著者
狩俣 繁久
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、東京大学名誉教授柴田武が1970年から1975年までの6年間に宮古島平良市で調査して得られた宮古平良方言資料に記載された方言語彙(「柴田ノート」)をパソコンに入力して整理し、録音した。(1) 総語数1万1千のうち、重複を整理し、6千5百に確定した単語について、宮古平良市で、柴田武東大名誉教授が調査した立津元康さんと同じ平良市下里出身の話者の方言を録音した。病気等で録音ができなくなった話者にかわって、新たに話者を選定し直した。下地明増(大正7年生)、下地文(大正12年生)のお二方で、ともに下里生まれで下里育ちで、現在も下里に在住の方である。(2) 録音場所は前年度にひきつづき平良市中央公民館和室を利用した。録音は、蝉の声などの雑音がなく、遮音のために部屋を閉め切っても暑くない冬を選んだ。録音は若干の補足調査をのこしてほぼ終了した。(3) その方言語彙を録音資料の音質、および保存性にすぐれているDAT(デジタルオーディオテープ)とMD(ミニディスク)を使用して録音した。MDは補助的な録音である。(4) 「柴田ノート」から25年経っていて、現在の話者が知らないと答える語も少なくなかったし、発音の変化した単語も若干みられたが、全体に影響をあたえるほどのものではなかった。(5) 録音された音声をもとに平良方言の音声の詳細な分析をおこない、類似の音韻体系をもった、おなじ宮古諸方言の下位方言の調査もおこなった。
著者
五味渕 典嗣
出版者
大妻女子大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本課題の最終年度である平成19年度は、前年度からひきつづいて研究環境の整備を図る他、具体的な成果の公表を見据え、積極的に資料の集積を行い、特に台湾で発行されていた日本語週刊新聞の記事分析・データベース化を進めた。平成19年8月には、植民地期台湾の日本語文学を専攻する和泉司氏(慶應義塾大学日本語・日本文化教育センター非常勤講師)を研究協力者として委嘱、台湾・台北に出張し、国立中央図書館台湾分館・国立台湾大学図書館での調査を行い、資料の補足と週刊新聞の紙面分析に必要な情報収集につとめた。その成果は、「対抗的公共圏の言説編制-『新高新報』日文欄をめぐって-」(『大妻女子大学紀要-文系-』40号)にとりまとめた。また、本課題で集積した資料体のうち、1920年代〜30年代の新聞学・広告論にかかわるものは、関連する研究課題である「改造社を中心とする20世紀日本のジャーナリズムと知的言説をめぐる総合的研究」(基盤研究(C)、課題番号17520126、研究代表者:松村友視慶應義塾大学教授)における研究の相互乗り入れ的な進展にも、積極的に活用した。この他、植民地時代の朝鮮半島で発刊されていた日本語逐次刊行物について、大妻女子大学文学部草稿・テキスト研究所の調査研究費を活用し、韓国・ソウル市に出張、ソウル大学中央図書館での調査を行った(平成20年2月)。当時の半島各地に存在していた新聞の所蔵状況についてはいまだ明確な成果は出ていないが、1930年前後の朝鮮・満州で発行されていた逐次刊行物にかかわる二次的な資料を研究資料として収集することができた。東京を中心とする情報ネットワークとは異なる、旧植民地地域独自の日本語言説の生産・流通・受容のサイクルを考えるうえで、今後、さらなる発展的な研究に向けた重要な足がかりを作ることができたと考えている。
著者
佐藤 俊英 岡田 幸雄 宮本 武典
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

1.ウシガエルの生体内味細胞及び単離味細胞を用い、電気生理学的方法によって、味細胞に存在するイオンチャネル・ポンプの種類及び味刺激の種類によるトランスダクション機構の相違を究明した。2.味細胞膜には、Naチャネル、Ca活性Kチャネル、遅延整流性Kチャネル、一過性Kチャネル、内向き整流性Kチャネル及びNaチャネルなどの電位依存性チャネルが存在する。3.NaClに対するトランスダクション機構には、味受容膜のカチオン及びアニオンチャネルと基底外側膜のTTX非感受性Naチャネルが関与する。4.苦味のQーHClに対するトランスダクションには、細胞内Cl^ーの味受容膜Cl^ーポンプを通っての分泌が関与する。5.甘味のガラクト-スに対するトランスダクションには、味受容膜を通っての細胞内OH^ーの流出か表面液のH^+の流入、または両作用が関与する。6.酸味のHClに対するトランスダクションには、基底外側膜に存在するチャネルやポンプは直接関与せず、味受容膜に存在するCaチャネルおよびプロトンポンプが関与する。前者の関与の程度が大きく表面液にCd^<2+>などのCaチャネルブロッカ-の添加で酸の受容器電位は大幅に減少する。7.単離味細胞の味受容膜にce11ーattached状態でパッチ電極を置きその一本の電極で電流の記録と味刺激を同時に行って、イオンチャネルの種類を検討した。NaCl刺激のトランスダクションには、受容膜に存在するカチオンに対する選択性の弱いKチャネルが関係することが明らかになった。
