著者
長廣 仁藏 岩本 順二郎 樋口 健
出版者
The Japanese Society of Agricultural Machinery and Food Engineers
雑誌
農業機械学会誌 (ISSN:02852543)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.81-87, 1989 (Released:2010-04-30)
参考文献数
2

エゼクタ式ガスノズルによる極微細気泡の発生は, ガスノズル平行部内の非常に限られた狭い領域で行われる。そこで, ガスノズル平行部内の液体噴流と吸引ガス流などの流れの状況を可視化して, 極微細気泡発生のメカニズムを解明するための実験を行った。その結果, 極微細気泡は, 液体ノズルからガスノズル平行部内に噴出した液体噴流と, ガスノズル平行部内壁面に付着残留した液体層との間に挾まって, 液体噴流表面と空気との間に働く粘性力の作用で引きずり込まれた三角管形状の吸引空気流が, その先端部すなわち液体噴流と付着液体層の接触部で, 液体噴流と空気流の相対運動により剪断されることによって発生することが判明した。
著者
大竹 伝雄 東稔 節治 久保井 亮一 高橋 保夫 中尾 勝実
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.366-373, 1979-07-10 (Released:2009-10-21)
参考文献数
16
被引用文献数
3 1

液体エジェクターをガス分散器として用いたときの, スロート内の流動状態, 生成気泡径, 槽内ガスホールドアップについて実験的に検討した.スロート内の流動状態は, スラグ流, 環状流, 気泡流, ジェット流に大別でき, これら各領域を気液流量比 G/L 対スロート内液流速 uLT 基準のFroude 数, Fr (=uLT2/gDT) の線図で示した.気泡径分布, ガスホールドアップ εG, 体面積平均気泡径 dBvs の Fr や G/L に対する依存性は, 遷移 Froude 数 Frc を境に大きく変化する. Fr≦Frcのスラグ流-環状流領域では, 気泡径分布の幅は広く, G/Lを増加するとその標準偏差は増加し, εG も同一ガス流量の条件下の気泡塔における値 εG0 と変わらない. Fr>Frc の気泡流-ジェット流領域では, 1~4 mm の小気泡が均一に分散した流れとなり, Frを増加またはノズル-スロートロ径比 DN/DTを減少すると, εG は増加し, dBυs は減少する.各領域における平均気泡径, ガスホールドアップは, Fr, G/L および DN/DT を含む実験式で相関された.
著者
五月女 華 小倉 明夫 浅井 歩実 藤生 敦哉
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.861-868, 2018

<p>Capillaries are the most basic and important blood vessel of the circulatory systems. The evaluation of the blood flow may contribute to many studies in future. We evaluated the capillary blood flow change of lower limb muscle over time before and after the exercise used by magnetic resonance imaging-intravoxel incoherent motion (MRI-IVIM) obtained perfusion information. Furthermore, we examined an association between the muscle pain after the exercise and the diffusion weighted image (DWI) indexes. DWI was imaged using multi-b values for a thigh and calf muscles. MRI was performed just after an exercise test, 3, 6, and 24 hours later, and the IVIM index and diffusion index were calculated. Furthermore, we interviewed the degree of the muscle ache 24 hours later. As a result, pseudo diffusion coefficient (D*) and f value as IVIM index increased after-exercise as compared with pre-exercise and decreased in 3 hours later. A similar tendency was found in the apparent diffusion coefficient and the diffusion coefficient as diffusion index. Furthermore, all indexes increased in after exercise from before exercise and decreased with time passed and increased again 24 hours later. In conclusion, IVIM could obtain capillary blood flow information, and it was suggested to contribute for sports medicine in future.</p>
著者
Yun Yao Fang-Fei Guo Bo Zhou Shi-Qing Zheng
出版者
The Society of Chemical Engineers, Japan
雑誌
JOURNAL OF CHEMICAL ENGINEERING OF JAPAN (ISSN:00219592)
巻号頁・発行日
vol.42, no.Supplement., pp.s149-s155, 2009-12-30 (Released:2009-12-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2 3

