著者
追手 巍 森岡 哲夫
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

血管内皮細胞とメサンギウム細胞の細胞間相互作用を検討するには、私どもはヒト臍帯静脈内皮細胞とヒトないしラット・メサンギウム細胞を用いてきた(Am J Pathol 139 : 949,1991)。平成6年度の科研費の補助により、ラット大動脈内皮細胞培養法を確立(Microvasc Res 50 : 113,1995)し,同種の細胞を使っての混合培養が可能となり,実験レベルで細胞機能の制御機構を検索できるようになった意義は大きい。メサンギウム細胞は動脈系血管の周細胞的性格を強く持つことも有利である平成7年度は(1)内皮細胞との接触面に局在する細胞膜蛋白(特異的なエピトープを持つ)を培義メサンギウム細胞表面に証明した(Oite T et al Recent Advances in Molecular Nephrology,ed.Arakawa M and Nakagawa,Kohko-Do,p98,1995。Oite T et al A specific Thy-1 molecular epitope expressed on rat mesangial cells. Exp Nephrol 1996,印刷中)。(2) cDNAのCOS細胞内導入により,この特異エピトープを含む蛋白分子(Thy-1.1 関連抗原)を発現できる系が確立し,この特異エピトープの組成決定が可能となった。(3)この特異エピトープを単クローン抗体により刺激する実験から,このエピトープが細胞内への情報伝達機構に直接関与していることが判明した(論文投稿中)。(4)片腎摘除ラットに上述の単クローン抗体を投与すると糸球体硬化性病変が早く形成される(Cheng QL et.al Clin exp Immunol 102 : 181,1995)。(5)このような硬化病変を呈してくる糸球体では間質系コラーゲン(タイプI,III)の発現が遺伝子レベル,蛋白レベルで亢進している(論文作制中)。この研究成果は共焦点がレザー顕微鏡,超高圧電子顕微鏡(国立生理研,岡崎)による免疫組織学的手法,cDNAを用いた遺伝子工学的手法,Kinase assayや細胞内Ca^<++>測定による細胞機能学的手法を合せ用いることにより可能となった。
著者
若林 敬子 聶 海松 馮 文猛 左 学金 周 海旺 周 大鳴 麻 国慶 李 強
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は中国人口問題についての社会学的実証調査研究であり、特に国策として位置づけられている"人口と環境"問題について、今回は、高齢化・社会保障・出生性比の視点から多角的なアプローチを行ってきた。都市(上海市、北京市)、農村(湖南、海南、内モンゴル)の5地区で本格的社会学的サンプリング調査、量的・質的調査をこれまでに行い、その問題点を総合的にあぶりだすことに成功した。また、その理論的・実証的な比較と総括をまとめあげ、中国の人口問題の社会学的研究の最新結果の公表・刊行した。
著者
田中 喜代次 奥野 純子 重松 良祐 大藏 倫博 鈴木 隆雄 金 憲経 鈴木 隆雄 金 憲経
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

要介護化予防を目的とした包括的指針作成において,1)下肢および上肢筋力,平衡性体力,歩行能力,移乗能力および日常生活動作の遂行度に基づく身体機能評価が望ましいこと,2)運動プログラムは体力差や年齢などを考慮し,教室において集団指導,小集団指導または個別指導を適宜選択し,さらに運動習慣化のために在宅運動プログラムの提供が必要であること,3)運動指導ボランティアとその活動を取り巻く自治体や関連団体との連携を強め,長期的活動形態を構築することが必要となることの3点が重要であると考えられた.今後はこれらの研究結果を踏まえ,要介護化予防事業をさらに発展させるために,実践的な検証を推し進めていきたい.
著者
小松 輝久 青木 優和 鰺坂 哲朗 石田 健一 道田 豊 上井 進也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東シナ海においてブリやマアジの稚魚の生育場として流れ藻は重要な役割をはたしている.しかし,流れ藻についての知見は今までほとんどなかった.そこで,東シナ海の流れ藻の分布,生態,供給源について調べた.その結果,流れ藻がホンダワラ類のアカモクのみから構成されていること,黒潮フロントよりも大陸側に多数分布すること,中国浙江省沖合の島のガラモ場ではアカモクが卓越し,供給源となっていることを明らかにした.
著者
永広 昌之 鈴木 紀毅 山北 聡
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

