著者
平野 満
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、採薬記を集成して資料集として提供するための基礎的研究にあった、主として諸写本の書誌的調査により関連史料を援用した。年度内の成果は以下である。1.小野蘭山の採薬記のうち、『常野採薬記』『甲駿豆相採薬記』の諸写本を書誌的調査と蘭山の『日記』によって検討し、成立事情と転写系統を明らかにした。(研究発表1)2.蘭山の採薬記のうち、『遊毛記』『紀州採薬記』『駿州勢州採薬記』『上州妙義山武州三峯山採薬記』について,1.と同様に、その転写系統を明らかにした。また、蘭山に同行した門人による採薬記,宮地維則『常毛採品目録附常毛物産目録』・『藤子南紀採薬志稿』三谷笙州『信州駒ヶ岳採薬記』についても触れた。また、『藤子南紀採薬志稿』の著者「藤子」が江戸金助町住の医師加藤玄亭であることを明らかにした。(研究発表2)1.2.の検討から蘭山「採薬記」の転写本は山本読書室の蔵本が底本となって流布した事実を確認できた、山本読書室は近世後期の本草挙の情報発信源であったことが判明した。3.蘭山門人山本亡羊読書室の採薬の年表を作成して、いかに山本読書室が採薬を重んじたかをみた。(研究発表3,原稿提出済み)4.山本読書室の採薬記について、所在の確認と書誌的な調査により転写関係を明らかにした。5.近世から明治期にいたる間に成立した「採薬記」すべての(仮)所在目録を作成した。適時、増補改定が必要であることはいうまでもない。
著者
鯨 幸夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、水田の環境を保全しながら水稲の超多収を実現させる戦略について検討した。得られた結果の概要は以下の通りである。1)1992年に998kg/10aの超多収を示した長野県伊那市の農家水田で生育するコシヒカリを調査し解析した。伊那コシヒカリの超多収性は、総根重、土壌表層根重の多さ、根の生理活性の高さに支えられた高い光合成速度と蒸散速度が背景にある。また、低水温の農業用水と土壌中の気相割合の多さも関係している。2)有機資材の連用により土壌中の腐植含有量は増加し、超多収を示した伊那コシヒカリと類似した根系形態を示すようになった。また、根の生理活性も高いことから、土壌への有機物連用は地力維持と環境保全への近道であると考えられた。3)コスト削減と外部環境に及ぼす影響を軽減するには、不耕起直播栽培や土中打込み点播方式も効果的である。また、LP肥料を用いたF1水稲品種の乾田不耕起直播栽培も北陸では有効であると考えられた。4)慣行的に施用されてきたN,R,K施肥の意味について、三要素継続試験から検討すると、三要素区、無P区、無K区での収量、根重、根の活力に有意な差が認められないことから、慣行的な施肥法を再考する必要性があることが明確となった。5)水稲の無農薬有機栽培の可能性について、コシヒカリBLを用いて検討した。再生紙マルチを用いて水稲を有機栽培すると575kg/10aの収量を示した。根系生育および根の生理活性は、超多収を示した伊那市のコシヒカリに近似していたことから、有機資材を用いて多収を実現することの可能性が示唆された。なお、畦畔にはアジュカ、イワダレソウを埴栽した。また、植物資材を利用した除草効果を検討したところ、米糠の利用が現実的であると判断された。6)2002年の伊那市の超多収コシヒカリの収量は800kg/10a以上を示した。
著者
中村 春作 市來 津由彦 田尻 祐一郎 前田 勉
