著者
足立 雄一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.326-329, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
12

乳幼児は,その解剖学的ならびに生理学的特性から喘鳴を来たしやすい。呼吸時に聴取される狭窄音である喘鳴は吸気性喘鳴(stridor)と呼気性喘鳴(wheeze)に分類され,一般的には上気道から気管の狭窄ではstridorが,それより末梢側の狭窄ではwheezeが聴取されるとされている。その鑑別にあたっては,乳幼児では呼吸機能などの客観的な指標が得られにくいため,まず詳細な問診ならびに聴診によって疾患を絞り込んだ上で必要な検査を行う。治療に関しては,それぞれの疾患や病態に応じた治療を行うが,喘息を鑑別するにはβ2刺激薬を吸入後に再度聴診所見や努力呼吸の程度を評価したり,吸入ステロイド薬などの長期管理薬を一定期間使用してその効果を評価する。今後は,乳幼児喘鳴のフェノタイプやエンドタイプに基づく治療法の確立が望まれる。
著者
宮本 基杖 立花 敏
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

木造住宅市場における消費者満足度と情報の関係について、住宅購入者と住宅供給者へのアン ケート調査(札幌市、つくば市)をもとに検討した結果、消費者が住宅に関する情報を十分に 持つことが、満足のいく住宅づくりにつながることを明らかにした。さらに、住宅購入におい て消費者が直面する情報の問題として、(1)限られた情報収集方法、(2)情報源の多くが住宅供 給者、(3)中立・客観的な情報の不足を指摘した。住宅市場の情報の問題を解消することが、住 宅満足度を向上させ住宅市場を活性化させる可能性を示した。
著者
遊佐 順和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>Ⅰ はじめに</b><br> 鹿部町は、北海道の南端渡島半島の東部に位置し、北海道駒ヶ岳を背にその山麓の一角に広がり、洋々とした太平洋内浦湾を望む風光明媚な環境にあり、町内には2018年に北海道遺産に登録された全国でも稀少な間歇泉をはじめ、30箇所以上の泉源にも恵まれている。産業では、3つの良港に恵まれ、帆立、スケソウダラ、昆布などを中心に豊富な魚種が水揚げされる漁業と、それら新鮮な魚介類をもとにした水産加工業を基幹産業とし、「日本一魅力ある漁師町、日本一行ってみたい、住んでみたい漁師町」を目指している。町章には、4つの「カ」を外周に配し"4力"で鹿部の「鹿」を表し、中心には昆布と温泉をシンボライズさせ、町民の和と漁業や温泉を活かした町の発展の願いが込められている。鹿部町へのアクセスは、2016年開通の北海道新幹線新函館北斗駅より車で約30分、北海道の表玄関である函館空港からも車で約1時間の距離に位置し、観光客がアクセスしやすい立地にある。1999年、間歇泉周辺に公園を開設し町の名所として観光客を受入れてきたが、2016年3月の北海道新幹線開通にあわせ、同公園を「道の駅しかべ間歇泉公園」として再整備し、鹿部の食文化を学び、味わえる体験型施設として生まれ変わり、「学べる・食べる・遊べる」観光スポットとして内容を拡充した。施設内では、鹿部漁業協同組合女性部による運営の「浜の母さん食堂」が、前浜であがる海の幸を家庭料理的な提供で好評を得て、鹿部の食文化を守りつつその魅力を発信している。この他、駒ヶ岳の軽石の粒で包んだ魚を干した「軽石干し」や温泉の蒸気を利用した蒸し釜料理など、地域資源を活用した様々な「食」が提供されている。