著者
種村 純
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.409-417, 2012

高次脳機能障害に伴って生じる言語コミュニケーション障害者,すなわち失語症者および認知コミュニケーション障害者に対する医療と福祉の間のギャップとその対策に焦点を当てた.多くのコミュニケーション障害者はリハビリテーションによって日常生活活動(ADL)は自立するが,就労は困難である.コミュニケーション障害者は就労を強く求めるが,職業生活で要求されるコミュニケーション能力を回復することは難しい.コミュニケーション障害者は孤独,意志決定や活動の制限,役割の変化などを経験する.失語症者の社会参加を促すためにはコミュニケーションによって失語症者の心理社会的ニーズを満たそうとする働きかけが重要である.集団での会話訓練や会話パートナーによって生活場面でのコミュニケーション活動を促す.慢性期の失語症者が集い,安全に社会活動を行う場として,失語症友の会が全国で展開されている.障害者福祉制度の面では失語症の身体障害者手帳および障害者年金の等級が低く,中年世代の就労できない失語症者への生活保障が不十分であることが指摘されている.外傷性脳損傷などによって広範囲の脳損傷を受けた場合には記憶その他の認知機能が障害され,認知機能の障害の結果として話す内容を上手く組み立てることができなくなり,会話での受け答えに齟齬が生じる.また説明が回りくどく,聞き手の立場に立って説明することができない.こうした障害を認知コミュニケーション障害と呼ぶ.この障害ではコミュニケーションの問題を媒介として攻撃行動や抑うつなど重大な社会的行動障害が出現する.認知コミュニケーション障害に対する介入としては,会話相手が協力的なコミュニケーションスタイルを示すことによって反社会的なコミュニケーション態度を改善したり,集団での生活技能訓練を行ったりする.社会的行動障害を伴う場合にはその家族に大きな介護負担が生じる.社会的アプローチとして高次脳機能障害支援普及事業が進められている.各県の支援拠点機関には支援コーディネーターが配置され,原因疾患の治療,リハビリテーション,生活支援,就労支援,就学支援,当事者団体による支援ネットワークが構成されている.本事業は障害者自立支援法の地域生活事業のうち,都道府県が行う専門的相談支援事業に位置づけられている.
著者
平井 達也 島田 裕之 牧 公子 梅木 将史 関谷 真紀子 壹岐 英正 岩田 容子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.134-135, 2013-04-20

【目的】施設入所高齢者の移乗による転倒に関連する評価項目を検討する目的で,多施設問共同研究を行った。【方法】愛知県内の9つの介護老人保健施設の協力を得て,101名の施設入所高齢者を対象とした。過去1年間の転倒の有無,移乗による転倒の有無別に後向き調査を行った。測定項目はADL評価,認知機能および運動機能評価,島田ら(2004)の転倒関連行動指標,さらに我々が考案した移乗動作の際の危険行動を観察する転倒回避能力(Fan Avoidance Ability:以下,FAA)評価を行った。【結果】60.4%の対象者が転倒しており,その内,移乗による転倒は70.5%であった。各測定項目を移乗による転倒の有無で比較したところ,FIMとPOMAに有意差があった。移乗による転倒の有無を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,FAA総得点のみが有意な因子として検出された。FAA総得点とFIM,認知機能項目,FAA各項目,転倒関連行動指標の危険行動の項目数が有意な相関を示した。【結語】転倒回避能力評価は基準関連妥当性を有し,移乗動作による転倒と関連する有用な評価方法であることが示唆された。
著者
相田 美砂子 田中 雅人
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (Low temperature science) (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.21-30, 2006-03-22

