著者
吉田 勝 奥平 敬元 有馬 真 古山 勝彦 加々美 寛雄 小山内 康人
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1)平成11年度と12年度の2年間ににかけて、インド原生代変動帯を主題とし、UNESCO-IUGS-共催事業国際地質対比計画(IGCP)No.368プロジェクトの総括研究を行った。補助金によって蛍光X線分析装置と走査電子顕微鏡を購入し、後者には既存のEDXを装着し、研究地域の岩石・鉱物の分析的研究を行い、多くの成果を得た。インド楯状地及び関連地域の内いくつかの重要地域の野外研究を実施した。インドから科学者2名を招聘し、同位体年代分析あるいはインド原生代変動帯に関する全般的な情報提供を頂いた。また、インドの研究協力者らによってインド半島原生代変動帯の重要地域の地質研究成果のとりまとめが行われた。これらによってインド亜大陸の原生代変動帯に関する広く新しい知見が得られ、多くの国際集会に参加して研究発表、討詮及び研究のまとめを行った。2)これらの研究の結果、インドの原生代変動帯はメソ原生代のロディニア・東ゴンドワナの集合テクトニクスで重要な役割を演じたこと、ネオ原生代には基本的には再変動であったことが示された。最近Powellら(Gondwana Research 4,PP.736-737)などによって東ゴンドワナのネオ原生代集合モデルが提案されているが、我々の研究成果は、この新しいモデルはさらに精密な検討を要することを強く示唆している。3)これらの研究成果は研究分担者、協力者らによって国際誌等での学術論文公表135編・国際シンポジウムなどでの研究発表59題、国際誌特別号や学会メモアなど18冊の論文集冊などとして公表され、或いは印刷中である。4)本研究の成果報告書として「インドの原生代変動帯:IGCP-368の研究成果」(英文、GRG/GIGE Misc.Pub No.15)が発行された。本書は全376頁で、第1章:東ゴンドワナ研究の最近の進歩、2章:東ゴンドワナのテクトニクス、3章:インド半島のテクトニクス、岩石とミネラリゼーション、4章:アフリカと周辺地域のテクトニクス、岩石とミネラリゼーション、5章:南極のテクトニクスと岩石・6章:その他のゴンドワナ地域の地質、7章:IGCP-368プロジェクトの活動-国際シンポジウムとフィールドワークショップ-から成り、公表論文リスト、講演リスト、文部省提出書類ファイル一式が付録として付けられている。
著者
岡本 玲子 谷垣 静子 小出 恵子 鳩野 洋子 岩本 里織 草野 恵美子 小寺 さやか 岡田 麻里 塩見 美抄 合田 加代子 井上 清美 尾ノ井 美由紀 松原 三智子 岡本 里香 小野 美穂 金藤 亜紀子 田中 祐子 星田 ゆかり 茅野 裕美 福川 京子 俵 志江 長野 扶佐美
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

近年、健康課題の多様化・深刻化に伴い、保健師に求められる役割が拡大・高度化している。本研究の目的は、大学院博士前期課程の科目で実施する、保健師等のコンピテンシーを高めるための学習成果創出型プログラムを開発し効果を検証すること、及びそれを地域貢献に活かすよう普及することである。プログラムは、2回の試行と修正を経て開発された。プログラムのコンセプトは「私の学び、明日への貢献」であり、4か月間にグループ・セッションが5回、その間の個別面接4回で構成されている。期間中参加者は、現場の課題と、それを解決する自分の学習課題を明確にして、自分で決定した到達目標の達成に向けて取り組む。研究者は学習支援者として、参加者の学習成果が最大になるように支援した。プログラムを実施した結果、以下の結果に示す一定の効果が検証された。前後のアウトカム評価では、参加者の専門性発展力や公衆衛生の基本活動遂行能力、事業・社会資源の創出コンピテンシー、住民の力量を高める能力、活動の必要性と成果を見せる能力など多様な能力が有意に高まっていた。さらに、プログラム実施後の参加者の満足度と、費用に見合う効果を得られたと思う程度は高かった。また、参加者の学習プロセスにおいては、1)現状と課題への気づき、2)改善計画の実行、3)改善した成果の確認という3つの必須通過点が確認された。本プログラムは今後、大学院教育や大学と連携した自治体や企業、看護協会保健師職能による現任教育への適用可能性がある。
著者
大久保 英哲
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-14, 2009-06-30 (Released:2009-11-05)
参考文献数
24
被引用文献数
3 1

The French military assistance advisory, which visited Japan in 1867, placed emphasis on “development of the body” as basic training for soldiers, and actually gave instructions for this purpose. The textbook used for this instruction had never been identified, but as a result of reviewing Mokuba no Sho (“the book of the wooden horse”, published around 1867) written by Hayashi Shojuro (1824–1896), their interpreter, it was found that this is a translation of