著者
小川 賢治
出版者
滋賀文化短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

この研究において以下の点が明らかにされた。1.叙勲授与は天皇の神聖な意思によるものであり、その証明書である勲記は天皇の権威と切り離せない。それは、勲記における天皇自身の署名、「天祐ヲ保有シ万世一系ノ帝祚ヲ践タル」という修飾語の使用などに現れている。しかし他面、国家そのものが勲章の権威の源泉でもあり、こう解釈する場合には天皇の存在は不要となる。2.勲章制度の本質とも言える差別性は、勲記の様式にも現れている。上位の勲章の勲記には天皇の署名と璽があるのに対し、下位の勲記からはそれは省略されている。また、勲章授与の方式も、天皇親授・太政大臣伝達・賞勲事務局長官伝達、に区別され、参列者・式次第などに明確な格差が設けられている。3.明治時代を例に取れば、叙勲の一般的傾向としては、ア.多くが軍人に与えられている。イ.残りもほとんど官吏であり、民間人の叙勲者は極めて少ない。ウ.金鵄勲章受章の条件とされる「武功抜群」とは、現実には「戦死」を意味する場合が多い。4.軍人の叙勲を見れば、勲等は、爵位の有無・種類、階級の高低、軍における地位の上下、また、金鵄勲章の等級、などに、対応している。5.勲章の授与権者である天皇は、自らに仕える皇室関係者に手厚く勲章を与える。その対象は、皇太子等の教育掛に始まり、侍医、侍従、女官、天皇紀編纂者、宮殿設計者などに亙る。
著者
津田 孝夫 中谷 いつ子 岡部 寿男 國枝 義敏 大久保 英嗣
出版者
京都大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

本研究は平成2年度から4年度まで実施された。作業としては、交付申請書の研究実施計画に沿って、自動ベクトル化/自動並列化コンパイラならびに仮想並列ベクトル計算機シミュレータを開発することとした。ただし、短期間で開発を進めるため、研究組織において既に開発した自動ベクトル化コンパイラV-Pascalを基にする。具体的な作業は、1.コンパイラの自動ベクトル化/自動並列化処理部の新規設計と作成、2.仮想並列ベクトル計算機シミュレータのための効率的なスタック機構/同期機構の設計と作成、3.コンパイラの目的コード生成部の新規作成、4.仮想並列ベクトル計算機シミュレータの作成、5.コンパイラのその他の各部の修正、6.システム全体の性能評価である。1.に際しては、他に類を見ない厳密な依存関係解析技術を新たに開発実装するとともに、粒度の大きな並列化を可能とするために、依存グラフをプログラム全体にわたって作成する手法を考案ならびに実現した。この依存グラフは、様々な並列実行の単位を想定して設計されている特徴を持つ。また、種々の粒度の並列タスクの候補を階層的に表現でき、かつ、タスク候補の分割・融合も容易なように設計されている。この新たに提案している階層的依存グラフを用い、各タスク候補の実行時間予測を行った上で、最適と思われる並列タスクを自動生成する技術を確立した。この時間予測では、本研究の設備備品費で購入した実験用計算機TITAN上で、各種実行時ライブラリの実行時間を計測したデータ等を基に、有効性を実際に検証した。2.のシミュレータとしては、日立のスーパーコンピュータS-820用のバージョンがベクトル命令のシミュレーションを含めて稼働している。並列同期/スケジューリング/スタック管理等の機構は、実行時ライブラリとして実現され、コンパイラが生成する目的コードと連携して、効率よく並列実行を進めるものである。
著者
梶川 裕矢
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