Experimental study has been aimed at examining the flow regimes of gas–liquid in up-flow ejectors by planar laser induced fluorescence (PLIF) technology under air–water and carbon dioxide–water system, the velocity fields by particle image velocimetry (PIV) under carbon dioxide–water system and gaining the bubble photos under air–water system. The conclusions were as follows: (1) The PLIF experimental results showed that in the absence of swirl, the liquid formed and maintained jet in the lower part of ejector and the air flowed up around the liquid jet annularly. At some point along the ejector axis, the jet broke up and the gas dispersed into small bubbles in the liquid. In the presence of swirl, the liquid jet didn’t exist any longer and the two phases interpenetrated and diffused immediately when two phases contact each other. (2) In the PIV measurements, the experimental data showed that at steady state the gas bubbles in the liquid flowed up along the axial direction or paralleled to the wall without swirl. However, the existence of swirl makes the velocity vectors of gas bubbles rotated and flowed up with some extent helicity. (3) The bubble photos showed that at low G/L the bubbles in the presence of swirl form the bubble chain while in the absence of swirl the bubbles disperse uniformly. However, when the G/L ratio increases, the difference in the bubble distribution diminish and the bubble tend to fill of the whole diffuser of the ejector with and without swirl.
著者
亀山 宏 チャックマック H.エロール 陸 永寿
出版者
香川大学
雑誌
香川大学農学部学術報告 (ISSN:03685128)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.27-43, 2007-02-28
被引用文献数
2

本研究では、作物と畜産をサブ・セクターとする農業セクターを構築した。表3のように、そのセクターは約40の作物アクティビティーと13の畜産アクティビティーからなり、4つの地域ごとに投入要素資源の制約量のもとで、需要と供給をベースに経済余剰の最大化を目的関数として現状の再現モデルを構築した。これに、EU加盟をめざさないシナリオと、EU加盟をめざして新たな農業支持政策に変更した場合(3ケース)、について生産者余剰と消費者余剰の変化を求めた。結論は次の2点である、第1に、生産者の余剰は15%ほど減少し、消費者の余剰は10%ほど増加すること。両者を合わせた合計の余剰は3%ほど増加すること、また、生産者の所得の減少分は、現在、実施し始めた直接所得補償方式でカバーできることなど、確かめることができた。第2に、これらの結果をもたらす生産、消費、貿易の状況を農産物別にシミュレーション結果を定量的に整理した。トルコの農業政策は、従来、選挙対策の農業支持のための所得移転という性格が強く、農業生産者の経営にとって最大の不安定要因であった。今後は、国内外との需給調整を図り、農業者の所得水準の向上をめざして作物、畜産の構成を変更しながら進めていくことが望まれている。トルコがEUへの加盟をめざすなかでも、農業者にとっての経営上の最大のリスクは政府による政策手段の変更となっている。すでにEUで取り組まれている農業政策の枠組みに沿えるように政策手段を整え、実際に、政策の実施が生産者の意思決定を誘導できるようになるには、かなりの時間がかかるように思われる。
著者
高屋 麻里子
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.71, no.607, pp.157-162, 2006-09-30 (Released:2017-02-17)

In the 16th to 17th century, there appeared the Sankai-gura, three-storied slim shape plastered storehouse (Dozo), in the city illustrations. A detailed comparative study of those illustrations revealed a similarity on roof structure between plastered storehouses, town houses and also early modern age castles. As I studied the plastered storehouse development, the Sankai-gura was evolved from interior store rooms in townhouses to independent exterior structures. This independence became one of a force to modify the city planning in middle age to early modern age.
著者
Khine Tun NAUNG Rei MIKOSHIBA Junhyuk LEE Hideaki MONJI
出版者
The Japanese Society for Experimental Mechanics
雑誌
Advanced Experimental Mechanics (ISSN:21894752)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.80-85, 2016-08-31 (Released:2017-02-06)
参考文献数
4

