著者
窪薗 晴夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-7, 2014-06

日本語諸方言のアクセント体系が高さ(ピッチ)にもとづく「ピッチアクセント体系」であることは日本語音声研究の中で常識とされていることであるが,日本語以外の言語から見ると必ずしも自明のこととは言えない。実際,「ピッチアクセント体系(言語)」という類型概念そのものを否定する研究者も数多い。本稿は,2010年に本プロジェクトが主催した国際シンポジウムISAT 2010の成果(Lingua 122特集号)の一部を報告する形で,日本語の研究が一般言語学や言語類型論に貢献できる可能性を指摘する。
著者
野村 由美子 野田 清仁 大橋 祐介 鹿野 真弓
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-2, 2021 (Released:2021-08-12)

感染症予防ワクチンは、免疫反応の惹起を介して有効性を発揮する特徴があり、通常の医薬品を対象とした非臨床試験ガイドラインが適用可能とは限らない。日本では、「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドラインについて」(2010年5月27日)により考え方が示されてきたが、近年はワクチンの開発環境が変化しており、ワクチンの改訂の必要性が認識された。 ワクチンの開発に係る困難な点を企業アンケートによって抽出したところ、非臨床試験に関して、投与経路追加時等の全身暴露毒性試験の要否や安全性薬理試験要否の判断基準等が指摘され、これらの課題について、開発品目における対応状況の調査や国内外のガイドラインの比較等を実施した。 投与経路追加に関しては、筋肉注射と皮下投与が可能な7品目について、いずれも反復毒性試験は一方の投与経路のみで実施し、局所刺激性試験を両方の投与経路で実施していた。また、WHOのガイドラインでは、経鼻投与に際しての脳神経系への影響など代替経路開発時の留意点が具体的に示されていた。 安全性薬理試験については、国内ガイドラインでは他の毒性試験であらかじめ安全性薬理のエンドポイントを評価できる必要があるのに対し、WHOガイドラインでは他の試験で生理機能への影響が懸念される場合に実施することとされていた。この違いを反映して、国内のみで開発されているワクチンの方が海外でも開発されているワクチンより、安全性薬理試験の実施率が高かった。 これらの結果に基づき、投与経路追加時等について全身暴露の毒性試験は必ずしも全投与経路で必要ないこと、安全性薬理試験については他の非臨床安全性試験で評価可能とする等の改訂を提案した。ワクチンについても、日本で遅滞なく新規ワクチンが導入されることが重要であり、ガイドラインの違いによる非臨床試験のやり直しを防ぐため、要求事項の国際整合性を踏まえた改訂の提案を行った。
著者
朴 庾卿
出版者
法政大学大学院 国際日本学インスティテュート専攻委員会
雑誌
国際日本学論叢 = Journal of international Japanese-studies = 国際日本学論叢 = Journal of international Japanese-studies (ISSN:13491954)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.27-50, 2011-03-22

There is no other animal than cats which have a clear difference in imagebetween Korea and Japan. When we turn to "classical literature" with thefeatures of "oral literature" in mind, we will notice the widening gap betweenthe two countries. In Japan, cats are described from two viewpoints, namely,court culture and popular culture. In the former, cats are taken as elegantpets. In the latter, however, they are supposed to be mysterious, describedas the two-tail "nekomata" or the metamorphic cat on the one hand and theyare familiar animals as symbolized in the beckoning cat on the other. But inKorea, cats are not taken as themselves, they are mainly utilized as icons to"criticize" or "ridicule" according to "mores."Through the comparison, it can be said that the difference in the image ofcats between the two nations derives from the difference in religious andhistorical background.In Japan this image seems to have been fixed duringthe Edo Era, based on the history since the Heian Era. Korea, on the otherhand, was in the background of the Joseon Dynasty Period. Particularly, inJapan, the "personification" and "deification" of developed through the"faddish gods", the pet boom, and the Kabuki featuring cats during the EdoEra. In Korea, during the Joseon Dynasty when Confucianism was theformal religion, absolute significance was placed on "mores" (Confucianvalues). Therefore, the behavior of cats was also put to moral judgment, andcats were chosen as objects of criticism. This seems to have formed thenegative image of cats.
著者
柴 裕子 溝尻 源太郎 野崎 智嗣
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.184-191, 1995-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
22
被引用文献数
4 2

