著者
玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

ケラチン5(K5)遺伝子プロモーター・GFP遺伝子を有する遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス)より骨髄細胞を採取し、骨髄間葉系幹細胞を培養した。培地にBMP4を添加することにより、GFP陽性細胞が出現することを明らかにした。これらの細胞をヌードマウス皮膚に装着したチャンバー内に移植し、皮膚が再生した後にGFP陽性表皮細胞の出現を検討した。その結果、再生表皮内に散在性にGFP陽性表皮細胞が存在すること、その一部は毛包および毛組織に分化していることが明らかになった。K5・GFPトランスジェニックマウス骨髄を移植したマウス皮膚に全層性創傷を作製し、その治癒過程でのGFP陽性表皮細胞出現を検討した。その結果、創傷治癒後に表皮内GFP陽性細胞の出現を確認した。表皮内での陽性率は、数%で、一部毛包では、数10%の細胞でGFP陽性であった。また、創傷閉鎖からGFP陽性細胞出現までの日数は、6ヶ月間の経過内では4ヶ月以降から顕著に陽性率が高くなる傾向を示した。即ち、創傷形成直後から骨髄細胞の創部への誘導は開始されるが、表皮細胞への形質転換後は増殖までにある程度の日数が必要であると考えられる。K5・GFPトランスジェニックマウス骨髄から間葉系幹細胞を分離・培養し、創傷モデルヌードマウスの尾静脈から連日7日間静脈内投与した。その結果、創傷治癒後皮膚毛包部に尾静脈投与したGFP陽性骨髄細胞が集積し、表皮を再生していることが明らかとなった。以上のデータにより、骨髄間葉系幹細胞が表皮細胞再生に寄与しうる可能性が示され、重症熱傷や先天性表皮水庖症などの難治性潰瘍治療に応用可能と考えられる。
著者
真山 全 吉田 脩 川岸 伸
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

宇宙空間軍事利用は核抑止のための通信や偵察が従来主であった。しかし、宇宙戦能力を米ソの他英仏中印等が備えるに至り、戦闘その他敵対行為の可能性も生じてきた。この宇宙戦を国際法がどう規律するかを検討する。まずは宇宙条約と武力紛争法の適用関係を検討し、更に武力紛争法で宇宙戦は空戦法規の適用で規律すべきなのか又は宇宙空間の安全保障上の意味が空とは異なることや宇宙の特殊性から宇宙戦法規という新domainを考えなければならないかを検討する。サイバー戦には武力紛争法新domain形成力がなかったのは明らかであるから、宇宙戦法規という新domainが成るとしたら20世紀初の空戦法規以来のことになる。
著者
山岸 潤也
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

Periplaneta fuliginosa densovirus(PfDNV)は、1993年に中国武漢市郊外でクロゴキブリがら分離されたウイルスで、パルボウイルス科,デンソウイルス亜科,デンソウイルス属に分類される。デンソウイルスは約5000塩基の小さなゲノムを有する一本鎖DNAウイルスで、数個の遺伝子しかコードしないことから、昆虫におけるウイルス増殖を分子生物学的に解析する対象として、非常に適していると考えられる。また、これまで分離されているデンソウイルスの多くが、その感染により宿主を死に至らしめ、同時に強い宿主特異性をもつことから、ウイルス農薬として害虫駆除に利用することが期待できる。本研究では、特にウイルス増殖の基幹を成す遺伝子発現制御機構に注目して解析をおこない、ウイルスの宿主特異性や増殖機構を明らかにすることで、ウイルス農薬としての有効かつ安全な利用への応用を目指している。PfDNVが属するデンソウイルス属には、ハチミツ蛾を宿主とするGalleria mellonella densovirus(GmDNV)や、Junonia coenia densovirus(JcDNV)など、鱗翅目を宿主とするものが存在する。これらのゲノム構造は非常に類似していることが報告されているが、ウイルス構成タンパク質をコードするORFがGmDNVやJcDNVでは1つであることに対し、PfDNVでは2つに分断されているといった相違がある。また、そのmRNAも、GmDNVやJcDNVでは1種類であることに対し、PfDNVでは選択的スプライシングにより少なくとも9種類が生成することを我々は明らかにしている。これらは、PfDNVでは、GmDNVやJcDNVと異なり、選択的スプライシングがウイルス構成タンパク質の発現制御に関与することを示唆していた。今回我々は、5種類あるPfDNVの構成タンパク質について、そのN末端アミノ酸配列をエドマン法により解析することで、PfDNVの構成タンパク質の発現制御に選択的スプライシングが関与することを明らかにした。また、非構成タンパク質をコードするmRNAをRT-PCRによって解析した結果、PfDNVだけでなくGmDNVにおいても、選択的スプライシングの関与が認められた。これらは、昆虫のパルボウイルスであるデンソウイルスの遺伝子発現制御には選択的スプライシングが関与しないというこれまでの通説を覆す、新たな知見であった。また、本研究の結果から、デンソウイルス属は、構成タンパク質の発現に選択的スプライシングが関与するグループ(鱗翅目を宿主としないもの)と、しないグループ(鱗翅目を宿主とするもの)の2つに細分化されることが示唆された。(以上はjournal of general virologyに投稿中です。)
著者
竹原 明理
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

