著者
鈴木 洋昭
出版者
大阪樟蔭女子大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究によって得られた研究成果は次の通りである。1.海外日本人学校での勤務による教員の異文化体験は、実に91.6%の教員の教育観を変化させている。国際理解教育に対する教育観の変化は、帰国後の活動の中に現れている。2.日本人学校で勤務を経験した教員の異文化体験を活かすには時間が必要である。帰国後の教員は仕事内容の変化と3年間の海外生活による日本社会への順応に苦労するが、そんな状況でも異化体験を活かすべく努力している。3.異文化体験が現在の勤務校において活かされている教員は、実に様々な場で活躍されている。反対に活かされていない教員も異文化体験を活かすべく努力している。国際理解教育の場で勤務経験を活かしたいとほとんどの教員が思っている。4.異文化体験よりも、帰国後の受け入れ状況が、態度変容に大きな影響を与えている。受け入れ側の対応により、帰国教員の異文化体験を充分に活用できない状況がある。そのため、日本人学校における勤務経験を公にしない教員が存在する。また、その家族についても、派遣教員が帰国後の心配をしなくてすむ配慮が必要である。今後は、海外在留邦人子女教育機関が、いかに現地の社会や文化に国際貢献をしているかという新しい視点から、海外日本人学校の真の姿を明らかにしたい。
著者
林 信太郎
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ジオパークで活用可能な地学教育教材としてキッチン・ジオ実験を開発した。(1)ヒアリングにより各ジオパークのニーズを明らかにした。(2)「コンデンスミルクのアア溶岩実験」,「砂糖の黒曜石実験」など,各ジオパークの地学現象を実感を持って理解させるための実験を11種類開発した。(3)さらにジオパークに所在する学校で実践的検証を行った。その結果,これらの実験は小学校高学年児童に理解可能であり,大きな教育効果を持つことが明らかになった。
著者
田口 陽子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、現代インドの都市における「公共性」のあり方を明らかにすることである。平成23年度は長期の現地調査を行い、南アジア研究における人格論を援用して、ムンバイにおける公共性を検討した。調査開始当初は、現地の都市計画と食物を扱う移民商人の活動の関係性に焦点を当て、人格を構成する「物質コード」(物質と規範コード、行為者と行為を切り離せないものとして考える南アジアのエスノ・ソシオロジーの概念)の概念を検討するべく、食物の授受や流通についてのデータを収集することを目的としていた。現地で調査を進めるにしたがい、現代ムンバイにおいてミドルクラスの「市民」における社会運動が活発化しており、それらの運動がおもに食物を扱う移民商人、露天商の啓蒙と排斥という一見矛盾する活動に力を入れていることがわかった。物質コードの授受や公共空間の再構成に直接かかわり変更を加えようとするそれらの運動に焦点を当てることが本研究にとって重要と判断し、「市民活動」を看板に掲げるムンバイ市の住民団体や英字新聞、政治団体を主な調査対象とした。具体的には、タブロイド紙の主導する美化キャンペーン、ミドルクラスの住民団体による市民活動、「市民候補者」を選出しようとする選挙運動への参与観察と主要活動家への聞き取りを行った。物質コードの概念は、ムンバイにおける「市民」や「市民社会」を分析概念としてのみではなく具体的でローカルなマテリアルとして捉えるために有効だと考えられる。そのうえで、本研究では、物質コードのやりとりに注目して現実生成の過程を観察することを試みた。具体的には、調査対象者の用語や行為、使用されるモノに焦点を当て、彼らによる「市民」の具現化と美学がどのような形で表されているのかを分析した。さらに、公共空間をめぐるミドルクラスの活動家と露天商らのコンフリクトに注目し、パーソンの重層性と空間的境界の変容を検討した。
著者
山肩 洋子
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