北部北上帯は,タウハ帯や渡島帯と南部秩父帯をリンクする重要な位置にある.本研究では,葛巻地域から安家地域にいたる北部北上帯の北部地域の東西地殻断面を作成し,この地域の付加体の構造層序と付加年代を明らかにするために,詳細な野外調査と化石層序学的検討を行った.その結果,葛巻地域に後期石炭紀の海山玄武岩-石灰岩複合体由来の異地性岩体があること,安家地域の大鳥層が後期石炭紀チャートを含むことを明らかにし,北部北上帯付加体を構成する海洋地殻の年代が後期石炭紀に遡ることを確認した.また,大鳥層中に,東北日本では初めて,深海域ペルム紀-三畳紀境界に見られる黒色有機質泥岩層を発見し,初期三畳紀を示すコノドントHindeodus parvusの初産出層準直下の黒色炭質泥岩最下部で炭素同位体組成の急激なマイナスシフトを認めた.付加年代に関しては,大鳥層のそれが中期ジュラ紀Bajocian後期〜Bathonianであること,高屋敷層のそれが後期ジュラ紀Oxfordianであることを明らかにし,安家地域の付加体の地質構造が整然相を主体とするユニットの大規模褶曲構造で特徴づけられ,構造的下位が大局的には若い付加年代を示すことを確認した.これらのデータにもとづき,異地性岩体の年代構成にもとづく,北部北上帯の葛巻-釜石亜帯(西側)と安家-田野畑亜帯(東側)への細区分が北海道渡島帯にも延長できること,岩相や海洋プレート層序の類似から,大鳥層を中心とする安家地域西部の付加体が西南日本の柏木ユニットや大平山ユニットに対比されることを推論した.
著者
寳示戸 雅之 波多野 隆介 村野 健太郎 林 健太郎 神山 和則 荻野 暁史
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

<発生>農業に由来するアンモニア発生量を発生源別にできるだけ正確に見積もり、これを1kmメッシュ地図として示すとともに畑地、水田、草地からの発生量実態を観測した。<実態>国内27地点の大気中アンモニア、アンモニウム塩濃度を観測するとともに、栃木県の集約酪農地帯において湿性沈着、乾性沈着を観測し、地域内発生量からみた「大気を介した窒素循環」の実態を推定した。<影響>北海道標津川流域を対象として河川水の濃度と投入窒素量の解析から、流域に投入された窒素の一部は河川へ流出するものの残りは硝酸態窒素となり、脱窒を介して河川への炭酸イオンを増加させることを推定した。
著者
三原 真智人 AQIL Muhammad MUHAMMAD Aqil
出版者
東京農業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

GISやリモートセンシング技術を活用して、ベンガワンソロ流域における土壌侵食の原因の解明と土壌劣化の評価に取り組んだ。これまでの研究の結果、流域全面積の約36%から年間60t/haを超える深刻な土壌侵食を生じていると評価でき、特に急傾斜地での農地開発は土壌劣化を加速させることが明らかとなった。土壌劣化や土地生産性の低下を削減することを目的に、保全地域を特定するとともに、土壌・水保全対策の実施に向けて土地保全マップを作成した。この保全マップは行政機関のみならず、学校においても土壌・水保全に関する教育プログラムとして使用できる仕様とした。更に、土壌損失の低減を目指した作物残渣マルチング(土壌被覆)法の保全能を評価するために、人工降雨装置を活用してモデル実験を行った。実験の結果、マルチングを施さない試験枠からの土壌流亡量と比較して、30~40%の土壌被覆によって土壌流亡量を38%から53%程度を削減できることが明らかとなった。このマルチング法による保全対策は、現地で容易に手に入る作物残渣を活用して適用できるものであり、ベンガワンソロ流域の現地農家からも受け入れられる技術であると期待が寄せられている。土壌劣化や土地生産性の低下の削減を目的に作成された土地保全マップに基づいて、作物残渣マルチング(土壌被覆)法などの適切な保全技術を普及することで、ベンガワンソロ流域における土壌・水保全に大きく貢献するものと評価できる。併せて本研究では、リアルタイムで河川水のモニタリングに向けた情報システムの開発にも取り組んだ。このプログラムによって約94%の予測精度で24時間後までの水位予測を可能にすることに成功している。IJERD国際誌(International Journal of Environmental and Rural Development)に掲載されたこれらの研究成果に対して、優秀論文賞が「環境に配慮した持続可能な農村開発に関する国際会議」で授与されている。
著者
小松 優 藤永 薫
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本提案は環境に負荷を与えない事を考慮した有害金属イオン除去のシステムを開発する事を目的としている。平成18年度には、二酸化チタンおよび炭酸カリウムを原料として、フラックス(モリブデン酸カリウム)法により層状構造結晶質四チタン酸カリウム繊維の合成を試みた。この繊維の物理的性質を確認した後にカリウムイオンを水素イオンに組成変換し、イオン交換体として使用した。対象金属イオンとしてアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価遷移金属イオンを選択し、バッチ法でのイオン交換能を検討した。その結果、いずれの金属イオンでも高いイオン交換能を示した。平成19年度には、アルカリ金属イオン群(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン)、アルカリ土類金属イオン群(マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)、および遷移金属イオン群(銅イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン)を選択し、無機イオン交換体として合成した結晶質四チタン酸繊維へのバッチ法でのデータに基づいて、カラム法でのイオン交換分離を試みた。その結果、カラム中に充填した結晶質四チタン酸のイオン交換能を活用するための流入液の水素イオン濃度を調整することにより、2種類の同族金属イオン間の分離を実現させた。以上の研究結果から、高レベル放射性溶液中に含まれる長寿命核種のセシウムイオンやストロンチウムイオンの分離、遷移金属イオン中のニッケルイオンの単離等が可能となり、廃棄物の減容化の目的が達成された。即ち、環境に負荷を与える有害金属イオンの分離が可能となった。
著者
多和田 眞 (2008-2009) 多和田 真 (2007) 孫 淑琴 (SUN Shuqin)
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

