著者
今満 亨崇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.75, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)

今回は「テレワークとサイバーセキュリティ」に関する特集を企画しました。まずは松下慶太氏(関西大学)に,コロナ禍による労働環境の変化と,そこで利用されているツールについて論じて頂きました。今まさに生じている私達の労働環境の変化について,メタな視点で理解できるとともに,多様なツールが導入されている現状や,新しいツールの可能性について理解を深められるかと思います。業務環境の変化や新しいツールは業務を良い方向へ変革する一方で,セキュリティの観点からは攻撃の機会を増やすことに繋がりかねません。そこで池上雅人氏(キヤノンITソリューションズ)に,最近のサイバー攻撃の動向と対策についてご紹介いただきました。特にランサムウェアとEmotetに焦点を当てた記事となっております。国内でも2022年10月に那覇市立図書館がランサムウェアに感染し,貸出停止などサービス提供に多大な影響を受けた事例1)は読者の皆様の記憶に新しいかと思います。このような被害を出さないよう,最近の攻撃方法や防御方法について理解を深めたいものです。さて,最近の防御方法,つまりサイバーセキュリティについて理解を深めるにあたりキーワードとなってくるのが「ゼロトラスト」という概念です。本特集を検討する際,境界防御型からゼロトラストへ移行する方針を示す例を確認しております2)3)。ただ,組織のネットワーク基盤構成に関する話題であるため,情報システム部門でないとなかなか知る機会がありません。そこで井本直樹氏(インターネットイニシアティブ)に,これらがどのようなものなのかをご解説頂きました。最後に,実際にゼロトラスト導入に関与された木村映善氏(愛媛大学)および,山北英司氏(同志社大学)に,ご経験より得られた知見を共有して頂きました。図書館をはじめとする情報サービス部門では,情報システム部門とは別に独自のシステム調達を行うこともあると思います。木村氏の記事にある「5.これから取るべき方策」は,そういった部署の方々に是非読んで頂きたい内容です。また,ゼロトラストへ移行した場合の研究活動への影響について,山北氏の記事の「5.ゼロトラストへの更なる取り組み」はたいへん示唆に富む内容となっております。特に電子ジャーナルサイトで一般的なIPアドレス認証とゼロトラストとの関係については,どの組織でも必ず問題になるはずです。ゼロトラストへの移行は徐々に進んでおります。読者の皆様の職場が,ゼロトラストへ移行する時に慌てることが無いよう,今回の特集をお役立ていただけますと幸いです。(会誌編集担当委員:今満亨崇(主査),安達修介,鈴木遼香,長谷川智史)1) 銘苅一哲,玉那覇長輝.“本の貸し出しを全館で再開 サイバー攻撃を受けた那覇市立図書館”.沖縄タイムス.2022-10-26.https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1046798, (参照 2023-01-26).2) “総合情報環構想2022”.熊本大学.2022-03-24.https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/katudou/johokankoso/johokankoso_file/johokankoso2022.pdf, (参照 2023-01-26).“学校法人北里研究所報”.北里研究所.2022-01.https://www.kitasato.ac.jp/jp/albums/abm.php?f=abm00036714.pdf&n=%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%B3%95%E4%BA%BA%E5%8C%97%E9%87%8C%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%E5%A0%B1%E6%96%B0%E5%B9%B4%E5%8F%B7%EF%BC%882022%E5%B9%B41%E6%9C%88%EF%BC%89.pdf, (参照 2023-01-26).
著者
松下 慶太
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.76-80, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)

コロナ禍を経てニューノーマルな労働環境が形成されつつある。それらはWFH(Work from Home)からWFX(Work from X)への移行と呼べる。それに伴ってこうしたニューノーマルのワークスタイルを支えるツール群も拡大・充実しつつある。自社でのWFXの環境,また異なる会社・組織,フリーランスとの協働が増えるなかでゼロトラストセキュリティを実現するテクノロジー・サービスの展開が期待される。その上で,位置情報や個人認証など管理社会を支えるテクノロジー(Technologies of Control)とどのように個人,会社・組織,社会が向き合うのかは今後のワークスタイルを考える上で重要な視点となる。
著者
井本 直樹
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.87-94, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)

