著者
居神 浩
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.127-145, 2018-05-25 (Released:2019-05-25)
参考文献数
23

高等教育の根源的な変化を語るための視点として「マージナル大学」の概念を提起して以来7年になる.その間,思いがけず様々な方々から様々なご意見ご感想を頂いてきたが,痛感するのはそれぞれの「認識の準拠枠組み」の小さくないズレである.このズレが生産的な議論を展開するための大きな障壁となっている.本論ではその点を特に意識しながら,まずますます多様化する「ノンエリート大学生たち」に伝えるべき教育内容についての持論を再提示する.そのうえで,これを教授団として議論・実践する際の困難・展望について検討する.さらに高等教育政策の現状および今後の展開に鑑みて,学生の多様化を正面から見ようとしない大学論への絶望とささやかな希望を語りたい.
著者
内田 大貴 上手 雄貴 上手 奈美
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.47-55, 2023-07-11 (Released:2023-07-11)
参考文献数
36

木曽川水系に連なる岐阜県のあるため池において,2022 年に国外外来種であるチョウセンブナMacropodus ocellatus が採集された.本種は, “木曽川水系” としての確認記録が残されているものの,都道府県についての記載はなく,岐阜県内と特定可能な本種の移入記録は無い状況であった.したがって,今回の記録は岐阜県初記録かつ,木曽川水系における約60 年ぶりの採集記録と言える.当県における本種の由来の詳細は明らかでないが,国内では生息数を減らしている一方,希少魚として流通している.生息地の状況やこれらの社会的背景から,確認されたチョウセンブナは個人や養殖業者による意図的な放流個体の可能性が考えられた.さらに,この個体群の周辺地域への拡散も懸念されることから,生息状況だけでなく,拡散状況の把握や早期の駆除が必要である.
著者
山根 承子 山本 哲也
出版者
一般社団法人 人工知能学会
巻号頁・発行日
pp.1D4OS22a3, 2015 (Released:2018-07-30)

ビニール傘に仕掛けを施すことによって、盗難を防ぐことができるのかを実証した。施した仕掛けは、名前シールを貼る、アニメキャラのシールを貼るなどの簡便なものである。これらの傘を大学構内の傘立てに置き、約3ヶ月にわたって実験を行った。
著者
乾 健太郎 石井 雄隆 松林 優一郞 井之上 直也 内藤 昭一 磯部 順子 舟山 弘晃 菊地 正弥
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.289-300, 2023-04-01 (Released:2023-04-01)
参考文献数
54

自らの判断を説明できる能力は自然言語処理システムに期待される重要な要件である.説明はコミュニケーションであるから,説明できる能力についても,説明の目的や受け手との共通基盤化といったコミュニケーションの概念とリンクさせて研究することが望ましい.ライティング評価はそのような研究を進める格好の応用領域である.ライティング評価は,教育シーンにおいて学習者が産出するテキスト(記述式答案や論述文など)の質を評価・診断し,学習者にフィードバックすることによって学習を支援するタスク群を指す.教育目的の評価では説明は本質的に重要であり,したがってそこには説明の目的や手段など,教育学的な研究や実践の蓄積がある.ライティング評価ではそうした蓄積とリンクさせながら「説明できる自然言語処理システム」の研究を進めることができる.本稿では,ライティング評価における説明に焦点を当て,どのような評価タスクにどのような説明方法が考えられるか,どのような技術的実現手段が考えられるか,を論じる.近年の研究動向を概観しながら,内容選択,言語産出各レイヤの評価における説明生成の可能性を論じ,研究者のこの領域への参入を呼びかけたい.
著者
藤原 道弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.35-41, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
36
被引用文献数
3 7

