著者
竹宮 孝子 杉浦 弘子 前原 通代 前原 通代 竹内 千仙
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

カイニン酸(KA)は痙攣とともに脳内海馬の神経細胞傷害を引き起こす。本研究では、KAが血管内皮細胞に膜型プロスタグランジンE(PGE)合成酵素(mPGES-1)とアストロサイトにPGE_2レセプターEP3を誘導することを発見した。そして、合成されたPGE_2はアストロサイトのEP3を活性化し、アストロサイト内のCa^<2+>を上昇させグルタミン酸の流出を増やし、神経細胞傷害を悪化させることがわかった。これは血管内皮細胞による新たな神経細胞傷害制御メカニズムである。
著者
水崎 隆雄 VASILYEV S.A LUKASHEVICH アイ.アイ 佐々木 豊 大見 哲巨 LUKASHEVICH アイアイ
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

量子効果の極めて大きい偏極原子状水素(H)は絶対零度まで気体であり、充分低温まで冷却出来ればボ-ス凝縮を起こすことが期待されるなど、この新しい量子系の基礎物性は低温物理の最も重要な問題の一つである。京都大学では、液体H面上に吸着された2次元Hの性質を調べ、2次元巨視的凝縮相(Kosteritz-Thouless転移)の達成の可能性を検討し、2次元視的凝縮相出現に今一歩の所にある。一方、Kurchatov研究所のLukashevichのグループは早くからHの研究に着手に、mm-ESRを研究手段として研究成果をあげてきた。ここ数年間はKurchatov研究所とフィンランドのTurku大学との共同研究による局所的磁場を用いた2次元Hの研究が続けられており、既に2次元巨視的凝縮相が実現している可能性を指摘している。京大とKurchatov研究所の研究は相補的であり、2次元HのシグナルをESRで直接観測することにより今まで間接的な測定から類推されてきた2次元Hの研究を飛躍的に進歩させることが本協同研究の目的である。(1)京大側が2次元偏極原子状水素の基礎物性の研究を行ない、K-T転移の最適化条件を調べた。特に、2次元Hは液体^4Hの表面励起と強く結合して吸着されているが、表面励起とバルクのヘリウムの励起との結合が弱く、それが2次元Hの冷却の限界を決めていることが判明した。(2)Kurchatov側では120〜140GHzのESR装置を用意した。特に、2次元H観測に適したファブリベロ-型キャビティーを開発し、低温でのテストを近く行なう予定である。(3)各グループが各段階での研究に相互に参加し、装置の設計や議論を集中的に行なった。平成9年2月〜3月にかけてKurchatov側の研究者が2人来日して、京大の超低温装置にESR装置を設置し、127GHzでHのシグナルを観測することに成功した。ESRによる2次元Hの直接観測の共同研究をH9年度も継続して、K-T転移の探索を行う。
著者
出口 一郎 竹原 幸生 荒木 進歩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

毎年海水浴シーズンになると,100名を越える尊い人命が海水浴中の事故で失われており,その大部分は,いわゆる離岸流によって引き起こされているといわれている.予め離岸流の発生が予測できる場合は,警告などを出すことにより,事故の発生を未然に防ぐことが可能である.しかし,いくつかの離岸流は狭い範囲で発生し,その持続時間も必ずしも長くはない.この様な離岸流は,遊泳者にとって非常に危険なものとなる.一方,離岸流は沖への漂砂輸送流れとなることから,海岸侵食を議論する上でも重要な流れである.本研究では,飛行船に搭載したビデオカメラによるメソスケールリモートセンシング(100*100m〜400*400mの領域の流れ,波浪の計測)及び周辺海域の波浪情報(波向・波高・周期,平均水位,など)を同時に計測するシステムを構築し,このシステムを用いて継続した離岸流の現地実測を行うと同時に,波浪情報計測システムの有効性を検討するために,平面水槽内での実験を行った.離岸流に関する現地実測では,従来指摘されていたすべての地形性離岸流の計測を行うことができ,さらに突発性離岸流の流況の計測も行うことができた.また,K-GPS相対測位法による海底地形計測法も開発し,観測された離岸流発生地点周辺の海底地形の精測を行い,その上での波浪変形,海浜流の数値計算を行うことにより,海底地形と入射波浪条件が与えられれば十分な精度で離岸流の発生が予測できることを示した.さらに,リモートセンシングから得られる画像処理による海底地形の推定法,平面的な広がりを有する海面情報(特に波高分布)の取得方法などの構築を行い,その有効性について確認している.これらの成果は,今後の極浅海域流体運動の解析に非常に有効な手段を提供するものと考えられる.
