著者
清水 一彦
出版者
日本出版学会
雑誌
出版研究 (ISSN:03853659)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-21, 2017 (Released:2020-10-30)
参考文献数
58

江戸時代の識字率は学術的には高低が判断出来ないにもかかわらず,ドーアとパッシンの就学率推計値が発表された1960年代後半以降,それまでの低いという認識に代わって「江戸時代の識字率は高かった」という言説が主に一般出版で常識化した.一方,学術出版は一般出版での言説を等閑視することで消極的にではあるが「高い」という言説の常識化に加担した.この言説構成過程の機序を,出版学の立場から社会構成主義の分析ツールを利用し考察した.
著者
小山 治
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.199-218, 2017-07-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
31

本稿の目的は,社会科学分野の大卒就業者に対するインターネットモニター調査によって,大学時代のレポートに関する学習経験は職場における経験学習を促進するのかという問いを明らかにすることである.本稿の主な知見は,次の3点にまとめることができる.第1に,レポートの学習行動のうち,学術的作法は経験学習と相対的に強い有意な正の関連があったという点である.第2に,レポートの学習行動のうち,第三者的思考も経験学習と有意な正の関連があったという点である.第3に,レポートの学習行動以外の大学時代の変数は経験学習と強い関連がなかったという点である.以上から,本稿の結論は,大学時代のレポートに関する学習経験の中でも学術的作法と第三者的思考といった学習行動は職場における経験学習を一定程度促進するということになる.
著者
鮫島 和行
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.23-37, 2018-06-05 (Released:2019-02-07)
参考文献数
17

2018年5月8日.山岸俊男先生が逝去された.3年前の2015年,山岸先生に無理を言って,神経科学の理論と実験の統合を目指す若手研究者のために講義をして欲しいと,当時玉川大学の先生のお部屋でお願いをした.山岸先生にはASCONE最終日に3時間以上にわたって講義をしていただいた.この解説記事は,先生のご研究やお考えを少しでも広く,長く伝えるために,私が書き起こしたASCONE講義録である.全て話し言葉でされた講義のため,一部勝手ながら私の解釈で要約した部分があり,不正確なところも見受けられるかもしれないが,ご容赦いただきたい.下記は山岸先生からASCONEの講義概要としていただいた要約である.『社会科学では古くから,社会秩序の説明に2つの原理が用いられてきた.ひとつは制度による説明であり,もうひとつは規範の内面化による説明である.ヒトの向社会性の説明原理を向社会的選好の進化基盤に求める現在の行動経済学の理論展開は,規範の内面化のアイディアを,内面化を促進する心的メカニズムの進化によって補強する動きとして捉えることができる.こうした近年の研究の中で軽視されてきたのは,社会科学の根本問題である制度構築の観点であり,社会的選好と制度との共進化(社会的ニッチ構築)の観点である.本講義では,(規範の内面化が完璧になされている)イワンの馬鹿を基盤とする社会秩序から,合理的なホモエコノミカスを基盤とする社会秩序への移行が可能かどうかを考えるために,私たちは何を研究すべきかについて,出席者の皆さんと一緒に議論したい.』
著者
Masahiro Yano Tomoaki Morioka Yuka Natsuki Keyaki Sasaki Yoshinori Kakutani Akinobu Ochi Yuko Yamazaki Tetsuo Shoji Masanori Emoto
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.1197-1200, 2022-04-15 (Released:2022-04-15)
参考文献数
15
被引用文献数
2 38

During the ongoing coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic, it is critical to ensure the safety of COVID-19 vaccines. We herein report a 51-year-old Japanese woman who developed acute-onset type 1 diabetes with diabetic ketoacidosis six weeks after receiving the first dose of a COVID-19 messenger ribonucleic acid (mRNA) vaccine. Laboratory tests indicated exhaustion of endogenous insulin secretion, a positive result for insulin autoantibody, and latent thyroid autoimmunity. Human leukocyte antigen typing was homozygous for DRB1*09:01-DQB1*03:03 haplotypes. This case suggests that COVID-19 vaccination can induce type 1 diabetes in some individuals with a genetic predisposition.
著者
湧井 宣行 大久保 哲生 岩崎 雄介 伊藤 里恵 小林 岳 早川 和宏 三井 みゆき 矢野 裕一 斉藤 貢一 中澤 裕之
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.425-430, 2011 (Released:2012-08-30)
参考文献数
9
被引用文献数
6 4

