著者
佐藤 晋治 武藤 崇 松岡 勝彦 馬場 傑 若井 広太郎
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.36-47, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

(1)研究の目的 点字ブロック付近に置かれた迷惑車両に対する警告だけでなく、適切な場所へ駐輪するというルールに従う行動に対する強化も焦点化したポスターを掲示することの効果を検討した。(2)研究計画 場面間多層ベースライン・デザインを用い、ベースライン、介入、プローブを実施した。(3)場面 A大学図書館、講義棟付近の点字ブロック周辺。(4)対象者 主に上記の場所を利用する学生、職員。(5)介入 不適切駐輪の定義とその防止を呼びかける内容のポスターと、1週間ごとの不適切駐輪台数のグラフとその増減に対するフィードバックを付したポスターを上記の地点に掲示した。(6)行動の指標 点字ブロック付近に置かれた迷惑駐輪車両の台数。(7)結果 介入を実施した5地点のうち4地点では、不適切駐輪台数は減少した。しかし、残りの1地点ではむしろ増加傾向にあった。また、駐輪スペースの利用者に対する事後調査の結果から、介入方法や結果の社会的妥当性が示された。(8)結論 不適切駐輪台数の増減に対するフィードバックを表示したポスター掲示は不適切駐輪台数を軽減させたが、その効果は明確なものではなかった。今後はより効果的な介入方略の検討とともに、物理的環境の整備も必要である。
著者
伊勢 史郎 平原 達也 上野 佳奈子 大谷 真
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

境界要素法によって計算されたHRTF を用いて、頭部運動に対応可能な動的聴覚ディスプレイ(VAD)による定位実験、仮想空間内で動きながら会話が可能な仮想聴空間システムによる評価実験を行った。さらにダミーヘッドが頭部運動に追従するテレヘッドシステムを開発し、音像定位実験を行った。その結果、人間の適応能力を考慮した場合には必ずしも個人のHRTF を利用する必要がなく、HRTF に要求される精度を低減可能であることを示した。
著者
西村 正身 Masami Nishimura 作新学院大学経営学部 SAKUSHIN GAKUIN UNIVERSITY
雑誌
作新学院大学紀要 = Bulletin of Sakushin Gakuin University (ISSN:09171800)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.23-38, 2008-03-01

「アリストテレスとフィリス」の名でタイプ登録されている説話がある。命名のもととなった作品は、13世紀末頃に書かれた無名氏のドイツ語による作品である。藤代幸一による邦訳があるが、ここではフォン・デア・ハーゲンによる梗概でどのような物語なのかを紹介しよう。
著者
後藤 典子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.42-49, 2015 (Released:2017-08-26)
参考文献数
10

本稿は,地方の医療・介護現場で患者や介護施設利用者が使用する方言発話を聞いて,外国人がどう理解するかを調査し,理解の特徴を明らかにしようとするものである。山形の方言発話で,方言が使用されやすく緊急度の高い「痛み」や「排泄」に関わるものを取り上げた。結果,外国人と日本人の方言理解には大きな差が見られた。外国人は大まかな意味のみを理解し,不理解となる特徴は,共通語が予想されにくい形,オノマトペ,日常生活であまり使用されない語彙,方言の語彙や表現だった。日本人には理解されていた身体部位や排泄に関わる語彙に不理解が多く注意を要することなどがわかった。
著者
松森 晶子 Akiko MATSUMORI
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.10, pp.135-158, 2016-01

本稿では,日本語・琉球語の諸方言の複合語アクセント規則の類型的考察を行ったうえで,前部要素の韻律的特徴(式,型)が複合語全体の韻律的特徴となる,という規則が,日琉語を通じてもっとも古い複合語規則ではないか,という仮説を提示する。現代の東京方言は,「後部要素」の型が複合語全体の型を決定する,あるいは「後部要素」のモーラ数に応じて複合語型の種類が決まる,という「後部要素支配型」のアクセント規則を持っている。しかし,このようなタイプの方言の中にも,かつてはその前部要素が複合語の型を決定していた時代があったことの痕跡が残されている,ということを,本稿では現代東京方言を例にとりながら論じる。This paper argues that the compound accentuation rule in which the accent of the "first" member of compounds is preserved is the most archaic type in the Japanese and Ryukyuan dialects. By contrast, other types, such as the one in which the accent of the "second" members are preserved, or the one by which the default accent is placed around the boundaries of the two members, are newly developed compound accentuation rules. The paper then argues that even in Tokyo Japanese, in which productive compound accentuation is decided exclusively by the "second" members, we find some vestiges of the older compound accentuation rule in which the "first" member of the compounds is still relevant.
著者
小野 真
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.1-24, 2011-06-30 (Released:2017-07-14)

