著者
古賀 崇
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、日本および諸外国の制度に関する比較研究を通じ、「政府情報の保存・アクセス」について「情報管理」と「法制度」の側面から学際的知見を獲得することを目指した。中心的な成果としては以下の論文を上梓することができた。(1)日本での「政府情報の保存・アクセス」に関する最近の政策動向について、「公文書」「政府ウェブサイト」「政府刊行物」という中心的動向を意識しつつ、これらの枠を越えての「電子環境下での包括的な政府情報管理の必要性」という観点で論じた。(2)米国アリゾナ州での「電子的な政府情報の保存・アクセス」の取り組みについて、従来の「図書館的枠組み」「文書館的枠組み」を越えた枠組みをモデルとして想定していること、またオープン・ソフトウェアを駆使しつつ政府機関自身が柔軟な「保存・アクセス」のシステムを構築していること、を論じた。本研究ではこれらに加え、「MLA連携(博物館・図書館・博物館の連携)」についても、「政府情報の保存・アクセス」というテーマとのつながりを意識しつつ、成果を示すことができた。
著者
木村 憲彰
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

これまで、重い電子系における重い電子の起源、あるいは超伝導の形成において、スピン軌道相互作用の役割がよくわかっていなかった。本研究では結晶の空間反転対称性の破れによってあらわになるスピン軌道相互作用を、ドハース・ファンアルフェン効果をはじめとする輸送現象の測定によって明らかにし、質量増強のスピン依存性、異方的常磁性対破壊効果によって増強された超伝導上部臨界磁場を明らかにした。また、超伝導揺らぎの可能性や空間反転対称性の破れに共通した特異な超伝導状態を見出した。
著者
宇沢 美子
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、19世紀から20世紀転換期のアメリカ文学における日本観の変遷を扱うことを目的とする。元祖黄禍はジンギスカン率いるモンゴル民族軍によるヨーロッパ侵略の形をとったが、その悪夢は、アジアからの移民の増加と日本の軍事力の増大により、19世紀から20世紀転換期にアメリカで再燃した。本研究は、東洋による西洋(領土/仕事/女性)の支配に対する懸念である黄禍論に対する異議申し立てを、西洋と東洋を相対化する視点を模索した(人種的/文化的)ユーラシアンたちの作品に見出そうとする。中国系カナダ人ウィニフレッド・リーヴ(オノト・ワタンナ)の日本小説は、蝶々夫人やお菊さんなどで定着しつつあった、西洋(男性)による東洋(女性)の支配というジェンダー/性で織りなされたオリエンタリズムの関係を脱し、世紀転換期にアメリカで取りざたされた「新しい女」の日本版を作り出し、国籍を超えた女性同士の「心」と「神経」による「シンパシー」を模索した。自身のユーラシア性を文化翻訳者に見出していたと思われるこの作家は、日本の浦島伝説を、西欧の人魚伝説とあわせ、浦島太郎ではなく、あとに残される乙姫の物語へと翻案し、出世作『日本鶯』を書いた。ヨネ・ノグチの朝顔嬢小説は、蝶々夫人やコミックオペラ「芸者」に対する批判を含み、ワタンナの日本小説に対するパロディとして意図されたものだが、あまりに過激なジャポニスムとの戯れゆえに、またゲンジロウ・エトウのジャポニスム装丁ゆえに、かえって出来の悪い日本小説として受容された。白人作家ウォラス・アーウィンが生み出したハシムラ東郷は、日露戦争後の黄禍論や東洋人排斥運動を直接的な背景とし登場した擬似日本人だが.幾度となく「黄禍」と呼ばれた賢い道化のスラップスティックは、黄禍論の(イ)ロジックのみならず、ジャポニスムや日本小説のウェットな感性をも完壁に笑いのめした。
著者
高島 千鶴
出版者
佐賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,炭酸水素塩泉,硫黄泉および含マンガン鉱泉で生じる堆積物に焦点を当て,水-鉱物-微生物相互作用についての研究を行った.炭酸塩堆積物(トラバーチン)については流速と堆積物組織と微生物の分布との関係について明らかにした.鉄酸化物については微小電極を用いて堆積物表面でシアノバクテリアの代謝活動を確認し,硫黄泉では硫黄酸化細菌の代謝による水質変化を認識した.さらに,鉱泉中のマンガンの起源を特定し,そこで生じるマンガン酸化物の沈殿に微生物の関与を認定した.
