著者
前川 俊一
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

研究において、不動産市場においてどのような市場(サーチ市場(登録市場と交渉市場)、オークション)が形成され、どのような価格形成が行われるかを検討する。また、不動産市場のシステムの国際比較(日本、米国、英国)を行うことを通じて日本における問題を明らかにしたうえで、住宅流通市場を例として売り手の戦略を理論的に検討し、米国と日本について実証分析により登録価格が市場滞留期間と取引価格に与える影響の実証分析を行った。また、仲介業者と買い手または売り手の間のエージェンシー問題を理論的に明らかにし、次善の策としての仲介業者と買い手または売り手の間の最適な報酬契約を理論的に検討して、報酬契約の在り方を提案した。最後にこれらの分析を踏まえて、日本の不動産政策、不動産評価の在り方を検討した。研究の成果は雑誌論文4本、図書1本、学会発表10 本の形で公表した。また、投稿予定の論文も2本ある。今後これら研究成果をさらに進展させてゆきたい。
著者
李 尚禧 吉野 公喜 蘆原 郁
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.1-9, 1998-11-30
被引用文献数
1

聴覚障害者の語音識別能力における個人差の原因を解明することは、聴覚障害児・者の言語訓練・聴能訓練プログラムの開発において重要である。本研究では、聴覚障害者の母音ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力との関係を明らかにすることを目的とした。感音聴覚障害者12名を被験者として、自然音声の日本語母音の第2ホルマント周波数を人工的に変化させた加工音声を作製し、実際の音声知覚により近い状態におけるホルマント周波数の弁別閾値の測定を行った。その結果、ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力の間には高い相関関係が見られ、語音識別におけるホルマント周波数の弁別能力の重要性が示唆された。また、平均聴力レベルとホルマント周波数の弁別閾値の間には必ずしも一致が見られないことが示された。
著者
池邨 清美 中野 茂 堀内 ゆかり KAZUKO Behrens
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ビデオ育児支援法(Video-feedback Intervention to promote Positive Parentingand Sensitive Discipline: VIPP-SD)のわが国での適応可能性を実証することを目的として行われ、親子で遊んだり、日常活動を行っている場面の母親に対するビデオフィードバックが、親子関係改善の介入効果をもつための条件を明らかにした。
著者
一ノ谷 清美
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ヘンリー・フィールディングの政治的パンフレット、および自身が編集した新聞の論説記事をプレス史の観点から包括的に分析し、18世紀英国における政治文化形成過程の諸相を明らかにしようとするものであった。特に、1745年のジャコバイトの乱に際しての政治的議論に焦点をあてて、彼が政体と宗教に関するホイッグの思想をどのように発展させたのか、また、プレスはジャコバイトの大義をどのように扱ったのかについて論証した。
著者
守倉 正博 梅比良 正弘 阿部 宗男
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.105-111, 2001-02-01
被引用文献数
11

無線アクセスは, 比較的低コストで迅速にアクセスネットワークを展開できることから, インターネットアクセス等の広帯域サービスの早期展開手段, あるいは地域通信市場への新規参入者にとっての経済的なアクセスネットワーク構築手段として注目されている.本文では, 高速・広帯域化が進む無線アクセスの動向について述べるとともに, マイクロ波帯から準ミリ波・ミリ波帯を用いた各種無線アクセスシステムの例を紹介し, 無線アクセス技術を展望する.
著者
菅井 清美
出版者
新潟県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

抗がん剤の副作用による足部の抹消神経障害軽減のために、足圧測定と足趾筋力測定、足の動態測定が有用であるか否かを検討した。足圧や重心動揺測定結果を抗がん剤服用前後で比較することで、副作用による二次障害の発生を防ぎ、生活の質を保つことができることがわかった。足趾筋力の強化が足趾圧の増加にはそれほど影響を与えない結果となったが、さらなる立位時の身体保持の要因の検討を追求していきたい。
著者
一之瀬 貴
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

