著者
宮治 昭 市川 良文 入澤 崇 岩井 俊平 岡本 健資 小泉 惠英 佐藤 智水 田辺 勝美 永田 郁 芳賀 満 福山 泰子 山田 明爾
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

パキスタン,インド,日本,欧米に散在する多量のガンダーラ美術(彫刻)を実地調査し,写真資料を収集して(総計1,849件),それら画像に関する文字情報を入力して,データベース化のための基礎資料を作成した。これらの資料をもとに,インド・ヘレニズム・イランの諸文化を吸収しつつ独自の仏教美術を形成した様相を明らかにし,仏教信仰の実態にも迫った。その成果は中間報告書(平成23年5月),全体報告書(2冊)と国際シンポジウム報告書(平成25年3月)として刊行した。
著者
川市 智史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

海洋性の好熱菌はその生体構成分子が耐熱性・耐塩性に優れている。本研究では、海洋熱水環境由来の新規バイオマテリアルとして、鉄還元好熱菌が産生する導電性線毛(ナノワイヤー)の探索おとび応用展開を目的としている。本年度は、その昨年度獲得した候補微生物株の詳細な性状解析を行った。その結果、いずれの候補株においても導電性線毛の発見には至らなかったが、複数の候補株において、これまでに報告のない性状の解明に至った。候補株の1つであったChloroflexi門細菌110S株は、Chloroflexi門で初の鉄還元能・硝酸還元能を有する株であった。本門細菌は、これまで世界中のあらゆる環境(温泉・土壌・バイオフィルム等)から検出されており、その遍在、そして優占が示唆されている。その一方で、分離報告は非常に少なく、エネルギー獲得系のバリエーションも発酵・好気呼吸・嫌気的光合成・脱塩素呼吸に限られている。本研究において、本門細菌の鉄還元能・硝酸還元能を示したことにより、本門細菌の新たな分離培養法を提示するのみならず、本門細菌の環境中における微生物学的役割を新たにする知見を得たと考えている。また、超好熱性古細菌Aeropyrum属においても鉄還元能を確認した。Aeropyrum属古細菌は、これまで「絶対好気性」とされていたが、一方で、その生息環境は深海熱水孔などの微好気~嫌気的環境であり、分離株の増殖生理と生息環境の間の"ギャップ"は未解明であった。本研究において、同属古細菌の鉄還元能を示したことにより、この"ギャップ"を説明しうる可能性の一つが示唆された。
著者
竹田 美文 山崎 伸二 濱端 崇 牧野 壮一
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

腸管出血性大腸菌は、ヒトだけではなく家畜からも多数分離されており、ウシやブタの腸管出血性大腸菌感染症は畜産業界では大きな問題となっている。本感染症の感染源は、主として食肉で感染した家畜の糞便中の腸管出血性大腸菌が何らかの経路でヒトへ感染すると考えられている。従って、家畜の腸管出血性大腸菌感染を予防できるワクチンの開発は畜産業界に有用であるばかりでなく、ヒトの腸管出血性大腸菌感染、それに引き続く出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群の予防にも有効である。本研究では、ブタの浮腫病の原因である腸管出血性大腸菌に対するワクチン株を構築し、その有効性を証明した。すなわち、浮腫病のブタから分離したベロ毒素(VT2eまたはVT2vp1)を産生する腸管出血性大腸菌について、抗原性は保有するが毒素活性の喪失した変異毒素を産生する変異株を作出した。まず、VT2vp1のAサブユニットN末端から167番目のグルタミン酸(E167)と170番目のアルギニン(R170)を、それぞれグルタミン(Q167)とロイシン(L170)に置換したVT2vp1変異毒素を産生するような遺伝子を作出した。この遺伝子と野生型の毒素遺伝子を相同組換えにより置き換え、変異株を作出した。この変異株は野生型の毒素と同様の抗原性は保持していたが、ベロ細胞を用いた試験により毒素活性が喪夫していた。また、この変異株の豚への毒力を野生株を対照にして調べた結果、病原性は喪失していた。この変異株をワクチン候補株として、感染防御能を調べたところ、変異株を投与した豚群(n=20)は浮腫病由来の野生株の投与に対して浮腫病の発症はみられなかったが、ワクチン株を投与しなかった豚群(n=20)では、12頭が浮腫病を発症し、死亡した。また、変異株投与豚において、血中IgG価および糞便中IgA価の上昇も確認された。
著者
神田 隆 寺崎 哲也
