著者
SCHIRREN Thomas
出版者
19世紀学学会
雑誌
19世紀学研究 (ISSN:18827578)
巻号頁・発行日
no.7, pp.61-81, 2013-03

フリードリヒ・シュレーゲルがその思想的活動の初期に発表した一連の古典文献学的著作の背景には、1797年の『ギリシア文学研究論』にも現れている通り、近代文学の再生というプロジェクトがあった。このプロジェクトを支えるのは、近代の芸術の改良か、さもなくば没落かという危機意識であった。シュレーゲルによれば、古代文学の見直し、つまりギリシア・ローマ文学の全面的なクリティークこそが近代文学の発展に向けて不可欠の前提となる。過去と未来へと同時に眼差しをけるこの構想が必然的に要請するのは、古代詩芸術のためのヴィンケルマン流の考古学と、近代的なクリティークとの結合である。こうした試みを丹念にたどることによって、シュレーゲル独自の「文献学の哲学」の真相が見えてくる。それ、でに「フラグメント」と化した古代文学・哲学の諸作品を既定の区分に従って類別するのではなく、また古典的対人工的というクリシェーに留まることなく、作品自体の自律的・内的な構造に基づいて特性描写する新たな分類学の理論であり、さに、文学の歴史を単なる年代記として構成するのではなく、一にして全なる「ポエジーの宇宙」として体系づける、そのような歴史哲学と緊密に結びついている。本稿は、こうした古代文学のクリティークという観点のもと、上記主要著作に先立つ種々の覚書や断章群 -批判校訂全集未収録のものも含めて- の分析を通じ、ロマン主義文学の本質をなす「普遍文学(宇宙のポエジー)」のプロジェクトへと至るシュレーゲルの文献学的営みの意義を明らかにする。
著者
武田 利勝
出版者
19世紀学学会
雑誌
19世紀学研究 (ISSN:18827578)
巻号頁・発行日
no.7, pp.51-60, 2013-03

1802年から1808年までの一時期は、フリードリヒ・シュレーゲルの人生における旅の時代と言ってよい。この間、彼はドイツ中東部を離れパリへと向かい、更に当地で知己を得たボアスレー兄弟らとともにライン地方を巡っている。そしてこれらの旅の足跡は、「フランスへの旅」(1803)および「旅書簡」(1806年)として結実した。 最初の旅記述を全体として規定するのは、革命期の混乱にあるヨーロッパへの慨嘆であり、そこへ至るヨーロッパの歴史への批判的眼差しである。シュレーゲルは古代以来のヨーロッパの歴史を「加速の一途を辿る分裂の傾向」と特徴づけ、自身の生きる1800年前後の時代においてその傾向は「極限」に達した、と診断する。限界にあるという意識は同時に、失われた「中心」への意識とともにある。「中心」の探求は彼にとって、一連の旅行記に先立つ『イデーエン』断章以来のテーマであった。そこでは様々な位相における、そしてなお見出されえない「中心」が予感的に指示されるが、それらは次第に「我らのうちなる」「有機体」という理念的な形姿を帯びてゆく。「来たるべき時代」は「有機的な時代」でなくてはならないという命題が、いわば彼の歴史哲学の核心にして全体となるのだ。しかもそれは想像力と機知のみに開かれるという意味において、たえず有機体の「仮象」なのであって、この仮象性ゆえに、あらゆる「いま・ここ」のうちに限界から中心への変容可能性が萌芽として見出されうる。本稿は、シュレーゲルの二つの旅記述をこのような有機体の仮象の探求と見なすが、その際、旅の途上にある彼の眼差しを規定するものとして、彼独自の「解剖学」概念に注目する。彼において解剖学は純粋に医学的なものではなく、いたるところに隠された「断片」に光をあてる、いわば考古学的な関心に基づいている。かかる解剖学的な手つきによって探り出された「断片」が、とりわけ二つ目の旅記述においては、ライン地方に残るいくつかのゴシック建築、あるいはそれらの廃墟である。そしてシュレーゲルにとって「いかなる体系も断片から生長する」のであってみれば、例えば当時周知とされたあの建築様式と植物とのアナロジーもまた、彼の関心においては建造物そのものがなお有機的な生長の内にあることの証と見なされる。こうしてシュレーゲルにおける中世への憧憬もまた、単なる感傷的な復古趣味の枠組みを超え出る。あらゆる現在が過去と未来の「中間のMittel時代」として漂っているという意識は、「極限」にあるというもう一方の時代意識に対して、すべてがなお有機的な生長うちにあるという仮象を提示しうるのである。
著者
窪澤 駿平 渡辺 太郎 隅田 英一郎 岡田 将吾 新田 克己
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第29回全国大会(2015)
巻号頁・発行日
pp.2C1OS06a5, 2015 (Released:2018-07-30)

ニューラルネットワークにおいて,汎化性能向上のために深層構造が用いられる様になった.一方で,各層においてデータセットの大域的な特徴を捉えることが可能であれば,少ない層数でデータセットを表現可能である.そこで本研究では,級数展開に基づくネットワーク構造を用いることで大域的な特徴を捉え,さらに汎化性能を上げるために周波数領域での正則化を行うアプローチを提案する.
著者
山口 俊雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.38-48, 1998-06-10 (Released:2017-08-01)

石川淳の戦前の代表作の一つ「マルスの歌」(一九三八)について、まず、流行歌や映画による感覚的総動員、および登場人物の性格付けについて検討することで、大衆が加担する総力戦下銃後の風景が巧みに取り込まれている点を確認し、次に、語り手の反戦的態度のあり方を、題名の由来となったアランの作品と、石川淳の自然観・思想観の中に探る。これによって、時代に対峙しながら書くという作者の精神の孤独な営為を確認したい。
著者
渡部 潤一 白石 麻貴 田内 秀樹 鴻上 繁
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.743-746, 2011 (Released:2012-02-04)
参考文献数
14
被引用文献数
1