昨今のテレワークの急速な導入により,「全て信頼できない」ことを前提にするセキュリティモデルが注目を集めている。本論では,従来の境界防御型及びゼロトラストのそれぞれについて,セキュリティ構成とその中でテレワークを実現する代表的な実装手段について解説する。また,「ゼロトラスト」をキーワードとして製品・ソリューションが多数出ているが,代表的なゼロトラストの実装手段の特徴を具体的に述べた上で,「働き方」の変化を踏まえたデジタルワークプレースにより実装するゼロトラストについても解説し,ゼロトラストそのものの理解だけでなく,どのように活用すべきかについても示唆する。
著者
朴 在恩
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.170, pp.92-106, 2018 (Released:2020-08-26)
参考文献数
31

本稿は,日本語教育学研究における調査方法論としてのインタビューに焦点を当て,日本語教育学研究におけるインタビュー研究の変遷と動向を調査し,日本語教育学研究におけるインタビュー研究の今後の方向性を考察する。本調査は,学会誌『日本語教育』創刊号から168号までの掲載論文を対象とし,インタビュー研究を精査,分類したデータベースを構築し,分析したものである。分析の結果,インタビュー研究が初めて掲載されたのは45号 (1981) であった。1980年代から2000年代までインタビュー研究の掲載率が着実に増加しているが,2010 年代に入って急増していることが確認された。また,2000 年代までは実験などを質的に補足する役割をするフォローアップインタビューが主流であったが,2010年代に入ってインタビューを分析データの中心とした研究が増加していることが明らかになった。
著者
木村 映善
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.95-99, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)

サイバー攻撃が激化しつつある一方で,高度情報化社会にむけた要請として,外部システムとの連携の必要性は高まりを見せている。これまでのような閉鎖的な情報空間に安全性の根拠を置く境界型防御の考え方は通用しなくなりつつある。境界型防御の課題を克服するゼロトラストモデルは,ネットワークの安全性ではなく,強固なアクセスの認証,認可,暗号化された通信の強制に信頼の基盤を置く。最も留意すべきリスクとゼロトラストがそのリスクについてどのように対処するかを解説する。そして,これまでのシステムをゼロトラストモデルに適合させるために必要な手続きについて取り組めるような視点を提供する。
著者
熊谷 悠
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.172-176, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
19

計算機性能や計算技術の大幅な向上により,多数の物質に対して系統的・網羅的に第一原理計算を実行することで,データベースを構築することが可能となってきました.この計算材料データベースは,個々の物質に関する計算結果を参照するのみならず,材料スクリーニングや機械学習のデータセットに用いるなど,多様な広がりを見せています.本稿では,計算材料データベースの有用性や既存のデータベースを紹介するとともに,我々が構築した酸化物DBとその応用例を紹介します.
著者
須丸 公雄
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.161-165, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
22

さまざまな細胞治療が普及し,ヒト培養細胞を用いた医薬品アッセイが盛んに検討されている.来たるべき培養細胞の利活用時代に備え,細胞の分別や純化,回収などの操作を自動化すべく,筆者らは光に応答して細胞に作用する変化を遂げる光応答ポリマーを培養基材に用いるスキームを検討した.まず,光に応答して速やかに水溶化するポリマー材料を新規に開発,これを塗布した培養基材上に接着した細胞を,光照射によって生きたまま選択的に剝離回収できることを示した.また,光に応答して酸や熱を発生するポリマーを用いて,細胞を選択除去して純化し細胞単層を切断する「力ずく操作」の実現を実証した.これらの技術を,ヒトiPS細胞の維持培養などに適用した例についても議論する.
著者
村上 雅彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.548-553, 2013-11-20 (Released:2017-06-30)

アルミニウム(Al)は,小さな比重と高い導電性などの優れた特性から工業用金属材料として欠くことのできない元素である。一方有機合成化学においても,有機金属利用の初期から現在に至るまで種々のアルミニウム化合物が有用な反応剤および触媒として用いられており,歴史的にも重要で興味深い応用例が数多く見られる。本講座では,はじめに「Alの化学」を理解する上でのキーポイントとなる元素としてのAlの特徴と,これに基づくAl化合物の一般的性質について述べ,これを軸として有機合成反応での利用(還元剤,ルイス酸触媒およびアルキル化試薬としての作用とその制御)について概説する。
著者
藤田 恵理 清水 美穂 跡見 友章 長谷部 由紀夫 跡見 順子
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第70回(2019) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.155_3, 2019 (Released:2019-12-20)

