著者
西村 泰一
巻号頁・発行日
2008

近代日本が行った戦争という話になると、戦後は一切戦争をしていないので、明治維新から終戦までという話になるが、日清日露の両戦争に代表される前半と、満洲事変に始まり終戦に至る15年戦争に代表される後半に大きく分かれる。前半については、日清戦争はともかく、日露戦争は全くの辛勝で、いくつかの大きな幸運に助けられたという側面は否定できず、織田信長の行った戦争に例えるなら、桶狭間の戦いあたりになるのであろう。ただし織田信長は生涯に一度しか桶狭間の戦いのような戦争をしていないが、日本軍はこの日露戦争をその後の範としてしまったところがあり、太平洋戦争末期の負け戦であることが歴然としている状況下でさえ、インパール作戦のようなとんでもない起死回生の大博打を打って墓穴を掘っている。 ☆☆☆ そして前半と後半の間にくるのが第1次世界大戦であるが、日本はここでは本格的な戦闘をなんら経験せずに漁夫の利を得たことが、かえって総力戦時代に見合った軍隊の近代化を遅らせることになる。太平洋戦争を待たずとも、そのことが如実に現れたのがノモンハン事件で、2度の五ヵ年計画ですっかり様変わりしたソビエト軍に、泣く子も黙る関東軍は翻弄されることになる。“賢者は失敗から学び、愚者は同じ失敗を繰り返す”と言うが、日本の軍部がどうしてソ連をアメリカに替え、戦場を陸から海に替えればすべてうまくいくなどと思ったのか理解不能である。ノモンハン事件で、もっと悍ましいことには、辻政信あたりのA級戦犯が大した処分もされずに、ほどなく軍部の中枢に返り咲いているのに対し、彼の命令に忠実であった何人もの下級仕官は理由にもならない理由で、詰め腹を切らされて、自決に追い込まれている。 ☆☆☆ 前半と後半を分ける大きな違いは、前半は、軍人ではないが日清戦争でPivotal Leadershipをとった伊藤博文あたりが典型的であるが、幕末に下級武士としての教育を受けた人達が担ったのに対し、後半の戦争を担ったのはいわゆる陸大あたりで養成されてきた軍事Technocratsで、東条英機あたりがその典型となる。近代国家の戦争は、国家をあげての営みで、特に第一次世界大戦後のように総力戦の時代に入ると、なおさらである。当然、軍事と政治、外交、経済がきちんと統括されないとまともな戦いはできない。下級武士の教育というのは、いわゆる儒学と朱子学中心というか、要するに、論語あたりを幼い頃から、意味がわかろうがわかるまいがに関係なく、素読させる。それでどういう技術が身につくというわけでもないのだが、大所高所から考えるという人生や社会に対する処し方は身につく。技術的なものは後で必要になれば、大急ぎで勉強することも、あるいは下の者に任せることもできるが、この大所高所から考えるという態度は一朝一夕に身につくものではない。これに対し、陸大あたりの教育は、完全に軍事技術的な話に偏り、戦争でLeadershipを取る人間に絶対欠かせない社会科学あたりの教育はほとんどないか、お粗末そのものである。結果として、蛸壺的な軍事に関する知識以外には、他愛もない精神主義しかない軍事Technocratsを大量に生み出し、こういう人間が、国家をあげての戦時体制に移行して、経済や外交にも嘴をはさんでくるようになるとどうなるかをまざまざと示しているのが、15年戦争の頃の日本である。 ☆☆☆ 太平洋戦争の火蓋を切った真珠湾攻撃の折も、敗戦を決定的としたサイパン陥落の折も首相の座にあったのは東条英機である。安倍晋三元首相の外祖父にあたる岸信介は、東条内閣に商工大臣として入閣しているが、東条を評して“裸にすれば、橋本欣五郎以下の男だ”と喝破している。橋本欣五郎というのは、三月事件と十月事件というチャチなクーデター未遂事件を起こした桜会の中心人物で、奇矯な行動で有名な方である。ドイツの社会学者Max Weberは“最高の官僚は最低の政治家である”という名言を残しているが、これが見事なまでに当てはまるのが最高の軍事官僚であった東条なのである。官僚というのは、規則にさえ従っていれば、その結果に対して責任を問われることはない。これに対して政治家は結果責任である。東条の側近であった星野直樹は東条を評して、“やれと言われれば何でもできるが、そこから先がない”と的確なCommentを残している。満州事変の立役者で、東条と犬猿の仲だった石原莞爾あたりになると、もっと辛辣で、極東軍事裁判の参考人として“あなたと東条はよく意見の対立があったようですが”と水を向けられると“私には多少とも意見がありますが、東条には意見と呼べるものが全くありません。意見のないものとは対立のしようがありません。”と鰾膠も無い。 ☆☆☆ 2009年2月にBirkhauser社から中澤武雄という数学者に関する本を現代語現代文化学系の黒田先生と共著で出版した。中澤武雄は1913年高知県生まれで、シベリア抑留の後、33歳で1946年にハバロフスクの病院で栄養失調で他界されている。本学の前身の前身である東京文理科大学の副手を1930年代に数年間務められた数学者で、Matroid理論の先駆者であるにもかかわらず、長い間その業績は顧みられることはなかった。先の太平洋戦争では、中澤に限らず、夢半ばで他界された若者は数え切れない。先に述べた著書は200Pages強であるが、その最初の60Pagesくらいを当時の日本がどのようにしてこの戦争に導かれたかという歴史学的ならびに社会学的分析に費やしたので、ここでは繰り返さない。中澤に興味を持ったのは、2006年の夏であるが、上記の本を執筆する過程でこみ上げてきた合理的思考には収まりきらない情念のようなものをこの作品で表現してみた。なかなか一言では言いにくいのだが、“愚かさに対する怒り”とでもいうべきものである。この“愚かさ”は特定の個人というよりは、日本という国家の歩みのなかで突出したそれを指している。そしてもっと恐ろしいのは、それは決して過去のものではないという点である。そんなことを頭の片隅において鑑賞していただければ、幸いである。
著者
國眼 陽子 望月 修
出版者
日本流体力学会
雑誌
日本流体力学会年会講演論文集 (ISSN:13428004)
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.208-209, 2003-07-28

