著者
大橋 幸泰
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 = The Bulletin of National Institure of Japanese Literature Archival Studies (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.12, pp.123-134, 2016-03-14

本稿では、日本へキリシタンが伝来した16世紀中期から、キリスト教の再布教が行われた19世紀中期までを対象に、日本におけるキリシタンの受容・禁制・潜伏の過程を概観する。そのうえで、どのようにしたら異文化の共生は可能か、という問いについて考えるためのヒントを得たい。キリシタンをめぐる当時の日本の動向は、異文化交流の一つと見ることができるから、異文化共生の条件について考える恰好の材料となるであろう。 16世紀中期に日本に伝来したキリシタンは、当時の日本人に幅広く受容されたが、既存秩序を維持しようとする勢力から反発も受けた。キリシタンは、戦国時代を統一した豊臣秀吉・徳川家康が目指す国家秩序とは相容れないものとみなされ、徹底的に排除された。そして、17世紀中後期までにキリシタン禁制を維持するための諸制度が整備されるとともに、江戸時代の宗教秩序が形成されていった。こうして成立した宗教秩序はもちろん、江戸時代の人びとの宗教活動を制約するものであったが、そうした秩序に制約されながらも、潜伏キリシタンは19世紀中期まで存続することができた。その制約された状況のなかでキリシタンを含む諸宗教は共生していたといえる。ただし、それには条件が必要であった。その条件とは、表向き諸宗教の境界の曖昧性が保たれていたことと、人びとの共通の属性が優先されたことである。This paper is an overview of the process of the acceptance, prohibition, and concealment of Christianity in Japan from the time it was first introduced in the mid-16th century until its re-introduction in the mid-19th century. In doing so, it is my hope that we can find some lessons for making the co-existence of different cultures possible. Happenings relating to Christianity in Japan at the time can be seen as a form of cultural exchange, and therefore will surely provide suitable material for considering the conditions for cultural coexistence.While the Christianity transmitted in the mid-16th century was widely accepted by Japanese at the time, it also was resisted by the forces that sought to maintain the existing order. Toyotomi Hideyoshi and Tokugawa Ieyasu, who brought about unification after the Sengoku period, considered Christianity to be incompatible with the national order they sought, and they attempted to thoroughly eliminate it. Then, as various systems were developed to maintain the prohibition of Christianity through the latter 17th century, the religious order of the Edo period was formed. While this religious order was, of course, intended to restrict the religious activities of the people of the Edo period, hidden Christians were able to continue to exist up to the mid-19th century, even under its constraints. It could be said that various religions, including Christianity, coexisted under these constrained circumstances. However, there were necessary conditions for this, namely, the ambiguity of the boundaries between religions being preserved on the surface, and the attributes people share in common being prioritized.
著者
青木 聖久
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.131-144, 2020-03-31

本研究では,精神障害者(以下,本人)の障害年金の認定診査において鍵を握る,日常生活評価の指標としての,①適切な食事,②身辺の清潔保持,③金銭管理と買い物,④通院と服薬,⑤他人との意思伝達及び対人関係,⑥身辺の安全保持及び危機対応,⑦社会性,さらには,⑧就労に着目した.そして,これらの8 つの事柄を切り口にしながら,本人の日常生活に対する精神障害者の家族(以下,家族)の捉え方や思いを分析し,障害年金受給との関係について探索することを目的にして,8 名の家族から半構造的インタビューを実施した. 分析の結果,本人が【重圧を受けやすい日常生活実態】におかれていることがわかった.また,家族がこれらの事柄を捉えるにあたっては,【常態化によって生きづらさが潜む】ということと,【強力な社会的支援としての家族】という2 つの側面を持っていることがうかがえた.一方で,障害年金の日常生活評価にあたって,家族は,本人の日常生活の情報を医師から求められたとしても,必ずしも期待された役割を果たせるとは限らない.なぜなら,【できない証明とストレングス視点】として,家族は本人に対して,ストレングス視点で捉えることに馴染んできた結果,日常生活のできない証明をすることが難しい側面が認められたからである.
著者
中林 秀和 武田 和久
出版者
岡山医学会
雑誌
岡山医学会雑誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.231-238, 2012-12-03 (Released:2013-01-04)
参考文献数
65
被引用文献数
1 1

高分化型ヒト肝癌由来細胞株“HuH-7”は,1982年にCancer Researchにその樹立を報告した.HuH-7は,当時の岡山大学医学部附属癌源研究施設病理部門(故佐藤二郎教授)の下で樹立し,これまで多くの研究分野で利用され,世界的に有名な肝癌細胞株となっている.本稿では,有用性の高い分化機能を有するヒト肝癌細胞株HuH-7について,肝細胞癌の腫瘍マーカーであるα-fetoprotein(AFP)を中心に,この細胞株を用いた研究分野に関する詳細を紹介する.
著者
野中 有紀子 神谷 忠宏 加藤 岳人 平松 和洋 柴田 佳久 青葉 太郎
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.29-34, 2020-01-31 (Released:2020-09-30)
参考文献数
18