声門閉鎖不全は, 声帯突起の部位は閉鎖し声門膜間部にのみ閉鎖不全がみられるものと, 声帯突起の部位が閉鎖せず声門軟骨間部から声門膜間部にかけて後方を底とした三角形の声門閉鎖不全がみられるものとに大別される.後者は, Posterior Glottal Chink (PGC) と呼ばれ, 声帯結節との関連が注目されている.われわれは, 声帯結節31例をPGCの有無によってPGC (+) 16例, PGC (-) 15例に分類し, 比較検討した.その結果, 1.PGC (+) 群では硬起声や, 起声時の声帯の過内転が高頻度にみられ, PGCと過緊張性発声の関連が示唆された.2.声帯結節31例の音声は, 平均すると気息性を特徴とする軽度の嗄声で, 総合的嗄声度ではPGC (+) 群がPGC (-) 群より悪化していた.音響分析の結果には両群間に差はなかった.3.PGC (+) 群はPGC (-) 群より発声時の声門間隙が大きく, 呼気流率の上昇と発声持続時間の短縮がみられた.
著者
Chris GASTMANS 八尋 道子 宮内 信治 小西 恵美子
出版者
日本看護倫理学会
雑誌
日本看護倫理学会誌 (ISSN:24347361)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.59-70, 2022-03-20 (Released:2022-04-13)

過去20年間の看護倫理の文献をふりかえると、顕著なことが2つ認められます。1つは、データ収集を基本とする実証研究が非常に多いいっぽう、思考を基本とする議論研究がとても少ないことです。もう1つは、議論研究であっても、生命倫理の4原則に依拠する議論が支配的で、看護ケアの重要な側面への関心が相対的に薄いことです。この傾向は今後も続くのでしょうか。私の講演は、この問題提起から出発し、看護実践の核はケアであること、ケアは患者・家族・医療者等の人々が関わりあいながら進むプロセスであること、したがって看護倫理の基盤はケアに根差す必要があることを述べます。そしてその視点に立って、看護倫理の枠組みの基本を提示します。まず、看護ケアの重要な側面をなす次の3つを、看護倫理の枠組みの背景として位置付けます。すなわち、ケアに関係する人々(患者・家族・医療者等)が具体的に感じ・経験する「生きられた体験」、これら当時者が対話し解釈し理解を共有しあって患者本人のケアニードに対する適切な答えを見つけていく「対話的解釈的プロセス」、および、ケアする義務とよいケアを規定する「規範的基準」の3つです。その背景のもとに、倫理的な看護実践において常に配慮する必要のある主要概念として、「脆弱性」、「ケア」、「尊厳」の3つを特定します。この3つの概念に基づき、看護の倫理的な本質は、人間の「尊厳」を可能な限り維持、保護、促進するために、人間の「脆弱性」に対応する「ケア」を提供することである、と主張します。
著者
澤野 泰治
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.177-181, 1991-03-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
15

本誌昨年の解説のシリーズテーマは〈酒類・発酵食品の機能性〉であった。その中で清酒の機能性の研究進展が待たれると述べられていたが, 本解説は, まさしく清酒の三次機能の研究の切口になるのにふさわしい内容と言えよう。この分野の研究が更に進み, 清酒の理解及びイメージアップにつながれば幸いである。
著者
Sadaaki IWANAGA
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.110-119, 2007 (Released:2007-05-17)
参考文献数
49
被引用文献数
32 45

A hemocyte lysate from horseshoe crab (Limulus) produced a gel, when exposed to Gram-negative bacterial endotoxins, lipopolysaccharides (LPS). This gelation reaction of the lysate, so-called Limulus test, has been widely employed as a simple and very sensitive assay method for endotoxins. Recent biochemical studies on the principle of Limulus test indicate that the hemocytes contain several serine protease zymogens, which constitute a coagulation cascade triggered by endotoxins, and that there is a (1,3)-β-D-glucan-mediated coagulation pathway which also results in the formation of gel. Up to now, six protein components, designated coagulogen, proclotting enzyme, factor B, factor C, and factor G, all of which are closely associated with the endotoxin-mediated coagulation pathway, have been purified and biochemically characterized. The molecular structures of these proteins have also been elucidated. Moreover, the reconstitution experiments using the isolated clotting factors, factor C, factor B, proclotting enzyme and coagulogen in the presence of endotoxin, leads to the formation of coagulin gel. Here, I will focus on the biochemical principle of Limulus test for detecting bacterial endotoxins, and its activation and regulation mechanism on the LPS-mediated coagulation cascade. (Communicated by Masanori OTSUKA, M.J.A.)
著者
杉山 勝三
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.ヒスタチン類の分離、精製ヒスタミン遊離物質として、ヒト唾液から分離した高ヒスチジン含有ペプチド、F-Aは1988年にヒスタチン5と命名されたものと同一ペプチドであった。そこで酸性下に熱処理した唾液からヘパリンカラムと高速液クロ(HPLC)を用いてヒスタチン1、3および5を同時に迅速精製する方法を開発した。唾液中に存在するヒスタチン1、3と5の割合は1:1:1であった。これらのアミノ酸組成および一次構造を決定した。2.ヒスタチン類のヒスタミン遊離機構精製したヒスタチン類を用いてラット腹腔から分離した肥満細胞からのヒスタミン遊離の機構について検討した結果 1)ヒスタチン類によるヒスタミン遊離は濃度依存的におこり、ED_<50>はヒスタチン3と5は13μM、ヒスタチン1は100μMであり、ペプチドの塩基性の強さと分子量に関係していた。2)このヒスタミン遊離反応は温度に依存しており27°ー37℃に至適温度があり、pHは中性から酸性側で著明であった。3)温度37℃において反応は10秒以内に最大に達した。4)このヒスタミン遊離は肥満細胞内の乳酸脱水素酵素の漏出を伴わなかった。従ってヒスタチンによるヒスタミン遊離は開口分泌様式によるものと考えられる。3.ヒスタチン類の抗菌作用の機構1)カブトガニの血球抽出液を用いるLimulus testにおいてグラム陰性菌の内毒素成分リポポリサッカリド(LPS)によるゲル形成反応をヒスタチンは阻害した。2)感作血球から補体による溶血反応はLPSにより阻害されるが、ヒスタチンはこの阻害を反転した。3)LPSとヒスタチンはゲル内沈降物を形成した。以上の成績は唾液中には一群のヒスタチンが存在し、口腔内の自然防禦成分として役立っていることを示唆している。
著者
石鎚 英也
出版者
専修大学ネットワーク情報学会
雑誌
専修ネットワーク&インフォメーション = Network and Information (ISSN:13471449)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-16, 2020-03-10

