著者
星 貴之
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.508-513, 2022-09-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
27
著者
榎本 祐嗣 長尾 年恭 古宇田 亮一 山辺 典昭 杉浦 繁貴 近藤 斎
雑誌
日本地球惑星科学連合2022年大会
巻号頁・発行日
2022-03-24

日本列島および取り囲む近海には、水溶性メタンガス田やメタンハイドレート賦存域が拡がっていて、その地域で発生する大地震の巨大エネルギーはメタン/メタンハイドレートを賦活化しガス田火災や津波火災を引き起こす可能性がある。実際、歴史地震史料を辿るとそのような事例をいくつか挙げることができる。例えば1923年大正関東地震で起きた被服廠跡の惨劇は、従来周辺で発生した火焔を巻き込んだ“火災旋風”と理解されてきたが、南関東ガス田由来のメタン火焔の噴出による激甚火災を裏付ける資料や証言がある(榎本ほか,2021)。1855年安政江戸地震では夜中だったため大地の割れ目から火が噴き出る様子が目撃された。このとき起きた同時多発火災の発生域は大正関東地震のそれと重っている。その火災発生域の地下の比較的浅いところに、シルト層がキャップロックとなるメタン溜が存在する(。このメタンが地割れでできた新生面との電気相互作用で帯電・静電気着火して地表に火焔となって噴き出したと考えられる。図に示す資料は被服廠跡で起きた惨劇の真因を物語る。新潟や長野地域にも水溶性ガス田が存在していて、1828年越後三条地震や1847年善光寺地震でも地中から火焔が吹き出し、街中の火災を誘発した。一方1993年北海道南西沖で起きた津波は、海底から巻き上げたメタンバブルを運び、奥尻島青苗港の岸壁に衝突して舞い上がった帯電ミストにより静電気火災が発生、飛び火して青苗の街を焼き尽くした。2011年東北沖地震で起きた津波火災件数のうち24%は原因不明とされているが、青苗港で起きたと同様な原因である可能性がある。以上に述べた自然火災害は、しかしながら国の被害想定に含まれていない。対策が立てられないままでは、過去に起きた地震火災害が繰り返される懸念をぬぐえない。首都圏直下地震や南海トラフ地震発生の可能性が増すいま、地下/海底に賦存されるメタン/メタンハイドレートが誘発する地震火災害の想定と対策の実施にむけた活動は喫緊の課題であろう。例えば避難先と指定されている場所でのメタンモニタは欠かせない。沿岸に林立する石油タンクを津波火災の危険からどう守るか、課題はいくつも見えてくる。 具体的な課題を一つあげておこう。東京都は地盤沈下を防止するため、1972年末から天然ガス採取を全面停止、1988年6月から東京都の平野部全体を鉱区禁止地域に指定し揚水を規制した。そのため、東京駅の地下駅(たとえば京葉線)や、上野の新幹線駅などは、地下水位が上昇し地下筐体が浮き上がってきた。このことは地下水位の上昇だけでなく、南関東ガス田由来の天然ガスもかつてないほど蓄積され圧力上昇している可能性が高く、ガス漏れの監視あるいはガス抜きの対策を実施することが、迫る首都直下地震での火災発生被害低減につながるのではないだろうか。まず重要なことは防災・減災に携わる専門家のあいだで、この自然火災害に対する危機意識を共有し、対策の立案・実施が必要なのだが猶予はあまりない。図の説明左図:帝都大震災画報其九「厩橋より本所横網町方面大旋風之惨状」に描かれた被服廠跡の火焔竜巻、大正十二年(すみだ郷土文化資料館提供)、右図:絵葉書「斯如き電車路本所方面」(個人蔵)、石畳は剥がれ、レールは右上に曲がり土砂が噴き出している。1000℃を超える火焔が噴き出したためと考えられる。
著者
鈴木 蒼
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.129, no.3, pp.38-62, 2020 (Released:2021-09-09)