the part describing wooden horse exercises in the French manual of army gymnastic exercises, “Instruction pour l'enseignement de la gymnastique”, which was the gymnastics textbook brought to Japan by the French military delegation. In addition to the 200-page text, a total of 18 pages of figures illustrating 33 pieces of gymnastic apparatus and exercises using them, and a plan of an outdoor apparatus gymnastics field with apparatus for 200 to 300 people are attached.The “Instruction” continued to be studied mainly by the army. On the other hand, the Ministry of Education established the taiso denshu jo (Physical Training Institute) in 1878, and invited the American medical doctor, George Adams Leland (1850–1924), to conduct research there. Through his study, the Ministry of Education selected light gymnastics as the most suitable method for the Japanese school physical education system, and it became popular nationwide around 1885 as alumni of the Physical Training Institute spread throughout Japan.In 1883, however, the Ministry of Education instructed the implementation of hohei soren (infantry training) and heishiki taiso (military exercises) for secondary schools in addition to the normal gymnastics. This marks the introduction of the French gymnastics, employed by the army, into school physical education.As we can see, the French military assistance advisory's visit to Japan at the end of the Edo Period and the “Instruction” they brought with them, were quickly followed by the establishment of the Japanese army gymnastics system. Along with the implementation of infantry training and military exercises around 1885, it also left clear traces in the formulation of the modern Japanese physical education system.
著者
佐藤 彰一
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の課題は、約20年前に「発見」されたメロヴィング末期の7世紀末にフランスのトゥールのサン=マルタン修道院で作成された所謂「会計文書」を可能な限り多角的に解析し、史料的にきわめて限られているこの時期の西欧における社会構造を明らかにし、また農業生産の具体的な水準などを確定することであった。作業の手続きとして、まず第一にこの文書の書冊学的、古書体学的分析を行い、これがおそらくはローマ後期の租税関係文書の系譜を引く、トゥールの市政文書に由来するものであろうという仮説を提示した。第二に、「文書」に記載されている地名の比定を行った。これはフランス国土地理院から発行されている地誌図ならびに18世紀に作成された「カッシ-ニの地図」を用いた。続いて農民一人ひとりが納付している穀物貢租の種類と量から、その生産量を割り出し、更に貢租と翌年の種播き用の種籾などを控除した消費可能な穀物の扶養力を、カロリー計算とパンによる摂取形態とで総合的に判断すると1世帯当たりの家族成員が約4人で平均値であったことが知られる。農民の家族形態は、明らかに核家族形態が中心であった。第四に、穀物の栽培形式と生産量から、三圃農法の実践如何の点を検討し、トゥール地方では夏穀の大麦が播種期を徐々に繰り下げる形で春穀に転化し、三年輪作システムが中規模経営の農民層から始められたらしいことが窺われる。
著者
海谷 啓之 宮里 幹也 寒川 賢治 松田 恒平 北澤 多喜雄
出版者
