著者
藤井 可
出版者
熊本大学
雑誌
先端倫理研究 : 熊本大学倫理学研究室紀要 (ISSN:18807879)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.49-63, 2012-03

This paper investigated the stabbing incident of downed B29's soldiers caused by residents in Aso area in Japan (May 5, 1945). First, the information and the time background about this incident were described. Second, the validity of residents' act from a legal standpoint and an ethical standpoint was examined. Finally, the alternative options were proposed. The discussion is aimed at a descriptive-ethical work. In addition, this work should be regarded also as a trial for a new framework that enables local researchers to talk about problems or inequality of their own local community.

12 0 0 0 OA 輪池叢書

巻号頁・発行日
vol.3, 1000
著者
平野 悠一郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.1-10, 2016-02-01 (Released:2016-04-06)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

日本では1980~90年代にかけて,林内,林道,里道,登山道等を「野外トレイル」として走行するマウンテンバイカーが増加してきた。しかしその過程では,森林所有者や他の利用(ハイキング・林産物採取等)との軋轢が増し,林内の走行を規制されるケースも目立ってきた。このため,2000年代以降,「野外での走行を継続的に楽しむには,周囲の理解が不可欠」というバイカー側の危機意識を主に反映して,特定の地域に密着しつつマウンテンバイク用のトレイルを確保する動きが生まれている。本稿で扱うB.C. Porter,西多摩マウンテンバイク友の会,Trail Cutter,西伊豆古道再生プロジェクト・山伏トレイルツアー,王滝村の事業においては,このトレイルの確保にあたって,レジャー施設への併設,地元集落・森林所有者との合意形成,地方自治体との連携が積極的に進められ,バイカーを組織して自治体・集落レベルの森林整備に積極的に協力する事例もみられる。この動きは,森林の荒廃や過疎化に悩む山村にあって,自治体・集落や所有者にも受け入れられつつあり,他の利用者との競合を回避した森林の有効利用の可能性をも提示している。
著者
熊木 俊朗 福田 正宏 國木田 大
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.202, pp.101-135, 2017-03-31

柳田國男が一九〇六年の樺太紀行にて足跡を残した「ソロイヨフカ」の遺跡とは、南貝塚(別名、ソロイヨフカ遺跡)であり、この遺跡はその近隣にある鈴谷貝塚と共に、サハリンの考古学研究史上最も著名な遺跡の一つになっている。これらの遺跡の出土資料を標式として設定された「南貝塚式土器」と「鈴谷式土器」のうち、本論では後者の鈴谷式土器を対象として年代に関する再検討をおこなった。鈴谷式土器は、時代的には続縄文文化とオホーツク文化の、分布や系統の上では北海道とアムール河口域の狭間にあって、これら両者の関係性を解明する上で重要な資料であると考えられてきたが、特にその上限年代が不明確なこともあって年代や系統上の位置づけが定まっていなかった。本論でおこなった放射性炭素年代の測定と既存の測定年代値の再検討の結果、鈴谷式土器の年代はサハリンでは紀元前四世紀〜紀元六世紀頃、北海道では紀元一世紀〜紀元六世紀頃と判断された。この年代に従って解釈すると、鈴谷式土器はサハリンにおいて先に成立し、しばらく継続した後に北海道に影響を及ぼしたことになる。この結論を従来の型式編年案と対比させるならば、以下の点が検討課題として浮上してこよう。すなわち、サハリン北部での最近の調査成果に基づいて提唱されたカシカレバグシ文化、ピリトゥン文化、ナビリ文化といったサハリン北部の諸文化や、アムール河口域と関連の強いバリシャヤブフタ式系統の土器は、古い段階の鈴谷式土器と年代的に近接することになるため、これら北方の諸型式と鈴谷式土器の型式交渉を具体的に検討することが必要となる。また従来の型式編年案では、古い段階の鈴谷式土器は北海道にも分布すると考えられているため、その点の見直しも必要となる。鈴谷式土器を含む続縄文土器や、サハリンの古金属器時代の土器の編年研究においては、今後、これらの問題の解明が急務となろう。
著者
横山 顕礼 大楽 尚弘 池谷 伸一 新井谷 睦美 浅野 重之
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.8, pp.1205-1212, 2008 (Released:2008-08-05)
参考文献数
25
被引用文献数
1

症例は61歳男性.18歳から統合失調症があり多剤向精神薬を長期常用し,呑気症および難治性便秘をともなっていた.著明な腹部膨満をともなう急性腹症にて当院に搬送されたが治療に反応なく死亡した.剖検にて腸管壊死をともなわない胃を含む全腸管の著明な拡張が認められた.向精神薬,下剤の長期常用,呑気症,統合失調症が関連して2次性偽性腸閉塞をきたし,腹部コンパートメント症候群を発症したものと考えられた.
著者
並松 信久
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
no.30, pp.85-122, 2013-03

