著者
梶原 直美
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.11-20, 2014

「スピリチュアルケア」が耳慣れた用語となって久しい.WHOでは健康理解としてそれまでの身 体的,精神的,社会的に留まらず,霊的という言葉も加える議論がなされたことはよく知られている. この場合の霊的とは何を指すのか.スピリチュアリティに関する研究は近年盛んになりつつあり,様々 な定義づけが提示されている.本稿は,実践的な様々な現場でのケアを前提に,スピリチュアリティ の語源を,その背景にあるキリスト教に求め,旧約聖書に遡って文脈や語義の分析を行い,意味を問 うた.その結果,以下のことが明らかとなった. 1 .スピリットに相当するヘブライ語のルーアハは始原のエネルギーであり,神との関わりのなかで, 神に従って,完全に新しい世界さえ作り出すダイナミズムを有するものであった. 2 .物質で造られた体に,スピリットと同様の性質を持つ神の命の息ネシャマーが入れられたことで, 人は自分の命を生きる存在となった. 3 .魂とは,体も含め,命を吹き込まれて生きることとなったその人の全存在を指す. 4.人間も動物も,神から命の息を与えられた生命体である. 5.スピリチュアリティはすでに内在するものであり,人の存在を根底から支えている. われわれ人間が超越者なる神との関わりのなかでスピリチュアルな存在とされたように,互いの関 わりにおいてもまたその同じもので繋がっていけるということは,スピリチュアルケアを実践するさいに,安心と希望を与えるのではないだろうか.
著者
東 禹彦
出版者
Meeting of Osaka Dermatological Association
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.859-865, 1984 (Released:2010-06-04)
参考文献数
14

プロピレングリコールによるアレルギー性接触皮膚炎3例と刺激性皮膚炎3例を報告した。刺激性皮膚炎は経験した症例のうち代表的なものとして, 外用剤によるものと化粧品によるものと各1例の急性型と外用剤による累積刺激型1例を報告した。プロピレグリコールによる接触皮膚炎がアレルギー性のものか刺激性のものかは貼布試験の結果からだけでは単純に決定し難く, 臨床像, 臨床経過も参考にしなければならない。プロピレングリコールによるアレルギー性接触皮膚炎の治療に当っては, プロピレングリコールが外用剤, 香粧品, 食品などに広く用いられているので, 患者に対する指導がきわめて大切である。
著者
深谷 達史
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.246-263, 2012 (Released:2018-08-18)
著者
深谷 達史 植阪 友理 田中 瑛津子 篠ヶ谷 圭太 西尾 信一 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.88-104, 2016-03-30 (Released:2016-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
16 11

学習者同士の教えあいは, 内容の理解だけでなく, 日常的な学習場面における効果的な学習方略の使用をも促す可能性がある。本研究では, 学習法の改善を企図した2つの教えあい講座の実践を報告した。2010年度の予備実践では, 理解することの重要性や教えあいのスキルを教授したにもかかわらず, 生徒の問いが表面的である, 教え手が聴き手の理解状態に配慮しないという問題が確認された。これらの問題は, 生徒が「断片的知識/解法手続きを一方的に教える」という教授-学習スキーマを保持するために生起したものと考えられた。そこで, 2012年度の本実践では, こうしたスキーマに働きかける指導の工夫を取り入れ, 「関連づけられた知識を相互的に教えあう」行動へと変容させることを目指した。高校1年生320名に対し, 講演を中心とした前半と2回の教えあいを中心とした後半(計6時間)の教えあい講座を行った。教えあいの発話と内容理解テストの分析から, 理解を目指したやり取りがなされ, 教えあった内容の理解が促進されたことが示された。また, 説明することで理解状態を確認する方略や友人と教えあいを行う方略の使用が講座により増加したことが明らかとなった。
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.236-251, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
64
被引用文献数
7 4