本稿は、文化史上特に重要とされながら、これまで研究が僅少であった、平安時代における書筆に優れ文字を巧みに書いた人々、「能書」の性質について考察を行ったものである。当該期における「能書」は、種々の依頼(命令)に応じてさまざまな文書の清書を行うという、彼らにしか行い得ない独自の社会的役割を持っていた。こうした彼らの書に関する能力は、九世紀初頭より十世紀後葉頃までは、紀伝道を中心とする大学での学習、あるいは親族間による書の技術の伝習という、二つの方法を中心として育成された。この二つを巧みに利用した小野氏をはじめとするいくつかの一族は、能書の一族として九・十世紀の間勢力を保持した。また、彼らはその能力を、天皇・皇太子といった権力者と人格的関係を築く一助としても活用した。 十一世紀前後より、能書は自身の臣従する主君(権門)の命令による清書のみを行うようになる。また、十一世紀中葉までに摂関家に臣従した能書とその後裔以外の人物は、能書としては没落してしまう。こうした変化の背景として、十世紀後葉以降、権門が官人を掌握するようになるという、貴族社会の質的変容が考えられる。 またこの時期、故実や特定の血統といった単純な書の能力以外のものが、能書にも求められるようになる。その中で、藤原行成という優れた能書を祖に持ち、故実の創出を行った世尊寺家(藤原行成子孫)が、十一世紀後葉には有力な能書の一族として立ち現れてくる。しかしそのために、九・十世紀に比べ、大学出身者の能書は大幅に減少する。また、鳥羽・後白河院政期には、院近臣の一族である勧修寺流藤原氏が、摂関家の能書藤原忠通との人格的関係や、複数の権門と良好な関係を築いたことによって、書の一族として急成長する。しかし、後白河院政の終了後、彼らは急速に能書役から退いたため、平安時代以降に書の一族として残ったのは世尊寺家のみであった。
著者
青木 貴史
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.302-315, 1983-11-18 (Released:2008-12-25)
参考文献数
40
著者
池田 圭佑 榊 剛史 鳥海 不二夫 風間 一洋 野田 五十樹 諏訪 博彦 篠田 孝祐 栗原 聡
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.NFC-C_1-13, 2016-01-06 (Released:2016-09-26)
参考文献数
19
被引用文献数
1

During the 2011 East Japan Great Earthquake Disaster, some people used social media such as Twitter to get information important to their lives. However, the spread of groundless rumor information was big social problem. Therefore, social media users pay attention to prevent wrong information from diffusing. The way to stop the spread of a false rumor is needed, so we have to understand a diffusion of information mechanism. We have proposed information diffusion model which is based on SIR model until now. This model is represented by the stochastic state transition model for whether to propagate the information, and its transition probability is defined as the same value for all agents. People ’s thinking or actions are not the same. To solve this problem, we adopted three elements in our model: A new internal state switching model, user diversity and multiplexing of information paths. In this paper, we propose a novel information diffusion model, the Agent-based Information Diffusion Model (AIDM). We reproduce two kinds of false rumor information diffusion using proposed model. One is “single burst type false rumor spread ”, and another is “multi burst type false rumor spread. ”Proposal model is estimated by comparing real data with a simulation result.
著者
Nobuyasu Ichinose Kentaro Haraoka Takaya Mori Masanori Ozaki Akira Taniguchi
出版者
Japanese Society for Magnetic Resonance in Medicine
雑誌
Magnetic Resonance in Medical Sciences (ISSN:13473182)
巻号頁・発行日
pp.mp.2023-0074, (Released:2023-11-02)
参考文献数
18

