著者
小菅 正裕
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2021年度日本地球化学会第68回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.180, 2021 (Released:2021-12-15)

地殻内で発生する低周波地震は,地震の規模から期待されるよりも顕著に低い低周波の地震波を放射する例外的な地震である。その特徴と,発生場所が主に下部地殻であることから,通常の地震のような断層のずれではなく地殻流体が関与して発生すると考えられているが,発生メカニズムは完全にはわかっていない。低周波地震の波形の特徴として,S波の後に長時間続く振動がある。波動のシミュレーションによれば,そのような振動は地震波速度の低速度域内での波動の共鳴で説明できる可能性がある。最近発見された地殻浅部低周波地震は通常の地震と同じ深さで発生しているので,低周波となることの要因の解明は,地震発生メカニズムそのものの解明につながる課題である。
著者
二藤 隆春 山内 彰人 上羽 瑠美 山岨 達也
出版者
THE JAPAN LARYNGOLOGICAL ASSOCIATION
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.97-99, 2012-12-01 (Released:2013-05-10)
参考文献数
13
著者
福村 一成
出版者
宇都宮大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

事前調査でレンガ造り構造物遺跡のうち東南アジア(タイ、カンボジア)に多くみられる(低温の)焼成レンガ遺跡では塩害による劣化が報告されているがその範囲・程度は、日干しレンガ遺跡建造物に比較して限定的であった。これは東南アジアでは雨季に乾季中にレンガに蓄積した塩分が洗脱されること、さらに降雨侵食対応した焼成レンガ(日干しレンガより塩分結晶成長による劣化を受けにくい)が用いられていることが報告されている。それに対し、乾燥・半乾燥地域(南西アジア〜北アフリカ)の遺跡では日干しレンガ(焼成していない)日干しレンガを使った遺跡構造物が多くみられ、その構造物基底部(地表面近く)で塩類集積による日干しレンガの劣化が報告されている。日干しレンガの塩害実験を行うために模擬日干しレンガの作成を行った。文献にある日干しレンガ材料の情報、土質(砂混じり粘土)、補強材料(スサ、麦わら)と現地の日干しレンガ作成過程の写真を参考に、日本家屋の土壁施工職人からアドバイスを得つつ、20×10×30cmの模擬日干しレンガ(乾燥密度1.5Mg/m3)を作成して電気浸透験の供試体とした。電気浸透による水分、塩分移動実験では電極に白金メッキしたラス電極を用いた。実験結果から塩分移動量と印加電圧、印加時間、電流の条件と水分、塩分移動量の関係を解析した。その結果、水分、塩分移動量と消費電力量に有意な相関関係を得ることができたが、当初予想した印加時間、印加電圧初期塩分量と水分、塩分移動量の間に有意な関係を見出すことはできなかった。また初期含水量の大小は水分、塩分の移動量に顕著な影響を与えるとの結果が得られたが、統計的に有意な関係を得るには至らなかった。以上の結果から、除塩に電気浸透を利用できる可能性を示し、除塩量の指標として消費電力量が有用であることを示した。しかし、初期水分量を大きくすることで移動量が大きくなることが指摘ができたものの、日干しレンガの含水量のコントロールと除塩の関係については十分な知見を得るに至らなかった。
著者
脇谷 草一郎
出版者
独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

地盤とつながった状態で置かれている磨崖仏や露出展示された遺構では、石材や土などの材料表面で塩が析出することで、材料表面の破壊がしばしば引き起こされる。とりわけ、磨崖仏や装飾古墳のように、材料表面に彫刻や装飾が施されているものでは、表面一層の滅失は文化財的価値を大きく失うことになる。塩析出による遺構の劣化を抑制するためには、塩析出を抑制する温熱環境を実現するとともに、遺構表面に濃集した塩を除去することが効果的と考えられることから、本研究では遺構に含まれる塩分を効果的に除去する手法の開発を試みる。
著者
Pornchai LOWILAI 椛田 聖孝 岡本 智伸 菊地 正武
出版者
Japanese Society of Grassland Science
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.16-20, 1995-04-30 (Released:2017-07-07)
参考文献数
14