採用最終年度は、昨年度から継続している菊人形と人形芸術運動における生人形の調査が中心となった。研究実績として、論文二本(2012年4月以降刊行予定の一本を含む)、口頭発表二本、学会新聞への寄稿一本を行った。2011年は生人形師出身で後に人間国宝となった平田郷陽の没後三十年という節目の年であり、佐倉市立美術館と佐野美術館において展覧会・シンポジウムが開催された。また、日本人形玩具学会では平田郷陽と人形芸術運動が特集され、報告者も同学会第23回総会(於深川江戸資料館)で菊人形やマネキン人形などを製作した生人形師としての平田郷陽の姿について発表した。菊人形展については、二本松市、南陽市、笠間市、野田市、巣鴨、湯島のほか、吉野川市、枚方市、名古屋市、高浜市などを見学した。東日本大震災の影響が懸念されたが中止となった個所はなく、東京・愛知・大阪・大分の人形師からの聞き取り調査も行うことができた。また、枚方市の「ひらかた市民菊人形の会」への参加・調査も継続し、彼らの活動についての考察を日本民俗学会第63回年会(於滋賀県立大学)や研究会などで発表した。加えて、生人形の系譜を考察する上で重要な山車人形の見学を川越祭において行ったほか、2011年11月の見世物学会総会(於東京芸術大学)でも生人形が取り上げられたため、学会新聞へ短文を寄稿した。当初、本研究は明治・大正・昭和における博物館と百貨店の展示装置として用いられた生人形について調査を進めていたが、生人形師の系譜にある現役の人形師からの聞き取り調査を行う中で、菊人形や山車人形は重要な存在であること、昭和初期に展開された人形芸術運動における議論は人形の転換期として非常に興味深いものであったことなどが浮き彫りとなった。展示装置としての生人形製作に関わった人形師たちは、先行研究で記されてきた以上に幅広い分野で活動していたことが明らかとなり、今後もさらに多角的な視点から生人形研究を発展させていく上で、本研究は重要な意味を持っていたといえるだろう。
著者
安藤 英由樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

人間が思考の道具として利用している独り言や内言に着目し、それを人工的に作り出すことで、主体感や関与感、情報の理解・判断の精度を向上させる。内言・独り言で使用される自分声は、外部で聞こえる声と異なり、頭部内の骨導音であるため、予め外部で記録した音声を変換して骨導音を作成し、それを適切なタイミングで提示することで、あたかも自分の意思として自然に行動を促すことを実現することを目的とする。さらに,ELSIの観点に基づいて問題のない範囲を規定において、無意識的な誘導技術は悪意のある誘導手法へと容易に転用できることが予想されるため、どのような条件において利用すべきかについて検討を行う。初年度に引き続き,内言として刺激を行うための音声を生成について検討を進めた.その結果,発生された音声から,頭の中で響く自分声へと変換するためのフィルタ手法として,従来手法では不十分であった,骨と空気の伝導モデルを再構築し簡便に擬似内言を生成する方法を実現した.具体的には,骨と空気の伝導音を別々に測定し、両方の音の比に重みを付け,それらを合成して,実験協力者に聞かせ,この重みの比率を変化させることで,実験協力者がもっともらしく,自分の頭の中で聞こえる声と感じられるパラメタの抽出し実装する方法が実現できた.さらに,当該手法で音声情報の提示を行ったときと,単なる録音された音声情報の提示を行った場合とでは,前者のほうが精神的な作業負荷を増加させることなく,かつ意思決定などの情報処理にバイアスをかけることができるという実験を行い,その効果を確認した.
著者
高橋 英之 三船 恒裕 守田 知代 森口 佑介
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

文化や社会に応じて超自然的存在の感じ方には大きな個人差が存在している一方,文化普遍的に何らかの形でそのような存在に関する伝説や神話が存在していることは,子どもの心の中に元型となるメカニズムが存在するからと考えられる,本研究では,子どもが超自然的存在を感じるようになるメカニズムを明らかにするため,fMRIで実行可能なリズム同期とパレイドリア錯覚を組み合わせた課題をオリジナルな開発,大人と子どもを対象として行動・fMRI実験を実施した.結果,リズムが同期すると錯覚が生じやすくなるという現象を大人と子供両方で発見した.この現象をベースに,子どもが超自然的存在を知覚するメカニズムについて考察を行った.
著者
長谷川 裕峰 寺井 良宣 藤平 寛田
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

