著者
藤井 誠二
出版者
北海道大学総合博物館
雑誌
北海道大学総合博物館研究報告 (ISSN:1348169X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.9-132, 2008-03-31

Plant (wood and grass) materials were basic and indispensable to prehistoric people’s lives; however, little attention has been paid to these materials up to now. The main reason is that they are characterized by variety and destructibility. To reveal the characteristics of wooden goods of the Satsumon and the Ainu cultures, data from archaeological reports were collected and arranged into a classification system, from which a data base for wooden goods from these two cultures was created. In total 7,477 wooden artifacts from 29 sites were analyzed (table), and based on the analyses, a class catalog of 26 groups consisting of 213 types was presented. Using this table, the ratio of wooden artifacts assigned to Category 4 (type of goods) and Category 3 (use of goods) of the Satsumon Culture and of the Ainu Culture were compared. In Category 4, there were some remarkable differences in ratio in such goods as ceremonial and ritual artifacts. However, there was no outstanding difference in the number of artifacts within these two cultures. In other words, the usage of wooden goods from the Satsumon to the Ainu Culture was continual. The comparison analyses of each item and of each cultural site will be the main research topic for the future.
著者
溝尻 真也
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.112-127, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
32

ミュージックビデオ(MV)は、1980年代以降日本でも広く受容されるようになったが、特に1980年代半ばの日本におけるMV受容の拡大に極めて大きな役割を果たしたのが、MVを紹介するテレビ音楽番組と、ビデオを用いてそれを録画しコレクションしようとするマニアの存在であった。こうしたマニアの出現には1950年代末から続くFM放送受容の流れがあり、MV番組の生成プロセスとは、こうしたポリティクスの中で、それまでとは異なった形のテレビ音楽番組が生成されていくプロセスであった。本論は、こうしたマニアという場とビデオというメディア・テクノロジーとのかかわりが、いかにMVを受容する場を形成していったのかを明らかにするものである。
著者
茶珍 元彦 倉智 嘉久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.6, pp.345-351, 2002 (Released:2003-01-21)
参考文献数
16
被引用文献数
4 5

近年,医薬品による催不整脈作用,特に心電図におけるQT間隔延長が注目を集めている.薬物によるQT延長は,頻度は低いが稀にtorsades de pointes型の心室頻拍や突然死といった重篤な副作用を誘発する可能性があるため,その作用の検出は医薬品開発において非常に重要である.QT延長を誘発する薬物の多くが,心筋細胞の遅延整流K+チャネル(IK)の速い成分(IKr)を抑制し,心筋細胞の活動電位延長および心電図におけるQT間隔の延長を起こすことが知られている.IKrは,心筋細胞の活動電位の第2相(プラトー相)中に活性化され,活動電位を終了し再分極させる重要な役割を担っている.また,機能の発現実験や電気生理学的検討から,HERG(human ether-a-go-go related gene)がIKrを形成するK+チャネルサブユニット分子であると推定されている.HERGチャネルは,1200あまりのアミノ酸からなる6回膜貫通型の電位依存性K+チャネルであり,遺伝性QT延長症候群の原因遺伝子の1つ(LQT2)でもある.HERGチャネルを培養哺乳動物細胞あるいはアフリカツメガエル卵母細胞に発現させると,心筋細胞で観察されるIKrと類似したK+電流が観察される.この系を用いて,種々の薬物のHERGチャネルに対する作用の詳細な検討が可能である.ある薬物が心臓の電気活動に影響するか否かを判定するためには,動物心臓での心電図測定や心筋細胞の活動電位測定が必要であるが,さらに種々の薬物による心臓副作用における重要性が認識されてきているHERG電流に対する作用があるかどうかを高感度に検出することは,新規医薬品の開発における効果的な催不整脈作用検出法として必須の検討項目になると予想される.
著者
佐々木 浩一 上杉 喜彦 大野 哲靖 大坂 侑吾
出版者
一般社団法人 日本燃焼学会
雑誌
日本燃焼学会誌 (ISSN:13471864)
巻号頁・発行日
vol.51, no.158, pp.259-267, 2009 (Released:2018-01-26)
参考文献数
23