著者
松下 暢子
出版者
川崎医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.ニワトリB細胞株DT40からジーンターゲティングによってFANCG、FANCD2、FANCCの欠損細胞を作製した。これらの欠損細胞はいずれも、クロスリンク薬剤感受性などヒトのFA患者細胞と類似した表現型を示し、FAのモデルと考えて適切と思われた。2.以下のアッセイを用いて相同組み換え(HR)におけるFA遺伝子の役割を検討した。(1)ジーンターゲティング効率をいくつかの遺伝子座へのターゲティングベクターを用いて解析すると、FANCGでは数10%程度の軽度の低下、FANCD2では90%以上のはっきりした低下が見られた。(2)染色体にノックインした人工組み換え基質SCneoに制限酵素I-SceI発現によって二重鎖切断を誘導できる。その修復がHRによってただしくおこなわれれば、活性のあるneo耐性遺伝子が再構成され、G418存在下に培養しコロニー形成数をカウントする事によりHRによる修復を測定可能である。Neo耐性コロニー数はFANCG欠損で9分の1、FANCD2欠損で約20分の1に低下していた。このdefectはニワトリFANCG、FANCD2の発現によって正常化可能であった。(3)放射線照射0〜3時間後にM期に入って来る細胞はS期の末期からG2期にかけて照射されたものと考えられる。この時期に行われるDNA二重鎖切断修復は主にHRによるものであることがわかっている。このとき見られる染色体断列をカウントするとFA遺伝子欠損細胞では野生型に比べ明らかに増加が見られた。このデータはFA遺伝子のHRにおける役割と矛盾しないと言える。以上のデータは、FA遺伝子のHR修復における役割を明確に示したはじめてのものである。
著者
小林 尚俊 吉川 千晶 服部 晋也
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

細胞膜上の受容体や接着分子の分子認識はナノメートルの大きさで規定されており、材料表面への生体分子(タンパク、脂質、糖鎖)の吸脱着や細胞の接着・非接着などを人工的に制御するためには、ナノメートルオーダーの分子設計からミクロ-マクロの高次構造の制御が必須不可欠である。そこで、生体材料の構造制御による機能向上およびその機構解明を試みた。具体的には高分子ファイバー及び濃厚ブラシを対象とし、(1)「ファイバーの二次/三次元配列構造の制御」および(2)「濃厚ポリマーブラシの三次元構造制御」を行い、その生体機能特性を詳しく調べた。得られた知見から、機能化された新規細胞足場材料のコンセプトが開発された。
著者
吉田 伸治 岸 由紀子 米田 真梨子 蘇 鐘玉 井上 理史
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

数値シミュレーションに基づく屋外歩行者の移動・滞留に伴う温熱環境の変化を考慮した歩行空間の温熱快適性の評価手法を開発した。本研究では、被験者実験、屋外温熱環境実測により歩行空間の温熱環境の現状を把握・分析し、数値解析手法の開発に活用した。本研究で提案する数値解析手法は、今後、公園内の散歩コース内の緑陰、休憩地点の適切な配置、並びに街路内の温熱環境評価への適用が期待される。
著者
永田 知里 清水 弘之 服部 淳彦
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、各種アミノ酸やDNAメチル化に関与するメチオニン、葉酸、ビタミンB6、B12の食事からの摂取推定を可能とし、がん罹患との関連性を一般住民における前向き研究のデザインで評価することを目的としている。前年度では、岐阜県のがん登録および高山市医師会の飛騨がん登録より、高山市に1992年に開始されたコホート(高山コホート)内におけるがん罹患データを得たが、コホート内における死亡者、転居者の情報が把握出来ず、本年度、高山市での住民票閲覧、除票情報の提供、法務局への戸籍閲覧などを依頼した。未だ一部の情報が入手できておらず、また国の食品成分委員会による各食品中アミノ酸含有量改訂発表が遅れているが、まず、葉酸、ビタミンB6、B12摂取と大腸がんと乳がん罹患についての関連性を評価した。