著者
下崎 敏唯
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

熱電変換材料に求められる性質は、大きいSeebeck係数と大きい電気伝導率、小さい熱伝導率である。異常に大きいSeebeck係数と電気伝導率に比較して異常に小さい熱伝導率を持つNaCo2O4は熱電変換材料として極めて優れた特性を有しているが、この高効率性は単結晶の特定の方向でみで実現されており、作成の困難さ、コストなどあらゆる面で多結晶体での高効率化が望まれている。これまで多くの研究者によってNaCo2O4多結晶の高効率化が研究されているが、最大で単結晶の性能の50%程度で、通常10〜20%にとどまっている。本研究では種々の方法(固相反応法、プラズマ焼結法、溶融法、大気中加圧法、ホットプレス法など)で多結晶NaCo2O4の熱電特性の高効率化を試みた。熱電材料の高効率化には異種相や空洞などの欠陥の混在を皆無とし、結晶粒界の弱結合を無くすことで電気伝導度の増大が先ず重要である。本研究ではプラズマ焼結法、ホットプレス法で緻密化を試みたが、粉末の焼結と同時に反応ガスが生成し、緻密化しにくいこと、これらの方法では試料が還元雰囲気となり、原材料が反応してNaCo2O4を生成するためには酸素を必要とすることなどの理由から、緻密で高効率な焼結体の作成は困難であった。このため、酸素の供給が可能な大気中加圧法を考案し、極めて緻密な焼結体の作成に成功した。しかしながら、この焼結体の熱電特性は粉末焼結法で得られたものに比べて、10〜20%程度、性能が向上するに過ぎなかった。加熱中のNaの飛散が原因と考えられ、加熱中、Na2CO3やNaCo2O4と同じ組成を持つ粉末を周辺に添加して解決を試みた。試料の緻密化は可能となるものの性能の向上は認められない。逆に、Naの供給過剰となっている可能性がある。今後、この点の確認、Na濃度の適切な制御を行い、高性能化を試みる。一方、溶融法では種々の問題を克服して、局所的にではあるが緻密で結晶粒が特定の方向に配向した組織が得られた。更なる検討を行う予定である。
著者
高橋 純一 山根 久典
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,酸化物系新規熱電変換セラミックス材料として一次元結晶構造・一次元組織を有するカルシウムコバルト酸化物Ca_3Co_2O_6系単結晶材料を創製し,室温から約1100Kの温度範囲における熱電特性を測定するとともに材料の次元性と特性の関係を明らかにした.Ca_3Co_2O_6はCoO_6八面体とCoO_6三角プリズムが面共有で交互積層した[Co_2O_6]_∞鎖とCa^<2+>イオン列が結晶構造のc軸方向に並行配列した擬一次元結晶構造を持つ.K_2CO_3を融剤としたフラックス法により長さ7mm,太さ0.7mm程度で一次元的な柱状形態を呈するCa_3Co_2O_6単結晶,および,(Ca,Bi)_3(Co,M)_2O_6単結晶(M=Fe,Cu)の合成に成功した.単結晶X線ラウエ写真およびプリセッション写真より,これらの結晶の伸張方向がc軸であることを確認した.大気中での電気抵抗率(ρ),および,ゼーベック係数(S)の温度依存性から,Ca_3Co_2O_6単結晶(c軸),および,(Ca,Bi)_3(Co,M)_2O_6単結晶(c軸)はp型半導体であることが示された.Ca_3Co_2O_6単結晶の出力因子S^2ρ^<-1>は測定温度範囲で温度の上昇に伴い単調増加し,1000Kにおける出力因子値は2.33×10^<-4>Wm^<-1>K^<-2>であった.この値は比較として測定した多結晶Ca_3Co_2O_6(1.02×10^<-5>Wm^<-1>K^<-2>)と比べて一桁高い.また.(Ca,Bi)_3(Co,Fe)_2O_6単結晶(c軸),および,(Ca,Bi)_3(Co,Cu)_2O_6単結晶(c軸)の出力因子はドープされていないCa_3Co_2O_6よりも2〜4倍高くなることがわかった.
著者
徳田 博美 長谷川 啓哉
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