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究代表者の教室で世界に先駆けて樹立したヒト血液神経関門構成細胞株を用い、ヒト末梢神経疾患での血液神経関門(BNB)破壊メカニズムを検討した。ヒト免疫性末梢神経疾患患者の一部では、血清成分にBNBを破綻させる因子が含まれることが証明された。また、糖尿病性ニューロパチーで血清に高値となるAGEは、VEGFとTGFを介してBNBを破壊することが明らかとなった。バリアー構成内皮細胞膜に局在するトランスポーターは、新規治療の標的となり得ることが示唆された。
著者
桑木野 幸司
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、三年間の研究作業のまとめとして、資料の最終分析作業を徹底するとともに、過去の分析過程を整理し、論文ないしは著作として発表する作業を中心に行った。まず、16世紀末のフィレンツェで活躍した修道士Agostino Del Riccio(1541-98)が執筆した農業百科全書『Agricoltura sperimentale』(経験農業論)および『Agricoltura teorica』(理論農業論)の手稿を、テキストデータに起こし、校訂版出版に必要な作業および注記を施した。その分析結果をもとに、この農業論中で語られる理想庭園構想の空間を再構築し、そこに見られる百科全書的知識の表象方法が同時代の記憶術やエンブレム文学と強い関連を持つことを指摘し、当時の建築空間の持っていた知的密度の剔抉に成功した。その成果は、『地中海学研究』誌上にて2009年に掲載されることが決定している。また西欧初のミュージアム理論書として知られるSamuel Quiccheberg『Inscriptione vel tituli theatri amplissimi』(1565)の分析をさらに深め、著者が本書で展開する理想ミュージアム空間の構成を再構築したうえで、その中で展覧される百科全書的知識と建築空間との密接な影響関係を明るみに出した。その成果をまとめた英語の論文を、科学史雑誌『NUNCIUS』(Olschki)に投稿中である。さらにやはり16世紀末に執筆された記憶術著作Cosma Rosselli『Thesaurus memoriae artificiosae』(1579)を詳細に分析し、同著で提示される、記憶の基盤として機能するさまざまな仮想空間の特性を分析した。とくに、修辞学の理論と建築空間の構成の通底を明らかにした。その成果は、2009年出版予定の論文集『鈴木博之先生退官記念論文集』に掲載されることが決定している。
著者
谷口 建速
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、三国呉代の簡牘群である長沙走馬楼呉簡を基本資料とし、当時の地方財政システムを解明・復元すること、またその成果を、秦漢代の簡牘の研究から得られる当該時代の地方財政の諸相と比較検討し、地方財政史中に位置付けること、である。本年度は特に、銭や布帛等を集積する「庫」の財政について研究を進めた。まず、前年度より引き続き走馬楼呉簡の竹簡群の整理・分類およびデータベース化の作業を行なった。その成果に基づく検討により、以下の成果を得た。1「走馬楼呉簡所見庫関係簿与財政系統」では、庫に関連する各種の簿の構成を復元し、その中にみえる納入・搬出・移送等の財政システムを復元した。特に、吏民の賦税を受領する「庫」の他に、郡に関わる「西庫」が設置され、うち郡庫の物流には穀倉と同様「邸閣」が関与したことが明らかとなった。2「長沙走馬楼呉簡所見孫呉政権的地方財政機構」では、上記の庫に関わる財政システムと前年度に検討した穀倉の財政システムとを併せて検討し、資料中の財政システムの全体像を復元した。各々の物流について、郡県のみならずより上級の機構(「邸閣」・中央)の関与が明らかとなった。また穀倉の財政について、3「長沙走馬楼呉簡にみえる「貸米」と「種〓」」では、当時の地方穀倉による穀物貸与について検討した。食料目的の貸与と種籾目的の貸与の両種の存在が明らかとなったことは、唐代や古代日本、朝鮮半島における「出挙」制度の淵源の実例といえる。以上はいずれも学会発表を基に論文化したものであり、うち2の掲載雑誌は2010年中に発行予定である。
著者
松久保 隆 杉原 直樹 須山 祐之 古賀 寛
出版者
東京歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、学齢期(学校歯科保健)における食育の推進に口腔に関連した要因がどのように関連しているかを検討することを目的とした。また、医師会が行った生活習慣病リスクに口腔に関連した要因がどのように関連しているかについても検討し、次の結果をえた。(1)う蝕有病に関連する要因は、朝食の欠食であり、歯肉炎の有無(口腔清掃状態と関係する、ついでう蝕原因菌であるS. mutansとLactobacilliのレベル、歯列不正、就寝前の飲食などであった。(2)生活習慣病のリスクは、運動が嫌い、朝食の欠食、S. mutansレベル(10^5以上)であった。S. mutansレベルが関連しているのは、食生活の乱れを示していると考えらた。(3)小学校4、5年生の食べられる食品の多さに関連する要因(食品受容応答)は、保健行動に関連する知識(生活習慣病の知識、朝食(欠食)、フッ化物配合歯磨剤を使用、歯科医院での歯口清掃指導の有無)や習慣と口腔内の機能的な状態である唾液分泌速度や咬合状態が関連していた。検討したすべての項目で朝食の欠食が強く関連する要因であることが示された。これは規則的な食習慣は、う蝕のみならず、生活習慣病のリスクを大きく下げることを示唆するもので、学校保健活動における食育の重要性を示すものと考えられた。
