著者
大沼 保昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年度は、平成19年度の活動内容を踏まえ、過去3年間の共同研究によって得られた共通の理解を前提としつつ、個別報告及び討論を中心に活動を行った。各個別報告の報告者及びテーマは以下のとおりである。(1)垣内恵美子氏(政策研究大学院大学)「文化遺産の便益評価-誰がどのように保護するべきか-」(4月7日)(2)一寸木英多良氏(国際交流基金企画評価部)「国際文化交流事業に関する評価手法研究の現状と展望について-韓国及びドイツにおける定量・定性的評価調査の事例をもとに-」(5月26日)(3)中川勉氏(外務省広報文化交流部文化交流課長)「外務省・文化外交の現状と課題」(6月27日)(4)篠原初枝氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)「文化遺産レジームの史的変遷-何から何を保護するのか-」(9月1日)(5)立松美也子氏(山形大学人文学部法経政策学科)「紛争下における文化財保護の国際法」(11月28日)(6)中村美帆氏(東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻博士課程)「文献購読(Lyndel V. Prott and Patrick J. O'Keefe, "` Cultural Heritage' or ` Cultural Propery' ? ")」(12月16日)。(7)稲木徹氏(中央大学大学院法学研究科公法専攻博士課程)「『国際文化法』を構想する諸説について」(2月24日)。以上のような専門の研究者・実務家による個別法告および討論によって、現行文化遺産保護体制の具体的諸問題がさらに明確化するとともに、現行制度の諸問題に対して具体的な制度設計の指針や政策面での提言を与える基礎となる学際的な理論的研究の現状について共通の理解をさらに深めることができた。以上の研究成果は、今後予定される公表作業にとって極めて重要な意義を有するであろうと思われる。
著者
山根 智恵 難波 愛
出版者
山陽学園大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.日本人高校生(142名)、韓国人高校生(60名)、豪州人高校生(54名)へのアンケート調査の結果、異文化理解を主な目的として日本語を学習した韓国人・豪州人は、日本人より日本・日本文化に対して多様な見方をしており、異文化適応度も高いという結果が得られた。この異文化適応度に関しては、Kelley and Meyersが中心となって作成した、Cross-Cultural Adaptability Inventoryの全50項目[下位尺度は(1)情緒の安定、(2)柔軟性・開放性、(3)認知の鋭敏さ、(4)自立性]を使用し、得られた数値で分散分析を行った。多重比較の結果、適応度は、豪州人>韓国人>日本人の順で得点が高かった。ここから、異文化理解を目的とする外国語教育はLo Biancoらが提唱する「第三の場所」の構築に確実につながっていることが確認できた。2.日本人高校生、韓国人高校生各4人のOPI(ロールプレイ部分)を分析した結果、日本人の非言語行動の特徴として、発話中の首振り(話し手の場合)と相槌の首振り(聞き手の場合)が観察された。ここから日本人が会話を円滑に進めていく際に、首の縦振りが重要な役割を担っていることが明らかとなった。また、韓国人の特徴として、目上の人との会話に、腕組み、肘付き、頬杖が観察された。これらは日本人には見られない手の動きであり、長幼の序を守る両国でも表し方が異なることが窺えた。3.18年度の調査結果は現在分析中であるが、17年度までの項目・手法と異なる点は、次の通りである。この結果と未発表のデータについては、今後順次発表する。(1)「目本らしさ」「日本文化らしさ」「学習希望項目」の選択理由を記述させた。(2)「日本文化らしさ」の選択要因(例:日本人との接触、情報機器)を選択肢より選択させた。(3)日本語能力の変化を分析するため、30人に春と冬の2回、インタビューを行った。
著者
大瀧 仁志 小堤 和彦 澤村 精治 谷口 吉弘 加藤 稔