A motion of an ameba moving by crawling over a surface was investigated in order to apply it to a micro soft robot. An ameba was observed by using a high-powered microscope. For cytoplasmic streaming in ameba, granular materials with a diameter of 1.5μm in ameba were traced by a micro PTV measurement instead of injection of micro partices. Change in velocity vector distribution in ameba was obtained in every 1/30 second. Ratios of influx to efflux of several parts in ameba were estimated. Maximum velocity of cytoplasmic flowing into a stretching pseudopodia was found to be 4 times larger than the stretching speed. Cytoplasmic flow rates of inflow and outflow in the all tested parts were unbalanced.
著者
佐藤 央庸 濱野 強 片見 眞由美 高野 千代 大川 優子 藤澤 由和
出版者
新潟医療福祉大学
雑誌
新潟医療福祉学会誌 (ISSN:13468774)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.51-56, 2007
被引用文献数
1

茨城県大洋村(現,茨城県鉾田市)では,精神障害者(以下,当事者)のエンパワーメントの向上を目的として,当事者と住民の参画による普及啓発イベントの開催を試みた。 13名の当事者が実行委員となり,普及啓発イベントの企画とその運営の中心を担い,3ケ月間の準備を経て開催された。そこで,本研究においてはこうした一連の活動が当事者のエンパワーメントに及ぼす影響に関して検討を行なった。その結果,参画後は参画前に比べて「自尊/自己効力感」,「楽天/将来へのコントロール」の2項目について,スコアの改善が示された。以上の結果から,今回の試みが当事者のエンパワーメント向上に有益な影響を及ぼしたことが推察され,その要因として当事者への適切な役割分担と主体性の尊重,当事者に対する周囲の一貫した支持と肯定的態度などが考えられた。
著者
山口 博明
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.571-581, 1993
被引用文献数
10