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究で私たちは、東アジアにおける社会統治・統合と自己修養を語る普遍的な「言葉」として大きな力を有した儒学言説が、中国宋代、日本江戸前期において、どのようなプロセスで社会的意味を持つに至り、人間理解の基盤を形成したかを、個々の言説形成の型を対照比較することを通して、明らかにしようとした。以上の課題に即して、儒学テキストが、実際いかに「読まれ」血肉化したかという点から「訓読」論という新たな問題領域を開発し、他方、経書の一つ『中庸』を取り上げ、その多様な解釈の姿を明らかにした。
著者
古賀 徹
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、デザインに関する前年度の調査・研究を引き継ぐ形で、これを補充すると共に、主に理論的な面からの考察を発展させることに重点を置いた。倫理に関する基礎理論の研究としてはレヴィナスの他者論に立脚する論文「死と残余」を日本現象学会の学術誌『現象学年報』に発表したほか、アドルノのデザイン論である「今日の機能主義」にかんして、これを翻訳・解説した文章を本学の紀要『芸術工学研究』に発表し、それにもとづいて、西日本哲学会にて「象徴と機能-アドルノの啓蒙批判を通じて」という題目にて研究発表を行った。また、九州大学哲学会にて、「プログラムとしての僕らの生き方-映画『マトリックス』の超越論的考察」という題目にて、メディア論の観点からの講演も行った。11月には、「日本におけるドイツ年」の一環として、ヘッセン州のデザイン系の大学より、教員と学生が来日し、デザインに関する研究成果の発表を行った。この発表会を古賀が組織し、その内容を記録した。これと並んで、福岡市内の知的・情緒障害者の無認可作業所である「工房まる」におけるデザインを中心としたあらたな試みについてのインタビューを行った。また、デザインやアートを中心とした都市構築の試み、共同体再生の試みなどについても主に福岡を中心として幅広く研究した。これと並んで、公立美術館の役割の変化など、アートとデザインの役割の変化についても研究した。これらの現実の活動を哲学・倫理学的観点から深く掘り下げて検討し、その研究成果は、九州大学出版会より、『アート・デザイン・クロッシングVol2-散乱する展示たち』というかたちで、古賀の編著として出版された。以上が本年度の研究実績の概要である。
著者
宇都宮 裕貴 高野 忠夫 八重樫 伸生 小林 里香 山崎 幸 高林 俊文
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

子宮内膜癌細胞株を用いてERαが直接結合する新たな転写制御領域を同定しその機能解析を行うことにより、新たな分子機構の解明を試みた。始めに転写制御領域を同定するためにChIP クローニングを行い、47 の標的部位を得た。それらの中には、従来まで重要でないとされてきたイントロンも多数含まれていた。そして、ERα転写コアクチベーターであるGRIP1 に着目しその機能を検討したところ、子宮内膜癌細胞株においてGRIP1はアポトーシスを抑制することにより生存細胞数を増加させる可能性が示唆された。
著者
田邉 裕貴 小川 圭二
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

セラミックス被覆鋼の高機能化を図るための新表面改質手法として 「成膜後レーザ焼入れ処理」 を提案し, 本手法の効果を調べた. 各種セラミックス被覆鋼に対して本処理を適用し, 薄膜の割れ, はく離等の損傷, 硬さや破壊強度の低下を生じることなく材の焼入れが可能で, 密着強度と耐摩耗性を向上させることができることを明らかにした. また, 本処理を応用した実部品を試作し,本手法の実用化の可能性についても検討した.