大麻(Δ9-tetrahydrocannabinol:THC)は身体依存, 精神依存, 耐性を形成するとされているが, 他の乱用薬物より比較的弱い.このことは動物実験においても同様である.むしろ大麻の危険性は薬物依存より急性効果の酩酊作用, 認知障害, 攻撃性の増大(被刺激性の増大)が重要である.カタレプシー様不動状態の発現には側坐核や扁桃体のドパミン(DA)神経の他にセロトニン(5-HT)神経の機能低下が密接に関与しており大麻精神病の症状の緊張性や無動機症候群に類似している.この症状はTHCの連用によって軽度ではあるが耐性を形成し, THCの退薬後はカタレプシー様不動状態は直ちに消失する.一方, 攻撃行動の発現はTHC慢性投与の15日後に発現し, 退薬時は直ちに消失することなく20日間かけて徐々に消失する.これはヒトにおけるTHCの退薬症候の過程に類似している.THCによる異常行動の発現にはカンナビノイド(CB1)受容体を介したDAや5-HTの遊離が関わっており初期2週間はCB1受容体によるDA, 5-HTの遊離抑制が関与している.これに対し慢性投与になると, シナプス前膜のCB1受容体の脱感作によるDAや5-HTの遊離とシナプス後膜の感受性増大が同時に発現することが主な原因として考えられる.空間認知記憶障害は, 作業記憶障害であり, その発現にはCB1受容体を介し, 海馬へ投射しているACh神経においてCB1受容体を介したAChの遊離阻害が重要な役割を果たしている.これらの作用は報酬系や依存の形成の解明に役立つものと考えられる.
著者
大上 渉
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-45, 2017-08-15 (Released:2017-09-14)
参考文献数
31

本研究は,1952年から2015年までの間に,日本においてロシア諜報機関(KGB-SVR, GRU)に獲得・運営された32名の情報提供者のタイプとその特徴を調査した。情報提供者に関する詳細情報の収集にはWeb上の新聞記事データベースを用いた。7つのカテゴリー,すなわち情報提供者の年齢,職業,提供した情報の内容,提供した諜報機関,情報の入手方法,情報提供者になった経緯及び動機について,クロス集計分析と多重対応分析が行われた。その結果,情報提供者は4つのタイプ,すなわち「自営業者型」,「自衛官型」,「国家公務員型」,「メーカー社員型」に分類された。情報提供者の特徴は各タイプで相違した。この相違は,情報提供者の職業に関連しているとみられる。この知見は日本におけるスパイ防止活動や機密情報の漏洩防止に貢献するだろう。
著者
田中 晋平
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.89-108, 2023-02-25 (Released:2023-03-25)
参考文献数
23

1974年に大阪で安井喜雄たちが創立した《プラネット映画資料図書館》は、映画のフィルムや関連資料の収集・保存に加えて、自主上映活動を続けてきたグループである。本論では、筆者が〈神戸映画資料館〉で担当した《プラネット》に関する資料(自主上映会のためのチラシや機関誌など)の整理作業を踏まえ、1970年代半ばから1980年代後半までに開催されたその上映活動の歴史的な役割を考察する。具体的には、《プラネット》の上映を実現してきた人間およびモノのネットワークに注目し、自主上映と新たに勃興したミニシアターなどの映像文化との差異を明らかにしたい。まず《プラネット》の前身となる上映活動として、1960年代末に結成された《日本映画鑑賞会OSAKA》の時代に遡り、関西における自主上映の地層を検討する。次にフィルム・コレクターや他の上映グループとの関係性を構築しながら、《プラネット》の活動が展開され、国内外で製作された古典的映画、アニメーション、ドキュメンタリー映画、実験映画・個人映画におよぶ多様な作品が上映されてきた経緯を確認したい。また論点として、自主上映グループが、モノとしてのフィルムをいかに確保し、活動を行ってきたのかに着目する。さらに1980年代後半に《プラネット》が関わった「OMSシネデリック」のシリーズなどを取り上げ、自主上映の活動とミニシアター文化との差異について論じる。
著者
川畑 貴裕 久保野 茂
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.27-32, 2018-01-05 (Released:2018-09-05)
参考文献数
14