津田仙(1837-1908)は、明治期においてキリスト教と深い関わりをもった農学者である。その事績は多方面にわたり、農産物の栽培・販売・輸入を手がけ、「学農社」を創設して、農業書籍や『農業雑誌』などの出版事業をはじめ、多くの農業活動を行なっている。その一方でキリスト教との関わりも深く、キリスト教精神に基づく学校の設立に関係している。 これまでの研究では、津田の農学者としての側面とキリスト教徒としての側面が、どのように結びついているのかという点は、あまり説明されてこなかった。本稿は津田の啓蒙活動を通して、農業とキリスト教の結びつきを明らかにした。 津田は農業改良や農業教育の実践、さらに盲唖教育や女子教育をはじめとする学校教育への理解と協力など、多方面の活動を行なっているが、それらはすべて伝統と偏見を打破する啓蒙活動であったといえる。しかもその啓蒙活動は国家や政府の支援に依らない「民間」活動であった。津田の農業における 啓蒙活動は、官僚化に対する抵抗という側面をもっていた。津田にとって国家や政府の支援に代わるも のがキリスト教(プロテスタント)であり、それが官僚化への抵抗と結びついた。 津田の場合、農業の科学的根拠やキリスト教の教理に関する造詣は深いものではない。しかし津田は啓蒙を重視しているので、難しい学術的な原理をできるだけ平易に説明し、簡明な言語によって農民に 知識を伝え、農山漁村の振興の助けとなることを重視する。津田がめざすのは、農民が自立して、営利的ないし合理的な経済生活を営めるようにすることである。それを達成するには、農民における営利性の自覚が必要である。この自覚は、津田によればキリスト教によってこそ導かれる。 津田の啓蒙活動をきっかけに、地域の特産品が生まれている。たとえば山梨県の葡萄栽培や葡萄酒製造であり、大阪・泉州の玉葱生産である。また農民の組織化にも成功した地域があった。たとえば北海道の開拓地であり、長野県の松本農事協会である。この津田の啓蒙活動の影響は、国内だけでなく海外 にも及んだ。津田は学農社農学校と同様、キリスト教を創立の精神や指導方針に掲げる学校の設立に協力する。「東京盲唖学院」(現・筑波大学付属盲学校)、「海岸女学校」、「普連土女学校」(現・普連土学 園)、「耕教学舎」(現・青山学院大学)、そして娘の津田梅子(1864-1929)が創設した津田塾大学などであった。1 はじめに2 英語とキリスト教3 農業実践の端緒4 農業情報とキリスト教5 学農社の設立と農学校6 農業技術の普及―『農業雑誌』の刊行7 農業技術の定着―地域特産品の形成8 啓蒙活動と農民の組織化9 キリスト教精神と学校教育10 結びにかえて
著者
白鳥 成彦 田尻 慎太郎 宇田川 拓雄
出版者
嘉悦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、大学における学生の退学を防止する為に行う教育施策の意思決定を支援することを目的として、日々変化し蓄積していく学生データと共に学内外で学生と接している人々 (保護者、友人等)に関するデータを組み込んだ中退予測モデルを構築する。これまでの中退予測研究では学生データの活用に主がおかれ、保護者や友人といった学内外者との関係やその影響をいれることは少なかった。本研究では学内外の学生をとりまく環境や人間関係の影響を考慮にいれた中退予測モデルを作成し、学生の人間関係が中退するまでの学生行動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることで、大学が行う中退防止施策に客観的な示唆を与えることを試みる。
著者
仁平 典宏
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.175-196, 2015
被引用文献数
1

20世紀後半から進行する福祉国家の再編にともない,社会保障制度は,教育や訓練を通じて雇用可能性を高めることを目指すワークフェアとしての性格を持つようになってきた。このワークフェアは社会的排除を改善するベクトルと悪化させるベクトルを孕む。本稿の目的は,その分岐の条件を,主にイギリスのニューレイバーの「第三の道」の社会政策の検討を通じて,導出することである。<BR> ニューレイバーは,人的資本への社会的投資を通じた社会的包摂政策を掲げ,子どもの貧困や若年失業の改善に取り組んできた。それらは一定の成果を上げたと評価される一方で,批判的社会政策論からは,むしろそれが貧困家庭や脆弱性のある若者に対する抑圧や排除を深刻化させたと批判されている。問題の所在は,第三の道のワークフェアが,社会構造の転換によってではなく,個人のハビトゥスの矯正によって社会的排除に対応するように仕向ける統治性として性格をもっていた点にある。<BR> 以上を踏まえて,社会的排除を避ける方向性が,福祉国家レジーム論や生産レジーム論の知見も参照しつつ,教育の内部と外部においてそれぞれ示される。ワークフェアは――教育と同様――成功可能性が確率に委ねられるゲームとしての側面を幾重にも有している。よって社会的排除を回避する掛金は,ワークフェアへの参加/離脱の前提として,無条件で普遍主義的な社会権保障を論理的かつ制度的に先行させることにある。
著者
板倉 孝信
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_285-2_311, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
32