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究報告は平成9年度から11年度にわたって文部省科学研究費補助金 (基盤研究A(2)、課題番号09304064)の交付をうけ、立命館大学理工学部化学科の教員を組織して実施された『迅速溶液X線回析法と分光光度法による亜・超臨界状態のイオンと蛋白質の溶媒和構造』に関する研究をまとめたものである。本研究では溶液X線回析法を用いて、常温常圧から超臨界状態までの水の構造を検討し、水は超臨界状態においても水素結合をしており、バルク状態で観察されるクラスターよりは小数の分子からなる小さなクラスターを形成しており、一方、気体類似の単分子状態の水分子も存在していることを示した。この結果は水の研究に大きな示唆を与えたもので、発表した印刷物や国際学会等における講演を通じて大きな反響がみられた。また蛋白質のペプチド結合に関するモデル物質としてしられているホルムアミドの構造についても溶液X線回析法とNMR法を併用して研究し、ホルムアミドの液体構造に関してリング構造かリニア構造かで長年論争があった問題に対して、リング構造とリニア構造の混合状態にあることを実験的に明確に示し、さらにそれぞれの部分構造の割合を算定し、リング構造は圧力によって、またリニア構造は温度の上昇とともに生成しやすくなることを明らかにした。超臨界水溶液中のMg^<2+>イオンの溶媒和構造についての溶液X線回析測定が現在進行中である。谷口と加藤はさまざまな蛋白質の温度、圧力変化についてFTIR法とラマン分光法を用いて研究し、蛋白質のホールディングに関する知見をえたほか、蛋白質のモデル物質としてハロゲノアセトンを用い、温度、圧力にともなうハロゲノアセトン周囲の水構造についていくつかの研究成果を発表した。また澤村は水溶液中の無機電解質の溶解度に対する温度・圧力効果のみならず、C_<60>のような新奇でかつ非電解質の有機溶媒に対する溶解度をさまざまな温度・圧力で研究し、結晶状態における分子の充填状況と溶媒中に分子状に分散している状態の相違を検討した。本研究では溶液X線回析法の測定時間を短縮し、反応中に直接X線散乱強度が測定できるような迅速溶液X線回析計を開発するために、溶液X線回析法では世界で始めてCCD (Charge Coupled Device)を既存の高温高圧溶液X線回析装置に設置し、その性能と解析法について検討を始めた。本装置が稼動すれば世界最初のCCD設置溶液X線回析迅速測定装置となる。上記のように、本研究は所期の目的に沿って顕著な成果をおさめるとともに、将来にむけて当該領域の発展に大きく寄与することができる展望をもつことができた。
著者
倉方 健作
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

特別研究員としての最終年度にあたる本年度においては、これまでおこなってきた調査、研究を補完しながら、研究課題「1880-90年代における詩的継承」を総括しうる論考を完成させることを目的とした。その一部は前年度末に「「高踏派」の擁護と顕揚-『文学の進展に関するアンケート』をめぐって」と題した口頭発表で示したが、その際に同分野の研究者から得られた反応や新たな知見は、同名の査読論文を執筆するにあたって大いに役立つこととなった。また日本学術振興会による特別研究員を対象とした「優秀若手研究者海外派遣事業」によって、フランスのレンヌ第2大学で3ヶ月間の研究をおこなったことも調査・研究に非常に有益であった。受入研究者となった同大学のスティーヴ・マーフィ教授のもとで、当時のフランス詩壇を扱うにあたって不可欠なポール・ヴェルレーヌ、アルチュール・ランボーらに関する最新の研究成果を参照し、また多くの研究者と意見を交換することができた。このようにしてあらためて執筆された論文は、査読を経て『日本フランス語フランス文学会関東支部論集』に掲載されることとなった。同論文は、1890年代のフランス詩壇における諸派の相克を扱ったものである。当時の長老格であった「高踏派」の詩人たちを論の中心に据え、彼らの見解とそれに対する若い世代の反応を主な軸として、当時のフランスにおける文学状況を示した。こうした包括的な観点は、同時代を対象とする個人作家研究にも大きく寄与するものであると同時に、今後の研究の可能性をさらに開くものであったと確信している。
著者
能田 均
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