近年、「宗教とは何か」という宗教学の根幹をなす問いが揺らいでいる。タラル・アサドによれば、この問いを発する我々の学的立脚点が、そもそも一定の時代的制約の中から生じた、世俗化した西洋近代という立場に依拠している。それゆえ、この問いに答えても宗教の普遍的定義は得られないことになる。それならば、「宗教とは何か」という問いは、空虚な問いになってしまったのであろうか。この点、「宗教」の定義を理論的に求めるのではなく、真の実在をリアルに求め、その途上で「空の立場」への実存的主体の転換を生ぜしめる、西谷啓治の立場は、アサドの立場と相互補完しうる可能性をもっており、現代でも独自の存在意義を持っている。アサドの権力理論は、近代国家に生きる者が宗教的実存へ転換することの困難さの再検討を西谷に提示する。他方、西谷の「空の立場」に基づく、仏教的修行関係における権力関係は、一神教的神観を背景とするアサドの権力理論をより深いところから補完し、アサドの立場と矛盾しない宗教の普遍的な概念を提示する可能性を持っている。
著者
内田 茂博
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.653, 2018-07-15

身体重心(center of gravity:COG)とは身体の質量分布の中心であり,姿勢の変化によって重心の位置は変化する.静的立位姿勢における身体重心の位置は第2仙椎の高さで骨盤の中央と解釈されているが,これはおおよその位置であり姿勢の変化によりその位置は異なってくる.生体力学では合成重心の考え方により身体重心を求めている.合成重心とは,図1に示すように身体の皮膚上に貼付したマーカーより,頭部,体幹部,上腕部,前腕部,大腿部,下腿部,足部などの各体節(セグメント)の位置情報が求められ,各体節の重心位置と質量が計算される.各体節の重心位置,質量より上半身の合成重心,下半身の合成重心が求められ,最後に身体全体の重心の位置が求められる.このように身体重心は各体節の位置によって求められた合成重心であるため,体節の位置関係が変化すれば身体重心の位置も異なってくることを理解する必要がある. 足圧中心(center of pressure:COP)とは,床反力作用点,圧力中心とも表現され,床と身体との接触面に働く力の分布の中心点である.図2に示すように足底が床面に接触した場合,矢印に示すような多くのさまざまな大きさや方向に向かった反力が足底に生じる.多数の足底に生じる床反力を合成し,1つの矢印にしたものを床反力ベクトルとよび,矢印の根本部分が床反力作用点となり足圧中心点を示している.両足で床に接している場合では,右足の床反力作用点が1点,左足の床反力作用点が1点と各々の足圧中心点を示すことができるが,左右の床反力作用点のつりあう点を合成床反力作用点として考え,足圧中心点として求めることがある.
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.153-163, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
21
被引用文献数
4 3

The purpose of this paper was to construct a romantic love attitude scale. Subjects were 182 (71 male and 111 female) undergraduates. From factor analysis, four factors were extracted: romanticism, romantic power, romantic love linked to marriage, and ideal romantic love. Validity of these scales was confirmed by sex and sex-role type differences, similar scale (pragma scale, liking and loving scale, and romanticism scale), and various aspects of romantic love experience and courtship: Females considered that romantic love was linked to marriage more than males. The more feminine they were, the more romantic they were and the more ideal romantic love they wished. Those who have loved some people at the same time wished less ideal romantic love than those who have not. Those who have dated with some people at one time didn't believe romantic power than those who had not. Those who loved someone one-sidedly or had one boy/girl friend believed romantic power than those who were not in love or dated with some people. The more people they have dated with, the less ideal romantic love they wished.
著者
永井 絢子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.31-41, 2015 (Released:2017-08-26)
参考文献数
20

