著者
久米 弥寿子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、コミュニケーション技術教育における面接プログラム学習のモデルプログラムを構築し、効果的な面接学習プログラムを開発することを目的としている。今年度、新たに分析データを追加し、A看護系大学2年生のコミュニケーション技術の演習参加者169名に対して、事前に同意を得た139名を分析対象者としてコミュニケーション行動の出現傾向や面接の展開および技法の難易度の点から解析を行った。ロールプレイング1場面を1記録とし、計96記録について行動コーディングシステムを用い、コミュニケーション行動の出現頻度、持続時間を測定した。出現パターンは、各発話の単位時間における出現の有無(1-0サンプリング)の時系列データと隣接ペア構造によって捉えた。これらの状況分析の結果を基盤にして面接プログラム学習のモデルプログラム原案を作成した。時系列での出現パターンでは、「挨拶」「焦点をあてる」「OQ」「CQ」などがロールプレイング前半で多く、中間では「いいかえ」「情報提供」、後半には「個人的支援」「協力関係」が出現しており、場面展開に対応した出現傾向が示唆された。後半では、発話継続に困って「沈黙」になり、「関係のない笑い」「視線をそらす」が出現していて、発話を持続していくことの困難さが示された。さまざまな言語的コミュニケーション行動の出現、セッション設定時間内の演技の継続困難さなどから、改めてプログラムの目標設定については、1)「基本的傾聴技法」から「積極技法」など、段階的にコミュニケーション技術の活用を行うことができる、2)集中してロールプレイングにおける役割演技を行うことができる、3)各役割の体験によって他者の心理面への理解を深めることができる、という3点に焦点をあてるものが有効と考えられる。出現パターンの分析から、場面展開に応じたコミュニケーション行動の出現傾向が示された。また、「支持的コメント」や「助言」など傾聴技法だけではないものも含まれていた。このことから、一つ一つの技法の基礎知識に加え、実際の活用法や一つの面接場面の展開として捉えられるような視聴覚教材が有効であると考える。また、学生の準備状態に合わせて「傾聴技法」と「積極技法」を組み合わせた実際の具体例を示すことも重要であると思われる。
著者
浜渦 辰二 中村 剛 山本 大誠 福井 栄二郎 中河 豊 前野 竜太郎 高橋 照子 備酒 伸彦 竹之内 裕文 竹内 さをり
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

医療,看護,リハビリ,介護,福祉,保育,教育まで広がる「北欧ケア」を,哲学・死生学・文化人類学といったこれまでこの分野にあまり関わって来なかった研究者も参加して学際的に,しかも,実地・現場の調査により現場の人たちと研究者の人たちとの議論も踏まえて研究を行い,医療と福祉をつなぐ「ケア学」の広まり,生活中心の「在宅ケア」の広まり,「連帯/共生」の思想が根づいていること,などが浮かび上がってきた。
著者
栗原 聡 菅原 俊治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

局所的な情報に基づいて自律的に動作する多数のエージェントにて構成されるマルチエージェントシステムを構築する際に,システムをボトムアップに構成する手法と,トップダウンに構築する手法とを融合させる方法の創出を目的とし,両者を競合させて動的平衡状態とする方法を提案した.そして,次世代知的交通制御システムを題材として,渋滞状況予測手法と信号機制御手法を提案し,両手法を効果的な融合を実現させることに成功した
著者
大谷 晋也 スミス 朋子 埋橋 淑子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

病院で使用される各種文書をよりわかりやすくするにはどうすればよいか検討して作成し、実際に使用するとともに改善に努めた。作成にあたっては、文書のデザインや体裁・情報の取捨選択に始まり、伝達内容を明確化して文書の論理構造に反映すること、患者の背景知識や文化・プライバシーなどに配慮した上で、使用される文章や文・語彙などに意を用いた日本語を使用することなどに留意した。作成した文書は、ある公立病院の利用に供し、特に問診票に関しては、実際に使用した上で医療従事者にアンケート調査を行い、さらなる改善に努めた。
著者
米田 信子 永原 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