The aim of the study is to examine the effect of the amount of the dissolved gas on the two phase flow and to examine the acceleration of bubble generation on two-phase nozzle flow by modifying the shape of orifice plate. In the experiment, the molar concentration of CO2 gas was changed at the dissolution process. As increasing the CO2 molar concentration, the void fraction increased and the liquid velocity decreased at the throat. On the other hand, the bubble velocity was almost constant when dissolved gas rate was changed. Therefore, the slip velocity between the bubble and the liquid increased. Moreover, the amount of bubble is different by changing the hole type of orifice plate such as different holes diameter and respective cross section area for each plate. In case of the orifice of seven holes, it cannot reach the sound speed at the throat but it is closest to the sound speed in the case of other orifices.
著者
山崎 安彦
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.182-186, 2018

<p>製紙工場内での保守・保全活動の一環で聴音検査というものがある。ステンレスの長い棒で回転機器のハウジングなどにあて,反対側に玉を溶接したものがあり,それを耳に当てて音を聞き回転体の状態を判断するというものだ。このときの判断は,測定者の経験がかぎになる。それを他の人々がシェアできない。IOT(モノインターネットInternet of Things)が求められている時代に入った今でも人による聴音確認で検査をされているのが製紙会社の現状である。</p><p>その聴音で確認されるの情報の中の「潤滑の状態」をいかに可視化するか,またその可視化されたものに対しての対応方法,すなわち改善の対策案などを有効に議論できるものにするかが重要になる。そこで今回はその「潤滑の状態」の音について取りあげる。</p>
著者
今西 和俊 内出 崇彦 大谷 真紀子 松下 レイケン 中井 未里
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.273-298, 2019-06-28 (Released:2019-07-06)
参考文献数
59
被引用文献数
7

関東地域の地殻応力マップを作成するため,過去14 年間にわたるマグニチュード1.5以上の地震の発震機構解を決定した.気象庁一元化カタログや我々の先行研究の結果もコンパイルし,10 kmメッシュの応力マップとして纏めた.小さな地震まで解析して発震機構解データを増やしたことで,先行研究よりも応力場の空白域が減少し,さらに応力場の空間分解能を格段に高くすることができた.得られた応力マップは非常に複雑な様相を示しており,最大水平圧縮応力方位(SHmax)が急変する場所があること,伊豆半島から北部に向けてSHmaxが時計回りに回転すること,数十kmスケールの複数の応力区が確認できること,太平洋沿岸域は正断層場が卓越するなどの特徴が明らかになった.これらの特徴は,この地域のテクトニクスの理解や将来の地震リスクを評価する上で重要な情報である.
著者
茶野 努
出版者
武蔵大学経済学会
雑誌
武蔵大学論集 : The Journal of Musashi University (ISSN:02871181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.239-264, 2009-12-10