引用ネットワーク分析は、学術分野の全体像を俯瞰するための手法として国内外で広く研究がなされている。その手法として、共引用、書誌結合、直接引用が古くから知られているが、手法間の差異を実証的に検討したものは極めて少ない。本研究では、各手法の有する特徴を定量的に明らかにした。具体的には、特定の分野の論文集合に対し、3種類のリンク形成手法(共引用、書誌結合、直接引用)を用いて引用ネットワークを形成し、それぞれの手法の妥当性、有効性、効率性を評価した。さらに、引用に重みを持たせる手法にを提案し分析を行った。その結果、萌芽領域の検出において、直接引用を用いた手法が最も効果的であることが分かった。また、直接引用を用いたネットワークの語の分布の特徴、分野横断性や、分野間の引用の時間遅れを測定する手法に関する基礎的な検討を行った。
著者
植野 真臣 森本 康彦 藤原 康宏 永森 正仁 橋本 貴充 安間 文彦 安藤 雅洋
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本eポートフォリオ・システムの特徴は、(1)個人のeポートフォリオを構造化し、ハイパーリンクでつなぐことにより、多様なパスで有用な他者情報の発見を支援する、(2)高度な検索機能により、キーワード検索、過去の優秀なレポートやテスト成績の良い学習者、相互評価の高い学習者などが容易に検索できる、(3)すべての階層で多様なアセスメント機能が用意されており、自己のリフレクションを誘発するだけでなく、優秀な他の学習者の発見に利用できる、などが挙げられる。実データより、本システムの有効性を示す。
著者
南出 靖彦
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

関数型プログラミング言語のコンパイラで用いられるCPS変換の定理証明システムIsabelle/HOLによる検証について二つの拡張を行った.まず,CPS変換がプログラムの実行に必要な記憶領域の大きさを保存することを検証した.証明すべき性質はより複雑なものになり,証明の長さも2倍程度になった.しかし,変換で導入される変数の形式化などは,記憶領域を考慮しない場合の形式化をそのまま応用することができ,自動証明を多くの補題の証明に用いることができた.次に,変換の検証を自由変数に含む式に拡張した.前年度の検証では,扱うプログラムが閉じた式であることを仮定し,証明を単純化した.しかし,前年度の証明を再検討したところ,この制限は証明の単純化にあまり貢献していないことがわかった.そこで,本年度には,この制限を取り除いて検証を行い,この制限が本質的でないことを確認した.関数型プログラミング言語の末尾呼び出しを,Java仮想機械などの末尾呼び出しを直接サポートしていない環境で効率的に実装するためのプログラム変換を提案した.末尾呼び出しをサポートしない環境でも,特殊な関数呼び出しの仕組みを用いることで,末尾呼び出しが実現できるが,そのような方法はオーバーヘッドが大きい.提案した方法では,型推論を用いてプログラムの末尾呼び出しに関する性質を推論する.その型情報に基づき,末尾呼び出しの正当な実装が必要な関数に対してだけ,選択的に,非効率的な末尾呼び出しの実装を用いることで,オーバーヘッドを抑えている.
著者
巽 あさみ 白石 知子 野原 理子 安田 孝子 大見 サキエ
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

女性労働者の健康支援を行うために、月経痛や人間関係など女性特有の生物学的心理社会的な特徴を理解する必要があると考え、女性労働者に特有な疾患・症状、労働環境、生活環境、ストレス、働き方に関する希望等、種々の関連要因について検討した。その結果、月経周期および月経痛の関連要因は、喫煙の有無、主観的健康感、早朝深夜勤務、職場でのストレス、勤務時間への不満、長時間の月経不順などの症状であることがわかった。また、月経不順や月経痛と関連する業務内容・職場環境に共通している因子は「乾燥しすぎる職場」であり、月経不順は「音がうるさい」、「粉じん」など主に職場環境に、一方、月経痛は「身体に動揺・振動の衝撃の伴う業務」、「対面による応対業務」など作業方法・作業管理的側面に影響を受けていた。SOCとの関連では、年齢、睡眠時、主観的健康感、ストレス反応、職場・家族のサポートと有意な関連が認められた。また、働き方に関する希望では、正社員(正規雇用)で、子どもが小さい時は短時間を希望するものが多かった。特に25歳~39歳までは短時間労働にすることが望ましいことが示唆れた。今回の研究ではシステム開発までには至らなかったが、月経痛等に関しては夜勤や残業が少なく乾燥しすぎない、音、粉じんがなく作業環境も快適であることが健康で働き続られる職場ではないかと考えられる。女性労働者はキャリアが分断されずに発達段階にあわせた働き方を望んでいることが示唆された。
著者
鬼頭 秀一
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

