著者
伊藤 亜矢子 青木 紀久代
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではスクールカウンセラーの学校全体への支援を可能にするツールづくりを国際比較によって行うことを目的とした.米国,スコットランド,香港などの研究者・実践者との協議や現地調査,共同研究を行った結果,(1)学級を切り口に学校全体への支援を行うための学級風土質問紙小学校版の公開と,中学校版も含めた自動分析システムの構築,(2)子どもの肯定的資質をアセスメントする質問紙の作成試行,(3)SCと教師の協働を促進する教師向けパンフレット,テキスト作成,(4)支援サイト試行などを行えた(一部継続中).
著者
金子 育世
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本人英語学習者のスピーキングにおける感情表現を観測し、米語母語話との比較を行うため、生成実験を実施した。日本人大学生10名(男性6名、女性4名)と米語母語話者(男女各1名)を被験者とし、2つの課題のもとに書かれた英文手紙をテープレターにするつもりで読んでもらい、録音した。感情表現の中でも愛情表現と哀悼表現に着目し、それらが第二言語と第一言語でどのように異なるかを観測するため、課題は「付き合って3年目の記念日に恋人に渡すラブレター」と「大学入学前にとてもお世話になった先生が亡くなったことについて、先生の家族に送るお悔やみの手紙」とした。日本人被験者は全て海外滞在経験のない大学生で、英語能力はTOEICにおいて平均が484点(280点〜650点)であり、米語母語話者は英語教材の録音を担当するプロのナレーターであった。音声資料において、音声分析ソフトを用いて音声波形、スペクトログラム、イントネーションカーブを作成し、米語母語話者が強調している語を分析語とした。日本人被験者の各分析語のピッチ高低差、持続時間、強度を測定し、米語母語話者のものと比較、分析を行った結果、日本人被験者は米語母語話者に比べて、ピッチの高低差が少なく、持続時間が短かいが、強度は高いことが観測された。このことから、日本人英語学習者はピッチの高低差と持続時間の不足部分を強度で補おうとしていることが示唆された。また、男性よりも女性において英語母語話者に近い音響特徴が観測され、女性の方が英語における感情表現の習得が進んでいることも示唆された。さらに日本人の音声資料に関して、単音、プロソディ、感情表現、全体的印象を4人の英語母語話者(男女各2名)にそれぞれ評価してもらった結果、ラブレターよりもお悔やみの手紙の方が高い評価を得た。このことから、日本人英語学習者は愛情表現よりも哀悼表現において習得が進んでいることが示唆された。
著者
黒岩 真弓
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:近年、医療や生命科学の分野で生体分子間相互作用のリアルタイム解析が必要であり、このような分野では、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)を用いたBiacoreによる生体分子間相互作用解析がポピュラーである。一方でSPRよりも小型・安価で使いやすいと最近注目をあびつつあるQCM(Quartz Crystal Microbalance)も生体分子間相互作用リアルタイム解析に使われている。QCMとSPRは原理の違いから、求められた解離定数に差が生じることがあるがその理由はまだよくわかっていない。また、QCMシステムによっては抗原抗体反応を行わせる前段階で周波数が安定しないということも起きている。この原因もよくわかっていない。今回は前述2種類の測定システムにより決定された解離定数等の比較検討を行い、その違いと原因を明らかにし、分子間相互作用や吸着のメカニズムを詳細に検討することを目的とした。○研究方法:今回新たに共振型QCMの共振周波数特性測定ならびに電気的等価回路定数解析を行うためのPCをコントローラとした測定システムを構築した。従来の発振型QCMを用いて抗原抗体反応の検出最適条件を検討した。SPRにおいても最適条件の検討を行った。発振型QCM、SPRの検出条件をもとにし共振型QCMにおいて抗原抗体反応の検出を検討した。○研究成果:抗原抗体反応を検出するためにQCMを用いる場合、温度の影響はもとより、バッファーならびにサンプルの送液速度、抗原濃度、抗体濃度等が測定データに及ぼす影響がかなり大きいことが示唆された。