対象者は1992年9月前向き研究開始時にがん既往があると回答した者あるいはがん登録情報からこの時点でがんに罹患していたことが判明した者を除き、男性14,185名、女性16,560名であった。2005年末までの期間に新しく大腸がんと診断された者は男性277名、女性233名、乳がん罹患(女性のみ)は134名であった。年齢、喫煙歴、BMI、アルコール摂取量で補正後、男性におけるビタミンB12の上位1/3の高摂取群は下位1/3の低摂取群に比べ大腸がんハザード比が1.39と統計的に有意に高く(p=0.03)、またビタミンB6摂取も高摂取群はハザード比が1.37 (p=0.056)と高かった。しかし、これらの関連性は肉・肉加工品類摂取の補正により低下した。大腸がんリスクと葉酸摂取との関連性は認められなかった。女性では大腸がん、乳がんともこれらの栄養因子との関連は有意でなかった。多重共線性の問題に配慮しつつ、アミノ酸を含み、各栄養素、食品群の交絡の影響もさらに考慮する必要があると考えられる
著者
村上 裕章
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、個人情報保護における非権力的手法の活用可能性とその限界について、比較法的検討を加え、もって日本における今後の立法論及び解釈論の発展に寄与しようとするものである。その第一段階として、上記研究期間においては主としてドイツにおける「データ保護の現代化」論について検討を行ってきた。その成果をまとめるとおおむね以下の通りである。(1) ドイツにおいて「個人データ保護の現代化」が論じられるに至った背景には、一方では電気通信技術の飛躍的発展という技術的要因と、他方では規制緩和論という政治的要因があったこと。(2) 「個人データ保護の現代化」として特に主張されたのは、データ主体の自己決定の重視、事業者による自主規制手法の活用、技術を通しての個人情報保護という観点の導入であったこと。(3) 改革の必要性についてはコンセンサスがみられるものの、個人情報保護に好意的な論者からは非権力的手法の実効性等について疑問が提起され、事業者に好意的な論者からは規制緩和のさらなる推進が主張されていること。(4) ここ数年、本格的な改正作業が進んでいないが、それは主として政治的理由(政権交代)によること。
著者
山崎 福寿 浅田 義久 井出 多加子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

公共投資の効果については,マクロ的な観点から有効需要に対してどのような影響を及ぼすかという点や,ミクロ的な観点から、産業関連の公共事業によって生産関数がいかなる影響を受けるかについての研究がなされている。しかし、生活関連投資が人々の効用にどのような影響を及ぼすかについては、これまで十分に研究されてこなかった。本研究では,生活関連投資による地域経済への影響を分析した。本研究では、第一に、米国における理論的研究をもとに、消費者と企業の行動をもとにした社会資本整備の影響を都道府県別のパネルデータを用いて計測した。その結果、生活関連の社会資本ストックは、人々の居住地選択に大きく影響することが明らかとなった。反面、企業は産業基盤整備の状況にそれほど影響されず、むしろ企業同士の集積のメリットや購買力の高い人口密集地帯に立地することが明らかとなった。生活関連資本の充実した東京周辺地域に消費者や企業が集中してきたのは、このようなメカニズムによるものと考えられる。第二に,道路,鉄道といった公共資本サーヴィスの地域間における最適配分について検討した。具体的には、各公共資本サーヴィスの供給手法を検討し,需要関数を推定し、現状での都心部と地方の公共資本サーヴィス供給のあり方を批判的に検証した。公共資本サーヴィスのひとつである鉄道サーヴィスの混雑料金推計においては、JRの中央線を対象にして分析を行なった。各利用者が感じる混雑による不効用は地価や地代に反映されることを利用して、ヘドニック・アプローチを用いて混雑料金を推計した。これによると、中央線では混雑時においてはおよそ4-5倍の料金を課すことが必要であるとの結論が得られた。さらに、道路の混雑料金モデルを構築し、混雑料金を推定した。その結果,高速道路の通行車両に混雑料金を課金することによって、交通量がどの程度変化し、その結果、環境負荷や都市構造がどのように変化するかを検討した。
著者