東ヘレロ語コミュニティにおける現地調査で収集したデータをもとに,声調,テンス・アスペクト・ムードの体系,複文の構造を中心にヘレロ語の記述研究を行った。その成果は論文および国内外の学会や研究会で発表した。また国際共同研究については,2010 年度に Lutz Marten 氏(ロンドン大学)とヘレロ語の共同研究を開始したほか,最終年度には英国から 2 名のバントゥ諸語研究者を招聘し,これまでの成果発表と共同研究の展開を目的とした国際バントゥ諸語ワークショップを大阪で開催した。継続的な国際共同研究へ展開させる十分な土台ができたものと思われる。
著者
名和 範人 鈴木 貴 小川 知之 石毛 和弘
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

名和と石毛が運営メンバーに名を連ねる『語ろう「数理解析」』(http://www.gifu-u.ac.jp/~tisiwata/seminar/ma_seminar.html)を通して,様々な分野の研究者との議論の場を設ける事ができた。この活動などを通して、研究分担者各員は、各々の研究分野で成果をあげ、様々な研究集会など、複数の講演機会や海外への渡航機会も得て、情報交換がより密になされるようになった。名和は、擬共型不変な非線形シュレディンガー方程式の爆発解に対して、その爆発速度と漸近挙動との間の関係性について、ひとつの結果を得る事ができた。これにより、次のステップとして、本格的にネルソン過程と呼ばれる解の背後にある確率過程と爆発速度との関係の追求に移る事ができる。また、微分型非線形シュレディンガー方程式の爆発解に対しても、漸近形に対しては、部分的に同様の結果を得た。さらに、これまでに開発した技術が、超伝導の理論に現れるような、非線形シュレディンガー方程式系の解析にも有効である事を見抜き、古典場ではあるが、クーパー対の生成とも言うべき性質を解が持ち得る事を示した。石毛は、拡散係数が大きな半線形熱方程式の爆発解の爆発集合や漸近形に関する結果や、球の外部領域における線形熱方程式の解の最大点挙動および解の微分の無限遠方での減衰評価を得た。鈴木は、自己双対ゲージ模型におけるある種の自己組織化現象や,走化性方程式系の爆発問題に関して興味深い結果を得た。小川は、自発的パターン形成のモデルである、スイフト=ホッヘンバーグ方程式や,ある電気化学系のモデル方程式などの解に現れる時空パターンについて,力学系や分岐理論を用いた解析を行った。これらの解析の一部は、すでにシュレディンガー方程式の解の解析と精神を同じくしている部分もあり、今後のさらなる共振的な発展が期待される。
著者
宮本 陽一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、日本語の比較構文に生起する「より節」が目的語の数量を比較対象にする場合に、「かき混ぜ規則(scrambling)」、「数量詞上昇(Quantifier Raising)」等によって、生成された位置とは異なった位置に移動できることを明らかにした。これは、付加詞からの移動が常に排除されるわけではないことを意味している。この結果から、付加詞(特に二次述語)であっても主節と(素性照合によって)関係を結べる場合には抜き出しが許されることを明らかにした。
著者
西村 ユミ 前田 泰樹 前田 泰樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、看護場面として急性期医療の現場に注目し、そこでの実践がいかに成り立っているのかを記述することを目的とした。研究期間内においては、おもに、患者の苦痛の理解という実践に注目した。看護師たちは、観察や評価に先立って、患者の痛みの経験を理解しはじめていた。この理解は、患者の痛みに応じようとする行為的な感覚や、具体的な行為とともに成り立っていた。そして、この行為を交換することによって、看護場面における協働が達成されていた。
著者
細谷 裕 波場 直之 尾田 欣也
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ヒッグス粒子の正体、余剰次元の存在の可能性、クォーク・レプトンの起源をLHC実験で探れる物理として探求した。ヒッグス粒子を余剰次元のゲージボゾンとするゲージ・ヒッグス統合理論を構成した。質量126 GeVのヒッグス粒子の存在から、余剰次元での励起粒子、ヒッグス粒子の相互作用の間に普遍的な関係(ユニバーサリティ)があることを発見した。今後のLHC実験で検証されれば、余剰次元の存在が確立される。
著者
赤澤 堅造 奥野 竜平 金 寛 彼末 一之
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