著者
藤本 薫
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

硝酸による脱アルミニウム処理によりZSM-5と同等までSiO_2/Al_2O_3比を高めたモデナイト、およびUSY型ゼオライトを調製し、水素のスピルオーバー効果を得るために含浸法により調製したPd/SiO_2をゼオライトに対して等重量物理混合したハイブリッド触媒を用いて各種C7パラフィンの水素化分解を行った。パラフィンの水素分解反応では、水素のスピルオーバーによりゼオライト上にプロトンが供給され活性が向上するとともに、同時に生成するハイドライドにより中間体カチオンが安定化されるためこれらの重合、および重合物の分解が抑制され分解生成物は少数のパラフィンに限定された。各種C7パラフィンの反応性にはゼオライトにより大きな違いが認められ、モルデナイト、USY型ゼオライトでは2,4-ジメチルペンタン(DMP)>2-メチルヘキサン(MHK)>ヘプタン(NHP)の順となった。これらの序列はH-ZSM-5ハイブリッド触媒と全く逆である。H-ZSM-5ハイブリッド触媒では、2-MHK、2,4-DMPではW/Fを0に外挿したときの分解の選択性は0に近い値になるが、NHPでは40%以上の高い分解の選択性を示すことである。これらの実験結果からモルデナイト、USY型ゼオライトではパラフィンの水素化分解において従来から広く受け入れられてきたカルベニウムイオンのβ開裂により分解が進行するが、その酸強度、および酸量から予想されるよりも遥かに高い活性を示すH-ZSM-5では、プロトン化シクロプロパン環を中間体として分解が進行することが示唆された。ヘプタンの転化率(異性化反応を含む)が酸強度がモルデナイトよりも低いH-ZSM-5が高いことから、H-ZSM-5の狭い細孔構造がプロトン化シクロプロパン環型中間体の安定化に寄与し、優れた炭化水素の反応の場となっている可能性がある。
著者
永田 和宏 細川 暢子
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

小胞体関連分解の分子機構について、多くの新しい知見を得た。まずEDEMという新規因子を発見し、これがカルネキシンの下流にあって、ミスフォールドしたタンパク質の糖鎖を認識して分解へまわす機構を提唱した。EDEMは小胞体ストレスで発現誘導され、IRE1-XBP1経路で誘導される初めての因子であることも明らかになった。EDEMの分子機構をさらに研究する過程で、 EDEM結合因子として新規小胞体還元因子をも同定し、研究はさらに発展することになった。サイトゾルにおけるポリグルタミン(polyQ)タンパク質の凝集は神経変性疾患などにおいて重要な関わりを持つが、その凝集阻止にサイトゾルシャペロニンCCTが関与していることを示した。CCTはβシートを持つタンパク質のフォールディングを助けるが、その認識部位を明らかにし、さらにβシートに富むpolyQタンパク質の凝集を直接結合することによって阻害できることを示した。特に、FCSなどの比較的新しい方法を用いて、CCTがpolyQタンパク質のオリゴマー形成を阻止しているらしいことも明らかにし、凝集阻止機構を考える上で大切な知見となった。永田らが発見したコラーゲン特異的分子シャペロンHsp47についても、ノックアウト細胞を用いた解析から、Hsp47がコラーゲンの三本らせん構造形成に必須であることを明らかにしたほか、分泌されたコラーゲンが線維形成をできないことを示し、繊維化疾患の治療ターゲットとしてHsp47が有望であるという確証を得た。
著者
萩島 理
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

空調発停行為を含む居住者の生活行為のタイムスケジュールの多様性を考慮し住戸の電力,熱,水等のユーティリティデマンドを高時間分解能で予測する枠組みTotal UtilityDemand Prediction System(TUD-PS)の構築を行った。また、集合住宅を対象としたTUD-PSによる数値計算により冷暖房負荷の確率特性についての検討を行い、平均値で基準化した全熱負荷の確率密度分布が住戸条件や家族構成の違いによらず概ね普遍的な傾向を示し, LDKにおける暖冷房の基準化全熱負荷の確率密度がアーラン分布で近似できることを明らかにした。
著者
星野 真紀
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,初心者が無鉛ハンダを使用しやすいハンダゴテを選定することと,無鉛ハンダの中で使用しやすいものを選定することを目的とした.電子工作実習用に学生が購入するため,安価で入手性の良いものを対象とした.【実験内容】コテ先形状,ハンダゴテ,無鉛ハンダについて,実際に学生に使用してもらい,使用感アンケートにより評価を行った.【コテ先形状】先が直径1〜2mmの棒状で先端が斜めにカットされているコテ先は評価が高く,直径が2.5mm以上あるものや先端が細く尖っているものは評価が低かった.【ハンダゴテ】同じ型でワット数が26Wと32Wのコテを2組用意して評価したところ,どちらも26Wの方が評価が高かった.無鉛ハンダは融点が高いため,ワット数が高い方が高評価を得るかと予想していたが,予想に反した結果となった.基板表面を観察すると,32Wでハンダ付けした基板では,過熱によるツノや基板の焼けが多く見られた.コテ先温度が高いコテでは手早く正確なハンダ付けが必要になり,初心者にはかえって扱いづらくなったと考えられる.【ハンダ】Sr-Ag-Cu系4種とSn-Cu-Ni系2種の評価を行ったところ,Sn-Ag-Cu系の方が評価が高かった.Sn-Ag-Cu系の方が融点が低いため,その差が表れたと考えられる.また,濡れ性については,組成よりもメーカーによる差があらわれた.フラックスの違いによるものが大きいと考えられる.【まとめ】電子工作初心者にはワット数の高いハンダゴテは使いづらく,26W程度が適切という結論を得た.使用する無鉛ハンダはSn-Ag-Cu系が使用しやすいと考えられる.ただし本研究は初心者の電子工作実習という条件であり,精細なパターンや上級者に関しては考慮していない.