著者
吉見 俊哉 ディマ クリスティアン ディマー クリスチャン DIMMER Christian
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、高まる世界経済競争と世界の都市部での社会格差の中、いかに政治家、プランナー、デベロッパー、市民に共通する「都市の公共空間」を明らかにすることである。しかし公共空間における過去のネオリベラルな規制緩和や民営化政策の結果、相互依存における発展の影響について適切な理解が深められることなく政府、地方自治体などの行政側から民間セクターへと移行することとなった。本研究では、公共性の高い都市空間の協力的(官民)計画方法、実際の建設、管理という全プロセスの流れを系統的に調査、分析する。研究の中では、現制度や社会的状況における「公開空地(privately owned public space、POPS)」(※「公開空地」は公共性の高い民間所有地)のあり方を特に詳しく精査する。それに加え、より新しい実例として着目しているのは特定地域における公共空間の民間による創出や管理が争いに繋がるケースである。下北沢の道路開発プロジェクトや銀座松坂屋の再開発プロジェクト、渋谷宮下公園の民間化と京都梅小路公園の中の民間デベロッパーで水族館工事といったものが挙げられる。都市化や都市構造の再編が進む中、民間化の拡大は日本に限った問題ではない。都市空間の問題はアメリカ・ニューヨーク、チリ・サンティアゴ、オーストラリア・メルボルン、ドイツ各都市でも見られるため、それらの都市と日本の都市との関連性も共同研究中である。共同研究結果の議論のため、2010年5月27日、28日、29日にはオーストラリア・メルボルンでアーヘン工科大学のペゲレース博士とメルボルン工科大学のヨナス教授主催のワークショップに参加して次の共同のワークショップは12月にドイツのアーヘン市で予定されている。また2010年7月10日上智大学の比較文化研究所主催の『Alternative Politics : Youth, Media, Performance and Activism in Urban Japan日本人若者政治参加と都市空間』と言うコンファレンスで東京における「奪い合われる空間」に関して発表し、複合的観点から見る現代都市日本の公共空間の社会文化特有性について議論した。また同じテーマに関して11月にドイツ、フランクフルト市でのVSJF学会と2011年の3月にホノルル市でのAASの学会発表する予定である。
著者
三浦 翔
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

2007年3月から邦銀に対してバーゼルII(新BIS規制)の適用が始まった.これに伴い,信用リスク管理において,各行独自のリスク評価手法の開発が認められるようになり,基礎的内部格付手法(FIRB, Foundation Internal Ratings-Based approach)から先進的内部格付手法(AIRB, Advanced Internal Ratings-Based approach)への移行に際して推計値が必要とされる債権回収率(RR, Recovery Rate),またはデフォルト時損失率(LGD, Loss Given Default)の推計精度の向上が求められている.しかし,債権回収のデータベースの構築が充実していないことや,債権回収途中のデータの取り扱いなどに対する一般的な手法が確立されておらず,いまだ回収率推計モデルの研究は進んでいなかった.そこで,内部格付の低下(要注意から要管理への変更)によりデフォルトを定義した場合の,担保や保証協会による保証などを勘案した回収率推計モデルの構築を行った.モデルのパラメータ推計には銀行の格付および回収実績データを用いている.また,実際の回収が長期間にわたることや,正常格付への復帰の影響を考慮することによって,より実際の回収を反映したモデリングを提案した.その結果,担保カバー率,保証カバー率が回収率の有力な要因であることがわかり,それらの関数としてEL(Expected Loss)が推計可能であることを示すことにより,実データによる内部格付手法に応じた信用リスクの計量化を実現した.これによって、邦銀固有の特徴である、担保と保証と回収率の関係を表現し、バーゼルIIに対応した信用リスク評価方法を提案したといえる.