今年度は、前年度に引き続き、環境哲学・環境倫理学・環境思想研究者と保全生態学や野生生物管理学、環境社会学・環境史の研究者の交流と、生物多様性保全や自然再生にかかわる理念的研究の学際的な組織化を行ってきた。2005年7月には、サルの「いわゆる」獣害問題を巡って、現地の研究者と、環境社会学・環境史の研究者に報告をお願いし、上記のさまざまな研究者を招いて、その問題の核心について議論する研究集会を開催した。「いわゆる」をわざわざつけたのは、前年度のクマの問題も同じであるが、「獣害」という表現は、「問題」を一面的に捉えた表現であるからである。「問題」の本質は、野生生物のリスクも保護も含めた形での人と野生生物との関係性のあり方であり、それにかかわるさまざまな「問題」の解決は、生物多様性をどのように捉えてその保全を考えるか、「問題」の解決に至る「自然再生」はいかにあるべきかという、実践的で、しかも理念的な問題として捉えられるからである。2006年1月と3月には、これまでの集大成として、風土性、公共性という概念を軸に、公共哲学の視点を入れて、環境哲学・環境倫理学の問題を総括的に議論するようなシンポジウムとワークショップを、千葉大の公共研究のCOEと共催で開催した。参加者は、この萌芽研究で組織化してきた学際的な研究者を中心に、環境経済学、環境政治学の研究者も含めており、より広範な組織化を狙った。この萌芽研究の研究活動を通じて、生物多様性保全や自然再生の理念を考えたとき、ほぼ網羅する人文社会科学と自然科学の研究の領域を組織化したことになる。この萌芽研究の成果として研究成果報告書を作成した。本研究で研究助成を受けたさまざまな形態の研究集会で議論してきた内容を活字化するとともに、参加した研究者や大学院生の論文も収録した。その一部に関しては、東大出版会から出版することも計画している。
著者
中島 志郎 衣川 賢次 西口 芳男
出版者
花園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

中国の歴史的な研究には、六祖慧能の弟子である荷沢神会(684-758)は、伝説的な六祖慧能よりも歴史的な実像が確実である点では、はるかに重要であると云えるかも知れない。本研究は、神會の残された語録からその思想を中心に考察して、新たな解釈で禅宗教団という既成の枠組みから解き放ち、禅宗という中国仏教の画期的な転換点における、その思想史上の意味について幾つかの新視点を提案した。その研究成果を概観すると、一つには敦煌文献を中心とする『神會語録』の注釈的研究であり、二つには本人の五編の論文である。前者は初期禅宗思想の語録を採りあげた具体的な注釈研究であり、別記の研究協力者の参加を得てなったものである。語句の精密な解釈を通して、その他の禅宗文献との思想的な関連を追及した。後者の論文では、中国仏教史の上で、禅宗の登場を中国中世の終焉期と規定し、禅宗は中国中世仏教の積極的な革新、克服運動として理解することで、その後の禅宗の特徴は説明できるという新たな提案を行った。禅宗は初期から一貫してこの性格を懐胎していたと理解できるが、誰よりやはり荷沢神会の運動と思想がその後の禅宗の形成に決定的に重要であったことを分析した。また「神会の菩薩戒思想」という論点で、初期禅宗の成立過程で、六祖慧能の顕彰活動という決定的な役割をはたした荷沢神会が、思想的にも「大乗菩薩戒」を宣揚することで、初期禅宗の仏教運動としての思想的特徴を決定づけたと論じた。つまり大乗菩薩戒こそは、中国仏教に決定的な質的転換をもたらす原理であり、禅宗の運動は結局、この菩薩戒思想を根拠とし宣揚する運動だったのではないか、という仮説を得た。これは次の研究課題となるものである。かくして禅宗と称される新たな仏教運動が中国の仏教思想の上でもつ、独自の思想的な役割の分析ができたと思う。
著者
岩田 孝 桂 紹隆
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

