンティティ間にある新しい関係を想定する「ポストヴァナキュラー論」を提示した。
著者
小川 滋 飯田 繁 井上 晋
出版者
九州大学
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.93-130, 2000-03

九州大学演習林は,実際は,1912年(大正元年)当時の樺太演習林から始まり,続いて台湾,朝鮮の演習林が設置されている。すでに,「旧台湾演習林」,「旧南鮮演習林」については調査が行なわれており,ロシアの「旧樺太演習林」の調査が待望されていたところであるが,1年半の準備期間を経て1999年9月に現地調査が実現した。まず,現地調査の経緯や調査日程,旧樺太演習林の変遷,旧事務所跡地の変貌など,現在のサハリンの事情をまとめた。次いで,旧樺太演習林とその周辺について,50数年経過した植生の現状と樺太演習林当時の植生調査結果および北海道の植生との比較を行って,植生変遷の実態等についてまとめた。さらに,旧樺太演習林が如何なる管理状況に置かれているかを理解するために,最近のサハリンの国有林経営・管理の実態について資料を作成した。また,九州大学施設部に保管されていた旧樺太演習林の建造物の図面を複製し,解説を加えた。以上のように,1999年9月に行われた旧樺太演習林の調査について,経緯,訪問先,演習林の変遷,植物相,林業事情等をまとめて,将来のサハリンにおける森林・林業研究の資料とした。
著者
大久保 敬
出版者
九州大学
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.145-163, 2006-10

ハカタユリの原産地は中国で、中国で「百合」はハカタユリのことである。ハカタユリは韓国で古くから「唐ユリ」という名前で知られていたこと、現在韓国では経済栽培は行われていないが、農家の庭先で広く栽培されていること、さらには、韓国、壱岐、岐阜に生きるハカタユリの遺伝子分析の結果などから、伝達経路は中国→朝鮮半島→博多と考えるのが最も合理的であると思われる(トウガラシのように日本→朝鮮半島の例もあるので、中国→日本→朝鮮半島のルートも考えられる)。日本に最初にもたらされた球根が全国に広がったと考えなくてもクローンであることから、朝鮮半島にあるハカタユリが様々な経路で、複数回にわたって、異なる時代に入ってきたと考えることも可能である。桃山時代(1568-1600)に作られた能衣装「茶地百合御所車模様縫箔」に刺繍されているユリが最も古いハカタユリの形としての記録であり、文字としては犬子供集(1633)に収録されている俳句である。鎌倉時代という証拠はなにもない。岐阜には江戸からもたらされ、たまたま生育に適したところであったため、ながく生きながらえたと考える。
著者
井上 裕策 岩井原 瑞穂
出版者
九州大学
雑誌
九州大学大学院総合理工学研究科報告 (ISSN:03881717)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.381-388, 1995