独立行政法人国立循環器病研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究において、キンギョの脳から大きく2種類に大別される機能的なグレリン受容体(GHS-R1a,2a)と、それぞれの受容体のサブタイプ(GHS-R1a-1[構成アミノ酸数360アミノ酸(aa)],1a-2[360aa], 2a-1[366aa],2a-2[367aa])、計4種類の受容体cDNAを同定した。それぞれの受容体は組織特異的な遺伝子発現を示し、組織特有の生理作用に関わっていることが示唆された。魚類以外の脊椎動物では1種類のグレリン受容体(GHS-R1a)のみが知られているが、本研究で同定されたGHS-R2aは新しいタイプの受容体であり、これに対する新規リガンドの存在が想定された。キンギョの脳や腸の抽出物を用いて新たなリガンドを探索したが、本研究の期間ではその発見には至らなかった。
著者
秋田 恵一 山口 久美子 望月 智之 小泉 政啓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

肩関節周囲の構造については、臨床の技術の向上にともない、ますます詳細な理解を必要とするようになった。そこで、本研究では肩関節周囲筋の解剖を見直し、総合的に新たに評価を行い、手術、診断といった臨床応用への基盤を形成する。また、肩関節の成り立ちを比較解剖学的に検討し、ヒトの解剖学的な理解に役立たせる。本研究の結果、非常に多くの解剖学的な新知見が得られ、臨床への応用が期待されることになった。また、比較解剖学的な知見から、ヒト肩関節の構造について、より理解が深まったと考えられる。
著者
寇 冰冰 椎名 健
出版者
「図書館情報メディア研究」編集委員会
雑誌
図書館情報メディア研究 (ISSN:13487884)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.121-131, 2005-09-30

電子ペーパーはディスプレイと紙媒体の長所を両立させた理想的な表示メディアを目指しているといわれる。このコンセプトに基づいて,電子ペーパーに対するさまざまな期待や関心が集まりつつある。本論文は,電子ペーパーに求められる要件や実現形態などを概観した上で,電子ペーパーの課題や将来の用途を展望するため,読みに関するSD 法を含む媒体の評価実験(8 人,短時間での読書),およびアンケート調査(20 人)を実施した。評価実験の対象は電子ペーパー製品の一種類であるLIBRIe(ソニー),CRT モニター,LCD モニター,および文庫本の4種類の媒体であった。その結果,読みやすさにおいて,LIBRIeは文庫本には及ばないが,既存のディスプレイより優れていること,一方,操作性においてLIBRIe はCRT,LCD にも劣ることが示唆された。アンケートの結果において,電子ペーパー製品の読みやすさは評価されたが,操作性と重量が改善点として挙げられた。また,現有の電子ペーパーの普及率は予想したほど高くなかった。 Electronic paper (e-P) is a display medium which is believed to aim at the ideal media with the advantages of display and paper. On this concept, e-P has attracted various expectations and interests of people. Also, a rapid progress has been made in the technological development in this area. This report consists of two parts: First, essential factors asked for the e-P and the realized forms of these factors were summarized. Then the present existing state of the technological development was outlined. Second, an experiment (8 participants, reading in short time) was carried out to evaluate four types of display media: an e-P book (LIBRIe, SONY), a CRT, a LCD and a pocket book. Then a questionnaire was administered to survey the task and the usage of the e-paper in the future from 20 students in the University of Tsukuba. The results of the experiment in the comfortable reading suggested, that the e-P book was not as good as the pocket book but better than the CRT and LCD. On the other hand, in the easy handling, the e-P was inferior to the pocket book, CRT and LCD. The answers of the questionnaire confirmed the experimental results, and suggested that people were not so familiar with the e-P book by that time.