著者
西本 真弓
出版者
阪南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、出産・育児と就業の両立を図るためにはどのような制度が必要とされているのかを明らかにするため、育児休業取得後の復職率を高める要因は何かを分析した。具体的には復職率が高い企業で導入されている制度や職場環境を明らかにし、復職率を高める要因を検証した。また、配偶者出産休暇制度や子の看護休暇制度にも注目して、これらの制度を有効に機能させるために必要なことは何かを検証し、男性の育児参加も視野に入れた分析を試みた。
著者
藤川 和利 砂原 秀樹 猪俣 敦夫 垣内 正年 寺田 直美 油谷 曉
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題では、複数の4K映像ストリームが混在する環境を対象として、インターネット上のネットワーク機器におけるパケットマーキング機能およびパケット優先廃棄機構を開発し、実証実験を通して開発した機構等の有用性が確認できた。
著者
能町 しのぶ 村井 文江
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、死産時の看護ケアを行っている助産師が捉える効果的な看護支援と、死産を体験した母親が捉える死産時の看護ケアニーズから、死産時の看護プログラムを構築していくことを目的としている。看護支援の提供者である助産師21名、看護支援の受け手である死産体験者10名にインタビューを実施した。結果、母親と子どもの安全を保障すること、母親と死産した子ども、家族が共に過ごす場・時間を確保すること、母親や家族の意思決定を支援すること、退院後のフォローをすることが、プログラムの内容として挙げられた。
著者
新 恵里
出版者
京都産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の二年目として、本年度は、法医学の分野において、被害者への支援、特に遺族ケアを行っている諸外国の取り組みについて文献の収集、調査、検討を行った。司法解剖における遺族ケアについては、グリーフ・カウンセリングが主流であり、医療機関での遺族対応の問題も含めて文献、資料収集を行った。また、下記の諸外国において、文献の収集およびインタビューによる調査を行った。1)外傷体験を持ちやすい専門職(警察、消防、検視官など)へのメンタルケアと同時に、遺族ケアも行っているアメリカ合衆国の行政機関からインタビューを行った。2)「犯罪被害者庁」をもち、捜査段階で国選弁護人を被害者につけ、また司法解剖においては遺族に説明義務を持たせているスウェーデンでの取り組みについて調査を行った。3)検死および検死法廷(Coroner's Court)の制度が整っているオーストラリアビクトリア州において、検死事務所所属のカウンセラー、検死法廷での民間支援機関であるCourt Networkの責任者およびスタッフ、ボランティア、長期的な支援を行っている民間支援機関Compassionate Friendsのスタッフからインタビューによる調査を行った。これらの研究結果は、第43日本犯罪学会で報告を行ったほか、第7回国際法医学シンポジウムにおいても、報告を行う予定である。また、日本における犯罪被害者支援政策は、犯罪被害者等基本法において整備されつつあるが、過渡期にある現在、これら研究成果をもとに、今後も本研究を発展的に継続する予定である。
著者
池岡 義孝 木戸 功 松木 洋人 松木 洋人
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、戦後日本の家族社会学の成立と展開を詳しく検討することである。それを、文献研究と年配の先生方へのインタビューを通じて行い、所期の目的を達成することができた。とくに、家族社会学の主流だけでなく、家族問題研究のグループ、マルクス主義家族社会学のグループ、女性学・フェミニズム研究のグループなど多様な研究の流れを明らかにすることができたことが大きな成果であった。このことで、戦後家族社会学の展開を多元的に理解する視座をえることができた。