法称(七世紀中葉)は、独自な論理系を導入して、陳那(六世紀前半)の論理学を説明しつつ、自らの論理系と、陳那のそれとの無矛盾性を多くの箇所で示している。本研究では、法称の論理系が陳那の独創である九句因説と矛盾しないことを論じた『知識論決択』の箇所を分析した。その結果、陳那には見られない法称の視点が浮き彫りになった。それは、推論の成立の主要な条件である論証因と所証との論理的関係を、陳那が「確定される」ものと見なしたのに対して、法称は確定できない場合も有るとし、「疑い」の視点を導入して論理的関係を再分類したという点である。「疑い」の概念の導入により、他者が日常的に認識できない不確定な事柄を証明する場合(例えば常住不変なる実我などの存在を証明しようとする場合に)これを批判することが可能になった。印度の論理学は実例に依存する為に帰納的であると言われている。実例に基づく為に生じる諸矛盾を回避する方法を検討することは、印度論理学の限界を示すという意味で重要である。本研究では、陳那の論理学での喩例の役割を分析した。更に、法称の『知識論決択』での疑似論証因の論述を調べ、実例に依らずに、論証因の成否を検討するという見方の萌芽が法称説に存することを指摘した。上記の推論説の文献学的研究は、仏教論理学の基礎論の研究である。以下の研究は、その応用部分に相当する。ものごとの認識を成立させる根拠を定め、その根拠に基づいて、何が妥当なものとして残るかをラディカルに追求した法称は、世尊自身についても、何ゆえに人々にとって信頼される拠り所(公準、量)になるのかを問題にし、これの証明を試みた。本研究では、この証明に関するプラジュニャーカラグプタ(八世紀後半)の解釈を分析し、世尊の量性の証明が、世俗的上での証明と、勝義上での証明に分類されることなどの特徴を指摘した。
著者
嶋田 義皓
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究はマルチフェロイクスやキラル磁性体などの時間反転対称性と空間反転対称性が同時に破れた系においてのみ発現する「光学的電気磁気効果(Optical Magneto-electric ; OME)効果」および「磁気カイラル効果」の微視的メカニズムを明らかにし、機能効率の向上やデバイス応用に向けた新しい物質設計の指針を提示することを目的とする。このような時間・空間反転対称性が同時に破れる系として、強誘電体に磁性を担う希土類イオンを添加する手法がOME効果の観測に有効であるという前年度の研究成果をもとに、今年度は希土類サイトを有する強誘電性結晶について同一結晶場環境下での希土類依存性や同一希土類での結晶場依存性、遷移の振動子強度依存性などに注目して研究を進めた。前年度までに研究を行った強誘電性チタン酸化物La2Ti207と同様の結晶構造を有する強誘電性Nd2Ti207に注目し、Nd3+の4f-4f遷移による吸収におけるOME効果の検証を磁場変調吸収測定によって行った。Nd3+は反転中心のない結晶場環塊におかれk⊥H⊥Pの配置でOME効果に起因する非相反的方向二色性が生じると予想された。前年度までに研究を行った発光における方向二色性と本年度行った吸収における方向二色性は本質的には同じ2次のOME効果を起源とする非相反的光学応答を観測している。しかし、吸収測定では励起準位の占有率の影響が無いため、多くの状態へのff遷移が観測可能である点で発光とは大きく異なっており、全てのAサイトがNd3+で占められているNd2Ti207結晶を用いることで、初めて各遷移間での系統的な強度の吸収スペクトルにはNd3+のff遷移による構造が多く見られ、Judd-Ofelt理論による9つの励起状態について定量的にアサインを行った。磁場変調スペクトルには吸収スペクトルの構造に対応して、多くの構造が見られ、発光での測定同様、電気分極の反転にともなう磁場変調スペクトルの符号反転によってファラデー効果と区別でき、得られた磁場変調スペクトルがOME効果によるものであることを確認した。磁場変調スペクトルの積分強度から見積もったOME効果による振動子強度の移送量と、電気双極子(E1)・磁気双極子(M1)遷移の振動子強度の半経験的な計算値を比較することで、OME効果の微視的起源がE1遷移とM1遷移の干渉にあることを半定量的に裏付けた。実験によって得られた振動子強度移送量と計算によって得られた量では、結晶場分裂した励起状態に関する和のとりかたが、前者と後者では異なっていることに起因して、20倍もの違いが生じており、両者の相関はあきらかであるにせよ、定量的な比較は困難であった。
著者
河原 康雄 岡崎 悦明 土屋 卓也 宮野 悟 藤井 一幸
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