Purpose: Recently, the utility of non-contrast MR endolymphatic hydrops imaging was reported, but the pitfall was indicated based on T2 preparation pulse sensitiveness to local static magnetic field (B0) inhomogeneity. The purpose of this study is to clarify the effects of surrounding magnetic environment of temporal bone to lymphatic fluid signal intensity on the T2 preparation and fluid attenuated inversion recovery pulse combination (T2prep 3D-FLAIR) technique in human inner ear study.Methods: We prepared a custom-made phantom comprising a chicken leg bone submersed in saline. To evaluate signal characteristics of saline close to bone, multiple TE gradient echoes, T2 relaxation time measurement, and T2prep 3D-FLAIR image were acquired. In the vicinity of the vestibule of a healthy volunteer, similar examinations were executed. Additionally, to investigate the influence of the magnetic environment from B0, the evaluation was performed in five head position settings relative to B0.Results: In both the phantom case and volunteer case, together with T2 star signal intensity attenuation, T2 relaxation time shortening was observed on fluid around bone. Specifically, at the outer edge in the vestibule and cochlea of the volunteer, T2 relaxation time was shorter than that of center of vestibule and that of cochlea. In the T2prep 3D-FLAIR image, higher signal intensity was observed at the same location on the outer edge of them. These results showed that bone affects surrounding fluid magnetic environment. Also, for B0 influence, despite a large area variation ratio, there is no statistically significant difference correlated to orientation within B0.Conclusion: The surrounding magnetic environment of the temporal bone affects lymphatic fluid signals of the peripheral part of the human inner ear on T2prep 3D-FLAIR technique.
著者
平林 二郎 吹田 隆道 名和 隆乾
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

既存の仏教学研究では,初期仏教文献は韻文の伝承を基に散文経典を作成した,というのが定説となっていた.しかし,近年の研究成果から初期仏教文献の原形には韻文のものと散文のものがあり,韻文のものについては仏教以外の宗教やインドの叙事詩の思想などが組み込まれていると明らかになってきている.それでは仏教教団はどのように仏教外の思想を初期仏教文献に組み込んでいったのか.本研究は韻文経典と散文経典を分けた新たな初期仏教文献史の構築を目的とし,経蔵と律蔵にみられる経典読誦の分析,在家者による経典読誦と出家者による経典読誦の実態解明を行い,不明な部分が残る古代インドの仏教教団と在家者の関係性を明らかにする.
著者
藤原 亮一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.352-353, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
10

日本の薬学教育は6年制になって、特にアメリカと似たものであると認識していたが、筆者は米国の薬学部に異動し、アメリカにおける薬学教育に直接携わるようになってから、日米間での薬学教育の違いを目の当たりにする日々が続いている。そこで本コラムでは、アメリカ薬学部にて教鞭をとる立場から、アメリカの薬学教育、日本での薬学教育との違い、またそれぞれの特色について筆者が感じ取ったことをシリーズで紹介する。前回はアメリカの薬学部生がコロナ禍で活躍する様子を伝えた。今回はアメリカにおける学生の薬学部志望理由や学生生活、またアルバイトとして学生に人気の薬局テクニシャン(調剤助手)について紹介する。
著者
西村 歩 新井田 統
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回 (2021) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2H1GS3a05, 2021 (Released:2021-06-14)

従来の研究観では、経験を集合させることによって「客観性」を担保していく科学的手続きが重視されてきた。その一方でオートエスノグラフィや一人称研究に見られるように、研究者自身によるフィールドでの活動を通して得られた日常的な知覚経験から得られる経験的な知識としての「知覚的知識(Perceptual knowledge)」を語る研究も見られてきた。しかしここでいう「語り」とは元来主観的かつ文脈依存的なものであることから、研究者の「幻覚」が記述されてしまわないかとする懐疑論も根強く存在する。そこで本稿では研究者自身の経験に基づく「知覚的知識」を報告する研究の意義とは何かについて知識論における「幻覚からの議論」や「選言主義」の立場を踏まえて議論する。その上で知覚的知識に向けられる「幻覚」に由来する過剰な懐疑論を乗り越え,かつ知覚的知識ならではの強みを活用した研究活動が普及していくための条件を提示した。本稿の意義とは、これまで哲学的領域で行われてきた「知覚」に関わる議論について具体的なフィールドを舞台とした研究での適用について議論する一助となることである。
著者
広瀬 茂男
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会誌 (ISSN:13405551)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.162-165, 1996-02-20 (Released:2008-04-17)
参考文献数
4
著者
向後 千春
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.207-214, 2019-12-31 (Released:2020-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2