著者
内出 崇彦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度の研究で、断層すべりインバージョン解析によって得られた成長期から衰退期への移り変わりを捉えた。その移り変わりの際にどのような過程が進行しているのか、明らかになっていない。そこで、破壊過程のわずかな消長を捉えるために、震源における高周波地震波放射の時間的空間的な特徴を調べる手法を開発し、これまでの結果と合わせて地震の破壊成長過程の特徴を幅広い時間・空間スケールで記述することを試みた。手法としては、整合フィルタ解析法を応用した。これは、検出したい時系列データと似た部分を複雑な時系列から見出すために、両者の時刻をずらしながら相互相関係数をとっていき、高い相互相関係数を得られるところを検出するものである。本研究では、大地震と小地震の波形を高周波帯域(例えば、4-16Hz)で比較することで、高周波放射を見出すことを目指した。この手法を利用するための計算機コード開発と確認のためのテストを行った。次に、開発した手法を2004年米国パークフィールド地震(M6.0)に適用して、同地震の高周波放射源の特定を目指した。その結果、破壊開始点から北西に8km程度のところで、破壊開始からおよそ3秒後に高周波地震波が放射されたことが推定された。2004年パークフィールド地震は、主に2つの主要な破壊領域からなると知られているが、今回推定された高周波地震波放射源は、その2つ目が破壊し始めるところに相当する位置にある。ただし、さらに議論を深めるには更なるデータが必要であり、今後はよりデータの充実した日本の地震に取り組む予定である。本年度、その足がかりをつくったことには大きな意味がある。
著者
中村 逸郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、モスクワ市内に発生している住民紛争を調査しました。その内訳は、以下のとおりです。(1)共同アパートの住人の間での紛争(2)アパートを取り囲む鉄柵をめぐるアパート住人と周辺住民の間の紛争(3)高級分譲マンション建設と周辺住民の間の紛争(4)アパート修繕をめぐる住人の間の紛争(5)高層ビジネスビル建設をめぐる政財界と近隣住人の間の対立。以上の5つの住民紛争を具体的に取り上げ、関係者にインタビューし、文書と資料を入手しました。住人たちが身近な自治体に紛争の解決を要請しても、多くの場合自治体は権限がないことを理由に、問題を放置しています。今回の調査で判明したのは、住民たちが日常問題をロシア大統領府住民面会受付所に提出していることです。実際に大統領府を訪問すると、ロシア全土からたくさんの住民たちが直訴状を持参しているのです。そこで、住民たちにインタビューを行いました。人びとは身のまわりの地域社会で発生する社会問題をロシア大統領に直訴し、最終的には大統領に裁定を委ねています。地域社会でコミュニティーが登場し、地域社会の問題に深く関つてきていますが、そうした人びとの自立的な動きは皮肉にも、最高権力者の権力基盤を強化しているのです。本研究の成果は、中村逸郎著『帝政民主主義国家ロシアープーチンの時代-』岩波書店、2005年に収められています。
著者
吉田 勝平
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

エネルギー変換用蛍光色素の開発を目的として新規複素多環系固体発光性色素を分子設計・合成し、これら色素の溶液状態および固体状態における光物性を測定し、固体発光性とX線結晶構造の相関性を追究した。さらに、色素を高分子樹脂中に含有させた蛍光フィルムを試作し、それら光物性や耐光性を評価した。蛍光フィルムは優れた波長変換機能と良好な耐光性を示し、太陽光や人工光の波長分布を簡便に調整できることがわかった。
著者
田坂 敏雄
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

