著者
後藤 和久
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.4, pp.193-205, 2005-04-15
被引用文献数
2 1

今から約6500万年前の白亜紀/第三紀(K/T)境界に地球外天体が衝突したとする説は, その後のメキシコ・ユカタン半島における衝突クレーターの発見や衝撃変成石英などの衝突起源物質の発見により現在では広く認知されるようになり, この衝突こそがK/T境界の生物大量絶滅の原因だったのではないかと考えられている.ところが, この衝突はK/T境界より約30万年前に起き, K/T境界での生物大量絶滅とは無関係だったとする説が一部の研究グループから近年報告され, K/T境界での衝突を支持する研究者との間で論争となっている.そして, 衝突がK/T境界より約30万年前に起きたとする説に対して数多くの矛盾点が指摘され, この衝突はやはりK/T境界で起きた可能性が高いことが再確認されつつある.本論では, 地球外天体衝突とK/T境界の同時性をめぐる一連の論争を紹介し, この問題を検討する.
著者
春野 雅彦 白井 諭 大山 芳史
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.3177-3186, 1998-12-15
被引用文献数
15

本稿ではコーパスから決定木を構成し日本語係受け解析に適用する手法を提案する.一般に日本語係受け解析では2文節間の係りやすさを数値で表現し,その数値を1文全体で最適化することによって係受け関係を決定する.したがって,日本語係受け解析の問題は2文節間の係りやすさを正確に計算することに帰着される.提案手法の主旨は2文節の係りやすさの評価と必要な属性の自動選択に決定木を利用するということである.既存の統計的依存解析の研究では,文節の種類によらず,あらかじめ決められた属性すべてによる条件付き確率で係りやすさを評価する.一方,決定木による手法では,係受け関係にある文節とそうでない文節を弁別する属性が,2文節の種類に応じて重要な順に必要な数だけ選択される.したがって,大量の属性をシステムに与えても必要がなければ利用されず,データスパースネスの問題を避けることが可能となる.これによって構文解析の精度向上に効果が期待される属性はすべて採用することができる.EDRコーパスを用いて手案手法の評価実験を行ったところ,既存の統計的係受け解析手法を4%上回る解析精度が得られた.さらに本実験では,1.決定木の枝刈りと解析精度の関係,2.データ量と解析精度の関係,3.種々の属性の解析精度に与える影響,4.文節の主辞に関して頻出単語の表層,分類語彙表カテゴリを属性に加えた場合の影響,の各項目について検討を行った.その結果,1.少なめの枝刈りで解析精度が向上する,2.係受け解析の学習に必要な文数はおよそ2万文である,3.属性のうち特に有効なのは,係り側文節の形と文節間距離である,4.主辞の語彙情報を使っても必ずしも解析精度が上がるわけではない,の4点で明らかとなった.これらの結果は今後日本語係受け解析システムや日本語解析済みコーパスを構築する際に一定の指針となりうる.This paper describes a Japanese dependency parser that uses a decision tree.Jananese dependency parser generally prepares a modification matrix,each value of which represents how a phrase tends to modify the other.The parser determines the best dependency structure by totally optimizing the values in a sentence under several constraints.Therefore,our main task is to precisely evaluate the modification matrix from corpora.Conventional stochastic dependency parsers define a set of learning features and apply all of them regardless of phrase types.On the contrary,our decision tree based method automatically selects significant and enough number of features according to the phrase types.We can make use of large number of features that may have contrivution to parsing accuracy.The proposed method was tested with EDR corpus and yielded significantly better (4%) performance over a conventional statistical dependency parser.In addition,we tested the following 4 properties of the system;1.relation between parsing accuracy and pruning of decision tree,2.relation between parsing accuracy and amount of training data,3.relation between types of features and parsing accuracy and 4.parsing accuracy when additionally using frequent open class words and thesaurus categories.The results were 1.weak pruning yielded better performance,2.the decision tree learning for dependency parsing required fifty thousands Japanese sentences,3.the type of modifier and the modification distance are particularly effective for parsing accuracy and 4.open class words and thesaurus categories do always improve the accuracy.These findings may offer the important clues to Japanese parser developments and corpus constructions in the future.
著者
永田 智大 鈴木 俊博 小林 基成 カーン アシック 趙 晩熙
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NS, ネットワークシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.31, pp.79-84, 2008-05-08

