著者
今泉 勝己 佐藤 匡央
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

食事性高コレステロール濃度を決定する遺伝子は雄では14番、雌では5番染色体上に存在する。以下それぞれ別々に解析した。(1)雄(染色体14番)における解析染色体14番の連鎖解析により既にSMEK2を同定した。前年度はこの機能未知の遺伝子について、コンジェニック系統Ex. BN-Dihc2ラットを用いて、ラット全遺伝子を網羅したDNAチップによりトランスクリプトーム解析を行った結果、本遺伝子の制御による系が発見されたのでその解析を行った。(1)コンジェニック系統Ex. BN-Dihc2ラットを用いた表現型の解析1血清コレステロール濃度と肝臓トリアシルグリセロール量との関係肝臓トリアシルグリセロールの合成不全が、高コレステロール血症を引き起こす。従って、Ex. BN-Dihc2ラットでも同様に起こっており、脂肪酸合成低下に起因したトリアシルグリセロール合成不全はSMEK2によっていると考えられた。(2)雌(染色体5番)における解析染色体5番にある領域は雌の血清コレステロール濃度を規定していると考えられる。しかし現時点では25MBpとかなりの距離があり約245の遺伝子までに限局した。
著者
半田 太郎
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

近年,超音速マイクロ噴流を工学的に応用する試みが数多くなされている.各種機器に超音速マイクロ噴流を効率良く適用するためにはこの噴流の詳細な構造を理解する必要がある.とくにマイクロ噴流のブレークダウン長さは,ブレークダウンが起こると噴流が急激に乱れて広がり始めるので,応用上この長さを知ることは極めて重要である.本研究ではレーザー蛍光・りん光法を用いて超音速マイクロ噴流のブレークダウン長さを計測した.その結果,ブレークダウン長さはレイノルズ数の増加とともに減少し,亜音速マイクロ噴流と似た実験結果が得られた.しかしながら,亜音速マイクロ噴流ではブレークダウン長さはレイノルズ数の逆数に比例するが,超音速マイクロ噴流ではそのような結果とはならなかった.この結果から,超音速マイクロ噴流にはレイノルズ数以外にもブレークダウン長さを支配するパラメータが存在することが明らかになった.
著者
小坂 克子
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

我々は嗅覚の一次中枢嗅球におけるGABAニューロンについて、ニューロンの化学的性質及び形態的性質の両方に注目し、発生学的解析を進めてきた。現在までの結果は以下のことである。A.発生過程での表現形質の可塑的変化の可能性:我々の免疫細胞化学的研究によって、従来独立であるとされていた古典的神経伝達物質GABAとカテコールアミンが嗅球糸球体層で同一ニューロンに共存していることが判明し、しかも成体では共存関係を示さないニューロンも発生過程では一過性に共存関係を示し発生過程において古典的伝達物質GABAとカテコールアミンの共存関係が変化していく所見を得た.これは胎生後期に発生したGABA陽性カテコールアミンニューロンが、発生途上での表現形質の可塑的変化の可能性を示唆する所見であった。更に、ある時期に発生するニューロンを特異的に除去するX線照射実験により、上記の所見を支持する結果を得た。B.免疫細胞化学的研究によって嗅球の外網状層に存在するCa-結合蛋白parvalbumin(PV)含有ニューロンがGABAニューロンの一部であることを明かにし、Golgi鍍銀様に染色できるPV抗体で細胞体及び神経突起の形や広がりを解析した。その結果外網状層に存在するPV含有GABAニューロンは形態的に少なくとも5つ以上のサブグループに分けられた。更に、発生学的解析でそれらのPV含有ニューロンはラットでは生後10日頃、外網状層の内半層に観察され、その後急激に数が増えるが外網状層外半層には生後2週で初めて陽性細胞が出現し生後3週でほとんど成体と同様になる事を明かにした。我々はこの観察からa)外網状層の外半、内半の発生が著しく異なること、b)PVの発現が、推定されるニューロンとしての発生からかなり遅れていることを示唆する所見を得ることができた。
著者
岩本 誠一 前園 宜彦 中井 達 時永 祥三 藤田 敏治
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