著者
寇 冰冰 椎名 健
出版者
「図書館情報メディア研究」編集委員会
雑誌
図書館情報メディア研究 (ISSN:13487884)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.121-131, 2005-09-30 (Released:2013-12-18)

電子ペーパーはディスプレイと紙媒体の長所を両立させた理想的な表示メディアを目指しているといわれる。このコンセプトに基づいて,電子ペーパーに対するさまざまな期待や関心が集まりつつある。本論文は,電子ペーパーに求められる要件や実現形態などを概観した上で,電子ペーパーの課題や将来の用途を展望するため,読みに関するSD 法を含む媒体の評価実験(8 人,短時間での読書),およびアンケート調査(20 人)を実施した。評価実験の対象は電子ペーパー製品の一種類であるLIBRIe(ソニー),CRT モニター,LCD モニター,および文庫本の4種類の媒体であった。その結果,読みやすさにおいて,LIBRIeは文庫本には及ばないが,既存のディスプレイより優れていること,一方,操作性においてLIBRIe はCRT,LCD にも劣ることが示唆された。アンケートの結果において,電子ペーパー製品の読みやすさは評価されたが,操作性と重量が改善点として挙げられた。また,現有の電子ペーパーの普及率は予想したほど高くなかった。 Electronic paper (e-P) is a display medium which is believed to aim at the ideal media with the advantages of display and paper. On this concept, e-P has attracted various expectations and interests of people. Also, a rapid progress has been made in the technological development in this area. This report consists of two parts: First, essential factors asked for the e-P and the realized forms of these factors were summarized. Then the present existing state of the technological development was outlined. Second, an experiment (8 participants, reading in short time) was carried out to evaluate four types of display media: an e-P book (LIBRIe, SONY), a CRT, a LCD and a pocket book. Then a questionnaire was administered to survey the task and the usage of the e-paper in the future from 20 students in the University of Tsukuba. The results of the experiment in the comfortable reading suggested, that the e-P book was not as good as the pocket book but better than the CRT and LCD. On the other hand, in the easy handling, the e-P was inferior to the pocket book, CRT and LCD. The answers of the questionnaire confirmed the experimental results, and suggested that people were not so familiar with the e-P book by that time.
著者
市川 朝子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

小麦粉濃度15〜20%でつくられるクレープやお好み焼きなどは、調理過程でグルテン形成を抑制する副材料が多量に加えられる。このような状態下でのグルテンの形成機構に閧する研究は未だに明らかにされていない。そこで本研究はまず、小麦粉に砂糖、鶏卵、牛乳、バター及び少量の食塩を加えてつくるクレープ生地を対象として、各々の材料と調製方法が仕上がり性状の及ぼす影響について検討した。その結果、調製時に良く攪拌し生地を均質にすることはクレープを軟らかく、引っ張りによるのびを良くし、しかも'ねかす'操作を省くことを可能とした。また、加えたバターはクレープの硬さや伸びに関与し、更に生地中に形成されたグルテンがバターによる、油っこさ'をマスクし、生地の硬さを軟らかくしかも伸びやすくすると推察した。次に加水量を小麦粉の0.5〜5倍量に変化させ生地中に形成されるグルテン量を比較した。加水量が増えると共にグルテン量は減少し、3倍以上になると激減したが、5倍量でもグルテンは形成されていた。また、材料として牛乳、バター、砂糖を用いると形成されるグルテン量は減少した。次に、加水量の異なる生地から得られる、'グルテン'の構造、すなわち単位分子量の大小について検討した。抽出したグルテンを0.5%SDS-2メルカプトエタノールに溶解した液を20万分子量分画フィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィーによるペプチド分析を行った。その結果、各々の生地から単位分子量の異なるペプチドが4〜6種類検出された。この組成比はアミノ酸1単位前後の分子量の小さなものが30〜50%を占めた。割合は加水量の多い(3〜5倍)生地の方が、加水量が少ない(0.5〜2倍)生地に比べ多かった。加水量1〜2倍からの組成にはアミノ酸230単位前後の高分子ペプチドが十数%含まれていた。以上の結果から、加水量の違いは、グルテン形成機構に質及び量いずれにも影響を及ぼすことが示された。
著者
澁谷 啓 川口 貴之 鳥居 宣之 木幡 行宏 石川 達也 齋藤 雅彦 中村 努 加藤 正司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,ジオシンセティックスを用いたL型排水盛土防水工を,補強土(テールアルメ)壁工法に適用し優れた効果を確認した.谷埋め盛土など背面側からの浸透水が懸念される箇所で有効に機能するものと思われる.排水機能が健全な状態では震度 6 強~7 強震動観測地区であっても被災を免れると考えられる.また,スラグおよびスラグ混合土を用いた土層の変位量が一般土を用いた場合より小さいこと,また,スラグ補強土壁の盛土造成時の締固め度 80~85%程度でも安全率が Fs=1.6 以上確保できた事実よりスラグ補強土壁が施工性に安全であると判断される.