生命科学の進展に果たす蛍光分析の役割は大きいが、その色素には旧来より大きな進歩はない。本研究では、生体と相互作用しにくく、丈夫で、水溶性に富み、高蛍光性の色素の開発を目的とした。開発した新規色素・糖化ローダミンは、従来にはない"生体分子と相互作用しにくい"という特性を持っている。この色素はアミノ基のラベル試薬として用いることが可能で、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等の蛍光ラベル化が可能であった。今後の色素設計のモデルとなりうる。
著者
遠藤 啓吾 PAUDYAL Bishnuhari
出版者
群馬大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

銅-64はPET検査に用いることのできるポジトロン核種として注目されている。通常抗体を用いたイメージングは抗体に錯体を標識し、放射性物質(銅-64など)を導入したもので直接法が普通であるが、今回、親和性向上を狙い、アビジン-ビオチン系を用いた新しい腫瘍イメージングを検討した。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は血管新生において重要な役割を果たしている。血管新隼はがんの形成や成長に必須であり、1-2mmを越えて腫瘍が育っためには栄養や酸素を供給する血管が必要である。VEGFに対するヒト化モノクローナル抗体であるベバシツマブ(アバスチン^<【○!R】>)と抗癌剤の併用による治療が開発されいる。本研究では血管内皮細胞増殖因子に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブ(アバスチン)をビオチン標識し、ストレプトアビジン(Streptavidin)に1,4,7,10-tetraazacyclododecane-N,N,'N'',N'''-tetraacetic acid (DOTA)錯体を標識し、群馬大学にて製造した銅-64を導入した。ヒト由来大腸ガンであるHT29株を移植したヌードマウスにて評価した。前標的剤としてビオチン化ベバシズマブを投与し、24時間経過後、[^<64>Cu]-DOTA-ストレプトアビジンを投与し、その後、1、3、6、24時間後のPETイメージと体内分布を収集した。24時間後のPETイメージで腫瘍部位に良好な集積を有し、腫瘍部位以外では腎臓に分布が見られ、尿路排泄系によるクリアランスが期待される。本研究ではビオチン化ベバシズマブ、[^<64>Cu]-DOTA-ストレプトアビジンという二段階の手法を用いることにより、低バックグラウンド値かつ腫瘍部位の高集積化を実現し、有効性の高い優れたイメージング方法として大いに期待できる。
著者
熊谷 進 小西 良子 作田 庄平 高鳥 浩介 PRAPEUK Tangmunkhong AMNART Poapolathep
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

カビ毒高濃度汚染地域であるタイにおいて、カビ毒を代謝し解毒する微生物や動物組織を探索するために、タイのカセサート大学と共同で収集したカッサバ栽培農地を中心とした土壌から分離した細菌と真菌のカビ毒代謝活性を調べた。カビ毒としてアフラトキシン(AF)、オクラトキシンA(OA)、ゼアラレノン(ZEA)を各試料に添加し培養した後に培養物を分析に供した。その結果、一部の菌によってAFB1とOAが代謝変換されることが認められた。また、タイ中央部において飼育されているウマ・ヒツジ・ブタの糞便および糞便に由来する嫌気性菌による上記カビ毒の代謝も合わせ調べたが、明瞭な代謝変換は認められなかった。動物組織に関しては、ブタやニワトリ等の家畜ならびにマウス等の実験動物の肝臓組織によるAFB2の代謝およびヤギ組織におけるゼアラレノンの代謝を検討したところ、各種動物の肝臓分画によるAFB2からAFB1への代謝の可能性が示唆され、ヤギの諸臓器におけるゼアラレノンからゼアラレノールへの代謝が認められた。
著者
小椋 康宏 董 晶輝