著者
山本 経天
出版者
日本経済大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、まず、中日国交回復前の日本語教育機関の全体状況を解明した。次は、人物史研究として戦前の日本留学生徐祖正、旧植民地台湾出身者陳信徳、日本人居留民岡崎兼吉、新中国を支援した日本共産党教師団を取り上げ、日本語習得者や日本人教師が新中国の日本語教育に果たした役割を明らかにした。
著者
金山 良春 根来 伸夫 岡村 幹夫
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

自然発症高血圧ラット(SHl)およびWKYラットの大動脈由来の培養血管手滑筋細胞(VSMC)を用いて,各種成長因子,血管作働物質を作用させた場合のcーmyc protoーoncogene(cーmyc)の発現の程度を比較し,Ca培抗薬やα_1ブロッカ-により抑制されるかどうかを検討した。SHR由来のVSMCは,胎児血清PDGF,EGF,アンギオランシンII,エンドセリンー1,エンドセリンー2,エンドセンリンー3の刺激に対してWKY由来のVSMCに対し有意に高いcーmycの発現を示した。しかし,TGFーβに対してはcーmycの発現の増強は示さなかった。一方,SHR由来のUSMCの種々の成長因子やアンギオテンシンII,エンドセリンなどの血管作働物質によるcーmycの増強それた発現はCa拮抗薬である,ニフェジピン,ジルチアゼムによりWKY由来のVSMCのcーmycの発現の程度に抑制された。また,α_1ブロッカ-である塩酸プナソシンによっても抑制されることを認めた。cーmycの発現にはCa^<++>とプティンキナ-ゼCが関与すると考えられているが細胞内Ca^<++>の動員に重要とされているイノシト-ル1.4,5ー3リン酸(IP_3)のアンギオテンテンIIに対する反応性をSHR由来のVSMCとWKYのそれとを比較したが、SHR由来のVSMCのIP_3反応はWKYの4ー5倍の反応を示した。このことよりSHR由来VSMCのcーmyc発現の増強の要因の一つはアレギオテンシンIIに対するIP_3反応の増強とそれに続く細胞内Ca^<++>の上昇の増強が関与している可能性が考えられた。
著者
酒井 善則 山岡 克式 小林 亜樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は検索しやすく効率良いCDNをインターネット上で実現するために、コンテンツを主体とした新しい分散制御形コンテンツ配信ネットワークの基本的アーキテクチャを確立することを目的としている。本研究の主なポイントは、(1)メタ情報をもとにコンテンツの蓄積するサーバを検索する方式の開発、(2)コンテンツあるいはメタ情報が自律的に漂流するアルゴリズムの実現、(3)遅延の小さいリアルタイムメディア転送方式の実現、(4)コンテンツを媒介とした課金・集金方式の実現、の4点である。(1)についてはメタ情報をもとにしたクエリを確率的にネットワークにフラッディングして検索する手法を開発して、その有効性を確かめた。(2)については、コンテンツに検索履歴のリーク積分値を人気値として付加して、人気値の大小によりキャッシュで消去するコンテンツを決定し、かつコンテンツコピーを蓄積するたびに人気値を分割して付加するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを用いることにより実効的にコンテンツの人気を推定して、かつ蓄積ノード間で情報をやりとりすること無しに、コンテンツを介してノード間の協調が可能であることを示した。(3)については、ネットワーク内ノードが再送要求パケットを観測することにより、自らの判断でプロトコルを中継して再送遅延を小さくでき、結果的に遅延オーバーによるパケット損失が小さくなることを明らかにした。(4)については匿名課金および販売の可能なプロトコルを開発した。なお、本研究成果については実験システムを試作して、各提案アルゴリズムの有効性を明らかにした。
著者
丹羽 雅子 中西 正恵
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