柴田 哲男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フルオロメチル基の特異的性質が医薬品の薬理効果発現や増強など好ましい結果をもたらすという事実からフルオロメチル基、特にトリフルオロメチル基含有化合物の合成研究に注目が集まっている。その主流となる方法は、今から四半世紀前に開発された求核的トリフルオロメチル化剤(Me3SiCF3、Rupert試薬)あるいは求電子的トリフルオロメチル化剤(梅本試薬)を用い、触媒存在下でトリフルオロメチルを導入する二つのタイプに大別することが出来る。今年になっても新しい触媒を用いたトリフルオロメチル化法が続々と発表されているが、実用的トリフルオロメチル化法にはほど遠い。特にトリフルオロメチルカチオン(^+CF_3)等価体を用いる求電子的トリフルオロメチル化反応は、求核的な方法に比べ、検討された形跡は格段に少ない。その原因は、トリフルオロメチルアニオンの場合以上に、利用可能な試薬に制限があることである。これまで報告されている求電子的トリフルオロメチル化試薬として、S-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウム塩、ペルフルオロアルキル化剤としてRf-I(C_6H_5)OSO_2CF_3(FITS反応剤)が挙げられる。近年では、Togniらによって超原子価ヨウ素を用いた求電子的試薬や梅本らによるオキソニウム塩も報告されている。しかしながら、これら試薬のうち、一部は市販もされてはいるものの、求核種に対する反応性は乏しい。そこで我々はスルホキシイミン型新試薬を開発した。この試薬は、取り扱い容易で安定な結晶であるにも関わらず、特に炭素求核種に対して高い反応性を示す良好な試薬である。硫黄及び窒素を最高原子価状態にすることで安定性を付与し、求核剤存在下では低原子価に戻る性質を反応起爆要因とした。
著者
石井 信行
出版者
山梨大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

都市空間経路探索歩行時の注視特性に関する実験の学会報告1.実験概要本研究の第1段階において,経路探索歩行後の記憶(アウトプット)を対象とした方法論によって,ケータイナビを利用及び不利用での記憶の量や質に定性的な違いがあることを示されたが,情報量が極めて多い実際の都市空間に関する記憶をデータとしたため,被験者の回答能力の影響を受け,都市認知について明確な差異を示すことが困難であることが課題として示された。そこで平成17年度は第2段階として,歩行探索時の情報獲得に関わる注視特性を対象とし,探索者の属性による注視特性の差異を明らかにすることを目的とした実験を行った。先行研究と既存研究を基に,同じ揚所で繰り返し経路探索歩行をした揚合にケータイナビ利用者は繰り返し回数が増えても注視特性に変化はなく地図記憶探索者は変化するという仮説を立て,各属性6名ずつの被験者に視線追跡装置を装着した状態で,甲府市中心部において経路歩行探索実験を行った。ケータイナビとしてauのEZナビウォークを用いた。2.実験結果実験の結果,合計約30時間分の注視データを得て,注視点軌跡図と注視特性グラフを用いた分析により,実験回数が増加すると地図記憶探索者は見方に変化が現れるのに対して,ケータイナビ探索者は見方が同じになる傾向があることが示された。3.学会報告第34回土木学会土木計画学研究発表会(平成18年12月於香川県高松市)「歩行者・自転車」セッションで本研究をまとめた「歩行ナビゲーション利用者の経路探索歩行時注視特性」を発表した。
著者
苧阪 良二 伊藤 法瑞 伊藤 元雄 ITO Hozui
出版者
愛知学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