本研究は,シンハラ語母語話者日本語学習者の作文に見られる主な助詞の誤用傾向と「ガ」「ヲ」の使用状況を示すとともに,先行研究であまり注目されてこなかった「ガ」に注目して誤用の要因を考察した。作文を小テスト得点から3群に分けて分析した結果最も誤用率が高かったのは中位群の「ガ」であった。「ヲ」の誤用率は3群とも低く,「対象」用法が安定して使用されていたが,「ニ」「デ」の誤用の大半は「ニ」と「デ」の混同であった。「ガ」の誤用のうち「×ガ→○ヲ」(「ガ」が誤り,「ヲ」が正しい)は3群とも約8割を占め,その多くは絶対他動詞を取っていた。その要因として,シンハラ語の格標示の影響で「ガ」と「ヲ」の区別に注意が向きにくいこと,意志性の低い他動詞の目的語に「ガ」を選択している可能性が考えられた。「×ガ→○ヲ」は運用上の大きな問題であり,指導において「ガ」「ヲ」をより重視する必要があることが示唆された。
著者
加藤 和子 駒込 乃莉子 峯木 眞知子 森田 幸雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.23, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】米は、世界の二大食糧作物で、日本のみならずアジア諸国でも食べられている。近年、米の入手方法も多様化し、家庭における保存状況も様々である。米を安心で安全に喫食するための一助として、日本およびアジアの米の細菌汚染状況を調査した。【方法】日本の家庭米35(精白米29、無洗米6)、自家米14、市販米11の計60検体、および韓国6、タイ7、フィリピン8検体の市販米、計21検体について一般生菌、大腸菌群、大腸菌、食中毒菌(ウェルシュ菌、バチルス属菌)を定量検査した。大腸菌群、大腸菌、食中毒菌の同定は食品衛生検査指針に準じた。【結果および考察】生米の一般生菌の検出状況は、平均菌数(対数値/g)はタイ米が2.45±0.09と低く、日本の市販米は3.88±0.11と高かった。タイ米、フィリピン米は日本の家庭米である精白米・無洗米・自家米・市販米および韓国米の検体に比べて、一般生菌数は有意に低かった。大腸菌は韓国米1検体のみ検出された。大腸菌群は日本の無洗米1検体が3.82と高く、タイ米・フィリピン米からは検出されなかった。ウェルシュ菌は、いずれの検体からも検出されなかった。バチルス属菌の検出では、日本の無洗米6検体中2検体から検出され、陽性検体の平均菌数(対数値/g)は4.06±0.16と高く、タイ米(7検体中3検体が陽性)は2.54±0.14と低かった。日本の家庭米の精白米1検体、タイ米2検体、フィリピン米1検体の加熱検体から平均菌数(対数値/g)約2のバチルス属菌が検出された。陽性検体数は少ないものの加熱して喫食する米飯ではバチルス属菌による危害を防止することが必要であると思われた。
著者
諏訪 哲也 宗 友厚
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.756-760, 2008 (Released:2012-08-02)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

副腎クリーゼは,副腎皮質ステロイドの急激な欠乏が本態であるが,脱水,電解質異常,高サイトカイン血症などの併存を考慮することが,正しい治療を行う上で必要である.また,副腎不全が原発性か2次性かによって,病態が異なることも理解されるべきである.ミネラルコルチコイド欠乏合併の有無は,重症度を左右する鍵のひとつである.
著者
Mai Yamada Satoshi Sasaki Kentaro Murakami Yoshiko Takahashi Hitomi Okubo Naoko Hirota Akiko Notsu Hidemi Todoriki Ayako Miura Mitsuru Fukui Chigusa Date
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.119-127, 2010-03-05 (Released:2010-03-05)
参考文献数
54
被引用文献数
13 26

Background: The Standard Tables of Food Composition in Japan do not include information on trans fatty acids. Previous studies estimating trans fatty acid intake among Japanese have limitations regarding the databases utilized and diet assessment methodologies. We developed a comprehensive database of trans fatty acid food composition, and used this database to estimate intake among a Japanese population.Methods: The database was developed using analytic values from the literature and nutrient analysis software encompassing foods in the US, as well as values estimated from recipes or nutrient compositions. We collected 16-day diet records from 225 adults aged 30 to 69 years living in 4 areas of Japan. Trans fatty acid intake was estimated based on the database and the 16-day diet records.Results: Mean total fat and trans fatty acid intake was 56.9 g/day (27.7% total energy) and 1.7 g/day (0.8% total energy), respectively, for women and 66.8 g/day (25.5% total energy) and 1.7 g/day (0.7% total energy) for men. Trans fatty acid intake accounted for greater than 1% of total energy intake, which is the maximum recommended according to the World Health Organization, in 24.4% of women and 5.7% of men, and was particularly high among women living in urban areas and those aged 30–49 years. The largest contributors to trans fatty acid intake were confectionaries in women and fats and oils in men.Conclusions: Although mean trans fatty acid intake was below the maximum recommended intake of the World Health Organization, intake among subgroups was of concern. Further public health efforts to reduce trans fatty acid intake should be encouraged.
著者
澤辺 智雄
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.333-342, 2010 (Released:2010-08-27)
参考文献数
59
被引用文献数
4 4

ビブリオは,コレラ菌,腸炎ビブリオ及びビブリオ・バルニフィカスというヒト病原性種を含むことから,病原微生物学から環境微生物学までにおける幅広い学術分野でモデル微生物として活発に研究されている細菌群である。コレラ菌の発見から156年を経過した今でも,新種のビブリオが発見され続けており,自然界におけるビブリオの種多様性は驚くほど高い。1965年にM. Véonによって作られたビブリオ科(Vibrionaceae)は,6属,103種が包含される巨大な分類群となっている。ビブリオで新種が記載され続ける背景には,株の遺伝的多様性を精密に検出する指紋鑑定法や個体識別法が取り入れられたことにある。また,個体識別の過程で得られる多座位の遺伝子配列を解析することにより,ビブリオの進化の系譜や種分化機構の推定も試みられるようになってきた。さらに,ビブリオをモデルとしたゲノム情報に基づく分類規範の構築も始まっている。本稿ではビブリオの分類の歴史を紐解きながら,ビブリオの多様性と進化に関する最新の成果をまとめて紹介する。