発展途上国の二重経済について、環境政策と貿易政策がどのように協力して経済厚生を上昇させるかという課題に取り込んできた。特に発展途上国経済の特徴を代表するモデル(Harris-Todaro、1970)に環境問題を導入し、環境保護政策や貿易政策が労働移動や経済厚生にどのような影響を与えるかを分析した。また、循環資源貿易とリサイクル活動をH-Tモデルに取り込んで、貿易自由化がこの経済にどのような影響を及ぼすかも検討してきた。二重経済モデル(Harris-Todaro)についての拡張は多く見られるが、環境問題や循環資源貿易を導入した分析はそれほど多くない。本研究では生産要素は二要素として部門間移動が自由な労働と各部門に固定的な資本を考え、小国開放経済を想定する。そして、従来の研究を発展させて、労働移動のインセンティブが賃金の格差ではなく効用の格差であると考えて分析を行った。その下で工業部門の生産活動が環境汚染を引き起こし、消費者に悪影響を与えると考えて、工業部門の汚染発生率や工業部門の固定賃金水準の変化など、工業品の輸入に対する関税の賦課が労働移動や経済厚生水準にどのような影響を与えるかを考察した。結果は汚染削減技術の推進などの環境保護政策が都市失業の増加を招くが、経済厚生を上昇させるなどの結論を導出した。また、Harris-Todaroモデルに循環資源貿易とリサイクル活動を取り入れた新たな一般均衡モデルを構築し、循環資源の貿易パターンがどのような要因によるのか、循環資源の貿易自由化がこの経済にどのような影響を与えるかを検討してきた。そして、これまでの研究をまとめて、2編の論文を作成して、そのうち1本は国際誌に、もう1本は国内レフェリー誌に掲載となっている。
著者
砂村 倫成 山本 啓之 岡村 慶 福場 辰洋 臼井 朗 リンズィ ドゥーグル
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