著者
畑江 敬子 戸田 貞子
出版者
和洋女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高齢者の口腔内状態を把握するための検査食の開発を目的として、寒天ゲル及びデンプンゲルの調製を試みた。寒天ゲルについては寒天濃度の異なるゲルを再現性よく調製することが出来た。しかし、デンプンゲル検査食については手作りであったため、わずかに再現性に乏しくこの解決が課題であった。そこで、食品工業的に餅のような食感のゲルの調製を考え、業者に依頼した。これを冷凍保存し、必要に応じて一定時間蒸し加熱することで、再現性のある物性の検査食が出来ることがわかった。この検査食を用いて、少数の高齢者と若年者で、咀嚼してもらい、測定することを検討した。その結果、15秒間咀嚼してもらい、それを吐き出してもらうこととした。1辺が15cm、高さ約2cmのシャーレをアクリル板でつくり、シャーレに吐き出した寒天あるいはデンプンゲル試料をひろげ、デジタルカメラで撮影することとした。このとき、光が反射しないように、また、はきだした小片が重ならないように注意深く竹串でひろげるなど、測定条件を検討した。撮影した写真の画像解析により、粒度分布を測定することで、高齢者と若年者の口腔内状態が把握できた。最終的に若年者52名、高齢者76名の協力を得た。ストラスブールのシニアハウス2カ所を訪問し、当該施設で提供される1週間のメニューをしらべた。さらにストラスブールに住む高齢者の食生活の聞き取りを行なった。
著者
上倉 庸敬 藤田 治彦 森谷 宇一 神林 恒道 渡辺 浩司 永田 靖 天野 文雄 奥平 俊六
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

最終年度をむかえるにあたって本研究が直面していた課題は以下のとおりであった。現在、日本の「芸術」は二極化している。ひとつは純粋化を維持しようとする「芸術」であり、いまひとつは「あたらしさ=総合」という視点からクロスオーバーをめざす「芸術」である。それは実は、日本のみならず、世界の各局地における「芸術」概念の共通構造である。「芸術」の事象における世界的な傾向とは、各局地に通底する先述の構造を孕みつつ、各局地で独自の展開をくりひろげている多様さのうちにこそある。では、(1)日本の近代「芸術」概念が成就し、また喪失したものはなんであるか。(2)なぜ、近代の芸術「概念」は死を迎えねばならなかったか。(3)「ユニ・カルチャー」の傾向にある現代世界で、日本に独自な「芸術」概念の現況は、どのような可能性をもっているか。(4)その可能性は日本のみならず世界の各局地に敷衍できるかどうか。解答の詳細は成果報告書を見られたい。解答をみちびきだすために準拠した、わたくしたちの基本成果はつぎのとおりである。(1)西欧で成立した「芸術」概念が19世紀半ばから100年、世界を支配した。(2)その支配は世界の各局地で自己同定の喪失をもたらした。日本も例外ではない。(3)20世紀半ばから世界の各局地で自己「再」同定がはじまった。(4)再同定は単なる伝統の復活ではなく、伝統による「死せる芸術概念」の取り込みである。(5)再同定は芸術「事象」において確立され、芸術「概念」において未完である(6)日本における「芸術」概念の誕生と死が示すものは、2500年におよぶ西洋美学理論の崩壊である。
