著者
小川 雄二郎 永野 裕三
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.141-144, 1995-11
被引用文献数
1

本研究は1995年1月17日に発生した阪神大震災によって企業の防災意識がどのように変化したかを考察する研究である。企業の防災意識の変化を把握するために地震後7ヵ月を経過した8月末に東京証券取引所第1部上場企業に対してアンケート調査を実施した。地震被災地域である兵庫県、大阪府、京都府(近畿と呼ぶこととする)地方の企業と車京の企業のを比較するため、東京都、兵庫県、大阪府、京都府に本社をおく932社を対象にアンケート調査を実施した。アンケート有効回答数は191であり、回収率は20.5%であった。本稿は調査の概要速報として取りまとめている。 被害の有無 阪神大震災によって被害を受けたかを聞いたところ直接的な被害を受けた企業は近畿の方が東京よりおおく、間接的な被害については近畿、東京ともあまり違いはない。 防災対策の対象とする災害 地震については震度5以下と震度6以上に分けて聞いたところ、阪神大震災以前から震度6以上の地震に対して防災対策を考えていた企業は近畿では17%に過ぎなかった。また震度によらず地震を対象としていなかった企業は近畿では55%であった。この地震を契機に震度6以上の地震を対象とすることにした企業は東京では35%、近畿では79%であり、その結果現在では震度6以上を対象とする企業は、東京では86%、近畿では93%となっている。 防災対策の変化 企業が取り組んでいる肪災対策について、以前から行っていたか、阪神大震災を契機に取り組んだかを聞いた。これまではあまり取り組まれなかった対策のうち大震災を契機に多くの企業が取り組んだ対策は災害後の復旧手順の策定と災害時従業員行動マニュアルであることがわかった。災害後の復旧手順の策定は近畿では24%から72%に跳ね上がった。災害時従業員行動マニュアルは近畿では24%から79%に跳ね上がった。防災費用の予算化もこの範躊にいれることができる。近畿では29%から57%に上がった。従来からもかなり行われてきた対策で、阪神大震災でさらに進んだ対策では役員への緊急連絡網がある。役員への緊急連絡網は近畿では60%から83%に上がった。従来から低く、阪神大震災によっても進まなかった対策は地震保険への加入と自治体と災害時援助協定である。地震保険への加入は16%から21%へ、自治体と災害時援助協定は12%から14%である。ハードな対策では耐震診断・耐震補強が高い増加を示している。耐震診断・耐震補強は、近畿では19%から64%lこ跳ね上がり、全体では27%から61%となっている。38万棟に及ぶ建物被害をもたらした阪神大震災は、企業にとっても建物の耐震性という入れ物の安全性を確認する重要性を強く認識したことがわかる。しかしガラスや屋外広告等の落下肪止は、37%から46%とそれほど増加していない。通信回線等のバックアップは以前は36%からであったのが62%となっており、今回の大震災で災害後の情報の重要性が認識されたためであろう。それに対して電力・ガスのバックアップは以前は通信回線のバックアップと同程度であったが、大震災後もあまり増加していない。 まとめ 阪神大震災を契機として、企業の防災対策は大きく姿を変えつつある。それは近畿の企業の6割、東京の企業の3割が何らかの直接被害を阪神大震災によって受けたことから、すべての面での防災対策をより推進していく必要性を強く感じていることが調査から読み取れる。すなわち大規模地震を防災対策の対象とする災害に取り込んだ企業は著しく多くなったこと、及び取り組みつつある防災対策の特機は、経験に碁づいて実際に必要なことを優先的に行っていく方向が見られる。
著者
北谷 秀樹 梶本 照穂 河野 美幸 小沼 邦男 野崎 外茂次 桑原 正樹
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.884-890, 1996

小児の包茎への対応には,社会・文化的背景も考慮に入れる必要がある.そこで小児の包茎の治療指針の一助にする目的で男児をもつ父母の意識調査を行った.対象は当科関連の産院で男児を出産した1466家族で,封書によるアンケート方式で行った.また,当大学病院の看護婦330名にも同様のアンケートを行った.質問内容は,どのような状態を包茎と考えるか,どんな害があると考えているか,どのように対処したのか等に加え父親自身の体験も聞いた.その結果,父母からは420通の回答(有効回答率 : 31.5%)を,看護婦からは98%の回答を得た.回答者の3分の2は真性包茎の状態を包茎と考えていた.また包茎の害は不潔,亀頭包皮炎,早漏の原因,結婚生活の支障,等が多数を占めたが,その認識には父親,母親,看護婦の間で違いが見られた.父親の50%が中学生の頃に,25%が高校生の頃に亀頭が露出するものだと思っていた.父親の33%がかつて自分が包茎ではないかと悩んだことがあり,その平均年齢は15.2歳であった.この調査の結果から,亀頭の露出時期には個人差が大きく,多くは中学生頃から始まるものと推察される.従って,小児の包茎が病的か正常範囲内かの判定は思春期以降に行われるべきで,幼小児期の手術適応は一定の臨床症状のあるものに限るべきであるとおもわれる.今後,社会的な面を含めた検討が必要である.
著者
石田 志穂
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