海底下の大河の海洋環境への化学・生物学・生態学的影響評価のため、深海熱水プルームの時空間定量化を実施した。熱水プルーム観測のため、現場測器・サンプリング装置・音響探査手法を開発し、西太平洋やインド洋の18箇所の熱水域にて、自律型潜水艇を含む調査航海を実施した。熱水プルーム中での微生物群集組成と噴出熱水成分の相関性を見出し、プルーム内での4つの大河仮説が検証された。熱水プルーム内での微生物による一次生産量測定手法を開発し、一次生産量を見積もるとともに、動物プランクトン化学分析により、熱水プルームでの有機物生産が深海生態系に一定の影響を及ぼしている証拠を初めて提示することができた。
著者
戸谷 剛
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度は親油性表面での、平成17年度は疎油性表面での、液滴の飛散と捕集を分ける閾値について調べた。作動流体には、液滴ラジエータでの使用が考えられているシリコンオイル(信越化学工業株式会社KF96-50cSt)を用いた。シリコンオイルと親油性を持つ表面はアルミ面をもちいることで、疎油性を持つ表面はアルミ面に撥油剤(信越化学工業株式会杜KP-801)を塗布することで実現した。宇宙空間(微小重力,真空環境)での液滴の捕集と飛散を模擬するために、液滴の衝突は真空チャンバー内で行い、航空機(ダイヤモンドエアサービス株式会社MU-300)を用いて微小重力実験を行った。その結果、以下の知見を得た。1.通常重力下での液滴の飛散と捕集を分ける閾値(K=We×Oh^<-0.4>)は、親油性表面で○○○、疎油性表面で○○○であることが分かった。2.宇宙空間と通常重力下での液滴の捕集と飛散の結果を比較したところ、微小重力下と地上重力下での結果に違いがないことが分かった。3.宇宙空間での液滴の飛散と捕集を分ける閾値は、微小重力実験の回数が少ないことから、はっきり特定することはできなかったが,1,2の結果より、通常重力下での閾値の値と違いがないことを推測することができた。4.親油性表面と疎油性表面で液滴の捕集と飛散を分ける閾値に大きな違いがないことから、液滴回収器の表面は親油性でも疎油性でも良いことが分かった。5.1.の結果は従来の報告よりも大きい値であり、使用した作動流体の粘性、表面張力の違いが原因と推測される。6.液滴の捕集と飛散を分ける閾値は、液膜厚さには依存しないことが分かった。従来の報告よりも液滴速度が高速(○○〜○○m/s)であるため,液滴の持つ運動量により,液滴の衝突部の流体が排除され,液膜厚さがほぼ一定であったためであると推測された。
著者
佐藤 道生 住吉 朋彦 堀川 貴司 陳 捷 山田 尚子 島田 翔太 山崎 明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本漢籍の中で明治期以降日本国外に所在を移し、現在も国外の公共機関に所蔵されるものについて書誌調査を行なうことを目的とする。2008年度から2011年度にかけて調査を実施した国外の日本漢籍所蔵機関は8箇所で、その内、アメリカ合衆国・カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館所蔵の日本漢籍については目録を編集し、貴重書の解題を作成した。
著者
武居 渡
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

近年、ろう学校幼児部の中で、遊びを通して手話によるコミュニケーションを深める実践は多くなされているが、小学以降の教科学習を可能にするためには、一定以上の手話力が求められる。そのためには、教師と子どもとの手話による会話だけでなく、いつでも同じ表現を見ることができ、また繰り返し使うことのできる手話ビデオ教材が有効であると考えられた。本研究では、幼稚部の活動の中で用いることのできる手話ビデオ教材を作成し、手話の力を小学以降の教科学習につなげていくモデルを提案した。平成17年度に行ったろう学校教員へのインタビュー調査により、行事や幼児が日常体験している身近な出来事を題材にした手話エピソードが教育現場で使いやすいということが明らかになったため、平成18年度は、演劇活動も行っており、日本手話が第一言語であるろう者2名の協力を得て、ろう児の身近な話題について約20のエピソードを手話で表現してもらい、それをビデオ収録した。その上で、収録したビデオを、ろう学校教員(ろう教員2名,聴者教員2名,難聴学級教員1名)に見てもらい、子どもの教育的観点からエピソードの修正を行い、より教材として適切なストーリーになるよう改良を行った。その上で再度、子ども向けに改良されたエピソードを手話が第一言語であるろう者に手話で語ってもらい、スタジオで撮影を行った。編集作業を行った後、最終的に作成された教材として、幼稚部の子どもたちにとって身近な12の話題から構成された手話ビデオが出来上がった。本来であれば、そのビデオをろう学校の幼稚部に配布し、実際の教育実践の中で使ってもらった上で評価を行う必要があるが、時間的に問に合わず、いくつかのろう学校に配布するだけで終わってしまった。今後、ビデオを使ったモデル授業の提案や現場の先生との研究授業の積み重ねなどをしていくことが必要であろう。
著者
熊田 俊吾
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,乾燥地植林前後での炭素動態を解析・予測・評価可能な技術を開発することにある。本年度は,対象地である西オーストラリアにて炭素動態に関する調査を行うとともに,(1)林間閉鎖度と土壌炭素量の関係について解析を加え,土壌炭素量を推算するための土壌炭素動態モデルを構築した。また,(2)塩湖での温暖化ガス発生量および有機物分解速度についてまとめた。さらに,(3)対象地の塩湖を終点とする乾燥地森林生態系の炭素収支を推算するとともに,炭素動態解析のためのフレームワークを構築した。以下の点が明らかとなった。(1)林間閉鎖度と土壌炭素量の関係について調査結果と解析を加え,林間閉鎖度をパラメータとした土壌炭素量を推算するための土壌炭素動態モデルを構築した。モデルによる土壌炭素量の推算値は,林間閉鎖度と土壌炭素量の実測値の関係をよく再現した。この構築したモデルと林間閉鎖度分布を用いて研究対象地全体の土壌炭素量の推算が可能となった。(2)塩湖土壌呼吸の測定結果について解析を加え,塩湖から放出される二酸化炭素フラックスとメタンフラックスについてまとめた。解析の結果,塩湖からの温暖化ガス発生量としては,二酸化炭素がメタンよりも2~3オーダー大きいことがわかった。また,高塩分,高pH条件下にもかかわらず,塩湖での有機物分解速度は極端に遅いものではないことがわかった。(3)対象地の塩湖を終点とした乾燥地森林生態系における炭素動態解析のためのフレームワークを構築し,炭素収支を推算した。その結果,林地から年間流出する総リター量のうち約1/3が塩湖に流入すると推算され,さらに塩湖からの炭素放出量は対象地全体の総炭素放出量の約1/5を占めると推算された。提案した解析手法は,世界中に広く分布する塩湖を有する乾燥地森林生態系に対して有用であり,植林実施時の炭素固定量評価モデルへの応用に期待できる。
著者
谷村 雅子 大熊 加奈子 小板谷 典子
出版者
国立成育医療センター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