Recently, plasma-assisted combustion attracts much attention of many researchers as a new interdisciplinary field between combustion and plasma sciences. In this article, we describe a brief explanation of various plasmas, concepts of plasma-assisted combustion, and the research trend of plasma-assisted combustion. We also report examples of experimental investigation on plasma-assisted combustion, which have been carried out in authors' research groups.
著者
袴塚 高志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.978-982, 2014 (Released:2016-09-30)
参考文献数
7

2011年1月のアンチスタックスに引き続き,2014年4月にプレフェミンが一般用医薬品として製造販売の承認を受けた.前者は赤ブドウ(Vitis venefera L.)の葉,後者はチェストツリー(Vitex agnus-castus L.)の果実に由来する西洋ハーブ医薬品である.アンチスタックスは軽度の静脈還流障害による諸症状の改善,特に足のむくみを改善する内服薬として既に販売されており,プレフェミンが月経前症候群を緩和する内服薬として流通する日も遠くないものと思われる.ドラッグストア等の店頭で健康食品として販売されている西洋ハーブの中には,欧州で一般用医薬品として扱われているものもあり,医薬品としての規制を受けずに流通することに関して,かねてより安全性や品質保証の面で問題視されてきた.医薬品の承認はあくまでも個別の案件であり,西洋ハーブ全般が一般用医薬品に移行するという話ではないが,海外の生薬製剤を我が国の一般用医薬品として承認申請する道筋が明示され,実際の承認例も出てきたことは,天然物医薬品に係る薬事行政ならびに産業振興の上で画期的な出来事と言える.本稿では,医薬品,食品および健康食品の関連性について触れつつ,西洋ハーブ医薬品という新しいカテゴリーが誕生するまでの経緯を概説したい.
著者
浜島 清利
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.116-120, 2018-06-08 (Released:2018-09-14)
被引用文献数
4

大阪大学と京都大学で起こった音波に関する出題ミスの原因を探る。それにより音波の本質は疎密波であるという認識が深まる。特に,音波の干渉では,変位よりも疎密で考えた方が現象を明快に理解できることを論証する。ただし,音波が壁で反射するとき,疎密の位相は変わらない(密は密のまま反射する)ことに注意する必要がある。今後,高校では音波を教える際に疎密の観点を取り入れることが望ましく,大学は出題時に「音源は疎密で同位相の音波を出している」のように表記するなどの配慮が必要である。
著者
武田 真滋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.136-144, 2022-03-04 (Released:2022-04-05)
参考文献数
39

