著者
松井 彩子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.39-50, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

本研究の目的は,スポーツイベントへのスポンサー契約にネガティブなインシデントが発生した場合の,消費者の反応を探索的に検討することである。具体的には,2021年に開催された2020東京五輪に関して,2022年に入って指摘されはじめた五輪汚職を事例に,Twitter上で発生したネガティブな口コミを探索的に検討する。そして,ネガティブな事象が発生した場合の,スポンサー企業への消費者の反応を明らかにする。実際にツイートデータを抽出した企業は,AOKIとKADOKAWAの2社である。これらのツイートデータに関して,ネガティブインシデントが発生した時系列ごとに頻出単語を整理した。その結果,一度ネガティブインシデントが発生して以降は,消費者の反応の増減に関わらず,ネガティブな頻出単語の性質には変化はないことが示された。
著者
平田 光彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.4_1-4_8, 2014-11-30 (Released:2015-04-10)
参考文献数
25

本研究では,整斉を基調とした楷書の点画構成において,はねを有する画が与える美的印象を,感性評価によって実証的に検討した.調査対象は,右方向へ送筆後にはねる画と右下方向へ送筆後にはねる画の強調効果であった.刺激には,はねを有する画を強調した標準構成のサンプル文字と強調のないサンプル文字を用意し,SD法によって視覚的印象のデータを採集した.評価尺度には筆者らの先行研究で構成した3次元(「均整美」,「開放性(活動性)」,「力量性」)の尺度を使用した.サンプル文字の評価値には,採集データに項目反応理論を適用して求めた尺度値を使用し,分散分析による検定をおこなった. 調査の結果,はねを有する画は,右方向への強調構成によって均整美の評価を上げた.また開放性の評価結果から,はねを有する画が,視覚を通して身体運動への共感覚を喚起する可能性が推察された.最後に,右下に送筆後はねる画で,力量性の評価が向上する画の長さの範囲があることが示唆された.
著者
清山 陽平 神吉 紀世子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.142-151, 2021-04-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
33

雑然と映ることの多い近代スプロール市街地における歴史や特色をいかに捉えることができるか。本研究では京都・伏見旧城下町周縁部に位置する中書島南新地を対象に、文献や地図、空中写真、旧土地台帳を資料に用い、その異なるスケールにおける複数の成立経過を細やかに明らかにした。その上で、実際の雑然とした市街地空間をつくる不揃いな道に着目し、それぞれの差異が異なる成立経過に因るものとして説明できた。さらにそうした複雑な成立経過の重層は、歴史的市街地周縁部に位置する近代スプロール市街地である南新地ならではの特色として判断できた。これによって一見雑然と映る現在の市街地空間を、南新地ならではの特色が現れた状態と評価できることが明らかとなった。
著者
瀧井 猛将
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.684, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
6

世界保健機関(WHO)によると,世界人口の4分の1が結核に感染していると推定されている.2018年のWHOの統計では,結核は死因上位10に入る疾患で年間145.1万人が死亡し,世界中で1,000万人が感染している感染症である.なかでも南西アジア,アフリカでの患者数が多く,インド,中国,インドネシア,フィリピン,パキスタン,ナイジェリア,バングラディッシュと南アフリカの8か国で全体の3分の2を占める.一方,日本の近況を見ると,2018年の新登録結核患者数が15,590人,死亡者数2,204人(概数),罹患率は12.3(人口10万人あたり)であり,罹患率が10を下回る国と比べると中蔓延の状況にある.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) World Health Organization, https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/329368/9789241565714-eng.pdf?ua=12) 結核の統計,https://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/toukei/nenpou/3) TuBerculosis Vaccine Initiative(TBVI),https://www.tbvi.eu/eu/what-we-do/pipeline-of-vaccines/4) Tait D. R. et al., N. Engl. J. Med., 381, 2429-2439(2019).5) Mortier M. -C. et al., BMC Immunol., 16, 63(2015).6) Skeiky Y. A. W. et al., J. Immunol., 172, 7618-7628(2004).
著者
今田 純雄
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.120-128, 2009-11-25 (Released:2010-05-08)
参考文献数
47
被引用文献数
1 1

The study of eating in psychology takes place primarily at the physiological level, and research themes generally view eating as a biological behavior, controlled by biologically-based motives. This paper emphasizes the role of mental processes involved in the starting and stopping of eating, as well as the importance of affective processes in eating behaviors. Cognitive eating controls found in dieters who eagerly desire to reduce their body weight are case in point; their eating behavior is difficult to explain without considering mental processes. However difficulties in predicting how emotions affect eating linger, as previous research examining the relationship between emotions and eating often suggest contradictory and confounding results. A five-way model proposed by Macht (2008) shows promise as a good tool to analyze these differing viewpoints, and develop hypotheses to investigate the relationship between emotions and eating.
著者
浅原 正幸
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.351-365, 2011 (Released:2011-12-28)
参考文献数
20

