著者
中尾 龍馬
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

Porphyromonas gingivalisは主たる歯周病原性細菌であり,近年は動脈硬化や冠状動脈疾患の発症,早産の誘発などにも関与することが示されている。本疾患形成には,菌体外膜にあるLPSやある種のタンパクが関連すると考えられている。本研究では,菌体外へ放出される外膜ヴェシクル(OMV)と糖合成系経路で機能するUDP-galactose 4-epimerase(GalE)に着目し,galE変異に伴うOMV産生への影響について調べた。野生株(ATCC 33277株),galE変異株,galE相補株の培養上清に含まれるOMVの形態と量を電子顕微鏡にて経時的に観察した。培養上清中のLPSはリムラス試験法にて定量した。野生株の培養上清中のOMV量は培養開始から3日間は経時的に増加し,その後死菌由来と思われるデブリスを増した。一方,galE変異株は培養開始から3日間はほとんどOMVを産生せず,その後デブリスが増した。また,galE変異株の培養上清中のLPS量も同様に,野生株に比べて著しく減少した。しかしgalE遺伝子の相補によりOMV産生は回復しなかった。以前のP.gingivalis galE変異株の解析から,GalEはP.gingivalisの生育に影響しないこと,LPSや外膜タンパクの糖化に関与することが明らかになっている^<1.2>。一方,本研究において,galE変異株のOMV産生はほとんど失われたが,galE遺伝子を相補してもOMV産生の回復がみられなかったことから,OMV産生にはgalE以外の遺伝子が関連するものと推察された。
著者
小瀬木 えりの
出版者
大阪国際大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

フィリピンのパナイ島アクラン州カリボは、20世紀末に復興されたパイナップルの葉脈繊維の伝統手織物ピーニャの主要産地として知られている。復興後約20年を経て、この地域の手織物産業は比較的安定した雇用を作り出し、農村を基盤とした副業の性格を脱して専業化した織手職人を抱えるようになりつつある。その背景には、先進国の大手ブランドの下請等、地元の織物製造業者に大口の契約がもたらされた状況があり、この点で生産と市場のグローバル化という潮流に、発展途上国に特徴的な家族経営を未だに基本とするこの地域の零細業者も巻き込まれている構図が見て取れる。専業化傾向は他方で、伝統的な労使関係にも影響を与えている。以前は製造業者と織手は1回の仕事ごとに契約を交わすのみで、長期契約または常態的雇用は保証されなかった。ところが今日では従業員を社会保障制度に加入させ保険料を負担する等、長期雇用を前提に企業が労働者に行うような福利厚生サービスを実施する零細業者も現れ始めた。このことは織手職人と製造業者との関係が、常態的雇用に近い長期契約関係に移行しつつあることを示唆しており、これが農業を離れた専業的職人を生じる基盤となっている。長期契約の専業職人化を促す原因は先進国の大手企業である。カリボの業者が自発的に労働者の待遇改善を図る1つの理由は、品質管理や納期に厳しい先進国の取引先のニーズのため良質な職人を確保する必要に迫られたことである。もう1つは社会的責任と対外的イメージを重視するこれら大企業が、下請業者にも労働者の待遇や福利厚生にしばしば厳しい注文をつけ始めたことである。90年代に発展途上国の子供労働の搾取問題で揺れた米企業の教訓が影響しているのである。外圧により移行を迫られている近代的労使関係と、伝統的なパトロン-クライエント関係には類似点もあり、ここにおいて両者が調整された新たな関係が創発しつつあると考えられる。
著者
石原 昭彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高齢者を用いて最大努力での大腿屈曲及び伸展筋力、大腿部の血流量、酸化ストレス度を測定した。さらに最大努力による筋運動の効果を検討した。加齢に伴い屈曲及び伸展筋力が低下した。筋力と血流量の間には高い相関が認められた。60歳代と70歳代では、運動前と比較して運動後に屈曲及び伸展筋力、血流量が増大した。60歳代では、運動により酸化ストレス度が減少した。以上の結果より、年齢が若いほど筋運動の効果が顕著に認められること、筋力の増大には血流量の増大が関係していること、運動により活性酸素の産生が抑制されることが明らかになった。
著者
澤井 仁美
出版者
大学共同利用機関法人自然科学研究機構(共通施設)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

