- 著者
-
後藤 逸男
- 出版者
- 日本土壌微生物学会
- 雑誌
- 土と微生物 (ISSN:09122184)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.2, pp.91-101, 1999
- 参考文献数
- 12
世間で注目を集めたEM資材について土壌肥料学的な評価を行った。その結果,EM液中に含まれる微生物の主体は乳酸菌と酵母で,光合成細菌は検出されなかった。また,それを用いて作成したEMボカシは油かす・魚かす・米ぬかを主体とする有機質肥料に過ぎなかった。さらにEM資材を用いて野菜を栽培した結果,有機質肥料として以上の肥効は全く認められなかった。調査を行った2軒のEM実践農家はいずれも有機農業からの移行農家で,ほ場の土壌中には可給態リン酸・窒素,交換性カリウムなど養分の蓄積が認められた。すなわち,EMは現状の多肥栽培における残効を巧みに利用した残効利用型自然農法であった。EM資材を科学的に容認することはできないが,多肥に陥りやすい現代農法に対する警鐘と見なせばそれなりに評価することもできる。EMボカシを利用した生ごみ処理を一つの契機として生ごみのリサイクルに関心が高まっている。この点,すなわち生ごみリサイクルの社会的関心を高めた点においてもEMを評価できるが,その技術的方法には同意できない。生ごみのリサイクル手段としては堆肥化処理が一般的であるが,大都会では必ずしも適切な処理法ではない。生ごみを乾燥すると炭素率が15程度の有機質資材となる。これを直接土壌に施用すると窒素の有機化に起因する窒素飢餓が起こり,植物の生育を阻害するが,尿素や汚泥などを添加混合して炭素率を8〜10に調節すると,緩効的な肥効を呈する有機質資材として利用できる。土壌病害に悩まされている地域では,その対策として微生物資材を使うことも多い。そのような地域では長年連作が続けられていること,土壌中にリン酸や塩基などが蓄積して養分過剰やアンバランス化が進んでいることなどの共通点が多い。これまで,土壌養分過剰と土壌病害との因果関係を明確にした事例はあまりなかったが,筆者らはアブラナ科野菜根こぶ病の発生と土壌中のリン酸蓄積との因果関係について検討した。発病抑止土壌である黒ボク下層土にリン酸を添加して人工的にリン酸過剰土壌を作成し,ポット試験によりハクサイ根こぶ病の発病試験を行った。その結果,リン酸添加量の増加に伴い,発病が助長された。全国各地の根こぶ病多発地域では可給態リン酸が100mg/100gにも達するような黒ボク土のほ場にも多量のリン酸資材が施用されている。このような地域では微生物資材に頼る前に根本的な施肥改善が必要である。