衣服の外観の美しさ、着やすさを含む人間の感性と適合した高品質衣服を設計するに当って、衣服の形成能、仕立て映え等に関する布の客観的性能評価法の確立が重要である。しかし、これまで、衣服設計は主としてデザイナ-の感性に基づき、その経験と勘によってなされてきている。衣服が工業生産される今日、特に婦人服は、従来からの天然、人造繊維による多岐にわたる素材に加えて、高度な繊維集合体製造技術を駆使した合成繊維織物"新合繊"や新世代ウ-ル等が開発され、これまでの衣服素材とは異なる全く新規な素材の出現をみるに至っている。しかし、これらの新しい素材の衣服の最適なシルエットデザイン、ならびに可縫性を見きわめた縫製システム制御に関しては、従来の経験を適用することが不可能で、多くのリスクのもとに衣服生産がなされ、そのリスクを背負った消費生活が強いられている。本研究は、より快適な衣生活の実現を目指し、高品質衣服の生産と消費のサイクルを資することを目標として、布の基本力学特性から衣服の最適シルエットをデザインする方法を開発し、その実用性については国内外のこれらに関連する研究分野の技術者の協力を得てフィールドワークによって確認した。他方、高品質衣服を構成するに際して、布の基本力学特性に基づいて最適な縫製の工程設計ならびに工程制御が必要とされることから、シームパッカリング、縫目破損、縫目滑脱の生じない最適な縫目を形成するための縫糸、縫針、ミシンの調整などを選定し、制御する方法等について以下の基礎的知見を得た。(1)布の基本力学特性に基づく高品質衣服のための最適シルエットデザインとそれぞれの最適シルエットの得られる高品質布地の持つ力学的性質の範囲を明確化。(2)高品質衣服生産のための縫製システム制御の基礎的研究として、レーザ光を利用した試作パッカリング検出装置によるパッカリングの客観的評価法の開発と、最適縫目を得るためのミシンの動的上下糸張力の測定法の開発と理論的解析に基づく縫製条件の設定、制御のための基礎的資料の整備。(3)布の基本力学特性に基づく高品質衣服生産のための縫製工程のシステム化とフィールドワークによるその妥当性の検証。
著者
岡田 宣子
出版者
文化女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

高齢者・障害者には、脱ぎ着しやすく着心地の良い被服の提供が必要なので、重心動揺を指標として快適被服設計の原則をとらえた。高年17名の実験はフィールドワークで、若年33名には衣服圧測定や官能検査も含め着用実験を行った。椅座位動作時の重心動揺、所要時間に着目し解析した。1.服種別に検討した所、高年女子ではワンピースより2部式被服の方が楽で、ソックスは生体負担が大きく、前あき上衣が一番扱いやすい。高年男子では障害者が好んで着用する服種は、生体負担が少なかった。着衣時には患側を先に操作しかばっていた。かぶり式シャツは頭髪の汚れを気にすると扱いが大変になる。2.バストライン(BL)上のゆとり量・アームホール(AH)下げ寸法を変化させたブラウスの着脱実験から、ゆとり量の多い方が有意に着脱しやすく、機能低下の顕著な人には(AH)を2cm下げると生体負担が有意に減少した。若年のかぶり式被服の腕入れ腕ぬきに必要なゆとり量は、厚みのある体型で20cm、普通体型で20cm〜24cm、偏平体型で24cmである。(BL)上のゆとり量は、衣服圧及び全体・肩部・上腕部の着用感に、(AH)下げ寸法は肩の着用感に有意に関わっていた。着用者からみた適切ゆとり量は、高年については厚みのある体型で20cm、普通体型で24cm、偏平体型で28cmである。若年では高年よりいずれも4cm少ない。着用者のこの好みの結果は実験結果と矛盾しないが、若年では偏平体型以外は、腕ぬきでないゆとり量である。機能の低下している人にはゆとり量を増やし負担を軽減する必要がある。3.パターンとの関わりをみると、更衣動作の難易には左後腋点〜右肩峰点までの体表長(AB)と上腕長(BC)が深く関わり、(AB)のバイヤス方向のゆとり量が重要な要因として働く。袖山の高さは着脱性の難易や着心地に大きく関わり、機能低下の著しい人には、袖山の高さを低くし袖の被覆面積にゆとりを持たせ、上腕部の運動適応性を高めることが有効である。
著者
塩谷 雅人 西 憲敬 長谷部 文雄 山崎 孝治
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