本発表では、鹿部町が地域資源を活用し推進する食と観光による町の活性化に関し、今後の可能性と課題を考察する。<br><br><b>Ⅱ 問題の所在</b><br> 町の人口は、1985年国勢調査の5,107人をピークにそれ以降は減少が続いており、2019年1月1日現在で3,960人となっている。町内リゾート地区の移住者が寄与し、人口減少は比較的緩やかだが人口は確実に減っており、今後は消費者の減少とともに事業によっては後継者不足や事業継承が困難となることも危惧される。町では、こうした人口減対策に対処するため、豊富な水産資源や温泉などを活用した食と観光による町の活性化策の一つとして、「A級グルメ」による取り組みを開始した。「A級グルメ」とは、地域の人が誇りを持ってつくる「食」を指し、2011年より「A級グルメ構想」に取り組み、雇用創出や移住者誘致に成功している島根県邑南町とノウハウを共有し、まちの人材育成や魅力発信に取り組むことを計画している。邑南町では、「本当に美味しいものは地域にあって、その美味しさを本当に知っているのは地域の人々で、彼らが誇りを持って作る食はA級であり、永久に残さなければならない」という理念のもと、地域ならではの食を守りそれを通して地域に人を呼び込み、賑わいをもたらすことにより、地域に対する矜持をもたらし、雇用や産業を創出することで町を活性化させることを狙いとした施策が推進されている。2018年11月、食を通じた人材育成やA級グルメの理念を広げるための情報発信、起業、就業につながる活動を推進するため、鹿部町、福井県小浜市、島根県邑南町、西ノ島町、宮崎県都農町により、「にっぽんA級(永久)グルメのまち連合」が設立され、東京で調印式が行われた。<br><br><b>Ⅲ 今後の課題</b><br> 鹿部町では、「にっぽんA級(永久)グルメのまち連合」に参画する市町との連携により、食に関する人材育成を行うため、地域おこし協力隊の共同募集の実施や、「A級グルメ構想」を取り入れつつ、道の駅しかべ間歇泉公園を人材育成の拠点として、2019年より本格的な事業推進を計画している。今後の事業推進を進める中で、①住民参加による「じぶんごと」としての事業推進、②既存施設の有効活用による交流人口の誘引、③A級グルメ構想など新たな取り組みによる定住人口の確保、④外部人材導入によるまちの資源価値の再認識、⑤近隣自治体との連携によるエリアとしての高付加価値化など、地域資源を最大限に活用することにより、まちの魅力を効果的に情報発信し、成果に結びつけていくことが必要である。
著者
崎田 誠志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>1.目的</b>&nbsp;<br> ギリシャは操業漁船数においてEU最多を誇る一方で,一隻当たり漁獲量はキプロスやマルタに次いで少なく,国内では小規模漁業を中心とした漁業構造が形成されている.しかし,直近の約20年で国内漁獲量は6割近く減少しており,近年の経済危機も相まって,小規模漁業の漁家経営は困難な状況に立たされている.こうした状況を反映してか,EU諸国の中でもギリシャは特にIUU(Illegal, Unreported, Unregulated)操業の横行が深刻とされている.<br> ミクロかつローカルに営まれる小規模漁業に対する適切な漁業管理のあり方を考えていくためには,まず小規模漁業の実態を実証的に明らかにしたうえで,管理体制や規制内容との整合性を検討しなければならない.しかし,ギリシャの漁業統計は著しく断片的かつ信頼性が低いため,漁業実態は研究者自身による操業の直接観察から導く必要がある.そこで本調査では,ギリシャでも特に小規模漁業の盛んな一地域を事例として,直接観察を中心に小規模漁業の基本的な特徴と傾向の把握を試みた.