著者
磯村 拓哉 銅谷 賢治 小松 三佐子 蝦名 鉄平
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

脳の計算原理を解明し人工知能に実装することは自然科学最大のフロンティアである。脳はどのように外界の生成モデルを獲得し予測や行動を実現しているのだろうか?本領域の目的は、最先端の計測技術を用いて様々な動物の脳から神経細胞の活動を高精度・大規模に取得し、データから生成モデルをリバースエンジニアリングすることで、脳の統一理論を構築・検証し、その神経基盤を解明することである。そのために神経科学と情報工学の融合領域を創成する。
著者
小林 一郎
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2023-06-30

本研究では、このような生物における知能の発達を参考にし、現在の深層学習による学習方式とは異なる脳内情報処理機構を模倣した発達型人工神経回路網モデルを開発する.モデルの発達過程を具体的に示すため、低次の機能(ここでは特定の単一の課題を解くことができる機能とする)の組合せから高次の機能(単一の機能を組み合わせからなる機能とする)を獲得し成長する例を取り上げ、3つの重要な脳内情報処理特徴:(I)脳内領野の機能表現、(II) 低次から高次への抽象化による情報表現、(III) 領野の連関処理による高次機能の実現、を有する課題の処理を実現する発達型人工神経回路網モデルの開発に挑戦する.
著者
光辻 克馬 山影 進
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.200, pp.200_119-200_134, 2020-03-31 (Released:2020-04-16)
参考文献数
39

In fields ranging from physics to biology, there has been an increasing realization that the exploration into the self-organizing process of the interactive agents will give us a new understanding of the world. Adopting a new Complex Adaptive Systems perspective, we can shed light upon the patterns and processes of international relations which has been considered to be incomprehensible and unpredictable, or overlooked and undervalued.In this article, we propose two simple models using agent-based methodologies that focus on alliance formation and conflict generation in international politics. The interactions among the virtual states in the models result in the skewed distribution of the sizes of alliances and conflicts which contain both exceptionally large ones and unusually large amounts of small ones. Such distributions with long tails of alliance and conflict are empirically observable in the real world. The results show that the models have the possibility to give a new explanation of the pattern and processes of state behavior in the international system.The performance of the models presented in this article, which is formalized with the simplest rules, shows us that the research program from the CAS perspective with agent-based methodology is a useful and promising strategy for the exploration in explanation and understanding of international politics.
著者
二木 雄策
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.117-147, 2016-02-25 (Released:2019-05-17)
参考文献数
5

交通事故による損害賠償の一環である逸失利益は,通常,被害者の平均年収(=基礎収入)に5%のライプニッツ係数を乗じて求められている。このような算定方式は果たして公正な結果をもたらすものなのだろうか。 第一に,この方式は計算を簡略にするための近似法によるものなので,得られた金額の多寡は必ずしも正確なものではない。そればかりか,この方式では逸失利益の男女間格差が実態以上に拡大されるなど,無視できない質的な誤差をも含んでいる。 第二に,この方式では逸失利益が,金銭の貸借や手形割引などと同じように,将来の「カネ」と現在の「カネ」との関係として捉えられている。しかし逸失利益というのは被害者が生産できるはずだった将来の「モノ」を現在の「カネ」で評価した金額なのだから,それを算定するためには,利子率だけではなく,「モノ」の価格(=物価)の変化をも考慮しなければならない。まして両者の値は,過去の統計が示すように,密接な関係にある。それにも拘わらず現行の算定方式では利子率だけが採り上げられ生産物の価格変化という視点は抜け落ちていて,その結果,被害者は大きな不利益を蒙ることになっている。 逸失利益は公正なものでなければならないのだから,現行の算定方式は,少なくともこれらの点については,修正されなければならない。
著者
青山 祐樹 高橋 索真 稲葉 知己 泉川 孝一 中村 聡子
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.145-152, 2019-02-10 (Released:2019-02-10)
参考文献数
30

70歳男性.黒色便・貧血精査の小腸カプセル内視鏡検査で回腸に輪状潰瘍を認め,原因としてnon-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)貼付剤が疑われた.貼付を中止し小腸粘膜保護剤を開始後,潰瘍治癒にともなう瘢痕狭窄によるイレウスを発症し外科切除を要した.特異的な病理所見は認めず,臨床的にNSAIDs起因性小腸潰瘍と診断した.貼付剤でも消化管粘膜傷害を生じうる.
著者
内山 朋規 高橋 大志
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.BI-003, pp.01, 2015-11-13 (Released:2022-02-25)