【研究の目的】ファットローディング法は高脂肪を摂取して筋内に脂肪を貯蔵し、その脂肪を運動時のエネルギーとして有効利用する方法である。筋内への脂肪の貯蔵には筋のリポプロテインリパーゼが重要な役割を担っており、その活性は運動後に高まるが、糖質の摂取によって低下することが知られている。一方、スポーツの現揚では運動中に使われたグリコーゲンを速やかに回復することが重要なので、運動直後に糖質を摂取することは不可欠である。本研究では運動直後に糖質を摂取する条件の下、どのようなタイミングで高脂肪を摂取すれば運動時の脂質利用を効果的に高めることができるのかを検証した。【研究の方法】6名の若年成人男性を対象として、運動と食事を2日間統制した後、3日目に自転車エルゴメータを用いて運動試験を行い、疲労困憊までの運動時間と糖質・脂質の酸化量を評価した。食事統制は無作為な順序で、1週間以上間を空けて3回行った:1)運動直後に糖質を中心とした基本食のみを摂取する、2)運動直後に基本食と高脂肪食を同時に摂取する、および3)運動直後に基本食を摂取して、3時間後に高脂肪食を摂取する。運動後以外の食事は全て同じとした。【研究の成果】疲労困憊までの運動時間は基本食と比較して高脂肪食を摂取した場合に延長した。疲労困憊までの脂質酸化量は基本食より高脂肪食を摂取したときに高かったが、糖質酸化量は同じであった。したがって、高脂肪食摂取による運動時間の延長は脂質利用の増加による糖質利用の節約に起因したと推察される。一方、運動時の脂質酸化量は運動直後または運動3時間後に高脂肪食を摂取した揚合で同じであった。以上の結果から、運動後の食事では糖質だけでなく、高脂肪を積極的に摂取することの重要性が示唆された。また、運動後3時間以内の高脂肪摂取による脂質酸化量の増加は、糖質摂取の影響の変動に関係がないことが明らかになった。
著者
一之瀬 真志
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,1)ヒトの動的運動時における筋代謝受容器反射の特性を定量化する実験手法を確立した.また,2)筋代謝受容器刺激時には,動脈圧受容器反射による血管収縮反応が顕著に高まることを明らかにし,このような末梢反射の相互作用が運動時の循環調節に大きく貢献する可能性をみいだした.これらの研究成果は,運動時の循環調節メカニズムの解明を進め,運動の安全性や健康増進の効果を考える上で有意義な学問的基盤となると考えられる.
著者
伊藤 驍 山崎 宣悦 矢野 勝俊 佐藤 幸三郎 長谷川 武司
出版者
秋田工業高等専門学校
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本研は雪害防災対策上、不可欠な降雪・積雪の性状情報を安価で即時的に入手できる高性能な機器を開発し、雪害防除の指針を得るために行われたものである。本研究で行われた主な項目を挙げると1)既存の降雪検知器で沿岸および豪雪山間部で降雪現象の比較観測を行いその性能を調べ、併せて積雪の物理試験を行って地域特性を整理した。2)既存の観測装置はまず高価で精度に問題点がある。本研究ではこの点を検討し、低廉で測定簡易なセンサ赤外線発光ダイオ-ドを素材とする次の4つの方式による装置を作製した。(1)スリット方式(2)複数スリット方式(3)シルエット方式(4)受雪板反射方式これらはそれぞれで特徴をもつがそれを総括すると、従来式の降雪有無の確認に留まらず粒度分布や形状も認識し吹雪の降雪片も捕捉できるように開発した。その性能は従来の機器より優れ安く作製できる見通しを得た。3)上とは別に、情報工学的方法としてビデオカメラ、イメ-ジプロセッサ及び演算処理高速コンピュ-タ-を使って降雪片の性状を分析できるシステムを確立した。4)降積雪の観測から雪害発生の予測に関する指標を提案した。以上の詳細は研究成果報告書して一冊にまとめ印刷製本し、関連研究機関に郵送配布した。
著者
青木 亮 中村 彰宏 大西 靖 轟 朝幸 松本 修一
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

路上駐車対策の実態調査および路上駐車の配置が旅行時間に与える影響や、路上駐車と実交通流の関係をモデル化することで、環境負荷を含めた路上駐車の社会的費用を計測した。シミュレーターを用いた社会的費用のモデル化については、理論仮説の成果にLIME などの手法を組み込み、路上駐車配置が交通流に与える影響を明らかにした。また実交通流をもとにモデル化することで、バス停付近における路上駐車が交通流および公共交通に与える社会的費用を、浦安駅周辺を事例に推計した。さらに表明選好法の一つであるコンジョイント型のアンケート調査データを用いて、違法路上駐車の利用傾向を分析した。これら成果をもとに、交通政策への適応可能性の検討に関する議論を行った。
著者
秋山 壽一郎 重枝 未玲
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