本稿では係り受け構造情報のタグ付けの一貫性について考える.係り受け構造には,統語的制約により一意に決まる構造と選択選好性によるタグ付け作業者に委ねる構造がある.多くの場合,統語的制約を優先してタグ付けられるが,選択選好性に影響され誤ってタグ付ける例が多々ある.このような事例について誤り傾向の差分を評価するために,ゲームを用いた新しい心理言語実験手法を提案する.埋め込み構造によるガーデンパス文を用いて 13 人の被験者で実験を行ったほか,6 種類の係り受け解析器を用いて解析誤り傾向の比較を行った.さらに最も誤った種類の文に対し,選択選好性がどのように影響したかについて報告する.
著者
李 文平
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.63-77, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
30

本研究では,教科書の改善の方法を探るために,中国で使用されている日本語教科書のコロケーションを調べ,母語話者の使用実態との比較を行った。今回の調査の結果,次の三点が明らかになった。第一に,教科書のコロケーションは頻度も種類も母語話者の使用より多い。第二に,教科書において母語話者がよく使うコロケーションを提示することは,これまでの日本語教育と補完し合うものと期待できるにもかかわらず,現行の教科書は母語話者の使用実態を十分に考慮していない。特に,「影響を受ける」「役割を果たす」などトピックに依存せず,広く使われているものを積極的に取り入れていない傾向がある。第三に,教科書は新出単語を母語話者がよく使うコロケーションの形で提示しておらず,母語話者があまり使わないコロケーションを大きく取り上げる傾向も見られた。これらの問題点を指摘した上で,今後の改善点を提案した。
著者
遠藤 愛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.224-235, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では, 境界領域の知能と年齢に不相応な学力を有する中学生を対象に, 算数文章題の課題解決を目指す学習支援方略を検討した。アセスメントの手続きとして, (a)WISC-IIIによる認知特性と, (b)つまずいている解決過程の分析を実施し, それらを踏まえ案出した2つの学習支援方略(具体物操作条件とキーワード提示条件)を適用した。その結果, 対象生徒の課題への動機づけが具体物操作条件にて向上し, 立式過程におけるつまずきがキーワード提示条件にて解消し, 効果的に課題解決がなされた。しかし, 計算過程でのケアレスミスが残る形となり, プロンプト提示を工夫する必要性が示唆された。以上から, 算数文章題解決のための学習支援方略を組む上で踏まえるべきポイントとして, 生徒が示す中核的なつまずきを解消する方略を選択すること, 学習支援方略を適用したときのエラー内容をさらに分析して別の過程における課題解決状況を確認することの2点が示された。
著者
Shingo MAEDA
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
pp.23-0204, (Released:2023-06-28)

The development of molecular biology and bioinformatics using next-generation sequencing has dramatically advanced the identification of molecules involved in various diseases and the elucidation of their pathogenesis. Consequently, many molecular-targeted therapies have been developed in the medical field. In veterinary medicine, the world's first molecular-targeted drug for animals, masitinib, was approved in 2008, followed by the multikinase inhibitor toceranib in 2009. Toceranib was originally approved for mast cell tumors in dogs but has also been shown to be effective in other tumors because of its ability to inhibit molecules involved in angiogenesis. Thus, toceranib has achieved great success as a molecular-targeted cancer therapy for dogs. Although there has been no progress in the development and commercialization of new molecular-targeted drugs for the treatment of cancer since the success of toceranib, several clinical trials have recently reported the administration of novel agents in the research stage to dogs with tumors. This review provides an overview of molecular-targeted drugs for canine tumors, particularly transitional cell carcinomas, and presents some of our recent data.
著者
T. Abe T. Yasuda T. Midorikawa Y. Sato C. F. Kearns K. Inoue K. Koizumi N. Ishii
出版者
Japan Kaatsu Training Society
雑誌
International Journal of KAATSU Training Research (ISSN:13494562)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.6-12, 2005 (Released:2008-07-18)
参考文献数
31
被引用文献数
172 190

This study investigated the effects of twice daily sessions of low-intensity resistance training (LIT, 20% of 1-RM) with restriction of muscular venous blood flow (namely “LIT-Kaatsu” training) for two weeks on skeletal muscle size and circulating insulin-like growth factor-1 (IGF-1). Nine young men performed LIT-Kaatsu and seven men performed LIT alone. Training was conducted two times / day, six days / week for 2 weeks using 3 sets of two dynamic exercises (squat and leg curl). Muscle cross-sectional area (CSA) and volume were measured by magnetic resonance imaging at baseline and 3 days after the last training session (post-testing). Mid-thigh muscle-bone CSA was calculated from thigh girth and adipose tissue thickness, which were measured every morning prior to the training session. Serum IGF-1 concentration was measured at baseline, mid-point of the training and post-testing. Increases in squat (17%) and leg curl (23%) one-RM strength in the LIT-Kaatsu were higher (p<0.05) than those of the LIT (9% and 2%). There was a gradual increase in circulating IGF-1 and muscle-bone CSA (both p<0.01) in the LIT-Kaatsu, but not in the LIT. Increases in quadriceps, biceps femoris and gluteus maximus muscle volume were, respectively, 7.7%, 10.1% and 9.1% for LIT-Kaatsu (p<0.01) and 1.4%, 1.9% and -0.6% for LIT (p>0.05). There was no difference (p>0.05) in relative strength (1-RM / muscle CSA) between baseline and post-testing in both groups. We concluded that skeletal muscle hypertrophy and strength gain occurred after two weeks of twice daily LIT-Kaatsu training.
著者
小玉 安恵
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.178-193, 2020-09-30 (Released:2020-10-07)
参考文献数
37