バンコク・ファッション・シティ計画とは、ファッション産業関連3業種の国際競争力強化を狙った産業政策である。本報告の第1章では、バンコク・ファッション・シティ計画とは何かを追究する。本報告では、11のサブ・プロジェクトの目標と課題を示し、現在、どのように取り組まれているかを解説した。同計画は「人の創造」や「まちの創造」だけでなく、何よりも「ビジネスの創造」である。「ビジネスの創造」とはファッション関連3業種である繊維・衣料産業、製靴・皮革産業、宝石・ジュエリー産業の競争力を強化する計画である。そこで、第2章では繊維・衣料産業を取り上げ、この産業を取り巻く国際状況を概説する。そして衣料産業がサプライチェーンを改善し、グローバリゼーション時代に対応する構造改革に取り組んでいる状況について解説する。第3章は宝石・ジュエリー産業の現状と競争力強化計画を取り上げる。バンコク・ファッション・シティ計画は、産業競争力の強化計画の中でも、とくに人材の育成に力をおき、デザイン力やブランド開発に結び付くことを狙ったものである。それは、タイの宝石・ジュエリー産業がもはや下請け生産や委託生産では生き残ることが出来ず、デザイン力やブランドを開発して直接的に消費者に結び付くことを企図したものである。第4章では製靴・皮革産業を取り上げる。製靴・皮革産業の競争力強化プログラムの特徴は、国際的な下請け生産の基地から自前のデザインやブランドの創造を目指し、専門家による個別のビジネス・プランを提案しているところにある。また、バンコク・ファッション・シティ計画に関する資料と、AFTAの影響について考察したタイ開発研究所(TDRI)の3つの報告書を翻訳した。タイ工業連盟(FTI)は、「AFTAの発効がタイのファッション産業にどのような影響を与えるか」について、タイ開発研究所に調査を依頼した。タイ開発研究所は、ファッション産業を(1)繊維・衣料産業、(2)宝石・ジュエリー産業、(3)皮革産業に分け、それぞれの産業実態と国際競争力について調査し、1996年にタイ工業連盟に答申した。本報告書では、その3本の報告書の翻訳を納めている。また、「バンコク・ファッション・シティ構想に関する資料」では、タイ工業連盟の機関誌に載った論文とインタビュー記事、『トラキット・カーウナー』誌の特別論文、そして産業振興局の『ウサハカム・サーン』誌の論文の計4本を翻訳・紹介したものである。これらの論文やインタビュー記事により、バンコク・ファッション・シティ計画の基本的内容を掴むことができるのではないかと考える。
著者
米倉 誠一郎 島本 実 崔 裕眞 宮崎 晋生 平尾 毅 川合 一央 星野 雄介 清水 洋
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究プロジェクトは、日本企業の製品開発における外部の経営資源の活用を考察することを目的としたものであった。特に、近年になり外部の経営資源を活用した価値づくりは、「オープン・イノベーション」として大きな注目をあつめるようになった。本研究プロジェクトではオープン・イノベーションを中心として研究を進め、日本企業の課題を分析してきた。より具体的には異なる企業間のコラボレーションを上手く進めるための組織体制や、外部の経営資源を活用する上での戦略などを議論してきた。それらの一部は『オープン・イノベーションのマネジメント』として2015年に出版された。
著者
河口 洋一郎 橋本 康弘 堀 聖司 原田 隆宏 米倉 将吾
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、鑑賞者と投影画像に対してスクリーン自体が凹凸運動によって連続的・有機的かつダイナミックに反応する事が可能な、新しい映像装置システムの開発、および展示実験を通した評価を行った。スクリーンの形状は、連結・分割可能で自立可能なことから日本の伝統的な什器「屏風」の形状を目標とした。H17年度においては、まず凹凸スクリーン上に投影するCG画像生成、および、レンチキュラー方式による立体視CG画像の生成に関する研究・試作を行い、鑑賞者の動作・視線の変化に応じて画像が変容する屏風の視覚効果について実験を行った。また、並行して凹凸反応するスクリーンの概念設計のための基礎研究を行い、格子状に並べた直動アクチュエーターによってスクリーンの凹凸形状を制御する駆動システムの動作実験を繰り返し、実機制作のための知見を得ることができた。続くH18年度においては、小型エアシリンダによってスクリーン表面の凹凸を駆動するシステムの実装を行った。完成した凹凸スクリーンはACM-SIGGRAPH2006のアートギャラリー部門にエントリーして受理され、国際大会の会場にて展示、発表を行い、大きな成果を収めることができた。