著者
西川 真子
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

中華民国時期以降の歴史を見れば、孫文と宋慶齢、周恩来と〓頴超、梁思成と林徽因等のように、ともに高い教養を身につけ、知的な営みを共有する夫婦が少なからず存在する。あるいは、胡適の場合のように、親の決めた婚約者が旧式の教育しか受けていなかったため、自分の妻に知識を得て教養を磨くことを強く望んだ例も存在する。妻にも高い知的好奇心を求める--この志向性は中国の知識人階層の中に途切れることなく継承されている。先年亡くなった銭鐘書とその妻楊絳女史の場合も、夫妻とも著名な文学研究者、作家として切磋琢磨しながら知識人として洗練の度を加えていった。民国期以来の中国で何故このような知識人同士の夫婦関係が生まれることになったのか。本報告書では、清末から民国時期にかけて中国の知識階級でおこなわれた、家庭と夫婦のありかたに関する議論を振り返って中産階級の家庭観を考察した。特に胡適とその妻江冬秀に関しては2002年7月13日関西中国女性史研究会等主催のシンポジウム「ジェンダーからみた中国の家と女」において「民国時期知識人の家庭観-胡適の結婚」と題して研究発表をする機会を得た。同じ視点から梁思成と林徽因夫妻の事例について考察した成果は論文「民国時期中国知識人夫婦における知の共有-梁思成と林徽因」(『名古屋外国語大学外国語学部紀要』23号)にまとめた。銭鐘書と楊絳夫妻の事例は、彼らの民国時代から解放後文化大革命を経て1980年代に至る長期の活動を俯瞰し、知識人家庭における夫婦間の知の共有のありさまと、家族をつなぐ媒介としての知識と教養のありかたについて考えた。
著者
門田 功
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

昨年に引き続き、赤潮の原因毒であるブレベトキシンBの合成研究を行った。デオキシリボースを光学活性源として、BC環部に相当するα-クロロスルフィドとFG環部アルコールをそれぞれ合成した。両者を銀トリフレートを用いて縮合し、O,S-アセタールを合成した。さらに数段階でアリルスズを導入して分子内アリル化反応のための基質を合成した。この化合物を銀トリフレートで処理したところ84%の収率で環化反応が進行し、目的の化合物が立体選択的に得られてきた。得られた化合物に対し、Grubbs触媒による閉環メタセシスをおこなってB-G環セグメントを得ることができた。さらに数段階を経てA環を構築し、A-G環部とした。これをJK環部に相当するカルボン酸とエステル縮合し、さらに数段階を経て環化前駆体を合成した。この化合物に対して先ほどと同様に分子内アリル化と閉環メタセシスをおこない、ブレベトキシンBのポリエーテル骨格を得ることができた。この化合物に対してラクトン化、脱保護、アリルアルコールの選択的酸化を行い、ブレベトキシンBの全合成を完了した。合成品の各種スペクトルデータは天然のものと完全に一致した。また、同様の方法論を用い、イェッソトキシンおよびアドリアトキシンのFGHI環部の収束的合成に成功した。これらの化合物は下痢性貝毒の原因毒として、二枚貝養殖に多きな被害を与えており、ブレベトキシンBと同様深刻な社会問題となっている。本研究により、これら海産毒の活性発現機構に関する研究が進展するものと期待される。
著者
松田 義信 窪田 文武 縣 和一 伊藤 浩司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.150-156, 1991-04-30
被引用文献数
7