わが国の二大果実である柑橘とリンゴにおける産地マーケティングの実態と課題について、実態調査などにより調査分析した。その結果、柑橘では産地の自然的・社会的立地特性に基づいた産地棲み分け戦略が展開するとともに、園地流動化などの産地再編戦略にも積極的であるのに対し、リンゴでは生産規模による産地序列に規定されながら、量販店などとの関係性マーケティングが指向されていることが明らかになった。
著者
葛岡 英明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. USN, ユビキタス・センサネットワーク (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.130, pp.147-149, 2010-07-08

CSCWの研究では、実験・観察、分析・評価、そしてシステムの試作・開発を繰り返すことが重要であると言われている。しかし、システム開発を専門とする研究者が十分な分析・評価をおこなうことは難しい。筆者らは社会科学者と共同研究することによって、質的分析と量的分析を行いつつ、繰り返し手法を実践してきた。この経験から、両方の分析手法を複合的に利用することが有効であると考えている。

1 0 0 0 判例集

著者
日本知的財産協会 [編]
出版者
日本知的財産協会
巻号頁・発行日
0000

1 0 0 0 判例集

著者
日本知的財産協会 [編]
出版者
日本知的財産協会
巻号頁・発行日
1995
著者
平 伸二
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

P300による虚偽検出は情報検出であり,検査時点で犯行時の記憶を再認できるかどうかが重要である。実務では,犯行から1ケ月以上経過後の検査が約半数を占めており,長期間経過後の検出可能性を検討する必要がある。そこで,本研究では,模擬窃盗課題から1ケ月以上経過後に検査を受ける1ケ月後群,1年以上経過後に検査を受ける1年後群を設けた。さらに,検査直前に模擬窃盗課題を行った部屋の映像を見る犯罪場面群と,大学内の風景を見る大学風景群に分け,記憶の文脈効果から犯罪場面群のP300振幅の増大が認められるかを検討した。特に,模擬窃盗の中心的項目(盗んだ指輪)と周辺的項目(指輪の横にある文具)を裁決刺激とした条件で,P300振幅の違いが認められるかを検討した。平成18年度の1ケ月後群に続き,平成19年度は1年後群を対象とした実験を行った。P300振幅は,1カ月後と1年後のどちらの時期においても,非裁決刺激よりも裁決刺激の方が有意に大きくなったが,条件(中心・周辺)及び群間(犯罪場面・大学風景)の主効果は認められなかった。つまり,映像による事前呈示の有効性は,中心条件でも周辺条件でも見出せなかった。本実験の結果からは,映像の事前呈示や刺激の種類が,明確にP300による虚偽検出の精度に促進効果をもたらすとは結論できなかった。しかしながら,裁決刺激に対するP300振幅は,1ケ月後群,1年後群ともに非裁決刺激よりも増大しており,事件発生から1ケ月以上経過後の検査が約半数をしめている犯罪捜査への適用を促進する結果となった。今後,映像の事前呈示の効果については,複数事件実行犯の特定事件に対する記憶活性化による検出率の向上が期待できることから,累犯(連続窃盗など)に対する検査有効性を検討していく予定である。
著者
黒木 和彦
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

量子力学によって支配される粒子である「電子」は波としての性質を持ち、その周波数と波長(あるいは逆数である波数)の間には一定の関係(分散関係)がある。波の分散関係は一般にそれが伝わる媒質によって異なるが、物質中では電子の分散関係が「バンド構造」となって現れ、物質の性質に重要な影響を及ぼす。一方、物質中には多くの電子が存在し、お互いに反発力(相互作用)を及ぼしあいながら運動している。本研究課題においては、物質が持つ「特異なバンド構造」と電子間の「相互作用」が協力しあうことで生み出される興味深い電子の伝導現象について、その起源と、そこで得た知見をベースにした新機能性物質開発のための設計指針についての理論的研究を行った。
著者
指宿 信 佐藤 達哉 渕野 貴生 堀田 秀吾 藤田 政博
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

