著者
清水 新二
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.97-104, 2001
被引用文献数
3

家族の私事化, 個別化, 個人化, 脱私事化に関する議論は, それぞれの概念を歴史的文脈に位置づける理解なしには, 混乱と不適切な使用をはびこらせ, 時に的外れな批判をもたらす。本論は日本の家族変化の歴史的流れのなかで家族の私事化の進行がもたらしたパラドキシカルな状況に注目しつつ, これらの概念を再検討し整理するものである。家族の個別化概念は日本家族の具体的な現状分析にとってより威力をもち, 家族の個人化概念はこれからの家族のありようを示し志向する概念としての重要性を増している。これらの概念の使い分けと適切な使用は, 議論の整理と生産的展開を促すことになるだろう。また実態確認的な研究をいっそうあと押しし, わが国における家族の変化を具体的に跡づけるうえで有力な手がかりとなる。
著者
林 真人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.493-510, 2006-12-31
被引用文献数
3

構造的矛盾や階層的問題であるはずのものが, 個人的ないし内面的なレベルへたえず移転されることで, 「自発的」な若年野宿者の形成/現存が促されている.本稿の主な目的は, この若年野宿者の形成/現存のプロセスを具体的に示すことである.<BR>まず量的データによって若年野宿者と中高年野宿者を比較した.若年野宿者が野宿を始めるうえで, 「個人的理由」が関与している可能性が浮かんだ.さらに生活史を用いて若年野宿者の形成/現存を具体的に検討した.主な知見は3つである. (1) 家族や友人などの親密圏から切り離され, 不安定な雇用や住居を転々とするなかで, 不安感や焦燥感を強めていく. (2) たび重なる失職と生活の不安定化をやり過ごすために覚悟・諦め・狼狽といった内面形式を獲得し, 野宿と非野宿の境界を踏み越えていく. (3) 生活上の過酷な環境に加, えて, 内面形式の持続に後押しされ, 野宿からの「自立」が困難となる.<BR>最後に個人化論と下層の再編成の議論を結びつけることで, 経済的・社会的・内面的の諸次元から構成される説明のシェーマを提示した.若年野宿者では, 中高年層に見られる環境要因だけでなく, 内面的要因が顕著に働くのはなぜか.下層の再編成を通じて新たな個人化のモード (再埋め込みなき脱埋め込み) が出現し, 意識や生活の個人化に拍車がかかっているからである.
著者
片岡 佳美
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.32-44, 2007

本稿の目的は, 農村部における「家族の個人化」について, 島根県中山間地域のI・Uターン家族や家族経営協定締結家族を含む農林漁業従事者へのインタビュー調査の事例をもとに考察することである。事例では, 家族生活において個々の家族成員の自由な判断が他の家族成員によって尊重されており, 家族の個人化が起こっていることがうかがえた。一方で事例の家族は, 個人の自由と同時に集団としての家族も重視していた。家族集団が, 個人が農村で生活していくための適応手段としてとらえられ, そのために家族集団を維持する責任意識が各家族成員に生じることが示唆された。各家族成員はこの責任意識から, 家族集団を維持するための戦略として, 家族内で個人の自由を配慮しあうと考えられる。こうした考えから, 個人の自由と家族集団の維持・存続のバランスの問題を解決するうえでも, 農村家族の研究が今後ますます注目されると思われる。
著者
仲野 由佳理
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.138-156, 2008-10-20

本論文の目的は,P女子少年院における少年と教官の「語り」を分析の対象とし,(1)教官は少年の行為をいかなる文脈において解釈し,語りのリソースとして活用するのか,(2)少年と教官によって行われる語り直しは,ナラティヴという観点からみれば,どのようなアプローチがなされているといえるのか,(3)語りで使用されるリソースやプロットはどのような枠組みのなかで変化するのか,を明らかにすることである.成績予備調整会議及び処遇審査会,個別面接指導場面(事例1と2)の観察を通して,教官が少年の「行為の意味」を「更生」との連続において「(望ましい)変容」として意味づけ,このプロセスで得られた変容に関する教官の解釈は,少年と教官の相互行為のなかで,「語りなおし」のリソースとして活用され(目的1),問題の染み込んだストーリーからの「問題」の発見や外在化を通し,少年と教官の協同作業によって,語りなおしが行われていることが指摘された(目的2).また,リソースは過去の経験から現在の経験へ,プロットは個人化へむけたプロットから社会化へむけたプロットへと変化することが明らかにされた(目的3).
著者
伊藤 守
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.727-747, 2007-03-31
被引用文献数
1

