著者
赤羽 孝之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.275-296, 1975-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
17
被引用文献数
6 1

本研究は電子部品工業を採り上げ,この工業自体の構造とその地域的側面,また地域の地理的・社会的条件(農村)と工業との関係を解明しようとしたものである. その結果,電子部晶工業の生産組織は専門メーカー・分工場・下請工場・内職というヒエラルヒーを構成し,それに対応した形で労働力の質が変化すること,また地域的な配置関係も伊那市の中心部に専門メーカー・完成品生産の工場が集中し,周辺の農村部では一部工程の下請工場がほとんどを占め,そして労働力の質もそのような配置関係に対応することが明らかとなった. 農村との関係では,農村の下請工場を支えているのは,農村の中の経営耕地規模の小さな第2種兼業農家の主婦層であり,伊那市中心部の大規模工場へは農村の若年労働力が吸引されていること,そして天竜川の河岸段丘上の農村と段丘の下の農村では,伊那市中心部への交通の便の相違,他部門の工場への雇用機会の相違などのために農家の主婦の電子部品工場への吸引のされ方に相違があることなどが明らかとなった.
著者
細谷 和範 森元 純一 野口 司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.213-223, 2012 (Released:2012-10-19)
参考文献数
20

本研究では中国山地を流れる吉井川において,かつて高瀬舟が補助動力として風を利用していたことを手がかりに,風力利用の可能性を調べた.はじめに高瀬舟に関する文献や資料の中から風力に関する情報を収集し,高瀬舟が帆走可能であった区間を調べたところ,中流域の和気町では帆走に適した風が得やすいものと推測された.続いて和気町周辺の風況観測を実施し,風況の特徴を整理するとともに,簡単な風系推定モデルを用いて風場を推算した.この結果,和気町では年間を通じて昼間に2m/s~3m/s程度の風が得られる他,和気町を流れる吉井川は平地からの風が流入しやすい地形条件を有していることが見いだされた.この地域の風速は概して小さく,風力発電には適さないが,過去に利用された自然エネルギーを学ぶ環境教育への活用が期待できる.
著者
松川 剛久 三谷 純
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
日本応用数理学会論文誌 (ISSN:24240982)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.333-353, 2017 (Released:2017-12-25)
参考文献数
58
被引用文献数
1

概要. 折り紙の幾何学的な性質は古くから研究の対象とされてきた.近年では「計算折り紙」という言葉も誕生し,計算機を用いた研究や工学分野への応用についても活発に議論されている.本稿では折り紙の数理に関して平坦折りの研究についてまとめるとともに,それに関係する計算量および設計手法について紹介する.また,立体折り紙と剛体折り紙という,折り紙の数理の応用において重要な分野についても概説する.
著者
武部 豊
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.123-134, 2001-12-30 (Released:2010-03-12)
参考文献数
64
被引用文献数
2 2

HIVがヒト集団に伝播し, 世界中に播種する過程は, 同時にウイルスゲノムが劇的な多様性を獲得し, 適応していく過程でもある. HIVが多様性を獲得するメカニズムには, 複製エラーによる突然変異と, 遺伝子組換えの2つが関与するが, さらに, ウイルスのもつ生体内での高度でしかも持続的な増殖能によって加速され, 驚異的な多様性が生み出される. HIVは地球上の生物の中で最も高速で変異する生命体であり, その変異速度は真核細胞の100万倍にも達する. これらの性質は, 増殖環境の変化に対して, HIVが適応・進化していくメカニズムの生物学的基盤ともなっている. 薬剤耐性ウイルスの急速な出現は, このウイルスのもつ驚異的な flexibility を反映する現象の一例である. 本稿では, 世界流行のもっとも主要な原因ウイルス株であるHIV-1を中心として, HIVのゲノム多様性獲得機構と多様性がもたらす生物学的・ウイルス学的意義について論じたいと考える.
著者
秋元 肇
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.270-278, 1989-10-15 (Released:2017-10-07)

二酸化炭素などの温室効果気体の濃度が2倍になると地表の温度は1.5~4,5℃上昇するといわれているが,どのような原理からそのような数字が導き出されているのだろうか,また,二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素などの温室効果気体の濃度上昇のメカニズムは,どうなっているのだろうか.温室効果気体による地球温暖化の原理を,地球のエネルギー収支という地球物理学的側面と,温室効果気体の物質収支という地球化学的側面の両面から概観し,最近の科学的知見の一端をまとめてみた.
著者
馬場 悠男
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.158-162, 1995-08-01 (Released:2016-10-31)
参考文献数
5
著者
廣田 敦士 市川 淳 早川 博章 西崎 友規子 岡 夏樹
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.231-242, 2019-06-01 (Released:2019-12-01)
参考文献数
18