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、ベンチャー・キャピタルがベンチャー企業への投資を通して、ベンチャー企業の企業価値創造に関する投資評価基準を明らかにした。本研究に関する先行研究を整理・分析し、これまでの財務的側面での研究の不足に対し、アンケート調査を行った。この調査では、次の4つ領域に焦点をあわせ、ベンチャー・キャピタル会社の財務担当者からの回答を通して、その投資評価基準の実情および問題点を明らかにした。(1)ベンチャー企業への出資の審査基準についてでは、最も関心を持つ点は出資審査基準として「ビジネス・プラン」が第一に挙げられたことである。これは、以前の調査において「経営者資質」が最大であったものから考えると、ベンチャー・キャピタルはベンチャー企業自体の事業内容が重要であると判断している新しい流れができている。(2)出資先企業に対する評価について、最も関心を持った点は評価方法である。ベンチャー・キャピタルが「ベンチャー・キャピタル法」、「DCF法」、「マルチプル法」、「リアル・オプション法」を取り上げたことについては投資決定において新しいファイナンス理論による方法を積極的に利用しようとしていることが理解できる。(3)投資期間と出資ポートフォリオについて、最も関心を持った点は資金回収の方法である。資金回収の方法として「株式公開」をベンチャー・キャピタルが第一義的に考えていることは評価してよい。(4)出資先企業への経営関与について、最も関心を持った点は、ベンチャー・キャピタルが経営関与を行うこと、およびベンチャー・キャピタルが必要な人材を必要なときに派遣する実態が明らかになった。
著者
志賀 徹 斉藤 高弘 芋生 憲司 中島 教博
出版者
宇都宮大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究は環境ガス組成を変化させるCA貯蔵条件下での各種生鮮農産物の呼吸特性及び品質判定因子の変化を測定し、農産物の生理的特性及び品質変化を明らかにするとともに、最適CA貯蔵条件を検討したものである。1.生シイタケは酸素濃度を減少させるか、二酸化炭素濃度を増加させることにより著しく呼吸速度が減少した。環境ガス制御が生シイタケ生体中のpHの減少を抑制することが測定され、低い(酸性が高い)領域で活性を増すPPO活性の抑制効果が確認された。加えて酸素濃度を下げることによりL-アスコルビン酸含量が高く維持された。これらを総合的に評価して、20%の二酸化炭素濃度における10%または5%の酸素濃度のCA貯蔵条件が他の処理条件より生シイタケの品質保持に効果があると判断された。2.イチゴは高い二酸化炭素濃度に対して比較的大きな許容性を持ち、二酸化炭素濃度が高いほど呼吸速度が低下した。二酸化炭素を増加させることは、イチゴ果実の果肉部の硬度の減少を抑制し、果皮色の退化を防止する効果となって現れ、かつL-アスコルビン酸含量の貯蔵中における減少を抑制した。カビの発生に対する防止からも20%の二酸化炭素濃度は効果的であった。アスパラガスは、酸素濃度の減少が二酸化濃度の増加より以上に呼吸速度の減少に与える効果が顕著であった。10%の酸素濃度下では二酸化炭素が高くなるほどアスパラガスの貯蔵中の伸長量が低く抑えられら。また低酸素濃度では硬さの保持効果が見られた。CA貯蔵条件下では空気中におけるよりクロロフィル濃度の減少が抑制され、果皮色が良好に保持された。糖含量はCA貯蔵条件下で20日後まで低下が抑制された。各種農産物の呼吸の温度に対する依存性はアレニスの式及びゴアの式によく適合し、温度により呼吸速度は指数関数的に増加した。また農産物のQ_<10>(温度10°C上昇時の呼吸速度の増加割合)は低温域で高い値を示し、温度が高くなるにつれ小さくなった。アスパラガス、ブドウ及びイチゴの呼吸速度は他の品目に比べ酸素濃度変化への依存性が高く、特徴ある挙動を示した。
著者
小野 直達 梅木 利巳
出版者
東京農工大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

平成元年及び2年度にて、大規模養蚕複合経営の存在形態を広く把握し、かつ両年度での実態調査を通じて当該経営の経営方式を一般化することを試みた。そのため、調査対象地として東日本地域から四県、西日本から二県を選択し、前述の課題に接近した。1、はじめに大規模養蚕と称しうる経営、なかでも収菌量3トン以上農家は昭和63年 127戸、平成元年 126戸であった。なお、元年度の経営方式を把握することは資料の制約上できなかった。いま昭和63年度での経営方式に関連させた場合、約8割の農家が両年とも3トン以上農家であった。この結果、養蚕大規模といえども他部門との結合が一般的形態であり、特に水稲部門との結合が高い割合を示しており、ついで野菜、畜産などであった。