本稿は政治・社会史的なアプローチから, 英国の所得税廃止論争の再検討を試みたものである。1815年にナポレオン戦争が終結すると, 翌16年には英国議会で戦時所得税の存廃をめぐる激しい論争が展開された。これに際して, 所得税廃止を要求する大規模な請願運動が行われた結果, 与党トーリーが多数を占める下院で, 政府提出の所得税延長法案は否決された。本稿では, 従来看過されてきた他税種との関連性を重視することで, 先行研究とは異なる角度から所得税廃止論争を分析した。まず筆者は, この論争が所得税延長への反対だけでなく, 対仏戦争中に強化された多くの戦時増税への不満から生じた点に着目した。その上で, 請願運動における言説を分析し, 戦争中から蓄積されてきた納税者の不満が, 終戦後に一挙に表面化する過程を追跡した。さらに筆者は, 所得税廃止を主張する富裕層と麦芽税廃止を主張する中間層以下が, 減税要求に関して緊密に連携した点に注目した。その上で, 以前は別々に展開されてきた両者の請願運動が融合したため, 減税要求が激化したことを指摘した。
著者
矢田 新平 原 広幸 北野 寿 下内 可生里
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.687-690, 1994-09-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
11

被毛や肢端に付着した陶芸用絵具あるいはその原料を舐めていた猫1頭 (8歳) と犬2頭 (2歳6ヵ月, 50日) が消化器症状および神経症状を呈し, 異常に高い血中鉛濃度54 (猫), 240 (犬1), 46 (犬2) μg/dlを示した. X線検査では成長期の症例犬2の長骨骨幹端に鉛線 (骨幹端骨硬化症) が認められた. キレート療法を行ったところ, 症例猫と症例犬2は回復したが, 症例犬1は激しい痙攣を起こして死亡した.
著者
長井 歩
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2011論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, no.6, pp.1-8, 2011-10-28

将棋の終盤戦をパズル化した問題として,詰将棋以外に必至問題がある.その違いは,攻め側の手として王手以外に詰めろも許される点にある.詰将棋では攻め側の指せる手は王手のみであるのに対し,必至問題では王手と詰めろで相手の玉を受けなしに追い込む.攻め側の手が増える分,必至問題に強いアルゴリズムは,実際の将棋の終盤戦で役立つ機会は詰将棋に比べ格段に多くなる.しかし問題としての難易度は,一般に詰将棋よりも必至問題の方が難しい.詰将棋を高速に解くアルゴリズムは近年著しく進歩したが,必至問題を高速に解くアルゴリズムは未開拓である.本研究では,難解な必至問題を高速に解くアルゴリズムとしてdf-pn+ を応用し実装した.実験の結果,難解な必至問題集として有名な『来条克由必至名作集』全81 問のうち79 問を解くことに成功した.また,余必至探索にて3つの早必至を含む27 の余必至を発見できた.
著者
宮下 敬宏 細田 耕 竹内 進 浅田 稔
出版者
The Robotics Society of Japan
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.381-386, 2000-04-15 (Released:2010-08-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

This paper presents a reflective walk of a quadruped robot based on reflections to realize an adaptive walk in a dynamic environment. The combination of reflections, a vision-cued swaying reflection [1] and a reflective gait, makes the robot walk reflectively, without programming the exact motion of each joint of the legs. An experiment is shown to demonstrate how the proposed method works.
著者
緒方 由紀
出版者
佛教大学福祉教育開発センター
雑誌
福祉教育開発センター紀要 (ISSN:13496646)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-57, 2017-03-31

現代社会論を構成する包摂や共生社会といった概念は、多元的な政策への構築を基盤としながら、一方に市民社会の成立と構成員である自立的市民像としての新しい権利や義務の確立を求めるものになっている。そのことは精神保健医療福祉における新たな政策・実践面でも共通の課題であり、その一つが当事者の位置づけをめぐる議論である。つまり発病からさまざまな医療・福祉・生活等のサービスの利用、さらに市民生活の獲得にいたるまで、精神障害者の意思を精神保健医療福祉システムにどのように位置づけるかということに深く関わっている。そうした時代認識のもと本稿では、精神障害当事者の意思決定および意思の表明について、障害者権利条約や国のモデル事業として検討されてきたアドボケーター機能や意思決定支援ガイドライン構想等をとりあげ、現状の意思決定にかかる支援の方向性の整理を行った。精神障害者は法律上、医療的保護を必要とする存在としてとらえられてきたものの、一方で「社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進」という理念も同時に掲げられていることからすると、広く障害者の権利と結びつく形で支援が示されなければならないことになる。精神障害者に対する非自発的入院・治療や行動制限等といった強制介入が、精神医療の手続き面での本人の不在を認めうるのは、本人の尊厳を尊重しつつも専門的介入の適正性の担保がとれているかという社会的了解事項の側面ももちあわせている。言い換えれば本人の意思表明や意思決定に関して、権利擁護の視点からだけではなく、社会的責務として危機管理や安全・安心を組織や地域の中では考えなければならないという現実の中で、時に意に反した介入の判断がなされることを再確認した。最後に、意思決定をめぐるさまざまな議論の行方が、支援者側のあるべき姿にとどまるのではなく、法的能力(legal capacity)とその行使のための意思表明のありかたの契機として進めていく必要性を論じた。意思表明意思決定支援精神障害者法的能力の享有専門的介入