米ヌカ添加ホテイアオイサイレージの飼料価値を検討した。供試サイレージとしては,米ヌカ15%添加サイレージおよび脱脂米ヌカ15%添加サイレージを調製し,肉用育成牛(各3頭)を用いて試験を行った。脱脂米ヌカ添加サイレージの可消化粗タンパク質(DCP)および可消化エネルギー(DE)は,それぞれ9.5%,2.2Mcal/kgであった。米ヌカ添加サイレージのそれは,それぞれ8.9%および2,2Mcal/kgであった。脱脂米ヌカ添加サイレージの自由乾物摂取量は体重の1.3%で,米ヌカ添加サイレージのそれは0.9%であった。また,脱脂米ヌカ添加サイレージの乾物消化率は50.3%,米ヌカ添加サイレージのそれは51.8%であった。従って,DE摂取量は日本飼養標準と比較して,維持要求量を若干下回ったが,DCP摂取量は維持要求量を満たしていた。
著者
宮田 りりぃ
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.305-324, 2017-07-28 (Released:2019-03-08)
参考文献数
17

本稿の目的は,トランスジェンダーの人々を調査対象に社会との相互作用を通した自己形成過程に着目し,性別越境を伴う生活史におけるジェンダー/セクシュアリティに関する意識を明らかにすることである。そのため,3名のトランスジェンダーに対して生活史調査を実施した。 分析の結果は以下のとおりであった。第1に,調査対象者たちが直面した問題の源泉は,個人の側にではなく,固定的な性別役割モデルの体現を求める社会の側にあった。第2に,それゆえ,調査対象者たちは社会との相互作用を通した自己形成過程の中でジェンダー/セクシュアリティに関する違和感や抑圧的感覚を覚えるようになり,そのきっかけや時期は調査対象者によって多様であった。第3に,調査対象者たちは,「重要な他者」たちとの関わりを通して新たな準拠枠を獲得し,それを参照することで固定的な性別役割モデルの体現を求める社会のあり方に抵抗する可能性を見出し,上記のような違和感や抑圧的感覚から解放されていった。 以上の知見をもとに,①「GID(性同一性障害)」支援の限界及び,②トランスジェンダーが直面する問題を医学概念にもとづいて捉える立場に留まることが含む,ポリティカルな問題について考察を行った。本稿が,今後教育における国のトランスジェンダー支援の見直しに役立てば幸いである。
著者
谷守 正行
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.91-108, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
32

市場では「所有から利用へ」を実現するサブスクリプション・ビジネスが盛んである.サブスクリプション・モデルは,契約後に顧客が継続的にサービスを利用することで価値が高まる仕組みである.他方で,低収益環境が続く国内の銀行では銀行口座に継続的な手数料を賦課することが検討されている.最初に,これまでの管理会計の価格設定と比較しながらサブスクリプション・モデルによる価格設定を研究する.次に,サブスクリプション・モデルの価格設定を銀行のアカウントフィーに適用することによる銀行の収益性への影響をシミュレーションにより検討する.その結果,サブスクリプション・モデルを銀行アカウントフィーに適用することにより,共創価値を想定した価格設定が可能になり,企業収益性と顧客価値の両方を向上できることが分かった.
著者
南地 伸昭
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.89-105, 2021 (Released:2022-04-01)
参考文献数
114
被引用文献数
1

本研究では、消費者行動研究の分野で発展してきた「経験価値モデル」に基づき、西国三十三所巡礼バスツアーの参加者を対象とする質問紙調査を行い、巡礼ツーリズムの中に現代の巡礼者が見出している多様な経験価値を捕捉するための尺度の開発を行った。その結果、経験価値の構成概念については、「脱日常的価値」および「真正性の価値」、「審美的および娯楽的価値」、「教育的価値」、「経済的価値」、「社会的価値」の計 6 因子、22 項目が抽出された。とりわけ、オリジナル性やリアル性、誠実さといった真正性を構成する重要な要素が抽出され、各々が真正性の探求を基底とする巡礼とツーリズムが融合した巡礼ツーリズムの特徴が確認された。
著者
新津 富央 伊豫 雅臣 橋本 謙二 橋本 佐 佐々木 剛 小田 靖典 木村 敦史 畑 達記 井手本 啓太
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