近年,筋萎縮性側索硬化症,運動ニューロン病など,進行性で,かつ死に至る神経・筋系疾患が多く見られ,その診断,治療のため運動ニューン個数・サイズ分布の計測手法の開発が非常に強く望まれている.本研究では,等尺性随意収縮時の筋電信号を用いて,運動ニューロンの個数およびサイズ分布を推定する新しい理論を提唱し,筋電信号発生のモデルの構築とモデル解析により,推定法の妥当性と推定誤差を明らかにし,臨床診断への適用可能性を示すことを目的とした.本研究では,運動ニューロンの個数およびサイズを推定を以下の通り遂行した.(1)筋電信号発生モデルの構築サイズの異なる多数の運動ニユーロンからなる筋電信号発生のモデルを構築する。運動ニューロンのパルス発射パタンを与えて、筋電信号(時系列信号)をモデルにより作成した。(2)運動単位発火周波数の計測独立成分分析を用いた運動単位活動波形のデコンポジションプログラムの開発を行った.等尺性収縮時の多チャンネル筋電位信号を対象とし,運動単位の同定と運動単位発火周波数を算出した.その結果,収縮レベルの増加に伴い,運動単位発火周波数が増加することを示した.
著者
島田 三惠子 鮫島 道和 保 智巳 新田 紀枝 大橋 一友 白井 文恵
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