気体分子を生理的なエフェクターとする気体分子センサータンパク質は、各種生物の遺伝子発現制御、代謝系制御、運動性制御など様々な生理機能制御に関わっていることが明らかにされつつあり、近年、大きな注目を集める研究対象となっている。ヘムタンパク質が気体分子のセンサーとして機能するためには、生理的エフェクターとして機能する特定の気体分子が選択的にヘム鉄に結合し、それに伴う構造変化がタンパク質全体に伝わることで機能が発現されると考えられる。この機能が正常に発現するためには、ヘムおよびその近傍にあるアミノ酸側鎖が気体分子を選択的に認識し、エフェクターとして機能する特定の気体分子がヘム鉄に結合したときのみ構造変化が生じなければならない。しかし、多くの気体分子センサータンパク質では、このような気体分子の認識・感知やそれに続く構造変化と機能発現に関する分子メカニズムは未解明である。本年度は、緑膿菌Pseudomonas aerginosa中に含まれ、酸素に対する走化性シグナルトランスデューサーとして機能すると推定されていたAer2タンパク質が、ヘム含有PASドメインをセンサードメインとして利用している新規な酸素センサータンパク質であることを明らかにした。ヘム含有PASドメインを有する走化性シグナルトランスデューサーは、Aer2が世界で最初の例であった。本研究において、各種変異体を調製し、それらを対象として共鳴ラマン分光法などの各種分光学的測定により、Aer2タンパク質の構造機能相関解明を目的とした研究を実施した。その結果、Aer2がこれまでに例の無い新規な酸素センサータンパク質であることを見出した。
著者
尾島 俊之 谷原 真一 中村 好一
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

【研究目的】従来のコホート研究は、死亡や生活習慣病への罹患をエンドポイントにしたものがほとんどである。しかし、WHO憲章で健康の定義が、心理的、社会的健康も含むとされているように、昨今は、QOL(生命の質)を目指した保健福祉活動が必要であると考えられるようになった。さらに、近年は、損失生存年数(PYLL)などの分析から、自殺の重要性が認識され、うつ状態が重視されている。そこで、脳血管疾患の有病者、その他、様々な状況の人について、これらの要因の状況等を明らかにし、特にうつ状態の危険因子を明らかにすることを目的とした。【研究方法】脳血管疾患罹患率の高いA地区の住民を対象として、コホート研究のデザインで実施した。まず、ベースライン調査を実施した。調査は、訪問面接調査、家庭血圧測定を実施した。調査項目には、ADL(Activities of Daily Living)、手段的ADL、SF-36(Short Form)によるQOL、睡眠状況なども含まれる。また、一部の対象者に関しては、血液検査、24時間血圧、心臓超音波検査などを含むより詳細な検査を行った。最終年度に、再度、訪問面接調査、家庭血圧測定を実施し、エンドポイントデータとした。この中には、知識・態度・行動(KAP)、CES-D(the Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)による抑うつ度、ストレスなども含まれる。【結果】CES-Dによる抑うつ度に関しては、7.7%が抑うつ状態にある結果であった。一人暮らしは統計的に有意ではないものの2.41という高いオッズ比を示した。物忘れがひどいは2.59、朝食を食べない4.58、ストレスがとてもある7.20、自分の体重を測っていない2.30、早朝覚醒2.45、寝付くために睡眠剤・アルコールなどに頼る2.96、楽しみや生きがいがない2.78などが高いオッズ比を示した。今後は、一人暮らし者を対象としたうつ病対策なども重要であろう。また、今回の結果では、因果関係の逆転によると考えられる項目も多数見られたため、より長期の追跡を行う研究も必要であろう。
著者
本間 正明 加藤 崇雄 米田 二良 石井 直紀
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