家族の生活時間記録から、家族間の生活行動の関係や家庭環境の関与等の多次元解析が可能なデータベースシステムの作成方法を考案し、1987年の1歳6カ月児416名と親の調査資料をデータベース化して、子どもの対人経験について解析した。核家族で父親の帰宅が遅いと、対人経験の時間も相手も物理的に減少することが示された。更に、20年後の調査で、対人経験を減少させる要因が増えていることが示唆された。
著者
下渡 敏治 上原 秀樹 ロイ キンシュック 高樋 さち子 長坂 貞郎 宮部 和幸 長坂 貞郎 宮部 和幸
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

(1) 3カ年に亘るフィールド調査によってモンスーン・アジアにおける自然災害の実態と経済発展等による人為的要因及び気候変動など自然的要因との因果関係が明らかとなった。(2) 専門分野を異にする専門家による共同研究及び学際的な研究方法確立への道筋が開かれた。(3) モンスーン・アジア特有の気象条件の下での農業・食料システムの実態と接近方法についての試論的なフレームワークを提示することができた。研究成果は報告書に纏めて公表し、最終的な青果物は「自然災害とフードシステム」として出版に向けた準備をすすめる。
著者
寺尾 裕
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

船体は波浪中向かい波航行時において、波漂流力を受ける現象があり、これは波浪中の抵抗増加として知られている。それに対して波浪推進という考え方がある。これは波浪推進器を用いて波浪中での船体の波浪中の抵抗減少と推力増加をはかるものである。波浪推進は船体前部に振動する水中翼を取り付けた構造をもつ新しい推進装置である。水中に置かれた翼は船体運動に対する大きな減衰力として働き、波浪中の船体運動を減少させる。これにより抵抗増加を押さえると共に、水中翼が波浪中より推力を発生させる。そのためにこの装置は船体の推進装置として働くばかりでなく、船の乗り心地の改善にも役立つ。ここではその波浪推進の基礎的な現象解明のための研究を行い、数値解析を行い船体と振動する水中翼の干渉問題について研究した。そのためにEWSを購入し、Fortran数値計算プログラムを開発し数値計算により現象解明をはかった。数値計算法は2次元の境界要素法プログラムとし、数値計算精度を高め、高速に計算できる事を主眼に置き開発を行った。船体と翼は単純な形状とし計算をおこなった。プログラムは今までのグリーン関数(Source singularity)法に、翼面の渦を表す渦特異項を組み入れプログラムを開発した。また自由表面境界は与えられた波ポテンシャルにより時間と共に変化し、それに従い境界条件も変化する。また船体の運動も時間に従い運動をするプログラムとした。船体と翼はそれぞれ波浪中で運動する。翼は船体とある相対位置で取り付け、その位置で船体とは独立に同じ周波数でピッチ運動をするものとした。また翼の発生する渦は時間と共に船体後方に流出させた。これらの方法で翼と船体の干渉効果について計算をおこない、翼水深により渦の発生に大きな異差があることがる事がわかった。
著者
宮腰 宏 今井 忠男 佐々木 久郎
出版者
秋田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

