著者
荒西 利彦 池田 俊也
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.91-99, 2015-02-20 (Released:2015-03-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

医療経済評価の結果はパラメータの不確実性の影響を大きく受けることから,感度分析による医療経済評価の頑健性の分析が重要となる.複数のパラメータの不確実性を同時に評価するため,それらのパラメータが従う同時分布に基づき評価を行うことを確率的感度分析 (PSA; Probabilistic Sensitivity Analysis) と呼び,今日では各国のガイドラインで使用が推奨されている.本稿では,PSA の手法としてモンテカルロシミュレーションとブートストラップ法を紹介し,また PSA の結果の解釈について説明を行い,各国ガイドラインにおける PSA に関する記述をまとめた.その後 PSA の本邦での利用状況を,邦文にて論文が出版された研究のレビューにより示した.各国ガイドラインでの PSA の扱いは,2008年までに出版されたガイドラインにおいては感度分析を行うことは推奨されていたものの,方法については任意であった.2011年以降に出版されたフランス,米国AMCP,イギリスのガイドラインでは,いずれも PSA を推奨している.日本においては 2013年に発行された医療経済評価研究における分析手法に関するガイドラインで PSA について「可能であれば確率的感度分析もあわせておこなうこと」,とされている.邦文での医療経済評価研究のレビューを行った結果,質調整生存年に基づく医療経済評価を行った 49件のうちで PSA を行った研究は 6件(12.2%) にとどまることから,PSA が国内で広く使われているとは言いがたい.一方で PSA でない感度分析を行った研究は 35件(71.4%) あることから,感度分析自体は多くの研究で用いられている.よって PSA が感度分析のよりよい方法論として受け入れられるようになれば,利用は促進されると考えら れる.このためには PSA を行うためのガイドラインなどの作成が望ましい.
著者
西川 稿 土屋 昭彦 高森 頼雪 原田 容治 堀部 俊哉 広津 崇亮
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.237-245, 2021-05-15 (Released:2021-05-17)
参考文献数
6

【背景】がんの早期発見は重要であり,簡便で高精度ながん検査が求められている。広津らによって開発されたNematode-NOSE(以後N-NOSE)は,尿を検体として線虫Caenorhabditis elegans(以後C. elegans)の優れた嗅覚を利用した簡便ながん検査であり,先行研究では95.0%の特異度と95.8%の感度が報告されている。【対象】本研究では消化器系がん74例と非がん30例の尿検体を用いN-NOSEの性能の検証を行った。【結果】N-NOSEインデックスは,がんと非がんで有意差p<0.0001が認められ,ROC解析ではAUC=0.774が示された。がんの感度は81.1%と高く,特異度は70.0%であった。がん種別の感度は食道癌80.0%,胃癌68.8%,大腸癌80.0%,肝細胞癌90.9%,胆道癌100%,膵臓癌80.0%,ステージ別ではIで76.9%,IIで90.9%と早期から高い感度を示し,腫瘍マーカーとの大きな違いが見られた。N-NOSEインデックスと,被験者の年齢,性別,合併症,肝機能,腎機能,尿一般定性には有意な関係性は見られなかった。【結語】これらよりN-NOSEは非侵襲で高感度かつ簡便ながんのリスク検査となり得ることが示唆された。
著者
福丸 大智 赤松 良久 新谷 哲也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.22-00234, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
19

本研究では,中小河川における流域一貫の即時的かつ高精度な河川水位予測実現に向けて,深層学習を用いた河川水位予測モデルを構築し,入出力層に用いるデータの種類および入出力層の構造が異なる複数の計算条件で比較することによって,モデルの高度化について検討した.その結果,集水域内全地点の雨量および水位変化を入力層に用いて集水域内全地点の水位を同時予測するモデルにおいて,ハイドログラフの時系列全体の再現性を表すNash係数がほとんどの水位観測所で0.9以上,ピーク水位の誤差率は10%以下を示し,ピーク水位発生時刻の遅れも他の条件に比べて軽減した.したがって,このモデルを用いることにより,3時間先の流域全体の河川水位をより高精度に予測可能であることが示された.
著者
Atsushi OHTSU Koichi GOTO Takayuki YOSHINO
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
pp.pjab.99.015, (Released:2023-08-09)
被引用文献数
2