宋代までの内丹における「性功」とは一般的に、欲望を除去して静浄な心境を保つという仏教的精神修養であった。しかし、宋学の影響を内丹も受け、明清に至ると「性功」を「気質の性」が気の偏倚のために偏ってしまわないよう保つこととする例があらわれた。ただし、多くの内丹家は、「理」には言及せず、あくまでも「気」に即する「気質の性」のみを「性功」の対象としていた。内丹思想は純粋な理念としての「理」へと向かう可能性を帯びつつも、「気」の操作体系である以上「気」を越えられないというジレンマを抱えていたのである。このような思想的状況にあって、清の劉一明は、「陰陽交合」を陰気と陽気の交合とはとらえず、「性」と「情」の交合とした。つまり、劉一明は煉気に取って代えて、修性を内丹の主要功法としたのである。内丹はもはや「気」の操作体系ではなくなり、人間の精神のみを対象として操作し、それを修煉するものとなったのである。劉一明が最終的に目指すのは、「天賦の性」(朱子学における「本然の性(理)」にあたる)のみの人間となること、人間の「理」化であった。人間の「理」化とは、具体的には人間が気の影響を受けない純粋な理念としてとらえられることを指す。劉一明は「玄竅」という論理的概念装置を設定し、その力動性によって、気としての人間を理念・思惟としての人間へと位相転換・次元移動するのである。劉一明は、人間の質料的気としての側面をもはや重視せず、人間の本質を純粋な理念・思惟それ自体にあると考えたのである。明清思想史は、ふつう心学から経世致用の学へ、ないし理学から考証学へと転換したと説明されている。しかし、内丹思想の世界においては、人間の精神活動・知的営為を純粋化・抽象化して考える思索・思弁が展開されていたといえるのである。しかもそれは禅や心学のように直観・直覚に帰結するものではなく、いくつかの概念装置を準備しつつ、論理的に方法として追求されるものであった。明清の思想には、従来考えられてきた思想史的展開とは異なる、もう一つの道が存在していたのである。
著者
横松 宗太
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度ははじめに企業の地震保険保有行動について分析した.それによって有限責任である企業のリスクファイナンス行動の特徴や,それに対応するための保険商品の特徴を分析することによって,家計のリスクファイナンスとの相違を明らかにし,家計の保険問題がもつ特殊性を把握した.ついで,近年各自治体により創設されている住宅再建支援制度が家計の災害保険行動や,被災後の居住地・住宅選択行動に及ぼす影響について分析した.分析の結果,住宅再建補助制度は低年齢の家主によって利用され,家賃補助制度は高齢の家計に適用されることがわかった.住宅再建支援制度,家賃補助制度は,被災地からの人口流出を抑えることが確認されたが,その一方,住宅市場の分析を通じて,補助金の最終的な帰着先は一様ではないことも明らかになった.また住宅再建補助は災害保険行動に負の影響を与えることが確認された.また,リスクの不認知を解消する媒体として,地域の自主防災会に着目した.災害リスク認知の個人差は地域住民が協力して自主防災活動に取り組む過程で大きな問題となる.よって自主防災会はリスクコミュニケーションの媒体としても期待されているが,ある地域においてアンケート調査を実施したところ,多くの自主防災会で活動内容に関する議論やRCはなされていないとの調査結果を得た.そこで本年度は,ゲーム理論を応用して自主防災会の防災会長と住民の間のコミュニケーションの過程を理論的に分析した.分析の結果,自主防災会の始動が急務であり,一部の住民がリスクを強く認識しているほど,彼らがリスクを認識しない住民に地域リスクの大きさを理解させるよりも,自分達で活動を行ってしまう可能性があることが示された.一方,互いのリスク認識の根拠までを伝達し合う場合や,活動のコストを小さくする知恵を提供し合う場合にはコミュニケーションが成立する可能性が大きくなることも判明した.
著者
市川 昌
出版者
放送大学
雑誌
放送教育開発センター研究紀要 (ISSN:09152210)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.171-199, 1993