H19年度においては、スクリーンのコンテンツとして流体と生物的造形物の相互作用シミュレーションが非常に効果的であったため、コンテンツの作成に重点を置いて研究を行った。また、大規模な展示をACM-SIGGRAPH2007において行い、この新しい画像装置システムが観衆に対してどのような影響を与えるか、定性的な実験を行った。H20年度においては、スクリーンにより提示される立体感と、実際の立体物に対する立体感との比較を行うため、幾つかの立体物を構築し、印象の差異を中心に定性的に比較した。さらに、ASIAGRAPH 2008, ACM-SIGGRAPH2008アートギャラリー等に出品し、広く成果報告を行った。
著者
平塚 良子 植田 寿之 藤田 博仁 久保 美紀 戸塚 法子 牧 洋子
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、福祉サービス利用者の生活事象を環境との関係で捉えるために多次元的・全体的・総合的に把握するエコマップ(eco-map)の評価尺度の開発を行い、利用者の生活支援に資することにある。加えて、人間と環境との関係理論の構築をも遠望している。研究方法は開発した評価尺度(評価モデル)をソーシャルワーカーに実験的に適用してもらい、評価尺度の妥当性、客観性、信頼性等々を図りつつ安定した評価モデルを導き出すというものである。最終年にあたる今年度の成果の特徴は、下記の通りである。1)評価モデルの最終的な精査を行い、最終版の評価モデルを導き出した。方式は初年度のデジタル型の方式を採った。物理的環境概念をより反映させ、評価の妥当性を高めるために評価尺度には「非該当」を導入した。2)評価において正確さを高めるために、(1)「エコマップ評価簡易版」と(2)評価項目、評価基準等の詳細な説明を加えた「評価ブックレット」を作成した。3)最終版評価モデルを、2)を活用しつつソーシャルワーカー(19名)が実践事例に適用するようにした。評価モデルとしては、おおむね安定性を保持することができ、本研究の評価尺度開発はおおむね目的が達成できた。4)適用結果の分析デザインにはデジタルやアナログ的発想を採り入れた。(1)評価項目と環境とをクロスさせつつ分析するアナログ方法、(2)評価項目4群に分けて図式作成し相関させつつ評価点から分析するアナログとデジタルの混合的方法、(3)試みとして実践の1事例を統計的に分析するデジタル的方法。分析手法の開発は今後の課題。5)人間と環境との関係についての全体的な特性が抽出できた。今後より詳細な分析を図りたい。6)本研究は、評価尺度開発が中心となったが、今後、集積した事例数を総合的に分析する手法の開発を手がけ、人間と環境との関係理論の構築を図りたい。(以上の詳細については研究成果報告書に記載)
著者
土肥 秀行
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

初年度に行ったローマ国立図書館や国内における資料収集によって、テーマであるイタリアの短詩形における日本の詩の影響に関して、重要な役割を演じたのが下位春吉であることを確認した。その結果は「イタリア図書」誌上における2度の連載にあらわれている。今後、出版を目指していく下位についての単行本において、日本の詩の影響についてまとめられるだろう。初年度より継続して行ってきた、イタリアにおいてもっとも有名な歌人である与謝野晶子の受容についての調査は、その成果が論考「近代歌曲の詩人たち」にまとめられた。前衛である日本の詩歌の音楽との親和性について触れた論となった。年次計画に記したとおり、フィレンツェ大学の日本文献学講座の主任である鷺山郁子教授との共同研究「日本・イタリア詩の韻律の比較」(2001年より実施)の最終成果を、11月にボローニャ大で行われた国際シンポジウムの折に、鷺山教授の発表に協力するかたちで実現することができた。この国際シンポジウムでの発表において、パゾリーニの日本での受容を紹介するだけでなく、20世紀初頭から訳されてきた日本文学の少なからぬ恩恵をパゾリーニが受けたことを示せた。よってパゾリーニという特定の作家研究だけでなく、現代イタリア文学史の広い範囲に影響する重要な指摘としてイタリアの研究者に受けとめられた。また日本文学史家であるローマ大学のオルシ教授、マストランジェロ教授とは、11月のローマ大学でのワークショップの際に、下位の文学活動の実際の影響力について貴重な意見交換ができた。短詩形をもっとも革新的に用いた詩人ウンガレッティについての資料の精査は、これから一連の論考として発表していくが、まずは1月の口頭発表「初期ウンガレッティとハイク」に成果の一部が紹介された。2月にはボローニャ大学イタリア文学科にて、ステファノ・コランジェロ教授との共同研究の成果発表の場として、20世紀文学における翻訳の問題についての特別講義を行った。専門家の評価だけでなく学生の関心も高く、今後も継続してボローニャ大研究者との共同研究を続けていくことになった。
