著者
永松 隆 甲斐 義浩 政所 和也 河上 淳一 後藤 昌史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1240, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】上肢挙上位での肘伸展筋力は,投球障害肩に対する機能評価であるElbow Extension Testとして有用性が報告されている。挙上位での肘伸展筋力には上腕三頭筋の筋力のみならず,肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節,および体幹の固定力が複合的に関与していると考えられるが,これらの関与の詳細は明らかとなっていない。そこで今回は,肩甲上腕関節の安定性を担う回旋筋腱板の1つである棘下筋の機能が上肢挙上位での肘伸展筋力に及ぼす影響を調査した。【方法】対象は健常成人男性10名の利き手側10肩(21.1±0.7歳)とした。実験①棘下筋の選択的疲労運動(ISFP)による肩外旋筋力減少率の確認:Kai,若林の報告に準じ,側臥位にて3kgのダンベル負荷のもと1st外旋運動を1Hzのスピードが維持できなくなるまで行わせた。ISFP前後で1st外旋筋力(ER)を測定し,ER減少率を確認した。ERは座位,回旋中間位での等尺性筋力とした。実験② ISFP前後の挙上位肘伸展トルク(EET)の比較:EETにおける棘下筋の影響を調査した。EETは座位にて肩・肘関節90°屈曲位,前腕90°回外位,前腕長軸が重力線に一致した肢位での等尺性肘伸展筋力とした。また,EET測定中の筋活動量を表面筋電図にて計測した。被験筋は上腕三頭筋長頭,棘下筋,前鋸筋,僧帽筋上部および下部線維とし,電極位置はPerottoの記述を参考に各筋に貼付した。筋電計はテレメトリー筋電計MQ8を使用し,データはVital Recorder2にて収録した。実験①②におけるER,EETはプルセンサー型徒手筋力計MT-100を用い,抵抗部位を前腕遠位端にて測定。測定は5秒間の最大随意収縮を2回計測し,その平均値を採用した。得られたデータは各被験者の前腕長を乗じ,体重で除し正規化した。実験②において収録した筋電図データは,全波整流後,5秒間のデータの中間3秒間の積分筋電を求めた。求めた積分筋電は各筋のMVCで除し,%MVCを算出した。統計処理は,ERおよびEETの測定再現性を確認するため,2回の測定値から級内相関係数ICC(1,1)を求めた。次に実験①②におけるISFP前後のER,EETおよび各筋の%MVCをWilcoxonの符号付順位検定にて比較検討した。有意水準は5%未満とした。【結果】測定再現性はERがICC(1,1)=0.890,EETがICC(1,1)=0.934であり,良好な再現性が得られた。実験①におけるISFP前後のERの比較では,ISFP後のERが有意に低値を示し(P<0.01),平均で40%減少した。実験②におけるISFP前後のEETの比較では,ISFP後のEETが有意に低値を示し(P<0.01),平均で約20%減少した。積分筋電は,棘下筋と僧帽筋上部線維において,ISFP後の値が有意に低値を示した(P<0.01)。【結論】本研究の結果,棘下筋機能低下により挙上位肘伸展トルクは約20%減少することが明らかとなった。Elbow Extension Testは棘下筋の肩甲上腕関節安定化としての機能が密接に関連し,またその機能を評価し得るテストであることが示唆された。
著者
平林 怜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1234, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】体幹機能の低下は投球障害の影響因子であり,村上らは投球障害の改善に体幹と下肢の連動した固定力が必要であると報告している。投球動作では片脚立位の安定性や体幹機能のみでなく体幹と下肢の連動した固定力が必要となる。当院ではその評価の一つとして上肢の肢位を変化させた下肢中間位保持テストを実施している。この評価は中殿筋徒手筋力評価と同等肢位で骨盤を固定せずに徒手抵抗を加え,体幹と下肢の連動を簡便に評価する手法である。そこで本研究は下肢中間位保持テストにおける上肢の肢位変化が体幹と下肢の筋活動動態に及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】下肢中間位保持テストは徒手抵抗に対して抗することができなければ陽性とする。対象は評価で陰性であった健常男性8名,両下肢を対象としたため16肢,平均年齢は24.5±1.9歳であった。今回は上肢の肢位の影響を明らかにするため評価肢位は上肢下垂位,上肢拳上位の2肢位で施行した。2肢位とも側臥位とし評価下肢は股関節膝関節屈曲0°,対側下肢は骨盤前傾代償を防ぐため股関節膝関節屈曲90°とした。上肢下垂位は肩関節屈曲0°,肘関節屈曲90°とし,上肢拳上位は手を頭部に組み肩関節屈曲120°とした。