一般の調理者が自作の料理のレシピを作成し,WEBを通じて公開する例が急増している。料理法は言葉だけで説明するのは難しいので,一般の調理者にもテレビの料理番組のような教示コンテンツを作れるよう,調理中にエージェントが調理者と対話することで音声解説を加えたり,映像編集を行うシステムの実現をめざした。本年度は主に調理映像とレシピとの対応付けに注目し,(i)調理開始から終了までの一連の調理映像をレシピと対応付ける仕組みと,(ii)調理者の手の動きから食材の変遷を獲得する仕組みについて研究を行った。まず(i)については,調理の過程をフローグラフで表現する方法を利用し,映像認識結果とレシピをグラフレベルで対応付けることで,映像認識にある程度誤りが発生しても最適なマッチングを選ぶことで正しく対応付けることができることを示した。次に(ii)については,(i)において食材の変遷を認識することが重要であることが示されたことから,調理台を上方から撮影した映像より各食材を追跡することを考えた。食材は見た目が多様で,加工を受けて変化し,かつ混ぜられることでその個数も変わるため,視覚的特徴のみによる追跡は困難である。しかし食材の変化にはかならず調理者が介在することから,調理者の手の動きを抽出することで変化した食材を特定し,食材の追跡を行う仕組みを提案した。以上のような情報システムによる調理活動支援の試みは,日々の食事管理により病気を未然に防ぐことの必要性が叫ばれている昨今では,より重要なものとなっている。そこで京都大学教授の美濃導彦を中心に,電子情報通信学会の第三種研究会として「料理メディア研究会」を発足し,申請者もその幹事補佐として,調理支援に限らず健康医学や食育などの幅広い観点から人間の食を支援する情報システムのありかたを議論する活動を行ったことも本研究の成果の一つである。
著者
島田 恵 正木 尚彦 池田 和子 木村 弘江 金子 千秋 眞野 惠子 兒玉 俊彦 郷 洋文
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性肝炎患者調査から、患者の治療継続を支援するには“患者の考える”治療の必要性や生活上の制限を聞き取る必要があることが分かった。また、外来看護師調査からは、患者の相談対応技術や外来システム・連携に課題があることが分かった。そこで、アクティブ・ラーニング形式で外来看護システムについて学ぶ「外来看護師育成プログラム」を作成し、肝炎外来看護研修を実施した。受講者は「HIV/AIDS外来療養支援プロセス」を参考に自施設における外来看護システムを考案し、アクションプランを立案した。研修後のフォローアップ調査では、受講者10名中3名が達成率80%以上に到達しており、その看護師達は管理職経験者であった。
著者
横手 逸男 ヨコテ イツオ Itsuo Yokote
雑誌
浦和論叢
巻号頁・発行日
no.46, pp.115-131, 2012-02

1941年12月の日米開戦後まもなく米国では、戦後対外政策諮問委員会(ACPER)が創設され、その下に領土委員会や特別調査部の極東班などにおいて、戦後の天皇制度に関する話し合いが行われた。日本占領にあたり天皇をどう扱うか、当時の国務省内では、活発な論議がなされている。戦局も押し迫り、新たに発足した戦後計画委員会や部局間極東地域委員会では、「天皇制存置・利用論」と「天皇制廃止論」との激しいやりとりがなされている。1944年末には国務省の機構改革により幹部会が発足した。また、その頃、戦争終結をみすえ、国務・陸軍・海軍三省委員会(SWNCC)が創設され、ここで決定されたSWNCC文書は米国政府の基本文書となった。国務省の知日派のグルーらは、「天皇制存置・利用論」の立場をとったが、1945年6月に示された「SWNNCC150」や7月に発せられた「ポツダム宣言」ではこの点については特に明示されず、同宣言を受諾し降伏するかの判断も、原爆投下、ソ連対日参戦後の御前会議における天皇の「ご聖断」を待たねばならなかった。
著者
酒井 智宏
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

「文脈から独立した言語的意味」という概念が自然言語の意味論から除去されるべきであることを示した。トートロジー (「猫は猫だ」) 分析で用いられる「等質化」概念 (「どの猫も似たり寄ったりだ」) に見られる理論的混乱は、語 (「猫」) の意味の共有という想定を放棄すれば解消される。矛盾文 (「ねずみを捕らない猫は猫ではない」) に見られる規範性解釈 (「ねずみを捕らない猫は猫と呼ばれるべきではない」) は、複数の異なる言語システムの対立から生じる。
著者
五味 暁憲 横尾 聡 神戸 智幸
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

開鼻声値(NS)は鼻咽腔閉鎖機能(VPC)の評価に有用だが,高齢者のNSは不詳である。本研究はNSを用いた高齢者のVPC評価を可能にする条件を探るpilot studyである。健常高齢者9名について母音,子音,低圧文「よういはおおい」,高圧文「きつつきがきをつつく」のNSを測定した。主なサンプルのmeanNSの平均値は/a/25%,/i/41%,低圧文23%,高圧文23%であった。また低圧文のmaxNSは平均52%で,高圧文は平均70%であった。過去の報告と比し高圧文,低圧文のmaxNSが若年者より高値であった。この結果を踏まえると,高齢者に限定したNS基準値は必要と思われる。
著者
水谷 瑞希 中島 春樹 小谷 二郎 野上 達也 多田 雅充
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.76-82, 2013
被引用文献数
8