トウモロコシを対照作物に用いて,ネピアグラス個体群における超多収性要因を解明した。1.ネピアグラスは,生育初期段階(植え付け-6月)では,茎数の増加が顕著であり,植え付け後23日には茎数密度は約100本/m^2に達した。茎葉は水平方向に伸長し,LAIが低い生育段階における光利用効率を高める受光態勢となった。2.生育中期段階(7月-8月)になると,自己間引きにより茎数が急激に減少し,約25本/m^2となったが,夏季高温下で葉の展開速度が速まり,高い葉面積指数(LAI=13.3)の個体群が形成された。この間,茎葉の伸長が水平方向から垂直方向に変わるため,吸光係数(K)が低下する等,群落構造に変化が起こり,個体群は長期間,高NAR(純同化率)を維持した。CGR(個体群生長速度)の最大値は,53.3g/m^2/dayであった。3.生育後期段階(9月-11月)では,群落下層部葉の枯死が増加するが,1茎当りの出葉数が多いためLAIは高い状態に維持された。4.トウモロコシに比較して,ネピアグラスの群落構造は極めて柔軟性に富み,いずれの各生育段階での光利用効率が高いため,物質生産能力が高まり,最終収量ではトウモロコシの2倍の値(4.4kg/m^2)となった。
著者
生田 茂
出版者
大妻女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

「音声や音をドットコード化し,画像やテキストとともに編集し,カラープリンタを用いて普通紙に印刷する」ソフトウエア技術と,「印刷されたドットコードをなぞって,音声や音を取込んだそのままに再生する」ハードウエア技術を活用して,子どもたちや先生の「生の声」を用いて教材を作成し,これまでは不可能だった「新しい」教育実践活動に挑戦した。外国人英語指導員とともに取組んだ新学習指導要領のもとで始まる小学校の英語活動用の副読本の制作と教育実践,英語活動だけでなく,道徳や社会,国語などでも使える副読本作りの活動と実践,音声の入ったシートを活用して子どもたちが楽しく集う図書室づくりを目指した取組み,多摩川の河岸で生きるおばあさんのメッセージを子どもたちに伝える音声入りのシートや壁新聞を用いて,大都市東京における多摩川の果たす役割や多摩川と人々との関わり,おばあさんの生き様を学びあう活動などを展開した。また,子どもたちの社会科見学や学芸会などを振り返る活動のシートづくりと実践,1992年のリオデジャネイロの地球環境サミットで行なわれた12歳の少女のスピーチ(思い)を子どもたちに伝えるための教材づくりと実践などを行なった。特別支援学校に続いて取組んだ通常学校における「音声や音を活用した教育実践活動」は,これまでは不可能だった「目の前の子どもたちや担任の先生の声,そして,学校の回りの自然の音を教材化する取組み」であり,課題を抱えた子どもたちをも巻き込んだ楽しい取組みを展開することができ,新しい教育活動の可能性を示すことができた。
著者
安田 輝男 岡本 明 長岡 英司 生田目 美紀 井上 征矢
出版者
筑波技術大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1.19年度の実績・成果を踏まえ、20年度はさらに精度を高めた立体ポスターの制作とその展示、調査を積極的に行った。また、有効なサポート情報としての音声情報(聴覚情報)の開発も行った。2.立体ポスターの原画にあたるポスター制作に関しては、本年度も本学デザイン学科の学生を指導して制作。二科展デザイン部等へ応募して、入選・準入選等の成果を得た。3.「触って観る」アート(立体ポスター)は、つくば西武ホール(20年1月)、二科茨城支部展(20年5月)、二科展(20年9月)、筑波技術大学く日韓デザイン学術研究交流大会〉(20年7月)、いばらきデザインセレクション2008(20年10月)、筑波大学(20年10月)結城信用金庫(20年10月)、第23回国民文化祭・つくば美術館(20年11月)、水戸医療センター(20年12月)等で展示され、随時アンケート調査も実施。昨年に引き続き、展示場に訪れた鑑賞者からは深い理解を頂き、社会貢献の意義からも資するところ大であった。4.音声による画像情報支援システムによる「触って聴く」ポスターも随時展示し、強い関心を得た。(*協力:東京カートグラフィック(株)・(財)テクノエイド協会)。5.本研究チーム制作の「触って観る」ポスターとその活動に対して、第23回国民文化祭くつくば市議会議長賞〉、いばらきデザインセレクション2008知事選定、二科茨城支部感謝状が贈られた。6.本研究をまとめた小冊子「『触って観る』アートプロジェクトの歩み」(A5版28頁/英訳付き3000部)を出版。各方面に配布し、本研究の理解促進に供している。
著者