近年,銀行,証券,保険業等の金融機関が幅広い業務を営むために企業グループを形成する動き,いわゆる金融コングロマリット化がグローバルな規模で急速に進展した。金融コングロマリット化は,金融技術革新,規制緩和を背景として,①金融に対するニーズの多様化・高度化への対応,②収益力の強化,③経済のグローバル化への対応,④ブランド戦略の展開にその狙いがある。 ERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント,統合リスク管理)の観点からは,エコノミック・キャピタルにもとづく収益・リスク・資本の統合的管理,とくに,業務統合によるリスク分散効果に注目すべきである。Lown et all(2000)によれば,リスク・リターンの組み合わせで最も効率的な組み合わせは銀行・生保としている。これに対して,Kuritzkes, Schuermann and Weiner(KSW と略す)(2003)では,分散効果が最も大きい組み合わせは銀行・損保としている。これは銀行の主要リスクである信用リスクと損保の災害リスク間の相関が低いためである。 また,KSW(2003)は,レベルⅢ(事業間レベル)での分散効果が小さいので,サイロ・アプローチ(業態による縦割り規制)が適切であり,持ち株会社レベルでの必要資本は銀行・保険等各機関の資本の単純合計でよいとしている。ちなみに,銀行と保険のレベルⅢにおけるALM(金利)リスクの相関係数は70%としている。 しかしながら,リスク分散効果を考える上では,銀行と生保におけるリスク・プロファイルの違いにより細心の注意を払うべきである。すなわち,銀行は短期調達・長期運用,生保は長期調達・短期運用という違いがあるので,銀行・生保間のALM リスクにかかわる相関係数は"構造的に"マイナスとなる(これは他のリスクファクターには見られない特徴である)。したがって,前述のような誤った前提にたった規制は銀行・生保を兼営する金融コングロマリットにとってきわめて過大な資本要件を課すことになってしまう。これは,金融コングロマリットの最適な資本配分を歪めて,企業としての成長性を阻害することになりかねない。また,規制要件への対応として,金利リスクをヘッジするために余計なコストを負担させることになってしまう。このコストは,金融コングロマリットの株主や預金者,保険契約者が間接的に負担することになる。 世界でも極めて規模の大きな,銀行・生保兼営の金融コングロマリットである日本郵政グループの銀行勘定における金利リスク(保有期間1 年,観測期間5 年のヒストリカル法による)は,平成20 年3 月末で20,847 億円,20 年9 月末で21,526 億円と莫大なリスク量になる。おそらく「ゆうちょ銀行」の金利リスクの多くは「かんぽ生命」の金利リスクによってナチュラル・ヘッジされているであろう。サイロ・アプローチの合算という単純な規制を日本郵政グループに適用するのは大きな問題となる。現在の開示情報は十分ではないため,この影響を実証的に計測するのは今後の課題としたい。
著者
眞鍋 克博 長島 大介 粕山 達也
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.756-762, 2018-08-15

はじめに 一部の子供には日常生活や学校生活において,無器用さやぎこちなさ,あるいは落ち着きがなくじっとしていられないなどが原因となり,さまざまな活動や参加が阻害されていることが散見される.学校教育現場において,そうした子供たちへは主に教育職員が対応しているものの,対応についての知識や経験が十分ではない場合が多く,学校での教育のなかで大きな課題となっている1). 現在,これらの阻害要因は発達性協調運動障害(developmental coodination disorder:DCD)として1つの概念疾患と捉えられるようになった.DCDでの障害の概念について,岡2)は歴史的に考察し,これをminimal brain dysfunction(MBD)やclumsiness,clumsy child syndrome,disorder of attention and motor perceptuomotor dysfunction,motor learning difficicultyと同様の意義としてこれまで使用されていることを指摘した.DCDはその初期において,療育や教育の分野で注目され,その後,医学からのアプローチとして捉えられるようになった経緯を明らかにしている.さらにDCDの症状は,正常と異常の境界線を引くのが実際上不可能であることから,日常生活上での障害の状態を前提として,それが起因するものとしてDCDがあることを述べている.また,DCDは米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)において,神経発達症群/神経発達障害群のなかの運動症群/運動障害群の基準の1つに位置づけられている3).さらに,疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Classification of Diseases:ICD-10)では,(F80-F89)心理的発達の障害における(F82)運動機能の特異的発達障害・協調運動障害に分類されている4). 本稿では,まず発達性協調運動障害について,診断基準を通してその特徴について述べ,臨床上の特徴と理学療法との関連について述べる.次にDCDとの合併が多くみられる自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD),学習障害(learning disabilities:LD),注意欠陥多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder:ADHD)の3つの障害の概要と理学療法評価,さらに理学療法の実際について述べることとする.
著者
平井 佐和子 ヒライ サワコ Sawako HIRAI
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学法学論集 (ISSN:02863286)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.87-111, 2005-07