任意の降雨外力から、流域・都市域の諸特性と各種治水施設の特性・機能を的確に考慮した上で、内外水が複合した浸水・排水プロセス、被害の状況、治水システムのバランスなどを評価・検討できる(1)「浸水減災シミュレータ」を開発した。また、(2)実流域・都市域での実績データに基づき、降雨流出、洪水特性、都市域における氾濫特性の再現性などを検証した上で、(4)そこでの治水対策の被害軽減効果と、仮想的な外力に対する浸水被害の評価・検討などを行い、同シミュレータの有用性・実用性を実証した。(5)併せて、環境にやさしい減災施設である樹林帯・水防林の工学的評価と樹林帯整備のあり方について検討を加え、整備計画のための検討ツールを開発した。
著者
Liebmann Brant Hendon Harry H. Glick John D.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.401-412, 1994-06-25
被引用文献数
1

当論文においては、西太平洋及びインド洋における熱帯低気庄とMadden-Julian振動(MJ0)との関連を記述する。熱帯低気圧は振動の積雲対流活動活発期に生じ易いし、雲塊は下層の低気圧性渦度の周辺に存在し、発散場はMJ0に伴う積雲対流活動の西方極側に現れる。熱帯低気圧や台風の絶対数は振動の積雲対流活動活発期に増大するが、弱い熱帯低気圧から転化する熱帯低気圧と台風の比率は、積雲対流活動活発期と乾燥期において同一である。積雲対流活動活発期においてより多くの熱帯低気圧や台風が存在するのは、当時期により多くの弱い熱帯低気圧が存在することによる。当研究の第三の結果は、積雲対流活動活発期の熱帯低気圧の活動度がMJOの活動度に限定されていない点である。事実、我々はMJ0と独立かつ無作為に選ばれた積雲対流活動活発期において熱帯低気圧の活動度が同等に増大することを見いだした。結論として、MJ0は熱帯低気圧に影響を及ぼす独自の機構を持つと言うより、むしろそれに伴う熱帯の変動度が大きな割合を占めるという点で重要である。
著者
浅井 冨雄
出版者
東京大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

1. 昭和57年7月23日から25日にかけて、九州北西部を中心に、総降水量600mmを越す大雨が降った。とりわけ、23日19時から22時までの3時間に長崎では約300mmに達する降水量が記録され、多数の死者を含む大災害がもたらされた。本年度は3年計画の最終年度にあたるので、これまでの研究をさらに進め、特に、長崎豪雨に直接あるいは間接的に関与したと考えられる二つの異なったスケールの気象擾乱に注目し、それらの動態を解析し、長崎豪雨との関連について考察した。2. 中間規模(〜1000km)低気圧 東シナ海上をやや発達しながら東進し、23日にその中心が対馬海峡西部に達した低気圧は水平規模が1000kmの背の低い所謂中間規模低気圧であった。この低気圧は23日に中心気圧が最低となり、東進速度は著しく減じた。その構造は通常の発達しつつある温帯低気圧のそれとは異なり、弱い熱帯低気圧の特徴を備えていた。低気圧下層前面で南西からの暖湿気流の流入が顕著で、九州は豪雨の起こりやすい状況下にあった。さらに、長崎県付近は下層で南西風が卓越するとき地形的に収東域、したがって上昇気流域となり易いことがアメダス気象資料を用いて示された。3. 中規模(〜100km)擾乱 23日午後、上記の低気圧中心から南東に延びる温暖前線上を北北東から南南西に通るバンド状のレーダーエコー(強い降雨帯)が南東進した。このエコーの水平規模は〜100kmであり、所謂中規模擾乱に相当する。地上気象観測資料からバンド状中規模擾乱は北九州に上陸後エコーパターンは崩れるがほぼ時速30kmで南東進しつつ衰弱する。4. 長崎豪雨の機構 中間規模低気圧により長崎県付近に豪雨発生のための好条件が形成され、そこを直通したバンド状中規模擾乱がtriggerとなって自励的メカニズムを有する積乱雲が長崎付近に次々と発現しその結果豪雨となったと推論された。
著者
Baik Jong-Jin Paek Jong-Su
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.857-869, 2000-12-25