研究課題名「計算科学への圏論の応用」で行われた本研究は, 情報化社会を支える基礎理論である情報科学, 計算科学, ソフトウェア科学への数学的基盤を与えるために計画された研究であった. 以下, 本科学研究費補助金によって実施された研究実績を報告する. 1.研究代表者:河原康雄は, 初等トポスにおけるpushout-complementの存在定理証明し, 有限オートマトンによって受理される言語の基礎的性質をカテゴリー論的に整理すると共に, Arbib-Manes等のプログラム意味論を初等トポスにおいて考察した. これらの成果は従来から研究を蓄積してきた関係計算(relational calculus)を駆使して得られたものであり, 西ドイツのEnrigを中心としたグラフ文法等についての研究に新しい視点を与えるものであり, この分野の基礎を与えるものと期待される. 2.分担者:宮野悟は, 計算量の理論においてP≠NPの仮定のもとで効率よく並列化できると思われる, 即ち, NCアルゴリズムをもつ問題として, 辞書式順序で最初の極大部分グラフを計算する問題について考察した. 3.分担者:藤井一幸は, 古典的によく知られている4次元のCursey modelを任意次元の時空間上に拡大し, そのinstaton(meron-)like configurationsを具体的に構成した. さらに, 従来からの研究で構成していた高次元Skyrme modelsに付随したWess-Zumino termsを高次元hedgehog ansatsを使用して具体的に計算した. 4.分担者:岡崎悦朗は, 位相線形空間上の確率測度の研究を中心に研究を遂行し, 昭和62年8月よりCNRSの招きによりフランス・Paris V大学において研究を継続中である. 5.分担者:土屋卓也は, 境界要素法よって極小曲面を計算機を利用して計算し, 線形常微分方程式の特異点に関する山本範夫の定理を線形代数の範躊において一般化した. 現在, 土屋は米国・Maryiand大学において研究を発展させている.
著者
加藤 和人
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ゲノム研究と関連の応用技術について市民やその他の非専門家が理解を深めるための活動、およびゲノム研究者と市民・非専門家との双方向のコミュニケーションのための活動を効果的に実施するための留意点を、「ゲノムひろば」などの実践活動を通して明らかにした。高度な科学研究をテーマにするためには科学とイベント開催の両方についての知識と経験を持つ専門的人材の配置が必要であること、倫理的・社会的課題については別途議論の場をデザインする必要があることが示された。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

生命倫理学が進展する一方、それに対する歴史的反省の試みも始まっている。本研究はかつて生命倫理学なるものがまだ形をなしていなかった時代の言説を振り返って、その中から忘れ去られたもの、失われたものを拾い上げることを目的とした。その結果、生命の手段化・資源化・商品化批判を軸にした生命倫理思想を見いだした。そして、それらをもとにしつつ、生命の偶然性、固有性、有限性、関係性を基礎とした新しい生命倫理のあり方が可能であることを示した
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ゲノム研究に関する科学コミュニケーション活動への適用を視野に入れながら、scientific citizenshipの考え方に基づく新しい科学コミュニケーションのあり方を理論的に考察することを行った。scientific citizenship(科学的市民権)の考え方は、受け身であり、科学技術の受容者になるという、これまでの市民像に代わって、本来のあり方として科学技術を支援あるいは制御しうる(すべき)主体としての市民という新たな市民の見方を提供するものである。とりわけ、本年度はこういった見方の問題点についても検討して、多面的な理解を得た。また、こういった理論的考察に加えて、現在のゲノム研究に関係する科学コミュニケーションが置かれいる状況を把握するための実証的な研究を行った。それは、現在の「ゲノム概念」(遺伝子、DNA等の遺伝学上の概念をこのように呼ぶ。以下同様)の社会的な広がりを知るために、様々な社会的な場面におけるゲノム言説(遺伝子、DNA等の遺伝学上の言説をこのように呼ぶ。以下同様)を収集し分析する研究という形をとる新聞記事とインターネット上のブログを対象として収集を行い、その分析からゲノム言説の傾向を明らかにした。さらに、これらの研究ガゲノム研究をめぐる科学コミュニケーションに示唆することをまとめた。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1970 年代におけるライフサイエンス創成期の日本の生命倫理思想には、生命科学技術の発展に伴って生じつつあった、生命操作の可能性の増大に対する批判的な見解が存在していたが、それは「生命」と「科学技術」のあいだの両立不可能性という考え方を基礎にしていたことを明らかにした。そして、そういった生命の概念を特徴付けるものを、偶然性、固有性、有限性、関係性としてまとめることができること、この生命の概念は近年の生命倫理論争においても、重要な役割を果たしてきたことを示した。
著者
綾部 広則 中村 征樹 両角 亜希子 黒田 光太郎 川崎 勝 小林 信一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