本研究では,企業の利益還元政策の変更が株価に与える影響を分析し,その情報が持つ意味を探究する.結果として,増配アナウンス後の株価の正の異常リターンはマーケットタイミング仮説に整合的で,自社株買いアナウンス後のそれはシグナリング仮説とフリーキャッシュフロー仮説の双方に整合的なことを得た.さらに,アナウンスを行った企業に関するアナリストの推奨やニュース記事のトーンもまたこれらの仮説に整合的であった.本研究の結果は,経営者と投資家の間の情報の非対称性やエージェンシー問題といった市場摩擦がアナウンス後の異常リターンの要因であることを示している.
著者
吉田 友彦
出版者
公益社団法人 都市住宅学会
雑誌
都市住宅学 (ISSN:13418157)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.80, pp.4-7, 2013 (Released:2017-06-29)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
松田 直樹
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.2, pp.240-245, 2006-02-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

抗不整脈薬の分類としてVaughan Williams分類が広く用いられてきた. I群薬はNa+チャネルを遮断し心房・心室筋の主に伝道抑制に働く. II群薬はβ受容体を抑制する. III群薬はK+チャネルを遮断し, 活動電位幅延長から不応期延長に働く. IV群薬はCa2+チャネル遮断により自動能抑制, 房室伝道抑制に働く. しかしこの分類の限界が指摘され, 新たな分類としてSicilian Gambitが提唱されている.
著者
大島聡史 金子勇 片桐孝洋
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2013-HPC-140, no.33, pp.1-8, 2013-07-24

本稿では最新のメニーコアプロセッサ Xeon Phi(以下,Phi) の疎行列ベクトル積演算性能について述べる.Phi は高い演算性能およびメモリ転送性能を備えたハードウェアであり,様々なアプリケーションへの適用について盛んに研究が行われている.また Phi はその性能を従来の CPU 同様のプログラミング手法によって活用できることが重要な特徴・利点としてあげられているものの,実際にはアーキテクチャの特性にあわせた最適化の余地が多く存在することが知られている.一方で Phi はアーキテクチャとしても製品としても新しいものであるため,性能を十分に引き出すための知識や技術のさらなる共有が必要である.本稿では疎行列ベクトル積を対象としてPhiの性能を測定し,他の並列計算ハードウェアと性能を比較して性能評価を行う.なお本稿では Phi として先行提供版の Preproduction Xeon Phi を用いている.
著者
伊藤 昭 矢野 博之
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能 (ISSN:21882266)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.271-278, 1995-03-01 (Released:2020-09-29)

The social sanction mechanism against unfair deals is investigated in a society of autonomous agents. The mechanism is realized by disclosing the contract histories of all the agents. To simulate the situation, each agent is made to engage in the deal equivalent to the "Prisoner's dilemma" problem repetitively, each time changing the other party of the deal. Optimal deal strategies are searched under the condition that the contract records will be disclosed and open to all the agents. Several deal algorithms are taken up, and their behaviors are investigated by matching them under various conditions. Based on the results, the condition for optimal deal strategies of the agents are discussed.
著者
高田 泰英
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.774-777, 2001-12-20 (Released:2017-07-11)

「理科離れ」が子供を中心に社会全体に広がっている今日, 理科の教師に課せられた役割の一つに, 理科を通した社会貢献があげられる。兵庫県では, 理科の啓蒙活動をさかんに行っている。その主たるものが, 地元神戸新聞に連載している「理科の散歩道」である。このコラムでは, 身の回りの理科的現象をやさしく解説し, 理科を身近なものにする試みがなされている。また, 理科を好きな中・高校生を育成する目的で, 現在の「青少年のための科学の祭典」を, 中・高校生を中心とした「青少年による科学の祭典」とする取り組みもなされている。
著者
村宮 克彦
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.131-151, 2008-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿は,経営者の公表する予想利益の有用性を企業価値評価の観点から評価する.日本では,決算発表の際に経営者が次期の予想利益を公表している.これは,証券取引所の要請に基づくものであり,財務内容のサマリー情報が掲載される決算短信とよばれる書類の中で,大部分の上場企業の経営者はこの要請に応じる形で次期の予想利益を公表している.本研究では,経営者が公表するこうした予想利益を企業価値評価モデルヘインプットすることで株式の本源的価値(V)を推定し,現在成立している株価(P)との比率,すなわちV/Pに将来リターンの予測能力があるかどうかを検証することで,経営者が公表する予想利益の有用性を判断する.一連の分析から,経営者の公表する予想利益に基づくV/Pに将来リターンの予測能力があり,その予測能力の源泉は,市場のミス・プライシングに起因することを明らかにする.この分析結果は,経営者による予想利益が投資者の企業価値評価にとって有用な情報であり,投資者はそうした予想利益に基づいて企業価値を評価することで,市場でのミス・プライシングを利用して超過リターンを獲得できる機会を有していることを示唆している.
著者
榊原 茂樹 譚 鵬
出版者
日本知的資産経営学会
雑誌
日本知的資産経営学会誌 (ISSN:27586936)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.6, pp.28-40, 2020-12-20 (Released:2023-05-01)