当該補助金の下での研究成果はいずれもHermitian曲線に関わるものである.Fをq^2元体とし,これを固定する.ただし,qは素数Pの幕である.F上の射影平面内で非斉次方程式y^q+y=x^<q+1>で定義された(あるいは,それにF上射影同値となる)曲線をHermitian曲線とよぶ.この曲線は望みうる最大個数のF有理点を持ち,またF上の自己同型群も大きく,正標数体上で特有な曲線の性質を調べようとするとき,まず手がけるべきものである.本研究の前段階として,われわれはこの曲線上の2点符号の最小距離をすべて決定したが,本研究ではそれら2点符号の第2Hamming最小距離の決定を試み,それらを完全に決定した.最小重みの決定に比べ,さらに精緻な議論が必要であり綿密な確認を行ったのち,論文として公表する予定である.またRermitian曲線の精密な考察の副産物として,Hermitian曲線の射影に関するGalois群(モノドロミー群)についての結果も得られた.その結果は次の通り.(1)Fの代数閉包上の射影平面内の点が,Eermitian曲線に対するGalois点である必要十分条件はその点がF有理点であること.また,そのGalois群は曲線上の点についてはq=p^eとするとき,Z/pZのe個の直和であり,曲線外の点についてはZ/(q+1)Zである.(2)Galois点ではない点を中心としたとき,その射影から得られる体の拡大のGalois閉包までのGalois群は曲線外の点についてはq元体上の射影直線の1次変換群,曲線上の点については虹元体上のアフィン直線の1次変換群となる.また繁雑な計算を要するが,Galois閉包に対応する曲線の種数も決定できた.
著者
小林 正彦 尾崎 正孝 嶋田 透 永田 昌男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1.カイコへの遺伝子導入の際にマーカーとして利用すべく,オモクローム色素(卵の漿膜の色素)の生成に関わる遺伝子群のひとつである,キヌレニンモノオキシゲナーゼ遺伝子を単離し,塩基配列を決定した。また,この遺伝子が第10連関群に所属することを明らかにし,同連関群に座乗する第2白卵遺伝子や無翅遺伝子との組換え価を調査した結果,この遺伝子がカイコの卵色の突然変異である第1白卵の正常遺伝子である可能性が濃厚となった。2.カイコのランダム増幅多型DNA(RAPD)や,既知の遺伝子を利用して,性染色体(Z染色体およびW染色体)や第10連関群の染色体の構造の解析を行った。3.カイコのZ染色体上の遺伝子の発現量を雌雄で比較することによって,カイコにおいては,遺伝子発現の量補正が存在しないことを明らかにするとともに,人為的に誘発した3倍体のカイコにおいても,遺伝子の量にほぼ比例した量のmRNAが転写されていること確認した。また3倍体においては,2倍体にくらべて細胞の大きさは増大するものの数は少なくなっており,各器官や虫体の大きさには2倍体と3倍体の間で差が見られないことが判明した。4.カイコ核多角体病ウイルスにおいて,多角体の形成に関する変異株や,感染状況に違いの見られる変異株について,原因遺伝子の単離および塩基配列の決定を行った。またウイルスに感染したカイコの体液に,ウイルスを不活化する効果があることを確認し,その因子およびその効果を阻害する因子について検討を行った。5.W染色体の上に転座染色体をもつカイコの限性系統から,転座染色体が再転座したものと思われる変異個体を複数分離し,それらの形質を支配する遺伝子のうち,第5連関群上のものを2つ,第6連関群上のものを1つ,第13連関群上のものを1つ,それぞれ確認した。また,それらの座位を調査した結果,常染色体の端に付着しているらしいことが示された。
著者
小澤 瀞司
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

