著者
村上 裕晃 田中 和広
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.415-433, 2015-11-30 (Released:2016-02-01)
参考文献数
49
被引用文献数
1 3

島根県津和野地域では,塩濃度の高い鉱泉水がガスを伴い自噴している。この鉱泉水とガスについて,湧出箇所と地化学的特徴を調査した。津和野地域の鉱泉水は最大で海水の約半分程度の塩濃度を示す。自噴するガスは二酸化炭素が主成分である。これらの特徴に加え,鉱泉水の水素・酸素同位体比は天水線から外れる組成を示し,希ガス同位体比からマントル由来のヘリウムの混入が示唆される。これらの地化学的特徴と周辺の地質構造から津和野地域の高塩濃度流体の成因を考察すると,津和野地域の高塩濃度流体には地下深部から供給される流体が含まれていると考えられる。しかし,津和野地域の高塩濃度流体に深部流体が含まれているとしても,その寄与量は最大でも4分の1程度である。また,高塩濃度流体の指標となる塩化物イオンのフラックスが活断層周辺で最も高いことから,高塩濃度流体は活断層を主要な水みちとして移動していると推測される。ただし地表付近において,高塩濃度流体は活断層周辺の亀裂も利用していると考えられる。
著者
小林 大輔 小山 侑 清水 博之 杉山 健太郎
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.19-25, 2016-12-25 (Released:2017-04-12)
参考文献数
22
被引用文献数
1

目的:三叉神経痛の治療法はカルバマゼピン(以下CBZ)の投与である程度確立されているが,副作用で服用の中断を余儀なくされる症例や,抵抗性を示す症例に遭遇することがある.そのような症例の臨床的特徴が明らかになれば治療の一助となると考え,三叉神経痛患者の臨床的検討を行った.方法:2010年4月から2015年3月に東京都立多摩総合医療センター歯科口腔外科を受診した三叉神経痛患者48例について年齢,性別,罹患部位,頭部MRI所見,治療法,副作用について調査を行った.結果:初診時年齢は29~96歳で平均年齢は67.9歳であった.性別は男性が11例(22.9%),女性が37例(77.1%)であった.罹患部位は第Ⅱ枝が25例(52.1%)と半数以上を占めた.頭部MRI撮影を行った44例において18例(40.9%)で原因血管の同定が可能であり,うち上小脳動脈が9例(50.0%)と最も多かった.3例(6.8%)に脳腫瘍を認め,3例の内訳は聴神経腫瘍および髄膜腫,類上皮腫であった.CBZを投与した45例のうち,34例(75.6%)で症状が寛解したが,11例(24.4%)についてはCBZの内服のみでは症状は寛解せず,追加の治療を必要とした.CBZの奏効量は200mgが19例(55.9%)と最も多かった.副作用は14例(31.1%)に認め,最も多い副作用はふらつきで6例であった.結語:今回われわれは三叉神経痛患者48例について臨床的検討を行った.しかしCBZに副作用,抵抗性を示す症例に明らかな臨床的特徴は見出すことができなかった.
著者
大河原 良夫
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.169-177, 2006-09-25

法律が、患者の権利として、患者意思を尊重しその意に反する治療はできないとしているとき、患者はどの程度までの治療拒否ができるのか、生命に危険がある場合まで治療拒否ができるか。この問題は、フランスで最近まで未解決であった。2002年3月4日、患者の権利法が制定され、治療拒否権が新たな形で登場した。しかしその直後、これに抵抗するような形で、エホバの証人輸血拒否事件に関するコンセイユ・デタ2002年8月16日判決(命令)が、輸血断行は、説得など一定の要件を満した場合、自己決定権を侵害しないという判断を示した。これによって、同法制定以降も、患者の自己決定権は、「ハーフトーンの基本的自由」に留まるものとなったが、医業倫理法等との関係で、これらの規範抵触が、やはり医師を微妙な立場におくことに変わりはなく、2002年法は判例の流れを断絶しえなかった。しかし、フランス医事法(学)がこれまで積み上げてきた患者の諸権利を考慮するならば、この判決の射程は拡張されるべきでない。
著者
田村 和也
出版者
一般財団法人 林業経済研究所
雑誌
林業経済 (ISSN:03888614)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.11-34, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
139
被引用文献数
1

わが国の林業種苗政策の歴史的展開について、戦後の優良種苗供給に関する施策の確立過程を1970年の林業種苗法全面改正および80年代まで概観するとともに、明治・大正期以来の施策展開を整理した。56年の林木育種事業指針により同事業が開始され、育種苗が普及し、同事業は制度的にも量・質的にも優良種苗供給源の位置に立った。70年の法改正では、旧法の守備範囲にとどまるも、育種事業を法的に位置づけ、優良種苗流通を保証する制度体系を確立した。苗木需給安定を図る生産対策として、生産者のリスクを軽減する災害共済や残苗補償が60年代以降取り組まれ、また生産基盤整備や施設整備の事業が60年代後半から行われた。約100年にわたり展開されてきた林業種苗政策では、優良種苗供給の制度整備、その量的確保策、および需給や生産安定のための需給対策、生産対策の4つが種苗生産需給に存在するリスク軽減のためしだいに形成され、政策が確立した。
著者
中尾 充宏
出版者
Japanese Society for Engineering Education
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1_70-1_73, 2013 (Released:2013-02-05)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
安田 八十五 白 永梅
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.7-13, 2013