著者
瀧上 舞
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、(1)ナスカ地域における食性の季節差、(2)インカ帝国時代以前の南部海岸地域における定住者の食性の季節変化、(3)インカ帝国時代の食性の地域差、(4)形成期の北部高地における植物栽培・家畜の飼育開始時期について調査を進めた。また、ペルー国内の古代の食物の同位体比を得るためにナスカ地域河内遺跡の食物試料サンプリングを行い、さらにナスカ地域及び北部高地の現生の陸上植物食物、淡水生魚類、海水生魚類、ラクダ科動物の毛の採取を行った。(1)平成22年度にサンプリングを行ったチャウチー野外展示場のミイラの14C年代測定及び、毛髪の炭素・窒素同位体比測定による食性の経時的変化の分析を行った。年代測定の結果、この遺跡のミイラはイカ・チンチャ期(AD 1000-1400)に作成されたことがわかった。また、食性には一年ごとの周期性はみられなかったが、C3植物とC4植物の摂取量が一年を通して変化していたことがわかった。また、海産物摂取量は一年を通してあまり変化していないこともわかった。これらの結果は、ナスカ台地の有機物試料の年代測定による人間が活動した文化期の同定結果と共にペルー文化庁に報告書を提出した。(2)は南部海岸地域から出土した一般人のミイラの毛髪と他の軟部組織の分析を行った。毛髪の食性変化から皮膚や筋肉が反映している食性の時期(亡くなる何か月前の食性か)の同定を試みた。今後、骨の同位体比との比較を行い、体組織の同位体分別の補正値を考えていく予定である。(3)インカ帝国が支配下に収めたペルー北部高地から南部高地までの古人骨の食性推定と年代測定を行った結果、インカ帝国期には食性に大きな地域差があったことがわかった。また、先行研究で報告された生賛の子供のミイラの食性と比較したところ、彼らは帝国全域から集められた子供であったことがわかった。この結果は今後論文にまとめて報告していく。(4)北部高地の形成期の古人骨や動物骨の食性推定を行ったところ、ヒトもラクダ科動物もB.C.800年頃からトウモロコシ摂取が増加したことがわかった。特にラクダ科はB.C.800年頃には、野生のシカとは異なる2種類の食物の混合された食性に変化しており、ヒトによる食物コントロールが行われていた可能性が示された。
著者
小出 哲士 北川 章夫 若林 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,ディープサブミクロンVLSIチップのレイアウト自動設計に注目し,ディープサブミクロンVLSIチップの実用化と共に顕著になってきた回路のパフォーマンスの考慮,ハード・ソフトマクロブロックの考慮,及び設計時間の短縮,等の問題を解決するための以下の新しいレイアウト設計手法を開発した.1.パフォーマンスを考慮した回路分割手法の開発回路のパフォーマンスを最適化するために,論理合成後に行われる回路分割において,回路のパス遅延を陽に考慮した回路分割手法を開発した.2.パフォーマンスを考慮したフロアプランニング手法の開発ハード・ソフトマクロを取り扱うフロアプランニングにおいて,バッファ挿入と配線幅調整を考慮した概略配線とフロアプランニングを実用的な計算時間で同時に求める手法を開発した.3.パフォーマンスを考慮した配置手法の開発タイミングを考慮したクラスタリングと新しい配置モデル(アメーバモデル)に基づくタイミングドリブン配置手法を開発した.4.パフォーマンスを考慮した配線手法の開発6層以上の配線層に対して,配線幅とバッファ挿入を考慮したスタイナ木生成アルゴリズムを用いて,与えられたタイミング制約を満たす概略配線経路を階層的に求める手法を提案した.5.パフォーマンスを考慮した階層的バッファブロックプランニング手法の開発チップ領域をグローバルビンに分割し,タイミングを考慮したバッファブロックプランニングを階層的に行う手法を提案した.6.パフォーマンスドリブンレイアトに対する適応的遺伝的アルゴリズムの適用エリート度に基づく適応的遺伝的アルゴリズムを提案し,レイアウト設計手法に適用した.また,高速化のためのLSI化を行い,パフォーマンスドリブンレイアウト手法の数10倍の高速実行の見通しを得た.