Humans and animals prefer immediate reward rather than delayed one. In other words, a future reward is felt discounted. The speed of discounting is expressed with the parameter K, which is called discount rate. Problems related to time discounting often occur in everyday life. For example, if we put up with purchasing a product by impulse, we may succeed in savings as a future reward. On the other hand, if we purchase a product by impulse, we will get a satisfaction and an effect of product as an immediate reward at the expense of a future reward. This study focused on embodied cognition for adjusting discount rate easily and solving problems mentioned above. Our experiment revealed that a high-power posture tended to reduce discount rate, which means that savings will be easier to succeed. This occurred only under condition where the reward is small.
著者
高橋 究
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.66-72, 2018-09-30 (Released:2018-11-13)
参考文献数
24

5-アミノレブリン酸(ALA)は,ヘムやクロロフィルといった,エネルギー生産など生物の根幹機能を担う重要な分子であるテトラピロール化合物の代謝系における出発物質で,生物に普遍的に存在する,生命の根源物質とも称される天然アミノ酸である.生体におけるALAの生理作用は,農業分野で見出されたのち,医学・ヘルスケア分野においても多彩で加速度的な応用がなされており,当該分野へのALAの応用について概説する.
著者
藤島 一郎
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.55, no.Suppl.2, pp.S129-S141, 2009 (Released:2010-12-01)
参考文献数
47
被引用文献数
2
著者
幣 憲一郎
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.78-83, 2021-04-15 (Released:2021-05-15)
参考文献数
1

外科治療における管理栄養士の役割は, 静脈栄養管理, 経腸栄養管理を中心とした急性期栄養管理はもちろんのこと, その後に続く慢性期栄養管理面で重要となる適切な治療食提供などを含めた栄養管理計画の立案までを担当する. 従来は「院内約束食事箋(栄養食事基準)」を構築する際, 「疾患別栄養管理法」が採用されてきたが, 近年の多臓器疾患や多くの合併症を有する患者が増え, 個別栄養管理の観点から「栄養成分別コントロール食」を導入する施設が増えている.「栄養成分別コントロール食」は, 特別治療食を各基本となる栄養素の組成に着目し, グループ化して管理するものであ, 「エネルギーコントロール食」, 「たんぱく質コントロール食」, 「脂質コントロール食」などがある. 今後は, 病棟ごとに配置された管理栄養士が各種学会の定めるガイドラインなどを熟知しながら「適切な食事」を提案することがますます求められている.
著者
村田 晶子
出版者
法政大学
雑誌
多文化社会と言語教育 (ISSN:24362239)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.14-29, 2021 (Released:2021-05-10)

新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020 年度の授業が対面からオンラインに移行し、人との接触機会が減少したことから、多くの学生が孤独やストレスを抱えた。とりわけ留学生の場合、日本でのネットワークが限られ、孤独や不安を感じていた人々が多く、人とつながり、日常の問題を相談できるようなサポートが必要とされた。 本稿で分析するコロナ禍で孤立する留学生たちの学習支援とオンラインサポートは、こうした状況を踏まえて始まったボランティア学生達の活動である。本稿ではコロナ禍におけるボランティア学生による留学生のソーシャルサポートを分析し、①やさしい日本語や英語を用いた来日の見守りと情報提供、②留学生の母語でのメンタルサポート、③留学生と日本社会とをつなぐ交流サポート、④進学サポート、⑤就活サポートなどの実態を明らかにし、また、支援活動を通じた参加者(ボランティア学生、留学生)の様々な学び合いを分析した。 最後に、こうしたボランティアのオンラインのソーシャルサポートの取り組みは、非常時のボランティア活動の新しい可能性を示すものであり、さらには、非常時のボランティアから、平時にも可能なソーシャルサポートにつながる可能性をもった取り組みであることを指摘し、ボランティア活動を深めるための教育プログラムとの連携の重要性についても指摘した。 本稿で分析するボランティア活動は、所属大学の 2020 年度の『自由を生き抜く実践知大賞』の大賞を受賞した、多文化教育科目の履修生たちの 1 年間の取り組みである。
著者
玉川 博章
出版者
日本出版学会
雑誌
出版研究 (ISSN:03853659)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.105-117, 2013-03-20 (Released:2019-03-31)
参考文献数
20

