著者
片桐 圭子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.9, pp.230-184, 1993-09-30

ペリー提督が、それまで200年間鎖国を続けていた我々の国、日本を訪れ、そのドアを叩いたとき、『ニューヨーク・タイムズ』はすでに日本を見つめるための窓を大きく開いていた。(同紙は、日本国内のあらゆることに関心を持っており、)今、我々はその記事から、史実を知るのみではなく、わが国にたいする同紙の考え方をも読み取ることができる。当時、近代国家・国際国家へと変わろうとしていた日本にたいする認識を、である。 日米両国が外交関係を成立させた当初、『ニューヨーク・タイムズ』は、未知の国民との交渉に際しては、アメリカは彼らの信頼と好意を得るために何らかの努力をするべきだと主張し、武力を行使することを非難した。記事の内容は日本に対して非常に友好的だったが、それは日本側がアメリカの言いなりになっていたためだった。 一八六〇年代前半になると、『ニューヨーク・タイムズ』は日本に対してよい感情を持たなくなる。日本は未だ開国に躊躇しており、その混乱の中で、日本政府はしばしば国際社会のルールを破った。『ニューヨーク・タイムズ』は日本での混乱の理由を理解しようとし、日本固有の制度、とりわけ天皇と大君が並立する二重権力構造と封建制について考察しようとするのである。 一八六〇年代後半になると、日本はついに開国を決意、各国と友好関係を築くための基盤を整えていった。そして戊申戦争後、『ニューヨーク・タイムズ』は、日本が二重の権力構造と、封建制を完全に捨て去り、文明国家の一員にまで成長したことを認めるのである。
出版者
科学技術・学術政策研究所
巻号頁・発行日
2015-08 (Released:2015-07-21)
著者
青木 健一 木村 亮介 川崎 廣吉 若野 友一郎 小林 豊
出版者
明治大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究「交替劇」は、ネアンデルタールの絶滅およびヒトによる置換(交替劇)を両者の文化水準の違いによって説明する(学習仮説)ことを目的とした。社会が到達する文化水準は、文化進化のあり方に依存する。このため、領域傘下の我が計画研究班では、文化進化の決定要因およびこれを支える学習戦略の進化に関する理論研究を行った。得られた多くの成果は、査読付の国際学術雑誌や著書に発表済みであり、国際的にも文化進化および学習戦略進化の研究に大きく貢献している。また、ネアンデルタールとヒトの学習戦略に違いがあるならば、両者の認知に関わる遺伝子にも違いが認められるはずとの立場から、分子人類学的な研究も少し行った。
著者
二瓶 直登
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻
巻号頁・発行日
2009-03-23

報告番号: 甲24662 ; 学位授与年月日: 2009-03-23 ; 学位の種別: 課程博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 博農第3372号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科応用生命化学専攻
著者
小寺 淳 佐々木 隆史 大森 謙司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.121-127, 2005 (Released:2005-10-01)
参考文献数
42
被引用文献数
7 6

環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(cyclic nucleotide phosphodiestease,以下PDEと略す)は,細胞内セカンドメッセンジャーである環状ヌクレオチド(cAMPおよびcGMP)を分解し,そのシグナル伝達を調節している.哺乳類ではPDEは11種類のファミリーを形成しており,その阻害薬は様々な疾病の治療に使用されている.カフェインやテオフィリンなどは100年以上も前に発見された非選択的なPDE阻害薬であり,現在でも医薬品として用いられている.この約20年間にPDEの体系的解析が進み,PDE5阻害薬やPDE3阻害薬などPDEファミリー選択的な阻害薬が開発された.これらの阻害薬はそれぞれ男性性機能障害や急性心不全などの治療薬として使用されている.またPDE4阻害薬は慢性閉塞性肺疾患や喘息の治療薬として開発され,海外では現在新薬承認申請中である.一方,遺伝子工学的アプローチにより見出されたPDE(PDE7~11)は,特異的な組織局在あるいは発現レベルが比較的低いといった理由から発見が遅れた.しかし,ユニークな組織局在のゆえに魅力的な創薬ターゲットになる可能性が期待され,各製薬会社や大学においてノックアウトマウスの解析や選択的阻害薬の研究が進められている.
著者
木村 友子 福谷 洋子 菅原 龍幸 佐々木 弘子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 = Journal of cookery science of Japan (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.24-31, 1995-02-20
被引用文献数
1 1