2、さて両年度における調査のうち、福島県安達町は県内でも主要な養蚕地帯を構成しており、経営方式では水稲部門との結合が高く、ついで野菜、畜産、菌茸であった。郡馬県前橋市芳賀地区の場合、多様な結合の展開がみられ、養蚕プラス畜産、野菜、更に水稲などであった。同県吉岡村明治地区は養蚕プラス野菜の結びつき、千葉県八街町は野菜および落花生との結合、西日本地域における鹿児島県姶良地域では生産牛および菌茸、愛媛県大洲市では養蚕プラス野菜、が特徴的であった。つまり各地域における部門結合は、立地条件を強く反映した経営方式の展開であった。要するに、両年度の調査結果から、ひとまず養蚕と水稲をはじめ、野菜、畜産などであった。との四つの経営方式を摘出できた。なお残された課題として当該方式の実現手法の開発に努めたい。
著者
日高 三郎 大石 明子
出版者
福岡医療短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

4種類の日常的な食事献立の試験管内石灰化への影響につきpH低落法を用いて研究した。主食のごはんは石灰化を促進させたが、食パン(トースト)は抑制した。献立1~3のじゃがいもなど2~3の料理と食材、さらに洋食的な献立4のバターなど2~3の料理と食材は石灰化を促進した。しかし、促進効果は口腔内では唾液の影響で発揮されないと考えられるので、われわれの日常的食事は歯石形成に抑制的であることが示唆される。
著者
亀井 清華
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

動的無線ネットワークに適した分散アルゴリズムとして,安全に収束する自己安定分散アルゴリズムの研究をおこなった.これは,故障が起こった後の任意の状況から短時間で(解の質を問わない)安全な状況に遷移し,そこからは安全性を崩さずに最適解に収束するという性質を持つ分散アルゴリズムである.様々な最適化問題にモデル化される分散問題について,この性質を持つ分散近似アルゴリズムの設計を行った.
著者
寺原 猛
出版者
東京海洋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

一般に遺伝子発現系で使用される大腸菌でさえも、産生タンパク質が失活することが多い。そこで、マリンメタゲノム・ライブラリー約2000クローンから組換えタンパク質の活性を補助・促進する新たな因子を探索した。その結果、既知のものとは異なる因子が含まれ、低温での大腸菌の増殖能を向上させる3クローンを発見した。これらのクローンは、大腸菌を用いた低温での組換えタンパク質産生系の構築に役立つ可能性が示唆された。
著者
西本 右子
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.木材から発生する揮発性有機化合物(VOC)及び有機酸の迅速測定法の開発これまでに建材メーカーや施工業者が適切な建材を簡易かつ迅速に選定するための測定法を確立しGCとTGにより2時間程度で建材中のVOC評価が行えることを報告してきた。本研究では測定法のさらなる精度向上を目指した。その結果、木材1gを20mLバイアルに密閉し、110℃1時間保持後の気体を直接GC測定することで、木材から発生する揮発性有機化合物の測定が行えることがわかった。ICを用いた有機酸の迅速評価法についても純水に浸漬し超音波処理後遠心分離・ろ過によって可能であることがわかった。さらに現在各種機能水の適用を検討中である。2.木材の種類、産地、部位を考慮し、温度・湿度を中心とした使用環境の影響の検討木材の種類、産地、部位によってVOC成分・発生量及び水抽出分は異なり、輸入木材ではVOC発生量が多く、水抽出分が酸性であることが明らかとなった。一般にセルロース含有量が多い木材はGC測定においてTVOC値が高いこともわかった。木材の前処理として塩の水溶液や各種機能水の蒸気と接触させた場合、揮発性有機化合に対する吸着特性の制御の可能性が得られた。3.木材(廃材)を原料とする木炭等のVOCに対する吸着剤としての利用通常室内の存在する、VOC12種及び木材・木炭・木質系エコマテリアルであるウッドセラミックス(WC)について検討した。吸着後試料のTG測定結果と合わせ、これまでの測定法が木材、木炭等の悪臭物質や香気性物質に対する吸着特性評価として有効であることがわかった。また木炭及びWCでは悪臭物質や香気性物質に対する吸着特性が原料である木材に依存することが明らかとなった。また木材同様木炭、WCにおいても前処理として塩の水溶液や各種機能水の蒸気と接触させた場合、揮発性有機化合に対する吸着特性を制御できる可能性が示唆された。