表面電極貼付位置は広背筋,内腹斜筋,外腹斜筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,大腿二頭筋,トリガー電極として徒手抵抗位置に貼付した。徒手抵抗位置は大転子から大腿骨外側上顆を結ぶ遠位35cmの位置とした。また徒手抵抗は100Nで3秒間を各肢位に対して7回試行した。各筋の最大随意収縮測定は徒手筋力検査を用い3秒間の最大等尺性運動(MVC)を試行し,3秒間の安定している0.5秒間を%MVCの基準とした。徒手抵抗前の外転保持で安定した平均値の筋活動量を抵抗前%MVCとし,筋活動開始時点から0.5秒間の筋活動量を抵抗中%MVCとして算出した。また,抵抗前%MVCから抵抗中%MVCの増加率も求めた。筋活動開始時は外転保持にて安定した0.5秒間における筋活動量の平均値に標準偏差2倍の値を加えた値と規定した。統計処理は各肢位で得られた7筋の増加率を比較した。正規性の検定後に上肢下垂位と上肢拳上位での増加率に対して対応のあるt検定を行った。【結果】上肢拳上位と上肢下垂位で比較した筋活動量の増加率は内腹斜筋,広背筋が有意に高く(p<0.05),外腹斜筋が低い傾向であった(p<0.1)。【結論】下肢筋の筋活動には上肢の肢位変化で筋活動量に変化がなかったが体幹筋の筋活動は有意に増加した。渡邊らは座位側方リーチ時に移動側の内腹斜筋は骨盤内の固定力として,広背筋は遠心性収縮として働くと報告している。このことから上肢拳上位では広背筋が遠心性に,内腹斜筋は求心性に骨盤を固定させるために作用すると推察される。本評価はオーバーヘッドスポーツやリーチ動作等における体幹と下肢の連動した安定性を評価する上で有用なものと示唆される。
著者
石井 壮郎 宮川 俊平
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.939-943, 2011 (Released:2011-12-21)
参考文献数
12
被引用文献数
1

There were two purposes for this study. One was to identify risk-factors on dynamics which affected humeral head abnormality on MRI using logistic regression analysis. The other was to simulate stress distribution in humeral head at maximum external rotation (MER) of throwing phase using Finite Element Method analysis (FEM). Then we evaluated the validity of the simulation using MRI findings of humeral head abnormality. The subjects were 18 asymptomatic collegiate baseball players who took part in both MRI and pitching motion analysis. The shoulder joint reaction force was calculated using multi-body dynamics analysis with musculoskeletal model analyzed from foot contact to ball release of pitching motion. We did logistic regression analysis to identify whether the force was a risk-factor or not. As a result, the risk-factor of humeral head abnormality on dynamics was the shoulder joint reaction force (shearing force) at the acceleration phase. We simulated the stress distribution in the humeral head at MER using FEM model and input the shoulder reaction force. Stress distribution in the simulation was almost the same as that of humeral head abnormality in MRI. This simulation is expected to be a useful predictor of the humeral head abnormality caused by internal impingement of throwing shoulder injury.