発表では,漁業実態と規制内容との関係についても予察的に検討する.<br><b>2.対象地域と手法</b> <br> カロニ湾は,エーゲ海北東部に位置するレスヴォス島の南部に形成された面積約112 km<sup>2</sup>の半閉鎖性内湾である.沿岸には8か所に漁港があり,いずれも湾内を主漁場として,網漁業を中心とした小規模漁業が盛んに営まれている.その中から本調査では,島内で登録漁船数が最も多いスカラカロニスを事例漁港に選定した.現地調査は2015年11月3日から11月21日にかけて,計19日間実施した. <br> 漁場利用の調査では,バルブニ<i>Mullus surmuletus</i>と呼ばれるヒメジ科の魚を主な漁獲対象とする冬季の刺網漁(以下,バルブニ漁)に着目した.現地調査では,協力の得られた漁船の操業に計12回同行し,ハンディGPSを用いて操業の航跡および活動内容・時間を記録した.また,12回中10回の操業について,揚網時および漁獲物の選別時に,漁獲物の魚種,尾数,サンプルの体長・重量,漁獲物の用途,販売高を集計した. <br> 漁家経営を把握するにあたっては,質問票調査を実施した.対象は集落としてのスカラカロニスに住居を有する漁家とし,全世帯(56世帯)から回答を得た. <br> <b>3.結果と考察</b> <br> バルブニ漁の操業において,潮流や潮汐といった漁場の物理的環境は基本的に考慮されておらず,操業を空間的に制約するような規制も一部を除き存在しない.日々の操業漁場は,主に1) 前日までの漁獲実績,2) 他の漁業者からの情報,3) 漁場における他の漁船との操業調整にもとづいて決定されており,そのうえで,漁船はカロニ湾内を縦横に利用していた.ただし,日の出とともに活動を開始するバルブニの生態や仲買人の来港時間などが時間的制約として存在しており,この制約によって,操業可能な空間的範囲や網の数・長さの限界などもある程度規定されていた.結果的に,操業で用いられる網の長さは,EUの共通漁業政策(Common Fishery Policy, CFP)で定められた上限よりも2 km前後短いものが主流となっていた. <br> バルブニ漁の総漁獲尾数に占めるバルブニの割合は約33 %で,バルブニの次に販売尾数の多いマリザ<i>Spicara smaris</i>と合わせると全体の6割以上を占めていた.一方,総漁獲尾数に対する放棄尾数の割合は約12 %であったが,放棄の大半はスペインダイ<i>Pagellus bogaraveo</i>で占められており,非販売漁獲物はもっぱら自家消費や知人への分配に回されていた.こうしたことから,バルブニ漁において漁業資源は比較的無駄なく利用されているといえる.他方で,漁業者の間でバルブニ漁の漁獲・操業効率はさほど追求されていない様子もうかがわれた.設備投資に必要な資金の不足に加えて,選別にかかる時間と労力の増加を避けていることが理由として考えられる. <br> カロニ湾で営まれる漁業はむろんバルブニ漁に限らないが,上述したバルブニ漁の小規模性は,漁家経営の零細性とも無関係ではないと考えられる.質問票の集計結果では,漁業収入が3万ユーロを上回る世帯は存在しないばかりか,6割以上の漁家は漁業収入が1万ユーロに満たなかった.<br> 個々の漁船におけるバルブニ漁の操業実態はCFPや国内法の規制を下回っていたことから,漁業規模の拡大や漁獲効率の向上を図る法的余地は存在する.しかし,バルブニ漁の小規模性は地域の生態・社会・経済的要因に規定されている側面が強く,漁家経営の改善には漁業者間の温度差もある.加えて,漁協役員や行政関係者からは,現状において,すでにカロニ湾ではバルブニなどの漁業資源が乱獲状態にあるという懸念がしばしば示された.