著者
中澤 克昭
出版者
長野工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

研究期間最終年度となる今年度も、尊経閣文庫をはじめ、国立公文書館、宮内庁書陵部、蓬左文庫、静嘉堂文庫などに所蔵されている故実書類を閲覧・調査した。また、慶應義塾図書館(魚菜文庫)、金沢市立玉川図書館近世資料館(加越能文庫)の所蔵史料は複写を入手。松本市文書館では小笠原流故実書の写真を閲覧した。さらに、石川文化事業団お茶の水図書館(成簣堂文庫)所蔵の小笠原家文書に「矢開文書」と題された故実書類があることを確認。閲覧・調査により、室町殿や細川氏の矢開に関する貴重な史料群であることが判明し、公家文化との差異が明瞭な武家の狩猟と狩猟儀礼「矢開(矢口開)」の変化についても考察することができた。摂家将軍も親王将軍も狩猟を行なった形跡は無いが、北条泰時・経時は鹿を獲物とする矢口祭を行なっており、北条氏にとっても狩猟は重要な政治文化だった。ところが、室町期には鳥を獲物とする矢開の故実が流布し、室町殿も雀を獲物として矢開を行なっている。そうした鳥の故実は室町期に形成されたのではなく、北条得宗家において創始されていたと考えられ、近世の故実書が引用する徳治二年(1307)の矢開の日記によれば、得宗家で雀の矢開が行なわれていた。武家首長の矢開は中世に一貫してみられたが、その獲物は十三世紀後半以降、鹿から鳥へと変化していたのである。武家首長の公家化という面だけでなく、武家文化の変容についても考えてみることが重要であろう。この研究成果の一部は、2005年11月、「武家の狩猟と矢開の変化」と題して、史学会(東京大学)第103回大会日本史部会(中世)において発表した。
著者
大澤 聡
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

戦前期、とりわけ1920-30年代日本の文学・思想をめぐるメディア環境を精査する分析作業を進めた。具体的には、主に以下の論文群を執筆・発表した。1.論文「雑誌『経済往来』の履歴-誌面構成と編集体制」では、戦前期の四大総合雑誌のうち最後発誌である『経済往来』(『日本評論』の前身)に焦点を当てることで、<総合雑誌>概念を析出した。誌面構成と編集体制の変容過程を資料的に明らかにし、雑誌間の影響関係を梃子として言論モードの変遷を辿るための足がかりを獲得した。2.論文「私批評と人物評論-一九三〇年前後の文芸批評にみる人称消費の構造」では、「私批評」と「人物評論」という、異なる文脈から1930年代前半に同時に隆盛した二つの批評スタイルをつきあわせることで、当時の批評環境を総合的に捉え返した。とくに、本研究が着目する「有名性」がより直接的に商品として表現される「人物評論」についての分析を行なう過程で、書誌解題「『中央公論』「街の人物評論」欄一覧-付・解題」を整理・発表した。3.共著『一九三〇年代のアジア社会論-「東亜協同体」論を中心とする言説空間の諸相』に収録した論文では、メディア分析を思想史研究に接続することで、当時の言説空間のより立体的な構造把握を試みた。とりわけ複数の固有名間の連鎖関係の解析に力点を置き、従来の思想史叙述の相対化を図つた。なお、関連書誌として「舩山信一書誌-日中-太平洋戦争期(1937-45年)編」を作成・発表した。4.論文「[研究展望]「雑誌」という研究領域」では、雑誌分析の方法論を概略的にまとめ、個々の記事コンテンツではなく「雑誌」というメディアそのものをテクストして分析対象に設定する意義を提起した。
著者
高杉 紳一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

医療介護現場での移乗動作には,複雑で3次元的な身体操作が必要なため,患者や高齢者の転倒リスクと,介護者側の身体負担が問題となっている.我々は安全かつ容易な移乗法を創案するとともに,専用の移乗・移動支援装置を設計し,さらに日常生活活動をも支援できる電動車いすロボットとして開発を進めた.最終年度までに試作機を製作して試乗テストや動作解析を行い,従来製品と比較しつつ,製品化へ向けて改良を行った.