著者
佐藤 真樹 小林 寛和 金村 朋直 岡戸 敦男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1001, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩・肘関節などの投球障害に対する理学療法においては,投球動作の特徴と関係する機能的要因を確認し,対応することが重要となる。投球障害発生に関係する投球動作の問題として,早期コッキング期から加速期における肘下がりや肩関節水平外転位でのボールリリースが代表的である。しかし,投球動作は前の位相における動的アライメントの特徴が後の位相に影響を与えるため,問題が生じる位相のみでなく,原因となる位相への対応が求められる。後の位相につながる動作の問題として,ワインドアップ期における骨盤後傾の増大が挙げられる。理学療法を行う上では後の位相への影響を予測し,必要に応じて改善を図る。本研究では,ワインドアップ期の動的アライメントの問題とされる骨盤後傾に着目し,機能的要因との関係について確認を試みた。【方法】対象は,高校在学中に野球部に在籍した健常男子大学生20名とした。対象に約3 mの距離に設置したネットへ5球の全力投球を行わせた。その際の投球動作を三次元動作解析機器VICON Nexus-1.3.106(VICON社製)を用いて撮影・解析し,ワインドアップ期の骨盤傾斜角度を算出した。あわせて,歩行解析用フォースプレートZebris FMDsystem(Zebris Medical GmbH社製)を用いて足圧中心軌跡面積を測定した。5球の試技のうち,非投球側下肢の離地から最大挙上までの足圧中心軌跡面積が最小の試技を代表値として採用した。機能的要因として次の項目を測定した。1,股関節可動域:屈曲,伸展,内転,外転,内旋,外旋の各関節可動域を測定した。測定は,日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の関節可動域測定法に準じた方法で実施した。2,下肢筋力:股関節屈曲・伸展・外転・内転,膝関節屈曲・伸展の各筋力を測定した。股関節筋力は,徒手筋力検査法に準じた肢位での等尺性筋力をアイソフォースGT-300(オージー技研社製)を用いて測定した。膝関節筋力は,Bte(Primus RS社製)を用いて60deg/secでの等速性筋力を測定した。3,体幹抗軸圧筋力:両足部接地・右足部接地の2条件で,片側の肩甲帯に軸圧負荷を加えた際に体幹正中位を保持しうる左右それぞれの等尺性筋力を測定した。測定には,アイソフォースGT-300を使用した。4,体幹筋筋厚:超音波診断装置Xario SSA-660A(東芝メディカルシステムズ社製)を用いて,安静時・収縮時における左右の腹横筋・多裂筋の筋厚を測定した。また,変化率:(収縮時-安静時)/安静時の筋厚×100も算出した。統計学的解析は,Pearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は日本福祉大学倫理審査委員会の規定に基づき,対象に本研究の主旨を説明し,内容を十分に理解したうえで書面にて同意を得て実施した。【結果】骨盤後傾角度は10.9±8.6°(平均±標準偏差)であった。骨盤後傾角度と機能的要因との関係については,体幹抗軸圧筋力においては,両条件で左右ともに有意な負の相関がみられた(両足部接地左軸圧負荷:r=-0.58,両足部接地右軸圧負荷:r=-0.57,右足部接地左軸圧負荷:r=-0.68,右足部接地右軸圧負荷:r=-0.58)。深部筋筋厚においては,非投球側腹横筋変化率で有意な負の相関がみられた(r=-0.53)。その他の要因に関して相関はみられなかった。【考察】体幹抗軸圧筋力と骨盤後傾角度との間に,有意な負の相関がみられた。Hodges(2008),金岡ら(2009)は脊柱運動時のトルクを発生させる表在筋と,腰椎・骨盤の制御を担う深部筋は,いずれも腰椎骨盤安定性に関与するとしている。体幹抗軸圧筋力は,片側肩への長軸方向の負荷に抗して体幹正中位を保持しうる筋力として,体幹の表在筋と深部筋の機能を示す指標と考える。したがって,骨盤固定筋としての体幹表在筋・深部筋の機能低下は,ワインドアップ期の骨盤後傾増大につながると考えられる。さらに,非投球側腹横筋の変化率と骨盤後傾角度との間に負の相関がみられたことから,骨盤後傾の代償を伴わずに股関節屈曲を行うには非投球側腹横筋の収縮が重要である可能性が確認された。ワインドアップ期における骨盤後傾について,股関節可動域や下肢筋力との関係も指摘されているが,今回の結果では相関がみられなかった。今後,ワインドアップ期の骨盤後傾が他の位相における動的アライメントに与える影響について検討を加えていきたい。【理学療法学研究としての意義】投球動作のワインドアップ期の骨盤後傾に関係する機能的要因のひとつとして,体幹筋機能の関係が確認できた。投球障害の理学療法を行う上で,ワインドアップ期に骨盤後傾を呈する対象には,体幹筋機能の改善も重要であるといえる。
著者
横井 教章
出版者
駒澤大学仏教経済研究所
雑誌
佛教経済研究 (ISSN:02892251)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.113-137, 2018-05