本論文では,我々が新世代ネットワークとして提案する仮想ネットワーク技術を実現する際,単一ノードが支援する技術について検討を行う.仮想ネットワークはリンク資源,処理資源を統合的に扱うため,単一ノードでは仮想マシン技術を応用することで,効率的な資源割当てを実現できると考える.資源割当が正しく行われた仮想マシンが相互に連携して仮想ネットワーク全体の資源分割を支援する.そこで,我々はまず仮想マシンの資源利用状況を監視し,単一ノード内で実際に使われていない資源を,資源が足りていない仮想マシンに割当てることで,資源の利用効率やサービスのスケーラビリティ向上を目指す.また,その応用例として,仮想マシンの再起動に対する冗長性について検討を行う.再起動の原因に応じて資源割当てを変化させることで,仮想マシンが提供するサービスを効率的に継続して提供できる.
著者
秋山 勝彦 中川 正樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.651-659, 1998-04-25
被引用文献数
48

本論文では, オンライン手書き日本語文字認識を対象に, 二つの特徴点列の長さの和に比例した処理の手間で済む伸縮パターンマッチング手法を提示する.この手法は, 決定論的な特徴点列対応付けと限定的な場合に起動する浅いバックトラックからなる.また, 本マッチング手法によって生じる重複した対応を除去して特徴点列を1対1に対応づける処理, それぞれの対応間の局所類似度からパターン間全体の類似度を算出する処理についても述べる.本手法を大分類, 文脈後処理, そして漢字の部首パターンを共有する構造化字体表現辞書と組み合わせ, 筆順違いや略字などに統一的に対処でき, 筆画の続けに対応したオンライン手書き日本語文字認識システムを構成した.JIS第1水準の漢字と平仮名, 片仮名, 大小英文字, 数字, 記号などからなる文章を筆記制限なしで収集したオンライン手書き文字パターンデータベース, TUAT Nakagawa Lab.HANDS-kuchibue_d-96-02のデータ80セットに対して, 認識率88.0%, 平均認識速度0.21秒をPentium 100MHz上で達成した.本手法による文字認識は, 特徴点列長の積に比例した処理の手間が掛かるビーム付きDPマッチングを用いた場合と比較して, 同程度の認識率を保持しながら6倍以上高速であることが確認できた.
著者
木村 和代 廣瀬 由紀人 八島 明弘 安彦 善裕 賀来 亨
出版者
北海道医療大学
雑誌
東日本歯学雑誌 (ISSN:09109722)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.35-46, 2003-06-30

Pulsing electromagnetic fields (PEMF) are known to be effective in stimulation of nonunion fractures, however the mechanism of osteogenic action of PEMF has not been fully established. This study investigated the effects of PEMF on the gene expression in human osteoblastic and the human mesencymal stem cells (hMSC). The cells were exposed to the PEMF in serum-free medium and the mRNA level of the expression of extraceller matrix associated proteins were examined by quantitative RT-PCR assay using a LightCycler. For the spreading osteoblastic cells on a type I collagen surface with PEMF stimulation, there was an approximately 2 fold increase compared with the expression in the control group for BMP-2 mRNA expression. The addition of 10 ng/ml of TGF beta-1 enhanced the BMP-2 mRNA expression in the hMSC. However, PEMF exposure inhibited BMP-2 mRNA expression in hMSC under this condition. The results indicate that the mechanism of osteogenic action of PEMF may be different in different cell types or in the degree of differentiating potency. Consequently, it is implied that PEMF has the ability to regulate BMP-2 mRNA expression directly in osteogenic cells.
著者
岡村 均 原田 攻 森川 博史 大島 正義 西村 敏雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.811-816, 1977-07-01

ヒトにおいて,排卵時に卵胞腔内から放出された卵が卵管内に移行する機構については,一般的に卵管采によるpick-up mechanismがいわれているが,いまだ詳細に検討されていない点が多い.この問題解明のため,われわれは卵巣と卵管采の間に存在する卵管間膜,mesotubarium ovarica (MTO)を超微形態学的に検索し、このMTOに微細構造上典型的な平滑筋細胞が束状に存在し,しかも卵巣と卵管采を機能的に連絡しているかのごとき配列を呈していることを観察した.MTOの構成成分はこの平滑筋の他に血管とcollagen fibersでありmast cellのような遊走細胞も観察された.卵管間膜表面被覆上皮細胞にはciliaは全く観察されない.従つて排卵時に卵胞壁の収縮により卵胞腔から排出される卵は卵管間膜表面構造によつて移送されるのではなく,この卵胞の運動と同調したMTOの収縮により卵巣に近接する卵管采によつて直接pick-upされるものと考えられる.
著者
鈴木 広光 矢田 勉
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、印刷術の導入と出版メディアの発達によって、平仮名の字体・書体がどのように変容したのかを明らかにすることである。古活字版と江戸時代の整版本の印刷書体の特徴を明らかにするため、文献資料を高精度のデジタル画像におさめ、印字の画像にアノテーションを付けるという新しい分析方法を採用した。研究の成果は以下の通りである。(1)嵯峨本『伊勢物語』慶長13年再刊本における全ての印字の調査を行い、活字の種類とその使用状況を明らかにした。また同書の印字標本集を編纂した。この調査によって、再刊本に使用された活字のうち、この刊本で使用するために新彫された活字はわずかに三割であり、残りの七割は初刊本の活字を再利用したものであることが判明した。従来、再刊本は主として新彫された活字で印刷されたといわれてきたが、この調査結果はその説を訂正するものである。(2)嵯峨本とその他の平仮名交り文の古活字版における活字の書体を比較し、その特徴を分析した。その結果、ほとんどの古活字版において、規格化された活字サイズによる仮名文字の均一化が確認された。その一方で、嵯峨本では仮名文字の伸びやかさを再現するために、さまざまな工夫がなされていることが明らかになった。(3)江戸時代の整版本については、平仮名書体の通時的な推移の様相を明らかにするために、前期の資料と後期の資料の比較を試みた。調査の結果、前期の版本と比較して、後期の版本には、連綿の減少、文字の大きさの均一化、書体の定型化といった特徴が見られることがあきらかになった。
著者
橋田 光代 片寄 晴弘 保科 洋
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.111, pp.103-109, 2003-11-07