取調べの録画におけるカメラ・アングルがもたらす偏見や、自白調書の三次元グラフィック・ツールによる表示、公判前報道が引き起こすバイアス、評議室における裁判員・裁判官の言語コミュニケーション等について、それらの適正化に向けた法学・心理学・言語学・情報工学等の技術や知見を組み合わせた"学融的"アプローチの有効性を検証できた。
著者
加古 敏之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では政策評価を活用して地方自冶体の農林水産行政の改革について考察することを課題としている。兵庫県農政環境部は、農林水産ビジョンに掲げるめざす姿の実現に向けて、多様な行動主体と目標を共有化し、知恵や力を出しあい、適切な役割分担のもとに、ともに取り組んできた。ビジョンで目指す姿がどれだけ実現できたかを毎年評価し、県民に公表するという方法で、ダイナミック・マネジメント・システムを循環させる取組を7年間にわたり実施してきた。こうした取組は徐々にではあるが成果をあげている。より大きな成果を上げるためには、県民、納税者の視点からアウトカム指標に基づく評価をより一層推進することが必要であろう。事務事業評価は、行政機関に既に存在する事務や事業を取り出し、その効果、効率について「事務・事業」の品質チェックをするという特徴をもっており、「戦略」レベルの見直しからは、まだ距離がある。愛知県東海市では、このような状況の打開策としてベンチマーク方式の政策評価を導入した。しかし、住民のニーズを反映した指標は行政の事業から遠いので、住民のニーズと行政の事業を結びつけるロジックモデルを検討し、その後の政策形成につなげていくことが課題といえる。オレゴン州ティラムク郡は、社会指標型ベンチマーキングを活用して、高い成果をあげている。行政からは独立しているティラムク未来委員会は、地域住民から多くの意見・情報を集めて地域の問題を明らかにし、戦略ビジョンとコミュニティ・アクション・プランを策定した。また、達成度評価の結果を公表してきた。ティラムク郡の取組が高い成果を上げている理由として、困難であってもあきらめずに改革への取組を継続する未来委員会の能力、政策評価の実施に関する多くのノウハウを持つオレゴン大学CPWの協力、自分たちの住む地域をよくしたいという地域住民の強い意思と民主主義を実践する住民の能力、を指摘できる。
著者
松岡 俊英 南 佐和子 尾谷 功 八木 重孝 矢田 千枝 帽子 英二 谷本 敏 梅咲 直彦
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.7-10, 2010