身体は細胞と細胞が分泌する細胞外マトリクスからなる。老化や慢性炎症状態にある組織ではコラーゲンなどの細胞外マトリクスが沈着・線維化する。線維化した固い皮膚は身体の移動性を制限し日常の不活動の原因になりうるので、身体運動にとって重要である。卵殻膜は古くから東洋において皮膚治療への民間薬として使用されてきた。そこで我々は、可溶化卵殻膜を女性の皮膚に塗布したところ、腕の弾力性や顔のしわを有意に改善することを見出し、可溶化卵殻膜を塗布したマウス皮膚ではIII型コラーゲンが有意に増加した。さらに、特殊なMPCポリマーに結合した可溶化卵殻膜を付けた培養皿上でヒト皮膚線維芽細胞を培養する実験系を設計し、可溶化卵殻膜環境ではIII型コラーゲンなどの若い乳頭真皮を促進する遺伝子が誘導された。若い皮膚と同様のIII型/I型コラーゲン比(80%:20%)のゲルはI型コラーゲン100%ゲルよりも高い弾性をもたらし、そのゲル上のヒト皮膚線維芽細胞は高いミトコンドリア活性を示した。卵殻膜はIII型コラーゲン等の細胞外マトリクスの発現を誘導し、組織弾性の喪失を減少させることにより、身体活動を改善するために使用することができると考えられる。
著者
Daiki SAITO Jeyeon KIM Tetsuya MANABE
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences (ISSN:09168508)
巻号頁・発行日
pp.2022EAP1027, (Released:2022-09-06)

Currently, the proportion of independent travel is increasing in Japan. Therefore, earlier studies supporting itinerary planning have been presented. However, these studies have only insufficiently considered rural tourism. For example, tourist often use public transportation during trips in rural areas, although it is often difficult for a tourist to plan an itinerary for public transportation. Even if an itinerary can be planned, it will entail long waiting times at the station or bus stop. Nevertheless, earlier studies have only insufficiently considered these elements in itinerary planning. On the other hand, navigation is necessary in addition to itinerary creation. Particularly, recent navigation often considers dynamic information. During trips using public transportation, schedule changes are important dynamic information. For example, tourist arrive at bus stop earlier than planned. In such case, the waiting time will be longer than the waiting time included in the itinerary. In contrast, if a person is running behind schedule, a risk arises of missing bus. Nevertheless, earlier studies have only insufficiently considered these schedule changes. In this paper, we construct a tourism application that considers the waiting time to improve the tourism experience in rural areas. We define waiting time using static waiting time and dynamic waiting time. Static waiting time is waiting time that is included in the itinerary. Dynamic waiting time is the waiting time that is created by schedule changes during a trip. With this application, static waiting times is considered in the planning function. The dynamic waiting time is considered in the navigation function. To underscore the effectiveness of this application, experiments of the planning function and experiments of the navigation function is conducted in Tsuruoka City, Yamagata Prefecture. Based on the results, we confirmed that a tourist can readily plan a satisfactory itinerary using the planning function. Additionally, we confirmed that Navigation function can use waiting times effectively by suggesting additional tourist spots.
著者
Hiroaki Shimizu Naoko Mori Shunji Mugikura Yui Maekawa Minoru Miyashita Tatsuo Nagasaka Satoko Sato Kei Takase
出版者
Japanese Society for Magnetic Resonance in Medicine
雑誌
Magnetic Resonance in Medical Sciences (ISSN:13473182)
巻号頁・発行日
pp.mp.2022-0091, (Released:2023-03-01)
参考文献数
43
被引用文献数
2

Purpose: To evaluate the effectiveness of the texture analysis of axillary high-resolution 3D T2-weighted imaging (T2WI) in distinguishing positive and negative lymph node (LN) metastasis in patients with clinically node-negative breast cancer.Methods: Between December 2017 and May 2021, 242 consecutive patients underwent high-resolution 3D T2WI and were classified into the training (n = 160) and validation cohorts (n = 82). We performed manual 3D segmentation of all visible LNs in axillary level I to extract the texture features. As the additional parameters, the number of the LNs and the total volume of all LNs for each case were calculated. The least absolute shrinkage and selection operator algorithm and Random Forest were used to construct the models. We constructed the texture model using the features from the LN with the largest least axis length in the training cohort. Furthermore, we constructed the 3 models combining the selected texture features of the LN with the largest least axis length, the number of LNs, and the total volume of all LNs: texture-number model, texture-volume model, and texture-number-volume model. As a conventional method, we manually measured the largest cortical diameter. Moreover, we performed the receiver operating curve analysis in the validation cohort and compared area under the curves (AUCs) of the models.Results: The AUCs of the texture model, texture-number model, texture-volume model, texture-number-volume model, and conventional method in the validation cohort were 0.7677, 0.7403, 0.8129, 0.7448, and 0.6851, respectively. The AUC of the texture-volume model was higher than those of other models and conventional method. The sensitivity, specificity, positive predictive value, and negative predictive value of the texture-volume model were 90%, 69%, 49%, and 96%, respectively.Conclusion: The texture-volume model of high-resolution 3D T2WI effectively distinguished positive and negative LN metastasis for patients with clinically node-negative breast cancer.
著者
大西 将史
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.171-184, 2008-01-01 (Released:2008-03-30)
参考文献数
46
被引用文献数
13 8