中枢神経系のグルタミン酸受容体チャネルは、NMDA型、AMPA/カイニン酸、(KA)形、KA選択型の3種類に分類される。このうちAMPA/KA型は、AMPAとKAのいずれに対しても感受性を示し、分子生物学的にはGluR1-GluR4という4つのサブユニットのいずれかの組合せで構成されている。本研究では胎生17-19日のラット胎児より得られた培養海馬ニューロンを対象としてAMPA/KA型受容体の諸性質とその発達について調ベ、次のような知見を得た。1)馬海ニューロンは培養後7日目頃から、AMPA、KAに対して感受性に示し始め、その後ニューロンの発達に伴い反応は増大していく。この反応はAMPA/KA型受容体の活性化によるものでKA選択型受容体の関与はほとんどない。2)AMPA/KA型受容体は、外向き整流特性とCa^<2+>透過性をもたないI型、および強い内向き整流特性と高いCa^<2+>透過性を示すII型に分類される。Reverse-transcription(RT)-PCR法により、それぞれのサブニユット構成を調ベた所、I型はGluR1、GluR2サブユニットからなり、II型はGluR1、GluR4サブユニットからなることが明らかになった。3)II型のAMPA/KA型受容体は小型の介在ニューロンに特異的に発現した。このニューロンはGADをもつことからGABAを産生する抑制ニューロンと考えられる。4)培養条件下でCA3/CA4野ニューロンとCA1錐体細胞の間で興奮性シナプスを形成させると、CA1ニューロンからはやい時間経過の興奮性シナプス後電流(EPSC)と持続時間の長いEPSCの両方が記録された。前者はAMPA/KA型受容体、後者はNMDA型受容体の活性化によるものであった。シナプス形成後のCA1ニューロンの尖端樹伏突起上にはAMPAに対して著しく感受性の高い部位が局在した。はやい時間経過のEPSCはその整流特性からほとんどI型受容体の活性化によるものと結論された。
著者
福田 哲也
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対し、自己の白血病細胞に、生体外でアデノウイルスベクターを用いてCD154遺伝子を導入し、生体内に注入するという遺伝子免疫療法がカリフォルニア大学サンディエゴ校にて施行された。この患者6人の治療後の血清について検討すると、治療前には明らかでなかったアデノウイルスに対する抗体産生が5人に、白血病細胞表面分子に対する抗体産生が、3人に認められた。詳細な検討により、この抗体の中に、受容体型チロシンキナーゼであるROR1に対する抗体が含まれていることが明らかとなった。ROR1に対する抗体を作製して検討したところ、ROR1は健常人の末梢血細胞中にはその発現は認められず、CLL細胞に特異的に発現することが確認された。ROR1には細胞外領域にWntファミリーメンバーと結合しうるCRD領域が存在するが、293細胞を用いて、各種レポーター遺伝子を導入することにより、ROR1と非典型的WntファミリーのWnt5aを共遺伝子導入するとNF-κBの活性化が起こることが明らかとなった。Recombinant蛋白を用いてROR1とWnt5aの結合はin vitroにおいて確認された。このWnt5aとROR1の結合はCLL細胞のin vitroにおける生存率を増加させる事が明らかとなった。この生存率増加は治療後の患者血清を添加すると抑えられ、患者体内でROR1のブロッキング抗体が産生されたことにより、治療効果が得られたと考えられた。
著者
松元 俊
出版者
財団法人労働科学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

長時間過密化した夜勤交代勤務に就く看護師の慢性疲労回復条件を明らかにするため,慢性疲労とストレス状態の実態と,背景にある休息・休養場面における活動内容を調べた。その結果,主観的な慢性疲労度は情動負担が大きいほど高くなることが示され,慢性疲労回復には休息・休養場面において「楽しさ」を伴う積極的な活動が有効であることが示唆された。
著者
茂田 正哉
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

本年度は前年度に構築した有限差分法による数値計算モデルを現実の問題に適用し,熱水噴出に伴う流れの3次元数値解析を行った.具体的には,熱水活動の確認されている現実の深海カルデラ内の流れについて数値計算を行い,流れの構造を調べた.既に得られている観測データから,一般にカルデラより上部では温度や塩分濃度が成層状態であるのに対して,熱水活動の見られるカルデラ内では温度や塩分濃度が水深によらず一定であることが分かっている.しかし,温度および塩分濃度が均一化するメカニズムについては,これまで解明されていなかった.本研究では,実際の複雑なカルデラ形状も考慮しながら,粒子法および有限差分法による詳細かつ大規模な3次元数値シミュレーションを試みた.その結果,カルデラ内の温度や塩分濃度の均一化は,熱水プルームを駆動力とした対流による混合作用により促進されることを明示した.カルデラ内において噴出した高温低密度の熱水は浮力により上方への流れを生むが,浮力と重力が釣り合う高さで水平方向へと広がる一方,熱水プルームの周囲から低温高密度の流体が流れ込むことによって,カルデラ内に大規模な対流が発生し,最終的に温度や塩分濃度が均一となるというメカニズムを示した.また,深海の熱水噴出による流れの数値計算モデルの確立のために,随時「海底下の大河」計画に携わる研究者等との意見交換を行い,現実の深海の熱水活動に関する情報を得て研究を遂行した.熱水噴出孔の位置や規模を変化させて数値計算を行うことで流れ場の特徴を捉え,観測された温度等のデータから流れの構造や熱水噴出孔の位置の特定を試み,本モデルによる流体数値シミュレーションの現実的な利用を目指した.
著者
醍醐 弥太郎
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