著者
渡部 幹 山本 洋紀 清水 和巳 番 浩志 山本 洋紀 清水 和巳
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

制度の維持と変容を司る心理変数について、それらがどのような役割を果たしているか、そしてそれが制度とどのように関係しているかについて、3つの実験シリーズを行った。それぞれ、公共財における懲罰行動の分類とその行動に対する評価、他者の信頼性を判断する際の脳の賦活動、公正分配の規定要因、についての研究を行った。その結果、交換ネットワークの流動性や懲罰についての共有理解がそれらに影響を及ぼし、制度の生成基盤になる可能性が示された。
著者
林 直保子
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度には、平成18年度に引き続き、他者一般に対する信頼の生成プロセスを検証するための、全国調査を行った。平成18年度調査では、全国の満20歳以上の男女とし、各市町の住民基本台帳より、層化二段無作為抽出法を用いて2000サンプルを抽出し、66.3%の回収を得た。このデータを用いた分析により、一般的信頼の高低は、制度への信頼により大きく規定されていること、また制度への信頼は、格差感により強く影響されていることが明らかにされた。平成19年度には、電子住宅地図を用いた層化3段無作為抽出法を用いて全国調査を行った。社会調査を取り巻く環境の変化により、住民基本台帳等を用いたサンプリングが年々困難になっており、今後の調査の展開を見据えて、サンプリング方法の違いによるデータの偏りについて検討することも目的の一つとした。19年度調査に関しては、現在データ分析の途中ではあるが、18年度調査の結論と一貫した結果が得られている。2つの調査のデータは、今後国勢調査のメッシュ統計とマッチングした上で、個々人の社会経済的背景だけでなく、所得の地域間をも考慮に入れた上で、信頼の生成プロセスの総合的な検証に用いられる。また、平成19年度には、上記全国調査と平行して、特定の地域内における信頼と社会的ネットワークの連関構造を分析するために、兵庫県有馬町において留め置き調査を行った。その結果、強い社会的ネットワークが信頼を高めるというこれまでの知見と一貫する結果が得られたが、社会関係資本の構成要素のひとつである互酬性の規範と信頼との間には相関関係がみられなかった。
著者
増田 周子
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近現代の関西文壇や出版の状況は、まだ全貌が分からないことが多い。本研究では、関西の出版や文壇の状況を把握することを目的とし、海外文壇が関西の作家や出版状況に与えた相互影響関係や、関西の作家と中央文壇(東京)とのつながりについて研究した。明治、大正、昭和期における関西文壇や関西の出版文化が、どのような文化的背景の中で生まれ、東京などの中央文壇や、海外の文学状況と相互に関わりながら、成立し、発展していったのかを調査研究した。関西の作家は、東京の文壇にも進出し、多大な影響を及ぼした。また、海外の中でも、本研究では、とりわけ中国、台湾における関西の作家の役割が一部明らかとなったことは成果といえる。
著者
片岡 崇 TOLA EIKamil TOLA ElKamil
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,不耕起播種のための精密播種方法の確立である。平成19年度も,ロータリ耕うん機で耕うんしたほ場と2通りの硬さで締め固めた不耕起相当の計3ほ場を準備し,各ほ場における作物生育状況を観察,計測した。栽培した作物は,大豆(品種:テイスティ)とビート(品種:スコーネ)である。また,不耕起栽培に適した播種溝の形状を検討した。播種深さをアクティブ制御できる機構を播種機に取り付けた。1.作物栽培大豆について,1個体当たりの莢数と豆数は,耕起ほ場と比べて,不耕起ほ場の方では少なかった。しかし,単位面積当たりの収穫量(質量)には,ほ場間の統計的な有意差は認められなかった。ビートについて,根部の重量は,平均値では耕起ほ場が良かった。しかし,ほ揚間に重量,長さ,糖度に統計的な有意差は認められなかった。