【緒言】近年,腹部刺創症例に対する治療戦略は,強制開腹手術から選択的非手術管理に移行している。【目的】当施設における腹部刺創症例について検討した。【方法】2006年1月から2017年12月までの12年間に当施設に入院した腹部刺創症例33例を後ろ向きに検討した。【結果】患者背景は,年齢の中央値が57歳で,男性が23例,女性10例であった。緊急開腹手術を行ったのは24例(72.7%)であり,開腹理由は大網を含めた腹腔内臓器脱出が12例,extravasationやfree airなどのCT所見が12例,不安定な循環動態が4例であった。そのうち術中所見で臓器損傷を認めたのは13例で(重複あり),不必要開腹率は50%であった。【結語】当院の不必要開腹率は過去の報告と比べて高く,腹部刺創症例,とくに大網脱出を認める症例に対する緊急開腹手術の適応を見直す必要があると考えられた。
著者
安渓 貴子
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.97, no.9, pp.629-636, 2002-09-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
16

多様性の大陸アフリカには, おどろくほど多彩な地酒づくりの文化が花開いている。サハラ以南のアフリカの伝統の酒造りの中には, 乾燥地の狩猟採集民の果実酒や, 季節的に雨が降るサバンナ帯のハチミツ酒とさまざまな穀物を発芽させてつくるビールの仲間, 湿潤な森林地帯のヤシ酒や泡盛にも似た風味をもつカビ付けした米の蒸留酒などが連綿とつくられてきた。これは, そうしたアフリカの地酒づくりの技術の科学的理解のための覚え書きである。
著者
細江 光
出版者
甲南女子大学
雑誌
甲南女子大学研究紀要. 文学・文化編 = Konan Women's University researches of literature and culture volume (ISSN:1347121X)
巻号頁・発行日
no.39, pp.11A-54A, 2003-03-18

Sojin Kamiyama, one of the key figures in the creation of the modern Japanese theatre, was a friend of Junichiro Tanizaki throughout his lifetime. He is also known as one of the few Japanese actors who performed in Hollywood silent films in the 1920s. However, his life has not been sufficiently studied ; his fellowship with Junichiro Tanizaki has not been fully investigated either. This paper presents his personal history based on various data, information and interviews with members of his family.
著者
須田 孝徳 石井 裕明 外川 拓 山岡 隆志
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.60-71, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
26

消費者が使用するデバイスの多様化とともに,デバイスが消費者行動に及ぼす影響に注目が集まっている。本研究では,デバイスの違い(スマートフォン/PC)が消費者の解釈レベルに及ぼす影響を検討するとともに,デバイス特性と解釈レベルの一致が,消費者の評価や行動に及ぼす影響について検討する。本研究では3つのオンライン実験と,1つのフィールド調査を通した検証を試みる。研究1では,スマートフォン(vs. PC)で対象を見たとき,消費者はその対象をより近いと知覚することを明らかにする。研究2では,スマートフォン(vs. PC)を使用した場合,消費者の解釈レベルが低次になることを確認し,研究3では,スマートフォン(vs. PC)の使用が,低次の解釈レベルに対応した広告の評価に正の影響を及ぼすことを確認する。最後に研究4では,実際の購買データを分析することで,研究1~3で得られた知見の実務への応用可能性を検討する。
著者
草柳 俊二
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.I_157-I_168, 2015 (Released:2016-03-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1 3

設計施工契約は施工性を十分反映した設計を行うことにより,品質,時間,コストの効率向上を目指すものである.この契約形態は建設企業が従来の枠組みを超え,事業遂行力を向上させるといった面でも極めて重要な意味を持ち,先進諸国だけでなく,中進国の建設産業もその対応能力を急速に向上させている.我が国でもこの契約形態の導入が始まったが,受注者側のリスク拡大といった問題が顕在化している.リスクの均衡は適正な契約形態によって作られる.我が国では発注方式で制度作りを進めるため契約形態の議論が希薄となる.このため,リスクバランスという建設プロジェクトにおいて最も重要な議論が放置されてしまう傾向となる.設計施工契約形態の普及には,契約形態としての議論を深めシステムを作って行くことが必要となる.
著者
小野 芳秀
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku fukushi university (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.35-60, 2017-03-17

本研究の目的は,希死念慮のある思春期児童を対象としたスクールソーシャルワークにおいて,支援を目的とした "かかわり" の手段として,近年 10 代の若年層にもユーザーが増大している SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた事例について考察し,そのメリット(有効性)とデメリット(限界・注意点)を整理することである。SNS を用いたスクールソーシャルワークの実践事例を分析した結果,SNS 活用のメリットとして,既読表示や交信履歴の縦覧機能等を活用でき,自殺防止を目的とするゲートキーパーとしてのモニタリング効果が期待されることが明らかとなった。一方,デメリットとして,SNS を支援ツールとして用いる場合は,予め時限的活用やバウンダリーの配慮が成されないと,被支援者の転移の把握とコントロールが困難であり,頻回相談により支援者の負担が大きくなること,特に対象者が危険因子として精神疾患を有する場合は,精神症状を刺激する可能性もあり,医療と福祉的支援の連携による家族を含めた生活環境への現実的かつ具体的介入が同時に必要であることが判った。この結果により,実効性のあるソーシャルワーク実践,とりわけスクールソーシャルワークにおける "生命の危険を伴う"緊急度の高いケースや当事者達に "困り感" が欠如しているような支援困難ケースにおいては,子どもや保護者に接触できる専門的スキルを持った支援者が,関係機関の連携による支援体制のもと,本人主体を原則としながらも,当事者たちの問題解決のための方法を選択するための改善策の提示や,主体的に問題解決に取り組むための意識変容を目的に誘導的に介入する意識的 "かかわり" による積極的支援が必要であり,これらの支援ツールとして適切に用いれば SNS は有効であると結論づけた。