著者
サイエンスウィンドウ編集部
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
サイエンスウィンドウ (ISSN:18817807)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-40, 2016

<p>サイエンスウィンドウ2016春号の冊子体一式(PDF版)およびHTML版は下記のURLで閲覧できます。</p><p>https://sciencewindow.jst.go.jp/backnumbers/detail/83</p><p><b>目次</b></p><p><b>【特集】 わたしの遺伝子が教えてくれる</b></p><p>p.06 生命の不思議を際立たせる物質DNA(和田昭允 東京大学)</p><p>p.08 産業が先導したDNA解析(神原秀記 株式会社日立製作所)</p><p>p.10 ゲームで学ぶ遺伝 長崎大学での取り組み</p><p>p.12 子どもたちにどう伝えよう? 遺伝をテーマにした冊子の制作会議から</p><p>p.16 I'm OK. You are OK. 皆で考えるヒトの遺伝の授業 (大野智久 東京都立国立高等学校)</p><p>p.18 わたしたちの遺伝をどう教えるか(室伏先生、清原先生、藤枝先生、櫻井先生、滝澤先生)</p><p><b>【トピック】</b></p><p>p.22 まるごとのチンパンジーをとらえる 「一人」への教育の力を示した松沢哲郎さん</p><p>p.28 ノーベル賞受賞者から若者へのメッセージ 赤﨑勇さん、山中伸弥さんが対談</p><p><b>【連載】</b></p><p>p.02 共に生きる:アカヒレタビラとイシガイ</p><p>p.20 空からジオ:Mine秋吉台ジオパーク/山口県</p><p>p.26 動物たちのないしょの話:チンパンジー(日本モンキーセンター)</p><p>p.30 タイムワープ夢飛翔:分子生物学/生命の秘密に迫る</p><p>p.31 違いのわかるカタカナ語:ゲノム、ディーエヌエイ(DNA)、ジーン</p><p>p.32 自然観察法のイロハのイ:染井吉野だけじゃない サクラウォッチング</p><p>p.34 文学と味わう科学写真:残った杉林</p><p>p.36 発見! くらしの中の科学:どうして自動でドアが開いたりライトがつくの? </p><p>p.38 読者の広場:サイエンスウィンドウ カフェ</p><p>p.40 空からジオ:解説</p>
著者
香川雅信
雑誌
民俗宗教
巻号頁・発行日
vol.5, pp.45-69, 1995
被引用文献数
1
著者
飯山 直樹 鎌田 磨人 中川 恵美子 中越 信和
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.579-584, 2002-03-30
参考文献数
35
被引用文献数
11 13

棚田畦畔がもつ草地性植物の生育地としての機能を把握するため, 徳島県上勝町樫原地区において, 次のようなことを明らかにした。当地では, 全水田面積に対する畦畔面積の割合は29.4%であり, 水田に付随する草地の面積は大きい。植物群落は, 畦畔の物理的な構造に対応して異なっており, 土や石垣等の様々な物理環境の畦畔があることにより, 地域内の植物の多様性が高められている。畦畔における年間の草刈り回数の違いは植生高や遷移度に影響を与え, 刈取り回数が多いほど (最大3回), それらが低く保たれた。一方, 草刈り回数の違いは, 植物群落の種組成や多様度には大きな影響は及ぼさなかった。出現種数や多様度は草刈りが行われないまま2年間放置された畦畔でも変わらず維持されていたが, 5年間放置されると極端に減少していた。
著者
寺田 征也
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.63-73, 2016

<p> 本稿は鶴見俊輔の「限界芸術」論に関する諸論文,「ルソーのコミュニケイション論」([1951]1968),「文化と大衆のこころ」([1956]1996),「芸術の発展」([1960]1991),「限界芸術再説」(1969)の読解を通じて,「限界芸術」を論じる上での鶴見の課題と目的,そして当概念の核心を明らかにすることを目的とする.<br> 「限界芸術」は概して「芸術」に関する新しい分類法として理解されてきている.しかし本研究では,芸術の分類法だけでなく,デューイやモリスのプラグマティズムに影響を受けながら,日常的な芸術への参加と,それに基づく大衆の能動性,自主性の回復,美的経験の獲得が論じられていた.また60年代後半では,当時の社会運動の状況や後に論じられるようになるアナキズム論と関連しつつ,自らデザイン可能な自由な生活領域の確保と,それに基づく権力への抵抗の可能性が論じられるようになってきていた.鶴見の芸術論はプラグマティズムに影響を受けつつ,後にアナキズム論へと接続していく.</p>
著者
吉川義之
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-05-08

