著者
佐々木 和子
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.e19-e23, 2023 (Released:2023-06-12)
参考文献数
8

神戸大学附属図書館震災文庫では、阪神・淡路大震災直後のサンテレビ震災関連映像を、2021年1月から4回にわたって、公開用動画1件、素材映像189件を公開している。公開の障壁となってきた肖像権について、デジタルアーカイブ学会「肖像権ガイドライン」を参考に判別をおこなった。作業は、人文学研究科教員たちが一コマずつ映像を確認し、その後サンテレビ、震災文庫、神戸大学人文学研究科の三者での検討会で協議を経て公開にいたった。阪神・淡路大震災から28年経た。今回の検討の結果、ガイドラインを利用して丁寧にポイント計算していけば、ほとんどの映像の肖像権による壁は越えうることがわかった。今後は、阪神・淡路大震災被災地共通のポイントのあり方を考え、災害アーカイブに適したガイドラインの作成が課題である。
著者
恩田 重直
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.72, no.611, pp.245-251, 2007-01-30 (Released:2017-02-25)
被引用文献数
1 1

This paper explains how streets and their facing buildings in the southern Chinese city of Amoy (Xiamen) were redesigned during a city improvement plan in the early 1930s. By using a map from the "Simingxilu and Shengpinglu Street Plan" and other planning documents, I show how the new street plan was superimposed atop the city's old urban district. In addition, I have also conducted onsite surveys of existing buildings, verified if the buildings were built to plan or not, investigated the process of land and building expropriation, and discuss the building of the city's characteristic covered-sidewalks (qilou or piaolou).
著者
榎戸 輝揚 安武 伸俊
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.637-645, 2021-10-05 (Released:2021-10-05)
参考文献数
33

中性子星は,太陽よりも1桁大きな質量の恒星が寿命を迎え,重力崩壊して残される高密度(コンパクト)天体である.半径10 kmほどの中性子星が太陽の1.4倍もの質量をもつため,内部は原子核の密度を超える高密度となる.中性子星は,およそ半世紀前に周期的に電波で明滅するパルサーとして発見され,これまでに銀河系や近傍の銀河に2,800個を超える天体が見つかっている.中性子星は表面から放出される光が曲がるほどの強い重力場をもち,量子電磁力学における臨界磁場を超える強磁場の物理現象が発現するなど,極限物理の実験室である.そのため,天文学のみならず基礎物理の観点からも関心がもたれている.中性子星が理論的に提唱された時代から,この奇妙な星内部の高密度な核物質の状態方程式の解明は,重要な未解決問題であり続けてきた.星の中心部は,地上の原子核実験では到達できない密度領域にある.状態方程式のミクロな密度と圧力は,天体の内部構造を考えて積分すると,中性子星の質量と半径のマクロな物理量に対応する.したがって,質量と半径を宇宙観測で測定することで内部の状態を調べることができる.このように中性子星は,天文学と原子核物理の融合的な研究対象といえる.天体の質量は,連星運動をするパルサーの規則的な電波パルスの測定から精度よく求められる場合も多い.一方,電波放射が星表面から離れた磁気圏に由来するため,電波では天体の半径を探ることができない.中性子星の表面からの熱的放射に相当するX線の観測が必要になる.しかし,表面からの放射は,大気組成,磁場による表面温度の非一様性,放射領域の形状や,磁気圏放射の混入などの不定性に加え,天文学では常に大きな問題となる天体までの距離測定の難しさもあり,信頼性のある測定が難しかった.近年の多波長観測の進展により,中性子星の観測的特徴の理解が進み,その多様性は「中性子星の動物園」とよばれるようになった.このような観測的多様性は,天体の質量と半径の違いのみならず,中性子星の表面磁場の強度や構造,温度分布,自転周期などの違いによって生み出されたもので,質量と半径の測定を行うときには邪魔な不定性を生み出しうる.しかし,これらの特徴を注意深く理解していくことで,いくつかの種族の天体やそこで起きる現象をうまく利用して,中性子星の質量と半径を測定できることがわかり,複数の有効な手法が提案されるようになってきた.国際宇宙ステーションに搭載されたX線望遠鏡NICER(Neutron star Interior Composition ExploreR)は,高い集光能力を活かして複数のミリ秒パルサーを観測し,gravitational light-bendingを用いた中性子星の質量と半径の測定から,状態方程式を明らかにするプロジェクトである.打ち上げ後,手始めに4.87ミリ秒で自転する孤立中性子星PSR J0030+0451で10%の精度で質量と半径を測定した.さらに,シャピロ遅れの電波観測から,連星中のミリ秒パルサーで質量が太陽の2倍を超えると明らかになったPSR J0740+6620の測定も報告され,今後の観測例の増加が期待できる.さらに,近年の地上の原子核実験や連星中性子星の合体による重力波を用いた測定なども組み合わせると,中性子星の高密度物質の状態方程式がだんだんと絞り込まれ,新たな研究段階に入りつつある.
著者
川越 敏司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-16, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)
参考文献数
34