今から約138億年前,誕生直後のわれわれの宇宙は「ビッグバン」と呼ばれる高温・高密度の状態にあった.ビッグバン理論によると,宇宙開闢の約10秒後から20分後にかけて「ビッグバン元素合成」(Big Bang Nucleosynthesis: BBN)が起こり,陽子と中性子を起点とする原子核反応によって水素,ヘリウム,リチウムなどの軽元素が生成された.このとき生成された元素の組成について,観測による推定値と理論計算による予測値を比較することは,宇宙創生のシナリオを明らかにするうえで,重要な知見を与えてくれる.BBNにおける4Heと重陽子の生成量は,観測による推定値と理論予測値が非常によく一致する一方で,7Liについては,生成量の観測推定値が理論予測値の約1/ 3でしかないという重大な不一致が知られている.この不一致は「宇宙リチウム問題」と呼ばれ,ビッグバン理論に残された深刻な問題として大きな関心を集めている.宇宙リチウム問題を巡っては,いくつかの解決策が提案されており,それらは三つに大別される.一つ目は,観測から7Liの原始存在量を推定する方法に問題があるという説であり,二つ目は,宇宙リチウム問題の原因を標準理論を超える新物理に求める説である.そして,三つ目は,BBN計算に用いられている原子核反応率に誤りがあるという説である.しかし,現時点でこれらの説を決定づける実験的・観測的な証拠は見つかっておらず,宇宙リチウム問題は,宇宙物理学だけでなく,天文学,原子核物理学,素粒子物理学までも巻き込んだ物理学における重要な問題となっている.原子核物理学の観点からこの問題を考察すると,7Liは主に7Beが電子捕獲崩壊することで生成される.しかし,7Beを生成する反応については,すでに複数のグループによる測定がなされており,BBN計算の結果を大きく変化させる余地はない.近年,7Beの生成率ではなく,7Beを他の原子核に転換する反応に注目すべきとの指摘がなされている.もし,BBNの過程で,7Beが7Liへ崩壊する前に他の原子核へ転換する反応の寄与が増大すれば,BBN計算における7Liの生成量が減少し,宇宙リチウム問題を解決できる可能性がある.7Beを転換する反応として有力視されていたのが,n+7Be→4He+4He反応である.しかし,7Beと中性子はどちらも短寿命の不安定核であるため,この反応を直接に測定することは容易でなく,これまで,BBNに関係するエネルギー領域における断面積は測定されていなかった.このような状況のなか,我々は大阪大学核物理研究センターにおいて,逆反応である4He+4He→n+7Be反応を測定し,詳細釣り合いの原理に基づいてE=0.20–0.81 MeVのエネルギー領域におけるn+7Be→4He+4He反応の断面積を初めて決定することに成功した.その結果,n+7Be→4He+4He反応の断面積は,BBN計算にこれまで用いられてきた推定値より約10倍も小さく,宇宙初期において中性子が7Beと衝突し二つの4Heに分解する反応の寄与は小さいことが明らかになった.残念ながら,宇宙リチウム問題の謎はさらに深まる結果となったが,今回の成果は標準模型を超える新しい物理の探索や,原子核反応率の見直しなど,さらなる研究を動機づけるに違いない.
著者
三田村 仰 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.257-270, 2009-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

発達障害児の保護者は子どもが通う学校の教師に対し、しばしば子どものニーズに応じた支援について依頼・相談を行う。より円滑で効果的な教師とのコミュニケーションを目指し、5名の発達障害児の保護者を対象に機能的アサーション・トレーニング(以下、トレーニング)を行った。トレーニングは、間接表現をも丁寧な自己表現として教える機能的アサーションの枠組みに基づいていた。保護者から得たアセスメント結果をもとに、トレーニングでは、保護者から教師への機能的なコミュニケーションを目標として、参加者に丁寧な表現と具体的な表現のスキルをトレーニングした。トレーニング効果は、担任教師との面談場面をイメージしての面談ロールプレイ・アセスメントをもとにABデザインで評価された。その結果、5名の参加者いずれも介入期においてべ一スライン期よりも丁寧で具体的な依頼・相談を行っており、介入期の依頼・相談がべ一スライン期の依頼・相談よりも望ましいと現役教師によって評定された。
著者
鈴木 利保
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.92-107, 2006 (Released:2006-01-24)
参考文献数
30

日常臨床で麻酔科医が頻繁に使用する種々の針について, その歴史, 構造, 使いやすさについて解説し, 理想的な針について考察した. 多くの針はメーカーが設計・製造を行い, 使用者である医師の主観的評価のみがあり, その特性が客観的に評価されていない. これらの針を用いた手技は, 生体にとって侵襲的であり, ときに多様な合併症を引き起こし, 死に至る例の報告もある. われわれ医師は, 用いる針の特性を十分に理解し, 合併症を起こしにくい器材を世に出す必要がある. その際には, 使いやすさをわれわれ自身が客観的に評価する必要がある. こうすることにより, 患者と医療従事者の安全が守られると考える.