生育状況の視覚的観察では,明らかに両作物とも耕起ほ場の方が生育が良かった。平成19年は,暑い夏であり,作物の生長が良い年であった。このため,収穫量に差が現れなかったと考えられる。この観察と統計処理の結果の違いに関しては,今後検討する。2.不耕起用播種溝形成機構の評価供試した溝切り機は,ディスク型,ホー型,タイン型の3種類である。土壌を不耕起状態のように調整して,溝切り実験を行った。形成された溝の形状を,レーザーラインスキャナーで計測し,3次元表示した。結果,タイン型の溝切り機が,土壌硬度,溝切り深さに関係なく安定した溝の形を形成した。3.播種深さ制御システムの開発不耕起ほ場に播種をする際,ほ場表面の凹凸が作業性能に影響する。このために播種機構部分に油圧シリンダーを取り付け,ほ場表面の凹凸に対してアクティブに高さ方向の位置制御を行う機構を構築した。
著者
谷口 郁雄 田中 英和
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

聴覚中枢損傷後の機能的な回復に関する基礎的な情報を得ることを目的として、脳の中でも再生した神経線維が再びシナップスを形成するかどうか、もしシナップスが再形成された場合には、その機能的性質は正常なシナップスと比べてどのような違いがあるのかという点について、マウスの下丘交連を矢状断し、その後の神経線維の再生の現象を利用して形態学的および生理学的な方法により検討した。その結果、次のことが明らかとなった。(1)金属およびガラス電極を用いた微小電極法による実験から、切断された交連線維は再生し、タ-ゲットである下丘で再びシナップスを形成することが確認され、再形成されたシナップスの機能的性質については、音刺激に対する応答を抑制するものが主で、加算的なものも少数認められた。(2)抑制性シナップスが認められることは再生した交連線維が下丘に対して抑制性の介在ニュ-ロンにも結合することを示している。(3)再形成されたシナップスは正常群と比べると下丘の比較的表層に分布する。(4)再生した下丘交連の神経細胞をペロキシダ-ゼでラベルすると、正常群に比べて軸索の走行はかなり乱れていた。(5)以上の結果は下丘において再形成されたニュ-ロン・ネットワ-クが多様であることを示唆する。シナップスの機能に関しては正常群と比べて大きな違いは統計学的にはないと思われるが、再生した軸索は走行が乱れるので、下丘のシステムとしての機能には微妙な変化が起こっていると考えられる。
著者
福嶋 正純
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

18世紀後半における大道歌の語りの部分と歌の中には未婚の母による嬰児殺人を主題とするものが多数みられる。嬰児が無残な殺され方をすることも少なくないが、罪は専ら女性の性的ふしだら、官能的快楽の追求にあるとされて誘惑する男性の罪を咎めることは殆んどない。大道歌の公演は当局の厳しい検閲を受けるため庶民の困窮の基盤となる政治体制批判、差別問題は全くとりあげられず、批判の的は専ら弱者に向けられる。一方時代思潮を先どりしているシュトルム・ウント・ドラング時代の文学作品は、誘惑する男性の罪が弾がいされ同時に貧困に苦しむ民衆を描いて社会批判を鋭く行なっている。大道歌においては事件や犯罪の原因を厳しく追求する事は稀で悲惨な事件の描写に終止する。苦難の生活を強いられている庶民は、罪を厳しく問われて処刑される犯人の物語、鉱山事故、大災害の描写を耳にし、災難をまぬがれている自分を幸せと感じ、自分は人生をもっと幸せに送っていると考えて自己満足に浸る。大道芸人の語りは庶民に安っぽい同情と満足感を呼び起こし、処刑される犯人への同情などは焔情的な事件を垣間みたいと言った残忍な気持と表裏一体をなしている。大惨事の描写においては事故や災害の原因は追求されず全ては運命の糸の導きとして諦められる。神を恨んだり神の仕業に疑念を抱くことはなく、神は常に善行を報い正義を許えてくれるものとなる。この世の罪悪が神の所業とされることはなく事件や犯罪行為は神の責任の範囲外にある。神はこの世の運命、摂理の良い面だけを代表するのであって人間世界を支配する最高神とはならない。大道歌で語られるのは基本的にキリスト教徒の倫理であって善行、誠実、慈悲はキリスト教徒の備えている属性であり、悪行、邪悪、残忍は非キリスト教徒、とり分けイスラム教徒の属性に仕立てあげられていて、トルコ人の非人道的行為を描写する大道歌も数多くみられる。
著者
荻野 綱男
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