昭和42年 (1967) より昭和62年 (1987) までの21年間に, アレルギー疾患を持って九段坂病院小児科外来を受診及び入院した2157名の患児を対象として, 特異抗体を皮内反応及びRASTによって測定し, 年次推移, 性別, アレルギー疾患別, 重症度別に比較した。1) 皮内反応の陽性率が増加したのは, 家塵とスギであった。真菌類では昭和40年代から50年代前半に一時的な増加がみられた。2) 陽性率に男女差はみられなかった。3) アレルギー疾患別の検討では, 家塵で皮内反応とRASTとも喘息単独例より喘息に鼻炎を合併した症例に陽性率が高かった。4) 重症度分類では, 皮内反応で家塵, 真菌類, スギ, プタクサ, ネコ, 絹, ソバガラで重症ほど皮内反応の陽性率が高値を示した。5) 総IgE値が高いほど家塵, ダニ, カンジダ, スギの皮内反応の陽性率が高値を示した。近年のアレルギー疾患の増加は, 家塵及びスギ花粉などの皮内反応の陽性率が年次的に上昇していることからも裏づけられた。その原因として, 東京都の新築された非木造家屋が昭和44年以降に木造の2倍に増加したことなどの住宅構造の変化, また高層住宅が昭和40年初期に比べ50年以降に3倍以上に増加し, この生活環境の著しい変化が, 住居内のダニ数の増加を促し, また, スギ林の植林の増加による花粉の飛散数が上昇に加え, 大気汚染などが影響しているものと推測された。
著者
奥田 紫乃 佐藤 隆二 松本 宜孝
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.65, no.529, pp.17-22, 2000
被引用文献数
4 2

This paper aims to establish a design system of the shading windows which achieve a balanced flows of visual information between the inside and the outside of a room. For this purpose, the relationship between the visibility level and the physical condition of the object seen through the shading of a window must be known. In this paper, the calculating method of the apparent luminance of a visual target seen through a lace curtain was established. In the calculating method, three optical properties of various race curtains, the rate of passage luminance, the property of transmission, and the property of reflection, are required. So these optical properties of five kinds of lace cloths which have different formal characteristics were measured.
著者
島内 裕子
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.302(21)-279(44), 2003

江戸時代には、『徒然草』の著者である兼好が、晩年を伊賀国種生で過ごし、そこで没したとする説が流布していた。この説を反映して、種生という地名を題名にした『種生伝』という兼好の伝記が書かれた。また、伊賀国地誌には、兼好の墓のことが記載され、そこには種々の兼好伝の記事も載せられている。江戸時代には、伊賀国にある兼好の墳墓とされる塚が文学的な名所となっていたのである。芭蕉の弟子の服部土芳もここを訪れている。さらに近代になってからも、伊賀種生の兼好の旧跡を訪ねる人々は「種生探訪」とも言うべき、訪問記を書いているし、地元でも兼好の旧跡が顕彰された。本稿では、種生の兼好旧跡を実地に調査し、地元資料も踏まえて、近世から現代にいたるまでの、種生における兼好終焉伝説とその展開を概観し、次の四点から考察した。第一に、種生常楽寺に現存する『兼好上人略伝』の紹介と、近世兼好伝におけるこの作品の位置づけについて。第二に、『標柱伊賀名所記』に書かれた兼好関係資料について。第三に、服部土芳における兼好と『徒然草』への関心について。第四に、種生を訪れた人々の探訪記と地元での兼好顕彰について。以上の考察を通して、文学作品としての『徒然草』だけでなく、著者である兼好への関心も近世から現代にいたるまで、一貫してかなりたかかったことが明らかになるであろう
著者
北原 佶
出版者
診断と治療社
雑誌
小児科診療 (ISSN:03869806)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.921-926, 1998-05
被引用文献数
1
著者
吉川 大雄 菱沼 孝夫 近久 武美
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.66, no.652, pp.3218-3225, 2000-12-25
被引用文献数
17