著者
浅川 大地 河内 淳介 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101999, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節は可動性が高く動的バランスに大きく関与しており,投球動作での片脚立位時のアライメントにも関与していると考えられる.そのため足関節捻挫などによる足関節背屈制限が投球動作時のアライメントに影響し,肩・肘などの投球障害に結びついているのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,足関節背屈制限によるアライメントの変化が投球動作時の上肢関節へ及ぼす影響について検討することとした.【方法】対象は健常成人男性8名(右投げ5名・左投げ3名,年齢19.9±2.0歳,身長178.8±6.3cm,体重68.8±5.4kg)とし,野球経験6年以上で投球障害がなく,足関節傷害の既往のないものとした.投球開始肢位をセットポジションとし,通常投球と軸足の足関節背屈可動域を制限した投球(以下,制限投球)の2条件の試技を行った.足関節背屈制限角度は膝伸展位で10°とし,非伸縮性テーピングによって固定した。尚,投球前後での足関節背屈制限角度に有意差は認められなかった.投球距離はマウンドから本塁間(18.4m)とし,側方・後方から2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hzで同期させ,各条件3回の試技を撮影した.また,反射マーカーを両肩峰,投球側肘頭,投球側手関節背側中央に貼付し,得られた画像から反射マーカー部位の3次元座標(DLT法)を算出した.各部位の3次元座標から球速,足部接地(FP)時及びボールリリース(BR)時の肩水平外転角度,肩外転角度,肘屈曲角度を求めた.統計学的分析は表計算ソフト(Excel,Microsoft社)上で,2条件間の比較において対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の目的,危険性について口頭及び書面にて十分に説明し同意を得た.【結果】球速およびFP時の各関節角度において,2条件間に有意差は認められなかった. BR時では制限投球の肩外転角度は72.2±4.8°であり,通常投球時(73.6±6.2°)と比較して有意に減少していた(p<0.05).また,BR時の肩水平外転角度は3.36±2.5°,肘屈曲角度は69.5±17.3°であり,通常投球時の肩水平外転角度(1.85±2.2°),肘屈曲角度(62.5±20.7°)と比較して有意に増加していた(p<0.05).【考察】制限投球は通常投球に比べて肩外転角度が有意に減少し,肩水平外転角度・肘屈曲角度が有意に増加した。このことから,制限投球では投球動作時の肩・肘へのストレスが増加していると考える.投球動作時に体幹・骨盤が後傾する選手は,上半身・上肢・肩甲帯が動員されバランスをとろうとし,体幹の回旋不足が起こる可能性があり,その補正のため肩が過度に水平外転をとるとされている.本調査の制限投球においては,ワインドアップ時に足関節の背屈が制限されたため後方重心となり,体幹の回旋不足が生じ,BR時の肩の水平外転角度が有意に増加したと考える。BR時に肩が水平外転位にあると肩に加わる前方負荷が増大するとされているため,制限投球では肩関節へのストレスが増大すると推察する.また,先行研究においてBR時の肩水平外転角度の増加,肩外転角度の減少は,ゼロポジションと比べて肩関節にかかる負荷が有意に大きいとされており,今回も同様の結果となった.このことから,制限投球でのBRは肩関節へのストレスを増加させていると考える.また,投球動作の加速期における上腕の加速運動は肩関節内旋運動と肘関節伸展運動が中心に担っており,この2つの運動のどちらか一方が強調されることなく投球動作を行う必要がある。しかし,制限投球では肘屈曲角度の増加も認められたことから,肩内旋運動が強調されていた可能性が考えられ,肘関節への外反ストレスも増大する可能性が推察される.投球における運動連鎖は,下肢・体幹・上肢へと全身の各関節が効率良く連動することが必要であり,運動連鎖の破綻は肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながる.制限投球条件でのBR時の各関節角度には有意な差が認められており,運動連鎖の破綻があったと考えられる.しかし,球速について有意な差は認められなかったため,パフォーマンスは低下していなかったと考える.パフォーマンスを維持するために,上肢に大きなストレスをかけているか,骨盤・体幹などに何らかの代償が起きていたと推察する.【理学療法学研究としての意義】投球動作において後期コッキング期から加速期にかけて肩や肘に痛みを生じやすいが,この位相での動作修正は容易でない.そのため,それ以前の位相からの影響について検討することで投球障害のリスクを減少することが可能と考える.その一要因として足関節が投球動作に与える影響についても考慮することも必要であると考える.