出版における知的財産権,特に日本出版社の海外ライセンス販売に焦点を当てる.事例としてマンガを取り上げ,海外へのライセンシングの状況を分析する.文化,そして政治経済のグローバリゼーションは,マンガの海外展開にも大きく影響を与えている.知的財産権の国際的調和と海賊版対策,そしてデジタル化による海賊版の拡大,そして各地でのマンガ執筆などについて検討し,グローバル化の中のマンガの海外展開を考察する.
著者
河内 彩香 村田 晶子 長谷川 由香 竹山 直子 池田 幸弘
出版者
法政大学
雑誌
多文化社会と言語教育 (ISSN:24362239)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.30-45, 2021 (Released:2021-05-10)

2020 年度、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で多くの大学がオンライン授業に移行し、所属大学の日本語教育プログラムにおいても春学期と秋学期の授業が全面的にオンラインで行われ、LMS(Learning Management System)とオンライン会議システム(Zoom)による双方向授業を組み合わせて教育活動を行った。これまで、日本語教育におけるこれら二つを組み合わせた授業の詳細の分析はまだ十分にはなされていない。地理的な境界線を越えて実施することができるオンライン教育はコロナ収束後も発展していくことが予想されており、この実践を一過性のものとしてとらえるのではなく、実践を記録し、その効果や問題点を発信していくことが今後の言語教育の発展のために重要である。こうした点を踏まえて、本稿では、日本語教育プログラムにおいて実施した Zoom による双方向授業と LMS(Google Classroom)を組み合わせたオンライン教育の実施状況を記述し、レベル別、技能別の教育におけるオンライン教育のメリットと課題を分析した。
著者
新本 洋士 門分 彰子 八代 朋美 長縄 康範
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.156-158, 2015-03-15 (Released:2015-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

ステンレストレー上に風乾した牛乳を加熱することによって乳糖と乳タンパク質のメイラード反応による乳タンパク質のグリケーションが生じる.風乾した牛乳を140°C以上で1時間加熱するとSDS-PAGEによって検出されるタンパク質は消失した.120°C加熱による牛乳タンパク質のグリケーションは高濃度のクロロゲン酸およびエピカテキンで抑制することができたが,アスコルビン酸は逆にグリケーションを促進した.
著者
Takuma WAKASA Kenji SAWADA
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences (ISSN:09168508)
巻号頁・発行日
pp.2020KEP0009, (Released:2021-05-12)

This paper proposes a switched pinning control method with a multi-rating mechanism for vehicle platoons. The platoons are expressed as multi-agent systems consisting of mass-damper systems in which pinning agents receive target velocities from external devices (ex. intelligent traffic signals). We construct model predictive control (MPC) algorithm that switches pinning agents via mixed-integer quadratic programmings (MIQP) problems. The optimization rate is determined according to the convergence rate to the target velocities and the inter-vehicular distances. This multirating mechanism can reduce the computational load caused by iterative calculation. Numerical results demonstrate that our method has a reduction effect on the string instability by selecting the pinning agents to minimize errors of the inter-vehicular distances to the target distances.
著者
高橋 直樹 荒井 章司
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
岩鉱 (ISSN:09149783)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.101-114, 1994-03-05 (Released:2008-03-18)
参考文献数
26

Large amounts of basalt gravels are associated with serpentinite gravels in the Senhata Formation of the Miura Group (uppermost Miocene) in the Boso Peninsula, central Japan. The basaltic rocks possibly constitute a presumed mafic-ultramafic complex (“Fudoiwa serpentinite mass”) in the Tokyo Bay area, which belongs to the Circum-Izu Massif Serpentine Belt. They are slightly altered and have phenocrysts of olivine±clinopyroxene±plagioclase; they are sometimes picritic. Chromian spinel is common both as euhedral inclusions in olivine and as microphenocrysts, and clinopyroxene is often titanaugite. Bulk rock chemistry indicates that intraplate alkali basalts are dominant in the Senhata basalt gravels. Relic chromian spinel chemistry also suggests that the alkali basalts and the picritic basalts are of intraplate magma origin. The close association of intraplate basalts with the Fudoiwa serpentinites may be compatible with the presence of Ti-rich wehrlitic cumulates and Ti-rich metasomatites in the Fudoiwa mass reported by Arai et al. (1990). In the Circum-Izu Massif Serpentine Belt, alkali basalts tend to be associated with small-scale serpentinite masses, and tholeiitic ones, with large-scale masses.