従来のポートフォリオ理論では平均・分散基準の確定的最適化を数理計画法によっておこなっているが、本研究においては、数理ファイナンス分野おける新しい評価基準として単一評価クラスと複合評価クラスを導入して、その不確実性の下での動的最適化手法を提案している。とくに、リスクとリターンを確率変数そのものとして取り扱い、制御マルコフ連鎖上で分数型基準の条件つき期待値を再帰的に最適化している。分数型評価は複合評価の典型的な基準の一つであるが、他に、比型、分散などの複合型基準の動的最適化をおこなっている。さらに、動的計画法を中心とした動学的最適化手法として、(1)全履歴法、(2)パラメトリック法、(3)マルコフ法、(4)多段確率決定樹表を開拓し、既存の最適化手法では解けない問題を提案し、これらの最適解を導いた。また、動的最適化手法をより分かりやすく、説得力あるものにするために、各種グラフィックス表示およびその開発をおこなった。とくに、不確実性の下において非加法型評価の多段階意思決定過程の最適化を動的計画法によって行った。具体的には、(1)事前条件付き意思決定過程と(2)事後条件付き意思決定過程の二つを新たに導入し、(3)条件なし(本来の)意思決定過程との最適解の構造およびそのアプローチにおいて三つの過程の相違点を明らかにした。本研究によって、閾値確率制御問題が上述の多様な方法で解けることが明らかになった。とくに、閾値確率最大化問題の逆問題は数理ファイナンスにおけるバリュー・アト・リスクの最小化問題なることがっわかり、バリュー・アト・リスクの最小化に新たに動的計画法・埋め込み法が適用できることになった。この二つの方法はこれまで確定的システムの最適化に多用されて成果を上げてきたが、本研究によって確率システム・あいまいシステムに対しても動的計画法・埋め込み法が適用できることが判明した。したがって、本来不確実性の下で変動するポートフォリオシステムの最適化方法が多様・多彩になってきた。これらはまさしく本萌芽的研究の成果である。
著者
志賀 勉
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、居住収縮が進む戸建て住宅地における住宅・宅地ストックの社会的管理のあり方を検討するための基礎として、空宅地の用途転換と飛び地利用の実態を調査し、その特性を分析することを目的としている。本研究では、郊外戸建て住宅地と斜面住宅地を対象に行った調査結果をもとに、空宅地の用途転換の傾向と菜園利用における飛び地利用の特性について分析を行い、以下を明らかにした。1.空宅地の用途転換について:空宅地の用途転換では、空宅地の規模や立地条件等の物的属性が新たな用途を制約する。特に駐車場や農園への用途転換にはこの制約が大きく、戸建て住宅地の平均的な画地規模では用途転換のメリットが小さい。これに比べて、菜園は空宅地の物的属性の制約が小さく、小さな画地の用途転換にも向いている。2.菜園利用における飛び地利用の特性について:空宅地の菜園利用は、利用者数と土地所有の関係から利用型が分けられ、また、利用者の自宅から菜園までの経路距離と利用面積との関連が認められた。さらに、自宅庭の使い方と空宅地菜園の使い方は相互に関連しており、空宅地が自宅庭の延長として利用者に認識されていることが理解された。3.戸建て住宅地管理のあり方について:居住収縮の進む戸建て住宅地の全体的な管理を行うためには、地区住民のニーズや空宅地の属性等の詳細な情報を把握した上で、住宅・宅地ストックの管理方策を検討する必要がある。本研究で分析した飛び地利用は、点在する空宅地の管理方策として、所有者の管理負担を軽減し、かつ地区住民のニーズにマッチした有効な手段のひとつと考えられる。
著者
松永 康佑
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、仮想身体表現のための計測システムの構築を目指している。従来の計測システムは運動解析と形状計測を別々に行うものであり、同時に記録できるシステムが求められた。また、多点運動解析では、計測点が増加するに従い、編集時間増加の問題があった。これらの問題解決のため、本研究では田の字型紙マーカを用いた、計測システムの構築を行った。この計測システムの有効性は確認できたが、計測精度や認識速度の点において問題が残った。
著者
桑野 信彦 和田 守正 小野 眞弓 河野 公俊 FOJO Antonio LONGO Dan SCHLESSINGER デーヴィト DANLONGO ロンゴ DAVID Schles SCHLESSINGER デーヴイド
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