1.はじめに 褥瘡予防・管理ガイドラインに記載されている物理療法には,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法,電磁波刺激療法,陰圧閉鎖療法がある。その中で,本邦の理学療法士が使用可能な物理療法手段は,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法であり,創の縮小や壊死組織の除去など臨床における効果が示されている。しかし,本邦では欧米諸国に比べ実施頻度は非常に低く,電気刺激療法においては実施頻度が低いことが理由で推奨度がAランクからBランクに引き下げられている。今回のシンポジウムでは,褥瘡の創面評価(DESIGN-R)を確認しながら,超音波療法,電気刺激療法,水治療法における理学療法技術を提示し,褥瘡対策チームで活躍している理学療法士と討論したいと考えている。もう一度,物理療法の効果を再考し,褥瘡対策チームにおける理学療法士の役割を再確認したいと考えている。2.創面評価(DESIGN-R) 褥瘡の創面はDESIGN-Rを用いて評価する。Depth(深さ),Exudate(滲出液量),Size(大きさ),Inflammation/Infection(感染/炎症),Granulation tissue(肉芽),Necrotic tissue(壊死組織),Pocket(ポケットの有無)のそれぞれを点数化し合計点が高ければ重症となる。この評価方法により創面が改善しているのか,悪化しているのかを把握することが可能である。褥瘡の創面評価により治療方法の効果判定に用いることが可能である。3.褥瘡局所治療(down stream) 理学療法士が実施可能な褥瘡局所治療(down stream)として物理療法がある。以下に水治療法・超音波療法・電気刺激療法を提示する。 1)水治療法 褥瘡に対する水治療法は日本褥瘡予防・管理ガイドラインの壊死組織の除去および感染・炎症の制御の2要素において推奨度C1とされている。不感温度(35.5~36.6℃)に加温した温水あるいは渦流による物理的な刺激を全身(ハバード浴療法),部分的(渦流浴療法)に与えるものである。また,創洗浄は水治療法の一部であり,創面および創周囲を弱酸性洗剤で洗浄する。その際,褥瘡の創面を直接観察でき評価(DESIGN-R)をする事が可能である。創面の状態や形状を観察することで,物理療法の適応時期や褥瘡発生の原因究明につながる。理学療法士が創の洗浄を実施し,創面を評価することでより加速的な治癒が期待できる。 2)超音波療法 褥瘡に対する超音波療法の有効性については明確な根拠がないとされてきた。しかし,創傷被覆材の超音波透過率を明確にして行った臨床研究において,創の収縮が促進することが確認されている(Maeshige N, et al. J Wound Care, 2010)。この研究結果により,褥瘡予防・管理ガイドラインにおいて推奨度C1となった。その後,創閉鎖の際に必要な線維芽細胞を用いた培養実験において,低出力のパルス超音波が線維芽細胞の活性化を促すことが確認されている(前重伯壮,他。日本物理療法学会誌,2012)。この結果をもとに行った臨床研究においても創収縮が確認されている(Maeshige N, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。褥瘡に対する超音波療法は創の収縮において有効であると考えられるため,実施する理学療法士が増え,効果が確認される事で推奨度がBランクになると思われる。 3)電気刺激療法 褥瘡に対する電気刺激療法は褥瘡予防・管理ガイドラインの創の縮小において推奨度がBランクで行うように薦められている。杉元らが行った線維芽細胞の遊走の基礎研究(Sugimoto M, et al. J Wound Care, 2012)を臨床研究に適応した症例研究(吉川義之,他。理学療法学,2013)においても有効性が示されている。また,ポケットを有する褥瘡に対しても有効性が示されている(吉川義之,他。日本物理療法学会誌,2012)。その後,植村らが細胞遊走の最適電流強度を調査するため新たな培養細胞実験を行った。その結果,200µAで細胞遊走が促進され,300µAで抑制することが確認された(Uemura M, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。これらの結果をふまえ,現在は創傷治療専用器による治験を実施している。また,基礎研究では細胞遊走に加え細胞増殖の検討を実施している。このように,基礎研究を臨床に適用しながら,褥瘡に対する電気刺激療法の有効性が明らかになってきている。超音波療法と同様,実施する理学療法士が増えることにより,推奨度がAとなり褥瘡治癒に貢献できると考えられる。3.おわりに 上記のように,褥瘡に対する物理療法の有効性が示されている。そのため,褥瘡を評価し適応時期にあった物理療法を選択することで創の加速的な治癒に期待である。しかし,物理療法は難しいという固定概念から敬遠されがちである。筆者もその一人であった。しかし,臨床効果を実感することでこれらの固定概念は消失した。物理療法は他の理学療法技術とは異なり,適切な機器を選択し,最適条件の設定ができれば,素晴らしい効果を得ることが可能となる。今回,シンポジウムに参加している方々にこの効果を実感していただきたいと考えている。理学療法士は褥瘡対策チームでポジショニングやシーティングなどの予防(up stream)だけでなく,局所治療(down stream)においても活躍できる場は非常に多いと思われる。