学習中のモニタリングについて, 学習した複数のテキストに対し, 各テキストの学習の度合いを評定させ(学習判断), 学習判断値と実際のテスト成績との間の個人内連関を算出することで検討がなされてきた。本研究では, 独立の研究における統計的分析の結果をデータとして統合的分析を行うメタ分析を用いて, 学習したテキストに対してなされる学習判断(メタ理解)の正確さに影響を与える要因を検討した。39編の論文における63研究から収集された161統計値を対象に分析を行ったところ, 中央値.270(四分位偏差.101)という値が示され, 読み手が必ずしも十分なモニタリング能力を保持していない可能性が示唆された。また, テキストの困難度, 表象レベル, 学習判断の指標, 課題の実施順序という4つの要因の影響を調べたところ, テキスト困難度では「困難」よりも「標準」の方が, 学習判断の指標では「理解の容易度」よりも「テキスト理解度」の方が高いという結果が得られた。一方, 課題の実施順序と表象レベルに有意な差は見られなかった。最後に, メタ分析の一般的問題に関する本研究の位置づけを示すとともに, 本研究の限界と今後の研究への示唆を考察した。
著者
大久保 恒正 安藤 寿博 垣内 無一 中山 明峰
出版者
高山赤十字病院
雑誌
高山赤十字病院紀要 = Japanese Red Cross Takayama Hospital (ISSN:03877027)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.33-37, 2017-03-01

本来、DAT(ドパミントランスポーター)阻害作用を有しないSSRIであるエスシタロプラムを使用した基礎実験で、A10神経刺激作用を有することが報告されている。然しながら、現在までその事実に対する理由は明確にされてはいない。そこで本稿では、その論理的背景について推察した。その結果、直接的な経路ではなく、セロトニン神経の細胞体樹状突起上の5HT1A自己受容体を介した間接的なドパミン遊離の増強が考えられた。今後、SSRIによるドパミン遊離の増強が、慢性疼痛疾患に対しても有効性を秘めている可能性がある。
著者
丸山 隼矢 水田 孝信 八木 勲
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1694-1703, 2019-10-15

近年投資信託のリスクが把握しにくくなっている.なぜならば,投資信託の組み入れ対象となる金融商品の仕組みが複雑になるとともにリスクの大きさが把握しにくくなってきたからである.そこで,投資信託の取引において,投資家が想定外のリスクを負うことを未然に防ぐため,分散投資規制という規制が設けられた.分散投資規制は,1つの資産への投資が過度に集中しないよう,1つの資産への投資額を投資信託純資産の一定割合以下にするものである.これまでに,人工市場を用いて,分散投資規制がファンダメンタル価格急落時に市場に与える影響について分析されている.しかし,金融市場が活況なとき,すなわち,ファンダメンタル価格が急騰するような状況において分散投資規制が市場に与える影響については議論されていない.そこで,本研究では人工市場を用いて分散投資規制がファンダメンタル価格急騰時の価格形成に与える影響について調査した.その結果ファンダメンタル価格急騰時には,ファンダメンタル価格が急騰した資産の取引価格が上昇することが分かった.そして,規制を受けるエージェントの割合が増加するにつれ,その傾向が段階的に弱まり,最終的にはファンダメンタル価格に収束しないことが分かった.また,ファンダメンタル価格急騰時と急落時に関して比較し調査した.その結果,ファンダメンタル価格急落時は急騰時に比べより影響を与えることを確認した.
著者
Hayato Tanaka Susumu Ohtsuka
出版者
The Japanese Society of Systematic Zoology
雑誌
Species Diversity (ISSN:13421670)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.217-228, 2019-10-25 (Released:2019-10-25)
参考文献数
35
被引用文献数
1