妊娠中から産褥期の母親の生活リズムおよび生活習慣と、乳児の睡眠覚醒リズム等のcircadian rhythmの良否および生活習慣との関連の有無を明らかにする事を目的として行った。対象:大阪府内の研究協力病院の母親学級(参加者の合計328名に説明)と妊婦外来でリクルートし、研究参加に意思表示した妊婦75名のうち、同意書が得られたのは平成19年11月迄に出産予定の妊婦60名であった。縦断的に追跡調査できたのは産後1ヶ月の母子53名、産後4ヶ月の母子41名であった。方法:妊娠末期、産褥1ヶ月・4ヶ月の計3時点で、(1)生活習慣と生活リズムの質問紙調査、(2)睡眠表1週間記録と平行して(3)アクティグラフで睡眠覚醒リズムと活動量を4日間測定と(4)唾液を1日4回3日間家庭で採取した。同時にこの妊婦から生まれた乳児の生後1ヶ月と4ヶ月の2時点で、母親と同時に(2)乳児の睡眠表記録1週間と(3)アクティグラフ(4)唾液採取し、メラトニンを測定した。結果:妊娠出産に伴って睡眠覚醒リズムは変化し睡眠の質が悪化するが、妊娠末期から産後4ヶ月では、睡眠が分断されても最長睡眠時間は夜間にあり、睡眠覚醒のリズム周期は24時間であることが明らかにされた。妊娠末期から産後4ヶ月の期間は最長睡眠の入眠時刻が早いほど最長睡眠時間は長くなり、早寝は産後の睡眠状態の改善に役立つことが明らかにされた。また、妊娠末期に妊婦が早く寝ることによりその新生児が夜間多く眠ることが明らかにされ、ヒトにおいても母体の生活リズムを基本として胎児期に発達し始めることが明らかにされた。新生児の睡眠などの生活リズムはその後の乳幼児の基本的な生活習慣の形成あるいは生活習慣病の発症との関連が示唆されている。従って、妊娠期から規則的な生活習慣を持つこと母子の生活習慣病の発症の予防に資する重要な意義がある。今回の対象には、妊娠合併症を持つ異常妊婦は数名しか同意が得られず、妊娠中の生活リズムや生活習慣が妊娠・分娩・産褥経過に及ぼす影響については十分検討できなかったため、事例を積み重ねて今後の継続課題とする。
著者
石黒 浩 中村 泰 池田 徹志
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は体全体を表現メディアとした人間に親和的なアンドロイドシステムの開発を目指して, 親和的動作の生成メカニズムの実装と効果の検証, さらに状況の応じたアンドロイドの振る舞い変化による人間との親和的な関係構築について検証した. 動作の生成メカニズムとして, アンドロイドの動作の印象に大きな影響を与える体全体の振動を軽減する枠組みを提案した. 神経減衰振動子と呼ばれるパターン生成器を用いた制御法とその学習アルゴリズムからなる枠組みで, この手法により振動現象を軽減することができた. この手法は関節間の連動性を調整する枠組みとしても利用可能であり, 学習の目的により動作の印象を変えることが可能であることから, 体全体の自然な動作を生成する枠組みとして期待できる. また, リアルな環境における振る舞いの違いがコミュニケーションへ与える影響の検証を目的として, アンドロイドを病院の診察場面に陪席させる実験を行った. 患者の笑顔や頷きに同期してアンドロイドに笑顔や頷きを表出させた場合に患者の医師に対する印象や診察への満足度が向上するなど, アンドロイドの振る舞いを変化させることにより, 患者の診察への印象が変化することを示した. この研究は, 人間との親和的な関係を構築できる情報メディアとしてのアンドロイドを開発するだけではなく, 人間のロボットの関わるシステムの構成要素を明らかにするものである. すなわち, 三者間のコミュニケーションにおける親和的な関係構築への影響を調査したものであり, アンドロイドが今後, どのような社会的な役割を担い, 親和的なコミュニケーションの実現に寄与するかを検証するための重要な一歩となっている.
著者
工藤 眞由美 山東 功
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ボリビア沖縄系移民社会(沖縄第1移住地)では、琉球語(沖縄中南部方言)、本土日本語、スペイン語とのダイナミックな言語接触が起こっている。談話録音については、世代ごと(1世成人移民、1世子供移民、2世、3世)に、文字化を行い、報告書『ボリビア沖縄系移民社会における談話録音資料』としてまとめた。沖縄県那覇市を中心とするウチナーヤマトゥグチ的な表現形式(~シヨッタ形式、~ワケサ等)も使用されていることが明らかになった。言語生活調査については、ブラジル沖縄系移民社会(サンパウロ市)と比較した結果、ブラジル(サンパウロ)では、ポルトガル語へのモノリンガル化が急速に進んでおり、ボリビアでは日本語が維持されるバイリンガルな状況にあることが多面的な調査項目から明らかになった。
著者
川村 邦光 荻野 美穂 杉原 達 冨山 一郎 真鍋 昌賢 落合 恵美子 荻野 美穂 落合 恵美子 才津 祐美子 重信 幸彦 杉原 達
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の家族写真は、当初西洋の影響を受けていたが、独自の展開をしてきたことを明らかにした。家族写真が人生儀礼や年中行事において撮影され続け、民俗的慣行として確立され、民俗資料として有効であることも明らかにした。現在では、特に年賀状に家族写真が載せられて、友人・知人に向けて発信され、家族の共同性を確認する機能を果たしている。本研究は家族写真に関する初めてのまとまった本格的な研究であると考える。
著者
津田 葵 津田 葵
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