This paper proposes a method of representing relations implicitly using binary decision diagrams (BDD), which are data structures to represent logic functions compactly, and are widely used in computer-aided design (CAD)area We consider utilization of BDD for query processing in deductive databases. In this paper, we show two methods, called linear encoding and logarithmic encoding, to represent relations implicitly using BDDs. We compared the performances of these encodings with the traditional evaluation based on hash joins, and the proposed methods are faster than the hash-join-based methods over transitive closure queries on linear graphs and dense random graphs.
著者
藤野 陽子 荻野 洋一郎 鮎川 保則 古谷野 潔
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は埋入されたインプラント周囲に発現する骨タンパク質をチタンにコーティングすることで、オッセオインテグレーションを促進できるかを検討するものである。本研究期間では、チタンに非コラーゲン性タンパク質であるオステオポンチン(OPN)、オステオカルシン(OCN)をコーティングした場合のコーティング効果と骨芽細胞(マウスセルライン、MC3T3-E1)を培養し、その接着、増殖、分化を検討した。さらに、ラットの脛骨を用いたin vivoモデルでの骨接触率の検討を行ったインプラントに各タンパクのコーティングを行い、免疫組織化学的な手法によってタンパクの吸着を確認した。接着に関しては、OPNでは初期に抑制傾向が認められたものの、その後の接着は促進される傾向にあった。OCNでは初期から促進傾向が認められたが、その後の接着はOPNほどの促進傾向は認められなかった。接着後の増殖では24、72時間後の細胞数をMTT Assayにて計測を行った。また、分化に関しては、ALP染色と細胞から分泌されるOCNの量を測定したが、その差は顕著なものではなかった。ラット脛骨へコーティングインプラントを埋入した動物実験モデルではインプラントを埋入し、2週間後に屠殺し、組織学的検討を行っている。(現在標本作製中)つまり、今回の実験系からは、以下の事項が確認、示唆された。1)OPNとOCNは細胞の初期接着を促進する傾向が認められた。2)接着後の細胞の増殖、分化に関しては、初期接着ほどの効果は認められなかった。これは、OPN、OCNのコーティング効果が弱くなることや、初期接着後のメディウム交換で、コーティングの効果を減弱させること、さらには、接着への影響を極力少なくするために2%FBSを添加したメディウムがその後の増殖や分化(分化の培養系では、10〜15%のFBSを添加したものを通常用いている)を通常のレベルで起こすことが出来なかったことがその一因として考えられた。3)in vivoの実験は現在、標本作製中なため、改めて報告を行う予定である。
著者
梶谷 康介 中別府 雄作
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は多機能分子であるレクチンタンパクの一種、ガレクチンの中枢神経における発現・機能に注目し、ガレクチンと精神疾患との関係を明らかにすることである。我々は本研究で以下の4つのことを明らかにした。1.マウス海馬において、ガレクチン-1が海馬の介在神経に発現する(ガレクチン-1陽性細胞の77%が介在神経マーカーであるソマトスタチン陽性)、2.マウス海馬における介在神経数はガレクチン-1欠損マウスと野生型マウスに差を認めない、3.統合失調症患者における血清ガレクチン-3濃度は健常者より優位に上昇している、4. 統合失調症の一部の精神症状とガレクチン-3濃度は正の相関を示す。
著者
徳永 幹雄 橋本 公雄 磯貝 浩久 高柳 茂美
出版者
九州大学
雑誌
健康科学 (ISSN:03877175)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.9-17, 1992-02-08
被引用文献数
2

運動やスポーツを行うことによって生ずる心理的効果として爽快感の体験とその観定要因を分析するために3つの実験を行った。実験1は炎天下に行われた大学におけるテニスの授業, 実験2は継続的授業の初期(2回目)と後期(12回目)の大学のサッカーの授業, 実験3は習慣的に実施されている高齢者のテニスの練習を対象とした。それぞれの主な結果は, 次のとおりである。1. 炎天下のテニスの授業では80.4%の多数の学生が「爽快」と答えた。爽快感の規定要因では気分のすっきり度, 運動欲求の強さ, 暑さに対する評価の3要因が最も関係していた。その他, 身体的状態, 心理的状態, 個人的特性, 環境的条件が輻輳して関与していることが推測された。2. サッカーの授業の進行と共に「爽快」と答えた学生は増加し, 後期では84.7%の多数となった。爽快感の評価の変化をみると上昇型は56.5%, 無変化型は25.9%, 下降型は17.7%であった。とくに上昇型では体力, 技術, 性格の自己評価の高まり, 熱中度, 達成感, 運動欲求といった心理的状態の変化, 発汗, 苦しさ, 疲労度の減少といった身体面の適応,向上が関係していることが明らかにされた。3. 高齢者のテニス前後の爽快感,感情得点,乳酸, ACTH, ベータ・エンドルフィンの平均値にはいずれも有意な変化は認められなかった。しかし,テニス後の相互関係をみると, 爽快感や感情得点と乳酸値にはマイナスの相関がみられ, ACTHやベータ・エンドルフィンの分泌にはプラスの相関がみられるという興味ある傾向が認められた。ただ, 高齢者の運動の爽快感をホルモン分泌からのみ考察するのは困難ではないかと思われた。