6 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1929年04月06日, 1929-04-06
著者
亀岡 智美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.738-747, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
16
被引用文献数
1

近年, 虐待された子どもたちを, トラウマの視点から評価しケアすることの重要性が, 国際的にも強調されている。Trauma-focused cognitive behavioral therapyは, 被虐待児のトラウマへの第一選択治療として推奨され, 国際的に最も効果が検証されている認知行動療法である。わが国における実施可能性も検討され, 報告されている。本稿では, わが国での実施症例を提示することによって, プログラムの概要を紹介するとともに, 被虐待児ケアにおけるPTSD評価とトラウマ治療の重要性について考察した。
著者
新井 陽介
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.44, pp.71-86, 2016-03-01

谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』は2003年に出版されて以降、ユリイカ(平成23年43巻7号)で特集が組まれたり、静岡大学の『情報学研究』紙上シンポジウムで取り上げられたりと様々な批評、評価がなされてきた。その中で、主人公であるキョンの独特の一人称が特徴である、という評価がある。全ては大きな視点で考えれば、一人称の一部であると考えられるが、彼の立ち位置は多岐にわたり、原点である物語の登場人物としてのキョン、「読者」の視点に立つキョン、「ノベルゲーム」的な性質を持つキョン、物語世界の外部に存在し、時間的にも物語世界の外部に存在するキョンと、きわめて立体的な構造をなしているのである。一人称第四人称キャラクター萌え
著者
Jun Mizushima Joanne Kyra Loo Shermaine Lou Clifford J. Mallett
出版者
Japan Society of Physical Education, Health and Sport Sciences
雑誌
International Journal of Sport and Health Science (ISSN:13481509)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.241-248, 2022 (Released:2023-01-12)
参考文献数
22

Sport coaches develop their coaching knowledge and identity as coaches through their life experiences over time. However, limited knowledge exists for what motivates youth coaches in Asia to coach, how they learn their craft, and how they develop as coaches. Therefore, the purpose of this study was to investigate the developmental pathways of youth sport coaches in Singapore. Eleven youth sport coaches in Singapore (10 males, 1 female) from a range of sports were selected to take part in semi-structured interviews consisting of three sections: coaches' profile, valued learning experience, and motivation. Qualitative thematic analysis was implemented to understand the key aspects of coach development in their coaching careers. Data yielded six main categories about valued learning experiences: (1) interaction with other coaches, (2) learning from overseas practice, (3) athletic experience, (4) on-the-job experience, (5) mentoring, and (6) coach education program. Two main categories about coach motivation were identified. These were: (1) initial motivation to be a coach—sense of purpose and (2) motivation to continue coaching—enjoyment, satisfaction, and passion.
著者
田畑 克彦 西田 佳史 飯田 佳弘 岩井 俊昭
出版者
The Society of Instrument and Control Engineers
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.11-19, 2012 (Released:2012-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

We propose a new navigation system for Automatic Guided Vehicles (AGV) used as a carrier in the factory. The guided marker of the navigation system is composed of ultrasonic transducers instead of the traditional markers such as electromagnetic tape, light reflective tape and so on. The proposed system is available to be used not only indoors but also outdoors and adaptable to a temporary route. The ultrasonic sensor is generically susceptible to noise, so that we make the following propositions. First, a phased array of the ultrasonic sensors is employed in searching a land marker to improve the signal-to-noise ratio. Second, the specific ID with 7bits is assigned as the land marker to avoid the system errors ascribable to an ultrasonic interference. In addition, the proposed system is quite compact in virtue of the embedded technology of a microcomputer and Field Programmable Gate Array (FPGA). This paper reports the development of the proto-type system of navigation system and confirmation of its fundamental performances.
著者
増尾 伸一郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.33-44, 1998

九州を中心とする西南日本の盲僧が琵琶を弾奏しながら語った『地神経』は、朝鮮の盲覡(読経師、経巫)が読誦した『地心経』と、ほぼ同一の疑偽経典である。日本では土佐のいざなぎ流や奥三河の大土公祭文をはじめ、各地の土公神祭文や五行神楽の詞章にみられるように、その釈文は<五郎王子譚>として広く流布した。本稿では、天文暦数や陰陽五行説、中国の盤古説話などを包摂しながら、重層的な展開をみた、語り物としての軌跡を、中世社会のなかに位置づけることを試みた。