著者
河村 祐治 西村 龍夫
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

流路壁が正弦波状をなす波状流路内に生じる2次流れ及び物質移動特性におよぼす影響について実験的な検討を行った.1.2次流れは遠心力の不安定性よって形成ささるTaylor-Goertler渦であり, 幾何形状パラメータ(振幅・波長)にかかわらず, 流路間隔が壁面振幅の2倍以下では必ず発生することがわかった. したがって従来ほとんど問題とされなかった2次流れは, 流れのはく離と同様, 波状流路における流れの性質の一つとみなされる. また, 特殊な流動パラメータを用いることによって波状流路内の流れの不安定性を表す中立安定曲線を得た.2.波状流路内に生じるTaylor-Goertler渦は曲率の方向が周期的に変化するため, 曲率一定の長方形曲りダクトとは異なり, 上・下壁面に渦を生じる. その配列は2つあり, 一つはどちらか一方の壁面だけに渦が形成される安定型と, 上・下壁面に同位相で形成される不安定型である. 特に後者の配列が渦の崩壊をみちびき, 乱流遷移を促進させることが明らかとなった.3.2次流れの発生は局面からの物質移動速度を増進させる. 特に2次流れの特質によって流れが一波長毎に更新されるため, 物質移動の助走区間が短くなることが, その原因の一つであることが明らかとなった.
著者
久保 幸弘
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

GPSに代表される衛星測位システムでは,衛星から送信される擬似ランダム符号や搬送波の位相観測値を用いて,衛星,受信機間の距離を測定(測距)し,受信機座標を求める.従来,受信機単独でその絶対座標を求める手法は「単独測位」と呼ばれ数m程度の誤差を持つとされている.本研究では,この誤差要因を,1.電離層・対流圏の影響,2.衛星の軌道誤差,3.サイクルスリップ,4.移動体の動的モデル,の4つに分類し,その各々についてより正確な数式モデルを構築(GRモデル;GNSS Regression equation)し,観測データからこれらを同時に推定することにより,測位精度の向上を図った.また,サイクルスリップに関しては,測位演算アルゴリズムにおいて使用されるカルマンフィルタのイノベーション過程を監視し,カイ2乗検定,尤度比検定に基づく検出手法を提案した.さらに移動体の動的モデルに関しては,移動体の速度を一次のマルコフ過程,加速度を一次のマルコフ過程,躍度を一次のマルコフ過程と仮定するモデルをそれぞれ構築し,精度の検討を行った.また,測位に用いる衛星の選択手法として,衛星の仰角による重み付け,観測残差の絶対値による衛星選択アルゴリズムを構築し,上述の高精度単独測位アルゴリズムに導入し,測位計算プログラムを実現した.それらの結果,実証実験においては,本学所有のNovAtel社製受信機および国土地理院殿の電子基準点で得られた観測データ等を用い,静止点において常に約50cm程度の精度で受信機座標を得ることが可能であった.