樋口 直宏 石井 久雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、小中一貫教育における4-3-2学年制が児童生徒の学力および態度形成にどのような影響を及ぼすかを明らかにした。そのために、授業観察、「お世話活動」や合同部活動といった異学年交流の参与観察、児童生徒に対する質問紙調査、教職員に対する聞き取り調査等が行われた。教師と生徒は4-3-2学年制の学校生活において、互いに「中1ギャップ」への対応を図ろうとする様子が見出された。
著者
樽木 靖夫 石隈 利紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.101-111, 2006-03-30
被引用文献数
1

本研究は,中学生の学級集団づくりに活用される文化祭での学級劇において,彼らの小集団の体験の効果について検討した。主な結果は次の通りである。1)文化祭での学級劇における小集団の体験において,小集団の発展を高く認識した生徒は,そうでない生徒よりも自己活動の認知(自主性,協力,運営),他者との相互理解を高めた。2)文化祭での学級劇における小集団の体験において,担任教師の葛藤解決への援助介入は小集団の発展を促進し,生徒の自己活動の認知,他者との相互理解に影響した。3)文化祭での学級劇における小集団の体験において,同じ目標を目指しながら異なった活動をする「分業的協力」を高く認識した生徒は,そうでない生徒よりも学級集団への理解を高めた。
著者
飯田 剛史 玄 善允 山口 健一 金 希姃 宮本 要太郎 小川 伸彦 片岡 千代子 石川 久仁子 李 定垠 北村 広美 田島 忠篤 金 賢仙 渡辺 毅 池田 宣弘 藤井 幸之助 稲津 秀樹
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

研究成果報告書『民族まつりの創造と展開』(上巻・論考編 287頁:14名の寄稿者による13編の論文と7本のコラム、 下巻・資料編 350頁:9編の資料)を作成した。学会報告を行った(研究連携者 田島忠篤「戦後北海道における民族マツリの展開」、韓国日本近代学会)。民族まつり実施団体および研究者のインフォーマルネットワークを形成し、今後の民族まつりの実施および研究上の連携にそなえた。
著者
多賀 茂 中川 久定 中川 久定 多賀 茂
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

多賀-18世紀においてもフランスでは、いまだ自国の文学を固有の伝統を持つ一つの集合体として見る考え方は一般的ではなかった。いわば「フランス文学史」という観念はいまだ一般的には成立していなかったのであり、古代ギリシア・ローマの古典とそれに対するヨーロッパ近代の古典という図式のほうが支配的であった。ところが、史上初めて「フランス文学史」と名乗った文献は17世紀にまでさかのぼる。エリート的学問層の集団であり、批評術的歴史研究の中心であったベネディクト派修道会によって編纂が開始されたフランス文学史がそれである。ただしここには、文学史をさまざまな美的価値が連続的に現れては消える過程と見なす考え方はない。彼らにとって文学史とは、フランス語で書かれた文書のうち詩・小説・歴史・思想などの領域に属するものすべてが形成する集合体のことであった。中川-18世紀のフランス社会において、ギリシア・ラテンの古典はいったいどのような役割を果たしたであろうか。ディドロ・ダランペール編『百科全書』、パンクーク編『百科全書補遺』の初校目の分析を通して、次のようにこの問題の解明を行った。古代から18世紀にいたるヨーロッパにおいて生み出されたさまざまな著作のうち、「古典的」という修飾語を冠するに足りるものはどれであるかについての合意が成立したのは、18世紀半ばであった。他方、18世紀のフランス社会は、ギリシア・ラテンの古典を同時代的状況に適用する試みを多数生み出すことにも成功していた。たとえば、プラトンの『ソクラテスの弁明』は、ヴォルテール、ルソー、ディドロの3人によって、当時の状況に適応するような形で、独自の仕方で読み直され、解釈された。こうして、18世紀フランス社会は、古典を媒介とすることによって、ヨーロッパ文明の連続性を継承しつつ、しかも同時に自己革新をはかることに成功した特異な世紀であった。