著者
工藤 遥
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.115-138, 2018-05-31 (Released:2019-06-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本稿では,「専業母」も利用できる保育・子育て支援として拡充が進められている「一時保育」に焦点を当て,都市部で乳幼児の親を対象に実施した質問紙調査から,母親規範意識との関連を中心に一時保育利用の規定要因を分析した. その結果,一時保育の利用経験群は,非利用群に比べて,親族に託児を頼れず,育児ストレスや夫の育児に対する不満が高く,高所得層が多いといった特徴に加えて,三歳児神話を支持しながらも,親の都合で子どもを預けることに肯定的な意識を持っているといった特徴が明らかになった. また,利用経験群の中でも,特に「リフレッシュ利用」で一時保育を利用している母親は,親都合の託児に抵抗感が少ない傾向がみられた.一方,非利用群の大多数は夫や親族による託児サポートや保育所等の利用を理由に一時保育の利用ニーズを持たないが,2 割未満ではあるものの制度利用に困難を抱えている層や,託児への強い抵抗感から利用していない層もみられた. 「子育ての社会化」として,三歳児神話の否定の上に「専業母」の一時保育利用が公に肯定され,制度の推進が図られている中で,三歳児神話は根強く支持されたまま,一方では親都合による託児を肯定する意識が広がっているという母親規範意識の複層性がみられた.「母親が子育て役割に専業すること」と「母親が自分の都合のために子どもを預けること」は,併存可能な論理として解釈されつつあることが示唆された.

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著者
相馬泰三 著
出版者
新潮社
巻号頁・発行日
1918
著者
小林 基
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.376-394, 2018-09-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
52

農産物産地の形成と産地間競争に関する既往の研究では,イノベーションが競争を駆動するものとして認識されていたが,その具体的なプロセスと地域的差異については必ずしも詳しく論じられていない.本稿は農業において技術の研究開発から普及を経て導入に至る過程をつなげて把握すべく,イチゴの品種の育成・普及を素材として検討した.この結果,まず,規模の大きな産地は小さな産地より速く品種が普及する傾向にあること,大きな産地ほど多くの品種が育成・登録されていることが伺えた.また,大きな産地では県内の試験場で育成された特定の品種の最終的な普及率が高かった.これらの産地では農協を通じた系統出荷率が高く,農協は,新品種への転換の方針決定と情報提供により,普及の速さと最終的な普及率を高めていた.産地におけるイノベーションは,研究の規模と蓄積,生産者の組織化の態様という各産地の事情を反映した過程であるといえる.
著者
平野 淳平 三上 岳彦 財城 真寿美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.311-327, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

広島の古日記天候記録に記された降水日数を基に夏季の気温変動を復元する目的で研究を行った.まず,1901–1950年の気象データを用いて6,7,8月の気温(月平均気温,月平均日最高気温,月平均日最低気温)と降水日数の相関係数の空間分布を調べた.その結果,西日本で7月と8月に月平均日最高気温と降水日数に強い負相関が認められ,降水日数から推定する気温要素として月平均日最高気温が最も適していることが判明した.次に,西日本の広島における古日記天候記録の降水日数を基に1779年以降の7月と8月の月平均日最高気温を復元した.その結果,東日本で飢饉が発生した1780年代,1830–1840年代は,広島の月平均日最高気温が低下していたことが推定された.一方,1820年代と1850年代は,19世紀の中で相対的に月平均日最高気温が高い年代であったことが推定された.
著者
上杉 昌也 樋野 公宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.249-266, 2018-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
56
被引用文献数
1