著者
森 英樹 右崎 正博 大久保 史郎 森 正 大川 睦夫 小林 武
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

平成4年度は、3年間にわたる本研究の最終年度であったため、2年間の成果をふまえ総括的な検討をおこなった。すなわち、日本を含む先進資本主義国の従来の憲法学における議会制民主主義と政党制の理論史的枠組みを検討し(1年目)、各国の集中的検討による普遍性と固有性を析出し、あわせて日本の現状分析をおこなう(2年目)という研究成果にもとづき、日本の政治文化状況のもとで政党への国庫補助の妥当性にかんして一定の結論をみちびき出した。具体的には、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、イタリア、ニュージランドの各国における政党国庫補助の現状分析と、それを支え、あるいは批判する理論状況を検討したが、その結果みえてきたのは、各国における大衆社会の進行による議会制民主主義の形骸化、それにともなう選挙戦の変容などの共通点とともに、その背景にある各国の議会制民主主義の歴史の偏差であった。これらの成果をふまえ、日本で進行中の「政治改革」による選挙制度改革と政党国庫補助導入の動きを批判的に分析した。かくして、日本の「政治改革」を、先進資本主義諸国で共通に進行する新たな統治戦略としての政治改革との連動性のなかに位置づけることができ、日本固有の政治風土のなかで、いかに国民主権と民主主義を実現することが可能かについての共通の認識をうることができた。
著者
鈴木 寛
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.距離正則グラフの結合グラフの研究が進み、特に、よいクラスとして、既存のかなりのものを含む距離半正則グラフの概念を定義した。特に、位数が(s,t)で、s>tのものについては、結合グラフが常に距離半正則グラフになることが示され、それまで複雑な組合せ構造の議論に頼っていた部分が全く簡単に扱えるようになった。2.部分グラフの構成および部分グラフの束を調べることは距離正則グラフの研究でもっとも重要なことと思われるが、平木氏、Weng氏の研究も関連して、geometric girthが5のものについても結合グラフの束が構成できることを示した。この束自体が研究されそこから幾何を構成する事へと発展することが望まれる。3.距離正則グラフの表現論を進展させるためには、Q-多項式型のアソシエーションスキームの研究が欠かせないが、このパラメターが指標の積分解などと関連して非常に難しいことから今まで進展が見られなかった。今回、行列成分の等式を駆使することにより、いくつかの新しいパラメターの関係が示され、それによって長い間未解決であった、非原始的なQ-多項式型アソシエーションスキームの特徴付け、および、二つ以上もQ-多項式構造をもつアソシエーションスキームの特徴付けが得られた。表現論の進展が待たれる。4.上にの述べたように表現論は指標の積などとも関連が深いが、有限群の既約指標の積分解が、Q-多項式型の分解になる場合を考えそのクラスを分類することが出来た。このことは、距離正則グラフ、Q-多項式型アソシエーションスキームの研究が単に組み合わせ構造の中に留まるのではなく、群の表現や、鏡映群、不変式などとも深い関連があることを確認することともなっている。
著者
赤澤 計眞
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究はイギリス中世後期社会の歴史的特質を明らかにすることを目的とし、平成6年度の研究課題は、中世後期のイギリス社会に視点を特に定め地域支配の行政(ローカル・アドミニストレーション)面に関する史料を分析対象に設け、領主権と地域支配組織との社会的・政治的関連を明らかにすることを研究の主たる目的としつつ、同時に裁判権をふくむ領主支配を明らかにすることに目標が置かれた。具体的には、この場合の中世後期のイギリス社会は大きな時代の変動期を内にもっている移行期で、中世後期とは主として13世紀から15世紀の時代を意味しているが、研究のねらいをしぼって、成果をできるだけ生産的にみちびき出すことが大切であるためこの課題を具体的に効果あるように深化させるために、平成6年度は13世紀から14世紀前半にわたる時期にほぼ限度に研究を進めることにした。交付額230万円のほぼ50パーセントを備品費に配合する計画を立てて研究の素材をととのえることに本年度は努力の目標を置くこととし、主として研究書および史料集の購入にあてて図書費として支出し、結果的に約60パーセントの金額が研究文献・史料集の購入に支出された。また、神戸大学・広島大学・東北大学・名古屋大学・東京大学等の研究室・図書館・資料室において史料収集をおこない、必要不可欠と思われるものについて複写・写真撮影をおこなった。平成6年度は土地訴訟・新侵奪訴訟など具体的な訴訟過程に注意を払い、また権原開示訴訟(プラキタ・デ・イオ・ワラント)との関連を解明することにもつとめている。これと共に領主権の基盤をなす土地所有関係と相続関係に研究の重点を置いた。