肺癌・食道癌の発症初期での検出および疾患増悪を早期に感知する統合的病態診断系を開発し、それを迅速に癌予防・診断・治療へ展開することを目的として、平成23年度は、バイオマーカー候補分子の同定を進めるとともに、複数のバイオマーカーを統合した新規診断システムの構築を行った。(1)ELISA法等を用いた肺癌・食道癌の迅速血清診断系の構築血清バイオマーカー候補に対する抗体を用いたELISA法による肺癌の早期血清診断システムの構築を行い、あらたに新規血清診断マーカーとしてEBI3を同定した。さらに複数のマーカーを組み合わせて、最小のマーカー数で最大の感度・特異度を示す診断系を検討した。糖鎖プロテオミクス解析と血清ペプチドーム解析による肺癌患者血清中のタンパクを探索して複数の候補バイオマーカーを同定した。(2)免疫組織学的マーカーによる肺癌・食道癌の迅速悪性度診断法の構築組織染色マーカーについて腫瘍組織マイクロアレイ(肺、食道癌他)および正常組織マイクロアレイを使用し免疫組織染色を行い、蛋白発現レベルと臨床病理・予後情報との相関を検討し、あらたに予後予測マーカーとして、CSTF2、CHODL、OIP5、CDC20、KIAA0101、MAD2、MCM7、EZH2を同定した。さらに最小のマーカー数で定量的に癌の悪性度を予測する診断法を検討した。(3)肺癌・食道癌の迅速病態診断系の構築と検証上記の血清および免疫組織学的マーカーを各診断段階で有機的に使い分ける肺癌・食道癌の迅速病態診断系を検討した。
著者
永盛 克也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

17世紀の劇作家ラシーヌは少年期に受けた人文主義教育を通してセネカに体現されるストア主義に親しんだと考えられる。その悲劇作品において情念の抑制の困難あるいは不可能性を強調する点で、ラシーヌは同時代のストア主義批判の潮流に与しているといえるが、その一方で登場人物に付与されるきわめて反省的な自意識はセネカ悲劇の主人公のそれに比すべきものである。ラシーヌによるセネカの受容は意識的かつ批判的なものだったといえる。
著者
平野 恭弘
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

土壌酸性化の樹木への影響を、根の生理指標を用いて評価する方法を確立するために、樹木への影響要因であるアルミニウムが、根の生理指標の一つカロース(多糖類の一種)蓄積量に与える影響を調べた。スギでは、他の樹種と異なった根端のアルミニウム蓄積特性により、過剰アルミニウム環境下で根端にカロースが蓄積されにくいことが明らかとなった。スギ根のカロース蓄積量は土壌酸性化に対する根の指標として有効でない可能性が示唆された。
著者
山瀬 博之
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