The pulverization of tablets for the preparation of pediatric medicines causes problems with respect to content uniformity and amount of the main ingredient. We compared these 2 factors in a pediatric medicine prepared by 2 methods: tablet grinding and tablet dilution. We also investigated causes of drug loss by means of high-performance liquid chromatography (HPLC).Three pharmacists prepared cortril powder by each method. When the main ingredient content was calculated by quantitative analysis by means of HPLC, there was no significant difference between the 2 methods, and adhesion to the mortar and the package were considered to be major reasons for drug loss.We also examined the effect of the amount of diluent on the loss of the main ingredient in the grinding process, finding that increasing the amount of diluent minimized the loss of the main ingredient content. When the amount of diluent per package was 1.5g, the main ingredient content was 90.8% (n=3).These results suggest that when dispensing small amounts of ground tablets, more attention should be paid to the amount of diluting agents than to the grinding technique.
著者
平和 伸仁 梅村 敏
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.4, pp.778-783, 2020-04-10 (Released:2021-04-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
櫻井 義秀
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.453-478, 2009-09-30 (Released:2017-07-14)

本稿では、宗教と倫理が緊張関係にある事例としてカルト問題を取り上げ、教勢拡大中のキリスト教教会や宗教団体にはカルトにも共通する特徴があることを指摘した。宣教体制に機能特化した教団は、教化力・組織力・指導力を高めるべく<指導-被指導>関係を軸とした権威主義的体制を構築する。そこにおいて、「教会のカルト化」「宗教団体のカルト化」として批判される信徒への抑圧・搾取的行為や反社会的行動が見られることがある。宗教組織や宗教運動に固有の逸脱を批判してきたものは、現実の宗教団体に対して外郭的秩序として機能する倫理や法ではなく、カルトに巻き込まれた当事者や支援者が特定教団の活動を社会問題として批判・告発してきた活動であった。具体的な問題を解決する過程において構築される社会倫理こそが、宗教とカルトを分かつものが何であるか、そして、宗教と倫理をめぐる緊張とはいかなるものであるかを明らかにしてくれるだろう。
著者
井尻 巖
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.8, pp.437-447, 1999-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
2

死亡診断書・死体検案書の書き方の概要を述べる。死亡診断書は診療継続中の患者が当該疾病で死亡した場合に発行され,その他の場合は死体検案書を発行する。死亡者の氏名は戸籍に記載された氏名を記入する。「死亡したとき」の欄には,心肺停止例で死亡を確認した時刻や,心肺蘇生が不成功の場合にそれを終了した時刻ではなく,これらの時点よりさかのぼった時刻を推測して記入する。この場合には死亡時刻の記入した後に頃(推定)と記入する。「死亡の原因」のI欄は直接死因と下段に直接因果関係を有する傷病名を順を追って記入する。最も下段に記入された傷病名が原死因となり,死因として採用される。この欄の記入に疎漏があると死亡者の死亡の原因がまったく違ってくる。死因が特定できない場合には,適当な死因を付けないで[詳細不明]と記入し,「その他特に付言すべきことがら」欄にその理由を記入する。「死因の種類」欄は原死因が該当する種類に〇を付ける。「外因死の追加事項」の欄は,病死および自然死以外は必ず記入する。伝聞をもとに記入することがほとんどであるが,可能な限り詳細に記入する。なお,不詳の死とした場合には,この欄に記入せず「その他特に付言すべきことがら」欄に,その理由を記入する。「その他付言すべきことがら」欄には,前記に述べた事項のほか,心肺蘇生が不成功であった場合に,「心肺停止状態で搬送され,心肺蘇生が不成功,〇時〇分に死亡確認」等記入しておく。死亡診断書・死体検案書をめぐる紛争は少なくなく,記載にあたっては慎重に記入することが肝要と考える。
著者
中村 亮
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.172-188, 1961-02-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
36
被引用文献数
3 2
著者
趙 慶喜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.35-47, 2018 (Released:2018-10-12)
参考文献数
14