The distribution of solvent water molecules around an alkali metal ion is calculated using Monte Carlo method and compared with the optimal configuration. The analysis of the orbital interaction between an alkali metal ion and the surrounding solvent molecules is performed for aqueous solutions of Li+, Na+ and K+, by means of ab initio MO method,with the aid of QM/MM method. The effect of alkali metal ion orbitals reaches as far as 6Å,7Å and 9Å for Li+, Na+ and K+, respectively. This effect is caused by the orbital interactions between the valence orbitals of an alkali metal ion and of the surrounding water molecules. Not only the electrostatic interaction but also the orbital interaction must not be neglected. The difference in the effect between the alkali metal ions is originated from the difference in the valence orbital extensions of the alkali metal ions.
著者
羽生 宏人 和田 英一 丹羽 崇博 近藤 靖雄 川村 尚史 丸山 信也 岡村 彩乃 山科 早英良 永井 康仁 中道 達也 上道 茜 田中 成明 小林 直樹 笠原 次郎 森田 泰弘
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES
雑誌
航空宇宙技術 (ISSN:18840477)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.15-21, 2010
被引用文献数
1

The educational hybrid-rocket was successfully launched and it also landed within the predicted area. Aerodynamic characteristics of the rocket designed by students of Tsukuba University were evaluated by the wind tunnel testing with the support of Tokai University. The flight path affected by the environmental condition, especially wind direction and velocity, was simulated with the original calculation program. The altitude of the rocket was measured with the optical equipment and the apex was 123 m although the calculation indicated 198 m. We expected that the insufficient filling or the volatilization of Nitrous oxide as an oxidizer led to this result. And then, the apex was verified with a function of the oxidizer filling ratio. The results showed that 81.2 % of the oxidizer volume in comparison with the firing test condition was accumulated in the tank at the launch.
著者
岩尾 正倫 石橋 郁人 福田 勉
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

海洋天然物ラメラリンは、トポイソメラーゼIやプロテインキナーゼ(CDK, GSK-3, Pim1, DYRK1A, CLK等)を分子標的とする多機能性の抗がん物質である。本研究では、ラメラリンアナローグを用いた構造活性相関研究とドッキングシミュレーションによる阻害分子機構解析により、各分子標的に選択的な阻害剤を創製することを目的とした。その結果、ラメラリン骨格上の酸素官能基の適切な配置により、キナーゼ選択的(orトポI選択的)阻害剤の創製が可能であることが明らかになった。また、ラメラリン骨格C1-C11間の軸不斉に基づく16-メチルラメラリンNの二つのエナンチオマー間でキナーゼ阻害活性や選択性に大きな違いがあることも明らかになった。さらに、1位芳香環を置換したラメラリンN類縁体の多くが1位置換基の構造に依存して、キナーゼ阻害に有意な選択性を示すことも明らかになった。
著者
小南靖弘
出版者
農業技術研究機構中央農業総合研究センター
雑誌
中央農業総合研究センター研究報告 (ISSN:18816738)
巻号頁・発行日
no.6, pp.15-49, 2005-03
被引用文献数
1 1

4寒候期にわたって積雪層底部におけるCO2濃度の連続測定を行うとともに,積雪層内をCO2が移動する各プロセス毎に実験・検討を行い定量化した。積雪の分子ガス拡散係数は,土壌と大気との間のガス交換に対する抵抗としての働きを評価する基本的なパラメタである。これを測定するために,非定常拡散理論に基づく分子ガス拡散係数測定装置を開発した。まず絶対値精度および境界条件の確からしさに対する検定を行った後,新雪・しまり雪・ザラメ雪の3種の自然積雪について測定を行い,相対拡散係数D Rを積雪気相率の一次式とする実験式を得た。積雪表面上を吹く風によって積雪層内の空気が乱され,積雪内と大気との間のガス交換が促進される。この効果を見積もるために,渦相関法によって観測した大気中のCO2フラックスと積雪層内のCO2濃度勾配より,積雪内の乱流ガス拡散係数を得た。さらにこれを風速および積雪深の関数として求める推定式を作成した。積雪表面で生じた融雪水が積雪内を流下する際,積雪間隙中のCO2が溶解されるため,融雪期には積雪層内のCO2濃度は低下する。この溶解の効率を表わす指標として,輸送理論から導かれる溶解係数α'を導入した。積雪層底部CO2濃度および融雪水中の溶存CO2量の測定値よりα'の平均的な値を求めた。以上のように検討した各プロセスを統合して,積雪内のCO2濃度を再現する数値モデルを構築した。モデルは土層と積雪層から成る2層の一次元モデルで,積雪深・積雪重量・融雪量・風速,および別途見積もったCO2発生強度(土壌呼吸活性)を入力し,積雪内の任意の深さのCO2濃度,あるいは移動量を出力する。先に述べた4寒候期の連続観測のデータと比較した結果,良好な一致が見られた。本モデルおよび各プロセスの検討結果は,CO2にとどまらず,積雪と大気との各種物質交換に広く応用しうるものだと思われる。
著者
眞鍋 えみ子
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