本研究課題の調査対象とした未翻刻史料群『阿弥陀房抄』は各研究機関に散在しており、その存在は知られていたが、本格的な研究は僅少であった。そこでまず、叡山文庫円覚蔵19冊、叡山文庫真如蔵13冊、叡山文庫天海蔵『義科抄』の内4冊、西教寺文庫正教蔵27冊、早稲田大学図書館教林文庫所蔵19冊を史料収集し、考察対象とした。また、その撰述者である阿弥陀房宗厳の来歴等に関して、同時代史料から検討を進めた結果、本史料群は当時の天台学における最高水準であった探題職が残した論文集としての性格を読み取ることに成功した(「『阿弥陀房抄』覚書」、『坂本廣博博士喜寿記念論文集 佛教の心と文化』、2019年)。
著者
石黒 浩 中村 泰 西尾 修一 宮下 敬宏 吉川 雄一郎 神田 崇行 板倉 昭二 平田 オリザ 開 一夫 石井 カルロス寿憲 小川 浩平
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

人と関わるロボットの自律動作と遠隔操作の機能を統合することで,人間やロボットが存在する社会的で現実的な場面において, 発話やジェスチャーなどの社会的振る舞いを行い, 社会に参加できるロボットシステムの実現を目指すとともに, 社会的な対話の認知心理学的な理解とモデリングに取り組んだ.今年度は, 以上の取り組みを開始したところであったが, 本提案をさらに発展させた, 人間に酷似したロボットであるアンドロイドの機構の改良や BMI の導入を含む基盤研究 S "人のような存在感を持つ半自律遠隔操作型アンドロイドの研究" が採択されたため,5月31日をもって,本研究課題を廃止し, 基盤研究 S の一部として研究を推進している.本研究課題実施時の具体的な研究内容としては, 1. 対人状況における注意制御機能と遠隔操作機能の統合の一部として, 学習アルゴリズムに基づくロボットの自律制御に関する研究, 及び, 2. 社会的状況における対話の認知科学的モデル化の研究の一部として, ロボット演劇中のロボットが人にアプローチするシーンの演出データからの社会的振る舞いの抽出に取り組んだ.現在, 基盤研究 S として, 物理的なインタラクションをも自然にするための電磁リニアアクチュエータを用いたアンドロイドの開発,複数人による雑談などの具体的な社会的状況における対話とそれに伴う行動の記録と分析に基づく対話モデルの構築や, 遠隔操作の記録を基にしたアンドロイドの自律化に取り組んでおり, 今後,行う予定のブレインマシンインターフェースによる遠隔制御の導入などとともに, 人との多様な相互作用を行うアンドロイドの開発, 社会的存在としての機能の実現, 現実社会におけるアンドロイドの社会参加の実現に取り組む.
著者
野杁 由一郎 恵比須 繁之 薮根 敏晃 朝日 陽子 阿座上 弘行
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は,ヒトのデンタルバイオフィルムに対する化学的制御・抑制法の確立を最終的な目標して行われた。クオラムセンシング(QS)誘導物質であるオートインデューサーの1種であるアシルホモセリンラクトン(AHL)の類似化合物をターゲットにしたが, 10種のAHL類似化合物は検出限界(6. 32~7. 33ng/ ml)以上の濃度では検出されず,デンタルバイオフィルム中にはほとんど存在しないことが明らかとなった。一方, QSを撹乱し抗バイオフィルム作用を示していると推察されるAHL類似化合物や抗菌剤を発見し,これらによる化学的なバイオフィルム抑制法の臨床適用に向けた緒を築いた。この研究成果は,バイオフィルム感染症の新たな治療戦略の開発に有意義な示唆を与えるものであると自負している。
著者
小原 敦美
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

情報、システム科学分野のさまざまな問題が、正定値対称行列あるいはそのひとつの一般化である対称錐上の構造あるいは数理計画問題として定式化されるようになってきている。本研究は、対称錐と関連の深いJordan代数を道具として1.対称錐およびその部分集合の幾何構造や性質、特に情報幾何との関連、2.対称錐上の線形計画問題アルゴリズムの開発と解析3.これらの知見のシステム科学分野とくに制御理論への応用を目的としていた。これに対して研究実績としては1については、情報幾何で特徴的な双対接続のJordan代数による特徴付け(裏ページ発表論文3)、錐の特性関数のレベルセット上のダイバージェンスの性質(発表論文2)やアファイン幾何との関連(発表論文1)、また対称錐上の平均の定義と測地線との関連(発表論文4)などの成果が得られた。2については、1と関連して双対な接続に関して平坦の部分集合の重要性が明らかになっているが、計算量と曲率の明確な関係はまだ得られていない。部分的な結果は発表準備中であるが、今後の課題としたい。3については対称行列の正定値性を順序とする不等式、いわゆる線形行列不等式を用いた応用的な結果を得た。制御理論への応用として、発表論文5,6をあげておく。
著者
山崎 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

Mg2+輸送体CNNM4はMg2+を細胞の内側から外側へと排出することで細胞内Mg2+の恒常性を維持しており、Cnnm4遺伝子を欠損した細胞では細胞内のMg2+量が増加する。マウスモデルを用いた解析から、Cnnm4遺伝子の欠損が大腸での発がんや腸管に形成される腫瘍の悪性化を促進することが明らかとなり、CNNM4は細胞内Mg2+量の恒常性を維持することで腸での発がんやがんの悪性化を抑制していることが示唆される。