著者
中埜 良昭 高橋 典之 崔 琥
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の主目的は,無補強組積造壁を有するRC造建物の被災度判定手法の実用化に供するデータをその縮小モデルを用いた破壊実験を通じて収集・分析することで,ここではその第1段階として被災度判定手法の確立に不可欠であるRC造架構に内蔵された壁体のせん断力および破壊メカニズムを詳細に評価するため,面内方向への静的載荷実験を実施した。その結果,本実験の特徴の1つである各組積ユニットに貼り付けた3軸歪ゲージのデータから壁体に作用する対角圧縮ストラットの形成角度や等価幅などを詳細に評価することができた。また,これらの検討結果および別途に実施した組積ユニットの材料試験結果に基づき壁体の負担せん断力を算定し,架構全体の荷重-変形関係を精度良く再現することができた。
著者
鈴木 剛
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

震災などの災害発生後に,被災状況の把握に必要な情報を収集する無線センサネットワークを移動ロボットにより展開するための,センサノードの運搬・配置機構の開発を行った.特に本課題では,障害物等により進入不可能な隔離空間に,遠隔操作型レスキュー移動ロボットにより無線センサノードを投擲配置するための投擲機構,および,有線のセンサノードを用いた投擲距離調整機構を開発し,実験により評価した.
著者
関場 亜利果
出版者
筑波学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は美術運動が産業デザインの発展と多様性に寄与した一つの様相を明らかにする事を目的とし,1960年代にイタリアで発祥した美術運動アルテ・プログランマータ(Arte Programmata)を研究対象とした。この美術運動は当時先進的な情報科学技術であった「プログラミング」を芸術へ応用することを試み,ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)とウンベルト・エーコ(Umberto Eco)が企画した展覧会がヨーロッパとアメリカ各地を巡回,美術史においてキネティック・アートと位置づけられている。2008年度にイタリアとドイツで現地調査を行い,イタリア人作家ブルーノ・ムナーリ,エンツォ-マーリ(Enzo Mari),ジェトゥリオ・アルヴィアー二(Getulio Alviani),グルッポT(Gruppo T),グルッポN(Gruppo N)について資料収集した。2009年度はこれら作家がグラフィック・デザインやプロダクト・デザイン的な作品も制作していく点に注目しその背景と要因について考察した。具体的には,この運動がデザイン文化に力を入れるオリヴェッティ社の支援で始まった事,制作過程で工業生産という手段に関わる事,多くの作家が当時急速に産業都市として発展したミラノに関わりがあった事,作品のコンセプトとして「オブジェ」「マルチプル」というキーワードを掲げ,思想的背景として旧来の芸術への批判精神から「共同研究」「共同制作」を行い,従来の芸術と異なる観客との関係を模索していた事,一人の享受者ではなく大衆へ開かれた作品を目指していたこと等である。また,こうした立場を国際舞台で他芸術家や研究者らと交流・議論し再確認した「新しい傾向」への参加が後の制作姿勢に影響を与える過程を調査した。本研究は,他国のキネティック・アートに見られない特徴,デザインへの展開の過程を考察し,美術史的視点のみにとどまらない文化的側面から再考察した点に意義が有る。