著者
佐藤 卓 Moreshet Samuel 高垣 美智子 篠原 温 伊東 正
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 = Japanese journal of tropical agriculture (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.61-69, 2003-06-01

地下水の過剰利用や地球環境の変化により、旱害は農業生産において深刻な問題となりつつあることから,乾燥条件下における植物生理の理解を深め、乾燥ストレス耐性を付与した品種育成を目的とした研究が急務となっている.Capsicum annuum L.の中で,タイチリとニューエースは環境ストレスに対して対照的な反応を示す品種として知られていることから,この2品種を用いて乾燥ストレスに対する生理的反応を調査した.乾燥ストレス処理に際し,ヒートパルス法によるサップフロー,気孔コンダクタンス,葉の水ポテンシャルの測定を行った.タイチリは乾燥に対してより高い感受性を示し,水分供給量が限られている場合に蒸散による余分な水分損失を押さえていると思われた.また,潅水を再開した後の,サップフロー,気孔コンダクタンス、葉の水ポテンシャルの回復はタイチリの方がニューエースよりも早かった.さらに,一度乾燥ストレス処理を受けた植物は二度目のストレス処理の際に,以前に乾燥ストレスを受けていない植物よりも強い乾燥ストレス耐性を示した.品種間における形態,生理的な違い,つまり,葉や根の構造、及び、乾燥に対する水ポテンシャル調整機能の違いが、乾燥ストレスに対する反応の違いをもたらしたと考えられた.
著者
三田 智文 角田 誠 船津 高志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年、分析化学におけるダウンサイズ化として、半導体微細加工技術を利用したマイクロ化学分析システムが注目されている。本研究では、微量生体成分の高感度分離検出系を組み込んだ液体クロマトグラフィー(LC)のマイクロチップ集積化を目的とした。最初に、高感度検出を目指して、ベンゾフラザン骨格を有する水溶性の蛍光標識試薬を開発した。水溶性の試薬はマイクロチップ上での分離において問題となる基板への吸着を防ぐことができると考えられる。さらに、核酸類似骨格を有する二環性化合物を合成しその蛍光特性を検討し、デオキシシチジン誘導体が強い蛍光性を有することを明らかにした。今後この骨格を有する蛍光標識試薬を開発する予定である。また、開発した試薬とLCを用いてペプチド類、微量生体成分および薬物の分析法を開発した。これら開発した分析法はマイクロチップ上に集積化可能である。マイクロチップLCの検出系として質量分析も有力視されている。そこで、質量分析用標識試薬を開発し、生体成分の分析法に適用した。本法もマイクロチップ上に集積化可能である。また、モノリス型キャピラリーカラムおよびチップ上でのモノリスカラムの作成に取り組み、分離系の微量化を検討した。さらに、チップ上でのLC用レーザー蛍光顕微検出法の開発に取り組んだ。溶液中の蛍光検出対象物質が対物レンズから近い距離に存在すれば、蛍光を十分に集光できるため高感度に検出できる。そこで流路の厚さが5μm程度以下の部分を作成し、この部分で検出を行うことにより高感度検出を可能にした。今後、これらの方法をマイクロチップ上に集積化する予定である。
著者
上田 誠
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.83-103, 2005-12
被引用文献数
1

論説(Article)本稿は、わが国の商業政策における振興政策として、長年にわたりその主軸を担ってきた商店街を対象とする政策に関する研究である。 商店街を対象とする政策は、1998年に、大規模小売店舗立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の、いわゆる「まちづくり3法」が成立し、大店法を中心とした調整政策が大きく政策転換した後も、引き続き国や自治体の小売商業振興政策において重要なポジションを占めている。しかしながら、一方では、「商店街の疲弊や衰退に歯止めがかかっていないのではないか?」あるいは、「商店街政策や施策が機能していないのではないか?」 との指摘がなされているのも事実である。 本研究では、商店街の捉え方と本質把握の重要性を指摘することを目的に、3つの考察を行った。1点目は、商店街の概念の考察である。商店街には、空間的概念と組織的概念が存在し,この2つの概念の混同とズレから生ずる問題点を指摘する。2点目は、組織としての商店街の意思決定に関する考察である。商店街組合が戦略的な行動を選択しにくいメカニズムを説明する。3点目は、商店街の3段階の形成と、特に政策形成関係者としての位置付けの考察である。第1次百貨店法、第2次百貨店法、大店法の3つの法律の制定局面における政治的動きの特徴を説明する。 最後に結論として、商店街の多面性を理解し、本質を把握することが、商店街を対象とする政策を進めていく上で極めて重要であるということを指摘するとともに、合わせて商店街研究の多様性,学際性を示している。
著者
佐藤 明子 高橋 治 菊地 洋一 村上 祐
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.21-27, 2006-01-31
被引用文献数
8