小笠原父島における新しい文化との接触、移入によるプロセス、同化のプロセスの実態とその要因の解明に向けて文献調査、聞きとり調査を中心に研究を進めた。特に、本年度は平成9年度から3年計画で始めた最終年度であるので、過去2年間にわたっての研究から明らかになった基礎的データの整理とより精密な分析、その妥当性をチェックするための実地調査に主力を注いだ。1.異なったエスニシティとの出会い異なった土地からやってきた最初の定住者達、ペリーの来航、日本人の最初の移住者の入植、開拓開始、太平洋戦争勃発、本土への強制疎開、米軍による統治、欧米系島民の帰島、返還、返還後の復興といったなかでの欧米系島民、旧島民、新島民による社会形成の様相、アイデンティティの問題、同化主義の特徴2.言語接触と言語文化共通語、母語を異にしている人々の間での伝達、米軍統治下での言語生活、返還後の言語教育、異なった世代、エスニック集団における言語使用の特徴、多言語接触によって生じる言語生活の実態の解明3.島に伝わる民謡南洋諸島から伝来されたと思われるもの、最初の日本人移住者の出身地である八丈島からのもの、小笠原独自のもの、歌詞の意味が不明でルーツも不明なもの4.衣・食・住の生活文化異文化接触による影響と父島独自の生活文化の創造とそのプロセス5.伝統的年中行事:島に伝わる年中行事、それぞれの行事の起源、社会的意味と意義
著者
佐賀 公太郎 玉井 克人 新保 敬史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

これまでに申請者らは、損傷組織から放出された HMGB1 が骨髄中の間葉系幹細胞 (MSC) を活性化することで骨髄 MSC の血中動員や損傷部集積を促進し、損傷組織再生を強力に誘導することを明らかにしてきた。しかし、HMGB1 による骨髄 MSC 活性化に関わる受容体やシグナル経路は未だ明らかとなっていない。本研究では、HMGB1 が骨髄 MSC を活性化するための新規受容体を同定し、その活性化機構を明らかにすることを目的とする。
著者
岡島 昭浩
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

従来、速記原本の解読は、速記を行った当人によってのみ行われることであった。速記原本を目にしても、どの速記方式によるかの認定法などは考えられてこなかった。それを認定する方法を確立し、解読に繋げようというのが本研究である。歴史的価値のある速記原本が存在しても、速記から年月が経過し、さらに 速記者当人が亡くなると解読は困難となるが、不可能ではないことが示せれば、貴重な資料である速記原本の死蔵・廃棄を抑止する効果がある。また、速記原本や速記教本類を系統的に収集整理することは、いわば速記のロゼッタストーンを残すことになるものであり、しかも、それ自体に解読の鍵を含ませたものともなるのである。
著者
大竹 文雄 木成 勇介
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

男女間で昇進格差が生じていることは、多くの先進国で観察される事実である。その理由として、雇用主の差別や男女間における離職率の差、ワークライフバランスに欠ける職場環境の存在など、様々な原因が考えられてきた。近年注目されている仮説は、男女間で競争に対する選好が異なることが、昇進競争への参加の男女差を生み、結果として男女間の昇進格差が発生している、というものである。米国での経済実験を用いた先行研究では、男性のほうが女性よりも、競争的報酬体系を好むことが明らかにされ、その理由は自信過剰な上に競争自体を好むという特性があるためだという結果が得られている。しかし、競争選好に関する男女差が、文化によって形成されるものなのか、それとも文化に依存せず共通のものなのかを明らかにするためには、様々な国、様々な被験者を用いた分析が必要である。本研究では、先行研究と同様のタスクを用いて、競争的報酬体系と歩合制の報酬体系との選択を日本人の被験者に行わせた。その結果、先行研究と同様、男性のほうが女性よりも競争的報酬体系を好むことを見いだした。その理由は男性のほうが女性よりも自信過剰であることによる、ということを明らかにした。本研究では、競争をするグループ内の男女比と競争選好の関係についても明らかにした。女性は女性ばかりのグループでは自信過剰になり、男性はグループ内に女性がいると自信過剰になる傾向があることを見いだした。これは、女性はもともと競争を好まないというよりも、男性との競争を好まないという文化特性である司能性が高い。それを明らかにするため被験者集団を文化系の学生に絞った場合と実験タスクを計算問題から迷路に変更した実験を追加的に行った。これらの実験結果の解析は、現在まだ行っている途中である。