制癌剤耐性に関与する遺伝子群はがん化学療法に対する感受性を左右するだけでなく分化・発生とも密接に関連して重要な機能を有することが示され多大な注目を集めている。本研究は、このうち多剤耐性MDR1遺伝子及びエトポシド耐性関連遺伝子に焦点をしぼり、以下の事項を明かにすることを目的とする。1.遺伝子発現制御領域の単離およびゲノム構造の解析。2.MDR1遺伝子近傍の遺伝子群の同定と共通制御の有無。3.ヒト組織。腫瘍における発現様式。4.ヒト腫瘍における耐性獲得の診断プローブとしての可能性の検索。本研究で得た成果を以下に列挙する。1.ヒトMDR1遺伝子プロモーター領域の解析。ヒトMDR1遺伝子は2つのプロモーターによりその発現が制御されていることが報告されているが相互の役割等、詳細は不明であった。我々は下流制御領域をファージ・ゲノムライブラリーより単離し、制御ドメイン構造を明かにした。これには、制癌剤、紫外線、血清除去などに反応する制御ドメインが含まれ、MDR1遺伝子をストレス応答遺伝子群の1つとして位置づけることができた。上流プロモーターに関しては、遺伝子増幅をともなう多剤耐性細胞でのみ機能していることが示唆された。2.ヒトMDR遺伝子群のゲノムマップの作成。MDR遺伝子領域の構造と機能の全体的な関連を把握し、近傍の未知遺伝子の同定、共通制御の有無を明かにするための第一歩として、この領域のマッピングを試みた。上記制御領域からPCRプライマーを合成し、ワシントン大学のヒト全ゲノムおよび7番染色体特異的酵母人工染色体(YAC)ライブラリーより、YACクローンを20個単離した。エンド・クローンの単離、ヒト-ハムスター雑種パネルによる検定により約半数はキメラでなく7番染色体にマップされた。STS contentマッピング法により現在1メガベースのコンティングが構築され、またMDR1およびMDR3遺伝子を含む600kbについては、rare cutter enzymeによる物理地図を完成した。3.YAC-ヒトゲノムライブラリーの改善。ワシントン大学のライブラリーを含め、現在のYACライブラリーはキメラクローンが30〜50%、また不安定クローンが1%存在することが問題となっている。我々は、In gel partial fill-in法によりキメラの成因であるコライゲーションを抑え、平均500kbのライブラリーを作製する方法を開発した。さらに不安定YACクローンとして知られているヒト色盲領域を安定化させ得る変異株を単離樹立した。今後、これらの方法により、対象領域の高品質YACライブラリーを構築し、さらにコンティグ、物理地図の作成および未知遺伝子の探索を行ない、診断プローブとしての可能性を検討していく。4.ヒトMDR遺伝子の増幅単位とその機序。MDR1遺伝子の増幅と発現に関与するゲノム領域と構造を決定するため、MDR1と3遺伝子を含む酵母人工染色体をマウス細胞に導入し、抗癌剤ビンクリスチンに対する耐性獲得にともなう遺伝子増幅と発現の機序を検討した。MDR1遺伝子を含む580kbの酵母人工染色体をマウスL細胞に導入した。この導入株をビンクリスチン処理することにより、MDR1遺伝子の遺伝子増幅および発現促進が認められた。しかし、マウスの内在性mdr1aの発現は見られなかった。以上、我々は酵母人工染色体を用い、MDR遺伝子領域の機能的な導入とヒトMDR1遺伝子の選択的増幅、発現をさせることに成功した。5.エトポシド耐性関連遺伝子DNAトポイソメラーゼIIの遺伝子構造と発現。エトポシド耐性関連遺伝子のうち、トポイソメラーゼIIやIを標的とした抗癌剤は近年その有効性から臨床応用へ多くの期待がよせられている。トポイソメラーゼの量的低下が耐性獲得の1つの原因となること、さらに高温処理により、トポイソメラーゼIIの発現が上昇することの2点を明かにした。現在、トポイソメラーゼII発現制御様式について解析を行なうためトポイソメラーゼIIプロモーター領域をファージゲノムライブラリーより単離した。現在、制御領域の一連の欠失変異体を構築し、制御ドメイン構造を明かにしつつある。
著者
松元 賢 土屋 健一 セイン・サン・エ ハ・ヴィエト・クオン
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、まず、熱帯アジア土壌病害調査として、ベトナム北部紅河流域やミャンマー中山間地区の病害調査を行い、熱帯地区をモデルとした土壌病害発生シミュレーションの基礎データを収集した。また、高温障害の植物根圏に及ぼす影響解析では、九州大学ファイトトロン(人工気象装置)において擬似的な熱帯環境を構築し、熱帯の水田環境におけるイネ紋枯病の発生様相についてのモニタリングに成功した。さらに、香草植物や薬用植物の抗菌・殺菌成分を素抽出し、土壌燻蒸による土壌病害の生物的防除への利用可能性について検討した結果、極めて殺菌・抗菌作用の高い植物成分として、オイゲノールや精油成分の抽出に成功した。
著者
大賀 正一 野村 明彦
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

