著者
池田 賢司
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本年度は, メタ理解の正確さに関して, 文章の読解過程を規定する要因として達成目標に焦点を当てた検討を行った。達成目標は大きく習得目標(例えば, 課題を通じて認知能力を向上させる)と遂行目標(例えば, 他の人よりも課題でより高い点数を獲得する)に分類される。特に習得目標はモニタリングを含むメタ認知的活動と関連しているため, 読解中に自分自身の理解状況や処理過程をモニタリグしていると考えられる。そのため, 習得目標が与えられた場合には, 遂行目標が与えられる場合に比べメタ理解は正確になることが予測される。実験では, 実験参加者にはまず達成目標の教示が与えられた。なお, 本実験で用いた教示により, 参加者の達成目標を操作可能であることが, 先行研究により示されている。達成目標の教示が与えられた後, 参加者に6本の文章の読解を求めた。読解後, 各文章の理解度を7件法で評定させた。最後に理解テストを実施した。実験の結果, 統計的な有意差は検出されなかったものの, 習得目標が与えられた場合に, 遂行目標が与えられた場合に比べ, メタ理解はより正確になるという仮説と一致するパターンが得られた。効果量の推定などから, 本研究において有意差が検出されなかったのは, サンプリングエラーの可能性も十分に考えられるため, 今後の研究へ向けての重要な指針を提供する研究となったと考えられる。また, メタ理解の正確さの介入法として, 本研究から目標の操作という可能性を提示できたといえる。つまり, 学習者に習得目標を持たせるよう方向付けることができれば, メタ理解の正確さは改善する可能性がある。しかしながら, 習得目標で得られたメタ理解の正確さもそれほど正確なものとはいえないため, メタ理解の正確さをより改善する方法, あるいは向上させる要因を明らかにすることが今後の研究では重要になると考えられる。
著者
生田 茂 葛西 美紀子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.160-167, 2014
被引用文献数
6

文や文節をハイライトしながら同期をとって読み上げを行う Media Overlays の機能を持つ電子書籍を手作りし,ダウン症の児童の読みの促進や誤読率の改善に効果があるかを調べた. HTML5 や CSS3 を用いて,テキストや図からなる各ページを作り込み,文や文節をハイライトし同期をとって読上げを行うための SMIL ファイルの作成を行った.こうして制作した「はらぺこあおむし」の電子書籍を,原本の絵本の音読に加えて用いることで,ダウン症の児童の読みの速さや誤読率の改善の取り組みを行った.本取り組みの結果,ダウン症の児童の文や文節の読みの速さや誤読率の大幅な改善がみられ,引き続き,詳細な実験を期待する結果となった.
著者
小林 孝人
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.jjom.H20-03, 2009-05-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
15

Inocybe dunensis P. D. Orton and Inocybe leptoclada Takah. Kobay. & Courtec. collected from Wakayama Prefecture, Western Japan by Kumagusu Minakata are described and illustrated. Inocybe dunensis is newly recorded in Japan. Inocybe leptoclada is newly recorded in western Japan.
著者
村端 佳子 黒木 美佐
出版者
宮崎国際大学教育学部
雑誌
宮崎国際大学教育学部紀要 教育科学論集 (ISSN:21887896)
巻号頁・発行日
no.7, pp.32-43, 2020-12

平成 29 年に告示された学習指導要領において、外国語活動・外国語の目標の中に「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ」外国語による言語活動を通してコミュニケーションを図る資質・能力を育成することを目指す、という文言が盛り込まれている(文部科学省、2017)。そこで本稿ではそのような言語独特の見方や考え方を英語と日本語の絵本の中に探り、英語に特有な「見方・考え方」を児童に感じさせる可能性を探った。 一般的に英語は説明的で客観的な文章を好み、日本語は論理的な表現は好まず、オノマトペの多様に見られるような感覚的で曖昧な文を好むという違いが見られる。本稿ではそのような違いが日英の絵本にも現れるのかを探るために、英語が原本で日本語に訳されている2冊の絵本『はらぺこあおむし』と『あたまからつまさきまで』の英語と日本語を比較分析した。これらの2冊はいずれもエリック・カールによるもので、日本語でもよく読まれている人気の絵本である。比較してみると、日本語の絵本では、語り口調や劇的要素を用いるという特徴や、変化する人称代名詞に加えてオノマトペの多用から、感覚的で直接的な表現が多く見られるということがわかった。一方、英語の絵本では説明的で分析的および客観的表現が特徴として見られた。このような表現方法の違いや特徴は日本の文学作品にも見られ、日本語と英語の一般的な表現方法の違いと見ても良い。そこで、子供達が慣れ親しんでいて理解が容易であると思われるような英語絵本の読み聞かせをすることは、言語によって物事の描き方には違いがあることや、違いだけでなく日本語と英語の共通点への気づきを促すことへとつながる。このように英語の絵本に触れさせる利点の一つとして、英語の見方や考え方を明確に理解するとまではいかないが、英語独特の表現方法にふれることができる可能性を論じた。
著者
中嶋 聡一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.60, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4