副角(Rudimentary uterine horn)は子宮奇形のなかでも最もまれな奇形とされる.副角妊娠はこの副角に妊娠したものであり,総妊娠数の0.0037~0.0082,総子宮外妊娠の0.24~0.6%にみられると報告されている.破裂時には大出血を起こし子宮摘出が必要となることもある.今回われわれは破裂前に診断し治療し得た副角妊娠の1例を経験したので報告する.症例は23歳の初産婦で無月経を主訴に前医を受診した.妊娠12週5日の健診の際に双角子宮あるいは子宮外妊娠の疑いにて当院に紹介となった.初診時に子宮体部は手拳大で圧痛はなくやや左側に傾いていた.経腟超音波検査では下腹部右斜位断像で肥厚した内膜を有する子宮体部を認めた.また左斜位断像にてCRL59.6mm(12週4日相当),心拍動のある胎児を含む腫瘤を認めた.子宮内腔と子宮内膜との連続性はなく,また腫瘤壁は子宮筋層とほぼ同様の輝度であり,腫瘤壁の厚さは約1.37cmであった.ダグラス窩には液体貯留は認めなかった.同日,子宮外妊娠疑いにて入院となった.妊娠13週4日にMRIを施行し,主角腔の子宮内膜とは完全に独立し連続していない副角腔内に胎児を認めた.以上より副角妊娠と診断し妊娠13週5日に開腹手術を施行した.左側子宮底部に破裂寸前の8cm大に腫大した副角を認め,表面から漏出するような出血を認めた.副角に切開を加え,胎児,胎盤を除去した後,副角を切除し創部を2層縫合し手術を終了した.術中に副角と主角の子宮内腔とに交通はみられなかった.〔産婦の進歩62(1):7-10,2010(平成22年2月)〕
著者
高山 喜晴
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ラクトフェリンは骨芽細胞の分化を促進する機能を持ち、骨形成を促進するサイトカインとして再生医療への利用が期待される。このためには、有効濃度のラクトフェリンを骨芽細胞に持続的に供給するドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の開発が必要である。〓型コラーゲンは骨組織を構成する主要な細胞外マトリックスであると同時に、様々な細胞増殖因子を内包し、徐放する性質を持つことが知られている。そこで、〓型コラーゲンが骨芽細胞分化の過程において、ラクトフェリンの徐放担体として利用可能か検討するため、ウシラクトフェリンを含有する〓型コラーゲンゲル薄膜を作成した。この薄膜上でMG63 ヒト骨肉腫由来細胞を単層培養し、デキサメサゾン添加により骨芽細胞に分化誘導すると、ラクトフェリンを含まないコラーゲンゲル薄膜と比較してアルカリフォスファターゼの活性化・オステオカルシンの産生などの分化形質の発現とマトリックスの石灰化(カルシウムの沈着)が促進された。この結果より、〓型コラーゲンゲル薄膜がラクトフェリンの徐放担体として培養骨組織の形成に有用であることが示された。
著者
井上 宜裕
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の第一義的な目的は、わが国における「刑事手続を利用した損害回復制度」の問題点を抽出、分析し、より被害者にとって利用しやすい損害回復制度を確立することであった。フランスの私訴制度及びドイツの付帯私訴制度と本制度を比較検討した結果、本制度には、無罪判決に際する民事賠償に何ら配慮されていないという決定的な問題が存することが明らかになった。上記の目的を達成するためにもこの点の修正が急務である。
著者
剣持 久木
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1930年代のフランスについては、ファシズムの浸透度をめぐる論争がある。その際の焦点は、退役軍人フランソワ・ド・ラロック中佐の政治的位置付けである。本研究は、ラロックをめぐる実像と集合的記憶の乖離に注目した。ラロックは、1934年2月6日の反議会騒擾事件の際に最大の動員力を誇ったため、その秩序正しい行動にも関わらず、ファシズムの脅威の象徴的存在となった。「人民戦線の父」と呼ばれるゆえんである。一方、反人民戦線派にとっても、ラロックは逆の意味で「人民戦線の父」であった。2月6日以降の人民戦線結成の流れに対抗した、保守派大同団結の呼びかけにことごとくラロックは応じなかった。ラロックは、極右という左翼によるレッテルとは裏腹に、中道志向だったのである。とりわけ、1937年春の、ジャック・ドリオ提唱の自由戦線結成を拒絶したことで、保守派全体にとってラロックは「裏切り者」になった。かくして、左翼からのファシズム批判に加えて、ラロックには保守派からの、誹謗中腸の集中砲火が浴びせられことになる。それでもラロックは、大衆的な支持を飛躍的に伸ばし、その党勢は、仮に(戦争によって実現しなかった)1940年に総選挙が実施されていれば、第一党を獲得する可能性があった。ドイツ占領下のヴィシー体制のもとでラロックは、ペタン元帥を支持するもレジスタンスに関与するというスタンスをとる。結局ゲシュタポに捕らえられるが、解放後もフランス当局によって拘留が継続される。2年以上の獄中生活がたたってラロックは、レジスタンスの実績も認定されず、ファシストの汚名を背負ったまま病死する。本研究は、ラロックのファシズムイメージの形成過程に注目すると同時に、彼の死後に根強く残る集合的記憶としてのラロック像の推移にも光をあてた.とりわけ、「反論権」行使という形で、名誉回復に長年奔走するラロックの遺族の戦後の戦いに注目した.