著者
宮下 浩二 松橋 朝也 播木 孝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1214, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩甲骨のマルアライメントは投球障害の発生要因の一つとする報告は多く,その問題を実感することは少なくない。投球障害を有する選手は投球側の肩甲骨が非投球側よりも外転変位していることが多く,その評価として肩甲骨内側縁から脊柱までの距離を測定する方法が多く用いられている。しかし,人類学的には鎖骨・肩甲骨は左側が有意に大きい(坂上2003)ことが明らかにされており,脊柱と肩甲骨の距離を評価するためには骨格比を考慮する必要があると考える。そこで今回は,肩甲骨の大きさを基準に肩甲骨外転変位の評価を行った。【方法】対象は肩に投球障害の既往と現病のない右投げの高校野球選手38名とした。両側肩甲棘基部,両肩峰角,C7とTh5の棘突起に反射マーカを貼付し,安静立位の背面からデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフトを用いて次の3つの距離について左右ともに算出した。①内側縁距離(C7とTh5の結線を基線とし,基線から肩甲棘基部までの距離),②肩峰距離(基線から肩峰角までの距離),③肩甲骨幅(肩甲棘基部から肩峰角までの距離)とした。次に投球側において,④肩甲骨幅を基準とした際の内側縁距離の割合(①/③×100)を算出した。統計的分析として,①,②,③の左右差について検定した(対応のあるt検定)。また,①と④の相関を検定した(ピアソンの相関係数)。さらに①内側縁距離の左右差と②肩峰距離の左右差の相関も検定した。【結果】①内側縁距離は右9.2±1.6cm,左8.1±1.6cmで有意に右が大きかった(p<0.01)。②肩峰距離は右19.3±3.0cm,左19.5±3.2cmで有意な差はなかった(p=0.39)。③肩甲骨幅は右10.1±1.8cm,左11.3±2.0cmで有意に右が小さかった(p<0.01)。④は93.0±17.3%であり,①と④にはr=0.47(p<0.01)の相関があった。また,①の左右差と②の左右差には有意な相関はなかった(r=0.49,p=0.65)。【結論】野球選手の内側縁距離は投球側が非投球側より大きい点は先行研究と一致していた。しかし,肩峰距離で外転変位を評価すると左右差はないことになる。これは,肩甲骨幅が先行研究と同様に右側が左側より小さいため,内側縁距離で右側の肩甲骨がより外転位になっても肩峰距離に左右差がなかったと考えられる。一方,内側縁距離を肩甲骨外転変位の指標とする報告は多いが,骨格の個体差を考慮すると基準値が必要になる。①と④は強い相関関係とは言えず,同時に内側縁距離の左右差と肩峰距離の左右差には有意な相関がないことからも,測定方法により外転変位の評価が異なることになる。野球選手の肩甲骨のアライメント変化は投球に対する適応とする報告(Seitz 2012,松橋2016)もある。野球選手の肩甲骨外転変位の測定値に対する評価は,絶対値のみならず骨格との比較等も必要であり,さらには投球時の肩甲骨の運動や肩甲上腕関節との連動への影響も踏まえる必要があると考える。
著者
渡辺 幹彦 藤巻 悦夫
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.367-372, 1999-09-30 (Released:2012-11-20)
参考文献数
6

The purpose of this study was to clear the clinical results of conservative treatment including the correct pitching form and operative treatments.51 baseball players were studied. Their average age was 22. ly. o. Conserative treatment group including the correct pitching form which in the divided into 7steps and proceeded from the wrist to the foot. Elevating the arm and keeping the scapular plane with the forearm pronated and rotating the trunk on the hip joint were most important. Almost all of the cases had contracture in flexion and adduction of the shoulder.19 cases had problems besides the shoulder and scapula.24 baseball players could play as well as before injury. But players with an injured labrum tear and a partial thickness tear of the rotator cuff could not.10 baseball players had arthoscopic treatment including repair of BLC lesions (Biceps tendon/labrum comlex). Average age was 22 y. o.7 cases had BLC lesions and 8 cases had partial thickness joint side tears. Debridment of the labrum and rotator cuff were performed and repaired BLC lesion with the ROC fastener system in 5 cases.7 cases could play as well as before and all the this cases treatment with repaired BLC recovered completely. Thus we recommend this treatment.