1.カウフマン装置(K-1,K-2)と関連器具の製作:単眼視しかできない原型を改良し、大口径レンズによって両眼視のできる比較刺激装置(K-1,K-2)を完成た。併せて既設のガンツフェルト大視野への投映装置、4筒(上下左右)の標準刺激装置、接眼小視野呈示装置、野外実験用人工月提示器具などを製作した。主力となる大型カウフマン装置は口径120mm、焦点距離250mmのレンズを装着し、自動光円提示部を内臓しており、K-1は等視角ステップで10〜85分角の16光円、K-2は等面積ステップで15〜84分角の16光円が逐次呈示できる。また小形ハーフミラーに代えて大型透明ガラス衝立を作った。他に既製の苧阪型(O-2)1mm直径ステップ、22〜103分角を改修した。2.カウフマンらは在来型のボーリング(苧阪)型の測定法を批判しているが、その点を満月を対照に反復実測した。被験者は心理学科の大学生4〜10人で2年間にわたり10回の満月チャンスに測定比較したところ、K-1,K-2の両眼視のため当然カウフマンより異方度が高値でK-1=1.73,K-2=1.63,O-2=1.43であり、KとOの列位相関は0.7以上あった。在来型の測定法も使用可能であることが判った。使用体験しないとわからないが、K型は観測距離は20〜40cmと融通がきくが、いわゆる方向と位置の恒常性に乏しく比較の際の視線の制約が大きかった。3.小室間で人工月(紙)を用いた実験ではカラースライド投映の風景差が認められたが、与えられた風景の中での月の大きさに適応水準があるように思われ、あまりに大きい人工月では過小視が起こった。4.視野の上下に関し、坂道での抑視と俯視では下方の過大視が認められた。またVER(視覚誘発電位)の実験では上より下方に提示した人工月に対してC-II成分に特異生が認められ、月の錯視への関連生は不明であるが、上下方向差があるのは事実である。
著者
山下 博司
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

東南アジア(特にタイとインドネシア)へのインド系宗教の伝播につき文献収集し諸遺跡を実地調査した。特に東ジャワの大規模遺跡と王権・墓廟との関係で新知見を得た。現代東南アジアにおけるインド系宗教と王権との関わりにつき、王制を維持するタイで現存バラモン儀礼を調査し統治との関係を考究した。タイ版ラーマーヤナ劇の伝統維持についても王国を挙げての保護の様子を取材した。司祭養成の現状を調べるため南インドを実地調査し大きな示唆を得た。
著者
高橋 晃周 佐藤 克文
出版者
国立極地研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、飛翔性の海鳥類であるオオミズナギドリを対象として、年間を通じた鳥の移動を追跡する技術を確立し、本種がどのような海域を利用しているか、またその海域がどのような特徴を持つか明らかにすることである。今年度は、まず、7-10月にかけて、岩手県三貫島・新潟県粟島にあるオオミズナギドリの繁殖地で野外調査を行って、昨年度に鳥に装着した光のレベル・着水を記録する記録計(ジオロケータ)を回収した。また、新たに水温の記録を利用することで移動追跡の精度を向上させる解析手法を開発し、その手法を用いて、今年度回収したデータと昨年度までに得られているデータとを合わせて解析した。解析の結果、オオミズナギドリは、日本から3000-5000kmも離れたニューギニア北部海域、アラフラ海、南シナ海の3つを越冬海域として利用していることが明らかになった。また、その中でもニューギニア北部海域は重要な越冬海域となっており、約7割の個体がここで越冬していた。この海域は餌となるネクトンの生産性が高いため、多くの個体にとって好適な越冬場所となっていると考えられた(論文投稿中)。また、繁殖期前期(4-7月)のオオミズナギドリの採餌海域を得られたデータから解析した。主な採餌海域は三陸沖の親潮・黒潮移行域で、この海域の水温が季節的に上昇するのにあわせて、オオミズナギドリの採餌域も季節的に北上することが明らかになった。これは主要な餌であるカタクチイワシの分布の季節的北上と対応していると考えられた(論文準備中)。さらに、動物装着型の移動追跡技術に関するシンポジウムを日本鳥学会年次大会において企画し(オーガナイザー:高橋晃周・依田憲)、これらの技術の持つ可能性について講演を行い、その内容をとりまとめて総説を発表した(高橋・依田2010)。
著者
吉田 毅
出版者
東北工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