フェルミ面の自発的対称性の破れは理論先行の新しい概念であるが、最近、二層系ルテニウム酸化物、銅酸化物及び鉄系高温超伝導体でその可能性が実験的に示唆された。実験的に浮上した問題点を足がかりにして、強磁性や他の電荷不安定との競合関係の包括的解析、方向対称性の破れの揺らぎによる超伝導機構の提案、ラマン散乱による直接検証に向けた理論的予言、汎関数繰り込み群によるフェルミ面の揺らぎや強磁性揺らぎの解析、スケーリング理論による相転移点近傍での一般的性質の解明とその実験的検証、フェルミ面の揺らぎによる一電子スペクトラムの非摂動論的解析を行った。
著者
趙 宏偉
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度〜17年度、中国の北京、上海、天津等都市、ロシアのモスクワ、台湾に学術調査や研究会とシンポジウムの参加に赴き、日本では合計11回の研究会のほかに、日本現代中国学会、アジア政経学会、中国研究所、環日本海研究所、日本対外文化協会、及び愛知大学と早稲田大学のCOEプロジェクト等が主催した研究集会で発表や講演を行った。そして日本現代中国学会誌等に論文を発表した。中華人民共和国は、その成立してからほぼ1990年代の半ばまで旧ソ連と短期間の同盟関係を持っていた以外、非同盟を貫いていた。これを「中国式孤立主義」と呼ぶ。1994年9月、江沢民党総書記は最高実力者〓小平から全権力の譲渡を受けてから、外交戦略を集団安保主義へと根底から転換しはじめた。96年4月に江沢民の主導で創設された第1号の集団安保組織として「上海ファイブ」が結成された。それから江沢民政権は「新安全観」(97年4月)として総括された外交理念を掲げ、中国の北では「上海ファイブ」を「上海協力機構」に発展させ、南ではアセアンとのFTA体制を進みながらそれを梃子に全面協力体制を作り、北東アジアでは北朝鮮核問題を課題に6カ国協議の開催に努力しながら北東アジア安保体制の将来像を模索した。江沢民は米中関係の安定化を図りながら、周辺地域で集団安保外交を推し進めていた。2002年12月から、江沢民の後を受けた胡錦涛は、江沢民外交を継承しながら守りから攻めへと集団安保外交を強めていった。胡錦涛は中国の「平和的台頭」、それによる「国際関係の多極化」を外交戦略の目標としている。(1)03年から、中ロ印協調体制の構築を取り組んでいる。3カ国外相会議は年2回に定例化され05年まですでに5回もの開かれた。3カ国協調で東ユーラシア大陸集団安保体制を結成し、アメリカとEUに相対する第3の極の構築を目指している。(2)上海協力機構の強化と拡大を図っている。05年にインド、パキスタン、イランを新規オブザーバーとして受け入れた。(3)中国とアセアンを軸として東アジア首脳会議を主導することを図っている。中ロ印は上海協力機構と東アジア首脳会議の両方に加わるが、両組織ともアメリカを除外するものである。(4)胡錦涛中国は北東アジアにおいて北朝鮮核問題を取り扱う6力国協議を主導し、そして05年に「北朝鮮大開発」に乗り出した。米中は「利害相関責任者」(筆者訳)として将来6カ国による北東アジア安保体制の構築に合意し、また「台湾問題」と「日本問題」(歴史問題と領土領海問題)を米中共同管理とすることになっている。
著者
五十嵐 暁郎 高原 明生 太田 宏 我部 政明 古関 彰一 佐々木 寛 余 照彦 郭 洋春
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、昨年度までの研究を継続するとともに、最終年度にあたり研究の集約と研究書および研究雑誌への論文掲載、また研究集会などにおける報告を主目的とした。各メンバーが執筆した論文については下記のリストを参照されたい。共同研究の成果は立教大学の平和・コミュニティ研究機構が出版している叢書、計3巻での執筆である。各巻の主題は、「コミュニティと平和」「移動するアジア」「ローカル・コミュニティにおける平和政策」であり、2007年度前半の刊行にむけて順調に進捗している。また、シュラーズと五十嵐は、環境問題と女性の政治参加について国会や全国の自治体の女性議員にインタビューを重ねてきた。その成果は日英両語で刊行する予定である。これらの研究にも表れているように、本研究ではグローバリゼーションの影響下における包括的安全保障の諸問題、その理論と実践を研究対象とするとともに、実践の主体として「市民」を想定しているが特徴である。すなわち、ローカルからリージョナル、グローバルの各レベルのコミュニティにおける包括的安全保障の諸問題に取り組むのは、コスモポリタンな価値観を共有し、それらを実現しようとする人々であり、NGOや自治体であるという観点からこの研究を行なってきた。市民の立場からする包括的安全保障の理論構築と実践の分析が、本研究に一貫した視点であった。
著者
山崎 一夫
出版者
大阪市立環境科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