In the present study, we describe two new marine species, Microloxoconcha toyoshioae n. sp. and M. sublittoralis n. sp., collected from the sandy bottom in the western part of Japan, from the depths of approximately 20 to 30 m and 50 m, respectively. This represents the first record of this genus from such depths, since all 10 previously described species are known from the beach interstitial waters. We suspect the two new species are most probably also inhabiting spaces between sand grains since they have very small body and have been collected with other common interstitial ostracods belonging to Cobanocythere Hartmann, 1959; Parvocythere Hartmann, 1959; Paracobanocythere Gottwald, 1983; Parapolycope Klie, 1936; and Psammocythere Klie, 1936. Owing to their small body and fragile carapace, previous studies might have overlooked the existence of interstitial ostracods from habitats other than beach interstitial. In addition, a key to all species of the genus Microloxoconcha is provided.
著者
重島 晃史 山﨑 裕司 片山 訓博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1701, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】関節可動域の目測は理学療法士(PT)にとって必要なスキルの1つである。我々は,学生やPTの目測能力やトレーニング効果について検証してきたが,測定角度の違いが目測精度に与える影響については未だ検討の余地が残されている。目測の難易度が明らかになれば,トレーニングすべき目測角度やその目標が明確となる。本研究の目的はPTを対象に,角度の違いによって目測精度がどの程度異なるのかを検証することである。【方法】対象はPT17名(男性11名,女性6名)で,経験年数は1~14年目であった。目測能力の測定は我々が先行研究(2011年)で作成した測定ツールを使用した。Power Point画面上に直線角度を34パターン作図し,10度~170度までの角度を10度間隔で表示した。測定では1分間にできる限り速く正確に各スライドの角度を声に出して読むように指示し,角度は検査者が記録用紙に記入した。内容は5種類あり,ランダムに5回実施した。各測定終了時には正解角度のフィードバックを行わなかった。データの解析では,5回試行したすべてデータを対象として各角度における正答率および誤差角度を算出した。統計学的解析では,各角度間の正答率および誤差角度の差を検討するために反復測定分散分析および多重比較を用いた。また,経験年数と目測精度との関連性についてピアソンの相関係数を用いて検討した。【結果】正答率は直線角度10度から170度の順に,73.0±33.8%,69.3±27.6%,55.5±23.9%,49.6±22.3%,36.3±27.8%,51±31%,66.3±27.3%,82.1±20.9%,94.4±11.5%,88.2±20.8%,59.9±29.1%,51.6±37.5%,38.4±20.8%,17.1±19.0%,40.4±24.4%,48.4±26.0%,87.4±22.8%であった。誤差角度は直線角度10度から170度の順に2.7±3.4度,3.1±2.8度,4.4±2.4度,5.8±2.1度,6.9±3.4度,6.0±4.5度,4.2±4.3度,2.0±2.3度,0.6±1.1度,1.2±2.1度,4.1±3.0度,5.7±4.1度,7.4±2.9度,11.1±3.7度,6.7±4.2度,5.9±3.9度,1.6±2.8度であった。なお,経験年数と正答率との間には有意な関連はなかった(r=0.40,NS)。【結論】本研究の結果から,目測角度によって難易度に違いがあることが明らかとなった。目測の難易度の高い角度は50°,60°,130°,140°,150°であり,難易度の低い角度は80°,90°,100°,170°であった。人は「斜線効果」によって,斜めの線よりも垂直または水平に近い線の方が線の方向を正確に認識し判断できると言われている。本研究において,難易度の低い角度はどれも水平か垂直に近い角度を示していることから,生理的に安易で正確に捉えやすいと考えられた。動作分析や関節可動域測定で目測を活用する際は,正答率の低い角度について注意する必要がある。経験年数と目測精度の間には有意な関連は無く,経験年数に関わらず目測精度を維持するためにはトレーニングが必要なものと考えられた。
著者
菊地 達夫
出版者
北翔大学
雑誌
北翔大学北方圏学術情報センター年報 = Bulletin of the Northern Regions Academic Information Center, Hokusho University (ISSN:21853096)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.165-170, 2015

本研究は,九州地方におけるアイヌ語系地名の残存の可能性について,福岡県の「志登」地名を事例として,若干の考察を行うものである。具体的には,先行研究の成果を述べ,地図,景観写真,文献資料の情報をもとにアイヌ語系地名の可能性について検証した。志登は,アイヌ語地名の可能性が高いと考えられる。その理由として,アイヌ語説の意味となる「峰」や「舌状丘陵」の双方の可能性を含む点を挙げることができる。加えて,志登一帯は,交易地であり,他地域からの文化的要素を流入しやすい地理的環境も有していた。他方,日本語説で考えた場合,志登は,「湿地」や「川の下流」の意味としても一致する。よって,福岡県の志登は,語源をアイヌ語説から日本語説に転化となった地名の可能性がある。