この研究課題では,熱帯域のオゾンと水蒸気の分布に注目し,大気微量成分の放射・光化学的な影響を評価する上で鍵となる成層圏と対流圏間の物質交換過程について,おもに全球および定点観測データや数値モデルをもちいた研究をおこなった.さらに,熱帯域における観測データの不足を補うために,オゾン・水蒸気ゾンデ観測を実施した.この観測キャンペーンは,過去4年間にわたり,熱帯の西部・中部・東部太平洋域の3地点でのべ18回(熱帯東部太平洋における船舶からの観測を1回含む)にのぼる.同時に,上部対流圏から下部成層圏における簡便な水蒸気観測をおこなうために,高精度で高感度な鏡面冷却方式露点/霜点温度計("Snow White")の開発改良を海外の研究者と共同でおこなってきた.これらの研究活動の主な成果は,以下のような論文として取りまとめられている.1)観測キャンペーンで得た水蒸気ゾンデデータにもとづき,これまで観測のなかった熱帯対流圏界面領域での水蒸気変動の季節性,地域性を明らかにした(Voemel et al.,2002).2)東太平洋域での水蒸気ゾンデデータから,圏界面付近のケルビン波が成層圏の水蒸気量を規定している可能性を示唆した(Fujiwara et al.,2001).3)全球データおよび大気大循環モデルを用い,熱帯対流圏界面の気温と鉛直流のENSOのシグナルを抽出しそのメカニズムについて考察した(Hatsushika and Yamazaki,2001).4)熱帯東太平洋で船舶から世界ではじめてのオゾンゾンデ観測をおこない,そこでの対流圏オゾン変動を明らかにした(Shiotani et al.,2002).5)鏡面冷却型水蒸気センサ'"Snow White"を既存のさまざまな水蒸気センサーと相互比較することによって,そのパフォーマンスを明らかにした(Fujiwara et al.,2003;Voemel et al.,2003).
著者
松岡 秀雄 COLLINS Patric 長友 信人 COLLINS Patr
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

現地調査は、平成8年10月のエクアドルと同9年3月のモルジブで行われた。両国では、中央政府や関係する地方政府の関係者や関心のある研究者と会合がもたれ、それぞれの国がSPS2000計画に参加するについての議論が深められた。全てが参加することに積極的であり、レクテナの設置候補地が選定された。両国において必要となる事柄について調査された。エクアドルでは、レクテナ設置候補地については、熱帯雨林、アンデス高地及び沿岸低地となるので、高高度レクテナの研究に向いている。ガラパゴス諸島は、環境負荷がほとんどないことからして、レクテナの設置には好適である。エクアドルのSPS2000用レクテナは、他の組織と協力することになるにせよ、恐らくは独立企業体として運用されることになろう。この方式は、他の国々や未来におけるSPSの民営化へ向けた重要な一歩になろう。キトー(エクアドル)にあるサンフランシス大学の人達は、今後の協力体制へのセンターとして機能することになろう。モルジブでは、土地固有のエネルギー源はない。SPS2000のレクテナ設置にはかなりの関心を示した。モルジブには、ほとんど陸地はなく、リーフ上に広大な浅瀬が展開しているため、この国の最南端にあるアドゥ環礁では、海上にレクテナが設置されることになろう。環礁管理庁や計画・人的資源・環境省の人々が今後の協力体制へのセンターとして機能することになろう。
著者
佐久間 みかよ
出版者
和洋女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

19世紀のアメリカ人作家メルヴィル、エマソンを中心にして、その自然観を考察するため、作品の動物表象に着目し研究を行った。その結果、当時発達した自然科学の影響を受けた多様な生物への関心がまし、また植民化活動の活発化から派生した東洋の文化・思想の流入した結果、動物と人間の融合する自然観、世界観が作品に反映されていることが確認できた。これらは今日の動物の権利、エコロジー的思考へと向かう流れを形成していると思われる。
著者
大桑 哲男 直井 信
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

平成10年度はラットにおいて、一日の自由運動での走行距離は大きな個体差を認め、肝臓の水酸化ラジカルレベルは走行距離と負の相関関係を認めてきた(r=-0.533,p<0.05)。さらに水酸化ラジカルを除去する還元型グルタチオンは、肝臓、心臓および脳において、走行距離と有意な正の相関関係を認めてきた(肝臓ではr=0.532,p<0.05;心臓ではr=0.462,p<0.05;脳ではr=0.760,p<0.001)。平成11年度は、還元型グルタチオンは肝臓において、グルタチオン酸化還元酵素と高い相関関係があることを認めてきた。しかし、正規分布を逸脱する群では、有意な相関関係は認められなかった。さらに一日の運動量は、抗酸化能力と密接に関係していることが明らかとなった。