欧米においては、近年、科学コミュニケーションにおける新たな試みとして、カフェ・シアンティフィーク(以下、CS)と呼ばれる活動が急速に広まっており、すでに実施主体間での国際的なネットワークが形成されている。一方、日本においても最近になってCSの手軽さもあって実際に実行しようとする団体が増えてきているが、しかしそれらの大半は欧米の表面的な模倣である場合が多く、そもそもなぜCSが開始されたのか、そしてそれは科学コミュニケーションにおいていかなる位置づけをもつのかを十分に理解した上で行われているとは言い難い。そこで本研究では、1)欧州各国における対話型科学コミュニケーションの現状に関する調査と国際的ネットワークの確立を行うとともに、2)日本における実験的導入と国内ネットワークの構築を実施した。まず、1)については、その他の国と際だった違いをみせているフランスとアジア地区の事例として韓国の状況を調査した。とりわけ、フランスについてはCSの発祥とされている英国のように話題提供者による発話を基本とするスタイルとは異なり、最初から議論に入ること、しかも単一の話題提供者ではなく、賛否双方の意見を持つ複数の話題提供者を参加させるというスタイルなど、英国やその他の地域において一般的に行われるのと際だった違いが見られ、日本における今後のCS運営においてもきわめて示唆的な成果であった。2)については、1)の海外調査の結果を活かしつつ、東京・下北沢において数回程度の実験的活動を繰り返したが、さらに4月に開催された「カフェ・シアンティフィーク」に関するシンポジウムに企画段階から協力することで、国内の実施主体を招聘し交流を行い、国内間でのネットワークが形成される重要な契機をつくった。
著者
瀬戸口 明久
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、近代日本における自然誌研究からいくつかの事例を取り上げ、それらを政治的・社会的文脈に位置づけた。具体的に検討したのは、(1)日本における害虫防除技術、(2)日本における進化論受容の展開、(3)帝国日本の動物学と狩猟文化、(4)琉球列島の自然誌研究、の4事例である。これらの成果によって、近代日本が自然誌研究・農学研究体制を整備したことによって、人々と自然との関係の変容、ひいては自然環境の改変がもたらされたことが明らかになった。以上の研究成果は、一般向けの図書、学術論文国際学会等での報告として発表された。
著者
藤垣 裕子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

ソフトウェア開発に携わる10人の技術者のデータを、隔週で半年間に渡り採集した。ストレスの生化学的指標として、仕事時間中の尿、および正午の唾液を採集した。また、心理的(主観的)指標として、ZUNGのSDSを用いた抑欝症状、および不安、覚醒、だるさ、痛みなどの症状も評定尺度法で評価を得た。作業内容は、調査日については15分間隔で作業内容をコードで記入してもらった。また、調査日間の2週分(あるいは1週分)の仕事内容の概略も得た。その結果、ストレス指標は、作業密度、作業内容、仕事上のイベントに伴って変化することが示された。仕事上のイベントとの対応の検討結果は以下のとおりである。1.仕事上のイベントとアドレナリン値各個人ごと、各個人の平均値から週毎変動の標準偏差以上の変動を示した日は全181case中25caseであった。この25case中、22case(88.9%)に対応するjob-eventが存在した。eventのあるなしをevent1効果とし、個人差効果もふくめて2元配置分散分析を行った結果、アドレナリン値は、event1効果が有意(p<0.01)であることが示された。(後述のevent2効果は有意でない)2.仕事上のイベントとコルチゾール値各個人ごと、各個人の平均値から週毎変動の標準偏差以上の変動を示した日をpick-upすると、全181case中、24caseであった。この24case中、18case(75%)に対応するjob-eventが存在した。eventのあるなしをevent2効果とし、個人差効果もふくめて2元配置分散分析を行った結果、コルチゾール値は、event2効果が有意(p<0.01)であることが示された。(前述のevent1効果は有意でない)
著者
藤垣 裕子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