著者
野田 幸裕 毛利 彰宏 鍋島 俊隆 尾崎 紀夫
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

統合失調症の発症要因(周産期ウイルス感染、出産時低酸素脳症や育児放棄)の共通因子として、プロスタグランジンE2(PGE2)が関与するどうか検討した。発症要因を模したモデルマウスの脳内PGE2量は増加していた。周産期ウイルス感染モデルマウスに認められる統合失調症様の認知・情動行動障害にEP1受容体が関与していた。新生仔期PGE2暴露は、神経発達障害に伴う成体期ドパミン神経機能低下や認知行動障害を惹起させ、乱用薬物に対して脆弱性を示した。一方、統合失調症の発症・病態にPGE2関連遺伝子の関連性は認められなかった。PGE2は統合失調症の環境要因の共通因子および、発症脆弱性に関わることが示唆された。
著者
姫野 修司 小松 隆宏 藤田 昌一 富田 俊弘 鈴木 憲次 中山 邦雄 吉田 修一
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.122-129, 2007-03-20
参考文献数
22
被引用文献数
1 3

本研究では,二酸化炭素(CO<sub>2</sub>)/メタン(CH<sub>4</sub>)分離膜として最近開発されたDDR型ゼオライト膜を用いて様々な単成分ガスの透過やCO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>混合ガスの透過を測定し,各気体の透過機構や分離機構の解明を行い,他の分離膜との性能比較を行った.<br>まず,He, H<sub>2</sub>, CO<sub>2</sub>, O<sub>2</sub>, N<sub>2</sub>, CH<sub>4</sub>の単成分ガスの透過流束を測定し,CO<sub>2</sub>は主に吸着に起因し,CH<sub>4</sub>はDDRゼオライト細孔による分子ふるいに起因する透過機構であることを明らかにした.また,加圧透過試験およびスウィープ試験による298 Kでの単成分ガスのCO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>理想分離係数は供給圧力0.2 MPa,透過圧力0.1 MPaのとき最大でそれぞれ336, 170となった.<br>次に,スウィープ試験で測定したCO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>混合ガス(50 : 50)と単成分ガスの透過流束および分離係数を比較した結果,すべての圧力範囲においてCO<sub>2</sub>の透過流束は混合ガスより単成分ガスの方が高く,CH<sub>4</sub>の透過流束は混合ガスと単成分ガスとで変化はなかった.さらに,混合ガスを用いた加圧透過試験では供給圧力0.6 MPaで分離係数が極大値を示し,そのときの値は106であり,スウィープ試験では供給圧力が大気圧のとき分離係数が最大値200を示し,圧力の増加に伴い分離係数は減少した.<br>本膜を近年報告されている他のCO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>分離膜と性能比較した結果,CO<sub>2</sub>/CH<sub>4</sub>分離性能およびCO<sub>2</sub>透過性能ともに高いゼオライト膜であることを明らかにした.
著者
田部 俊充
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.280, 2011

本研究は,評価と地理教育について,教育政策の日米比較,とりわけ学力調査,州のテスト政策を中心に考察した.まず,近年の日本の教育政策の結果,国算(数)の2教科への偏重が起きているという問題提起を行った.一方アメリカ合衆国においては,NGS(全米地理学協会)による資金援助などにより,地理教育の活性化が順調に推移していたこと,2002年のNCLB(どの子も置き去りにしない)法の制定により国語,算数・数学の偏重が始まった. NAEP(全米学力調査)は,アメリカ連邦議会がその実施を決めて教育省の責任において行う全国的調査であり,1969年に始まった.実際には大手のテスト機関に委託して行われている.2000年には,主調査だけで10万6,000人,州別調査が60万人ほどの参加となっている.全米学力調査では,小・中・高校で実施される授業科目はすべて調査対象となっており,社会科テスト関連では,合衆国史,公民,地理などが調査対象となっている.毎年あるいは1年おきに1~3教科の科目を選んで調査が実施されている. マサチューセッツ州の教育政策は伝統的に地方分権主義に基づく教育行政システムだった.1990年代になり,知事と州教育行政機関が一体となった「強力な指導性」によって教育改革が推進された.1991年に知事に就任したウェルド(Weld, William F.)は,教育行政に対する強力な指導性を発揮しながら,教育改革のプラン作成に着手する.教育改革のポイントが,州のスタンダード・カリキュラムの策定と厳しいアセスメント行政といわれるテスト政策の実施であった.1993年には「マサチューセッツ州教育改革法」が制定された.同法は,州内の公立学校K-12(幼稚園から第12学年)における教育の質的改善を意図した包括的な法律である.第29節1D項は,州内の全ての公立学校における「州全体の教育目標」(statewide educational goals)を掲げ,数学,理科(科学とテクノロジー),歴史と社会科学,英語,外国語,芸術の中心科目における「学問的な基準」(academic standards)を開発することを求めた(北野2009).日本における「学力低下論争」の結果,国語と算数・数学教育のみに論議が収斂してしまう傾向に危機感を感じ,問題点を論じた.また,同様の問題はNCLB法以降のアメリカ合衆国においても顕著であることを指摘した.アメリカ合衆国においても中央集権的な学力向上政策の結果,テストに出題されない社会科の軽視がもたらされたのである.しかし,アメリカ合衆国の場合,NAEPや州レベルにおけるMCASにおける地理テストの実施,マサチューセッツ州スタンダードにおける幼稚園段階からの地理教育の導入など,多様な選択を模索している状況を確認することができた.