今年度(平成12年度)は、成長期である5週齢ラットのWistar系ラットに3,6,12週間の自発的運動を課し、週齢と運動期間が抗酸化能に及ぼす影響について検討した。成長に伴い自発的運動量は11週まで増加した。しかし肝臓における水酸化ラジカル濃度は安静群と運動群ともに有意な変化は見られなかった。この水酸化ラジカルレベルに有意な変化が認められなかった理由として、成長と運動に伴い肝臓の還元型グルタチオン濃度が増加したことが考えられる。特に肝臓の還元型グルタチオン濃度の増大は、還元型グルタチオン生合成系酵素(γ-グルタミルトランスフェラーゼ、γ-グルタミルシステインシンターゼ)活性ではなく、還元型グルタチオン酸化還元系酵素活性(グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンリダクターゼ)が増加したことによることが示唆された。また、自発的運動を課することにより、成長期においてさらに抗酸化能の誘導が促進することが明らかとなった。さらに本年度では、人を対象にビタミンE投与が筋組織への損傷に及ぼす影響を明らかにした。4週間にわたるビタミンEの投与(1200IU/日)と、その後の6日間の激しい走行トレーニング(48.3±5.7km/日)中のビタミンEの投与は血清の過酸化脂質の生成を抑制した。激しい走行トレーニング群におけるビタミンE投与は、対照群(擬似薬群)に比べ、血清中のクレアチンキナーゼおよび乳酸脱水素酵素活性が低下した。これらの結果から、ビタミンE投与は、長期間の激しい走行トレーニングによって増大する活性酸素の生成を抑え、筋損傷を抑制したものと考えられる。
著者
村上 秀明
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

能の機能局在論による脳機能マッピングが、各分野で盛んに行われている。MRスキャナを用いて脳機能を画像化する方法が近年普及し、fMRIとして広く能科学の分野で利用されている。これらを用いて特殊感覚についての脳機能マッピングが行われており、1991年に初めて視覚野での機能画像を取得することに成功したが、ヒトにおける味覚刺激によるfMRIでの大脳皮質野の賦活領域に関する研究はこれまでほとんどなされておらず、味覚野の機能に関しては知られていない。そこで今回我々はfMRIを用いて、大脳皮質における味覚野を同定する可能性について検討することを目的とした。対象は、神経学的に異常の認められない右利きボランティア5名とした。撮像シーケンスは、2次元のシングルショットのEPI法を使用した。撮像範囲は、側脳室を中心に前頭洞を避けるように6スライス設定し、賦活時と安静時をそれぞれ20回ずつ撮像した。賦活領域を解剖学的位置と比較するため、スピンエコー法を用いたT1強調画像で、本法と同部位の撮像を行った。それぞれのデータをMVOXへ転送し、三次元化し重ね合わせた。味覚刺激は、4%塩酸キニーネを使用した。被験者の全員において、左右いずれかの島及び弁蓋部付近に賦活領域が認められた。また、同部位では、安静時より賦活時は信号強度が平均15.5%上昇していた。賦活領域は5人全てで有意差が認められ、5人の信号強度の変化率の平均6%であった。今回の研究により臨床機を用いたfMRIによる味覚野の同定の可能性が示唆された。また、賦活部位を三次元化することで、より明瞭に把握することが可能であった。
著者
樫原 修
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の基礎には、広島県神辺町の高橋家に伝わる北條・高橋家文書を中心とした調査がある。そうした調査をもとに、原資料と鴎外史伝の比較検討を次に行った。鴎外が見得なかった資料をも含めた原資料と、鴎外の参照した資料、引用した資料を多面的に比較検討する事によって、鴎外の拠った資料自体の傾向を明らかにするとともに、作品形成の筋道や特色を探り、『北條霞亭』を資料的基礎から検討していったのである。その結果であるが、鴎外の『北條霞亭』、鴎外が執筆に利用した資料(鴎外文庫蔵)、北條・高橋家文書の三者を比較すると、鴎外が作中で述べている以上に、北條・高橋家文書が執筆に寄与した度合いが高いことが分かった。鴎外は、おもに筆写された資料を見ているが、そこには二重の読みが介在するため、誤差も生じていることが確認できた。以上をふまえて、鴎外の考証のあり方を検討したが、鴎外の考証にはいくつかの問題点が含まれていることが確認できた。鴎外の考証は、一つ一つは合理的に行われているが、自己の考証相互に含まれる矛盾を十分顧慮していない場合があること、霞亭の書簡中の文言をあまりに字義通りに受け取ってしまった結果、誤った結論に導かれた例があること、正しい方向に導くべき資料を無視する結果に陥った例があること、などである。そこからして、的矢書牘のうち、霞亭の林崎時代に書かれた書簡の年代に関する鴎外の考証は、全面的に見直すべきであるとの結論も得た。しかし、だから鴎外の『北條霞亭』には意味がないというのではない。そのように分析して見えてくるのは、数々の矛盾に苦しみながら考証を重ねていく、鴎外の思考の過程であり、そこにこそこの作品のボディーがあると見られるのである。