注意障害を伴う精神疾患(気分障害、注意欠如/多動性障害:ADHD)患者を対象に、生体サンプル採取と注意機能測定とを行い、血液中のグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)濃度と注意機能との関連を探索した。その結果、血清中GDNFは成人ADHDにおける注意障害の病態に関連している可能性が示唆された。また、血清中GDNFはうつ病と双極性障害における臨床的重症度と関連していた。血清中GDNFは、ADHDや気分障害のバイオマーカーになる可能性が示唆された。
著者
新津 富央
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

薬物治療中かつ抑うつ状態にある気分障害(双極性障害及び大うつ病性障害)患者において、血清中グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)濃度が健常者よりも低下していることを報告した。この知見に基づいた本研究の目的は、①治療抵抗性気分障害における血清中GDNFのバイオマーカーとしての可能性を、縦断的観察研究により探索すること、②GDNFを治療抵抗性気分障害の新規治療ターゲットとして捉え、GDNF発現増強作用を有する既存薬の効果を自主臨床試験により探索することである。本研究により、治療抵抗性気分障害の病態解明と新規治療薬開発への応用が期待される。
著者
岩崎 達也
出版者
コンテンツツーリズム学会
雑誌
コンテンツツーリズム学会論文集 (ISSN:24352241)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.2-14, 2014 (Released:2021-05-28)

個人の想いによってツアー行動が起動する感性主導のツーリズムが、近年盛んになっている。本論文では、憧れの人を追って日本中を駆け巡るツーリズムを観光社会学の概念を援用しながら、消費者行動論の枠組みにおいて検証した。対象となる女性たちは、憧れのグループを見るために何度も各地のコンサートに旅立ち、コンサート後に、一緒に行った友人や現地の仲間たちと情報交換をかねた食事会(「反省会」)を行う。そして翌日、周辺観光をして帰路につく。多くの時間と費用とエネルギーを要するが、そういった行動には、彼女たちの憧れの対象に対する熱い「ロマン主義的まなざし」が存在する。 検証の手段としては、実際にジャニーズのグループを追いかけている7名の20-40歳代の女性たちにインタビュー調査を行った。そこから得た行動や心の動きを分析することで、憧れの対象を追うツーリズムの行動形態と行動モデルの検証、提示を行った。 憧れを追うツーリズムの行動形態は、コンサートという目的に向かって出発地と目的地を往復する「ピストン型」と、そのコンサートの移動地を追いかけて巡るという行動が合体したものである。それを「サーキット型」と命名し、提示した。 そして、消費者行動理論に基づく検証としては、エイゼンとフィッシュバイン(の「期待と価値のモデル」が、本論文のテーマとするツーリズムに合致すると判断し、「サーキット型ツーリズム」の循環モデルの提示を行った。そこでは、ツアー後の評価、確信と仲間との情報交換が、個人の態度や主観的規範にフィードバックされ、次のツアーへの継続を促すことを付加するモデルとした。これまでのツーリズムのように「場所」を主たる目的として消費するのではなく、生きている「人」が主たる目的であり、場所は副次的なものとして消費されるツーリズムである。その検証・分析により、新たなツーリズムへの知見を示すとともに、観光実務へのインプリケーションとした。
著者
中村 忠司
出版者
コンテンツツーリズム学会
雑誌
コンテンツツーリズム学会論文集 (ISSN:24352241)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2-12, 2015 (Released:2021-05-28)

一般的に旅行は、メディアの影響を大きく受ける。なぜなら、行ったことのない場所に対する知識は旅行者にはないため、伝える側のメディアとの間に大きな情報格差が生まれるためである。特にテレビに代表される映像メディアは、訪れる場所の選択と評価の基礎知識さえ消費者に与えてしまう。 受入地域の側では、特に際立った観光資源のない地域においても、アニメで取り上げられたために大勢の若者が集まるアニメ聖地巡礼の事例や、毎年放送される NHK大河ドラマや朝の連続テレビ小説 の舞台地への旅行者が放送年に増加することから、積極的に番組の誘致に乗り出す自治体も現れている。しかしながら、放送翌年に一気に観光客数が減少する例もあり、一過性の観光誘致のマイナス面を指摘する声も出ている。地域にとっては「地域のファン」になって何度も訪れてもらい、地域との関係性を持続してもらうことが重要である。 本研究の目的は、コンテンツが誘発する旅行者行動がどのようなものであるかを明らかにすることである。研究手法は、一般消費者を対象にしたインターネットによる定量調査を採用した。 調査の結果、①コンテンツツーリズムには、作品と対象地域の間でのループ型の旅行者行動があること、②「能動型確認行動」「受動型確認行動」「場所型確認行動」の 3種類のタイプの観光行動があることがわかった。 得られた結果から地域に対し、「利用者のニーズに合わせた受入体制の整備」と「旅行者の観光行動タイプに合わせた PR の展開」についての提言を行った。
著者
友田 明美
出版者
日本発達障害学会
雑誌
発達障害研究 (ISSN:03879682)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.17-22, 2022-05-31 (Released:2023-10-01)