プログラムは、セルフモニタリング、行動目標の設定とホームワーク、望ましい行動に対する自己強化、自己教示指導、面接によるフィードバックから構成される。チェックシートは睡眠状態、胎動、腹部・出血、体重、食事、運動、生活、気持ち(快適度)、母親イメージ、赤ちゃんと話す(コミュニケーション)の11のチェック項目と自由記述欄からなる。健康行動学習プログラムの臨床的適用を検討するために、妊娠初期の初妊婦を対象に15〜34週までの20週間、健康学習プログラムによる介入指導を行いその効果を検討した。面接指導群20名には、セルフモニタリング(妊娠15週、22週、32週前後)と同一の助産師による面接(妊娠17週、24週、34週前後)を行った。記録群(29名)には、面接指導群と同時期にセルフモニタリングのみ行った。そして統制群34名を設定した。その結果、面接指導群と記録群では、特に食生活や日常生活動作に関するセルフケア行動意図の維持、向上、セルフケア行動の遂行レベルが高いこと、統制群では妊娠末期に不安が若干増強しているのに対し、面接指導群と記録群では妊娠経過と共に軽減するのが認められた。さらに、記録群では介入期間中に20%の者がドロップアウトした。セルフモニタリングは、時間と経済的な面からも効率的な効果が期待される。しかし、1週間の継続したセルフモニタリングができない妊婦はプログラムによる指導の対象外となること、セルフモニタリングの持続には、助産師の個別面接によるフィードバックは有効であることが示された。これらから健康学習指導プログラムは妊娠期のセルフケア行動の向上に有効であると確認された。
著者
沖田 健吉
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.133-152, 1997-07-28

Comparing automatically organised set of medium or small size firms with vertically integrated firms that appeared in United States, Alfred Marshall finally judged that the former had been more effective than the latter through the 19th century. But, during the decades around the turn of the century, Marshall was afraid that international economic leadership would be shifted from British proprietory capitalism to U.S managerial capitalism, and appreciated the advantage of the vertically integrated firm. Neverthless, he believed tht the British industrial-organizationis expected to keep its conpetitiveness in the long run. However, Lancashire cotton industry has been declining after 1920 (Marshall died in 1924), and betraied his confidence. In this article, we want to analyse the reason why Marshall insist of such industrial-orcanization In relation to the success and decline of Lancashire cotton industry.
著者
中尾 健治 土屋 和夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.805-809, 1998-08