地下空間は,地上の空間に比較し,その潜在的特性である恒温性,放射線遮断性,耐振動性などの特徴を有する。しかしながら,地上との換気経路が限定されるため,その閉鎖性が欠点として挙げられ,災害や火災などの事故対策の十分な検討を行う必要がある。これらのことから,地下空間の通気および換気状況の把握は,安全工学上重要と考えられ,地下空間の形状・容積等と換気係数との関係は空間の基礎設計資料となりうるものであり,数値計算による予測解析における妥当性の判定資料としても必要である。本研究においては,地下風道ネットワークに接して配置され,片側換気状態にある地下空間の漏洩ガスの対流拡散状況をモデル実験によって明らかにし,数値差分法による予測解析モデルの妥当性を調べた。その結果,換気流と密度の異なったメタンなどの可燃性ガスあるいは有害ガスが漏洩した状況下での,空間の形状,容積を種々に変化させ,総合的な地下空間内のレイヤ形成,3次元ガス対流拡散現象および換気特性を実験的に明らかにした。また,地下空間内の換気流量,換気回数,換気流の特性,ガス濃度の変動・周波数特性,非定常的なガスの漏洩に対する応答特性を調べ,地下空間の換気制御に必要なデータを総合的に示した。また、差分法による漏洩ガス対流拡散の数値シミュレーションを実施し,実験値との比較検討を行った結果,正方形に近い空間形状は比較的実験に近い結果となるが,浅い場合や深い空間形状の複雑なガス対流拡散状況に対しての相違が大きいことがわかった。
著者
津田 英二
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度はこの研究助成の最終年度であり、3年間の研究成果をまとめ、次のステップにつなげる努力をした。第一に、この研究機関中に整備した研究フィールド(特に神戸大学大学院総合人間科学研究科ヒューマン・コミュニティ創成研究センターのサテライト施設のびやかスペースあーち」)において、インフォーマルサービスの形成過程とその支援のあり方について実践的研究を遂行し、データの獲得と分析を行なった。第二に、インフォーマルサービスの充実に向けた先駆的実践について、継続して情報収集と分析し、研究ネットワークの形成を行った。第三に、2006年9月に群馬大学で行われた日本特殊教育学会での口頭発表、同月にイギリスのオープンユニバーシティで行われた研究集会で口頭発表を行なった。第四に、研究論文として『Brithish Journal of Learning Disabilities』誌や『福祉教育ボランティア学習学会年報』、神戸ヒューマンコミュニティ創成研究センター編『人間像の発明』などに研究成果を発表した。第五に、理念や概念の検証、実践的研究に関するデータ、先駆的実践の整理や分析などを整理し、口頭発表や研究論文発表などをふまえて3年間の研究成果を『インクルーシヴな地域社会をめざす拠点づくり』という冊子にまとめ、刊行した。
著者
大野 出
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度〜平成15年度における研究課題「日本近世における老荘思想の解釈に関する研究」の一つの到達点として、平成15年度、東方学会・国際東方学者会議のシンポジウム「林希逸『三子〓斎口義』と東アジア三国の近世文化」(代表・池田知久)の企画にChairpersonとして参画し、池田知久、小島毅、中野三敏、山城喜憲、周啓成、王廸、崔在穆、宮崎修多(以上敬称略.なお、周啓成氏については、中国におけるSARSの流行とこれによる出国手続の複雑化、長期化にともない来日できず、同氏の研究発表については代読がなされた)らとシンポジウムにおいて議論を行なったが、このシンポジウムにおける研究発表内容については、『国際東方学者会議・シンポジウムIII資料集』としてまとめられ、会議当日、会場(日本教育会館)において配布された。なお、同シンポジウムにおいて研究代表者(大野出)は午前の部(第I部)の司会を担当し、午後の部では「実学としての『老子〓斎口義』」と題する研究発表を行ない、午前の部に引き続き討論に参加した。この研究発表については、その要旨を中国語訳(王廸訳)とともに報告書に掲載した(英文による要約も加えた)。また、平成13年度以降にあっては、日本近世における老荘思想の受容という問題から、老荘思想および道教の受容へと視野を広げた研究に取り組んできた。その過程において、日本における霊籤の受容という問題の重要性を発見するに至った。このことが平成15年度までの当該研究から平成16年度の基盤研究(C)(2)「日本における霊籤の受容と展開に関する思想的研究」への発想が生まれる契機となった。