著者
中屋 晴恵
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

地殻表層部の温度履歴を推定することは、生物の生存領域に重なる場での地質現象を明らかにするために重要であるが、これまで有効な地質温度計が得られていなかった。本研究では2年にわたり、自生粘土鉱物の酸素同位体を温度履歴の推定に用いることを目的として計画した。統一した見解の得られていない続成過程での自生鉱物形成メカニズムを検討した後に、粘土鉱物を分離して酸素同位体比の測定を行い、地質温度計として有効であるかどうかを検討した。さらに、室内で、水と粘土鉱物の酸素同位体交換実験を行うことにより、天然と実験室内で得られた同位体分別係数の妥当性を確認することも目的であった。簡単に結果をまとめる。1 南海トラフから得られた堆積物コア中の自生粘土鉱物の詳しい観察と単一結晶の化学分析を行い、自生粘土鉱物組み合わせが、堆積物の砕屑性粒子の組成によって異なり、粘土鉱物組み合わせの出現は地質温度計として精密ではないことが明らかになった。また、続成過程においても、地熱系同様に、自生粘土鉱物の形成過程は溶解沈澱によるものか卓越していることが明らかになり、酸素同位体比を温度計として用いることの妥当性を与えた。2 地熱井から得られたスケール中のスメクタイトの分析により、摂氏200度を超える温度でのスメクタイト-水間の同位体分別係数を決定した。また、1で用いた自生粘土鉱物の酸素同位体比を測定し、採取深度(すなわち温度)に依存して重酸素が減少する傾向があることを確認した。3 イライト-水間の同位体分別係数を決定するために静水圧下で行う水熱合成実験のための耐圧容器と電気炉を設計、製作した。また、実験に用いるイライトの選択を行った。この実験は現在も進行中である。
著者
米山 忠克 藤原 徹 林 浩昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

マメ科植物では篩管を移行する物質が窒素固定する根粒数を決めていること、これにはhar1遺伝子が関与していることを示している。しかし根粒数を制御する物質は未だ不明である。本研究で用いた植物ステロイドホルモンであるbrassinosteroidsは植物の成長において様々なはたらきを行なうだけでなく、最近は病害ストレス応答に関与し、病害抵抗反応をシステミック(全身的)に誘導することが報告されている。このbrassinosteroidsの最も生理活性の強いbrassinolideのダイズ野生株(エンレイ)および根粒超着生ミュータント(En6500)の地上部への処理と、brassinosteroidsの合成阻害剤のbrassinozoleをエンレイの葉部と培地から処理をして、葉部の成長と根粒の着生を調査した。Brassinolideの葉への処理はEn6500の根粒数を23-62%に低下させたが、エンレイでは根粒数は変化しなかった。Brassinolideの処理によって、節間は伸長した。葉にBrassinozoleの処理を続けるとエンレイの根粒数が増加した。また培地へのbrassinozoleの処理は節間を短くし、根粒数を増加させた。このような結果から葉部の,brassinosteroidsが篩管を通じてシステミックに根粒着生を変化させることが始めて明らかとなった。イネ篩管液からメタルの鉄、亜鉛、カドミウム、ニッケル、銅、モリブデンなどを検出した。