干し大根(割り干し)の迅速な水戻し法を見出す目的で, 超音波照射を取り入れた水戻しを行い, 水温5, 25及び40℃設定での好適条件を探索し, 更に煮物にした製品の理化学的性状と食味変化に及ぼす超音波照射の影響について検討し, 次の結果を得た。1) 干し大根は水戻し時間経過と共に吸水量が増加するが, 照射した方が短時間で膨潤し組織は速く軟化した。2) 水戻し時間が長くなると, 一般成分の全糖・遊離糖, 粗蛋白質, 遊離アミノ酸, 灰分, 無機質の含量は著しく減少する傾向を示したが, 超音波照射有無の差はわずかであった。3) 干し大根の水戻しの好適条件は水温25℃設定の15分照射と対照の照射なしの30分浸漬で, 両試料の一般成分値はほぼ同等値を示し, 無機成分の残存率もCa81%, Fe70%, Mg69%以上で良好であった。4) 煮物調理では照射した製品は照射なしの製品に比しテクスチャー特性の破断歪率が有意に大きく, 歯応えがあり, 調味液の浸透割合がやや高く, 干し大根の特有の臭気も多少緩和され, 食味評価も優れていた。以上の結果から, 干し大根の水戻し法に超音波照射を行うことは水戻し時間が短縮でき, 嗜好にも関与し効果的であると考えられた。
著者
Mami OBA Tsutomu OMATSU Ai TAKANO Hiromi FUJITA Kozue SATO Atsushi NAKAMOTO Mamoru TAKAHASHI Nobuhiro TAKADA Hiroki KAWABATA Shuji ANDO Tetsuya MIZUTANI
出版者
公益社団法人 日本獣医学会
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
pp.15-0536, (Released:2015-10-25)
被引用文献数
1 25

Soft ticks, Argas vespertilionis, were collected from feces of bats in Japan. Cytopathic effect (CPE) was observed after inoculating the homogenates of ticks to Vero cells. Sequencing of RNA extracted from the cell supernatant was performed by next generation sequencer. The contigs had identity to segments of Bunyaviruses, Issyk-Kul virus. The identities of segment L, M and S were only 77, 76 and 79% to Issyk-Kul virus, respectively. Therefore, we named this novel virus Soft tick bunyavirus (STBV). In the phylogenetic tree, segment L of STBV was closely related to a cluster consisting of the genus Nairovirus of the family Bunyaviridae.
著者
岩谷 彩子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.441-458, 2009-12-31

本稿は、インドの移動民ヴァギリが想起し語る夢を事例として、日常的に変容を続ける自己の営みを探求する試みである。従来の人類学的な夢研究では、テクスト化された夢を当該社会の集合表象として分析する研究や、危機に陥った自己が新しい世界観や時間構造のもとで自己を語りなおし、社会のなかで再構造化される契機として夢をみなす研究が提出されてきた。これに対して本稿では、語りや解釈を逃れる夢のイメージの持続が反復的な夢の想起をうながしている状況に着目した。ヴァギリ社会には「神の夢を見たら儀礼をする」という言説があり、多くの夢は儀礼を契機に想起されている。しかし、夢は必ずしも安定的に想起され語られるわけではない。本稿では同一個人に時間をあけて同じ夢を語ってもらい、その語りの変容について考察した。そこで明らかになったのは、第一に、ヴァギリの夢に繰り返し立ち現れる内/外を行き来する運動イメージの重要性である。この運動のイメージが夢の解釈を握る重要な基点となっており、そこから夢を見る主体がおかれた状況の変化に応じるかたちで、夢に現れる身体感覚や表象のあり方に変化が見られた。第二に、夢の想起と語りは、常に自己をとりまく他者との関係に依存しているという点である。夢を反復想起して他者に語る過程で、類似したイメージの夢が異なる主体間で反復されていた。また、語りに夢のイメージを意味づける観点が導入されたり、語りそびれた部分が残ることで夢のイメージが保持されていた。このように他者との関係において夢として想起され語られた運動イメージと身体感覚の持続と消失が、その後の夢とその語りを自己にもたらしていた。自己は予測不可能な他者との出会いと想起の機会に依存し、語りつくせない夢のイメージに導かれている。本稿では、そのような自らにずれを生じ続ける自己を〈身体-自己〉として例証した。それは、自己がメタモルフォーシスする持続的な過程なのである。
著者
黒田 享
出版者
筑波大学現代語文化学系
雑誌
言語文化論集 (ISSN:03867765)
巻号頁・発行日
no.65, pp.231-232, 2004-03-25