本稿はここ数年韓国で熾烈な論争を引き起こしている女性嫌悪言説を追跡したものである。「嫌悪(혐오)」という語には,憎悪(hate)と嫌悪(disgust),そして恐怖(phobia)が混在している。嫌悪は新自由主義時代のグローバルな現象であると同時に,韓国社会を強力に規定してきた分断イデオロギーや敵対性の記憶によって増幅される情動である。本稿では,2015年以後に起きたいくつかの出来事を通して,「女嫌」という情動の増幅と転換の過程を考察した。江南駅女性殺害事件とともに触発された韓国の「女嫌」論争は,メガリアンという新たなフェミニスト集団を誕生させた。メガリアンは女性嫌悪に反対するという消極的な立場にとどまらず,「女嫌嫌」を目指すミラーリング戦略をとった。ミラーリングは単に原本のコピーに止まらず,原本がいかに差別と嫌悪にまみれたものであるのかを反射を通して知らしめる戦略であった。彼女たちは,男性たちの女性への快楽的な嫌悪表現や日常的なポルノグラフィをそっくりそのまま転覆することで男女の規範を撹乱した。メガリアが爆発的な波及力を持ちえたのは,女性たちの共感と解放感という同時代的な情動が共振した結果であった。しかし,女嫌をめぐる葛藤は単なる男女の利害関係をこえたより複雑な分断にさらされた。とりわけLGBTへの反応は,右派/左派あるいは世代や宗教のあいだの様々な対立構図を生み出した。たとえばキリスト教保守陣営による「従北ゲイ」という言葉は,反共と反同性愛を結合させることで韓国社会の内なる敵への憎悪と嫌悪を凝縮させ,フェミニストやLGBTなど既存の境界を撹乱する存在に対する過剰な情動の政治を作動させた。本稿は「女嫌」言説の増幅過程を通して,それが韓国社会に蓄積された様々なイデオロギー的葛藤のひとつの兆候であることを明らかにした。
著者
中島 三千男 Nakajima Michio
出版者
歴史科学協議会
雑誌
歴史評論 (ISSN:03868907)
巻号頁・発行日
vol.358, pp.33-58, 1980-02-01

特集・天皇制の現段階と元号・靖国〔追記〕の指示に従い末頁にp.68の一部を収録
著者
澤山 郁夫 三宅 幹子
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.137-146, 2015-11-20 (Released:2015-12-05)
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

本研究では,ヘビーユーザーが多いことで知られるTwitterにおいて,ヒマさえあれば1日のうちに何度も閲覧してしまう者の心理特性が検討された。大学生を対象に質問紙調査を実施した結果,ヒマさえあれば1日のうちに何度も閲覧する者は,Twitterを利用していない者に比べて,公的自意識や同調志向,自己認識欲求,ネガティブ情報回避欲求について,高い傾向にあることが示された。また,高頻度閲覧者は,直接会うことの多い知人・友人の独り言のようなツイートが気になっていることも示された。これらの結果より,Twitterが身近な他者との同調や自己関連情報の収集を目的として利用されている可能性が示された。ただし,これらの心理特性はいずれも,Twitter利用の有無への影響は示唆される結果となったものの,閲覧が高頻度であるか中低頻度であるかといった頻度間では,明確な差はみられなかった。今後は,高頻度閲覧を規定する別の要因を含めた検討が必要であろう。
著者
黒岩 義之 平井 利明 横田 俊平 鈴木 可奈子 中村 郁朗 西岡 久寿樹
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.185-202, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
50

脳室周囲器官と視床下部は恒常性維持器官であり,自律神経,概日リズム,神経内分泌(ストレス反応),情動・記憶・認知,感覚閾値・疼痛抑制,歩行・運動,神経代謝・神経免疫(熱エネルギー代謝,老廃物排出,自然免疫・腫瘍免疫)を制御する.血液脳関門を欠く有窓性毛細血管が密集する感覚性脳室周囲器官が感知した信号(光,匂い,音,電磁波,レプチン,グレリン)は視索前野,背内側視床下部を経て,休息型視床下部(摂食行動抑制中枢)と活動型視床下部(摂食行動促進中枢)に伝達される.心理ストレス情報は扁桃体から,概日リズム情報は視交叉上核から視床下部に入り,視床下部からオレキシン,バゾプレシン,オキシトシンが分泌される.視床下部症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群)の背景疾患として,ヒトパピローマウィルスワクチン接種関連神経免疫症候群,慢性疲労症候群,脳脊髄液減少症,メトロニダゾール脳症,化学物質過敏症,電磁過敏症などがある.