バックプロパゲーション型ニューラルネットワークを使って、北西太平洋での熱帯低気圧の強度の変化を12, 24, 36, 48, 60, 72時間について予測するモデルを開発した。用いたデータは、1983-1996の14年間の北西太平洋の熱帯低気圧に対する、低気圧の位置、強度、NCEP/NCARの再解析、それに海面水温である。ニューラルネットワークの予測因子は重線形回帰モデルの予測因子に基づいて選ばれた。回帰分析により、予測因子の一つ風の鉛直シア-が全ての予測時間に渡って一貫して重要であることを示した。予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルによる平均予測誤差は、同じ予測因子を用いた重線形回帰モデルに比べて7-16さらに、予測因子として気候学的、持続的因子のみを用いたニューラルネットワークモデルの性能でさえも、総観的因子まで含んだ重線形回帰モデルの性能をわずかに上回った。ニューラルネットワークモデルの性能は14年間の全ての年について回帰モデルを上回るわけではないけれども、ニューラルネットワークモデルの方が良い年の方が逆の年よりもずっと多く、その傾向は短い予測時間の方が顕著である。感度実験により、ニューラルネットワークモデルの平均強度予測誤差は、隠れ層や隠れ層のニューロンの数には敏感ではないことを示した。しかし、熱帯低気圧強度予測のために、より良い隠れ層の構造を用いることにより、回帰モデルに比べてニューラルネットワークモデルをさらに改良する余地がいくらかある。この研究は、予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルが熱帯低気圧の強度予報において有効な道具として使えることを示唆している。
著者
大櫛 祐一 坂本 正弘 東 順一
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.153-157, 2009 (Released:2010-01-29)
参考文献数
9
被引用文献数
1 6

含水下マイクロ波加熱(140°C, 5分)を利用して抽出したヤマブシタケ子実体に含まれる多糖類の特徴を, 通常の外部加熱を用いた熱水抽出(100°C, 6時間)から得た多糖類の化学構造と比較検討することにより解析した. サイズ排除クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した主な多糖類は, 通常の外部加熱ではfucogalactanと(1→6)結合に富んだ(1→3;1→6)-β-D-glucanであったのに対し, マイクロ波加熱の場合では(1→3)結合に富んだ(1→3;1→6)-β-D-glucanであった. マイクロ波加熱抽出物の低分子画分(M-3 fraction)に含まれるgalactose, fucoseの含量がかなり高くなっていたことから, マイクロ波加熱では, fucogalactanは低分子化していることが示唆された(Table 2). また, メチル化分析の結果(Table 3)から, 通常の外部加熱により得られる(1→3;1→6)-β-D-glucanの(1→6)結合のうち22.5%がマイクロ波加熱中に開裂していることが予想された. 本研究の結果より, ヤマブシタケ子実体から(1→3)結合を多く含むβ-glucanを抽出する上で, 通常の外部加熱を用いた熱水抽出よりも含水下マイクロ波加熱抽出の方が有効であることが示された.
著者
高畠 幸司 五十嵐 圭日子 鮫島 正浩
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.327-332, 2008-11-25 (Released:2008-11-28)
参考文献数
23