従来の日本語の体験談研究では,否定(Yamada, 2000),(ソシ)タラ(加藤,2003),歴史的現在形(小玉,2011)など,話をより効果的なものにするための内在的評価装置の使用が,個別的にあるいはナラティブの一部分にフォーカスして取り上げられ分析されてきた.本稿では,日本語の体験談が本当に面白い話になるために,まずどのようなタイプの評価がどこでどの様に組み合わされて使用されているのか,ナラティブ全体として総合的に明らかにすべく,テレビのトーク番組で語られた芸能人の体験談をLabov (1972, 1997)のナラティブ構造と評価という概念を見直し,Longacre (1981)のナラティブ構造分析の枠組みを加えた上で,質的に分析した.その結果,芸能人の面白い体験談では語りをより面白く,効果的なものにするために1)話のクライマックスや重要な結末となる出来事及び周辺の出来事への意外性や臨場性を強調する様々なタイプの内在的評価装置の集中的使用や,2)外在的評価やオリエンテーション情報の挿入による聞き手に対する話の解釈の誘導及び登場人物のイメージや内言と実際の発話の明確な落差の生成,3)評価的行動や発話及び内言の詳述によるクライマックスや結末の延期ないしはピークの延長に加え,4)落ちとなるクライマックスや結末の短縮化など様々な評価が駆使されていることがわかった.
著者
根本 健司
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.228-233, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
20

結核の中蔓延国である本邦が低蔓延国を目指すためには,結核の早期診断と確実な治療の実践が必要となる.結核発病診断の基本は細菌学的検査であり,耐性菌による治療失敗のリスクを回避するためにも薬剤感受性試験の実施が必須である.一方,潜在性結核感染症診断の基本はインターフェロンγ遊離試験(IGRA)であるが,偽陽性と偽陰性というIGRAの問題点を臨床的に正しく判断する総合力が必要となる.現在の結核標準治療は,結核病学会治療委員会の『「結核医療の基準」の改訂―2018年』に準じて実施される.この指針ではピラジナミド(PZA)を含めた4剤併用療法が唯一の標準治療法と示され,従来使用されたPZAを含まない3剤併用療法を安易に選択することは控えなければならない.本稿では,呼吸ケア,呼吸リハビリテーションに関わるすべてのメディカルスタッフを対象に,結核の診断と治療に関する基本的事項を中心に概説する.
著者
草野 寿美生
出版者
The Japanese Society of Printing Science and Technology
雑誌
日本印刷学会誌 (ISSN:09143319)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.309-316, 2001-09-30 (Released:2010-09-27)

Full Pagenation System in Japanese newspaper industry had been developed as Total CTS since late '60s. Japanese Publishing System (JPS) architected by Federal Systems Division of IBM was the first product in this area. JPS was equipped with digital fonts, halftone screening, sharp-unsharpe technologies, and so on. Author have engaged in Next-generation JPS project named NPS, and learnt newspaper production issues. This paper reports some characteristic standards of Japan newspaper industry, and their historical backgrounds.
著者
中村 玄 加藤 秀弘
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.73-88, 2014-06-30 (Released:2014-06-30)
参考文献数
25

コククジラEschrichtius robustusは北太平洋に分布し,日本を含むアジア周辺海域に生息する西部系群と北米側に生息する東部系群の二系群に分けられている.しかし近年,衛星標識を用いた研究などから夏季に西部系群の摂餌海域と考えられているサハリン沖に出現した個体が,冬期に東部系群の繁殖海域と考えられているオレゴン近海に回遊した例などから,従来の系群構造について再考が迫られている.本研究は1990–2005年にかけて,ストランディングや混獲などにより日本の太平洋沿岸域から得られたコククジラ5個体を対象に,頭骨を中心とした全身骨格の計測値および骨学的特徴の記載をおこなうとともに,既報データをもとに蔚山(n=1),中国(n=2),カリフォルニア産(n=1)の個体との骨格形態を比較した.頭頂部を中心に各海域に特徴的な形質が認められ,日本産個体では前上顎骨が鼻骨を包むように緩やかにカーブしており,前上顎骨後端が尖っておらず,上顎骨の後端より後方に位置していた.また,鼻骨の前縁部が央付近でやや前方に突出し,性成熟個体では左右の鼻骨が後方で癒合していた.頭頂部に加え,胸骨と骨盤痕跡の形状においても海域間に明瞭な違いが認められ,いずれの形質も日本産個体はカリフォルニア産の個体に類似した形状を示していた.本研究結果は東部系群が近年,日本沿岸域へ分布域を拡張している可能性を示唆している.