著者
山口 幸
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1)フジツボ類の体サイズ連続化を組み込んだ資源配分と多様な性表現を説明するモデルフジツボ類の性の多様性を少ない環境要因で説明する数理モデルを作成した。このモデルでは、従来の生活史戦略理論と性配分理論を統合している。つまり、体サイズの連続化および成長、雄機能そして雌機能の3つの資源配分をおこなっている。本モデルでは、資源獲得指数と死亡率の2つの環境要因が進化的に安定な資源配分戦略に与える影響を調べた。その結果、同時雌雄同体のみ、同時雌雄同体と矮雄、雌と矮雄というフジツボ類で見られる3つの性表現すべてが、環境条件に依存して現れることがわかった。また、本モデルでは、純粋な同時雌雄同体ではなく、雄性先熟的同時雌雄同体が現れることが予測された。2)有柄フジツボ類ヒメエボシの生活史解明への基礎的データ収集ヒメエボシは、深海性の甲殻類に付着する有柄フジツボである。沖縄美ら海水族館の協力のもと、ヒメエボシがハコエビのどの位置についているかを調べた。ヒメエボシは水流を受けやすい、ハコエビの頭胸部と第一腹節の境目や歩脚の第三関節部分に集合していた。水流を受けやすいところに付着することでえさが取りやすいと考えられる。また、ヒメエボシが集合しているところでは、繁殖相手を得やすいと考えられる。ヒメエボシは雌雄同体であることが知られているが、小さな雄(矮雄)の報告はまだない。今年の調査で矮雄と見られる個体(同種個体に付着する小さな個体)が数多く見られた。一般的に矮雄が出現する条件は、雌雄同体の場合、繁殖集団が大変小さいときと言われている。しかし、同種個体に付着したヒメエボシが大きく成長した標本も観察された。このことは、ヒメエボシは小さいうちは雄機能だけを持ち、後に雌雄同体として繁殖するという生活史を持っているのではないかと示唆される。今後、生殖切片を作成して、この仮説を検証する必要がある。
著者
關 雄二 井口 欣也 坂井 正人 鵜澤 和宏 米田 穣 長岡 朋人
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、南米のアンデス文明における権力生成過程を、祭祀遺跡(ペルー国北高地パコパンパ遺跡)の発掘と出土品の分析を通して追究した。当該遺跡の利用は、I期(B.C.1200-B.C.800)とII期(B.C.800-B.C.500)に細分され、I期においては、社会的不平等性は見あたらず、構成員の自主的な参加に基づく祭祀活動(神殿建設・更新)が認められたのに対して、II期には金属生産とその分配を基盤にした権力者が登場したことが判明した。
著者
松岡 裕美 岡村 眞
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

宝永南海地震(西暦1707年)のように南海地震と東南海地震が連動する巨大型南海地震の再来周期を明らかにすること目的として、土佐湾沿岸域の津波堆積物の調査を行った。その結果、土佐市蟹ヶ池において過去2000年間の履歴を解明することができた。この結果は日向灘沿岸域で明らかにされている履歴と良い一致を示し、巨大型南海地震は300-350年程度の周期で発生していることが明らかになった。
著者
増田 智恵 乾 滋 團野 哲也 川口 順子 村上 かおり 與倉 弘子 岡部 秀彦 岡部 秀彦 松平 光男 永島 秀彦 杉山 元胤 小林 昌史 古田 和義 後藤 大介
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

男女年齢を問わず3次元人体計測から仮想的に衣服用人台の生成と立体裁断による個人対応の基本ドレスとパンツのパターンを作成し,仮想衣服製作によるバーチャル試着を可能にして自己的・他者的な着心地確認までをほぼ自動化できた。同時に衣服選択・試着の視覚的支援体制や管理機能用としての3次元ファッションシステム開発用の人体の相同モデル化,体形イメージ分類,動作機能,デザイン感性,素材の感性予測などの情報を構築した。
著者
小杉 健二 佐藤 威
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