とくにカドミウムと亜鉛については遊離のイオンでなく、大部分がリガンドと結合していていることを明らかにした。篩管内鉄またはその結合物質は鉄のシグナルとなっていると予想された。本年度から日仏共同研究「植物の炭素、窒素同化のシグナリングと代謝ネットワークの分子基盤とその応用」(代表 長谷俊治、Suzuki Akira)の日本側の研究協力者となった。ここでは代謝とそれを制御するシグナリングを研究することとした。また12月8〜9日と大阪大学蛋白研究所で開催された「植物代謝のネットワークとシグナリングの分子基盤とその応用」セミナーで「植物成長とC/N移行:^<15>Nと^<13>Cによる追跡」と題して本萌芽研究のテーマの長距離シグナリングメタボライトの存在とその重要性について講演した。
著者
中込 四郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

スポーツ競技者の現役引退並びに運動部集団からの離脱後の適応過程について、主に、自我同一性の再確立に着目して以下のような側面から研究を行った。(1)部離脱に関する相談事例の提示:研究者が心理相談室で担当した運動部離脱に関する6事例をまとめ、部離脱が危機的状況あるいは同一性再確立の困難な状況もたらしていることを示した。(2)退部後の再適応に寄与する要因:退部後かなりの時が経過し、現在、比較的適応状態にある元大学スポーツ競技者10名ドロップアウトならびにトランスファー者)への面接調査により、再適応を促進したと考えられる心理社会的要因を明らかにした。(3)引退後の再適応過程の統合モデルの構築:わが国を代表する元アマチュア競技者8名への面接調査を行い、具体的な事例提示並びに、それらの資料から再適応過程を説明する一般化された「統合モデル」を提示した。(4)各同一性再体制化のタイプごとの特徴:T大学時代に活躍し、さらに卒業後何年か引き続き現役競技者としての競技経験を有する元スポーツ競技者115名に対して調査を試みた。ここでは、それまでの事例研究で主張したことを中心に、操作的な方法により確かめた。(5)再適応への心理的援助の方法:本研究の一貫として行った文献研究の中から、すでに開発されているいくつかの心理的援助プログラムの紹介を行った。今後は、プスポーツ選手に対象を拡げ,同種の研究を試みる予定である。また、それまでの研究成果を踏まえて、再適応を促進するための援助プログラムの開発を行いたい。
著者
朝日 譲治
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、急速に高齢化・少子化が進むわが国において、今後どのような社会資本を、どの主体が、どれだけ整備すべきであるかを解明する。われわれの目指す望ましい社会資本整備は、公的年金・健康保健への国庫負担増等から生じる「高齢化の社会的費用」をできるだけ小さくするものである。従来、高齢者は年齢で区切られ、ひとまとめに論じられてきた。本研究は、むしろ高齢者を取り巻く自然環境や社会システムのなかで高齢者の経済問題を論じた。さらに、これまで顔の見えなかった高齢者を、肉体的・環境的・経済的に異なる生活者としてとらえた。これにより、高齢者の真に求める公共政策が浮かび上がり、高齢化の社会的費用を最小にする社会資本整備を考えるフレームワークを構築することができた。なお、財政面での現在肥大化している財政投融資制度の仕組みと問題点を詳細に検討した。同時に、社会資本をより広義にとらえ、公的年金や公的健康保険の社会的制度も含めて、望ましい制度のあり方を検討した。公的年金については、従来型の国庫補助依存体質を改め、各人が自己責任による老後の生活設計の下で資産蓄積を進めること、健康保険に関しては、わが国の医療体制そのものを長期的に見直し、地域医療の充実と、高度医療の区分を明確にする方策を論じた。高齢社会は現役引退後の時間が長期にわたることを意味する。その際、とくに重要となる余暇時間との関連で、米国における国立公園と博物館の二つの社会資本を論じ、望ましいあり方を提言する具体的な事例研究を行った。