本論文は,国際統合報告フレームワーク(IIRC〈framework〉)が意図するように,統合報告書(IR)の発行が財務数値の株式価値関連性を追加的に高めたかどうかを,2004―2016年に初めて統合報告書を発行した日本企業を対象に検証した。 全サンプル企業を対象とした検証の結果は,非正規分布の株価データを正規分布へと補正する程度に応じて,異なった。すなわち,補正の程度が緩いケースでは,財務数値の価値関連性はIR の発行によって「追加的に」高まったが,さらに正規分布へとヨリ近付けると,財務数値の価値関連性の「追加的」増加は消滅した。 次に,全サンプル企業を製造業と非製造業に2 分割すると,製造業企業においては,正規分布への補正の程度に関わらず,財務数値の価値関連性の「追加的」増加が観察された。他方,非製造業企業については,補正を行うと財務数値の「追加的」価値関連性は消滅した。本論文の貢献は,IR の発行は製造業企業の株式投資家にとってヨリ有用性が高いことを示したことにある。
著者
斉藤 司 椎橋 裕子 明賀 博樹 原口 賢治 増田 唯 黒林 淑子 南木 昂 山崎 英恵 中村 元計 伏木 亨
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.519-527, 2014-11-15 (Released:2014-12-10)
参考文献数
22
被引用文献数
5 7

かつお荒節超臨界二酸化炭素抽出物の香気分析を行った.GC-MS分析,AEDA法によって,重要香気成分を絞り込んだ結果,グアイアコール,5-メチルグアイアコール,2,6-ジメトキシフェノール,4-エチル-2,6-ジメトキシフェノール,2,6-ジメチルフェノール,4-プロピルグアイアコール,バニリン,フラネオール®,(2E,7Z) -trans-4,5-エポキシデカ-2,7-ジエナール,(4Z,7Z) -トリデカ-4,7-ジエナール(以下TDDとする.)の10成分が同定された.この中で(2E,7Z) -trans-4,5-エポキシデカ-2,7-ジエナールとTDDは,かつお節の香気成分としては未報告の成分であり,特にTDDは,食品の香気成分として初めて同定された成分であったため,かつお節の香りにどのような影響があるのか,官能評価を行った.官能評価に用いる用語は,かつお荒節超臨界二酸化炭素抽出物を用いて6種(くん液,木材,魚肉,金属,生臭い,カラメル)を選定した.かつお荒節超臨界二酸化炭素抽出物中の定量値を用いて,TDD以外の重要香気成分9成分と,TDDを加えた10成分の匂い再構成液を作り,各風味項目ついて比較した.その結果,「木材」の項目がTDDの添加により,有意に増強された.このことから,TDDはかつお荒節超臨界二酸化炭素抽出物の香りを構成する新規重要香気成分であることが示された.さらに,料理人の官能評価によって,TDDを含むかつお節フレーバーは,かつおだしをより好ましい風味にさせる効果があることが示された.
著者
崎尾 均 久保 満佐子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.643, 2005 (Released:2005-03-17)

カツラは冷温帯の渓畔林を構成する林冠木である。埼玉県秩父山地の渓畔林においては林冠木の10%を占めて点在しており、林内には稚樹や実生ははほとんどみられない。このカツラの更新機構を解明するために、繁殖戦略を中心に、生活史特性を明らかにした。 渓流に沿って距離1170m、面積4.71haの調査地を設定し、DBH>4cmの毎木調査を行なった。このときに幹の周りに発生している萌芽数も計測した。この調査地内の0.54haのプロットに20個のシードトラップを設置し、1995年から2004年まで10年間種子生産量を測定した。2000年から5年間は調査地内のすべての個体の開花・結実量を双眼鏡による目視で把握した。 10年間の種子生産には豊凶の差はあるものの、毎年大量の種子生産を行なっていた。雌雄の個体とも林冠木は毎年開花し結実していた。発芽サイトは粒子の細かい無機質の土壌か倒木上に限られており、それらの実生も秋には大部分が消失した。カツラの株は多くが周辺に萌芽を発生させており、主幹が枯死した後はこれらの萌芽が成長することによって長期間個体の維持をはかっていた。カツラの立地環境を把握した結果、かなり大きなサイズの礫上に更新していることが判明した。また、カツラの亜高木は、サワグルミが一斉更新した大規模攪乱サイトのパッチの中に位置し、樹齢もサワグルミとほぼ一致した。 以上の結果から、カツラの更新は毎年大量の種子を散布しながら、非常にまれな大規模攪乱地内のセーフサイトで定着し、萌芽によって長期間その場所を占有し続けることで成立していると考えられた。