〔目的〕健常者において,片麻痺姿勢を擬似的に作り,前方リーチ距離,座位から立位への動作の後,立位バランスにどう影響を及ぼすのか検証した.〔対象〕健常者な男女28名である.〔方法〕座位姿勢は自然条件と脳卒塞条件の2種類実施し,前方リーチ距離と閉眼片脚立位時間を比較検討した.〔結果〕前方リーチ距離,閉眼片脚立位時間ともに自然条件において有意に高値を示していた(p<0.01).〔結語〕片麻痺姿勢をシミュレーションすることで座位バランス,動作後の立位バランスが自然条件より低下するということが示唆された.すなわち,理学療法実施時に姿勢を修正して座位練習を行う重要性が伺われ,立ち上がりや移乗動作を行うにあたり良肢位に誘導することで,より良い動作を獲得できる可能性があることが示唆された.
著者
福田 栄紀
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.74-80, 2017-07-15 (Released:2017-08-08)
参考文献数
54

ネムノキがその樹冠下の土壌と植物の化学特性に及ぼす影響を調べるため,ネムノキ孤立木の樹冠内外の表層土壌とイネ科草種地上部の成分含量を比較した。樹冠内が樹冠外より有意に高い土壌成分や特性値は硝酸態窒素,MgO,リン酸吸収係数であり,全窒素,CaO,CECも樹冠内が高い傾向にあった。同様に樹冠内が有意に高い植物体中成分はCP,Mg,NEm,OCC+Oa,粗脂肪であった。逆に,樹冠外が有意に高い成分は繊維性成分であり,乾物率,リンも樹冠外が高い傾向にあった。土壌中含量が樹冠内において高い窒素やMg等の成分は植物体中含量も樹冠内の方が高かった。これらの結果は,ネムノキは共生根粒菌による窒素固定,深根による土壌深層からのミネラル等の吸収とリターによる地表への還元等を通して土壌の肥沃化に寄与すること,およびそのことが樹冠下に生育する植物の飼料成分特性の向上に寄与することを示唆する。
著者
松野 隆 横内 滋 中村 佳朗
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会論文集 (ISSN:13446460)
巻号頁・発行日
vol.52, no.601, pp.80-86, 2004 (Released:2004-04-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

This paper describes the mechanism of the non-slender wing rock that occurs on a 45° delta wing, by focusing on its unsteady aerodynamic characteristics. In free-to-roll test the wing motions showed irregular oscillations the amplitude of which varied with time. In some cases, the wing suddenly changed its trajectory in the middle of the oscillation, and came to stop at roll angle φ=0°. The static rolling moment is quite nonlinear in characteristics, the profile of which has many critical states. The balance test for constant roll rate motion showed that the amount of time lag was not constant for roll angle, and that it is not linear for roll rate. The results of numerical simulation using the experimental data suggest that it is important to take into account the trajectory of the motion for a better understanding about the unsteady aerodynamic characteristics, associated with the non-slender wing rock.
著者
平部 正樹 小林 寛子 藤後 悦子 藤本 昌樹 藤城 有美子 北島 正人
出版者
学校法人 三幸学園 東京未来大学
雑誌
東京未来大学研究紀要 (ISSN:18825273)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.135-144, 2017-03-31 (Released:2018-12-03)

本研究では、通信制高校の生徒を対象として質問紙調査を行い、入学形態と入学理由の関連、およびそれらと精神健康の関連について明らかにした。対象は、私立の広域通信制高校2キャンパスに所属する全生徒1,086人であった。調査票については、入学形態や通信制高校に入学した理由、精神健康を測る指標としてKessler-6が含まれていた。結果として、男女ともに「学力上の理由」は新入学で、「年齢上の理由」は編入学で、「前校での不適応」は転・編入学で高かった。女性では、転入学で「友人関係上の理由」が高かった。精神健康との関連では、男性で「学力上の理由」、「友人関係上の理由」、「前校での不適応」、「心の病気」等の入学理由や入学形態が精神健康に関わっていた。女性では、「友人関係上の理由」、「心の病気」等の入学理由が関わっていた。これらの情報は、生徒への支援の際に、重要な情報になりうることが示された。
著者
星野 健二
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S15-1, 2018 (Released:2018-08-10)

DNAワクチンは,抗原となるタンパク質やペプチドをコードする遺伝子を組み込んだプラスミドDNAで,免疫原となるタンパク質を投与された生体内の細胞で産生させるという特異なワクチンである。既存のタンパク性ワクチンや生ワクチンに比較した際の利点は,安定であること,病原体を使っていないこと,大規模な製造も容易であることであり,欠点はヒトにおける免疫原性が従来のワクチンより弱いことである。そのため,免疫原性を高める様々な工夫がされて来ているが,ヒトの医薬品として認可されたDNAワクチンはまだ存在しない。想定されるリスクは, DNAワクチンの性状(産生されるタンパク質の機能,アジュバント等添加物の有無),適用となる集団により様々である。臨床試験の開始や新薬申請の際に必要となる前臨床安全性試験のパッケージについては,WHOや行政当局による各種ガイドライン,過去の事例を参照して立案し,必要に応じてFDA,EMAやPMDAに相談・確認して決められている。今回は,これまでの行政対応などで得られた知見を踏まえ,前臨床安全性の評価戦略に関して紹介する。