The humidification system in a PEFC is handicapped by the water management under a range of temperatures including low temperatures in winter, so the performance with and without humidification was considered and simulated for a variety of fuel cell temperatures. The characteristice of a single cell with a cell area of 104 cm^2 was identified by experiments and a one dimensional model was developed to evaluate cell performance. The experiments found that water managements are important because the ionic conductivity of the membrane and catalyst layers decreases when there is little humidity. Results of start-up tests with the cell showed that the fuel cell recover the performance quickly in temperature as low as 10℃. The one dimensional simulation model showed that the measured cell performance agrees with the modeling results for various humidity conditions of the cell. If low reaction temperatures and low current densities are selected as operating conditions, it would be possible to apply the dry system at the start-up.
著者
鈴木 悠里 野田 敦敬
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会東海支部大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
no.53, 2006-11-19

現在、生活科・総合的学習の中で「竹」を扱った様々な授業が実践されてきている。竹林散策、竹を利用したものづくり、たけのこを食べるなど、活動内容は多種多様である。そこで、「竹」を扱った授業の分析を行い、「竹」の生活科・総合的学習における教材性・教材価値を明らかにする。そして、明らかになったことを「竹」の教材開発へと生かしていく。
著者
竹内 比呂也
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.418-422, 2007-09-01
被引用文献数
2

インターネット上で利用可能なデジタルコンテンツが増加し,伝統的な意味での図書館の資料蓄積・提供機能の重要性が相対的に弱体化している環境下において,これからの図書館のあり方について考察する。図書館を構成する基本要素である,図書館という場所,資料,図書館員について,「利用者の期待」「付加価値」「インタラクティブな関係性」という観点から考察し,これらの図書館に求められる場所としての図書館の特性,インターネット空間上での図書館のプレゼンスの強化,機関リポジトリの推進,図書館員の新たな役割について論じる。
著者
山岸 良一 内田 茂 久我 新一
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
no.384, pp.27-35, 1988-02-28
被引用文献数
10

We examined 1) relations between complexity-order and subjects' evaluation of visual environments, and 2) physical causes of complexity and order by different 3 stages of experiment. In 1st experiment, we employed semantic differential method using 30 color-slide pictures of residential environment in order to examine the 1st purpose. In 2nd experiment, we used 30 pieces of abstract pictures. In 3rd experiment we used 27 series of VTR pictures of abstract models of street environments. Both 2nd and 3rd experiments aimed to obtain the physical causes of complexity and order. As the result of these experiments we found; 1) An orderly and complex environment obtained higher evaluation in a residential environment; 2) The measurement of complexity and order is relative to the measurement of information theory.
著者
狩野 秀一 鈴木 一哉 地引 昌弘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IA, インターネットアーキテクチャ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.377, pp.21-26, 2004-10-21

ルータクラスタにおけるニ重パケット処理冗長方式を提案する。高機能ルータクラスタではフロー状態の冗長化が必要だが、従来方式では冗長化のための状態交換のオーバーヘッドが大きいという問題がある。本研究では、パケットを二重処理して状態を冗長化するために、状態交換のオーバーヘッドがかからない方式を提案する。また、メンバ数および故障回復時間をパラメータとして従来方式とスループット比較を行い、提案方式の優位性を検証する。
著者
藤山 健一郎 中村 暢達 平池 龍一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. CPSY, コンピュータシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.226, pp.31-36, 2005-07-29

既存のクラスタ構成の情報システムにおいて、アプリケーションのデータベース接続APIを拡張し、用いられているデータベースの種類によらず汎用的に、かつ、アプリケーション等を変更することなく透過的にデータ同期複製機能をアドオンし、容易にデータ保護を実現する方式を提案した。また、JDBCを拡張して提案方式を実装、評価し、障害時にもデータが欠落無く保護され、無停止でサービスが継続できることを確認した。