「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟に対する熊本地裁判決(二〇〇一年五月一一日)は国のハンセン病政策の過ちを認め、その後の国の控訴断念によってこの判決は確定した。こうして、なぜ九〇年にわたって誤った隔離政策を続けてきたのか、このような誤りを再び繰り返さないためにはどうしたらいいのか、という真相究明あるいは再発防止等の課題を引き継ぐため、「ハンセン病問題に関する検証会議」(二〇〇二年一〇月〜二〇〇五年三月)が、このようなハンセン病政策の歴史と実態について、多方面からの検証を行い、再発防止のための提言を行うための第三者機関として設置された。ハンセン病患者が被告人とされた「藤本事件」も検証課題の一つとして掲げられ、最終報告書ではこの事件の捜査・裁判過程が「憲法の要求を満たし」ていなかったことが指摘されている。ハンセン病であるがゆえの差別・偏見が、裁判所を含めた司法プロセスにいかに深く影響を及ぼしていたか、という問題を解明する上で、藤本事件の真相究明は避けて通れない。そこで、「検証会議」の成果を引き継ぎ、ハンセン病問題解決のための努力を継続する一つのきっかけとして、今回のシンポジウム「司法における差別―ハンセン病問題と藤本事件―」を企画した。基調講演は、一九五四年の上告審以降、弁護人を務められた関原勇弁護士にお願いした。関原氏は、一九二四年生まれ。一九五一年に弁護士登録され、東京合同法律事務所に所属し、、その後一九五六年に第一法律事務所を立ち上げた。八海事件をはじめとして、菅生事件、白鳥事件など、多くの著名な刑事事件に関わる。パネルディスカッションには、上記ハンセン病問題に深く関わるお二人に加わっていただいた。徳田靖之氏(弁護士)は、ハンセン病違憲国賠訴訟西日本弁護団代表で、原告勝訴へと中心的な役割を果たしてこられた。内田博文氏(九州大学教授)は、「検証会議」の副座長として、また最終報告書の起草委員長として、再発防止策の提言をまとめられた。藤本事件について簡単に紹介しておきたい。藤本事件とは、一九五一〜一九五二年に熊本県菊池市で起きた二つの事件をいう。この事件の背景には、戦後の「無らい県運動」と菊池恵楓園の増床計画、ハンセン病患者専用となる菊池医療刑務所設立に伴う強制隔離政策があると考えられる。本件被告人である藤本松夫氏は、未収容患者に対する「全患者」収容方針のもとで、入所勧告を受けた一人であった。そして、一九五一年八月、藤本氏に対する入所勧告に関わった村職員方にダイナマイトが投げ込まれる事件が発生すると、「逆恨み」の末の犯行だとして逮捕されたのである(殺人未遂事件)。藤本氏は、ハンセン病療養所である菊池恵楓園内の菊池拘置所に収容され、懲役一〇年の判決を受ける。被告人は、無実を主張し、福岡高裁に控訴したが、その控訴審中一九五二年六月一六日、拘置所を脱走した。この脱走中に発生したのが同一被害者にかかる殺人事件である。「逆恨み」という文脈のもとで、当然のように藤本氏の犯行だととらえられ、五回の公判ののち、一九五三年八月二九日、熊本地裁は死刑判決を言い渡した。この事件の特異性は、療養所内に設置された特別法廷で出張裁判が行われ、被告人は裁判所構内の通常の法廷に一度も立つことなく、死刑判決が言い渡され、そして死刑が執行されたということにある。シンポジウムは、二〇〇五年三月一九日、西南学院大学において開催され、約一五〇名の参加を得た。以下は、当日の基調講演と、それに続くパネルディスカッションの模様を書き起こしたものである。括弧内は筆者が補足した。なお、文責は筆者にあることをお断りしておきたい。

1 0 0 0 無閑之

著者
むかしの會
出版者
愛知県郷土資料刊行会
巻号頁・発行日
1937