伝染性単核症(IM)の原因であるEpstein-Barrウイルス(EBV)は、免疫不全時に再活性化しB細胞リンパ腫/リンパ増殖性疾患(LPD)を、またT/NK細胞に感染して慢性活動性EBV感染症(CAEBV)や血球貪食症候群(HLH)などのリンパ網内系疾患を発症する。EBVがT細胞に感染したCAEBVやHLHは予後不良なEBV^+T-cell LPDである。私たちはCAEBV患児のT細胞活性化とoligoclonal増殖を明らかにし、活性化T細胞にEBVコピー数が多いこと、この細胞群のサイトカイン発現に異常のあることを明らかにした。このことはCAEBVにおける活性化T細胞の増殖が反応性というより、腫瘍化段階(clonal evolution)である可能性を示唆する。また、移植後LPDの発症予測に末梢血のEBV-DNA定量が有用であることも明らかにした。1)CAEBV-T細胞におけるEBV量とサイトカイン発現患児の末梢血よりcDNAを作成して、T細胞抗原受容体Vβ,Jβ領域遺伝子を用いたinverse PCR法により、T細胞レパートアを解析しoligoclonal増殖を明らかにした。このT細胞をCell Sorter(EPICS-XL)によりHLA-DR陽性(活性化)と陰性(非活性化)群に分画しDNAとRNA(cDNA)を作成した。DNAを用いてEBV-DNAの、cDNAを用いてサイトカインmRNAの発現量をreal-time PCR(TaqMan)により定量した。活性化T細胞はEBV量が多く、Th1(IFNγ,IL-2)/Th2(IL-10,TGF-β)いずれのサイトカインも高発現していた。2)EBV^+T/B-LPDにおけるEBV-DNAモニタリングの有用性EBV-DNA定量(全血)が移植後B-LPDおよびCAEBV(T-LPD)の発症と病勢の指標になることを証明した。
著者
恒川 元行
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の成果は、以下の4 点である : (1)ドイツ語辞書記述(独和、和独)の土台となる語彙データ入手手順の確立および語彙調査支援ソフトの開発、(2)5つのテキストを対象にした語彙調査の実施、(3)独自の語彙調査結果を検証・補足する目的での大規模ドイツ語コーパス(ベルリン・ブランデンブルク科学アカデミーのDWDS コーパス等)の利用法調査、(4)平成21年度科研費基盤研究(C)「ドイツ語テキスト及び文における語彙出現予測分析とその和独辞典・教材への応用」(研究代表者:三重大学人文学部・井口靖教授)への展開。
著者
増田 弘毅
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

様々な実データ時系列の背後にある確率過程の構造に関する漸近推測,その中でも特に,確率過程の二次変動の局所的性質を加味した推測方式を研究した.また,漸近推測に際して必要となる,確率過程の漸近挙動も興味の対象である.今年度は特に下記の結果を得た.1. Realized multipower variation(MPV)の長期高頻度観測版を定義し,その漸近挙動を導出した.統計への応用として,確率過程の飛躍部分が適当な条件をみたす下では,飛躍の具体的な構造に関係なく(それを局外母数として)拡散部分およびドリフト部分を同時に漸近正規性をもって推測可能であることが分かった。推定量は計算容易であり,より精度の高い推定量の構成に役立つことが期待される.種のウィーナーポアソン確率積分に関する条件付期待値の公式を導出した.これはウィーナー積分に関する既存の結果を拡張するものであり,飛躍付確率過程モデルへ "small-sigma"理論を適用する際に,その実装における基本的な道具となる.3.合ボアソン型飛躍付拡散過程の$\beta$-ミキシング性を,(ランダムな)初期条件に関係なく成立する条件を導出した.条件は全て当該確率微分方程式の係数およびレヴィ測度で表現されており,検証容易である.4. 期間で高頻度データが得られない場合での日次ボラティリティの推定方法を,ウェイト付実現ボラティリティを介して定式化し,実証分析を行った.このような推定手法は,昼休みと夜間において取引が停止する日本市場などにおいて,特に夜間の収益率変動が累積ボラティリティに及ぼす影響が大きいことが経験的に知られているため,重要である.本結果は,経済で重要なボラティリティ予測を安定して行うための道具となる.
著者
牛島 恵輔 GAD Mohamed El?Qady
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