犯罪発生の集積パターンの特定やその要因の説明のため,犯罪研究においてミクロな空間単位が重視されつつある.本稿は従来よりもミクロな空間単位である街区レベルの犯罪発生要因を明らかにすることを目的とし,街区レベルの犯罪機会理論と近隣(町丁字)レベルの社会解体理論について検証した.東京都杉並区における空き巣発生を対象としたマルチレベル分析の結果,街区レベルの対象や監視性の違いが近隣内での犯罪率の差異を説明すること,またこれらとは独立に近隣レベルの社会的環境もまた街区レベルの犯罪発生に寄与していることが明らかになり,日本の都市住宅地において,異なる空間レベルで統合された犯罪機会理論と社会解体理論が有効であることが示された.これらの知見は,異なる犯罪発生プロセスがそれぞれの空間レベルで作用することを示唆するものであり,犯罪現象の統合的な理解や解明に加えて,防犯対策など実践面での応用も期待される.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.97-113, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年の国勢調査においては,未回収や未回答に起因する「不詳」の増加が問題になっている.本研究は,小地域レベルの「不詳」発生における地理的特徴を探り,地域分析への影響と対処法について検討することを目的とした.2010年国勢調査を用いて「年齢」,「配偶関係」,「労働力状態」,「最終卒業学校の種類」,「5年前の常住地」に関する不詳率を算出し,都市化度別の集計,地図による視覚化,マルチレベル分析をおこなった.分析の結果,「不詳」発生は都市化度と明瞭に関連していると同時に,市区町村を単位としたまとまりを有していることが示された.このことから,国勢調査を用いた小地域分析において「不詳」の存在が結果に与える影響に留意するとともに,今後,「不詳」発生の傾向を探るための社会調査の実施や,データの補完方法についての基礎研究を進める必要性が指摘された.
著者
今富 摂子 荒井 隆行 加藤 正子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.304-314, 2003-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

開鼻声の聴覚判定における嗄声の影響を調べるため, 音源フィルタ理論に基づいて健常音声, 顕著な開鼻声, 軽度粗槌性嗄声, 重度粗槌性嗄声から, 4種類のフィルタ (顕著な開鼻声, 健常音声それぞれの/a/, /i/) と6種類の音源 (健常音源, 軽度粗慥性音源, 重度粗慥性音源それぞれの/a/, /i/) を組み合わせ, 24種類の音声刺激を合成し, 言語聴覚士を対象に, 5段階尺度で開鼻声の聴覚判定実験を行った.健常フィルタ, 顕著な開鼻声フィルタの両方で, 音源の種類によって開鼻声の判定値が変化した.特に重度粗槌性音源では, 顕著な開鼻声フィルタにおいて開鼻声の聴覚判定値が著しく低下した.軽度粗槌性音源では, フィルタの種類や聴取者によって, 結果にぼらつきが認められた.嗄声が開鼻声の聴覚判定値を変化させる要因として, 嗄声の音響特性によるスペクトルの変化が考えられるが, 詳細については今後検討が必要であると思われる.
著者
ナンニーニ アルダ
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
no.57, pp.20-47, 2007-10-20

本稿は、イタリア語における定性概念の習得の難しさとそのプロセスに関して、初心者から上級者に至る日本人学習者のinterlanguageによって示されたデータを数量的・質的に分析しながら、検討し、分類することを目的としたフィールド・ワークを基礎としている。Giacalone Ramatなどを始めとする近年の多くの学者たちによって示されてきた第二言語習得研究のデータは、いかなる母語の学習者もinterlanguageの発達段階において似たような状況を呈することを明かしている。しかしながら、部分的には習得は、母語からの《転移transfer》が実行されることを、いずれにせよ、示しているように思われる。L2(lingua seconda)とは、その言語を母国語としているコミュニティの中で勉強し、かつ(もしくは)、自然に習得した第2言語(ここではイタリアで習ったイタリア語)の意味である。一方、今まで行われてきた研究ではもっぱらL2としてのイタリア語がテーマになっているが、母語の参照(母語からの転移transfer)という戦略がL2に当てはまるならば、LS(《lingua straniera、外国語》:その言語がコミュニティの母国語ではない場合を指し、ここでは日本で習ったイタリア語)においては、それ以上に時宜を得たものになるであろう。長い間そして様々な機会ですでに私たちの考察の対象となってきたこのテーマに取り組むために、本稿では、対照言語学的なアプローチが採用されている。すなわち、特定の場合において、イタリア語の定性(またはその欠如)が形態論的に有標であるのに対して、日本語は《主題優勢topic prominent》言語であるため、定性の大半が、対話者たちの文脈と共通の知識に委ねられているということが示される。こうした分析の結果を基にして、イタリア語教育の分野で実証された幾つかの提案が紹介される。これらの提案は、生徒たちにおけるイタリア語の定性概念の理解を促進することができると思われる。すなわち、イタリア人のためのイタリア語の記述をそのまま繰り返すのではなく、日本人にとって解りやすい定性概念の紹介を提案している。この種の活動は、もちろん、改良することも発展させることもできるし、その母語にできるだけ近い規準を利用することによって、学習者の母語には存在しない範疇を理解する一助になると考えられる。

3 0 0 0 OA ASCONE2009体験記

著者
笹井 俊太朗
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-50, 2010-03-05 (Released:2010-04-30)