子どもの健全な発育を妨げるマルトリートメント(マルトリ)は子どもの人生に影響を与える.さまざまなマルトリ経験で傷ついた脳は支援や心のケアで回復しうる. 「マルトリ予防®」のためには「とも育て®」が不可欠で,社会全体で親子の問題に取り組んでいく必要がある.
著者
田澤 悠 村上 健 堀口 利之
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.121-129, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
27

【目的】 近年,COPD の増悪に誤嚥が関与していることが明らかになってきている.今後の課題はCOPD 増悪の予防であり,呼吸機能や嚥下機能が具体的にどのようにCOPD の増悪に関わっているのかについて知ることが重要であると考えられる.今回,外来通院中のCOPD 患者を対象に,呼吸機能に加え嚥下機能に関する評価を行い,それらが過去の増悪歴の有無を有意に反映するかどうかを検討した.【方法】 対象は,外来通院中のCOPD 24 名(男性22 名,女性2 名)とした.増悪と診断されて入院の適応となった既往を増悪歴有りとすると,増悪歴が有ったのは11 名,無かったのは13名であった.MASAから抜粋した項目を評価した.嚥下造影検査により10 mL の液体嚥下での喉頭侵入/ 誤嚥の有無を調べ,スパイロメトリーでは特に努力肺活量(FVC),1 秒量(FEV1),対標準1 秒量(%FEV1),最大呼気流量(PEF)などを検討項目とした.次いで各々の項目に対し増悪歴の有無を最も効率的に分類できる最適cutoff値(co)を求め,各評価項目および測定値と増悪歴との関係を検討した.解析にはFisher の正確確率検定あるいはχ2 検定を用い,各々の項目の2 群と増悪歴に有意な関係を認めるかどうかを検討した.【結果】 増悪歴と有意な関係を認めたのは%FEV1(co: 42.0%, p=0.033)であった.一方,MASA, FVC,PEF は,増悪歴と有意な関係を認めなかった.【考察】 MASA は,嚥下機能低下が顕在化するに至っていない本研究の対象者において増悪歴を反映しないものと考えられた.PEF が有意ではなかったにもかかわらず%FEV1 が有意であったことは,PEF が瞬間的な呼気流速を反映するのに対し,%FEV1 は呼気流速に加え呼気流量も反映するためで,すなわち誤嚥に対する下気道防御においては,呼気流速に加え呼気流量も重要であることを示したと考えられた.
著者
會澤 綾子
出版者
日本経営学会
雑誌
日本経営学会誌 (ISSN:18820271)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.18-31, 2022-12-20 (Released:2023-12-23)
参考文献数
43

There is a case to be made for organizations adopting ethical norms; it has been shown to be seen as legitimate even when it is symbolic. Institutional isomorphism means that the organization type is the same; it does not necessarily mean that the organizational activities are also homogeneous. In this study, I conduct a comparative analysis of the impact of institutional isomorphism and the diversity of organizational activities using the compliance system. The eight companies that were selected vary in size and industry and are isomorphic in terms of their type, but their organizational activities are diverse; these are divided into first-stage activities such as regulations, second-stage activities such as education and training, and third-stage small-group activities conducted at site. Five of the eight companies have brought about changes in their organizational activities in response to past scandals, which are of three types: (1) systems improvement, (2) elimination of misconduct, and (3) company-wide response. However, two of the five companies that had implemented systems development and elimination of misconduct reported yet another incident. The behavior that was reported was not a clear-cut deviation from the norm, and it is highly likely that the individuals involved do not consider their behavior to be deviant or errant. While some corrupt practices are clear violations of the norm, there are others that are difficult to categorize as such and fall into a grey area. Hence, there should be diversification of activities within the organization to prevent a range of corrupt practices, which is possible even in an isomorphic system.