現在、地下浅部の埋設物の探査方法としては、磁気探査、電磁誘導、地中レーダー、電気探査など種々の物理探査法が開発されている。しかし、いずれの探査手法においても長所、短所および探査限界がある。このため、地雷や不発弾を確実に漏れなく発見するためには、各物理探査の方法の特徴を考慮し、埋設物の物性値、埋没深度に応じて複数の手法を組み合わせて探査することが重要である。そこで、著者らは、まず広域を迅速に探査するための手法として時間領域電磁法(Transient Electromagnetic Method)を適用し、次いで、異常が検出された地点を高精度に調査する方法として、電気探査比抵抗法(Electrical Resistivity Method)を採用することにした。このように、マクロからミクロまでのフィールド調査をセンサー・フュージョンにより実施すれば、地下埋設物の3次元分布のみならず、地下埋設物の材質および3次元形状までも把握できるものと考えられる。そこで、平成15年度は、空中からTEM法を実施するためのシステム開発を目的として、まず概査用の送信・受信ループおよび精査用の送信・受信ループを試作した。次いで、実際に地下に物性値(導電率)およびサイズ(規模)が異なるモデル(地雷)を埋設して、これらの送信・受信ループの対地高度を変化しながらフィールド実験を行った。これらの一連のフィールド実験の結果、TEM法の概査用としては50cmのコインシデント・ループが適しており、精査用としては20cmのコインシデント・ループが最適であることが明かになった。一般に、広域のフィールド調査では、対地高度を一定(50cm)にして、複数の矩形ループを併用することにより、マクロからミクロまで効率良く、漏れなく埋設物探査が実施できることを確かめた。
著者
井上 英二 福島 崇志 平井 康丸
出版者
九州大学
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.169-176, 2003-02
被引用文献数
2

従前、周波数解析においては一般的にフーリエ解析が用いられてきた。フーリエ解析では信号を時間領域から周波数領域へ変換し、信号の周波数成分としてどのようなものが存在するかを表現する。そのために時間情報を扱うことができない。しかし、解析対象となる信号の大部分は非定常性を有しているため、時間情報が重要となる。これに対して、ウェーヴレット解析では、信号を時間-周波数の両面からとらえることで局所的な周波数の時間変化を検出することができる。さらに、信号の質を低下することなく、信号を各周波数帯に分解・再構成することができる。すなわち、問題となる周波数帯のみの波形を取り出すことができ、それらの周波数特性を把握することが可能となる。圃場機械に限らず、産業機械全般においては様々な機構が組み合わさっているため、振動波形もより複雑になっている。よって、このウェーヴレット解析を用いることでそれぞれの機構の特性を把握することができる。ウェーヴレットを用いた研究の一例として、陳らは機械設備の異常診断においてウェーヴレットを用い異常識別のための最適周波数帯域の決定方法を提案した。また、片岡らは振動解析においてウェーヴレットの解析性について検討を行い、振動波形の分解能レベルの高さを確認した。本研究では、ウェーヴレットの分解能に注目し、コンバインの代表的な振動源である刈取部と走行部の振動波形のウェーヴレット解析を行い、各機構の有する特長的な振動波形ならびに周波数特性を明らかにすることを目的とした。
著者
杉本 浩利
出版者
九州大学
雑誌
九州大学心理学研究 (ISSN:13453904)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.67-78, 2000-03-10

本稿は,対人恐怖心性の高低による個人空間の諸側面の差異を調べ,その様相より対人恐怖心性各下位尺度について考察を試みるものである。個人空間については,その定義にみられる"領域"と"距離"の概念を取り出すために投影法的方法が用いられた。対象は大学の講義等を利用して募集した男性39名,女性62名(19-39歳)である。分析1として他者の面識度水準(どういう相手がどういう風に振舞っている状況か)によって投影法的個人空間検査に表れる各側面の変化について検討した。さらに,その変化が対人恐怖心性各下位尺度の高低によりどう異なってくるかを,分析2として検封した。その結果より,それぞれの対人恐怖心性下位尺度について考察を加えた。特に,<集団に溶けこめない悩み>や<自分や他人が気になる悩み>の高い者は,対人場面における対人距離と心理的距離にズレがある可能性が示唆され,<自分を統制できない悩み>は対人場面において「高次の間人性」(山根,1987)の発揮に関わる因子であることが示唆された。
著者
高木 彰彦 遠城 明雄 荒山 正彦 島津 俊之 中島 弘二 山野 正彦 源 昌久 山本 健児 熊谷 圭知 水内 俊雄 久武 哲也 山野 正彦 源 昌久 山本 健兒 熊谷 圭知 水内 俊雄 内田 忠賢 堤 研二 山崎 孝史 大城 直樹 福田 珠己 今里 悟之 加藤 政洋 神田 孝治 野澤 秀樹 森 正人 柴田 陽一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

公共空間と場所アイデンティティの再編について、地理思想史、理論的研究、経験的研究の観点から検討を行った。研究成果として、『空間・社会・地理思想』10(2006)、『空間・社会・地理思想』11(2007)、『空間・社会・地理思想』12(2008)を毎年刊行したほか、英文報告書として『Reorganization of public spaces and identity of place in the time of globalization : Japanese contribution to the history of geographical thought(10)』(2009)を刊行した。