著者
熊野 道子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.456-464, 2002-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
4 2

この研究の目的は, 自己開示の状況的要因の1つで, 自己開示のきっかけとなる要因である尋ねることに着目し, 自ら進んでの自己開示と尋ねられての自己開示の相違を検討することである。315名の大学生を開示内容が社会的に望ましい場合 (159名) と社会的に望ましくない場合 (156名) に分け, 自ら進んで開示する場合と尋ねられて開示する場合のそれぞれに, 自己開示の程度, 動機, 開示後の気持ちについて回答を求めた。その結果, 以下のことが明らかになった。(1) 開示程度については, 開示内容が社会的に望ましくない場合は, 自ら進んでより尋ねられて開示する程度が高かった。(2) 開示動機については, 自ら進んで開示する場合は感情性を動機として開示が行われやすく, 尋ねられて開示する場合は規範性を動機として開示が行われやすかった。(3) 開示後の気持ちについては, 不安といった否定的な感情では, 自ら進んで開示する場合も尋ねられて開示する場合も, 統計的有意差が認められなかった。一方, 肯定的な感情では, 自ら進んで開示する場合は安堵感が高く, 尋ねられて開示する場合は自尊心が高かった。
出版者
日経BP社
雑誌
日経システム構築 (ISSN:13483196)
巻号頁・発行日
no.143, pp.50-53, 2005-03

ピザの宅配店舗「ドミノ・ピザ」を運営するヒガ・インダストリーズは,複数の実現形態を使い分けて3つのシステムを構築。宅配業務の効率化とサービス向上を図った(図1)。
著者
杉本 拓也 藤井 義明
出版者
日本地震学会
雑誌
日本地震学会講演予稿集
巻号頁・発行日
no.2012, 2012-10-16

日本地震学会2012年度秋季大会、2012年10月16日~10月19日、函館市民会館、函館市
著者
Knight Tim
出版者
白百合女子大学
雑誌
白百合女子大学研究紀要 = The fleur-de-lis review (ISSN:02877392)
巻号頁・発行日
no.56, pp.41-65, 2020

史上最も有名なポップ・グループ、ビートルズが50年前に解散した。彼らは1962年から1970年の間にしか新しい録音をリリースしていない。しかし、彼らの音楽は今でも何百万人もの人々に聴かれ、彼らに関する本や記事は絶えず出版され、ソーシャルメディアにはファングループが溢れている。彼らが解散して以来、親ジョン・レノンと親ポール・マッカートニーのファンや作家の間で戦いが繰り広げられてきた。あまりにも若くて当時のビートルズを知らないアメリカの女性たちは、最近、この物語がどのように語られてきたかを検証している。アナリストの1組はポッドキャスターの3人組で、もう一人は歴史家である。この論文では、彼らの分析を概説する。The Beatles, the most famous pop group of all time, broke up fifty years ago. They released new recordings only between 1962 and 1970. However, their music is still listened to by millions of people; books and articles about them are continuously published; and social media is awash with fan groups. Since they broke up acrimoniously, a battle has been fought between pro-John Lennon and pro-Paul McCartney fans and writers. American women, too young to remember the group, have recently been examining the way the story has been told. One set of analysts is a trio of podcasters; the other is an historian. This paper outlines their analysis.