本研究では,リスク選好・時間選好・社会的選好が互いに独立であるという属性間の独立性を検証する実験を行い,リスク選好と時間選好,リスク選好と社会的選好が関連した設問において属性間の独立性が成り立たないことを見出した.その上で,こうした選択の傾向性を説明するために,リスク選好・時間選好・社会的選好・認知能力が相互依存したモデルに対する構造推計を実施し,実験結果を説明可能であることを示した.
著者
渡邊 薫 岡田 悠介
出版者
一般社団法人 電気設備学会
雑誌
電気設備学会誌 (ISSN:09100350)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.737-740, 2012-10-10 (Released:2014-09-01)
参考文献数
7
著者
Hiroaki ABE Kei KADOWAKI Naohide TSUJIMOTO Toru OKANUKA
出版者
Japanese Society of Physical Therapy
雑誌
Physical Therapy Research (ISSN:21898448)
巻号頁・発行日
pp.R0015, (Released:2021-12-06)
参考文献数
41
被引用文献数
7

Impairments resulting from stroke lead to persistent difficulties with walking. Subsequently, an improved walking ability is one of the highest priorities for people living with stroke. The degree to which gait can be restored after a stroke is related to both the initial impairment in walking ability and the severity of paresis of the lower extremities. However, there are some patients with severe motor paralysis and a markedly disrupted corticospinal tract who regain their gait function. Recently, several case reports have described the recovery of gait function in stroke patients with severe hemiplegia by providing alternate gait training. Multiple studies have demonstrated that gait training can induce "locomotor-like" coordinated muscle activity of paralyzed lower limbs in people with spinal cord injury. In the present review, we discuss the neural mechanisms of gait, and then we review case reports on the restoration of gait function in stroke patients with severe hemiplegia.
著者
野瀨 王偉
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 = The bulletin of the Faculty of Representational Studies (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.53-69, 2023-03-17

本稿では古代ギリシアの吟遊詩人ホメロスによる英雄叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』に共通してみられる「英雄が魚を食べない」という一つの特徴に着目し、その理由を明らかにしようと試みた。古代ギリシアにおいて、海産物が盛んに食べられていたことは、当時の料理書やギリシア喜劇といった文献や考古学的発掘などからも明らかであるが、奇妙なことにホメロスには魚食を示唆する場面は比喩表現などわずかにしか見られず、英雄が海産物を食べる場面は存在しない。本稿ではまず、ホメロスの英雄叙事詩について考察を進めたのち、ホメロス以後の英雄叙事詩、ギリシア悲劇、喜劇、小説、哲学といった異なるジャンルの文献も検討した。その結果、「英雄が魚を食べない」という特徴がホメロス以外にも見られることを確認し、そうした描写の背景にある意図の考察を行った。
著者
井上 智洋 Inoue Tomohiro
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2011-06

制度:新 ; 報告番号:甲3425号 ; 学位の種類:博士(経済学) ; 授与年月日:2011/6/22 ; 早大学位記番号:新5749
著者
野上 毅
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.340-346, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)
参考文献数
53

銅配線(以下,Cu配線)は,二十数年間のトランジスタの微細化に対応して,いくつものブレークスルー技術の導入によって,延命使用されてきた.2nmノードにおいても,Cuダマシン配線を更に延命使用するための革新的技術の研究開発が進められている.これと並行して,Cu配線技術延命使用の限界が近いことを見越して,Cuに替わるルテニウムなどの代替配線金属材料の検討も進められている.本稿では,Cu配線が遂げてきた二十数年にわたる主だった進化を概説し,そのうえで,来る2nmノードに延命使用するために導入が検討されている代表的な新規技術を紹介する.最後に,Cu配線の限界の後に期待されている代替金属配線技術研究開発について概説する.
著者
牧野 良成
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.25-52, 2022-12-16 (Released:2022-12-16)
参考文献数
57