著者
淺間 正通 堀内 裕晃 山下 巖
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、電子辞書に依存する英語学習者の読解ストラテジーに焦点を当て、未知語推測における手掛かり処理(ワードアタック)が旧来の印刷体辞書利用時における辞書引きプロセスに比すと、著しく短絡的方途によるものであろうことを仮説設定し、その証明を行うとともに、電子辞書に付随する種々の問題点の所在をあらためて明確にし、その結果に基づいての辞書引き矯正のためのプログラム開発を行った。
著者
國分 真佐代
出版者
聖隷クリストファー大学看護短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、昨年度行った14組の両親の面接内容を夫婦別々に郵送して本人に確認してもらい、逐語録を作成し質的に分析した。その結果、母親達は、死産という"最悪事態の発生"にショックを受けたが、自分が所有している将来の妊娠の可能性などに気づくことにより悲しみから踏み出すことが多かった。次の妊娠では、"再発への怖れ"を抱き、得られなかった子どもの存在や母親役割を取り戻そうとする"代替への試み"の中で、"死産児(の死)を認め"、独自の人格を有する子どもとして"次回児を受入れる"という"次回児へのマザリング"に取組み、出産後には次回児との新たな母子関係を築いていた。しかし、次回児に死産児の生まれ変わりを願った母親は、出産後1年以上も死産児との区別ができなかった。一方、父親達は、死産にショックを受けたが、葬儀等の社会的な役割を果たすことに専念して悲しみを表現することが少なかった。死産後には、葬儀に立ち会うことにより"死産児(の死)を認め"て悲しみから踏み出すことが多く、死産児の生まれ変わりを願うことはなかった。次の妊娠では、"再発への怖れ"を抱いて母子を守るために"妻への気遣い"を行い、死産児とは異なる独自の人格を有する子どもとして"次回児を受入れ"て"次回児へのファザリング"に取組み、出産後には次回児との新たな父子関係を築いていた。死産後から次の妊娠・出産時の看護について両親が肯定的に受止めたのは、死産後に1人の子どもとして死産児に接してくれたことと、死産後からの継続的な関わりを受けたことであった。求めたい看護は、母親は次回児の妊娠から産後に不要な質問を受けないための医療者側の情報伝達の連携で、父親は死産後のプライバシー確保や精神的ケアであり、産後の悲嘆から鬱状態と出社拒否となり自ら心療内科の受診や社内配属異動をした父親は自分への看護も望んでいた。
著者
宇根谷 孝子 佐々木 嘉則 梅田 千砂子
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は平成14年度から平成16年度までの3年間のプロジェクトである。最終年度の成果概要は以下の通りである。1 目標…渡日前の日本語、日本での生活、キャンパス・ライフ全般におけるレディネスを高めるための、包括的な入学予備教育システムを提供する。即ち、包括的日本語予備教育システムとは、文字リテラシーの他、デジタル音声、映像技術を活用した会話モデルの提示、日本に関する文化情報、受け入れ大学および周辺コミュニティーにおける生活場面のシミュレーションなどからなるものである。2 研究の経過と到達点1)WebCTのコンテンツモデュール機能を使い、ビデオオンディマンド(VOD)教材を開発し、立命館アジア太平洋大学のWebCTコースに「04F Video Survival Japanese(forxDSL)」(htt://webct1.apu.ac.jp:8900/SCRIPT/4AA04001003/scripts/serve_home)としてアップロードした。また、本学に平成17年度4月に入学した英語基準の学生(ただし、高速回線にアクセス可能な者)を対象として同年2月にオンラインで公開した。2)約2ヶ月間インターネットを通して学習履歴データを収集した結果、1)高速回線利用者という制限にもかかわらず、韓国、中国、モンゴル、ガーナ、インドネシアなど世界中の国から26名(約10%)の学生がアクセスし、空港、APハウスなどのビデオや参考資料を教材として、日本での生活、キャンパス・ライフ全般へのレディネスを高めていることが確認できた。3 今後の計画1)日本語予備教育教材を16年度以降も引き続き遠隔地の学習者に公開し、そのフィードバックをもとに、日本語学習支援環境と内容をさらに充実させていく。2)上記の非同期的コミュニケーション手法に加えて、インターネットベースのテレビ会議やテレビ電話などの同期的コミュニケーション手法を追加し、さらに体系的な日本語学習支援環境を構築する。