電子メディアに媒介された情報とイメージの移動は, ローカル, ナショナル, リージョナル, そしてグローバルな空間が重層化したメディアスケープを構成し, 従来の「ナショナル・メディア」を前提とした研究視座では捉えきれない社会文化的過程を生み出した.<BR>本稿の目的は, メディアのグローバル化を解明する上で重要な三つの視点-文化帝国主義, カルチュラル・スタディーズ, 文化の地政学的なアプローチを検討し, 今後の実証研究を進めるための論点を提示することにある.アメリカのメディア産業が地球規模で文化の画一化をもたらすと主張した文化帝国主義の仮説を支持することはもちろんできない.だが, 表象の政治学の問題に直接かかわる, 情報フローの圧倒的な不均衡性が今でも存在していることを考えるならば, その政治経済学的アプローチの重要性は今日でも失われていない.他方, 文化帝国主義を批判したカルチュラル・スタディーズは, 文化人類学や批判的地理学との対話を通じて, メディアスケープの構築を通じた消費実践の政治性を問題化する文化の地政学的な視点を提示している.このアプローチから, メディアのグローバル化がローカルな空間からグローバルな空間への連続的な拡張ではなく, それぞれの空間の間には対立や包摂といった矛盾や非同型的な関係が生成していること, 複雑に折り重なったメディアスケープの構築と相関するかたちで, 民族や宗教やジェンダーを異にする多様なオーディエンスがそれぞれ独自の「メディア・ランドスケープ」を編制していることが明らかにされつつある.この視座をより精緻化していくためには, マクロな構造に規定されたメディアスケープ内部の対抗や包摂の関係と, オーディエンスが布置化された場の歴史的規定性との相互作用を視野に入れることが必要であり, そのことを通じて現実のメディアのグローバル化の複合的な分析を一層進めることが可能となるだろう.
著者
五十嵐 徳子
出版者
日本スラヴ・東欧学会
雑誌
Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.39-58, 159, 2002-03-31

筆者は、旧ソ連の共和国におけるポスト社会主義のジェンダーの状況を明らかにしている。本論において、グルジアにおけるジェンダーの状況ロシアと比較することにより明らかにしている。ロシアにおいては、1997年にペテルブルグ市において502人(男性231人、女性271人)にジェンダーに関する意識調査を実施した。また、グルジアでは、ロシアと同種のアンケート調査をグルジア共和国の首都トビリシの10地区でトビリシ大学文学部社会学科の協力を得て1999年4月に男女700人(男性333人、女性367人)に対してジェンダーに関する意識調査を実施した。このアンケートの質問項目は筆者が1996年1997年にロシアのサンクトペテルブルグで行ったものとほとんど同じものであるが調査項目数は、全部で21ある。なお、グルジアでのアンケートはロシア語版からの翻訳によってグルジア語で行った。本論は、グルジアとロシアのジェンダーに関する統計資料をまず、提示し、ロシアとの統計的な違いあるいは共通点について述べる。そして、次にグルジアにおけるジェンダーに関する意識調査について簡単に述べたのち、ロシアと比較しながら、グルジアのジェンダー意識を分析している。そして、最後に、結びとして全体を総括し、今後の傾向について予測している。なお、旧ソ連全土における意識調査は実施しておらず、最終的な結論を導き出すことができなかったが、これまでの旧ソ連のジェンダー研究にはなかった新しい研究であり、これが、旧ソ連のジェンダー研究に一石を投じるものになれば幸いである。