高速度マシン使用による作業密度の増加の精神的負荷への影響評価を行うために、今年度は以下の研究を行った。(1)実験室調査1 : 93年度の助成(奨励研究:課題番号05780314)を得て購入した、小型で携帯しやすく長時間にわたり作業者の負担の少ない形で心電図を記録できるホルターレコーダを用い、今年度の助成をもとに被験者数を増やして実験を行った。高速マシンによる作業密度の増加(純粋思考時間の割合の増加/一定時間内のコマンド数の増加)によって被験者の緊張度が増加し、それに対応して心拍R-R間隔の分散の低周波数成分の増加があらわれるか、について検討した。実験はA(作業密度大)、B(作業密度小)の2つのマシン環境を設定し、プログラミングタスクを課して行った。その結果、A条件のほうが心拍RR間隔の分散が小さく集中の見られる傾向が見出されたが、個人差が大きいことも示唆された。また自己回帰スペクトルでは、呼吸成分の分離が課題となった。(2)実験室調査2 :上記の実験設計において、作業密度条件の設定の他に、タスク設定による影響が示唆された。そのため、思考作業をタスクの特性から階層モデル化して分類し、performance曲線を求める作業を行った。これを上記の実験設計におけるタスク設計の指針とした。(3)現場調査:実際に勤務する現場のソフトウェア技術者における、マシン環境によるストレス増加を検討するために、仕事上のストレス要因(job-event)を7ヶ月に渡って調査し、それによるストレス反応を計測した。
著者
堂前 雅史 廣野 喜幸 佐倉 統 清野 聡子
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

聞きとり調査では、主として、死生観に関する知識のいくつかについて、生産・流通・受容過程の情報を収集した。まず、日本では、脳死問題が現れる以前に「三徴候説」のような死の基準は法的には一定せず、むしろ法曹界は医者に一任することをもってよしとする傾向があったことが示唆された。以上より、1.死に関しては法律家による専門的知識の生産があったとしても、それが流通・受容過程に乗ったのではない、2.科学に関する事項に関しては、料学者による知識が法律家よりも優位に立って流通するシステムになっている、3.脳死概念登場以前は、むしろ一般の想定が法曹家の世界に流入したと見るべきことが判明した。次に、中国伝統医療では、生きている者のみであり、死にゆく者は除外されつづけた。よって、東洋医学では、死の判定基準を医者が設ける発想すら希薄であった.また、緻密な世界観・生命観に裏打ちされた中国伝統医学が日本に入る際、背後の生命観は捨象され、純粋に技術として吸収された。したがって、4.科学技術が受容される際は、技術のみを導入し、背後の科学思想を拒否することが可能であること、また、5.科学知識は人々の嗜好によって受容が拒否される、6.一般市民にただ科学知識を注入してもサイエンス・リテラシーは向上しない可能性があることが分かった。今日の科学技術においても、一般人を科学知識の生産者と見なしうる場合がある。しかし、こうした「素人理論」の流通機構は整備されていない。そこで、本研究では、吉野川可動堰問題を対象に、一般市民が科学知識の生産・流通に成功した例を分析し、7.一般市民の科学知識生産を促すシステムが整備される必要があることを明らかにした(廣野)。また、そうしたシステム整備の具体的提言として、8.市民科学がもたらす「公共空間の科学知識」媒体の必要を唱え、大学紀要の利用を提唱した(堂前)。