著者
玉田 芳史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

タイの政治は1990年代に民主化が進んだ。92年5月事件と97年憲法がもっとも重要な出来事である。この民主化について虚像に惑わされず、実像に迫ろうと試みた。研究者は92年5月事件について誰が参加したのかに目を向け、なぜ参加したのかを見過ごしてきた。大規模集会を可能にしたのはチャムローンであった。民主化にとってこの事件の意義は、その彼が動員戦術の成功ゆえに危険視され、政界を逐われたことである。政治は院外政治ではなく国会中心に行われるべきことが確認された。もう1つの意義はマス・メディアによって中間層が5月事件の主役に祭り上げられたことである。中間層は政治への発言力を強め、政治改革を要求するようになる。政治改革論は下院議員批判に起因していた。議院内閣制を採用しながら、下院議員の閣僚就任を禁止しようとする主張も行われた。改革論が目指したのは政治の能率、安定、倫理であった。こうした目的を念頭において97年憲法が制定された。この憲法は民主的と喧伝されているものの、実際にはさほど民主的ではない。たとえば、大卒者は総人口の5%にも満たないにもかかわらず、国会議員や閣僚には大卒以上の学歴が必要とされた。それでも、この憲法は民主化に寄与するところがあった。それは議会政治に不満を抱き、テクノクラート支配に郷愁を抱く人々を慰撫することにより、議会政治の堅持を可能にしたからである。結局のところ、90年代の民主化にとっては、推進派勢力の活躍よりも、保守派勢力を慰撫して穏健な議会政治を定着させたことが重要であったといえる。
著者
岡 眞人
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

今日のオランダでは退職は健康維持や家庭生活に良い影響を及ぼすと考える人が多数を占めており「早期退職文化」が深く根付いている。60歳前後の退職・引退が社会常識化し、早期退職制度の廃止には強い抵抗がある。オランダ政府は高齢者の就業意欲を高めるため、生涯学習・訓練による就業能力の維持・開発という総合的・長期的戦略に基づく政策を推進している。高齢者雇用問題を高齢期だけの問題とみなさず、生涯にわたる労働生活の視点から捉え、全年齢層との関係で捉えるところにオランダの政策的特徴がある。イギリスではオランダとは対照的に、サッチャー政権の新自由主義路線の下で早期引退制度は導入されなかった。しかし労働不能給付制度が事実上早期引退への抜け道として機能し、高齢者雇用率の長期的低下傾向が続いた。ブレア労働党政権は雇用保障を国民福祉の基本に据え、EU諸国と歩調をそろえて高齢者雇用促進に取り組んだ。その中核は「ニューディール50プラス」である。この施策は就業不能給付受給層の多い50歳以上にきめ細かな就労支援を提供して自立を促すことを狙いとし、一定の効果を上げたと評価されている。さらに年齢差別禁止に関する法律が2006年に制定されたことも大きな一歩と思われるが、その効果について評価するのは時期尚早である。オランダとイギリスに共通する政策的特徴は、年齢差別、性差別、障害者差別、人種差別などを個別的に捉えるのではなく、包括的に人権問題として位置づけ、各分野の取り組みを関連付けて相乗効果を引き出す戦略にある。非正規社員と呼ばれる不安定雇用の渦の中に多くの高齢労働者が巻き込まれている日本の実態を見ると、英蘭両国の包括的アプローチから学ぶべき点は少なくないといえよう。
著者
小川 由英 HOSSAIN Rayhan Zubair
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