車椅子バスケット日本代表クラスの後天的身体障害者を対象に、彼ら/彼女らのアスリートキャリア形成に関して検討した。このプロセスでの性差として、主に車椅子バスケットに参加する契機の相違が認められた。男子は他律的な面が顕著であるのに対し、女子は自律的な面が顕著であった。その後の車椅子バスケットに定期的、継続的に参加するようになる要因としては、良き仲間を得たことや車椅子バスケットそれ自体の魅力が、参加し続ける要因としては、向上心とともに、身近にアスリートとしての同志や役割モデルを得たことが認められた。こうした一連のアスリートキャリア形成をめぐる主な問題点として、競技活動と仕事や家庭との両立、また練習場所や資金といった物的な側面が認められた。
著者
征矢野 清 中村 將 長江 真樹 玄 浩一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

カンモンハタは月周期と完全に同調した成熟産卵サイクルを持ち、満月大潮直後に生息場である珊瑚礁池から外洋へ移動して産卵する。このような月周期の影響を受けた生殖腺の生理変化及び産卵のための行動は、多くの水生生物で観察されているが、その詳細は明らかにされていない。本研究では、月周期と同調したカンモンハタの成熟・産卵のメカニズムを解明する事を目的に、これまで観察を続けてきた沖縄県本部町瀬底島のフィールドと西表島のフィールドを利用して、本種の成熟過程を産卵場への移動及び産卵行動と関連づけて調べることとした。本研究により得られた主な成果は以下の通りである。1)沖縄県南部の西表島と北部の瀬底島に生息するカンモンハタの生殖特性を比較したところ、本種は共通して月周産卵をすることが確認されたが、成熟サイズ・性転換時期・産卵回数が両地域で異なることがわかった。2)生殖腺刺激ホルモン遺伝子(FSHβとLHβ)の発現を測定するリアルタイムPCR法を確立し、脳下垂体における両遺伝子の測定を可能とした。その結果、LHが本種の生殖腺発達に深く関わることが分かった。3)バイオテレメトリー法により満月大潮前後の産卵関連行動を沖縄県瀬底島と西表島のフィールドを用いて観察したところ、いずれの地域でも産卵に適した場所に移動することが分かった。また、この移動は産卵期にのみ起こることが分かった。4)飼育環境下の個体を用いて月周期と同調した卵成熟の過程を観察し、成熟のタイミングを明らかにすることができた。本研究の成果はカンモンハタの生殖腺発達を理解するだけでなく、種苗生産対象魚として注目されている他のハタ科魚類の生殖腺発達を理解する上でも貴重な情報となる。また、南方系海産魚に多く見られる月周産卵の機構解明にも役立つことが期待される。
著者
寺井 誠
出版者
(財)大阪市文化財協会
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は2回(計10日)の韓国での資料調査と、8回(計16日)の国内資料調査を行った。韓国での資料調査では日本に搬入例の多い全羅道に重点を置いた。この結果、甑や鍋などでも全羅道と慶尚道の違いを把握することができ、今後日本の出土例にも適用できる見通しができた。また、京畿道の遺跡で出土している楽浪系土器についても実見する機会を得た。ロクロを用いている点は楽浪土城のものと共通するが、格子タタキが採用されているなど、異なる点も多い。今後、日本で出土している楽浪系土器についても楽浪郡以外の土器か否かは注意しなければならない。国内調査では壱岐・福岡市・香川県・愛媛県・島根県・神戸市の資料を調査した。特に、これまでも注意していた模倣・折衷土器の情報収集に力を入れ、在来土器に朝鮮半島的要素である格子タタキや耳が加わった土器などを重点的に調査した。その結果、島根県出雲市の中野清水遺跡で全羅・忠清道タイプの両耳付短頸壺を模倣した土器が明らかになり、この種の壺の模倣・折衷例が北部九州に限らないことが明らかになった。なお、日本出土の両耳付短頸壺については6世紀までのものも含めて朝鮮半島からの搬入例や日本での模倣・折衷例について集成し、検討を加えた。さらに、国内での資料調査や報告書による情報収集によって、古墳出現前後の朝鮮半島系土器についてのデータベースを作成した。この作業を通じて、全体的には全羅・忠清道系の土器が多いものの、対馬・壱岐には慶尚道の土器も比較的多いことがはっきりした。また、全羅・忠清道系の土器は日本で楽浪土器が減少し始める古墳時代初頭以降に増加することも明らかになった。今後これらのデータについて研究発表を通じて公表し、学界に寄与したいと考える。なお、本課題研究の成果の一部は、大阪府立弥生文化博物館の平成16年秋季特別展『大和王権と渡来人 三・四世紀の倭人社会』に展示協力することによって、還元することができた。