Cancer comprehensive genomic profiling (CGP) is a fundamental tool for promoting precision oncology in advanced solid tumors. In 2015, we launched the SCRUM-Japan platform for CGP test screening followed by enrollment in genomically-matched clinical trials. More than 30,000 tissue-based and 10,000 liquid-based CGP tests have already been performed for enrollment in a total of 127 industry-/investigator-initiated registration trials. So far, 12 new agents with 14 indications have achieved regulatory approval for health care coverage in Japan. Using the clinical-genomic database of this project, a new driver gene was recently discovered with a dramatic response to a genomically-matched agent. Liquid biopsies are a potentially powerful tool for establishing precision oncology. Our comparative study with tissue-based CGPs revealed the utility of liquid biopsy in terms of being less invasive, shorter turn-round time, and higher enrollment rate for genotype-matched treatment than tissue-based CGP in gastrointestinal cancers. Another major multilayer multi-omics study (MONSTAR-SCREEN-2) including whole exome/transcriptome tissue- and liquid-based analyses and multiplex immunohistochemistry, with artificial intelligence/machine learning was launched in 2020 for the purpose of novel biomarker and new oncology agent discovery/development in collaboration with 18 pharmaceutical companies.For detecting minimal/molecular residual disease (MRD) after surgery, post-surgical monitoring with tumor-informed liquid biopsy assays in association with two randomized controlled trials also started in 2020 (CIRCULATE-Japan). More than 5,000 patients have already been enrolled and the observational cohort study showed the clear utility of MRD monitoring for predicting recurrence, leading to changes in clinical practice in patient selection regarding who should receive adjuvant therapy in the near future.
著者
田中 秀人 浦出 俊和 上甫木 昭春
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.36, no.Special_Issue, pp.356-362, 2017-11-20 (Released:2018-11-20)
参考文献数
6
被引用文献数
3 2

Recently, it is pointed out that the supply of roofing miscanthus grasses for cultural properties is short with the decline of miscanthus grasslands. This study clarifies the supply and demand of roofing miscanthus grasses for cultural properties and the role and maintenance of small-local grassland. The current supply amount of roofing miscanthus grasses has fully satisfied the demand for nationally designated cultural properties, not be able to meet the demand for all of the cultural property. Small-local grasslands play an important role in the preservation of local cultural properties, and it is necessary to manage the whole area of small-local grassland by mountain burning.
著者
Noriko Nakajima Satoru Hata Yuko Sato Minoru Tobiume Harutaka Katano Keiko Kaneko Noriyo Nagata Michiyo Kataoka Akira Ainai Hideki Hasegawa Masato Tashiro Makoto Kuroda Tamami Odai Nobuyuki Urasawa Tomoyoshi Ogino Hiroaki Hanaoka Masahide Watanabe Tetsutaro Sata
出版者
National Institute of Infectious Diseases
雑誌
Japanese Journal of Infectious Diseases (ISSN:13446304)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.67-71, 2010-01-29 (Released:2022-03-31)
参考文献数
1
被引用文献数
2 57

We report the pathological and virological findings of the first autopsy case of the 2009 pandemic influenza (A/H1N1pdm) virus infection in Japan. A man aged 33 years with chronic heart failure due to dilated cardiomyopathy, mild diabetes mellitus, atopic dermatitis, bronchial asthma, and obesity died of respiratory failure and multiple organ dysfunction syndrome. Macroscopic examination showed severe plumonary edema and microscopically the lung sections showed very early exudative-stage diffuse alveolar damage (DAD). Immunohistochemistry revealed proliferation of the influenza (A/H1N1pdm) virus in alveolar epithelial cells, some of which expressed SAα2-3Gal on the cell surface. Influenza (A/H1N1pdm) virus genomic RNA and mRNA were also detected in alveolar epithelial cells. Real-time PCR revealed 723 copies/cell in the left lower lung section from which the influenza (A/H1N1pdm) virus was isolated. Electron microscopic analysis revealed filamentous viral particles in the lung tissue. The concentrations of various cytokines/chemokines in the serum and the autopsied lung tissue were measured. IL-2R, IL-6, IL-8, IL-10, IFN-α, MCP-1, and MIG levels were elevated in both. These findings indicated a case of viral pneumonia caused by influenza (A/H1N1pdm) virus infection, showing characteristic pathological findings of the early stage of DAD.
著者
浅井 康次
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.055-059, 2008-07-25 (Released:2019-05-31)
参考文献数
8

本稿はケーブルカーを核とする観光鉄道の現況を,主として経営面から概説したものである.路線の類型化,運行面における特徴,コスト構造,行楽地アクセスとしての地位,入込客数との相関を示し,廃止路線の要因分析を試みた.経営は厳しく廃止もみられるが,地域活性化に資し環境適合性の高い観光鉄道を再評価,存続維持を模索する時期にきている.
著者
鈴木 卓也
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.95-97, 1981-02-15 (Released:2011-11-04)

すでに (昭和55年7月1日) 施行されている, ビールの表示についでウイスキーの表示についても昭和56年4月1日より実施されることになった。そこで, ビール・ウイスキーの表示に関する公正競争規約の設定にいたった経緯について解説していただいた。清酒とも比較して是非一読されたい。
著者
下田 麻子 澤田 晋一 秋吉 一成
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.108-115, 2014-03-25 (Released:2014-06-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