吹雪は積雪・寒冷地域においてしばしば視程障害や吹きだまりの原因となり、時として自動車の多重衝突などの深刻な災害を引き起こす。しかし、吹雪の時空間変動の観測に適した安価な測器が無いために、その変動特性には不明な点が多く残されている。本研究では、安価な吹雪計測方法を開発することを目的とする。低温実験室において、吹雪の中に音響センサーを置き、発せられる音響信号と雪の質量フラックス(単位時間に単位面積を通過する総質量)の関係を調べた。実験の結果、質量フラックスの増大とともに音響信号の変動も増大することが分かった。以上のことから、吹雪の計測に音響センサーを用いることの有効性が示された。
著者
岡部 恒治 三島 健稔 鈴木 俊夫 西村 和雄 西森 敏之
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本に伝わる和算・そろばんにある、イメージを利用し、直感的に理解させる思考法を用いて、数学が苦手な学生・生徒にわかりやすく理解させるための方策の研究である。この研究に基づいて、小学生向きの自学自習教科書を実際に作成した。その目覚しい成果は産経新聞、読売新聞、フジテレビなどでも紹介された。また、代表者の岡部は、この成果を用いてお台場のパナソニック・センターに18年8月に開設された「RiSuPia」の数学関連の展示コンテンツの監修をした。三島は教材の電子化に関して多大な貢献をした。このRiSuPiaは、数学に関しての本格的な体験的施設としては、現在本邦唯一のものである。このリスーピアも、NHKはじめ各テレビ局や新開でも大きく報道された。ここでは、和算・そろばんの果たした意義やその思考法を来場者自ら体験してもらうようにもなっている。
著者
石川 秀樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

(1)大規模集客施設の現状や催事の分析など、施設や催事への医療支援に関する事項近隣の大規模集客施設の医療対応状況を調査し、各施設での傷病者数とその内容、治療状況、施設ごとの特性(医寮対応能力など)を明らかにした。結果公開に同意を得た野球場の状況を論文にまとめた(KJM 2007;56:85-91)が、野球場の医療対応に関する論文は本邦初で海外でも稀少である。催事に合わせ開催場所近隣の医療機関に救急医療対応を文書で依頼する「慣習」を分析し、催事内容や主催者の医療に対する考え方を論文にまとめた(JJDM 2005;10:10-18)。Mass-gathering medicineをこのような観点で捉えた報告は国内外を通じ皆無で、催事参加者、とくに観客の安全担保が不十分な国内の催事事情が判明し、実効性のない文書のみの医療対応要請を廃して主催者/施設責任者と医療機関双方でより具体的な準備を行うための貴重な資料となった。(2)教育体制や医療従事者側の意識向上など、傷病者への医療対応に関する事項大規模集客施設の救急医療需要に対応する医療者側の意識向上も不可欠で、研究代表者所属機関で一層の院内教育充実を図り、新規入職者(医療職・事務職すべて)への災害医療講演、初期臨床研修医への災害医療に特化したoff-job training(OJT)、医学部学生への講義、などを実施した。とくに0JTは教育対象者から好評で、その内容を学会で発表した。(3)現時点での本研究に対する評価と今後の展開以上の研究姿勢が評価され、研究代表者は平成19年度から都医師会の救急委員を委嘱されたため、行政側・消防庁などの諸機関と一層の連携強化を図った。本研究の成果に今後の分析を加え、都が誘致中の2016年夏季オリンピックを含む、さらに大きな催事への医療対応システムの確立を目指し、国内で恒常的に開かれる催事での参加者の安全確保に努める。
著者
レメイン ジェラード・バスチアン
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