原子の構造やイオンを初めて学習するのは何歳で,どのようなレベルの内容を学習しているか,海外の教科書の比較研究を行った。調査した教科書は英国,フランス,ドイツ,イタリア,スロバキア,インド,中国,台湾,インドネシア,アメリカの計10か国の中学のものである。その結果,内容のレベルは国によって様々であるが,原子の構造やイオンは13〜14歳で初めて学習する国が多いことがわかった。そして,多くの場合,イオンは基本粒子として,原子の構造の直後に学習されている。また,周期表もほとんどの国で13〜14歳で扱われ,原子の構造,イオンの学習に活かされていることもわかった。原子の構造,イオンは,中学段階の学習で大きな役割を果たし,この段階でそれらを学習することが適切であることがわかる。
著者
田尾 龍太郎 羽生 剛 山根 久代 杉浦 明
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.595-600, 2002-09-15
被引用文献数
8 12

ウメ(Prunus mume Sieb. et Zucc.)の多くの栽培品種は, 他の多くのバラ科果樹類と同様にS-RNaseの関与する配偶体型の自家不和合性を示す.しかしながら, 中には自家和合性の品種も存在し, これらの品種はいくつかの点で自家不和合性品種に比べて優れている.我々は, 以前の研究で, ウメの自家和合性形質の分子マーカーとして利用可能なS-RNase遺伝子(S_f-RNase遺伝子)を見い出した.今回は, 自家和合性品種である'剣先(S_fS_f)'と自家不和合性品種の'南高(S_1S_7)'のS-RNaseを比較検討することでS_f-RNaseの性質を明確にしようとして, 以下の実験を行った.'剣先(S_fS_f)'と'南高(S_1S_7)'の花柱からcDNAライブラリーを構築し, S_f-, S_1-, およびS_7-RNaseをコードするcDNAをクローニングした.これらcDNAより推定されるS_f-, S_1-, およびS_7-RNaseのアミノ酸配列にはT2/S型RNase特有の2つの活性中心とバラ科植物のS-RNaseに共通してみられる5種類の保存領域が存在した.RNAブロット分析を行ったところ, ウメのS-RNase遺伝子は, 他のPrunus属のS-RNase遺伝子と同様に葉では転写されておらず, 花柱のみで転写されていることが明らかになった.また, '剣先'のS_f-RNase遺伝子と'南高'のS-RNase遺伝子の転写産物量に差異は見いだされなかった.花柱粗抽出液の2次元電気泳動を行ったところ, S_f-RNaseは他のS-RNaseと同様の分子量や等電点, そして免疫学的特性を持つことが示された.本研究の結果は, ウメのS_fハプロタイプの個体の示す自家和合性はS_f-RNase遺伝子に強く連鎖したpollen-S遺伝子の作用によって生じている可能性を示唆するものであろう.
著者
福島 真人
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.163-171, 2010-03-01

The present work aims at reviewing the concept of knowledge transfer and proposing a new interactive model of it on the basis of findings from a long-term field investigation in a leading biological laboratory. While the idea of "knowledge transfer" implies a false analogy with spatial movement of a tangible object, actual knowledge consists of intricate network of a variety of concepts. This paper models this concept as a space in which different hierarchies of skills interact, and conducts ethnographic analysis of its function in an actual biological laboratory. The laboratory occupies a leading position in the intermediate area between chemistry and biology. In such a circumstance, the "scientific knowledge" being searched is uncertain, and researchers' job is to render it robust. What "knowledge transfer" means is unclear here. Analysis of the actual processes suggests that the interaction produces what could be called the "semiotic margins." This case study indicates the necessity of a more interactive understanding of knowledge transfer.
著者
小西 國友
出版者
立教大学
雑誌
立教法学 (ISSN:04851250)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-80, 1985-09-30
著者
近藤 靖史 小笠原 岳 藤村 淳一
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.66, no.547, pp.67-74, 2001
被引用文献数
2 1

It is well known that water vapor and carbon dioxide in the air have several infrared bands where these gases absorb and emit radiative energy. Therefore the radiative heat absorbed by room moisture may not be neglected in the prediction of room air temperature. Glicksman and Chen(1998) carried out numerical analysis and showed that the effect of radiative heat absorbed by room air moisture should be considered in the prediction of temperature distribution in large enclosed spaces. In this paper the analysis method of the radiative energy absorbed by room moisture is shown and some examples simulated by this method are presented. (1) The numerical analysis with temperature of walls as a given boundary condition was carried out. The simulated results with 25%, 50%, 75% relative humidity were compared to the case with absolutely dry air and the impact of radiative heat absorbed by room moisture on air temperature was confirmed. The effect of moisture on air temperature was remarkable especially when the temperature difference between walls was large and the volume of space was big. (2) The interactive simulation of convective and radiative heat transfer was conducted with the moisture's effect on air temperature simultaneously. The results showed that the impact of the radiative heat absorbed by room moisture appeared not only in air temperature but in the surface temperatures of walls.