新たな細胞間コミュニケーションツールとして、細胞外ベシクルが注目されている。ベシクルの種類は、その発生機序、サイズにより大きく分けて3つに分類できる (エクソソーム:30~200nm、マイクロベシクル:100~1000nm、アポトーシス小体: 1~5μm)。特に、エクソソームに関してはその内部にタンパク質やmicro RNAを含有していることから、疾患治療や予後診断、バイオマーカーとしての応用が期待される。本稿では、細胞外ベシクルの基礎的概念、単離方法や機能評価法などを紹介する。
著者
松本 恵
出版者
日本大学医学会
雑誌
日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.75-80, 2021-04-01 (Released:2021-06-26)
参考文献数
27

スポーツによって身体活動量が増加すると,活動量に見合った適切なエネルギー・各栄養素の摂取量を考慮することが必要になる.また,厳しいトレーニングを実施するエリートアスリートでは怪我や疾病を予防するために,特定の栄養素の過不足に留意する必要がある.とくに,アスリートの慢性的な摂取エネルギー不足は将来にわたっての疾病に関わることが明らかとなり,大きな問題である.一方,トレーニングや試合スケジュールに合わせた栄養素の摂取の工夫について研究が進んでおり,パフォーマンスを向上させる目的のサプリメントの開発も盛んである.サプリメントの使用にあたってはドーピングコントロールとの関係やジュニア選手への教育不足など問題点も多い.今後,スポーツ現場での栄養摂取はより,個人への対応を必要とし,多くのエビデンスの蓄積が望まれる.
著者
大谷 周平 由田 徹 谷口 俊平 前川 正実 永井 由佳里
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第65回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.244-245, 2018 (Released:2018-06-21)

近年日本では個人がデジタル工作機械を用いて自分の作りたいものを作る「パーソナルファブリケーション」と呼ばれる文化が広がっており,その環境のサポートとしてFabLabやFab施設と呼ばれる場所,コミュニティの形成が盛んである.その反面,FabLab,Fab施設を運営している複数のオーナに話を伺ったところ,継続して利用する顧客が少なく,規模縮小している施設が多く存在することが判明した.本研究ではデザイン創造性の観点から未来のFab施設のデザインを考えるため,現状の課題を整理し解決の糸口を探ることが目的である.
著者
段下 一平 手塚 真樹 花田 政範
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.569-574, 2018-08-05 (Released:2019-03-12)
参考文献数
24
被引用文献数
1

超弦理論は重力の量子論の有力な候補として長年研究され続けている.究極の目標は自然界のあらゆる相互作用を統一する万物の理論の構築だが,副産物として数学や物理学の様々な分野との繋がりが見出されてきた.特に,この2,3年で物性理論,量子情報理論と超弦理論の意外な関係が明らかになってきた.超弦理論を非摂動的にどう定義したらよいかというのは長年の問題だが,重力を含まないある種の量子場の理論が超弦理論,あるいはより一般的な量子重力理論の定義になっているのではないかというホログラフィー原理という考えがここ20年ほど有力視されている.対応が最もよく理解されているのは極大超対称ゲージ理論と呼ばれる一見特殊な理論の場合だが,最近,SYK模型という物性分野から出てきた理論が重力理論の少なくともある種の特徴をとらえていることがわかってきた.SYK模型は,N個のフェルミオンが非局所的にランダムに相互作用している模型である.元々は1990年代初頭にサチデフ(Sachdev)と叶(Ye)が銅酸化物高温超伝導体の関連物質の実験に関係して非フェルミ液体状態を記述するために提案したSY模型というものがあったが,SYK模型はこれを簡単化してキタエフ(Kitaev)が2015年に提案した模型である.サチデフはもともと物性理論への応用という立場からホログラフィー原理に興味を持っていたようだが,途中から,SY模型を使って量子重力理論を定義するという方向性も追求し始めた.2015年にキタエフがSYK模型が「カオスの上限」を実現することを示し,量子重力の観点からの研究に火が付いた.現在では,SYK模型と対応する重力理論が何かはまだわかっていないものの,量子重力や量子カオスの研究の舞台として積極的に研究され,また,関連する模型も多々提案されている.著者らは,光格子中の冷却気体を用いてSYK模型を実現する方法を提案した.この方法では,深い光格子の1サイトに複数のフェルミ原子を捕獲し,光会合レーザーにより,任意の2準位から分子状態への遷移を可能とする.形成された分子が別の2準位の原子へと速やかに光解離する状況で,分子の内部自由度を活用することにより,必要な相互作用のランダムさを実現できるという提案である.SYK模型や超対称ゲージ理論のような量子重力理論の定義となると目されている理論を実験的に実現することができたとすると,量子重力系の様々な性質,たとえばブラックホールの生成や蒸発などを実験的に調べることができると期待される.そのような意味で,物性理論や冷却気体実験の専門家が,量子重力の研究に貢献できる可能性が拓かれつつある.