皮膚における紫外線からの防御機構である色素「メラニン」はメラニン細胞で生成される.近年の美白ブームにより,薬学の分野でも天然物由来のメラニン生成抑制作用物質の探索が盛んに行われている.本稿では,重要な生薬であるオタネニンジン(Panax ginseng)の成分ギンセノシドRb1(Rb1)およびギンセノシドRg1(Rg1)が,ヒトメラニン細胞においてメラニンの生成を刺激するというMaoらの報告を紹介したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Mao L. et al., Evid. Based Complement. Alternat. Med., 2014, Article ID892073 (2014).2) Fang F. et al., BBA. Molecular Basis of Disease, 1822, 286-292 (2012).3) Busca R., Ballotti R., Pigment Cell Res., 13, 60-69 (2000).4) Wang L. et al., AAPS Pharm. Sci. Tech., 15, 1252-1262 (2014).
著者
玉井 正弘 松下 修司
出版者
広島県立総合技術研究所食品工業技術センター
雑誌
広島県立総合技術研究所食品工業技術センター研究報告 = Bulletin of Hiroshima Prefectural Technology Research Institute Food Technology Research Center (ISSN:18838324)
巻号頁・発行日
no.27, pp.21-27, 2013

通気攪拌型培養槽を用いたMELs生産菌によるMELs生産において,従来から用いられているタービン翼を対照として,新規形状の攪拌翼(スーパーミックス)の性能を評価した。1)MELs濃度が100gL-1となる培養中期以降,培養液の粘度が急速に上昇した。2)DOは,攪拌翼の回転数を制御することにより培養中期までは設定した数値を維持できたが,中期以降はDO及び回転数の変動により設定DOを安定に維持できなかった。3)MELsの最高濃度は,タービン翼では設定DOの上昇により減少したが,スーパーミックスでは増加し, 90時間で148.1gL-1であった。4)MELs生産速度は,各設定DOにおいて常にスーパーミックスが高く5ppmで2.28gL-1h-1であった。5)培養中の回転数及び最終積算回転数は,各設定DOにおいて常にスーパーミックスが低かった。最終積算回転数の比率は,スーパーミックスが10%以上低く抑えられた。
著者
貝原 俊樹 深水 誠二 吉田 精孝 河村 岩成 中田 晃裕 荒井 研 森山 優一 宮澤 聡 麻喜 幹博 北村 健 北條 林太郎 青山 祐也 小宮山 浩大 手島 保 西﨑 光弘 櫻田 春水 平岡 昌和
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.SUPPL.1, pp.S1_50-S1_54, 2015 (Released:2016-12-14)
参考文献数
7

高血圧症, 骨粗鬆症の既往がある83歳女性. 入院10日程前から食思不振があった. 入院4日前から食思不振が増悪し, ふらつきや1分程続く胸部圧迫感が出現した. 入院当日から動悸が出現したため, 当院を受診した. 心電図は洞調律で多形性心室性期外収縮が頻発し, 580msと著明なQT延長を認めた. 胸部レントゲンでは軽度心拡大を認めた. 採血では低カリウム血症 (2.3mEq/L), 低マグネシウム血症 (1.6mg/dL) を認めた. 検査終了後に突然強直性痙攣が出現し, 心肺停止となった. 無脈性多形性心室頻拍が確認され, 除細動150J 1回で洞調律に復帰した. 入院後は電解質を補正し, QT延長はやや遷延したものの, 心室性不整脈は著減した. また, 経過中たこつぼ様の壁運動を伴ったが, 第4病日で意識はほぼ清明にまで改善した. しかし第13病日に頭蓋内出血を発症し, 急変, 死亡退院となった. QT延長, 多形性心室頻拍に低カリウム血症, 低マグネシウム血症を伴った症例の報告は少ない. 本症例に関して, 低マグネシウム血症と心室性不整脈の観点から文献的考察を混じえ, 考察する.
著者
藤田 弘之 Hiroyuki Fujita
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.149-167, 2017-09

本稿はイギリス教育省に設置されている全国教師及び学校管理者支援機関(National College for Teaching and Leadership、以下NCTL)による不適格教師に対する規制措置とその運用状況を明らかにすることを目的とする。イングランドでは2000年に総合教職評議会(General Teaching Council for England)が設置され、これが不適格教師を規制する役割を遂行してきた。しかし、2011年教育法によってこの機関が廃止され、不適格教師の規制権限は教育大臣に移った。NCTLは2013年よりこの大臣の権限を実施しており、不法行為を行った教師を審査し、不適格者と判定したものには教職従事禁止命令を出している。本稿はこうした審査の組織、手続き、基準について述べ決定事案を分析するとともに実際の運用状況を明らかにした。そして、こうした措置が教育活動の公益性を担保し、教師の信頼性確保を最重要課題として行われていることを明らかにした。
著者
西脇 三郎 Saburo NISHIWAKI
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
no.44, pp.93-99, 1972-08

第12次南極観測海洋生物部門の定常観測として1970年11月26日から1971年5月1日まで観測船「ふじ」の航路にそって,北太平洋西部・インド洋・南極洋にわたる115地点の表面海水中のクロロフィルa量の測定を行なった.南極洋および南緯32°以南のインド洋ではクロロフィルa量の分布にかなりの変動がみられたが,全体的にはその他の海域におけるよりも高い値が見られた(0.05~1.10mg/m^3).北太平洋西部・南シナ海・南緯32°以北のインド洋では,比較的高い値がみられたオーストラリア沿岸・南アフリカ沿岸・マダガスカル島沿岸・マラッカ海峡などの沿岸海域を除けば,南極洋などに比べ全体的には低い値がみられた(0.02~0.17mg/m^3).今回の観測で得られたクロロフィルa量の地理的分布の様相は,これまでのほぼ同じ航路において得られた結果と全般的傾向としてはほぼ一致していた.
著者
高橋 弘隆
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会誌 (ISSN:13405551)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.153-156, 2017-03-01 (Released:2017-03-01)
参考文献数
2

1.はじめに近年日本および海外鉄道事業者において,回生電力の有効利用として,地上電力貯蔵システム(Stationary Energy Storage System:SESS)の導入が加速している状況である。この動きは,地球温室効果ガス削減の一環として導入促