富山県, 石川県および福井県における, 2005年から2011年までの7年間の豊凶モニタリング調査の結果を用いて, 北陸地域におけるブナ科樹木の豊凶とツキノワグマの人里への出没との関係について検討した。北陸3県ではいずれも, 高標高域に分布するブナとミズナラの県全体の結実状況に大きな年変動があり, とくに北陸地域でクマ大量出没が発生した2006年と2010年には, 極端な結実不良となっていた。低標高域に分布するコナラでは県全体の結実状況の年変動は小さく, 極端な結実不良の年はなかった。このことから北陸地域では, ブナとミズナラの結実不良が広域的に同調して発生したことに起因する山地の餌不足が, クマ大量出没の引き金になっていたと推察された。クマ大量出没に影響するこれら「鍵植物」の豊凶は, 県をまたがる広い地域で同調していた。このことから現在各地で実施されている豊凶モニタリング調査を, 相互に比較可能な方法で連携して実施すれば, 効果的な豊凶把握やクマ大量出没の予測精度の向上に役立つと考えられる。
著者
山極 壽一 村山 美穂 湯本 貴和 井上 英治 藤田 志歩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アフリカの熱帯雨林に共存するゴリラとチンパンジーのコミュニティ構造を低地と高地で調査して比較分析した結果、標高の違いにより、ゴリラは集団サイズや構成、集団同士の関係、個体の集団への出入り、コミュニケーション、個体の成長速度に、チンパンジーは集団のサイズ、遊動域の大きさ、個体の分散に違いがあることが判明した。また、同所的に生息するゴリラとチンパンジーの間には、個体の分散の仕方、個体の集団への出入り、コミュニケーション、攻撃性、ストレス、繁殖戦略、生活史に大きな違いがみられ、それらの違いが食性の大きく重複する両種が互いに出会いを避け、競合や敵対的交渉を抑えるように働いていることが示唆された。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ネットビジネス (ISSN:13450328)
巻号頁・発行日
no.73, pp.63-65, 2001-04-25

まずは、「ネットぬいぐるみ」とは何なのかを説明する必要があるだろう。開発したのは、韓国・ソウル市のベンチャー企業、トートビル・インターネット社。ネットぬいぐるみの「ネキチャン」は、見た目は普通の動物のぬいぐるみだ(写真3-1)。しかし、手や足を握ると、童謡を歌ったり英語をしゃべったりする。これだけなら類似商品はいくらでもある。
著者
岡部 いさく
出版者
海人社
雑誌
世界の艦船
巻号頁・発行日
no.594, pp.76-81, 2002-04
著者
Piet RIETVELD Mark KOETSE
出版者
日本地域学会
雑誌
地域学研究 (ISSN:02876256)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.215-225, 2008 (Released:2008-10-14)
参考文献数
33
被引用文献数
1 4

In this paper we analyse the effectiveness and consequences of introducing parking fees. It is argued that pricing measures are effective for combating inefficiencies in parking behaviour caused by distortions such as information problems and costs of parking congestion. However, given the structure of the marginal external costs involved, pricing measures are not attractive for addressing other negative externalities such as the negative effect of parked cars on the attractiveness of areas such as historical centres and residential areas. Therefore, a mixture of pricing and quantity regulation is needed. Furthermore, it is often stated that paid parking has negative effects on retailing. This issue was addressed by estimating two models of cross-sectional data from Dutch cities and panel data at the city-district level in Amsterdam, respectively. The first analysis suggests that aggregate parking capacity at the city level has a limited impact on the success of central shopping areas. In the second model we find that an introduction or increase of parking fees appears to have no negative consequences on the urban retail sector.JEL Classification: R48
著者
赤木 昭三
出版者
大阪大学フランス語フランス文学会
雑誌
Gallia (ISSN:03874486)
巻号頁・発行日
no.10, pp.3-26, 1971-08-10
著者
川畑 博昭
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、ペルーの憲法裁判所が2000年代半ばから積極的に権利保障機能を果たした事実を、憲法裁判所自身の広報活動と憲法訴訟手続法の制定から捉えた。1990年代後半とは異なる政治社会環境がそれを可能とした。ペルーの憲法学はこの現象から、社会問題の解決を憲法裁判所に求める傾向(法の憲法化)や従来とは異なる憲法をめぐる政治の可能性(新たな立憲主義)を見出していることがわかる。最終年度は、ペルー先住民文化と憲法裁判所に焦点を当て、比較の観点から、アメリカ石油パイプライン建設先住民反対運動の研究に着手した。