本研究の主たる目的は,レジ袋有料化政策による削減効果の有効性を実態調査によって明らかにし,さらに地域全体で有料化を実施するとレジ袋削減効果が高くなり,有効性が飛躍的に増大することをレジ袋の需要曲線が左下方にシフトするという「レジ袋需要曲線の構造変化」で明らかにすることである.安田は,レジ袋等の容器包装リサイクル問題の課題を容器包装リサイクル費用は一体いくらかかっているのかという問題と容器包装リサイクル費用は本来誰が負担すべきか,という二つの問題に設定し,諸外国の例も参考にして,拡大生産者責任(EPR)を明確にするよう提唱した.本論文ではレジ袋購入率を用いてレジ袋の需要曲線を推定し,レジ袋有料化政策が地域全体で実施されると削減効果が極めて高い結果,すなわち,「レジ袋需要曲線の構造変化」が示されることを明らかにする.
著者
竹橋 洋毅 高 史明 尾崎 由佳
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.388-397, 2021-02-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
36
被引用文献数
3

This study examined the effects of the implicit theory of intelligence and parenting ability on mental health. We conducted an internet survey of 824 parents who lived with their school-age children in elementary or junior high school, in which they rated the severity of parenting stressors they experienced, their mental distress from parenting, their subjective health, and their implicit theories about the plasticity of intelligence and parenting ability. Results indicated that a stronger fixed theory of parenting (i.e., belief that parenting ability is unchangeable) was related to less subjective health as well as a stronger relationship between the severity of a parenting stressor and the mental distress they experienced from parenting. Moreover, more fixed views of intelligence corresponded with greater mental distress from parenting and poorer health. These results suggest that incremental theories about parenting and intelligence might mitigate the negative effects of parenting stressors and reduce the risk of deteriorating mental health.
出版者
内務省警視局
巻号頁・発行日
vol.明治10年5月改正, 1877
著者
松井 良明
出版者
スポーツ史学会
雑誌
スポーツ史研究 (ISSN:09151273)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.11-22, 1989-03-31 (Released:2017-03-17)

It is the history of the famous champions or of the big match records in the bare-knuckle prize fighting that has been considered in the former studies of boxing history in the nineteenth century England. But, on the other hand, the style of glove-boxing had been formed in England since Broughton introduced 'mufflers' around the middle of eighteenth century. That was the beginning of 'sparring'. It was demonstrated for the upper class by ex-champions or ex-pugilists as a lesson to learn 'the noble art of self-defence'. And after 1820s public house, tavern and sporting house supplied the places for 'sparring', and it was also performed by students in some public schools and universities. The utilities and justices of boxing insisted through the 'sparring' were three following points. (1)The utility as a method of self-defence. (2)The utility as a healthy exercise. (3)The justice as one of the athletics to compete the arts of boxing, not to fight. Therefore the historical meanings of 'sparring' are not only to take boxing-gloves in advance, but also(1)to continue a justice of boxing for practical use till the beginning of this century, and(2)to introduce an insistence that boxing is a healthy exercise as a basis of the new justice of boxing, further(3)to take in advance an idea that was asserted to deny a factor of 'fighting' in the boxing match under the progress of modern boxing style.
著者
荻原 直道 工内 毅郎 中務 真人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.35-44, 2006 (Released:2017-02-15)
参考文献数
30

ヒトの精密把握能力の形態的基盤の進化を明らかにするためには, ヒトと最も近縁なチンパンジー手部構造の形態と機能の関係を理解することが不可欠である. このためCT および屍体解剖により取得した形態学的情報を元に, チンパンジーの手部筋骨格系の数理モデルを構築した. 本モデルを用いてチンパンジーの形態に規定される精密把握能力を生体力学的に推定し, ヒトの手と比較した結果, 特に第1背側骨間筋の付着位置の違いが, ヒトに特徴的な優れた把握能力に大きく寄与していることが示唆された.
著者
志摩 典明
出版者
大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

強姦等の性犯罪では睡眠薬が悪用されることが多く、このようなケースでは、被害者を対象とした睡眠薬分析が、犯罪立件への強固な物的証拠となり得る。毛髪中に取り込まれた薬物は、半年~1年以上にわたって検出可能で、根本から一定間隔毎の分画分析によって、薬物摂取歴の推定も可能である。本研究では、覚せい剤等で確立された従来の液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)を睡眠薬用に最適化し、その有用性を検証する共に、従来法では頭髪を100~200本を必要とするため、検出限界の向上を試み、被害者の負担軽減を図った。更に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)によるイメージング分析法を検討し、1本の頭髪で、数日~一週間毎の摂取歴を特定できる分析法の開発を目指したものである。その結果、LC-MS/MSを用いて睡眠薬ゾルピデム単回摂取者の頭髪からゾルピデムの検出に成功した。さらに各種条件を検討することで、摂取後1ヶ月の頭髪1本からも検出することに成功した。本法を用いて、単回摂取により頭髪1本中に取り込まれる薬物量及び局在部位を検討するため、1本毎(n=15、毛根から0-2及び2-4cm)の定量分析を実施したところ、0-2cm分画からは1試料を除く全試料からゾルピデムが検出され、その濃度は27~63(42±12)pg/2-cmhair(n=14)で、比較的ばらつきがなく安定して頭髪中に取り込まれることが示唆された。また、MALDI-MSによる分析では、摂取後48時間以内の毛根から、睡眠薬としては初めて、ゾルピデムの検出に成功した。以上の結果は、日本法中毒学会(平成25年7月)で発表する予定である。
著者
嘗百社 編
出版者
巻号頁・発行日
1835