現在我々は、消化管からのシュウ酸吸収に影響する各種物質に関して実験し、ビタミンB6欠乏食で飼育したラットにおいてシュウ酸前駆物質投与による内因性のシュウ酸合成について検討した。カルシウムと同様の実験系で、マグネシウムが消化管からのシュウ酸吸収へ与える影響を検討し、マグネシウム投与により消化管からのシュウ酸吸収が減少し、尿中シュウ酸排泄が減少することがわかった。また我々の動物実験系で内因性のシュウ酸合成に関連するいくつものシュウ酸前駆物質を投与し、実験した。グリコール酸、グリオキシル酸、ハイドロピルビン酸、ハイドロオキシプロリン、エチレングリコールが尿中シュウ酸を増加させる重要なシュウ酸前駆物質であり、そのシュウ酸合成がビタミンB6欠乏食群でより促進され、その原因はグリオキシル酸解毒酵素であるAGTとGRHPRの機能不全によることがわかった。さらに、ビタミンB6欠乏状態にすると尿中クエン酸排泄にも影響がでる。ビタミンB6欠乏は短期間投与でも低クエン酸尿をきたし結石形成危険因子となることがわかった。またビタミンB6欠乏による低クエン酸尿がアルカリの負荷により是正されるかも検討した。た標準食とビタミンB6欠乏食においてアルカリの急速投与が尿中クエン酸に与える影響を比較し、その両者において急速なアルカリ投与が尿中クエン酸を増加させるがその影響は標準食を与えた群がより著明であった。原因としてビタミンB6欠乏は腎のクエン酸排泄を障害する可能性があり、低クエン酸尿の原因として独立したものである可能性が示唆された。過シュウ酸尿症と尿路結石の研究において多くの動物実験系を報告してきた。我々の実験系では3%のグリコール酸食の投与で過シュウ酸尿症とシュウ酸カルシウム結石を形成させることができた。この結石形成動物モデルは再現性がよく、多くの結石形成に関与する可能性のある物質の影響を調べることができ、結石の再発予防法の研究に役立つと考える。
著者
細川 淳一 田神 一美
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

競技スポーツ選手として、思春期から成人に至るまで激しい運動を続けてきたことが、その後の健康状態にどのような影響を及ぼすかを衛生学的観点より研究した。競技スポーツ選手は、現役引退に際して永続的な運動量減少を体験する。この時期の一般人は、成人病リスクが高まり運動を推奨されるが、この時期に運動量を低下させる競技スポーツ選手の場合、その後の健康にマイナスの要因となっているか否かを動物実験モデルにより細胞性免疫機能の一つであるナチュラル・キラー細胞の活性を指標として検討した。水泳運動中止13週間後では、対照群との間に細胞性免疫能に明かな違いは認められなかった。つまり、運動の有無にかかわらず、健康な状況下では細胞性免疫機能に検出可能な差異は現れないと考えられる。そこで、免疫抑制剤(シクロスポリン)を投与し、この負荷に対する耐性をナチュラルキラー細胞の活性を指標として測定することにした。運動トレーニングとして、ラットに穏やかな流水遊泳(30分/日、4回/週)を17週間(7週齢から24週齢まで)負荷した。負荷中止後9日目に50mg/kgのシクロスポリンを腹腔投与し、10日目にネンブタール麻酔下に開腹して無菌的に脾臓を摘出、ホモジナイズした後、これをコンレー・フィコル液に重層して比重遠心分離する方法で白血球を得た。この白血球と^<51>CrでラベルしたK562細胞とを混ぜ合わせて4時間培養し、この間に破壊された標的細胞から培地中に流出した^<51>Crをガンマー線カウントする方法で測定した。比較は運動負荷を行なっていない対照群との間で行なった。この結果、運動はナチュラル・キラー細胞に対する免疫抑制剤の作用を緩和することが分かった。この作用を通じて運動は、腫瘍などの成人病から防護していることを示唆するものと考えられる。