与えられた楽譜からフレーズ頂点を推定(or 付与)する手法のひとつに保科理論がある.頂点選択や演奏表現のための条件がよく整理されており,理解しやすい.ただし,保科理論では,グループ境界に関しては人間の直感的な思考を前提にしており,直接,計算機処理に用いることはできなかった.本稿では,保科理論をもとに,スラーの始点と終点に関する制約を利用し,頂点推定の根拠からのvotingによって各グループの頂点を推定するモデルを提案する.ベートーベンのピアノソナタ「悲愴」第2楽章では,概ね正しい頂点を導き,他曲における推定でも約80%を超える正答率を得た.This paper describes a computational model which estimates notes corresponding to the apex in a phrase, based on Hoshina's theory, which deals with the way to express phrases with giving an apex. The theory illustrate concrete examples of the apices and numerates principles for selecting apices. However, it requires further formalization in order to use the theory on computer systems. We propose a computational model of estimating apices based on voting by the evidences which support the note to be the apex, using slur boundaries. On the piano sonata of Beethoven's "The Pathetic", the second movement, almost right apices were estimated. The algorithm is able to estimate apices with over 80% accuracy.
著者
橋本 信子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.233-238, 1993

マーガレット・ローレンスの「石造りの天使」はカナダを舞台とした作品としては初めてのものである.主人公ヘイガーは今や90歳で, 病のために死が真近に迫り, 自分のために不幸になった愛する夫や息子のことを思い出し, 慙愧に堪えない.マナワカ墓地に建つ, 目の無い石造りの天使に象徴されるように, ヘイガーは他人の苦しみ, 痛みに対して盲目で, 彼女の誇りが人に優しくすることを許さなかった.死の恐怖に捉えられているヘイガーは突然, 「誇りが私を孤独にさせてきた.私はいつも心から喜びたかったのだ.」と悟る.そう悟ることによって石のようだったヘイガーも人間的な気持ちを取り戻し, 心の安らぎを得ることができた.
著者
松友 知香子
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.86-99, 2008-12-31

Der Engel, den P. Klee (1879-1940) in seinen letzten Lebensjahren dargestellt hat, bedarf einer Untersuchung, die nicht nur auf seine individuelle Lebensgeschichte und seine psychologische Probleme, sondern auch auf die geistesgeschichtliche Situation seiner Zeit bezogen wird. In diesem Zusammenhang ist darauf zu achten, dass seine Engel-Bilder in einem engen Zusammenhang mit seinen Stadt-Bildern zu stehen scheinen. Zeitlich treten die erstere am meisten gegen Ende der dreissiger Jahren auf, wahrend die letzteren meistens in zwanziger Jahren hergestellt wurden. Inhaltlich betrachtet, kann die oft in den Stadt-Bildern dargestellte "Scheibe" so angesehen werden, dass sie in ihrer symbolischen Bedeutung spater mit der Gestalt des Engels ersetzt wird. Die beiden drucken dieselbe Atmosphare aus: die Hoffnung auf das bessere und die Angst um das miserable Leben, die Sehnsucht nach der verlorenen Natur, die Furcht vor dem heranschleichenden Schicksal der Katastrophe usw.. Der Ubergang von der Stadt-Bilder zur Engel-Bilder ist im Hinblick auf die bildnerischen Charaktere zu verfolgen. Der Grund fur den Wechsel der zwei Motive soll aber auch, wie oben gesagt, in vielschichtigen Perspektiven erklart werden. Der Engel stellt direkter und konkreter aus, was die "Scheibe" in den Stadt-Bildern symbolisch darstellt. Weiterhin: Klee's Engel ist geistesgeschichtlich im Hinblick auf den historischen Wandel der Auffassung des Engels der Neuzeit in Betracht zu ziehen.