紅葉の色彩は植食性昆虫に対する警告信号であるとする仮説と、秋に好蟻性アブラムシを誘引し翌春にアリによって木を植食性昆虫から守ってもらう機能があるとする仮説を、野外調査で検証した。4 地点3 樹種の調査から2 仮説が支持されることはなかったが、紅葉が虫に対する抵抗性と相関をもつ例があった。また、150 種以上の植物で新葉と古葉の色彩を比較したところ、春の新葉と秋の古葉の色が異なるケースが多く認められ、春と秋で葉色に対する選択圧が異なることが示唆された。
著者
田中 文昭
出版者
学校法人 誠昭学園 うちあげ幼稚園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

(1) 研究目的 幼稚園で行われている異年齢交流行事に幼稚園就園前の子ども(以下、未就園児)と保護者が参加する際の、「場の機能」に関する多角的アプローチによる記述研究である。我が子や幼稚園児と活動をともにすることによって、未就園児保護者の発達に関する考えがどのように変化してくのか等を探索し、より豊かに記述することを主たる目的とした。(2) 研究方法と成果 まず、保護者と未就園児等の活動の様子を観察してGTAで分析することにより、子どもの活動への参加状態や普段の様子との比較などが保護者の心理にどのように影響を及ぼすのかについて、より詳細な記述枠組みが示された。中でも保護者が我が子に対して活動への参加を促すヴァリエーションの多様性を記述できた。これらのまとめについては日本保育学会等の学術誌に投稿予定である。質問紙では親子の現状、活動での保護者や子どもの参加状態、活動後の保護者の思いや子どもの変化、父親の家庭での役割や活動参加に対する気持ちなどについて尋ねた。子どもだけではなく保護者自身にも影響がどのようにもたらされているのかが具体的に示された。このような子育て支援イベントに対する参加者の期待や要望も浮き彫りになった。面接調査は質問紙で示されたことを掘り下げる方向で行い、未就園児保護者の子育て環境や子育てに対する考え方がさらに具体的に語られた。質問紙で方向づけられ面接で深められた知見に考察を加え、兵庫教育大学の研究紀要論文用にまとめる予定である。また、本研究は大阪教育大学幼稚園教員養成課程の「幼児教育研究調査法」の環として、実際の研究に学生が参画して学ぶ機会を提供するものとなった。なお、この研究への正統的周辺参加の過程については、大阪教育大学幼児教育学教室研究紀要『エデュケア』2008年度号に、教育と研究が相互に深く浸透した幼稚園と大学の協働活動の事例紹介として掲載された。
著者
高田 雄京 奥野 攻 越後 成志 菊地 聖史 高橋 正敏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

静磁場による骨の成長誘導の可能性を調べるため、耐食性に極めて優れた無着磁および着磁白金鉄磁石合金(Pt-59.75at%Fe-0.75at%Nb)をウィスターラットの両側脛骨にそれぞれ1〜12週埋入し、骨親和性と静磁場刺激による骨誘導を光学顕微鏡とX線分析顕微鏡を用いて評価した。同時にコントロールとして、骨および生体親和性の高いチタンおよび生体用ステンレス鋼(SUS316L)においても同様の実験を行い、それぞれの骨成長を比較検討した。その結果、静磁場の有無に関わらず白金鉄磁石合金表面に形成する新生骨のCa/Pは、チタンや生体用ステンレス鋼と同等であり、皮質骨との有意差はなかった。また、4週以降では、いずれも埋入金属全域を新生骨が覆い、白金鉄磁石合金に形成した新生骨は、静磁場の有無に関わらず微細領域においても皮質骨と同等のCaとPの分布を示し、十分に成熟した骨であることが明らかとなった。これらのことから、白金鉄磁石合金に形成する新生骨の成熟度、形成形態、形成量は静磁場の有無に依存せず、いずれもチタンに準じ、生体用ステンレス鋼よりも優れていることが明らかとなった。特に、白金鉄磁石合金において、静磁場の有無に関わらず生体為害性が全く現れなかったことから、生体内で利用できる磁性材料としての可能性が非常に高いことが示唆された。しかし、白金鉄磁石合金の形状が小さく局所的で強力な静磁場が得にくいことや、ウィスターラットの骨代謝が速いことから、本研究課題の期間内では静磁場による骨の成長速度の相違を明瞭に見出すことができなかった。今後の課題として、局所的で強力な静磁場を付与できる磁石とラットよりも骨代謝の遅い動物を用い、静磁場刺激による骨の成長誘導を試みる必要があると考えられる。