ムーミンはフィンランド生まれだが、日本でも非常になじみが深いキャラクターである。Tove Janssonによる原作シリーズは多くの言語に翻訳され、アニメーション版は各国のテレビで放送されているが、日本とフィンランド以外では ...
著者
菊山 正明
出版者
早稲田大学法学会
雑誌
早稲田法学 (ISSN:03890546)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-82, 1990-12-25
著者
金 明哲
出版者
The Behaviormetric Society of Japan
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.17-28, 2013-03-28
被引用文献数
2 2

This paper proposes a method for authorship identification based on phrase patterns that occur in the Japanese language, using literary work, student's work, journals to carry out actual proof analysis. The results showed that a writer's writing characteristics could be told clearly in phrase patterns. Using Random Forests, the correct ratio for identifying the authors from two arbitrary authors of literary works as well as student compositions was 99% and 92% for journals. In order to show the effectiveness of the proposed method, a comparison between phrase patterns and trigram of POS was conducted. There was no obvious difference found in the rate of correct identification of writer between phrase patterns C and POS trigram. However, when the data of the phrase patterns C were combined with morphological data, it can obtain a higher rate of correct identification of the writer than having combined the data of POS trigram with morphological data. Based on this, we carried out an analysis on the authorship doubt surrounding Kawabata Yasunari's works and the works of Mishima Yukio, HMakoto and Sawana Hisao. Phrase patterns analysis suggested there was no doubt surrounding the authorship in Kawabata's work.
著者
宮島 良明
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.147-163, 2008-03

かつて,日本選手権7連覇の栄光に輝いた新日鐵釜石ラグビー部は,2001年4月,地域密着型をめざしたグラブチーム「釜石シーウェイブスRFC」として生まれ変わった.クラブ運営上の課題を抱えつつも,「行政」「地元企業」「市民」によるサポートの小さな「芽」は萌え,その環が少しずつ広がりつつある.釜石にとって,今も昔も「ラグビー」は地域の「希望」であることに違いはないようだ.「新日鐵釜石」時代には,ある種の「あこがれ」や「誇り」が「希望」の源泉であったが,クラブ化後も,釜石シーウェイブスRFCが,より現実的な「実感」に基づいた「希望」を地域にもたらすようになったからである.
著者
河野 桃子
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.1-9, 2012-03-10

Es gibt ab und zu eine Tendenz, nur die Praxis der Waldorfpädagogik zu beachten und die Diskussion über den Gedanken von R.Steiner, der eine Grundlage für die Praxis ist, zu tabuisieren. Es leitet sich von der dualistischen Komposition seines späteren mystischen Gedanken her. In dieser Abhandlung wird versucht, eine positive Bedeutung zu zeigen, auch seinen Gedanken in Betracht zu ziehen, um die Praxis besser auszulegen. Dabei thematisieren wir insbesondere einen "Effekt", den sein Gedanke über "Reinkarnation"(damit auch über "Persönlichkeit" und "Individualität") ermöglicht. Am Ende ergänzen wir diesen "Effekt" mit der Intention zur monistischen Erkenntnis, die Steiner ganze Zeit erhalten hat.
著者
大熊 将平 佐藤 愼司 山中 悠資 佐貫 宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.58-68, 2015 (Released:2015-10-20)
参考文献数
14

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震津波による福島県の被害に関して,現地調査及び数値シミュレーションを行い,海岸構造物の破壊機構を解明した.また,構造物へ大きな波力を及ぼす段波に関する水理実験を行い,津波の波面勾配が限界値を超えると段波が発生し,その限界値は海岸の地形勾配が緩やかなほど小さくなることが分かった.また,段波が構造物に作用する衝撃波圧は,入射波前面の波面勾配が大きくなるほど大きくなることが確認された.実験結果を津波の数値計算と組み合わせることで,福島県沿岸域の段波発生を分析した.その結果,中部では最大水位が高くかつ激しい段波が発生した可能性が高いことがわかり,中部で特に卓越する海食崖地形が,波面勾配の急峻化と段波の発生に影響しているものと推察された.