本稿は、反資本主義のフェミニズムという立場からフェミニスト・ストライキを呼びかけたマニフェスト的著作『99%のためのフェミニズム宣言』(F99)を連帯論として読み解き、今日の情況のなかでも特にネオリベラリズムとポピュリズムというふたつの趨勢に対抗し得るような連帯のありかたを構想するための指針を引き出そうとするものである。F99には、社会的再生産論という切り口を設定することで、資本主義の危機や階級闘争にかんする旧来的な理解を拡張的に更新し、すでに存在する反セクシズム・反レイシズム・エコロジーをめぐる闘いなどとともに圧倒的大多数たる「99%」のグローバルな労働者階級の闘争として連合して、ヘゲモニーの獲得を目指そうとする側面がある。ただしその一方で、F99が採用する「1%」対「99%」というポピュリスト的枠組みには、真正な闘争の担い手としての〈私たち〉を立ちあげるために敵対すべき〈かれら〉を創出するという他者化の契機が組み込まれた、真正性の政治に陥る危険がある。しかしながら、F99が掲げるのが「99%のof the 99%」でなくあくまでも「99%のためのfor the 99%」フェミニズムだという点をフェミニスト連帯論の蓄積から評価してみると、F99は「99%」を自明視するというよりも実際の運動過程における共同作業を重んじることで、むしろ他者化の契機に明確に抗する構想を提示しているとみなせる。この反他者化という指針は、運動の動員局面における社会問題のモラル・パニック的な説明図式や、現在の活動との対比で過去の活動を単純化・象徴化するノスタルジアなど、今日の連帯をめぐる困難を批判的に乗り越える手がかりとなり得る。
著者
和田 実
出版者
日本応用心理学会
雑誌
応用心理学研究 (ISSN:03874605)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.171-182, 2019-03-31 (Released:2019-08-15)
参考文献数
25

This study examined infidelity in heterosexual romantic relationships and its effects of gender, attitudes toward infidelity and romantic relationships, and the desire to have an affair. Participants were heterosexual 77 males and 98 females. They were presented with 25 behaviors which were exchanged between males and females and answered their own permissible level of their partners' behaviors and the estimate of their partner's permissible level of their own behaviors in their romantic relationhips. Cluster analysis revealed six clusters: "sexual behaviors", "pleasure behaviors", "companionship and intimate disclosure", "mutual supportive behaviors", "eating and drinking, and giving a present", and "companionate chat". Males' permissible level was higher in sexual behaviors and lower in companionate chat than females'. Their partner's permissible level were higher in sexual behaviors, companionship and intimate disclosure, and mutual supportive behaviors than their own permissible level. Companionate chat was highest and sexual behavior was lowest in both permissible levels. The more permissive attitudes toward infidelity, the stronger desire to have an affair, the less romanticism, and the less romantic power they have, the higher both permissible levels were. The effects on infidelity are discussed.
著者
中生 勝美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B01, 2023 (Released:2023-06-19)

報告者は、1990年代から日本の人類学者の研究と調査の社会的背景を理解するため、関係者へのインタビュー、歴史アーカイブの渉猟、調査地への再訪などを通じて人類学史を研究してきた。今回の発表は内蒙古の特務機関の実態を紹介したうえで、ドイツのモンゴル学者ハイシッヒが、日本の特務機関と協力した罪で戦犯として裁かれた経歴があったこと、そして彼が岡正雄とウィーン大学時代に最も近い関係であったことを報告する。
著者
石山 芳夫 深田 良雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.641-642, 1956-09-10

まえがき 新止血剤アドレノクロムモノセミカルバゾンは,1943年Dr.F.Barconner等により合成され,ベルギー,フランス等で種々研究が加えられた結果,優れた血管強化並びに止血作用を有することが明かとなつた。 之の止血機序は,従来の血液の凝固を促進させる止血剤とは異なり,アドレナリンの止血作用によるものである。すなわち,アドレナリンは生体内で酸化されて,アドレノクロム及びアドレノキシンとなり,止血作用を現わす。このうちアドレノクロムは交感神経刺戟作用がなく,止血剤として極めて有用なことが明かとなつたが,以前は不安定,且不溶性のため実用には供されなかつた。ところが或種の誘導体,特にモノセミカルバゾンは,乾燥状態でも水溶液でも,非常に安定であることが発見され,臨床的使用が可能となつた。