著者
大谷 奨
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、高等専門学校制度発足時に展開された各地方の誘致運動を検討することで、設置場所が確定してゆく過程と地域住民が誘致に奔走するメンタリティを明らかにしようとするものである。その際、国立学校設置に際し地域住民がその費用を支払うという地元負担の問題も合わせて検討した。誘致運動には、高等教育機関の設立という単純な要望に加え、自分たちの地域が国家的に重要な場所であることを国立高専の設置によってオーソライズさせようとする傾向を確認することができる。その競争が地域間で激しくなれば、それだけ国立機関設立に地元負担が伴うという問題は潜在化していったといえる。
著者
博田 節夫
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.163, 1985-03-10

リハビリテーション医学が紹介されて以来,リハビリテーションは治療法の一つであるとの誤解が医療スタッフの間にさえも存在する.わが国においては,リハビリテーションは機能訓練を意味するとの考えが支配的で,機能障害を治す手段として期待されて来た.ここでいう機能障害はimpairmentおよびdisabilityであるが,治療医学的立場からimpairmentのみを指していることも多く,第2次世界大戦以前の機能再建という考え方に逆行するものである.一方,作業療法および理学療法の専門書にリハビリテーチブ・アプローチという治療法が見られる.これはdisabilityに対するアプローチを意味している.このリハビリテーチブ・アプローチはdisabilityに注目するあまり治療法放棄につながるとの非難であり,これは警鐘として受け入れるとしても,リハビリテーションが作業療法あるいは理学療法の中の一治療手段であるという妄想にまで発展するに至っては,リハビリテーションという言葉に対しても嫌悪の念を抱かざるをえない. リハビリテーション医学の治療対象は,主として運動機能障害とそれによりもたらされる能力障害である.運動機能障害は神経系および末梢運動器系の異常を反映し,その治療手段として運動療法があり,能力障害に対しては広義のADL訓練がある.ADL訓練は能力障害に対する直接的アプローチであり,治療効果の判定は比較的容易といえる.運動療法は筋・腱,骨・関節に対しては直接的な治療手段であるが,神経系に対しては末梢運動器系を介した間接的治療法であるため,治療効果の判定は困難を窮める.そのため,中枢神経疾患においては適応を考慮することなく,有効性の不明な治療法を狂信する者が増加しつつある.