In the world of games and sports, various rating methods have been developed and used in order to rank players or teams according to their real abilities - Elo rating in chess and Massey rating in college football, for instance. Players and teams are re-rated according to the results of matches, and rating scores and rankings can be updated instantly. However, the followings may be pointed out as drawbacks of prevailing rating methods: It possibly takes time to get stable rating values. It is difficult to properly set parameters included in the updating formulae. And rating values tend to be inflationary.In this study, traditional and standard rating methods are extended by Bayesian statistical modeling so as to mitigate such drawbacks. Then, they are applied to real records of games and sports.
著者
平澤 紀子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.274-280, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1

対象者の行動問題の低減から生活の質の向上への転換を示したポジティブ行動支援は、学校教育に適用される中で、対象者に支援を行う支援者への支援の枠組みとして進化している。本特集号は、このような学校規模ポジティブ行動支援の機能を確立する方向で、わが国のコンテンツと研究に必要な要素を明らかにし、検証している。こうした検討は学校教育にどのように貢献するだろうか。PBSの焦点に照らすと、既存の学校システムを機能化し、学校教育を向上させるといえる。それも、学校規模の指標の検討により、成果拡大への循環をもたらす。一方、コンテンツの方向性や実効性にかかわる課題も指摘した。
著者
市下 望 野田 哲朗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.87-99, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
54
被引用文献数
5

本研究は,感謝の対象を人への感謝である対人的感謝によるものと,こと・ものへの感謝である非対人的感謝によるものに統制した上で,感謝の筆記と読み上げが,反すう,楽観性,悲観性,ストレス反応に及ぼす効果について検討したものである。小学5・6年生183名を対象とし,87名を対人的感謝群,96名を非対人的感謝群に割り付けた。研究協力者は,3週間にわたり,感謝対象と内容を記載し,読み上げる活動を行った。時期はpre,post,follow-upの3水準で変化を比較した。その結果,対人的感謝群においては,感謝と楽観性の有意な上昇が見られた。非対人的感謝群においては,感謝の有意な上昇とストレス反応の有意な低下が見られた。以上の結果を踏まえ,今後の課題について考察を行った。
著者
片山 直美
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.25-29, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
10

長期間の宇宙滞在を可能にするためには宇宙における様々な生命維持に関する研究が必要である.特に食糧生産に関する研究は重要で,そのために様々な植物性ならびに動物性の栄養素が摂取できるような食材料の取捨選択,栽培ならびに飼育方法の確立が求められている.食材料を確保するうえで,宇宙空間に循環型社会(ミニ地球)を構築し,無駄のない食糧利用を考える必要がある.そのためには昆虫の食糧としての利用は不可欠である.現在地球上の食糧危機回避に関する昆虫食の果たす可能性と役割について,FAOならびにWHOから提唱された内容は,宇宙空間においても同様に役立つ内容である.そこで宇宙空間での昆虫食の可能性について概説する.
著者
松本 章宏 菅 愛子 高橋 大志
雑誌
第82回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, no.1, pp.343-344, 2020-02-20

2013年以降のアベノミクスの効果により、日本経済は回復の兆しを見せ始めている。企業業績は改善され、内部留保の金額は過去最高に至るまでとなっている。一方で、日本の労働分配率は戦後最低の値を示しており、労働分配率の低下は実体経済の弱体化と格差の拡大をもたらす大きな社会的課題として捉えられている。本研究では、日本の上場企業の公開財務データをもとに、機械学習を用いて日本の上場企業における労働分配率および平均給与の説明可能性について検討するとともに、資本市場から実体経済へのトリクルダウンを阻害している要因について検討した。結果、企業の時価総額の上昇率が高い企業群が労働分配率を下げ、トリクルダウンを阻害している可能性を示唆した。