著者
佐藤 しづ子 笹野 高嗣 阪本 真弥 庄司 憲明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

近年、従来はみられなかった若年者における味覚異常が社会問題となっている。その原因としては、ダイエット、コンビニエンス食、食生活の欧米化とそれに伴う和食の不摂取、昼夜逆転など若年者をとりまく最近の社会現象(life styleの変化)との関連が指摘されはじめている。さらに、現代社会におけるストレスは、自律神経を失調させ、味覚に重要な役割をはたす唾液分泌の低下をきたし口腔乾燥症を招き、ストレスによる若年者の味覚異常の惹起が指摘されている。しかしながら、これまで味覚異常は、高齢者についての実態調査はみられるものの、若年者における実態は全く不明であった。そこで、若年者をとりまく社会現象との関連を明らかとすることを目的として、若年者の味覚異常の実態(発症率・病因など)について疫学調査研究を行った。調査研究に同意を得た本学歯学部新入生153人に、濾紙ディスク法を用いた味覚検査、唾液分泌量測定および味覚異常の原因に関する問診を行った。その結果、1)全体の24.8%に味覚異常がみられた。殆どは、軽度味覚異常で、高度味覚異常者はいなかった。味覚異常者の9割以上には、味覚異常感はなかった。2)味覚異常者全員の唾液分泌量は正常だった。3)味覚異常者には、全身疾患および服薬はなかった。4)味覚異常者には、ストレス、睡眠時間、インターネット使用、香水使用との関連はみられなかった。5)味覚異常者には、朝食欠食者が多かった。6)味覚異常者では、豆類、魚貝類、海草類の食品摂取頻度が少なかった。7)味覚異常者には、貧血様症状と体重減少者が多くみられた。以上より、若年者における味覚異常は食生活との関連が深いことが判明し、若年者の全身健康のために味覚検査と食事教育が必要であると思われた。
著者
赤間 知子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

生体分子において重要な光化学反応の電子的メカニズム解明のためには、大規模系の電子状態ダイナミクスを記述できる理論的手法の開発が必要である。報告者はこれまで、分割統治法を用いた大規模系のための高速化法の開発と、実時間発展形式の時間依存Hartree-Fockおよび時間依存密度汎関数理論(RT-TDHF/TDDFT)による電子ダイナミクスの記述に関する研究を行ってきた。今年度は、大規模電子状態ダイナミクスシミュレーションの実現に向けて、電子ダイナミクスに関する下記のような研究を行った。以前の報告者の研究において、ホルムアルデヒド二量体のRT-TDHF/TDDFT計算に対して短時間フーリエ変換解析を適用することにより、光誘起された分極が分子間で伝播する様子を追跡できることがわかっている。今年度はさらに研究を進め、分子間で起こる伝播の周期は分子間相互作用により生じた2つの擬縮退励起状態のエネルギー差に対応しており、励起状態と関連付けた電子ダイナミクスの解析が可能であることを明らかにした。さらに、伝播周期の距離依存性を検証することにより、分子間相互作用の主要な成分を解析した。(J.Chem.Phys.132,054104)また、これまでのRT-TDHF/TDDFT計算では主に数値グリッド基底や平面波基底が用いられており、取り扱われるエネルギー領域は価電子励起のみに限られていた。報告者は、ガウス型基底を用いたRT-TDHF/TDDFT計算のフーリエ変換解析によって、価電子励起だけでなく内殻励起に対しても周波数領域のTDHF/TDDFTの結果を再現できることを確認した。(J.Chem.Phys.132,054104)さらに、周波数領域のTDDFTで価電子励起・内殻励起ともに高精度に記述するために開発されたCV-B3LYP汎関数をRT-TDDFT計算に適用し、RT-TDDFT計算においても内殻励起を高精度に記述することに成功した(Chem.Lett.39,407)