著者
細木 高志
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

日本のサクラ原種や品種は300以上を越え,奈良時代以後,多くの品種が生まれた。しかし,これらの相互関係は不明な点が多く,交配親が知られているのは数十にすぎない。そこで,本研究では形態および遺伝子解析を行った。原種では形態から,ヤマザクラ系とマメ・エドヒガン系に分かれ,外国種のシナミザクラ,カンヒザクラが混在し区別が難しかった。しかしRAPD分析では外国種は外群として分かれた。また日本原種の親とされるヤマザクラは他の国内産原種と共通点があり,ヤマザクラがもっとも古く,他の原種を生んだと考えられる。つぎに,ある程度両親のわかっている品種のPCR-RAPD分析を行うと,ヤマ系,オオヤマ系,チョウジ系・シナミとの雑種系,オオシマザクラ×エドヒガン系,エドヒガン系,マメ系に分かれ,両親親と雑種の関係がおおむね正しいことがわかった。また泰山府君はシナミザクラ×ヤマザクラとされているが,RAPDではヤマ群に属し,シナミザクラの特徴である気根も生えてこないことから,この品種はヤマザクラの1種と考える方が正しいと思われた。またソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンの中間に位置し,ソメイヨシノがこれらの交雑で生まれたことが推測できた。これらの結果は,形態による分類とおおむね一致した。しかしシナミザクラやカンヒザクラが国内種と混合し,外国種と区別できなかったが,PCR-RAPD分析では区別が可能となったことから遺伝子分析の方が正しい結果を反映していると思われた。さらに,外群のユスラウメやウワミズザクラは大きく異なり,これらの亜節や属が,サクラ属やサクラ節と違うことがわかった。
著者
加藤 内藏進 高橋 正明
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は,「季節サイクルの変調」という視点を新しい切り口として,異常気象や,温暖化などに伴う東アジアの気候変化予測のための基礎的知見を得ることである。主な成果は次の通り。1.大陸側の梅雨前線では,その南方での大きな水蒸気量の維持と前線北方への水蒸気侵入過程における熱い陸面の役割も重要なこと,梅雨期直前に前線北方で一且「不飽和度」が増すことに伴う前線での南北水蒸気傾度の更なる強化を受けること,等が分かった。また,九州北部の梅雨最盛期の総降水量の約20%は,梅雨前線への多量の水蒸気の通り道である暖域側で,梅雨特有のメソ降水系に伴って起きていた。一方,前線へ水蒸気を運ぶ下層南風は,秋雨期には平均場では梅雨期ほど強くないが,月平均場の年々変動や短周期季節内変動に伴って頻繁に強まることの重要性が示された。また,全国的な秋雨の前の8月下旬〜9月上旬頃,九州北西部では秋雨前線の暖域での過程に関連して降水極大期を経ることが明らかになった。しかも,1980年代後半〜1990年代にはこの移行過程の明瞭な年が少なくなる等の経年変動も見られた。このように,東アジア暖候期の降水やその変動には,前線帯暖域での大気過程が重要な一つの鍵となる点を明らかにした。2.夏の降水量の解析によれば,1980〜2000年頃にかけて,日本や中国の梅雨前線付近での降水量の増加とモンゴルやフィリピン付近での降水量の減少トレンドが見られた。これには,シベリアやチベットからのロスビー波伝搬の重要性も協同していることが,モデルでの応答実験により示された。また,夏の日本の天候を支配するオホーツク海高気圧形成に関連するブロッキング高気圧変動の力学的側面も検討した。3.(1)冬にシベリア高気圧が出現するモンゴル付近での発達した低気圧の出現頻度増加に伴って,4月はじめ頃に,気温の値自体は日本列島で大きく異なるものの全国的に同時に大きな昇温が起きること,(2)5〜6月頃でも台風が日本列島に接近しやすい異常気象に関連して,季節平均場の違いの中での亜熱帯高気圧のセルの振る舞いに注目すべきこと,(3)10月後半に日本列島に上陸した台風2004年23号時の降水分布に対して,秋が深まった時期の基本場故の特徴があったこと,その他,季節サイクル全体を見据えて得られた成果も踏まえながら,今後の更なる研究の発展の方向を検討した。