教育工学は,心理学,工学,教育実践といった領域が複合したものである.教育工学研究もまた複合的になる.教育工学研究の特徴は,(1) 領域フリーであること,(2) 教育の方法に注目していること,(3) 教育の現場に制約されること,の3点である.そして,その指向性は,(1) 現場を改善すること,(2) 同種の実践に還元すること,(3) 理論に寄与すること,である.インストラクショナルデザインは,この教育工学の中心部分をカバーするものである.インストラクショナルデザイン研究を進めるためには,単なる実践報告を越えるために創造的な技術や工夫に焦点をあてること,教育工学として意味のあるリサーチクエスチョンを立てること,デザインベースによって研究を進めること,研究の段階によって適したデータ分析手法を選ぶこと,データを臨床的に解釈し意味づけることが重要であることを指摘した.
著者
大原関 一浩
出版者
西南学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

明治・大正期、中国や東南アジアに渡航し売春に従事した「からゆきさん」については注目されてきたが、英語圏の諸外国に渡航した「からゆきさん」についての研究は進んでおらず、未だ解明されていない点が多い。本研究では、アングロアメリカ系が政治的に支配的な勢力を持った太平洋の諸地域―カナダ・アメリカ合衆国・ハワイ・オーストラリア・アラスカ―における性管理のあり方と日本人売買春の実態について検討を行う。そのために、これまで日本国内の研究では十分に利用されてこなかった海外現地における英語の公文書を収集・分析し、どのような論理と社会的状況下で日本人売買春が広まり管理されていたのか、その実態を明らかにする。

3 0 0 0 OA 中世木津考

著者
大澤 研一
出版者
大阪歴史博物館
雑誌
大阪歴史博物館研究紀要 (ISSN:13478443)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.0001-0016, 2023 (Released:2023-06-03)

大阪市浪速区に比定される中世木津の集落は織田信長と大坂本願寺のあいだで繰り広げられた大坂本願寺戦争の激戦地となったことで有名だが、現在では地形環境が大きく変容してしまい、往時の姿を知ることは難しい。そこで最近発表された木津一帯の発掘調査の集成による地形環境復元研究をベースに、近世前期の絵図、さらには文献史料にみられる木津一帯の地名などの情報を加えることで、中世から近世前期における木津周辺の地形変容についてさらなる検討をおこない、木津の立地条件が海辺近くから内陸へと変化していった状況を改めて確認した。また中世木津の社会状況を知るため、本願寺教団の木津における活動を検討した。その結果、当地には遅くとも十六世紀には二つの末寺寺院および有力な直参門徒が存在し、さらに木津の惣が大坂本願寺と密接に交流していた様子を指摘した。以上の木津をめぐる状況が大坂本願寺戦争の激戦地となる前提条件であったと考えられる。
著者
鷹野 剛 上村 豊 五明 佐也香 上笹貫 俊郎 松島 久雄
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.535-540, 2021-08-31 (Released:2021-08-31)
参考文献数
5
被引用文献数
1

埼玉県メディカルコントロール協議会(以下,県MC協議会と略す)は,平成29年4月1日から指導救命士制度を導入し認定を開始した。導入にあたり指導救命士による教育指導体制の構築にはどのような活動を行い,役割を担っていくべきかが検討課題となった。そのため「教育」,「事後検証」,「学術活動」の指導体制の現状と,指導救命士による今後の活動予定について県内27消防本部に対してアンケート調査を実施した。アンケート結果では県内で統一した救急隊員の教育指導にかかわるガイドライン作成の要望が寄せられた。県MC協議会は新たに指導救命士部会を設置し,プロトコール研修会と事後検証を実施するための県内で統一したガイドラインを作成し各地域メディカルコントロール協議会(以下,地域MC協議会と略す)へ通知した。作成にかかわった指導救命士部会のメンバーとして,埼玉県の指導救命士による教育指導体制の構築へ向けた取り組みと今後の展望を報告する。