統計物理系の物理量を計算するうえでモンテカルロ法は非常に有効であり大きな成功を収めてきた実績がある.しかし,この方法ではボルツマン因子を確率として扱うため,もしそれが負または複素数の場合はこの方法はそもそも使えなくなってしまう.これを一般的に符号問題と呼ぶ.この問題は計算科学の様々な場面で顔を出し,多くの研究者を悩ませてきた.実際,この問題に対抗すべく多種多様なアイデアが提案されては結局は失敗するという無残な光景がしばらくの間繰り返され,さらには,符号問題解決という切実な願いを踏みにじるように,この問題はNP困難であることが証明されてしまった.つまり,符号問題を打ち負かそうとどんなに工夫をしようが,一見封じ込めたようにみえたとしても,別の形でしっぺ返しがくることを予見している.ということは,符号問題のために解析することが難しいモデル,例えば素粒子物理学の中でいえば,有限クォーク数密度QCDやカイラルゲージ理論などの非摂動的ダイナミクスを第一原理計算によってうかがい知ることは不可能なのだろうか? もちろん,答えは否である(と考えたい).実際,NP困難性は符号問題に対する一般的な解法の存在を否定しているだけであり,特定のモデルや理論に対する個別の回避法の存在は否定していない.符号問題の回避策の一つとして最近注目を集めているのがテンソルネットワーク法である.その特徴は,特異値分解に基づく定量的な情報圧縮と実空間くりこみ群による物理自由度の粗視化のアイデアを取り入れている点である.物性系では,量子多体系の変分問題を解く方法として,素粒子系では主に,経路積分を直接評価する方法として発展している.一方,テンソルネットワーク法の課題に目を向けると,2つの問題が残されている.1つ目は,高次元系での計算コストが非常に高くなるという問題である.2次元系ではモンテカルロ法と並ぶ,あるいは場合によってはそれを凌ぐような精度を達成しているのに対し,そのコストが次元に関して指数関数的に増大することから高次元系での研究は低次元系ほどは進んでいなかった.しかし,近年,コスト削減アルゴリズムの開発が特に日本を中心として活況を呈しており,現在利用可能な計算資源でも単純な内部自由度をもつ系であれば,3ないしは4次元系における精密計算も視野に入ってきた.今後は,コスト削減のために犠牲となった近似精度の向上が鍵となるであろう.2つ目の課題は情報圧縮の可否の問題である.どのような系でもテンソルネットワーク法を適用すれば情報圧縮が可能であるという保証はなく,現在のところその可否を個々の系で調べるしかない.よって,理論空間の中でモンテカルロ法でもテンソルネットワーク法でもアクセス不可能な領域が存在するかもしれない.それら以外の方法でも解析できないような理論が存在するのだろうか,など計算の可能性という観点から問題を掘り下げるのも興味深い.今後はテンソルネットワーク法を進化させてその実績を積み上げるのはもちろんのこと,その概念的な位置づけの理解を深めていくことも重要なテーマになるであろう.
著者
Tatsuya Yamaoka Yuta Takagi Ryota Shimomura Yuki Murata Katsumi Shimotake Akihiro Itoh Tatsuya Mima Satoko Koganemaru
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
Progress in Rehabilitation Medicine (ISSN:24321354)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.20230018, 2023 (Released:2023-06-22)
参考文献数
24

Background: Transcutaneous electrical sensory nerve stimulation (TESS) is used to enhance the recovery of sensorimotor function in post-stroke hemiparesis. However, TESS efficacy for post-stroke gait disturbance remains unknown. We hypothesized that TESS on the area innervated by the tibial nerve, targeting the superficial plantar sensation, combined with gait training would improve gait function in patients with gait disturbance caused by severe superficial sensory disturbance after stroke.Case: A 42-year-old man was referred to the convalescent rehabilitation hospital 4 months after a left pontine hemorrhage. He showed severe superficial sensory disturbance without motor paresis in the right lower leg and planta pedis. Gait training with TESS on the tibial nerve innervated area was performed, targeting plantar sensation according to an N-of-1 study design of a single-case ABCAB that included two 10-min sessions of gait training without TESS (phase A), two gait training sessions with TESS targeting the right plantar sensation (phase B), and one session with TESS targeting the upper leg sensation as control (phase C). The patient showed increased gait distance and stride length, improved superficial sensation on the right planta pedis, and improved balance after phase B, but not after phases A and C.Discussion: Gait training with TESS on the tibial nerve innervated area improved gait ability, superficial plantar sensation on the targeted side, and balance function in a post-stroke patient with sensory disturbance. Gait training with TESS may be effective for gait dysfunction caused by sensory disturbance in patients with central nervous system disorders.
著者
濵本 鴻志 葛谷 潤 荒井 ひろみ
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回 (2021)
巻号頁・発行日
pp.2C4OS9b02, 2021 (Released:2021-06-14)

人工知能(AI)の発展が目覚ましい一方で、その背景にある機械学習、特に深層学習のブラックボックス性は、信頼と責任の観点から社会実装の障害となっている。こうしたブラックボックス化の問題を解決するために、説明可能AIのコミュニティでは、透明性や説明責任を実装するための技術的な取り組みが急速に進められているだけでなく、近年では、そもそも説明とは何かといった哲学的問題に取り組む研究も始まっている。既存の研究の一つとして、Mittelstadt et al. (2019)は、Miller (2019)による説明概念の分析に基づいて、対話型の対比的説明を提供する説明可能AIの開発の必要性を訴えている。本論文では、まず、肺炎リスク予測システムの事例を用いて説明可能AIのニーズを確認し、次にMittelstadt et al.(2019)の議論を概観した上で、そこで提案されている対話型の対比的説明の有用性について議論する。