本研究の目的は,第1に従来の罪悪感尺度を取り上げ,それらの測定している概念を整理することである。その上で第2に,特性罪悪感を測定する多次元からなる尺度 (TGS) を作成し,その信頼性および妥当性を確認することである。精神分析理論に依拠し,特性罪悪感の下位概念として「精神内的罪悪感」,「利得過剰の罪悪感」,「屈折的甘えによる罪悪感」,「関係維持のための罪悪感」の4つを設定し項目を収集した。合計793名の大学生に質問紙調査を行った。探索的因子分析および確認的因子分析の結果から,仮定した4因子モデルの妥当性が確認された。α係数,再検査信頼性係数は十分な値を示し,信頼性が確認された。また,PFQ-2-guilt scaleとの関連から併存的妥当性が確認され,PFQ-2-shame scale,心理的負債感尺度,自己評価式抑うつ性尺度との関連から収束的妥当性が,罪悪感喚起状況尺度との関連から弁別的妥当性が確認された。
著者
Satoshi Kosukegawa Yuka Nakaya Satomi Kobayashi Kohei Kitano Sachie Matsumura Shohei Ogisawa Manabu Zama Mitsuru Motoyoshi Masayuki Kobayashi
出版者
Nihon University School of Dentistry
雑誌
Journal of Oral Science (ISSN:13434934)
巻号頁・発行日
pp.22-0438, (Released:2023-02-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1

Purpose: Inhibitory synaptic currents from fast-spiking neurons (FSNs), a typical gamma-aminobutyric acid (GABA)ergic interneuron in the cerebral cortex, to pyramidal neurons are facilitated by insulin. FSNs frequently show electrical synapses to FSNs, however, the effect of insulin on these electrical synapses is unknown. The aim of this study was to evaluate effects of insulin on electrical synaptic potentials between FSNs.Methods: Electrical synaptic potentials via gap junctions between FSNs were recorded to examine how insulin modulates these potentials in the rat insular cortex (IC).Results: Bath application of insulin (10 nM), which increases the spike firing rate of pyramidal neurons and unitary inhibitory postsynaptic currents recorded from FSN to pyramidal neuron connections, slightly but significantly increased electrical synaptic currents. The mean ratio of electrical synapses, the coupling coefficient that is obtained by postsynaptic voltage responses divided by presynaptic voltage amplitude, was 8.3 ± 1.1% in control and 9.2 ± 1.1% (n = 14) during 10 nM insulin application. Input resistance and voltage responses to large hyperpolarizing currents (−140 pA) were not changed by insulin.Conclusion: These results suggest that insulin facilitates spike synchronization by increasing electrical synaptic currents via gap junctions of GABAergic FSNs in the IC.
著者
香西 佳美 田口 真奈
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.449-460, 2018-03-01 (Released:2018-03-16)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究は,大学教員の授業力量のうち重要な要素のひとつであるTPACK に焦点をあて,MOOCでの授業実践の経験を通じて大学教員がどのようにTPACK を形成しているのかを明らかにすることを目的とする.具体的には,MOOC での授業実践を経験した大学教員に対するインタビューにより,大学教員の授業力量がどのように変化したのかをTPACK フレームワークを用いて検討した.その結果,単一要素の知識ではなく複合的な知識を形成していることが明らかになった.これは,教員と専門家スタッフの双方が主体的な実践者として関与することで,互いに学び合う関係が構築されていたというMOOC 実践の特徴によるものであることが示唆された.さらに,MOOC での実践を普段の授業と関連づけることでTPACK 形成が促進され,普段の授業との違いが大きいほどより広範なTPACK が形成される可能性が示唆された.