著者
菱田 邦男 HOANG TRONG SO HOANG T. S.
出版者
愛知学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

現代ベトナムの上座仏教における尼僧たちの存在形態について研究をした。ベトナムの上座仏教は、1939年にカンボジアで修行したベトナムの僧侶によってベトナムの南部にあるサイゴン市(現在ホー・チ・ミン市)に伝えられた。今回参考文献に基づき、現地の諸寺院を訪れ、聞き取り調査を実施し、次のことを明らかにした。現在ベトナムの上座仏教の活動地域は、中部のフェ市と南部のホー・チ・ミン市とその周辺に限られ、上座仏教の尼僧たちの存在もこの二つの地域に見られる。今回の調査で尼僧の人数が150人であることは明白に判った。フェ市における上座仏教の尼僧たち(8人)の修行道場は一箇所に集中し、在家信者として僧侶たちと一緒に修行をしているので、尼僧という名称は認められなかったようであり、「女修」と呼ばれるようになった。生活の面については、尼僧たちは殆ど自給自足であり、その宗派の信者からの布施は滅多にないようである。こうして生活の面で大変厳しい状態なので、初心者の弟子を受け入れることもできなくなるのは当然のことである。しかも、フェ市における上座仏教の尼僧たちは、大乗仏教の尼僧たちとの交流を全く進めていないので完全に孤立の状態にある。修行の面に関しては、尼僧たちは八戒しか伝授されていないので、女性の修行者の形態とみなされている。彼女たちは日常2回の坐禅と読経に専念するが、毎月2回八戒を再び伝授されることを僧侶の教団に求める。フェ市の尼僧と違って南部における上座仏教の尼僧たち(142人)は、特殊な形態を持って更に発展して盛んな様相を見せる。この地方の尼僧たちは5箇寺に集まって修行して入るが、特に福山禅院と宝隆寺における尼僧の場合は、フェ市の尼僧と同じように自給自足であるが、独特の修行法を持っている。修行の専門道場としての福山禅院では、尼僧たちは毎日殆どの時間を坐禅と経行で過ごすので、読経の時間は日課に見られない。そして彼女たちが毎日八戒の伝授を僧侶たちに懇請することは、フェ市の尼僧と違うところである。今回の調査で一番驚くことは、この禅院の修行に参加しているのは上座仏教の尼僧ばかりではなく、ベトナム大乗や「乞士派」の尼僧の姿が見かけられたことである。この三つの宗派の尼僧が一緒に修行することは、ベトナムでは絶対に考えられなかったことであり、戒律上や生活の面や宗教の違う点などというような様々な問題を乗り越えて一つの場所で生活しながら修行することは有り得なかった。このような交流は大変素晴らしいと実感した。宝隆寺における尼僧たちは、学習と修行との両面に重視している。特に注目すべきことは、その住職が尼僧たちに比丘尼の戒律を受戒させたい意向を持っていることである。実際にタイとスリランカに派遣されて受戒をした尼僧はいた。タイ・スリランカ・ミャンマーなどのような上座仏教の国々では、比丘尼の形を公的に認められていないので、これは深刻な問題になっている。尼僧の教団が発展できるか、社会的に活動ができるか、大乗仏教の尼僧教団と交流ができるか、比丘尼の戒律を受戒させることができるかどうかという諸問題には、ベトナム上座仏教の教団に大きな責任がある。