ここ1, 2年, パソコン・メーカの電話サポート窓口が雑誌や新聞の紙上を賑わせています.『安心できるPCメーカはどこだ』というような特集が毎月のように組まれています.箱からパソコンを出し, 組み立てるのが初めてのお客様, パソコンをご使用になるのが初めてのお客様, また, 電話サポート窓口にお問合せをするのが初めてのお客様.Windows95の爆発的な普及に伴って生まれたこういった『パソコン利用が初めてのお客様』をご支援させていただくために, メーカ各社は電話サポート窓口の充実を図っています.そこで, 日本アイ・ビー・エム(株)お客様相談センター(以下では, 英語の部門名, Customer Information Centerの頭文字をとり, CICと略します)を例にとり, パソコン・メーカの電話サポート窓口の現状を, 使用している業務システムを含めて紹介します.なお, CICではパソコン関連以外の製品についてもお問合せを承っています.また, 無償の電話サポート窓口のほかに, 有償の会員制電話サポート窓口も開設していますが, 以下はパソコン関連の無償電話サポート窓口の内容に絞らせていただきます.
著者
阿久根 政子
出版者
久留米信愛女学院短期大学
雑誌
久留米信愛女学院短期大学研究紀要 (ISSN:13487310)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.7-15, 2006-07-01

George Eliot describes elaborately the everyday life of simple people in the story of Silas Marner, as the same way of other works, besides treating delicate psychology, feeling and thoughts of the people in the story, related them to the developing interior change in the characters. Her moral thought is to expand sympathy. It is stressed that the individual human cannot live in isolation from the community, and there is a significant importance attached to the interpersonal interactions and the necessity to mutual cooperation together among human beings. This essay will examine the process and the reasons that Silas Marner became isolated from his community, and how he restarts from the despair after being robbed of all his coins. In conclusion this paper will emphasize the necessity of love and sympathy in this process.
著者
岡田 裕成
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、スペインの植民地を中心とする新大陸の先住民像に焦点を当て、その類型と系譜、社会的機能を明らかにしようとするものである。ペルー、メキシコ、およびヨーロッパ各地で調査をおこない、そこで得られた作品および一次資料の分析に基づき、その表象が、自然科学的探査の成果と、古代のテクストなどの典拠に由来する人文主義的関心の双方に依拠して構築されたことを明らかにした。またその人工的なイメージは、植民地の先住民の自己表象の形成に重大な影響を与えたこと、先住民エリートの植民地社会への適応を演出する図像的な装置の役割を、祝祭などの場において果たしたことを明らかにした。
著者
永島 芳彦
出版者
社団法人プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.88, no.12, pp.740-746, 2012-12-25

球状トカマクの改善閉じ込めプラズマにおける乱流輸送研究について,NSTXやMASTにおける最近の研究動向を紹介する.球状トカマクコアプラズマの熱輸送については,イオンの熱輸送は新古典輸送が支配的である一方,電子の熱輸送は異常輸送であり,その原因となる不安定モードの特定が急務である.数値計算による線形不安定モードの推定,温度や密度勾配・速度場などの平衡量とモードの不安定性の比較,乱流密度揺動の実測,と段階を踏んで研究が遂行された結果,異常輸送をもたらす不安定性として,電子温度勾配不安定性やマイクロテアリング不安定性が有力となった.

1 0 0 0 OA 世界最終戦論

著者
石原莞爾 述
出版者
立命館出版部
巻号頁・発行日
1940

1 0 0 0 OA 世界最終戦論

著者
石原莞爾 述
出版者
立命館出版部
巻号頁・発行日
1940
著者
梶川 嘉延 野村 康雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SIS, スマートインフォメディアシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.511, pp.21-25, 2004-12-09

本稿では,ヘッドフォン感覚で装着し,常に耳元での消音を実現する新しいマルチチャネルアクティブノイズコントロールシステムを提案する.本システムでは,騒音制御フィルタの更新アルゴリズムに摂動法を用いているため,二次経路の変動に追従して騒音制御フィルタの更新を行えるという利点を有する.つまり,環境変化に対して安定な制御が可能となる.そこで,quiet zone(消音領域)が耳元にくるように誤差マイクロホンを固定し,これをヘッドフォンのように頭部に装着することで,ユーザが移動しても常に消音が可能となる.本稿では,このヘッドフォン型誤差マイクロホンを用いたマルチチャネルアクティブノイズコントロールシステムの有効性を実システムにより検証する.