著者
瀬下 寛之 鳥居 俊 新谷 益己
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.14, pp.28-33, 2007 (Released:2007-05-15)
参考文献数
20

投球動作は,身体のあらゆる部位が連動して行われる一連の動作を言い,この連動過程に何らかの障害が発生すると投球障害を招く危険性を示唆する。今回,投球障害の予測因子として股関節回旋筋力と主観的疲労感に着目し,それらの関連から投球障害の予測因子について検討した。対象は高校硬式野球部員39名とした。方法は質問紙により基本情報,疲労,疼痛に関する調査を行い,その中の疲労に関して,練習中及び練習後の疲労好発部位を記録させ,それが翌日まで残存するか否かにより残存群と非残存群とに分類し,両群の股関節回旋筋力を比較した。軸脚及び非軸脚内・外旋筋力を残存群と非残存群とで比較したところ,残存群で有意に低値を示した。さらに,残存群での軸脚及び非軸脚の比較において,内旋筋力は非軸脚で有意に低値を示したが,外旋筋力は有意差が認められなかった。今回の調査は,投球障害を予測する一つの指標として活用できるものと考える。
著者
スーマン ランジャン センサルマ 岡田 憲夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.299-308, 2006

本研究では智頭町・市瀬集落の災害リスク軽減問題に伴うコンフリクトの時間的展開のプロセスを理解することを目的として、当該コンフリクトを二段階 (1985-2002, 2002-2005現在) に分けてモデル化する。各段階のコンフリクトは静的な構造とみなして、それをGMCRモデル (Graph Model for Conflict Resolution) により定式化し、分析を行った。ついで、第一段階と第二段階の間のごく短期間に構造変化が発生したと定性的に解釈した。そのような構造変化が結果として生じたのには、社会的な衝撃が関与していたと考えた。すなわち自然災害のインパクトに、地方行政主体における政治的な転換が相乗的に関係したと推測されることを定性的に分析した。このように二つの分析法を組み合わせた方法論を提示することにより、本研究で取り上げたような静的・動的構造特性を有した実コンフリクトをシステム論的に記述することが有用であることを示した。
著者
夏 恒治 望月 由 平松 武 柏木 健児 安達 長夫 菊川 和彦 白川 泰山 大前 博路 横矢 晋 奥平 信義
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.453-457, 2004-08-30 (Released:2012-11-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1

CT-osteoabsorptiometry gave us the information about the distribution of mineralization of subchondral bone plate (DMSB). DMSB reflected the stress distribution of joint surface. We analyzed the stress distribution of glenoid cavities in throwing injures of the shoulder by CT-osteoabsorptiometry. Twenty eight patients with throwing injuries of the shoulder,24 patients with other shoulder disorders, and 4 healthy volunteers without any shoulder disorders were evaluated in this study. Group T included 28 affected shoulders of patients with throwing injuries of the shoulder. Group C included 60 non-affected shoulders of all subjects. Three dimensionally reconstructed computed tomograms (3D-CT) and DMSB of the glenoid cavities were filmed before the series of treatment. The glenoid cavity was divided into 7 areas; anterior-superior, anterior, anteriorinferior, posterior-inferior, posterior, posterior-superior and center area. The value of each area was classified into 4 grades. In group C, the mean value of the anterior-superior areas was significantly higher than those of the other areas. Meanwhile in group T, the highest mean value was that of the anterior-superior area. However, the mean values of anterior, posterior, and posterior-inferior areas were significantly higher than those of group C. The form of glenoid cavity in group T evaluated by 3D-CT showed the posterior and posterior-inferior enlargement of the glenoid cavity, which could be interpreted as a Bennett's lesion. Our results supported the hypothesis that a Bennett's lesion would be a reactive bone growth against stress onto the glenoid cavity.
著者
伊藤 公一
出版者
JAPANESE SOCIETY OF ORAL THERAPEUTICS AND PHARMACOLOGY
雑誌
歯科薬物療法 (ISSN:02881012)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.68-78, 2008-08-01 (Released:2010-06-08)
参考文献数
16

Gingival hyperplasia (overgrowth) is a well-documented unwanted effect, associated with phenytoin, the calcium channel blockers, and cyclosporin. The pathogenesis of drug-induced gingival hyperplasia is uncertain. However, the identification of risk factors associated with both the prevalence and severity of drug-induced gingival hyperplasia is important for all parties involved with this unwanted effect. Prevalence of gingival hyperplasia with phenytoin, the calcium channel blockers, and cyclosporin is approximately 50%, 10-20%, and 8-70%, respectively. The inflammatory components of drug-induced gingival hyperplasia can be managed effectively for the majority of patients with a plaque control program and nonsurgical periodontal therapy including oral hygiene instruction, scaling and root planing coupled with continued periodontal maintenance procedures. After reevaluation, some patients may need surgical periodontal therapy and maintenance procedures. Maintenance therapy including appropriate oral home care appear to be effective in controlling the drug-induced gingival hyperplasia and in maintaining clinical improvements for a long time.