現代日本語の名詞シソーラスを作成しながら、語彙の意味分類の多様性についての研究を行った。現在までに、シソーラスを通して現代日本語の名詞の意味分類ができあがりつつあるが、こうして似た意味の単語をまとめてみると、全体が不整号になる現象が発生する。そこで、ある単語のグループを取り出して、そのグループが確かにグループになっているかどうかを検討することにした。シソーラスに関するさまざまな処理はパソコンを用いて行っているが、プログラムなどの整備が進み、シソーラスの効率的な検索を行うプログラムができあがった。このプログラムの完成によって、パソコン上でわかりやすい形でシソーラスが検索でき、またそれを利用してシソーラスのチャックができるというような態勢ができあがった。また、シソーラス全体を圧縮してフロッピーに格納するコマンド、およびフロッピーからハードディスクに圧縮を解除しながら格納するコマンドも作成した。以上の結果、シソーラスをフロッピー版で公開する用意が整った。
著者
藤原 静雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、民間部門を包括的に規律するわが国個人情報保護法の次なる課題(第2世代の個人情報保護法の立法課題)を探ることである。研究期間内に実施した研究の成果は大要以下のとおりである。1.比較法研究(1)個人情報保護をめぐる、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、EU、APECの動向を一通り展望することができた。とくにドイツ、EUについては、現地調査をもとに、運用実態にまで立ち入った分析ができた。(2)諸外国の動向調査は、今後のわが国の立法資料となると考えるし、個人信用情報機関、犯罪と個人情報保護、外国人問題と個人情報保護、マーク制度などの研究は、今後のわが国の個別法制を考える上で参考となると思われる。 '(3)外国の実態調査をもとにしたイギリス・ドイツでの過剰反応問題の分析は、新聞等でも紹介したように、わが国の過剰反応問題を客観的にみることに貢献したと思う。2.国内法制の研究(1)個人情報保護法の各種ガイドライン等の検討を通じて、法の運用実態を分析した。第2世代の立法課題の主要なものは把握できた。(2)安全管理(セキュリティ)についても実態を調査等することで、民間部門を規制する法の在り方を探ることができた。(3)個別法制として重要な、教育、医療、金融についても調査を進めた。とくに、教育分野については、従来の判例答申などを網羅的に検討した。(4)公的分野・私的分野を問わず、法施行後の判例・審査会答申・苦情相談等をできる限り多く収集した。今後の法制の在り方を考える上での基礎作業としての意義は大きいと考える。(5)地方公共団体の個人情報保護条例も主要なもの、特徴のあるものはほぼ検討した。
著者
伊東 正博 中村 稔
出版者
独立行政法人国立病院機構(長崎医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

放射線誘発腫瘍研究の最も大きな課題は放射線特異的な遺伝子異常や形態変化が存在するか否かであり、チェルノブイリ組織バンク症例を用いて解析を行ってきた。事故から20年が経過し周辺地域での甲状腺癌の発生は小児から成人にシフトし依然高い発生率を呈している。チェルノブイリ組織バンクには約2,500症例が登録されて病理組織や遺伝子(DNA, RNA)が保管されている。チェルノブイリ症例では遺伝的・環境的に同じ地域の自然発症例との比較データが欠けていたが、近年、同地域の非被曝小児症例が集債され、放射線被曝特異的な組織型は存在しないことが明らかになってきた。甲状腺癌の約95%は乳頭癌が占め、被曝形態や被曝年齢により様々な形態変化が存在する。乳頭癌の亜型(乳頭状、濾胞状、充実性)頻度に被曝、非被曝群間で差は見られず、手術時年齢により関連していた。そのなかで被曝時年齢と潜伏期によりある程度の形態発現が規定されていた。充実性成分は被曝時年齢よりも短い潜伏期と関連しRET/PTC3変異が高率に観察された。高分化型形態を呈する乳頭癌ではRET/PTC1変異が優位であった。短い潜伏期ほど浸潤性が高く、長い潜伏期ほど腫瘍辺縁の線維化が目立った。BRAF変異は被曝との関係は見られず年齢と強い相関を示し、若年者での変異は低率であった。RET再配列とBRAF変異は相互に排他的であった。乳頭癌の亜型間での細胞増殖指数に有意差は認めなかった。予後は概して良好で5年生存率が98.8%、10年生存率が95.5%であった。組織亜型による差は認めなかった。被曝と甲状腺癌形態の解析には更なる症例集積が必要である。