ヤマブシタケ菌床栽培において,栽培後に生じる廃菌床を培地材料に用いて再び栽培した。この工程を3回繰り返した。子実体収量は繰り返し3回目でも最初の培地(基本培地)と同等であった。しかし,廃菌床培地は1回目の廃菌床培地で子実体収量が最も多く,その後,リサイクルする毎に減少した。子実体収量はリサイクル2回目までは基本培地の1.3~1.4倍になった。1回目,2回目の廃菌床培地では,低分子α-グルカン,β-グルカンの含有量が多くなり,C-N比が低くなった。低分子グルカン並びにN源の増加が子実体収量の増加に寄与することが示唆された。ヤマブシタケ菌床栽培において,リサイクル2回目までの廃菌床は,培地材料として有用であることが明らかになった。
著者
山岬 正紀
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、申請者がこれまでに開発してきた数値モデルを基にして、熱帯低気圧の発生のメカニズムをも従来より適切に表現できるようにモデルを改善し、また熱帯低気圧の発生過程をより深く理解するための数値実験を行った。とくに改善のポイントとしては、このモデルではメソスケールに組織化した対流をあらわに表現していることが特徴であるが、その中で用いている積雲対流スケールのパラメター化の方式において、放出される熱の鉛直分布や雲の微物理過程の効果の取り入れ方を改善することによって、メソスケールに組織化した雲の振舞いを改善することができた。この改善にあたっては、計算時間をできるだけ有効に使うために、非静力学2次元モデルも併用し、対流の組織化のメカニズムなど問題の本質を理解しつつ、その結果を3次元モデルに組み込んで現実的な熱帯低気圧のモデルヘと改善した。一方、熱帯低気圧の発生過程のメカニズムの理解については、とくに、メソスケールに組織化された対流がどのような振舞いをすることによって、さらに大きな渦へと組織化するのか、風や温度場のメソスケール構造がどのように変化して、熱帯低気圧の発生に至るのか、など基本的なことを明らかにすることができた。また、熱帯収束帯における熱帯低気圧の発生やケルビン波の中の雲システムがまとまって熱帯低気圧に至る過程についても新たな知見が得られた。
著者
山中 大学 前川 泰之 深尾 昌一郎 橋口 浩之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は,中小規模(水平スケール10^1〜10^3km程度,時間スケール10^1〜10^3分程度)の大気擾乱のうち,最も大きな階層である中間規模温帯低気圧(梅雨・秋霖季の亜熱帯前線帯に卓越)や熱帯低気圧の力学的構造について,過去に蓄積されたMU・境界層・気象レーダー観測結果を総合的に解析するとともに,観測を継続的に実施することによって解明することであった.2年間における成果の概要は以下の通りである:1.梅雨・秋霖季中間規模温帯低気圧の研究1986年以来の梅雨季(6〜7月)・秋霖季(9〜10月)の対流圏〜下部成層圏領域におけるMUレーダー(VHF帯)による標準観測データ(風速3成分,成層度,乱流風速分散)を,雨滴エコーなどを入念に除去してデータベースとして整備した.特に1991年6月17日〜7月8日に行った梅雨季3週間連続観測については,同時に行ったラジオゾンデ・気象レーダー(X,C,Ku帯)・気象衛星・気象庁客観解析結果などとともに整理し,中間規模低気圧構造,地上低気圧中心に相対的な鉛直流変動(対流雲群)の水平分布(階層構造),個々の対流雲の構造と時間変化などのほか,下部対流圏の低気圧通過に伴う対流圏界面ジェット気流や下部成層圏慣性重力波,乱流の分布特性と強度(鉛直渦拡散係数)などの時間変化も得た.また1992年6〜7月に行なった境界層レーダー(UHF帯)・MUレーダー同時観測からは,中間規模低気圧の鉛直位相構造が対流圏下部(大気境界層)で逆転する例,中〜上部対流圏‘generating cell'の構造と降水粒子降下などを検出した.1995年6月上旬に実施した新たな観測では,約10年前に観測されたようなcold vortexの通過に遭遇し,今回は中心よりかなり南側の詳細な構造を得ることに成功した.3.台風およびその温帯低気圧化の研究秋霖季の観測結果のうち,強い台風の中心付近を観測した1991年9月19〜20日(台風9019号),1994年9月29〜30日(台風9426号)の2つのケースについて,MUレーダー水平風速を気象庁資料と組み合わせることにより,台風中心からの水平距離の関数としての接線・動径風速に換算し,全体的には典型的な熱帯低気圧の軸対称構造を確認したが,非対称構造や時間変化など温帯低気圧化も示唆された.特に台風9428号については,様々な中心通過経路および時刻について計算を繰り返して,15分程度の間隔で前後2回ある地上気圧低極の間の時刻に中心がレーダーのほぼ真上を通過したとの結論を得た.また角運動量,渦度,ヘリシティ(速度と渦度の内積)など準保存量の解析も行なった.さらに地上・気象レーダー・レ-ウィンゾンデ・衛星,関西電力堺火力発電所境界層レーダーなどの観測データも解析し,MUデータとの比較から,最盛期の熱帯低気圧の特徴であるwarm core構造を持つことを確認するとともに,中心部が竜巻に見られるような螺旋構造を持ち,そのため局所的に高気圧性回転しているように観測されることがわかった.1995〜96年には顕著な台風がMU観測所に接近することはなかったが,1996年7月17〜18日には台風9606号の中心付近を部分的に観測した通信総合研究所山川観測所(鹿児島県)境界線レーダーのデータを解析した.また過去にいくつか観測された台風崩れの梅雨・秋霖季中間規模低気圧についても,新たに解析を試みた.以上の研究を通じて,台風の中心付近や,梅雨前線帯の雲の階層構造に伴う3次元風速変動が初めて実測されたと言える.さらにVHF/UHF帯レーダーの中間規模低気圧・台風研究への有用性と具体的観測方法が確立され,メソ気象学の分野に新しい側面を切り開いたことも特筆すべきである.