The purpose of this paper is to review the developments of the mass lecture system in undergraduate courses in many university. In Japan, especially, lecture of 100 students or more are not uncommon in humanities and social sciences subjects. Under this circumstances the attitude of students in large lectures is deteriorating. The educational effect of mass lectures is limited unless interactive educational technologies such as audio visual methods or demonstrations are employed feedback communication channels between the professor and students. The German sociologist J. Habermas emphasized the rationality of communication must be to develop mutual understanding and agreement, but most of lectures are insufficient from this view point. Academics are major changes in what they teach, new methological approaches to the way they teach and trends in the needs of students of the new generation. This paper will also introduce means for improving teaching softwear for higher education (EDUCOM/NCRIPTAL) in the USA in 1980-1990. Good softwear can be used to structure and connect information based on the context. The training of academic personnel and the study of teaching methods in mass undergraduate education same as the UK and the USA is necessary in Japan.
著者
徃住 彰文 村井 源 井口 時男 モートン リース 高岸 輝
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

人類が蓄積してきた膨大な知識資源を効果的に利用する方策のひとつとして,人間の知的活動や感性的活動にできるだけ近似した知識表現形を機械可読な形で提供したい.文学,芸術,政治,宗教といった,人間の能力の最高の活動場面で流通している言語テキストを対象としてオントロジーの構築を試み,多分野,多言語における検討をおこなった.
著者
横山 雅彦 水谷 雅彦 山崎 康仕 三浦 伸夫 宗像 恵 片柳 榮一 櫻井 徹 山田 広昭
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

我々は平成6年度から平成8年度までの3年間にわたって本研究を行ない、その結果、概略的にほぼ下記のような成果を得た。片柳は、ヨーロッパの自然法思想に独自の緊張を与え続けた旧約聖書の宗教的法思想が、古代イスラエル民族の苦難にみちた歴史的体験と密接不可分に結びついていることを、聖書解釈学の視点から明確にした。横山は、古代末期から12世紀のシャルトル学派にいたるまでのプラトン主義的な思想的系譜の展開の中に、中世ヨーロッパにおける自然法則概念の確立の重要な契機があることを、具体的な史料分析によって明らかにした。桜井は、17世紀後半のイギリスの宗教家カンバーランド主著『自然法の哲学的探究』の緻密な分析によって、彼の自然法思想が、当時のイングランドの支配階級の利害関係を強く反映するとともに、また王立学会の重鎮たるボイルの自然法則観とも通底していたことを実証的に示した。宗像は、17世紀のデカルトから18世紀中葉のルソーにいたるまでの自然法と自然法則に関する様々な思想を概観するとともに、それらの思想全体の相互関係を哲学史的視点から明確にした。三浦は、イスラム文化圈における自然法則概念の歴史的展開という、これまで全世界的にほとんど無視されてきた研究テーマを開拓し、その歴史的展開が近代西欧科学に対するイスラムの現代的対応とも連関していることを示した。山崎は、近年ますます大きな問題となりつつある生命倫理の問題に対する多様な法学的対応の中にもしばしば自然法的な思想が隠れていることを、妊娠中絶論争や尊厳死問題論争という 問題と関連して具体的に分析した。水谷は、パソコン文化の急激な大衆化と絡む電子ネットワークの情報倫理的問題に着目し、旧来の問題とのアナロジーに依拠した伝統的な法律的対応が引き起こす混乱の諸相を具体的な事例に基づいて明確にした。
著者
四方 功一
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
大阪成蹊大学芸術学部紀要 (ISSN:18801544)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.10-13, 2005

Last year, I had commission to architect two "INTERESTING" houses from my acquaintances. They are the House of Ms. Ishihara and the House of Mr. Harada, as appear in the title. They are very contrastive. One is for an elderly family, and another is for a young couple. One is made to be "barrier free", and another is a typical urban house on a small plot of land. They both are timely topics often come up as the problem of the recent Japanese society.
著者
池田 美桜
出版者
国際学院埼玉短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:02896850)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.53-56, 2008-03

日本児童文学史において,近代に移入された諸外国の児童文学作品から受けた影響を無視することはできない。外国児童文学の受容という視点から日本の児童文学史を概観すると,それが明治期に一斉に開始されたことがわかる。未知の概念をことばで表現しようとするとき,多くの場合,そこには混乱が生じるものである。外国児童文学作品の翻訳が開始された明治期に視点を据え,「こびと」の翻訳状況を分析すると,「一寸法師」「小さき鬼」「老人」など様々な訳語が見られ,そこにある種の「混乱」が生じたことが見てとれる。この混乱こそが,外来の「こびと」が移入されたことによる既存の「こびと」像のゆらぎであると考え,本稿では日本人のもつ「こびと」像の変遷を探るべく,語誌的観点から「こびと」の意味内容を分析する方法論を探る。