典型発達 (TD) の未就学児童 (3-7 歳) と同じ年代の自閉症スペクトラム(ASD)の子供について,共感を喚起する刺激の脳内処理を 2 つの実験で確認した。まず TD の未就学児童を対象とした脳磁図の計測において,手指の触覚刺激に対する神経応答が他者の足指が刺激される映像を見ているときと比べ手指を刺激されている映像を見る時のほうがより増強されることを示した。これは視覚情報が他者のものであるにも関わらず、自身の触覚刺激に対する神経応答に影響を与えたことを示唆する。次に我々は近赤外分光法を用い,TD と ASD の子供両方について通常の音声と比べてささやき声のほうが皮質の血流応答を増大させることを示した。この応答反応の増大は,より個人的な意思疎通における話者意図の理解に関わる処理を反映している可能性がある。両実験を通じて, TD と ASD の子供両方が他者の気持ちを理解する共感に関連した刺激に対して反応しうることを示した。さらなる研究が求められるが,ASD の子供のささやき声に対する皮質の感応性は医学的な応用のために利用できるかもしれない。
著者
畠山 兆子 松山 雅子
出版者
梅花女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、現代のメディア・ミックス状況における子どもの読書指導の可能性と課題を明確にとらえるために、子どもの物語受容の根幹に潜む物語典型の内実を、最も日常的な物語体験であるテレビ視聴を軸に探ろうとした者である。本、テレビ番組、DVD、ゲームといった個別の媒体を問題にするのではなく、現代の子どもが多様な媒体を往還するなかで受け止めている<物語言語>のありようを対象テクストと子どもが出会うコンテクストの分析・検討を行うことを基本とする。それによって媒体の差異を越えて、今日の子どもの物語スキーマを解き明かす物語の構造的特徴が見えると考えたからである。具体的にはテレビ番組「世界名作劇場」から、「小公女セーラ」と「ピーターパンの冒険」を取り上げた。児童文学の名作古典とされる原作とアニメーション番組を比較研究することで放送形態によって物語がどの様な変容を遂げたか、どのように再生産されて「見る物語」として子どもの物語理解、自己認識に反映するのかを考察した。また、今日の子どものメディア環境を明らかにするため、小学生(4〜6年生)338名、中学生(1〜3年生)439名、比較の対象として大学生(1〜4年生、2校)519名のアンケート調査を行った。実施した「メディア環境アンケート」は多義に渡るもので、本報告では、<個人情報><メディア環境>(1情報を得るメディア2大切なメディア8どこでアニメを見るか9マンガを読むメディアは何か)<読んでいる雑誌・本>(17アニメを見て原作を読んだか18原作を読んでアニメを見たか)<テレビ視聴>(19誰と好きな番組を見るか21テレビの視聴時間23録画24ビデオやDVD)<ゲーム>(27PCゲームをするか35ゲームをする時間)の各項目と記述による「物語を想像して読む」のみの集計となっている。
著者
西澤 泰彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、愛知県に拠点を置いた建築家の活動概要を明らかにし、その評価をおこなったものである。その結果、次のことが判明した。1点目は、組織について、愛知県や名古屋市の建築組織が民間の建築組織に比べて巨大で、活動量も多く、大きな影響力を持っていたこと、2点目は、「民」において個人の建築事務所が成立する素地は1920年代になって確立されたこと、3点目は、「官」「民」ともに人材を輩出・供給する教育機関として1906年開校の名古屋高等工業学校に設けられた建築科が果たした役割が大きかったこと、4点目は、「官」の建築組織よって設計された公共性の高い建築が都市の近代化に貢献したこと、5点目は、そのような建築家の活動が全国的には報じられることが稀有であったことである。
著者
山崎 優子 石崎 千景
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、市民の死刑に対する態度(賛成、反対)を形成する心的メカニズムを明らかにすることである。本研究の主要な成果は下記のとおりである。質問紙およびディスカッションによるデータ収集を行い、死刑賛否の理由17項目を抽出した(研究1)。また、質問紙調査を行い、個人の特性に由来する内的要因(たとえば、権威主義傾向)と社会的要因(たとえば体感治安)を考慮した死刑賛否に至るモデルを構築した(研究2)。さらに、死刑制度に関する正しい知識を与えた前後で、死刑賛否に関するモデルが異なること(研究3)、死刑賛否に影響する要因と裁判員裁判の死刑判決に影響する要因が必ずしも一致しないこと(研究4)を示した。